私、普通の女の子……じゃないんだ   作:偏イエ

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pixivの方で別の名前ですでに投稿しています。
ハーメルンでの連載形式って結構気になったので、やってみました。
リップちゃんの被虐体質。


プロローグ
プロローグ 認識阻害


 どうしてみんな、わたしをこわがるんだろう。わたし、ふつうのおんなのこなのにな――。

 

 両腕が大きなかぎ爪となった手を彼女は自分を映す鏡にそっと重ねた。壊さないように、優しく。けれどそれは彼女にとっての優しくであって、鏡は音を立てて崩れていった。

 自分の周りの、家族以外の人はみんな、こわいこわい、と言って逃げ出してしまう。来るな、と叫ばれ、少し乱暴な個性を持った子には痛いだけの攻撃をされてしまう事も日常茶飯事で、それでも誰かと仲良くしたくて、優しくしてもらいたくて、彼女はそっと誰かに手を伸ばし続けていた。

 わたしと、おともだちになってください。そう言いたかっただけなのに――。

 彼女に手を伸ばされた人は誰だって、ばけもの、やめろ、ちかづくな、と叫ぶのだ。どうして、どうして、わたし、ふつうの、おんなのこなのに。どうして、どうして。割れた鏡に力を込めればその殆どが割れてしまっていて、もう写っている部分の方が少なく、彼女の髪の色を見分ける事ぐらいしか出来ない。

 ぐずぐずと考え込むこの性格はあまり好ましくないのだろう。現に彼女の、リップの姉だってリップが泣き事を言う度にイライラと踵を踏み鳴らしている。そして決まって、自分の大切な人形を壊したなんて、言いがかりをつけてくる。

 そんな事してないのに。お姉ちゃんの人形を壊すなんて、そんな、そんな――。ああ、もしかしたら、そういう個性があるのかな?お姉ちゃんはまだ個性が出てないけど、もしかしたら、個性が上手く制御できていない所為で、制御出来たら、誰かお友達になってくれるのかな?

 だったら次はもっとちゃんと上手く話しかけなくちゃ。少しでも前向きな事を考えようとリップは頭をふるりと振った。

 

「ちょっとリップ!アンタまた私の人形壊し……リップ!?」

 

 しかし、リップが自分の気持ちを落ち着かせようとしていた時に少しばかり乱暴に扉が開かれ、姉のメルトが現れた。最初はまた妹のリップが壊してしまった人形についての文句を言いに来たようだが、リップが壊してしまった鏡と、外でまた誰かに声をかけるのに失敗して出来てしまったであろう頬の小さな傷跡を見て血相を変えた。誰に、されたの?何があったの?そう問い詰めるように近付いてくるメルトはリップを心の底から心配していて、このどんくさい妹がまた誰かに虐められたのかと、顔も知らない相手に苛立つよう目つきを鋭くし、普段から袖に隠されたその白くて小さい、まるで陶器で出来た人形のような手をリップの頬に出来た傷跡にそっと触れてきた。普段であれば、それは何も悪い事ではなくて、むしろ精神的に過敏になっているリップもメルトに触れられればいつもであれば落ち着き始めるような、そういう触れ合いだったのだ。けれど今だけはそれをしてはいけなかった。

 

 メルトとリップは年子の姉妹でその鋭い足と爪の所為で異形系の個性の持ち主だとしばしば誤解されやすい。個性というのは複雑なもので、体の中の何かを別の何かに作り替えるというような個性であっても他の人と明らかに外見が違う事もあれば、内臓等の普段目に見えない部分が他の人とは違う、などと様々なケースがある。例えば親子で同じ個性を持っていたとしてももう片方の親の個性に引っ張られるか、両親の個性が複雑に混ざり合って、外見だけかなり違ってくる、というのも大いにあり得るのだ。個性というのがまだ一般的でなかった頃、異形系の個性の持ち主は大変な思いをしていたのだ。だからメルトもリップもそれ程他人に遠ざけられるような外見ではなく、人ごみの中を歩くのは確かに他の人間より気を使わなくてはならないが、それでもその程度なのだ。

 

 つまりは、同じような異形系だと思っていても、人と変わった部分のみが個性である場合と、それとは関係があってもなくても、別の主だった個性を持っている者もおり、メルトとリップの母親を思い出せば異形系であるというよりも他に他者に干渉する類の個性があると考えた方が自然なのだ。

 現にリップは自分自身の腕を認識できていない。姉であるメルトの足も、もしかしたら認識出来ていない可能性もある。それが単なる個性によるものなのか、それとも個性の副作用のようなものなのか、ただの認識障害なのか。この個性社会ではそういう判断はすぐに出来るものではなく、姉のメルトの方が妹よりも個性の発現が微妙に遅い、というただそれだけの理由で悲劇が起きる。

 パキン、と何かが割れる音がした。何もするつもりはなかった。メルトを傷付けるつもりなんて、リップには少しもなかったのだ。しかし、自分の手に降りかかる陶器の欠片のような姉の手が、自分が何をしでかしてしまったのか目を逸らす余裕すら奪いながら伝えてきた。

 リップもメルトも今自分たちがどうなっているのかさえ分からない。二人はただ、触れあおうとしていただけ。少し怯えている妹を落ち着かせようと、姉に触れられた頬に走った小さな痛みに反応して、その手を振り払おうとした、ただそれだけなのに。

 

「あ、い、いやっ、ぃやあああああああ!!」

 

 その普段はぼんやりとしているリップの瞳が涙でたっぷりと潤んでいるのをメルトはなんとなくきれいだな、と他人事のように思っていた。だって仕方ない。崩れたらしい自分の手は欠片も痛まず、むしろ今自分の体が立っているのか座っているのか、何も分からないぐらいメルトは鈍くなっているのだから。

 しかし逆にリップは自分に干渉するもの全てに過敏になっていて、けれども相変わらず自分の手を正しく認識出来ていない。だからこそ、だからこその悲劇だった。

 自分が何をしたのかまるで分からない。分からないのに、姉の腕を壊してしまった。ただ触れただけなのに。どうしよう、どうしよう、と顔を覆いたくなってしまう衝動に駆られたリップはそれが出来ないとなんとなく察し、未だぼんやりと自分を見ているメルトの視線から逃れる為に外へと駆け出して行った。

 どんくさそうに見えてリップはそれなりに素早い事をメルトは知っている。腕が少々、というかかなり重い所為で鈍足であるように思われがちだけれど、その腕を支えられるだけの筋肉があの足には付いているのだ。だから、早く。早く見つけなければ。もしかしたらまた誰かに虐めららてしまうかもしれない。普段だったらあり得ないのに、自分よりもリップの方が今何をしてしまったのか理解しているこの現状と、錯乱した状態のリップがもし、ほかに誰かを傷付けてしまったら。メルトは崩れてしまった腕を気にもせず、リップが向かっているだろう方向へ飛び出した。




 ここではメルトもリップも普通の姉妹です。異形型とその他諸々の複合型個性。ちなみにお母様はBBちゃんです。
 フルネームちゃんと考えないとね。
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