ハイスクールD×D ~Pagan Gods from the Old Testament~   作:カイバル峠

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二日連続更新です。




はぐれ悪魔

はぐれ悪魔

 

 

俺達は町外れの廃墟に来ていた。

 

崇哉の奴は用事があるとかで依頼が来る前にどっか行っちまったが……

 

部長によるとここに“はぐれ悪魔”がいるらしい。

はぐれ悪魔というのは爵位持ちの上級悪魔の下僕悪魔に転生した者で、主を裏切ったり、主を殺して逃亡した悪魔のことを指す。

特に人間から悪魔に転生した者は人間だったころとは比べ物にならないほどの強大な力を手に入れることになり、その力を自分の為に使いたくもなるのだろう。

そうした“はぐれ悪魔”は各地で暴れ回っては甚大な被害をもたらすため、見付け次第討伐或いは捕獲するのが悪魔に限らず天使や堕天使の間でもルールとなっているという。

そして今回、そのはぐれ悪魔が部長の縄張りであるこの町に潜伏しているため討伐して欲しい、とのことらしい。

しかも今回討伐するはぐれ悪魔は既に何人もの人間を喰らっているらしい。

 

人間を喰らう悪魔。

 

いや、それが悪魔本来の姿なのかもしれない。

 

ただ制約があるから大人しくしているだけ。

こうして考えると改めて自分が悪魔になってしまったんだと感じる。

 

だがそれでも俺は悪魔になったことは後悔していない。

 

何故なら……

 

 

 

上級悪魔になれば自分のハーレムが作れるからだッッ!!

 

 

 

部長曰く、上級悪魔に昇格できれば『悪魔の駒』(イーヴィル・ピース)を貰って自分の下僕を持つことが出来る。

そこで下僕を美女美少女で囲めばハーレムを作れるんだッ!!

そうすればあ~んなことやこ~んなことも……グフフ……

 

 

悪魔最高じゃねえか!!

 

 

ハーレム王に俺はなるッッ!!

 

「血の匂い……」

 

子猫ちゃんがボソリと呟く。

 

気付けばそのはぐれ悪魔がいると思しき廃屋に随分と近づいていた。

でも周囲に満ちた敵意、殺意が半端じゃない。

足がガクガク震えてら……

 

「イッセー、良い機会だから悪魔としての戦いを経験しなさい。」

 

ええっ?!

 

「マ、マジすか?!お、俺戦力にならないと思いますよ?!」

 

「そうね、それはまだ無理ね。でも悪魔としての戦闘を見ることはできるわ。今日は私達の戦闘をよく見ておきなさい。ついでに下僕の特性を説明してあげるわ。」

 

それから部長は悪魔の歴史、そして悪魔の駒(イーヴィル・ピース)開発の経緯を騙り始めた。

悪魔と堕天使は冥界、人間界でいう地獄の覇権を巡り大昔から争いを続けていた。

そこへ天使を率いる神も加わり三竦みの対立状態になったという。

そして永久ともいえる時の中争いを続けた結果どの勢力も疲弊、その際純血の悪魔も多くが亡くなり、一族ごとに率いていた何十という軍勢もその殆どが瓦解。

最早軍勢を維持できなくなった。

しかし悪魔は永遠に近い寿命を持つ代わりに出生率が非常に低く、元の数に戻るには時間がかかり過ぎる。

そこで悪魔は少数精鋭制度をとることにした。

力のある他種族を悪魔に転生させることで数の回復を図るということらしい。

 

 

「来た」

 

子猫ちゃんが呟く。

 

その声に全員が表情を引き締めると同時に辺りに漂う殺気がより一層濃くなる。

 

 

 

 

 

「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

 

ピシィィ

 

パリン

 

 

 

ッ?!

 

 

なんつー声だ?!

 

 

咆哮だけで廃屋のガラスが割れて壁や天井に罅が入ったぞ?!

 

 

 

 

 

そして現れたのは……

 

 

 

 

バケモノだった……

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

はぐれ悪魔討伐に訪れたグレモリー眷属の前に咆哮と共に現れたのは、鋭い爪を備えた四肢を持つ4、5メートルはあろうかと思われる獣の下半身に人間のような上半身が合わさり、上半身の腕は両方共槍のような獲物を持ち、更に上半身の首に当たる部分から更に裸体の人間の女性が生えているといった様相のバケモノだった。

そしてその凶暴性を示すかの如く、全身至る所に巨大な杭のようなものが打ち込まれていた。

 

「はぐれ悪魔バイサー、あなたを消めtッッ?!」

 

リアス・グレモリーが言い終わるよりも早く、バイサーは片手の槍を投擲し、槍は辛うじてリアスを避け、壁に大穴を穿つ。

 

「くっ、問答無用というワケね……祐斗!」

 

「はい!」

 

間一髪で槍の直撃を免れたリアスはすぐさま自身の『騎士』、木場に指示を出す。

木場は主を狙った不逞の輩を両断せんと、『騎士』の特性である俊足で間合いを詰める。

 

「ハァッ!!」

 

狙うは人型の上半身より生える腕。

片方はつい先程槍を投擲していたが故にがら空きになっている。

目にも止まらぬ速さで剣を振り下ろす。

 

ガキィン

 

金属、或いはそれに準ずる硬度を持つ物質同士が衝突する音。

 

「何ッ?!」

 

木場の振り下ろした剣の軌道はバイサーの爪により阻まれていた。

 

ゴウッ

 

「ッ?!」

 

振り向く木場が目にしたもの。

それは轟音と共に迫る、バイサーのもう片方の手に握られていた槍。

 

「……させません」

 

ドゴッ

 

木場を穿つはずだった槍は横合いからの『戦車』、子猫の拳打の一撃で軌道を逸らされる。

その隙に彼女は木場を連れて離脱、一旦距離を取る。

 

「朱乃ッ!」

 

「はい部長。」

 

バチバチッ

 

「おイタの過ぎる子にはお仕置きですわねッ!!」

 

ピガガガガッ

 

近接戦闘要員二名が飛び退くと同時に『女王』朱乃が手に雷を纏わせてバイサーに向けて大質量の魔力を練り込み雷を放つ。

 

大気を劈く音と共に一条の稲妻がバイサーに迫る。

 

バイサーの双眸が迫る雷を捉える。

するとバイサーの全身に打ち込まれた杭が光始める。

 

光と同時にバイサーの前に魔法陣が展開される。

 

雷が着弾すると同時に吸い込まれるように消える。

そして次の瞬間、魔法陣に吸い込まれた雷が吐き出され、元来た道筋を辿る。

 

「嘘?!」

 

朱乃は即座に結界を展開、自身の放った雷を凌ぎ切る。

雷を凌ぎ切った朱乃は主の下まで下がる。

 

「部長、これは……」

 

「ええ……大公より聞かされた情報とは全く違うわ……」

 

リアスは形の良い眉を顰める。

冥界から伝えられた情報でははぐれ悪魔バイサーの力は飽くまでも下級悪魔クラス、今の彼女達だけでも十分に対処可能な相手な筈であった。

しかし目の前のはぐれ悪魔は明らかに下手をすれば並の上級悪魔を超えるほどの力を有している。

 

木場のスピードへの対応の速度、対魔法反射用魔法陣、いずれも下級悪魔クラスの力では到底なし得ないものばかりだ。

 

「出し惜しみしている場合ではなさそうね……それならこれはどうかしら!!」

 

ギュパン

 

リアスは赤黒い魔力弾をバイサー目がけて打ち出す。

滅びの力。

被弾したものは物体のように実体のあるものであれ、魔力や光力のように実体のないものであれ関係なく無に帰る特殊な魔力。

バイサーの力が如何に上級クラスに跳ね上がっていようと、被弾してしまえば消滅は免れない。

 

「グルルル……ガアァァァッ!!」

 

バイサーは低く唸った後咆哮を上げる。

魔法陣が展開され、大質量の魔力が放たれる。

放出された魔力はリアスが放った滅びの魔力と激突、相殺する。

しかしバイサーの放った魔力弾のうち、滅びの魔力が相殺しきれなかった分は未だ勢い衰えることなく迫って来る。

 

「そんな……!!くっ!!」

 

リアスは一瞬、自身の滅びの魔力が押し負けたことに唖然とするがすぐさま思考を切り替え、防御魔法陣を展開して守りの体勢に入る。

障壁に魔力が衝突し、衝撃で砂埃が舞い上がり、視界を遮る。

そして砂埃が収まった時、彼女は絶句した。

 

「ッ?!」

 

バイサーの前面一帯に幾重にも展開された無数の魔法陣。

その様はさながら魔法陣の壁であった。

それは点ではなく面の攻撃を意図したものであるために回避はほぼ不可能。

しかも見たところ魔法陣の壁は複数の層に渡って展開されており、第一波を凌いでも第二派、第三波が襲ってくるのは明白だった。

 

「グゥオオオオオオオオッッ!!」

 

廃屋に木霊す絶叫。

それを合図に魔法陣が発動。

バイサーが両手に握っていたのと同じ槍が全ての魔法陣より出現する。

 

「?!部長!!この数は流石に防ぎきれませんわ!!」

 

「くっ、ひとまずここを脱出するわ!!その際私と朱乃で障壁を展開しながら後退するから祐斗と子猫はイッセーの護衛に回って頂戴!!」

 

「「「はい!」」」

 

リアスと朱乃は眷属の逃走ルートを確保するため、翼を出して宙へ舞い上がり、攻撃に備えて障壁を展開する。

如何に後退することで衝撃を多少は緩和できるとはいえあの質量の槍があの本数放たれればそうそう長くは持たない。

一刻でも早くこの場を脱出し、体勢を立て直す必要があった。

 

「ゴガアアアアッッ!!」

 

バイサーが再び咆哮を上げると共に槍が一斉に放たれる。

飛来する膨大な数の槍。

最早槍の奔流と言っても過言ではない怒涛の進撃にリアスと朱乃は一秒でも長く押しとどめるべく、最大限の力を障壁に注ぎ込む。

木場と子猫は主の命に従い、一般人から転生したばかりでまだ自身に眠る力はおろか魔力の使い方すら殆ど知らない新人のイッセーを連れ、ただひたすらに廃屋の出口を目指し突き進む。

 

しかしいくら障壁を展開しようとも余りに量が多すぎるが故に全てを防ぎ切ることはできず、押し寄せる槍の内数本が障壁の有効範囲を超えて彼女たちの後ろへと飛んでゆく。

 

「祐斗、子猫、後ろに行ったわ!!」

 

後方の3人に自分達が取り逃がした槍の接近を知らせ、注意を喚起するリアスの声。

三人は主の声に後方を振り返り、木場と子猫の二人は即座に反応して飛来する槍を切り落とし、叩き落とす。

 

「あっ?!」

 

だが何たる無情かな、最大の危機はその時訪れた。

 

木場と子猫がそれぞれ剣と拳を振り抜き切った後に生じた一瞬の隙、その絶妙なタイミングを縫って現れた槍。

 

丁度がら空きになった二人の隙間を縫うようにして通過した槍の軌道の延長線上にあったもの。

 

それは皮肉にも、全員が守ろうとした新たな仲間―――――兵藤一誠だった。

 

「イッセー!!」

 

胸が張り裂ける程に悲痛な声で叫ぶリアス。

見れば槍は既に足が竦んで動けないでいる彼の目と鼻の先にまで迫っていた。

 

今からではリアスと朱乃は当然、木場も子猫も間に合わず、仮に間に合ったとしても位置的に確実に彼を巻き込んでしまう。

 

その場にいた誰もが最悪の結末を思い描いたその時、

 

 

 

 

 

 

「お困りのようだな」

 

 

!!

 

突然、激流の如き速度で飛んでいた槍の全てがピタリと静止する。

まるで時が止まったかのように。

これにはグレモリー眷属のみならず槍を放ったバイサー自身も驚きを隠せない。

 

そして現れた第三者の声。

しかしそれはグレモリー眷属にとっては聞き覚えのある声だった。

 

「崇哉?!」

 

イッセーが思わず声を上げる。

 

「あなた、どうしてここに……?」

 

リアスも唖然としつつも問いかける。

 

「野暮用が終わって帰って来る途中不穏な気配を感じて来てみたら……なるほどね。まさかこんなに早く出くわすことになるとは思わなかったが。」

 

そう言って乱入者―――有馬崇哉はバイサーに目を向ける。

 

「あなた、コイツが何なのか知っているの?」

 

リアスが訝しげな目線を送って来る。

無理もないだろう。

敵対する様子はないとはいえ自分達も碌に素性を掴めていない相手がこの状況で知っているような素振りを見せたとなれば当然の反応だった。

 

「恐らくだが……コイツは改造変異悪魔(ミュータント)だ。」

 

全員が聞き慣れない単語に首を傾げる。

 

改造変異悪魔(ミュータント)?何なの、それは?」

 

「俺もついさっき知ったばかりで詳しいことは良く分からないが肉体改造を施すことで強制的に力の底上げをされた悪魔のことらしい。性質の悪いことにやりようによっては僅かに残った心と知性を代償に素体が下級悪魔でも上級クラスに引き上げることも可能なんだとか。」

 

それを聞いて一同は顔を強張らせる。

下級悪魔を改造して上級悪魔並の力を持たせるなど一見冗談としか思えないような話だが、一笑に付すことはできなかった。

事実バイサーは未成熟とはいえ仮にも上級悪魔であるリアスがいる状態で眷属全員をあしらったのだから。

仮に他のはぐれ悪魔についても同様のことが言えるのであれば下級クラスのはぐれ悪魔の討伐でさえ危険度が大幅に上昇してしまうことになる。

 

「はぐれ悪魔を改造……一体誰が……」

 

考え込むリアス。

しかしそんな彼女を他所に彼はバイサーと向き合う形となる。

 

「さて、終わりにしようか。」

 

彼がパチンと指を鳴らすと同時に空中で静止していた全ての槍の穂先が180度回転する。

 

「全員動くなよ?」

 

その場にいた全員に低い声で警告し、全員が動きを止めるのを確認し、そして軽く指を振る。

 

ゴウッ

 

反転した槍の全てが唸りを上げながらバイサーが発射した時を遥かに上回る速度で今度はバイサー目掛けて空を駆ける。

 

 

ズドドドドドドドドドドッッ

 

ピキッ

 

ドオオオオオオン

 

全ての槍が元来た道を引き返すと共にバイサーのみならず廃屋の柱や壁に大穴を穿ち、建物のバイサーのいる側が倒壊を始める。

 

「ゴギャアアアアアア?!」

 

流石のバイサーも自分の放った槍がこのような形で返されるとは予想できなかったのか、それとも速度に対応できなかったのか、死を運ぶ槍の嵐と瓦礫の山に飲み込まれていった。

 

バイサーの断末魔が聞こえなくなった時には辺りはすっかり土煙で見えなくなっていた。

 

「や、やったの……?」

 

目の前で繰り広げられた光景の凄まじさに半ば放心状態のグレモリー眷属。

 

「いや、まだだ」

 

「「「「「?!」」」」」

 

彼の言葉に驚くのと化け物が方向と共に飛び出すのはほぼ同時だった。

 

「グ……グヴォアアアアアアアア!!」

 

バイサーが瓦礫の山より姿を現す。

全身に槍が突き刺さり、胸や腹には大穴が空き、片腕は骨が砕かれて皮一枚で繋がっている状態であるなど満身創痍の状態であったが、その目は未だに闘争心を失っていない。

その姿は正に自身の死期が近いことを悟った生き物が最後に全ての力を解放する、生命の摂理そのものであった。

 

「そ、そんな……あれだけの攻撃を受けてまだ動けるというの?!」

 

目の前の光景が理解できず、声を上げるリアス。

その顔に映るのは驚愕、そして絶望。

 

「チッ……オートで結界を形成して衝撃を和らげたのか。」

 

彼がそう言うや否や、至る所に打ち込まれていた杭が放っていた不気味な輝きもやがて明滅を繰り返して消えた。

 

 

「ガァアアアアアアアアア!!」

 

 

キュオオオオオオ……

 

バイサーは再び咆哮を上げると、バイサーの前に膨大な魔力が収束し始める。

 

「嘘……」

 

「あの状態でまだこれほどの攻撃が可能ですの?!」

 

「くっ……馬鹿なッ」

 

「……まさかここまでとは」

 

グレモリー眷属は口々に驚嘆の念を表す。

傍目に見てもバイサーが致命傷を負っているのは明らかだった。

 

 

「はあ……仕方ない」

 

 

崇哉はフッと息を吐く。

 

そして詠唱を始める。

 

 

 

 

“汝、魔の力に弄ばれし哀れなる魂よ”

 

 

 

 

“その罪に汚れし身を清め今再び輪廻の輪に戻らん”

 

 

 

 

 

 

 

“破魔魂浄”

 

 

 

 

 

 

 

 

突如、眩い閃光が辺りを包み込む。

 

「キャッ?!」

 

「一体何ですの?!」

 

「これは……」

 

「……眩しい」

 

「うわっ」

 

余りの眩しさにグレモリー眷属は思わず目を閉じる。

 

 

「グ、グオォォォォ……」

 

 

辺り一面が光の世界となる中、バイサーは自身の身も心も洗われるような感覚と共に全身を襲う苦痛が和らぎ、ゆっくりと意識が遠退いていくのを感じた。

 

 

やがて光は収まる。

 

そこにバイサーの姿は影も形なく、代わりに何か小さな光の球が天に昇って行くような光景が見られた。

 

 

 

 

до свидания(ダス・ヴィダーニャ)(さようなら)」

 

 

ただ一言、彼はそう呟く。

その表情はどこか悲し気だった。

 

 

「あなた、何をしたの……?」

 

 

リアスが尋ねてくる。

その表情は問い詰めるというよりも寧ろ困惑の色が濃かった。

 

「……魂を浄化して解き放った。無理な改造を施されて肉体ばかりでなく魂にまでガタがきていたし、現世で少なからず罪を犯した以上そのままでは輪廻の輪に戻ることはできないからな。肉体の方もかなり“穢れ”が溜まっていたからついでに浄化しておいた。」

 

「そう……そんなことまで……」

 

「……兎に角、今日のところはもう帰った方が良い。特にイッセーは初めてだったにも関わらずこのような結果になってしまった以上、下手をすればトラウマになりかねないからな。」

 

「そうね……」

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

夜がすっかり更けた頃、町外れに佇む廃教会。

燭台の心細い炎が照らし出すのは埃の溜まった祭壇、放置されたままの頭部の欠けた聖人の像。

それらが背徳的・退廃的な雰囲気を醸し出す中、背より鴉のような一対の黒翼を生やした女性が3人、膝をついて首を垂れていた。

彼女たちは俗に堕天使と呼ばれる存在、すなわち聖書の神に反旗を翻し、天界より追放されし罪人である。

 

「申し訳ございません、我々が至らぬばかりに貴重な被検体を失ってしまいました。」

 

先頭で首を垂れていた黒の長髪の堕天使は謝罪の言葉を述べる。

彼女らが跪く先には一人の人物が。

ローブを纏い、フードも被っているために素顔を窺い知ることはできない。

 

「いえ、今回のことは不可抗力。それに如何にあの個体がこれまでの被検体の中では最も出来の良いモノだったとはいえ所詮は失敗作、どの道自壊するのは時間の問題だったでしょう。寧ろ成果を喜ぶべきでしょう。第三者の乱入という予期せぬ事態が発生しましたがそれでも良いデータが取れました。やはりリアス・グレモリーとその眷属と戦わせたことは無駄ではありませんでした。」

 

フードの人物は凛とした声で淡々と述べる。

声からしてこの人物も女性のようだった。

 

「それでは……」

 

黒髪の堕天使が顔を上げる。

そこには何かを期待する色が含まれていた。

 

「ええ、今回の被検体の敗死については責任を問いません。ですが」

 

フードの女性の言葉に堕天使は表情を強張らせる。

 

「決してこれまでのあなたの失敗が帳消しになるという訳ではありませんよ、中級堕天使レイナーレ。現にあなたは監督不行き届きで自身の部下、ひいては我らの同胞ドーナシークを死なせているのですから。それに」

 

そこまで言うと彼女は一旦切ってから続ける。

 

「あなたが組織より抹殺を命じられた標的の少年、生きていますよ?彼は。それも悪魔となって。」

 

「!!」

 

堕天使――――レイナーレは衝撃の事実に目を見開く。

 

「そんな?!その子供はこの私が確かに始末致しました!!何かの間違いでは?!」

 

そう、このレイナーレこそが以前人間であった時の兵藤一誠に恋人の振りをして近付き、彼を欺き殺した張本人であった。

 

「間違いなどではありませんよ?これが証拠です。」

 

そういってフードの女性は自分の足下に一枚の写真を落とす。

レイナーレは膝を着いたままその写真を拾い上げる。

 

「ッ!!これは……」

 

そこには紅色の髪をした少女をはじめ眷属と思しき者達と映る兵藤一誠の姿が。

しかもそれはちょうど彼らがはぐれ悪魔バイサーの討伐に赴く際、転移してきた瞬間を捕えたものだ。

だがそれ以上に決定的な証拠となったのは彼らが通って来た魔法陣。

それも現ルシファー輩出の名門、グレモリー家の魔法陣の中に彼はいたのだ。

堕天使が危険と判断した神器所有者を殺害するのと同様、悪魔は強い神器や異能を持った人間を自陣営に引き込んで先の大戦で失われた人口を補填し、天使や堕天使に備えるということをする。

即ち写真が意味するところとは、兵藤一誠はグレモリー家の悪魔の下僕として転生したということだった。

 

「調べたところあなたが去った後、彼は瀕死の重傷の中で主であるリアス・グレモリーを呼び出して悪魔に転生したそうです。即ちあなたが止めを刺し損ねたことが最大の原因なのですよ。」

 

「ッ!!」

 

レイナーレは突きつけられる事実に項垂れ、自分がたかだか人間一人を殺し損ねたという屈辱に身を震わす。

もし彼女の言うことが事実なのだとしたらレイナーレは危険な神器を有する可能性がある標的の殺害という、組織直々に下された任務に失敗したどころか、みすみす敵に塩を送るような大失態を演じてしまったこととなる。

 

「ですが」

 

レイナーレが己の失態を目の当たりにして恥辱に塗れ悶えるところにフードの女性は言葉を紡ぐ。

 

「まだ汚名を濯ぐ方法が残されていないわけではありません。」

 

レイナーレはハッとして顔を上げる。

 

「そ、それは一体如何なる方法にございましょうか?!」

 

レイナーレは最早縋るような目でローブの女性を見上げる。

そんな彼女に対し、フードの女性は口元をニヤリと笑ませる。

 

「“彼女”をお使いなさい。」

 

「?!彼女を、ですか?」

 

「ええ、確かに彼女は我々にとってもあなた個人にとっても不可欠な要素。ですが少し小耳に挟んだところによるとそれ以外にも使い道を模索できそうなのですよ。彼女はここへ来る途中彼、兵藤一誠と接触し、面識があるというのです。」

 

「それは、つまり……」

 

レイナーレが自身の望む答えに至ったことに気を良くしたのか、フードの女性は笑みをいっそう深める。

 

「そういうことです。彼女を餌としてお使いなさい。具体的な方法は……事前調査で彼の性格や嗜好を調べたあなたの方が分かるでしょう?」

 

女性の言葉にレイナーレは邪悪な笑みを浮かべる。

 

「フフフ……分かりました。このレイナーレ、必ずやご期待に応えて見せましょう!!」

 

フードの女性はレイナーレの言葉に満足そうに笑みを返す。

 

「ウフフ……期待していますよ。ああ、それと言い忘れていましたが」

 

途端に彼女の顔から笑みが消え、冷徹な眼差しでレイナーレを見据えた。

 

「今回のバイサーの件に関しては目を瞑りますが……次はありませんよ?」

 

「っ」

 

彼女の雰囲気の変化を感じ取り、レイナーレは息を呑む。

それは事実上の最後通告。

ただでさえレイナーレは元から組織内でも窓際族だというのに、いざ任務を与えられても黒星ばかりだ。

今度失敗すれば出世はおろか追放、最悪始末されかねない。

 

「……ご忠告、痛み入ります。」

 

「“あのお方”もいつまでも寛容ではいらっしゃらないことをゆめゆめ忘れぬよう……それでは私はこれで」

 

そう言ってフードの女性は転移魔法陣を展開して去って行く。

 

「~ッ、何よあの女!!澄ましちゃって、偉っそうに……マジむかつく~!!」

 

彼女が去った後、レイナーレの後ろに控えていたゴスロリ衣装を纏った金髪の堕天使が抑えていた不満を爆発させる。

外見上はまだ少女だった。

 

「しかしレイナーレ様、ドーナシークも死んだ今、我々にはもう後は残されていないのもまた事実ですよ?」

 

同じくレイナーレの後ろに控えていたもう一人の堕天使。

こちらは容姿は成人女性でグラマラスな肢体に露出の多いボディコンスーツを纏っていた。

 

「フフフ……案ずることはないわ、ミッテルト、カワラーナ。確かにあの女の言う通りにするのは癪だけど汚名も返上出来る上に成果も上げられるわ。加えて力も手に入れれば私達は疑う余地のない功労者。今まで私達を見下してきた奴らを見返してやれる!!そしてゆくゆくは至高の堕天使に……ッ!!」

 

レイナーレの邪悪な野望に染まり切った笑みを頼もしく思い、ミッテルトもカワラーナも笑みを浮かべる。

 

「さっすがレイナーレ姉様!!」

 

「フフフ……このカワラーナ、どこまでもついてゆきますッ!!」

 

「ええ、あなたたちには期待してるわ。それに……」

 

 

レイナーレは足下の床、否、更に深いところに視線を向ける。

 

 

 

「あの女も随分といいモノを置いて行ってくれたものね」

 

 

 

打ち捨てられた教会では黒い陰謀が進行しつつあった。

だがこれはほんの始まりに過ぎないことは知る由もなかった……。

 




今回は早目に投稿できました。

後期始まったんで多分これまで以上に間が空いてしまうかもしれませんが、気長にお付き合い頂けたらと思います。

御指摘、ご感想等ありましたらお願いします。
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