ハイスクールD×D ~Pagan Gods from the Old Testament~ 作:カイバル峠
身辺がごたついたりしたために更新が遅くなってしまいました。
今回から新章スタートです!
悪巧み
悪巧み
「『此度のレーティングゲーム勝利を祝し、ライザー・フェニックスを魔王庁行政局行政書士室第二分室室長に任ずる。なお、リアス・グレモリーとの婚儀については当人が回復次第当事者同士の意思を改めて確認したうえで協議することとする。』か、ふむ。」
ライザーは冥界・フェニックス領の一角のとある湖の湖畔を臨む別荘の一室にて自身に宛てて送られてきた書状を呼んでいた。
「魔王からですか?」
「ああ、レイヴェル。」
同じ部屋には彼の実妹で『僧侶』でもあるレイヴェル・フェニックスの姿もある。
「予想通りだ。レーティングゲームに勝った証に魔王勅命での任官、実態は適当なポストを与えての監視。本題の婚約については保留、いや、改めて当事者の意思を確認とあるから事実上破棄する腹積もりなんだろうさ。あの小僧をやったことがよほど気に喰わないらしい。」
「そういえば聞きました?本来上層部が預かる予定だった赤龍帝の身柄を難癖をつけてアジュカ・ベルゼブブの下に移したそうですわ。」
「はっ、身内可愛さにこんな形で魔王権限をフル活用だからな…だがそれだけならまだかわいいもんさ。これを」
ライザーは別の書類を取り出すと、それをレイヴェルに手渡す。
レイヴェルは書類を受け取った途端、驚愕の声を漏らす。
「な、なんですのコレ?!本気でこんな取引を認めろと?!!」
紙面の内容は主に二点、いずれもフェニックス家の特産であるフェニックスの涙の売買契約に関するものであった。
一つは今回のレーティングゲームでのライザーの活躍によりフェニックス家の将来性を感じることができたため、政府・魔王軍が軍備として年間所定量を買い上げるというもの。
そしてもう一つはフェニックス家とグレモリー家、改めて両家の親善を結ぶべく、グレモリー家で新たに始める流通事業で取り扱うので一定量買い付けるというもの。
これを魔王サーゼクス・ルシファーとグレモリー家の共同で署名している。
「信じられませんわ、両方合わせて年間生産量の3割…しかも相場の6割の値で卸せだなんて!」
「ああ。事実上買い叩く気だな。見返りとして税率を下げるなどとも言っているが、それを差し引いても損失の方が大きい。無論断ればフェニックス家は社交界での立場を失う。ここまでして追い落としを謀るとは…サーゼクス・ルシファー、やはり狭量な男よ。」
ライザーは嘲笑すると、テーブルの上のティーカップに口を付ける。
「それでお兄様、今回の任官へのお返事はいかように?」
「一応は受けるさ。何より、
ライザーもレイヴェルも、自分たち本来の在り方に目覚めたあの時から、悪魔社会への執着はとうに捨てている。だが今回の件で改めて、その決断が正しいものだと感じたのであった。
「…黄昏はすぐそこまで迫っている、ということですのね。」
その時、窓から一陣の風が部屋の中を吹き抜けた。
ライザーは窓の外に目を向ける。
つい先ほどまで晴れていた空は雲に覆われ、遠くの空では分厚い積乱雲が紫色に染まった天を突くように鎮座し、時折雲間を稲妻が駆け抜ける。
「これは、ひと嵐来そうな空模様だな。」
誰へともなく発せられたライザーのつぶやきは、鉛色の空から吹き付ける風に吸い込まれていった。
◇◆ ◆◇
「まったく冗談じゃないにゃん!!」
黒歌は憤慨していた。
原因は今しがた全員で鑑賞していた映像、グレモリーとフェニックスとのレーティングゲームの映像だ。ゲーム中、妹の白音がリタイアしたところから既に映像の中の敵に対して飛び掛からんばかりの様子を見せていたのだが、その後終盤のライザーの見せた不死鳥化とイッセーの神器暴走を見てついに我慢が限界に達した様子だった。
「こんな危ないことに白音を巻き込むなんて!!やっぱり悪魔なんて信用するものじゃないにゃ!!あの紅髪の兄妹は今度見かけたらいの一番に呪ってやるわ!!それからアダド!!」
仕舞には俺にまで飛び火した。
「そのアメンって奴の居場所教えるにゃ!そいつもとっちめてやるから!!」
「それは無理だな。俺も奴が今どこにいるのか知らん。」
「嘘にゃ!だって何度も会ってるんでしょ?!」
「まあ、用がある時は奴の方から何らかの接触があるからな。」
こればかりはどうしようもない。
奴は隠されし太陽と称されたエジプトの主神だ。
その隠密能力は同じ神であっても捉えることは極めて困難と言わざるを得ない。
「無理言わないの。どこにいるのかこっちが知りたいくらいよ。」
「そういうこと。文字通り神出鬼没なのよ、あいつは。」
アナト、アスタルテに諫められたことで黒歌はぐぬぬと歯噛みする。
ひと先ずは引き下がるが、その表情は未だに納得がいかないと暗に示していた。
それはそうと…
「…なぜお前たちはさも当たり前のように居座っている?」
「ん?兄貴が世話してる悪魔っ娘どもがどこまでデキるのか気になってなぁ」
「同じくだ。仮にもルシファーを名乗る者の身内がどれほどの者か、見ておきたかったのだ。」
なぜかソファーに悠々と腰かけて、ワインをあおりながらくつろいでいるイシュタルとルシフェル。
そして
「ふぅん、貴様らが随分と腑抜けていると聞いたのでな。この俺自ら笑いにきてやったまでよ。」
椅子にふんぞり返って傲岸不遜な物言いをするこの男。
争いと砂嵐を司る悪とされながらも、その権能はファラオの、ひいてはエジプトの軍事力そのものの象徴にして、邪龍アポプスを下した軍神。
そして俺たちの盟友にして悪友。
「……セト」
◇◆ ◆◇
「やった、成功だ…!ついに、私の研究は完成した!!」
とある研究施設にて、一人の老人が歓喜していた。
床一面に光り輝く魔法陣が広がり、その上に神聖なオーラを放つ一振りの剣が浮かんでいた。
「うぅ…」
そしてそのすぐ隣にはボロボロの貫頭衣を着せられた人物が特殊な儀礼を施した拘束台に繋がれており、顔の上半分から上を覆うように装着されたヘッドギアから除く口元からは絶え間なく唾液がしたたり落ち、微かに呻くように動くばかり。
素人目に見ても既にまともな状態でないことは明らかだった。
「クククク、これで第二段階である“統合”の理論も出来上がった!ミカエルめ、今に見ているがいい!!この私を追放したことを今こそ後悔する時だ!フハハハハッ!!」
「随分とご満悦だな、バルパー。」
「!」
バルパーと呼ばれた老人は振り返る。
背後に立つ人影。
忽然と現れたその人物にバルパーは一瞬驚くが、すぐにまた何事もなかったかのような様子に戻る。
「…コカビエルか。何の用だ?」
「フッ、そうつれないことを言うな。俺はお前の研究のスポンサーだぞ?出資者として投資事業の進捗と成果を把握することは当然の権利であり義務だ。それも、アザゼルでさえ認めようとしなかった研究を認めさせた功労者なんだからなぁ?」
現れたのは一人の男だった。
2メートルを優に超える長身に尖った耳、日の光を拒絶し続けた果てのような白い肌、同じく鋭利な歯と赤い双眸が闇の中で怪しく光る。
聖書にも記された堕天使の幹部・コカビエルその者だった。
「守備はどうか、と、まあ、その様子では聞くまでもないようだがな。」
「ああ、もちろん、成功だとも。これで私の“統合”理論が正しいことが証明された。」
「ククク、それは何よりだ。それでこそ、わざわざそこのはぐれ悪魔を殺さずに連れてきた甲斐があったあったというものだ。」
コカビエルは尖った歯を剥き出しにして凶悪な笑みを浮かべながら、拘束台に繋がれた人物を一瞥する。
「こいつはもう駄目なようだが、問題はないか?」
「ああ。実験も大詰めで少々酷使し過ぎてしまったからな。もう正気には戻らんだろう。だがそいつの神器のお陰で私の積年の思いは漸く成就されるのだ。人から悪魔に堕ちた者にとってはこの上ない光栄であると思って欲しいものだがね。」
「そうか。ならば始末しておく。組織の連中に見つかると厄介だからな……ところでバルパー、一つ提案がある。」
コカビエルはバルパーに顔を向けたまま片手をはぐれ悪魔に向かって突き出すと、掌から眩い光を放つ。
堕天使幹部の濃密な光力。到底一介の悪魔が耐えられるものではない。
既に死を待つだけだったはぐれ悪魔は断末魔の叫びをあげることもなく、ただひっそりと消え去った。
バルパーはそれには気にも留めず、むしろコカビエルの言葉に期待を掻き立てられ、愉悦に満ちた表情をさらに歪める。
「ほう?お前さんからその話が出るということは、そういうことかな?」
バルパーの反応に、コカビエルの凶悪な笑みはより一層深いものになる。
「クククク、さすがだなバルパー。やはりお前ほど優秀な奴は探してもそうそういないな……そうだ、例の計画を実行に移す。だがそのためにはきっかけが必要になる―――そこでだ」
コカビエルは一度言葉を区切ると、魔法陣の中心にたたずむ剣に目を向ける。
「教会の保有するエクスカリバー、まずはこれを
「4本?7本ではないのか?」
そこでバルパーは初めてコカビエルに疑問を呈した。
「案ずるなよバルパー。これは火種だ。4本を奪えば、残りも自ずとやってくる。ミカエルはそういう奴だ。その時、お前の夢は真の意味で叶うことになる。」
「なるほど、面白い。だが、肝心の使い手はどうなっているのだ?私は完全なるエクスカリバーの、真の力と威光が振るわれる様をこの目で見たいのだ。誠に遺憾ながら、私の身体では聖剣の因子を使いこなすことはできないのだぞ?」
バルパーの懸念。
それは自らの身体が聖剣の因子に耐えられずに命を落とすかもしれないという恐れではなく、老いた自身の身体では聖剣の力を十全に発揮することができないことへの口惜しさだ。
コカビエルは目ざとくそれを見抜く。
ゆえに、彼はこう思うのだ。
こいつを誘ってよかった、と。
目的のために命を賭けられる者でなければ、捨て駒としての価値さえないのだ。
「それについても心配は要らん……入れ。」
コカビエルが背後にいるであろう人物に声を掛ける。
バルパーが目にしたのは、白い髪に赤い瞳という、いわゆるアルビノに近い容貌をした少年だった。
「その髪と瞳、まさか……」
バルパーが何かに思い当たったかのように息を呑んだ時、少年はそんな彼の様子が面白くてたまらないというように口角を釣り上げる。
「どーもどーも。祇園精舎の鐘の声、沙羅双樹の花の色、悪魔必・滅・の理を表
す…なんちって☆僕チン、はぐれ悪魔払いのフリード・セルゼンと申しやす。どーぞお見知りおきを……久しぶりだなァ、バルパーのジっちゃん?」
現れたのはフリード・セルゼン。
かつて凄腕の悪魔払いとして名を馳せながらも、同じく教会から追放され堕天使に降った男だった。
「おお、フリード…!フリードなのか?!堕天使に身を寄せているとは聞いていたが、使い手とはお前だったのか!」
バルパーは目をおおきく見開く。そして笑みが浮かぶ。
フリードもまた普段の道化のなりを潜め、再会を寿ぐのだった。
「まァな。でもお互い教会を放逐され、こうしてまた再会できるたァ何かの縁だな。しかも人外共に“皆殺しの大司教”なんて恐れられたアンタの研究の粋を使わせてもらえるなんて、光栄だぜ。」
「構わんよ。寧ろ、私の研究成果を十分に使いこなせるのはお前しかいないと感じていたくらいだからな。これまで何百何千という剣士を見てきたが、お前以上に剣の才に恵まれた者はいないと断言できる。」
「ハハッ、そいつァ褒め過ぎだぜ。まあ、何はともあれよろしくな?ところで旦那。」
「ん?どうした?」
「計画は予定通り聖剣を奪った後は例の街に向かうのか?魔王の妹のうち赤い方は冥界に引き籠ってるんだろ?一匹じゃあインパクト足りなくね?」
「ああ、そのことか。それならば心配ない。あの土地は極東では珍しいほどに様々な勢力の利害関係が複雑に絡み合っているうえに、悪魔達の認識では所有権はグレモリーとバアル両家の名義となっている。そのような土地に外部からの侵入を許せば奴らの沽券に関わるから出てこざるを得ないわけだ。それよりも俺が気になっているのはフリード、お前が以前戦ったという連中のことだ。無論グレモリーではない方だ。」
「ん?あァ、あいつらね…正直連中についてはなんも分かんねェ。悪魔じゃないみたいなんで雇われっぽいんだが、どうも裏の連中特有の臭いがしねェというか、どっちかっつーと、こう…触れちゃならねェような。あ、ついでに言うと双剣使いの女堕天使を従えてたっつー話だぜ。」
「なに?」
その瞬間、フリードはコカビエルの纏う空気が変わるのを感じた。
「おい、フリード。その女堕天使は金髪に赤い目、黒い双剣を持っていたか?」
コカビエルは詰め寄る。
その容貌も相まって、見る者に途轍もないプレッシャーを与える。
「あ、あー、悪ィんだけどよ…俺も直接見たわけじゃねェから詳しいことは分からねェんだ……て、旦那?」
フリードは少々引きつりながらも答える。
だが当のコカビエルは何やら思うところがあるらしく、完全に自分の世界に入り込んでしまっていた。
「まさか、そんなことがありえるのか?奴はあの時確実に…だが、もしそれが本当なら…クククク、これは予想以上に面白い展開になるやもしれん…ん?」
ブツブツと独り言を続けるコカビエルの耳元に小型の魔法陣が展開する。
タイミングからして今回の計画に関連するものでほぼ間違いない。彼は魔法陣を通じて「ふむ、そうか。わかった。」などと一言二言短い言葉を交わすと、身をひるがえしてフリード、バルパーの両名に向き直る。
そして高らかに宣言する。
「諸君!!機は熟した、我々はこれより“祭り”の準備の総仕上げに取り掛かる!今こそ我らが長年にわたる聖典の呪縛より開放される時だ!!まずは聖剣を保管する教会を襲撃する、俺からは以上だ!早速準備に取り掛かれ!!」
「「応ッ!!」」
フリードとバルパー、そして魔法陣の向こうにいる同胞たち、彼らはいずれも己のうちに何かが昂るのを確かに感じていた。
ちょうどその時、魔法陣の中央に浮かぶ『聖剣創造』で生み出された聖剣が力を失い、崩れ落ちる。
ここに、後にこの世界の歴史の転換点、三大勢力の命運を大きく揺るがすことになる動乱が幕を開けようとしていた。
前回が少々過激だったのと、内容的に佳境に入ろうとする前段階的な意味合いもあって今回は抑え目の内容です。新キャラも登場し、これからキャラクター同士の因縁も徐々に明らかにしていく予定です。
それでは!