「……姫路城ってあんまり行った事ないけどさ、こんな広かったっけ!?」
武蔵は、余りにも自分の知識とはかけ離れた城内の構造に声を上げる。
「知識の上ですが……私の知っている日本の城郭構造とは余りにも…と言うより、西洋のも多分に混じっているかと…」
マシュもそれに賛同する。よく考えなくてもおかしい、と。
『うーん…あのヒキコウモリ、生意気にも
『ちょっと、それ私の仕事』
ダ・ヴィンチちゃんが抗議の声を上げる。
『知りませーん♡このカルデアの中で誰よりもハイスペックなBBちゃんがー!オペレートを完全に万能にしちゃいますからー?貴女の役目はお休みです!』
『そんな横暴アリなの!?』
『うるさいですね…えーい!』
『あっ』
「……向こうは大丈夫なのでしょうか…」
「さ、さあ?……来る 」
ただならぬ剣気を肌で感じる武蔵。
臨戦の為、静かに鯉口を切る。
「……来い!」
「───無明、三段突きィ!」
「背後か!」
背後から、神速。否、縮地の領域の速さで宮本武蔵を貫かんと、沖田総司が襲い来る!
「武蔵さん!」
マシュが悲鳴にも近い声を上げる。
しかし、その心配は杞憂に終わる。
武蔵は、あの刹那に刀を抜き、切っ先を受け流す。沖田の構えが平突きだからこそ、僅かに上にずらす事に成功した。そのまま懐に入り、沖田総司を勢いそのままに投げ飛ばした。
「大丈夫、何とかなったわ……って言うより、何であんなのが居るのよ…とほほ」
「……流石に空位、一筋縄ではいかない、ですか」
投げ飛ばされたが、地面に無様に打ち付けられる事はなく、しっかりと着地する。
「だから言ったじゃろ、ワシの火縄で最初っから殺っとりゃあ良いものを……」
着地した沖田の背後から、織田信長が顕れる。
「沖田さんに…信長さんまで!?どうしてですか!?」
「うーん、ワシらは……うむ!敵ってヤツじゃな!うわっはははは!ここを行きたくば、ワシの屍を越えてみよ!」
「わはははは!そうです!この沖田さんを倒しコフッ!」
吐血する沖田。
「えーと……ナニコレ」
「ま、色々あったんじゃよ。取り敢えずワシらは敵!さあさあお立ち会い!ワシらの屍を越えて見せよ!」
「じゃあ!遠慮なく行くわね!仁王倶利伽羅!伊舎那大天象!!」
「あのー、ひょっとして、私達の出番ってこれで」「これでもワシら頑張っ」
宮本武蔵の背後に顕現した仁王が繰り広げるのは、煌めく剣の剣戟。
更にとどめの一撃に、無限すら打破する空の一撃が両断する───!
「悲しい出来事でした……」
「いや、先に仕掛けて来たのは向こうだからね?……ありゃ、もう居ないか」
『さ!敵も倒した事ですし?しゅっぱーつ!』
「……手加減てモノを知らないのかしら…!」
「おっきー、大丈夫?さっきからなんか辛そうだよ?」
「ははーん、まーちゃんは、そうやって姫のない傷を確認するのを口実に、姫の服を脱がせてあんな事やこんな事をするつもりなんでしょ!薄い本みたいに!薄い本みたいに!」
「しないよ!?」
「えっ、それはそれでちょっと……」
「えっ」
「にしても、迷うなぁ…何ここ。髑髏の城とか見た事無いんだけど、私」
床から柱まで、積み上げられた髑髏で構成された、悪趣味な城。
一歩踏み出すごとに、骨と骨が擦れる音がして、気持ちが悪い。
「……現実に存在するんでしょうか…?」
『いや、普通にゲームのお城だと思いますよ?』
マシュの呟きに対して、BBちゃんがモニター越しに反応する。
解析の結果、現実にはないようだ。
『……もしや』
「きゃ!?」「うわっ」
突然、足下の髑髏たちが消失し、二人は奈落の底と見紛うばかりの底へと落ちていった。
『落とし穴!そっちでしたか!』
「イテテ…大丈夫?マシュちゃん」
「すみません…武蔵さんを下敷きにしたお陰で、まあ……」
「いいのいいの。それくらい、私は平気よ!」
とは言うが、事実は、武蔵が自分から下敷きになった。
そうする事によって、マシュへのダメージを極力少なくする為だ。
マシュがその事に気付かないよう、自然な流れに見えるように。
「そう言って頂けると、此方も幸いです」
『うーん、何処なんですかね、ここ。流石のBBちゃんと言いましても、まだマッピングは終わってないんですけど……と言うより、不思議なアレじみて来ましたが』
「見た感じ、日本ではない……わね。大陸とも違う風に見えるんだけど…」
「城、と言うよりは…塔の…中…まさか」
マシュが思い当たる。
『はい、こちらでも特定作業終えました。間違い有りません。そこは【ロンドン塔】です。こんなのまで取り込んでるとは……(たかだか聖杯一つに此処までの力ってありましたっけ?)』
「ロンドン塔!?」
「えーと…そのロンドン塔って何なの?塔?城じゃ無いの?」
「ロンドン塔は【
「うーわ、何それ。殺意満々じゃない!」
「そう。ここが君らの処刑場さ」
背後から声がする。
「サンソンさん!」
マシュが知っている声に名前を呼ぶ。
しかし、その者は知っているようで、知っていない。否定したい気持ちも声に籠る。
「皮肉にも処刑人として呼ばれているからね。しかもよりによって英国の此処。僕を此処に呼んだヤツは何を考えているんだか……ハァ、やりたくは無いが仕方がない。
───執行させてもらう」
やれやれ、と言った様子で渋々断頭の刃を構える。
「それで私とやる気?侮辱する気は無いけど、貴方の腕じゃとても私には───」
「知っているよ、そんな事。だけど生憎僕は唯の首斬り役人。そういった、つまらない男さ」
武蔵の言葉を言うよりも早く肯定するサンソン。
「どう言う───」
「新免武蔵守藤原玄信。君は人殺しだ」
「?……それがどうかし」
「よって死刑。───刑を執行する」
「な」
『流石にコレは不味いです!』
短絡的とも言えるサンソンの判決にBBちゃんも声を荒げる。
「武蔵さん!!」
「ああ、マシュ。君は……うん。善い人の様だ。そこで大人しくするといい。無事にカルデアに返してあげよう」
武蔵の名を呼ぶマシュに、サンソンは罪を見定める。
と言っても、特筆すべき罪などない。
【
武蔵の頭上に顕現した巨大なギロチンが、今までの宿業を清算せんと首を目掛けて振り下ろされる───!
「ちょっ!コレ!どうにか───」
「おや?助けが必要かい?それっ!」
今にも首を断たんとしていたギロチンの動きがゆっくりと遅くなり、止まる。
更に、その刃が、一輪の花になってゆっくり落ちる。
「わ、綺麗」
「マーリンさん!」
マシュが思わぬ救援に、安堵の意も込めて、魔術師の名を呼ぶ。
『うーわ』
BBちゃんは、苦々しく思っているが。
「花の魔術師……!」
サンソンは吐き捨てるようにその渾名を呼ぶ。
「ほら、大丈夫かい?」
杖の一振りで、断頭台を花に変え、武蔵を助けるマーリン。
花は咲いたそばから、ゆっくりと蕾を閉じて行き、消えていく。
「ん、ありがと!お花屋さん!」
「お花屋さん……うん、まあ良いけど」
武蔵にそんな風に呼ばれたマーリンは、僅かに困惑する。
罵倒雑言は有ったが、こんな言われ方は有っただろうか、と。
『お、お花屋さん……!っ…ダメです、面白くて…!』
BBちゃんはその呼び名がツボに入り、笑いを隠せない。
「でも、マーリンさん、どうしてここへ?」
「うーん、まあ。なんか大変そうだったからね!つい、ね」
『ホントの所は何にしに来たんですか。このひとでなし』
「うーん!初対面なのに辛辣だねぇ!同じひとでなし同士、仲良く出来ないのかい?」
『違いますー!私は花も恥じらう乙女です!貴方の様な節操なしに女性と寝る様なだらしない奴ではありません!そんなんだからアヴァロンに幽閉されるんです!』
「えっ」「うっそ」
「何を言って…」
『惚けたって無駄です!第一、貴方、ウルクでも娼館に行っていたましたよね?」
「最低です。お父さんと同じロクデナシだとは思いませんでした。二度と近寄らないでください」
「ちょっとギャラハッド!?」
マシュ、と言うよりは中の人の意思がダダ漏れだ。
「マシュちゃんは言い過ぎだと……は思わないなぁ…うん。流石に、うん」
節操なしは流石に。そう思う武蔵。
『そこで空気になっているサンソンさん!やっておしまいなさい!』
敵だと言うのにも関わらず、サンソンにマーリンを裁くように言うBBちゃん。
「空気……いや置いておこう。マーリン。罪状、淫蕩。判決、───死刑」
「え、あのー、コレは酷いんじゃ、せめて弁護士を」
【
「乱暴じゃないかー!」
『武蔵さん!今です!ズバッとやっちゃって下さい!』
そんな中、武蔵に横殴りしろと言う。
「え?う、うーん、良いのかなぁ……うん、マスターくんの為だ、良しとしましょう!」
「「え」」
「あの、何でしょう、さっきから。何かおかしいと言いますか……」
「ぐだぐだ?」
「はい、それです。まるで何をやっても良い様な……と言うよりは、張り詰めない、と言うべき、でしょうか…」
『張り詰めない……うーん、関係はあるかもしれません。今はただ、気にせず進んでください、とだけ』
「はいはーい!」「了解です」
「あの!勝手に殺さないでくれるかな!?」
(しかし……)
「おや、何か有ったのかい?」
考え込むような素振りを見せるBBちゃんに、ダ・ヴァンチちゃんが声をかける。
「ダ・ヴィンチちゃん。微妙にキャラ被ってるから離れて欲し……いえ、聞きたい事が」
「色々聞かなかった事にしてあげよう。何だい?」
「聖杯は保管庫から一個だけ消えていた、ですよね?」
「え、うん、そうだけど」
「あの聖杯って、高々レベルキャップ上げる程度の力しか持ってませんよね」
「………何が言いたいんだい?」
「あの聖杯ではここまでの力は震えない筈です。余りにも堅すぎますし、余りにも無茶苦茶です。制御するには
「つまりアレかい?刑部姫は神霊になっている、と?」
「現代では【刑部大神】として祀られているようですし、推測としては有力かと」
「だとすると、少し不味いんじゃあないかな?でも、一体何の権能を?」
「……ですから、私自身、腹の煮える思いですが、玉藻さんを呼んで下さい。聞きたい事があります」
「うーん……ちょっと不味いなぁ…」
「おっきー?」
「うん?いやね、まーちゃん。このゲームさ、ちょっと私が形勢が不利になってきたのかなぁ……ってさ」
「そうなの?」
「そう!だから姫、ちょーっとだけ困ってるの!」
「本当にちょっとなの?」
「うん、ちょっとよ、ちょっと。まーちゃん分を補給すれば問題ないくらいかな?」
「補給……って何を」
「こうするのだー!」
「えっ、ちょっと、おっきー!?」