ハイスクールD×D ~Pagan Gods from the Old Testament~   作:カイバル峠

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どうも、ご無沙汰しております、カイバル峠です。

テストとスランプ、その他ゴタゴタで前回投稿から二か月近く空いてしまい申し訳ありません。




斜影

斜影

 

 

 

―――――気に入らない――――――

 

バシャンという水飛沫と共に私の視界を塞いでいたものが倒れる。

 

それを最後にこの場から命の気配は消え失せる。

 

視界を埋め尽くすのは一面の赤、(あか)(あか)

 

延々と広がる赤い海に浮かぶのは最早原型を留めぬ何かと赤く染まった鳥のような羽。

 

そして私。

 

私は手を翳す。

 

ああ、赤い。

 

手より滴る雫はどこまでも深い赤。

 

この色を見るたびに思い出す。

 

赤。

 

紅。

 

緋。

 

あの人の髪と同じ。

 

ううん、こんな薄汚れた色とは比べものならないほど綺麗な(あか)色だった。

 

幼い時から、ずっとずっと恋い焦がれてきたあの人の……

 

「く…ゴフッ……」

 

……ああ、もう。

 

「……なんだ、まだ生きてたの。」

 

私の目の前で蠢くそれ(・・)

 

忌々し気なその瞳が私を見据える。

 

「…主の……栄光…あ」

 

「五月蠅い。消えて。」

 

それ(・・)は弾けた。

 

赤いものが飛び散る。

 

私の顔を濡らす。

 

やだ、汚い。

 

私はそれ(・・)だったものを見る。

 

うん、汚い。

 

汚らわしい。

 

元は真っ白だったけど中身は皆汚物。

 

こんなものが世界に存在しているなんて間違い。

 

いいえ、こんなものが存在するこの世界が間違い。

 

今や世界はこんな塵共で溢れかえっているのにあの人はもういない。

 

世界は不条理に満ち満ちている。

 

それならこんな世界は要らない。

 

でなければ無限に与する理由などない。

 

あの塵共に追従する輩も皆消えればいい。

 

全部、全部、壊れてしまえばいい……

 

 

「おやおや、随分と荒れておられるようですね。」

 

 

「!……あなたは…」

 

声のする方に目を向けると大昔、何度も目にした顔が。

 

「お久しぶりですね、女神シャラ。」

 

「アメン…殿……」

 

そう、私の目の前に現れたのは太陽神アメン。

 

かつてのエジプトの最高神。

 

そして私の待ち人と同じく、もう二度と相見えることもないと思っていた人物だった。

 

「フフフ、しかしこれはまた派手にやりましたね。まるで精肉所だ。だが折角貴女が捌いて下さったのですからこうしておきましょう。」

 

アメン殿が指を鳴らすと辺り一面を眩い閃光が灼く。

 

光が止むと血の海は干上がり、触れればアレルギーを起こしそうなけばけばしい羽根は消し炭となり、そして山になっていた肉はジュウジュウと音を立てて煙を上げていた。

 

「ふむ、これくらいで良いでしょう。」

 

「……何故あなたがここに?」

 

「その前に一つ、貴女は聖書の神がどうなったか御存知でしょうか?」

 

「!!」

 

――――聖書の神――――

 

その言葉を聞いた途端、私の中で黒いものがこみ上げる。

 

忘れもしない。

 

あの時を境に全てが変わってしまった。

 

故に私は壊してきた。

 

無駄だとは分かっている。

 

こんなことをしたところで失ったものは戻ってこない。

 

それでも壊さずにはいられなかった。

 

「……どこ?」

 

「?」

 

だって――――

 

 

 

 

「あの神はどこッ!!!?」

 

 

 

――――私の大切なもの全てを奪ったのだから

 

 

◆◇         ◆◇

 

 

 

 

俺、兵藤一誠は非常に苛ついていた。

 

原因は今日突然オカルト研究部の部室にやって来た男にある。

奴の名はライザー・フェニックス。

部長と同じ純血の上級悪魔フェニックス家の三男。

 

だがグレイフィアさん―――部長の家のメイドさんによるとなんと、部長の婚約者だっていうんだぜ?

 

見た目といい、言動といい、どう見てもホスト崩れのチャラ男にしか見えないのに。

 

おまけにやって来るなりいきなり愛しのリアスとかほざいた上に部長の髪やら肩やらいやらしい手つきで撫でまわしていやがる!

来て早々に俺のこともゴミを見るような目で見てきやがったしな!

 

……昨日の夜突然俺の部屋にやって来た理由はこういうことだったのか。

 

こんな奴と婚約だなんてそりゃあ部長も嫌がって当然だ。

 

というか誰だって嫌だろ。

 

でも相手も上級悪魔だ。

 

悪魔の世界は上下関係が厳しいから俺達下僕は離れた場所から成り行きを見守るしかできないっていうのがなんともまた歯痒くて仕方がない。

 

でももしあの野郎が部長の足をさすり出しなんてしようもんなら……

 

 

「いい加減にして頂戴!」

 

 

その時、部長の叫びが室内に響き渡った。

 

「ライザー!何度言ったら分かるのかしら?!以前にも言ったはずよ!私はあなたとは結婚なんてしないわ!!」

 

「ああ、何度も聞いているよ。だがキミの御家事情はそうも言っていられないほど切羽詰まっているはずだが?」

 

「余計なお世話よ!私が次期当主である以上自分の婿―――私が良いと思った者と結婚するわ!大体父も、兄も、一族の者も皆性急すぎるのよ!!当初の話では私が人間界の大学を出るまでは自由にさせてくれるという約束だったはずだわ!!」

 

「その通り、基本的にキミは自由だ。大学に行くも良し、下僕も好きにすれば良い。だが」

 

そこまで言うとニヤついていたライザーの表情が途端に引き締まる。

 

「グレモリー卿もサーゼクス様も心配なんだよ、御家断絶がね。特に先の大戦で嘗て72柱と称された悪魔の家系の半数以上が断絶した上に率いていた軍勢は今や見る影もない。にも関わらず天使や堕天使との睨み合いは続いているし、連中とのいざこざで跡取りが死んで断絶した家系まであるときた。おまけに奴らは俺達悪魔にとって致命的な弱点である光の力を有している。加えて最近ではキミの下僕たちのように他種族からの転生悪魔も幅を利かせてきていて旧家の悪魔の中にも力に溢れているという理由だけで転生悪魔と通じる者もいる。確かに新しい血もこれからの悪魔には必要だ。だがそれでは俺達純血の家系の上級悪魔の立場がない。いくら『悪魔の駒』で転生者の数を増やせるといっても限界があるし何より根本的な解決にはならない。おまけにその転生者に主である上級悪魔が殺されたなんて話もある。ただでさえ純血の悪魔は元から出生率が低いんだ、その新生児がどれだけ貴重かなんてことはキミも知らんわけじゃあるまい。俺達純血の悪魔に課せられた最大の使命は何だ?他でもない、悪魔の存続の為、確実に後世に血を繋げることだ。それらを考えれば上級悪魔同士の家柄の縁談は至極当然のことじゃないか。これには悪魔の未来がかかっているんだ。」

 

ライザーの話に部長も皆も黙って聞き入るしかなかった。

 

そしてライザーは更に続ける。

 

「それに考えても見ると良い。キミがこうして駒王学園(こんなもの)まで作って人間界で自由に振る舞っていられるのだってキミが『グレモリー』であるからに他ならないだろう?サーゼクス様は家を出られた身、現状家を継げるのはキミだけだ。確かにキミが常々言っている通り上級悪魔にだって恋愛結婚の自由はある。俺の家は兄達がいるから問題ないがグレモリー家を取り巻く現状はそう甘くはない……キミは自分の我儘で家を、ひいては悪魔の未来を潰す気か?」

 

誰も言葉を発せなかった。

グレイフィアさんも黙ったままだった。

俺はどうしてこんな奴が部長の婚約者なんだということで頭に来ていたが裏では悪魔の現状とかが色々絡まり合っていて相当複雑みたいだ。

きっと俺みたいに転生して日が浅い悪魔にはどうこう言えるようなものじゃないんだろう。

 

でもさっきから聞いてる限りじゃ部長自身の意思が尊重されているようには思えない。

確かに部長のご実家は悪魔の中でも名門中の名門だって聞いたことがある。

 

そういうやんごとなき身分の生まれである以上政略結婚の話が出てくるのは仕方のないことかもしれないけれど、う~ん……お偉いさん方の考えることは良く分からん。

でも俺は部長の決定に従うまでだけど。

 

「……私は家を潰す気はないし婿養子も迎え入れるつもりよ。けれど」

 

沈黙を破ったのは部長だった。

 

「それはライザー、あなたではないわ。前にも言ったように自分の夫となる者は自分で決める。誰が何を言おうと私の意思は変わらないわ。」

 

毅然として言い張る部長。

しかし一方でライザーの機嫌はみるみるうちに悪くなり、目を細め、舌打ちまでした。

 

「……俺もなぁ、リアス。フェニックス家の看板背負ってるんだよ。家名に泥を塗られるわけにはいかないんだ。貴族同士の縁談を私情で破棄することが何を意味するのか、分かって言ってるんだろうな?俺の家ばかりじゃない。仮にも次期当主たる者がそのような真似をすればキミの御両親とサーゼクス様、それにグレモリーの名にも傷を付けることになるぞ?そもそも何のために態々俺がこんな人間界のあばら家にまで来なけりゃならなかったと思ってる?この世界の風と炎はすっかり人間共に汚されちまってる。風と炎を司る悪魔としては耐え難いんだよ!!」

 

ライザーが言い終わらないうちに奴の周囲を炎が駆け巡る。

見ただけでも相当な熱量だと分かる。

離れていてもとんでもなく熱い。

 

「俺はキミの下僕を全て燃やし尽くしてでもキミを冥界に連れ帰る」

 

室内を殺意と敵意とが満ち満ちる。

 

これが上級悪魔の殺気、凄まじいプレッシャーだ……!

 

自分でも気づかないうちに震えていた。

 

そして部長とライザーは睨み合う。

 

双方から危険なオーラが漂い始めていて、一触即発といわんばかりの状況だった。

 

 

 

 

 

「お納め下さいませ。」

 

 

 

 

「「っ」」

 

そこに割って入る者の声。

 

「お嬢様、ライザー様、私はサーゼクス様の御命を受けてここにいる以上、御二方がこれ以上やると仰せでしたらサーゼクス様の名誉のためにも一切の遠慮は致しません。」

 

声の主はグレイフィアさん。

 

凄いな。

 

グレイフィアさんが間に入った途端に二人が漂わせていた剣呑な雰囲気がすっかり消えてなくなった。

 

「ははっ、最強の『女王』と称される貴女にそんなことを言われたら流石に俺も怖いよ。化け物揃いと評判のサーゼクス様の眷属とは絶対に相対したくないからな。」

 

っ。

 

まさか、グレイフィアさんがそんなに強いとは思わなかった。

 

というか部長のお兄さんってそこまで影響力があるのか。

 

「こうなることは御両家の方々も予想しておいででした。実を申し上げますと今回が最後の話し合いの場でした。よって、決裂した際の最終手段を仰せつかっております。」

 

「最終手段?どういうこと、グレイフィア?」

 

訝し気に問う部長にグレイフィアさんは答える。

 

「お嬢様がどうしてもご自身の意思を貫き通したいと仰るのであれば“レーティングゲーム”にて決着を、と。」

 

レーティングゲーム?どこかで聞いたような……

 

「レーティングゲーム、爵位持ちの悪魔同士が下僕をチェスの駒に見立てて戦わせるゲームのことだよ。」

 

俺の気を察したのか木場が説明してくれる。

そういえば『悪魔の駒』はそれぞれチェスの駒の特性を帯びてるんだっけか。

 

「本来なら成熟した悪魔でなければ公式のゲームに出場することはできません。しかし非公式のゲームであれば半人前の悪魔であっても参加は可能です。この場合多くが……」

 

「身内や御家同士のいがみ合いよね。お父様たちは私が拒否した場合最終的にゲームで婚約を決めようってハラなのね。どこまで私の生き方をいじれば気が済むのかしらッ……!」

 

追加で説明してくれるグレイフィアさんに部長も憤慨した様子で続ける。

 

「ではお嬢様はゲームも拒否なさると?」

 

「…いえ、これはまたとない好機よ。いいわ。ゲームで決着を付けましょう。」

 

部長の挑戦的な物言いにライザーの口元がにやつく。

 

「へぇ、受けちゃうのか。俺は別に構わない。既に成熟しているし公式のゲームも何度か経験している。それに今のところは勝ち星も多い……それでもやるのか?」

 

「ええ。ライザー、あなたを消し飛ばしてあげる!」

 

そして二人とも激しく睨み合う。

おお、怖っ……

俺達下級悪魔の出る幕はないようだ。

 

「承知しました。お二人のご意思は確認いたしましたので私が御両家の立会人としてゲームの指揮を取らせて頂きますが、宜しいですね?」

 

「ええ(ああ)。」

 

グレイフィアさんの確認に合意を示す部長とライザー。

マジかよ?

それってつまり俺達もゲームに参加するってことだよな?

 

すると当惑する俺にライザーが嘲笑的な視線を向けてきた。

 

「なあ、リアス。念のため確認しておきたいんだが、ここにいる面子でキミの下僕は全てなのか?」

 

「……だとしたらどうなの?」

 

ライザーの発言に片眉を吊り上げながら部長が答える。

 

「これじゃあ話にならないな。『雷の巫女』くらいしか俺の可愛い下僕達の相手になりそうにない。」

 

ライザーはクククッと面白おかしそうに笑うと指を鳴らす。

 

すると部室に再びライザーが来た時同様フェニックスの魔法陣が現れ、そこから複数の人影が現れ……

 

「と、まあ、これが俺の可愛い下僕達だ。こちらは十五名、駒はフルに揃ってる。」

 

堂々と言い放つライザー。

同時に俺は言葉を失った。

 

魔法陣から現れたのは総勢十五名のライザーの眷属と思しき者達。

 

その全員が

 

「美女、美少女ばかり…何て奴だ……何て男だっ、うあああああああっ!!」

 

「お、おい、キミの下僕君、俺を見て号泣してるんだが……」

 

「……その子の夢がハーレムなのよ。」

 

引き気味のライザーと呆れた様子の部長。

 

「キモいですわ。」

 

「ライザーさま、この人気持ちわるーい。」

 

俺を見て心底気持ち悪そうにしてるライザーの眷属の女の子たち。

 

ちくしょう!余計なお世話だ!!

ハーレムを見て感動して何が悪いってんだよ?!

男の夢だろ!!

それが目の前にあるんだ、当然だろ!!

 

あ、よくよく考えてみれば崇哉、アイツもハーレムじゃんか!!

 

普段から一部で二大お姉様以上の美少女とさえ言われる明日香ちゃんと杏奈ちゃんとイチャついてるし、この前アーシアを助けに行った時だって知らない女の人連れてたしな!

しかもすっげー美人だったし!

 

でもアイツ今日いないんだよな。

なんでも魔王様からの緊急の依頼とかでしばらくいないんだとか。

タイミング悪すぎだろ。

まったく、部長が大変だって言う時に。

 

「なるほどね、そういうことか……ユーベルーナ。」

 

「はい、ライザー様。」

 

俺が悶々としているとライザーが眷属の一人を呼ぶ。

 

そして……

 

「んむっ……あふぅ……」

 

「なっ?!」

 

「っ」

 

ディ、ディープキス、だと?!

 

おいおい、コイツ正気かよ?!

 

仮にも婚約者の前なんだぞ?!

 

部長も心底気持ち悪そうにしてるじゃねぇか!!

 

そしてライザーは見せ付けるようにユーベルーナと呼ばれた女性の胸を揉みしだく。

 

うぐっ、だが羨ましい……!!

 

「ハハッ、お前じゃこんなことは一生できまい、下級悪魔君。」

 

――ッ

 

俺の中で何かがキレた。

 

「う、うるせぇ!!そんな調子じゃ部長と結婚した後も他の女の子とイチャイチャするんだろうが!!お前みたいな女たらしが部長と釣り合う筈がねぇ!!この種蒔き焼き鳥野郎ッ!!」

 

その瞬間、ニヤついていたライザーの表情が憤怒へと変わる。

 

「貴様、自分の立場を弁えてモノを言っているのか?たかだか下級悪魔の分際で上級悪魔に楯突くことが何を意味するか、分かっているんだろうな?」

 

「知るかッ、ゲームなんざ必要ねぇ!!この場で全員倒してやらぁ!!来い、『赤龍帝の籠手』ッ!!」

 

『Boost!!』

 

聞き慣れた機械音と共に赤龍帝の籠手を発動して俺は飛び出す。

そうだ、俺には神や魔王をも屠れる『赤龍帝の籠手』がある。

相手が上級悪魔だろうがなんだろうが関係ねぇ!!

この場で全員倒してゲームなんざ必要ないことを証明してやるッ!!

 

「ハァ、ミラ。」

 

「はい。」

 

嘆息するライザーの呼び声に応じて道着姿に棍を携えた小さな女の子が飛び出してきた。

 

…こんな小さな子が?

 

遣り辛いけど棍を叩き落とせば……

 

 

ッ?!!

 

 

「かはっ……?!」

 

一瞬、何が起きたのか分からなかった。

気が付いたら宙を舞い、天井に叩き付けられ、そのまま床に落下していた。

 

痛ェ……全身が痛い…

 

だが腹に感じるとりわけ大きな痛みで理解できた。

 

そうか、俺、あの子にやられたのか……

 

「イッセーさん!!」

 

アーシアがすぐさま俺の側に駆け寄って来て神器で癒してくれる。

すると腹部の痛みが徐々に和らいでいくのを感じた。

 

 

「弱いな、お前。」

 

 

「ッ」

 

いつの間にかライザーが俺の側にやって来てしゃがみこんで言う。

 

「ミラは俺の下僕の中じゃ一番弱いがそれでも悪魔としての質も経験もお前より上だ。お前なんぞが『赤龍帝の籠手』の宿主とは赤龍帝もとんだ災難だな。極めれば神や魔王も倒せるとは言うものの俺にすら届いていない。こういうのを人間界のことわざで『宝の持ち腐れ』、『豚に真珠』っていうんだっけか?ハハハ、正にお前のことだな!!」

 

愉快そうにペチペチと俺の頭を叩くライザー。

 

ぐっ……

 

悔しいが言い返せない。

 

自分より小さな女の子に負けたんだ。

 

弱いのは事実だから……

 

「それに」

 

ッ?!

 

突如髪を荒々しく、乱雑に引っ張られるのを感じたと思うとすぐ目の前にライザーの顔があった。

 

っ……!

 

奴の目を見た瞬間全身に悪寒が走った。

 

その目は怖いくらいに真剣そのもの、そして怒りと侮蔑がないまぜになっていたからだ。

 

とてもじゃないがさっきと同一人物とは思えない。

 

 

「お前、さっき俺がリアスに相応しくないとか言ったな。だがお前はどうだ?あの程度の挑発に乗せられるようじゃ程度が知れる。何より下僕の不始末は主の責任になる。お前がこうやって何かしでかせばそのままリアスが恥をかくことになるんだ……正直お前にリアスの『兵士』は大役過ぎるんだよ。」

 

 

ライザーはそう言って俺の髪をまた雑に手放す。

 

「見たところまだ悪魔に転生して日が浅いようだから今回はリアスに免じてこれで勘弁しておいてやる。だが次は無いぞ。」

 

クソッ……

 

悔しいがライザーの言う通りだ。

俺の勝手な行動で結果部長に迷惑をかけることになっちまうってのに……!!

 

「リアス、キミもキミだ。主の評価は下僕によっても左右されることくらい知っているだろう。いかに赤龍帝とはいえ何故こんな下らん男を下僕にした?」

 

「ッ!……私の下僕を侮辱するというのかしら?」

 

「侮辱?何を言っているんだ?事実だろう。キミがいずれ正式にデビューすればその眷属もまた公の場に顔を出すことになる。そのような場でコイツみたいに安い挑発に乗ってキレてかかるようではキミ自身が恥をかくことになるのは分からんわけじゃあるまい。今だって俺でなければ無礼討ちにされていても何らおかしくはなかったぞ。ただでさえ気位の高いキミが何故こんな下品な輩を下僕にしたのか未だに理解に苦しむところだ……だがまあソイツが『赤龍帝の籠手』を所持しているのもまた事実だ―――――そうだ、十日でどうだ?使いこなせれば多少はマシな戦いができるかもしれないが?」

 

「……私達にハンデをくれるというの?」

 

「嫌か?屈辱か?だがレーティングゲームは感情だけで勝てる程甘くはない。それにキミはゲームの初心者どころかまだ公式な参加資格すらない身だ、修行をしてもなんらおかしいことはない。実戦でどれだけ強かろうと、どれだけ才能があろうとも初戦で力を発揮しきれず負けを見た奴らはごまんといる。それにキミなら十日あれば下僕を多少はマシに仕上げられるだろう。」

 

「……」

 

部長は悔し気な様子ながらも黙ったままだった。

 

そしてライザー達の足下に魔法陣が輝きだす。

 

不意に奴の視線が俺に移る。

 

「くれぐれもリアスに恥をかかせるなよ、リアスの『兵士』。お前の一撃がリアスの一撃になるんだよ―――――リアス、次はゲームで会おう。」

 

「ッ」

 

そう言い残して奴は消えていった。

 

アイツの最後の一言、あんな奴でも一応は部長のこと気にかけてるのか。

 

俺は自分の不甲斐無さがたまらなく悔しかった。

 

 

 

 

 

◆◇         ◆◇

 

 

 

 

「どうです、多少は落ち着かれましたか?」

 

「ええ、先程はごめんなさい。取り乱してしまって……」

 

「いえいえ、私とて散々に煮え湯を飲まされた身ですのでお気持ちはお察しします。まして貴女は愛する者を奪われた身だ。無理からぬことです。」

 

先程までこの場を埋め尽くしていた、最早山と化した死屍累々と血の海はすっかり消えていた。

謝る女神シャラとそれを宥める嘗てのエジプトの最高神アメン。

 

「それで、本当なのですか、さっきの話は?」

 

「ええ。何故我らが目覚めるに至ったのか、恐らくは聖書の神が消滅したが故でしょう。」

 

 

「くっ…ククククッ、あはははははは!!!!」

 

 

アメンの言葉に突如として笑い出すシャラ。

その比類なき美貌には気色と共に狂気の色が交じっていた。

 

「良い様だわ!!あれだけ他の神を貶し陥れた挙句『唯一神』だなんて名乗ってた癖にあんな脆弱な悪魔や堕天使と戦って死んだなんて……ぷくく、あはははは!!とんだ茶番ね!!傑作だわ!!」

 

そんな彼女を見てアメンもニヤリと口元を歪める。

 

「ええ、まったくです。ですが未だに勢力図は変動せぬまま……それもこれも聖書の神の死が隠蔽されたままであるが故。加えて魔王も消滅した今三大勢力は見る影もなく衰退した状態です。祀るべき神もおらず魔王もいない、既に存在意義を喪失したに等しい神話体系だ。しかしあの無知蒙昧な偽善者のミカエルを初め悪知恵だけは働く悪戯小僧のアザゼル、更には力だけで能の無い、果ては本来の魔王の血縁ですらないひよっこな偽りの魔王達、彼らはその事実を認めず未だ自分達が世界を牽引しているなどという誇大妄想を抱いている。片や愛の名の下に殺戮を繰り広げ、またある者は神器の為に他への被害を顧みず、そしてある者は自らの繁栄の為だけに人間を初め様々な種族に徒に犠牲を強いている―――――それも我らの名を騙ってね。」

 

アメンの最後の一言にシャラの片眉がピクリと動く。

 

「…ええ、無論、よーく知っているわ。特に現魔王の二人、サーゼクス・ルシファーとアジュカ・ベルゼブブの二人はね。」

 

シャラの反応にアメンはクツクツと喉を鳴らす。

 

「それは何より。説明する手間が省けるというものです。貴女の言う二人は元の名をそれぞれサーゼクス・グレモリーとアジュカ・アスタロト、そしてサーゼクスの母親はバアル家の出。共に他でもない、あの二人、アダドとアスタルテの力を受け継ぐ家系の者達です。まあ、受け継ぐとはいっても悪魔にしては保有する因子のレベルがそこそこ高いというくらいですのであの二人の力と比べれば質、量共にほど遠いと言わざるを得ませんが。」

 

「それはそうでしょうね。いかに悪魔の変異体といえど、祖神の因子が色濃く出ていようとも元は悪魔である以上元であるあの二人には遠く及ばない。例え前魔王の十倍に相当する力があろうともね。ましてあの二人を含め古代神は各々が聖書の神とそのシステムを脅かすほどの、いうなれば神々の中での規格外(・・・・・・・・・)。それはあなたご自身が最も御存知でしょう?」

 

「少々買いかぶり過ぎな気もしますがまあ否定はしません。参考までに訊きますが、何ゆえ貴女は斯様な事を?」

 

アメンの問いに彼女は短く息を吐く。

 

「……気に入らないの、この世界が。」

 

「ほう、それは?」

 

「聖書の三大勢力、あの者達が未だに跋扈しているからよ。神話体系である以上人間の信仰を求めるのは理解できるわ。けれども私達をここまで追い込む必要があったのかしら?ぽっと出の癖にあらゆる神話体系から信者を奪うか殺すかした挙句自らを絶対的な正義だと信じて疑わず他の神々には邪神の烙印を押して陥れた…何より彼らにしたあの仕打ちだけは絶対に許すことはできないッ!……けれども奴らも落ちぶれたものよね、あれだけ下等と見下して止まぬ人間に頼らずして種の存続すら叶わないんですもの。確かにあなたの仰る通り最早神話体系と呼べたものではないでしょう。それに天界の鳩共ばかりでなく堕天使や悪魔も大概よね?部下の統率もまともにできていなかったり理想論ばかりで現実を見ようとしなかったり。」

 

「ククク、まったくもってその通りです。そもそもが現魔王達は魔力の大きさで今の地位にあるようなものであるし、堕天使に至っては堕天している時点でゴロツキの集団のようなもの。彼らが頂点に立ったのは必然ではない、飽くまでも成り行きに過ぎない。統治者としての資質を欠いているのもある意味では当然といえるでしょう。私も目覚めてよりしばらくの間世界を見てきましたがこれほどまでに零落したものかと嘆息せざるを得ませんでしたよ。神々を始め超常の存在の集団あっての神話体系、しかしあろうことにか人間に依存せねば生き残れない、その上害悪にしかならぬようであればそれは最早超常の存在たりえない、ただの寄生虫も同じです。故に私はこう結論付けました――――――三大勢力はこの世界より取り除かれるべき癌であると。」

 

アメンの言葉にシャラは目を見開く。

 

「では、あなたも……」

 

「ええ。私の目的もあなたと同じです。ですが幸いにも戦争の再開を目論む者達は大勢います。当分の間は彼らに踊っていただくとしましょう。丁度良い協力者もできたことですし。それはそうと貴女にはお話しておくことがあります……」

 

 

 

世界は揺れる。

 

それが如何なる結末を描くのか。

 

それを知る者は誰一人としていない。

 




今回は最後がまとまりませんでした。

やはりあまりに長い間放置し過ぎた所為か……

あと来月も用事があり暫く更新できないと思われるので、もしかすると次話投稿が4月になる可能性もあるのでご了承くださいm(__)m
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