刑部姫とひきこもるだけ。   作:鹿頭

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刑部姫とひきこもるだけ。

「あ"ーなんだこの糞ゲー。時間損した」

 

刑部姫が突然、野太い声を発したかと思うと、自分でプレイしていたゲームの時間が無駄だった、と吐き捨てた。

 

刑部姫、と言うのは、この俺、藤丸立香のひきこもり仲間みたいな人?で、この道の師匠みたいな方だ。

 

「なに言ってんのおっきー。自分でオブザイヤー受賞作品はどれだけクソゲーなのか確かめるって言ってたじゃん」

 

然程古くもない記憶を緩やかに辿って、確かにそうだったと確認の意味も込めて。

 

「そもそもゲームとしての体裁を成してないゲームはゲームって言わないの!」

 

「自分からやったんでしょ?」

 

自分からクソゲーの意味を否定し始める刑部姫に、半ば呆れつつその言葉を否定する。

 

「もー!まーちゃん!ホラ、ちょっとやってみて!」

 

「(胸が……)あ、う、うん」

クソゲーだとわかってて何を、と詰っていると、刑部姫はゲームのコントローラーを持たせて、プレイさせようとしてくる。

その際に、腕に柔らかな膨らみが当たる。

 

その事実に思わず腕の感覚を研ぎ澄ませる。

だがいけない。このゲームですらない、と刑部姫が批判するモノをプレイせねば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにこの糞ゲー」

 

「でしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まーちゃん、このCP解釈違いなんだけどさ、祟っていいと思わない?」

 

「解釈違いでいちいち祟ってたらキリないよ!?」

 

突然、長いこと二次マンガサーフィンに興じていた刑部姫が口を開いたかと思うと、突然そんな物騒な事を言い始めた。

 

「えぇー…だってこの子はこんな事しないでしょ、普通。なんで解んないかなぁ……」

 

「二次創作位自由にさせてあげて!?」

 

二次創作の大元たる、《コレが見て見たいけど、公式じゃ叶わないから俺がやる》を否定し始める刑部姫。どうやらこのCPは相当推していたらしい。

 

「むー…まーちゃんが言うなら…」

 

けれども、刑部姫は俺の言う事に対して理解を示してくれた。

やはり、過激派に振り切れただけの様だった。

 

 

 

 

「思い入れ強すぎると後で大変だよ……?」

 

「うるさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー!もー!やー!」

 

「どうしたの」

突然、と言っても、今に始まった事ではないが、声にならない奇声を上げてコタツ布団を転げ回る刑部姫。

往復する度に体がこっちにも当たってちょっと痛い。

 

「ちょっと尊い!尊すぎるー!」

 

「だからどうしたの」

 

刑部姫の尊い発言は本当に尊いのかは兎も角、刑部姫から見て何か素晴らしい作品を探し当てた時に発言する定型句、だと言うことがわかってきた。

 

「まーちゃん!うんとね!えーっと…っ痛っ…!」

 

「おっきー!?」

 

転がっていたかと思うと、その回転を止める刑部姫。痛い、と言っているから、何か有ったのは明白だ。

心配になる。

 

「っ………あー、うん。足攣ったかも」

 

「おっきー…」

 

足を攣っただけの様だ。

なんか、心配して損した感が否めない。

 

「ちょっとだけ抱きしめさせて、痛い」

 

「え?あの、ちょ、ちょっと!?」

 

心配して損した、とは言うが、ここまで痛がる事が有っただろうか。

覚えている限りは、なかったと思う。

 

「……いたたー…」

 

「そんなに痛いの?」

 

心配になる。

苦痛に耐える様な顔を見たことが無かったからだ。本当に足を攣ったのか?ひょっとして、もっと、こう、別の───

 

「ううん、そうでもないよーだ!こう言えばまーちゃんと合法的にくっつけるかなー、って思ったからなのです!」

 

「おっきー…ゲスい」

 

「えへへー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「冬落としそう」

 

「知らないよ…」

突然、冬の祭典で配るらしい原稿の進捗がダメだと言う事を報告してくる刑部姫。

 

「いや、だってホラ、このソシャゲが新規イベント始めるのが悪いんだもん!」

 

「止めればいい話では?」

 

どうにも、イベントに嵌ったから進捗がない、と言いたいそうだ。

良くある事だが……止めれば良い話、なんだよなぁ…。

 

「そうしたら素材集まんないでしょ!」

 

「じゃあ、俺が周回しとくよ…」

 

刑部姫が言外に何を言いたいのか、理解してしまった為に、そう言わざるを得ない。

 

「ほんと!?やったー!まーちゃん大好きー!」

 

「わっ、く、くっつかないで…!」

 

周回の代行をする、と言ったら隣に居た刑部姫は抱きついてくる。

無論、そうなるとその豊満なアレが当たる訳でありまして───

 

「んー?何かなー?どうしちゃったのかなー?」

 

俺の態度を察したのか、からかう様な顔を浮かべて惚ける刑部姫。

 

「わかってる癖に……」

 

「ふふーん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最近のラノベってありきたりだよねー」

 

「どうしたのおっきー」

 

ラノベを読んでいる手を止めたかと思うと、俺に対してそんな事を言ってきた。

 

「ラノベ草創期のSFっぽいような、ファンタジーの様な感じは何処行ったのよ!」

 

「今でも探せばあるんじゃないかな?」

 

実際どうなんだろう。毎月大量に供給される中、探すとなると骨が折れそうだ。

 

「えー!やだー!姫、探すの面倒くさーい!」

 

やっぱり、想定している通りの反応が返って

きた。

 

 

「俺も面倒くさいよ……」

 

「じゃあこのままゴロゴロしてよー」

 

「えっ、わっ、も、もう……」

 

「ふふーん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ、この終わり方!クソかよ」

 

「どーしたのおっきー」

 

姫に有るまじき暴言を吐く刑部姫。

何が有ったのか聞いてみる事にした。

 

「あーもー聞いて!まーちゃん!やっと完結してみたかと思えば伏線ぶん投げて終わらせたの!投げっぱなしエンドよ!」

 

「おっきー…この作者さん、投げっぱなしスープレックスで有名な人…」

 

 

「あ」

 

実に、簡単な結末だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見てよコレ!このフィギュア!邪神よ邪神!なんなのこの名状し難き冒瀆的な造形は!顔面崩壊じゃない!」

 

「粗悪品摑まされたのね…」

 

そう言って突き出してきたのは、顔面が溶けている、と言うか、こう、歪んでいるといいますか。

ネットに上げたら軽く祭りになりそうな愉快な出来だった。

 

「最近はクオリティ向上で下手したら国内品より良いと思ったから舶来品を買ったのに…もー!」

 

「国内品でも酷いのはあるから…ね?」

 

どうやら海外から来たそうだ。

しかし、フィギュアに関しては国内外関係ない。酷いものは酷い。

 

 

「そうだけど…むー!お金無駄にしたー!」

 

「ところでおっきー、そのフィギュアって何処から来たの?」

 

素朴な疑問。何処からだ?どうしてそんな当たり前の事を聞かなかったんだ?

 

 

「………さぁ?別に良いじゃない!あ、まーちゃん!それよりもホラ!見てこの絵!ちょっと尊くない!?」

 

「わかる……」

 

「でしょ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まーちゃん!まーちゃん!お願い!冷蔵庫からあれ取って!」

 

「それくらい自分で取ってよ…」

 

冷蔵庫から、【あれ】を取ってこいと無茶を仰せられる。

あれってなんだ。自分で取ってきてくれよ…

 

「えー!やだー!コタツから出たくなーいー!」

 

「もう、仕方ないなぁ…」

 

かわいい刑部姫の為に、渋々コタツから出て、机にみかんがあるけど、飲み物は無い、と言うことから推理して、【あれ】と思わしき飲み物を取る。

 

「まーちゃんありがとー!大好きー!」

 

「あーはいはい」

 

アレ、とさされたモノ。自分自身、これがアレなのかは解らないけど、どうやら自分の意に沿うものだったようだ。

 

再びコタツに入り直して、積みゲーを崩すだけの一見簡単に見えるようで特異点修復並みに難しい作業に……特異点?

 

「!っ、まーちゃん!」

 

「わっ!ど、どうしたの!?」

 

ナニカを思い出そうとしたその時、刑部姫が抱きついてくる。

 

「大丈夫。うん、大丈夫だから。ごめんなさい、立香。貴方は休んでてくださいな」

 

「う、うん…?刑部姫……?」

 

「今は休むの!ほら!引き篭もるのが我々のモットーでしょ!?」

 

「そ、そうだったね、休むよ。うん。ああ、少し、疲れた……」

 

「そう。貴方は休んでもいいの。今までずっと頑張ってきたんだから。良い子、良い子」

 

頭を撫でられる。それだけで心地よさが全身を包み、微睡みへと誘われる。

 

「………」

 

「ずーっと一緒にここにいようね。ここで引きこもってよう!ひきこもり万歳!……寝ちゃったか」

 

 

「ここにいる限り、もう、誰にも貴方を利用させない。働かせない。私が永久に貴方を守りますから……。はい、休んでてください」

 

()()とは違い、中の人を護るための完全なる機構。それが、この白鷺の城。

 

その城主たる刑部姫の表情は、何処までも慈愛に満ちたモノだった。








外の世界を知らない後輩(マシュ)の前では、藤丸立香は先輩でなければならない。

彼女には、藤丸立香は救えない。カルデアの日常にはなり得るが、藤丸立香の本来の日常の象徴にはなり得ない故に。

しかし、この城妖怪は、残酷にも、藤丸立香を日常へ引き摺り堕とす。
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