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先輩方の熱い可愛がり(相撲部屋的な意味で)の所為で、俺が講堂に入った時には、既に3分の2以上の席が埋まっていた。
演台が底になっているすり鉢状の構造ではなく、演台を見上げる座席配置は、この講堂が講義用のものではなく式典用であることを示している。
きっとこの権威主義は国策学校ならではなんだろうな。
なんて割りかしどうでもいいことを考えながら、何処に座ろうかと空席を見回す。
座席の指定は無いから、最前列に座ろうが最後尾に座ろうがそれは自由らしい。
今でも学校によっては入学前にクラス分けをして、クラス別に並ばせる古風なところもあるが、この学校はIDカード交付時にクラスがわかる仕組みになっている。
従って、クラス別に自然に分かれる、ということはない。
だが、新入生の分布には明らかに規則性があった。
前半分が1科生、後ろが2科生。
そんな差別意識は割りかし本気でどうでもよいのだが、俺の経験則から言って、基本的に後ろの席は貴賓席なのだ。
つまり、ウェーイと騒がしい連中やその学校の最大派閥が陣取ると相場は決まっている。
そこに混じることは大変苦痛を伴うので、1番前や真ん中辺りが俺の指定席となる。
前の席でも右端左端は死角になりやすいので、ぼっちが狙うべきはその辺りだ。
座席と座席の間をくぐり中央に近い空き席に目をつけ、そこを目指して既に座っている生徒を掻き分けながら進む。
途中、悪逆非道にも俺を売り、自身は優雅に読書タイムを決め込んでくれた男子生徒と目が合うも、向こうは同じく新入生な女子2人と会話していることもあり不用意に絡まれることも無く、どちらとも無しに目線を逸らした。
…本当にいいご身分だなアイツ、今度妹の方にチクってやろう。
そんな些細な誓いを胸に席に座り、新入生代表として呼ばれた司波妹の答辞を聞くことにした。
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司波妹の答辞を聞くことしばし。
途中、意識がうとうと飛びそうになりながら聞いていると、いつの間にやら式自体が終わっていた。
…別に寝ていたとかそういうワケではない。
うん、本当、ハチマン、ウソ、ツカナイ‼︎
実際、司波妹の演説は見事なものだったと思う。
まあ、この程度のことであの司波妹がヘマをする姿なんて想像もつかないけど。
『皆等しく』とか『一丸となって』とか『魔法以外にも』とか『総合的に』とか、結構際どいフレーズが多々盛り込まれてはいたものの、それらを上手く建前でくるみ、摩擦を感じさせない辺りはさすがとしか言いようがない。
その態度は堂々としていながら初々しいしく慎ましく、本人の並外れた美貌も合間って、新入生・上級生・果ては女子生徒までもがハートを鷲掴みされたかのように虜になっていた。
俺の隣にいた女子生徒なんて司波妹を見て気絶するレベル。
…司波妹の演説のせいだよね?決して隣が俺だったからキモすぎて寝ていたとか、そんな席替えした時の隣の女子みたいな反応じゃないよね??
…あれって俺全然悪くないのに、なんで俺が悪いみたいな空気になるんだろうな。くじ引きなんだから俺の席の横を引いちゃったくじ運の悪さを嘆けっつーの。
そんな俺とは対照的に、明日からの司波妹の近辺はさぞ騒がしくなるだろう。
全然羨ましくはない。
そもそも元来、クールでハードボイルドな俺は暑さにはめっぽう弱い。
なので少しでも涼しい方がいいのだ。
人間の基礎体温は大体36度程度。気温にすれば真夏日どころか猛暑日である。
さしもの俺もそんな高温多湿に耐えられるはずがない。
猫なんかもそうだろう。
暑いのと人気が無いところへ行くものだ。俺も純然たる暑さ対策のために人気の無いところを目指した。いや、別に既に仲が出来上がりつつあるHRに顔を出すのが面倒くさいとかでは決して無い。
これは本能的行動であって、むしろ、そうしない連中のほうが生物としてまちがっている。
大体、このHRと言う制度自体、古い伝統を守り続けている一部の学校を除いて、担任教師がHRを仕切るなんていう制度は無くなっているのだ。
事務連絡に一々人手を使う必要はなくて、そもそもそんな人件費の無駄遣いをする余裕のあるところも少なくなく、全て学内ネットに接続した端末配信で済まされる。
学校用端末が1人1台制になったのは何十年も前のことだ。
個別指導も、実技の指導でなければ、余程のことで無い限り、情報端末が使用される。
それ以上のケアが必要なら、専門の資格を持つ複数多分野のカウンセラーが学校には必ず配属されているのもあって、何も無理に集まる必要はない。
では何故HRがあるのかというと、実技や実験の授業の都合だ。
それに自分用の決まった端末があった方が、何かと利便性が高いという理由もある。
背景はどうあれ1つの部屋で過ごす時間が長ければ長いほど、自然と交流も深まるという考えだろう。
何はともあれ、人間関係を望むならHRに行くのが1番の近道と考えられるのだが、俺は別にそこまでして行こうとは思わない。
式の終了に続いて、今度はIDカードの交付があるので交付窓口に並ぶ。
予め各人別のカードが作成されている訳ではなく。
個人認証を行って、その場で学内用データを書き込む仕組みだから、どの窓口に行っても手続き可能なのだがここでもやはり、自然と1科と2科の壁が生まれてしまっていた。
IDカードを受け取るとそこには自分の名前とクラスが記名されている。
『1年A組 比企谷八幡』
ふむ、クラスを確認し終えると基本的にそこから先は自由行動になる。
帰ってもよし、校内を見学してもよし、それこそ先程の述べたようにHRに参加してもよし、と、ちなみに勿論のことながら俺は帰る。
ただ帰るだけではつまらないのでラーメンでも食って帰るか…。
今日はあっさり系の気分なので『蓬莱軒』辺りがいいかもしれない。
新潟ラーメンの店なのだが、あっさりスッキリとした透き通るスープは極上だ。ああ、いかん、口の中に涎が。
と、そんなときだ。後ろから声を掛けられた。
「あ、あの!!」
「あん?」
俺は至高のラーメンタイムを邪魔されて、ほぼ不機嫌モードで振り返る。
これが司波兄妹なら完全スルーを決め込むパターンである。
振り返って見ると、そこには同じく新入生と思われる女子生徒が2人。
髪型は、耳が隠れないよう左右に分けていて、首の位置からヘアゴムで2つにした長髪、そしてそれらが歩くたびに揺れている。
探るようにして動く視線は落ち着かず、俺と目が合うと、ひっと小さく悲鳴を上げた。
…俺はクリーチャーかよ。
一定の間が開き、何をどう切り出そうか考えていると、話しかけてきた女子生徒の友人らしき人物から助け舟が出された。
「ほらほのか、自己紹介するんでしょ…まったく。すみません、この娘ちょっとおっちょこちょいなもので」
「ひどい雫!ちょっと焦っちゃっただけじゃない!」
なんて漫才地味たものが始まってしまった。
えっと、一体何?クレームかなにか?いやでも覚え無いしな…というかその前にこいつ誰?
正直言ってまるで覚えがない。
というのも、彼女、はじめに話しかけて来た方は、まさに今時の女子高生って感じでこの手の女子はよく見かけるものの、まったく俺とは交流が無い。なんならどの手の女子とも交流はない。
でも、向こうから話しかけてきたしたな…その友達との間に割って『すみません、どちら様ですか?』とは聞けない雰囲気だった。
と、そこで胸元にエンブレムがあることに気がつく。
この学校は1科生と2科生のそれぞれをエンブレムの有無で分けているのだから必然的に彼女らは1科の生徒ということになる。
…別にエンブレムに真っ先に気がついたのは胸を見ていた訳じゃなくて、偶然目に入っただけだからね?ちなみに片方の女子はけっこうでかい。
「あー…えっと、とりあえずどちら様かお伺いしても?」
雰囲気を気にしていても話は進まないので、まずは相手の自己紹介を促すことにした。
やたら紳士的なのはやましい気持ちを誤魔化す為なんかじゃなく、勿論俺の純粋な優しさであることは強調しておきたい。
もうね、俺ってば超紳士。その証拠によく紳士服着てるし。
「私は北山雫。こっちは友達の光井ほのか、同じ一年生でA組。えっと君は…」
彼女、北山さんたらいう女子に促されて、はあとかわけわからん会釈をする。
多分このまま自己紹介タイムに入る流れなんだろう。
「1年A組 比企谷八幡です。えっと、それで何か?」
「お、比企谷君もA組なんだ。じゃあ同じクラス同士。これからよろしく」
「あ、ああ…」
なーんだ、ただの社交辞令的なソレか、しかしまあただの社交辞令的な挨拶とは言え挨拶は大事だからな。
RE:挨拶から始まる魔法科生活とか始まっちゃうんじゃないの?
ちなみに死んでも過去には戻れない(主にやらかした時間や出来事的に)
さらに言えば俺は死に戻るタイプの異世界モノより女神を連れて異世界生活を送るタイプの方が好み。
話が逸れた。
まあ、とはいえ挨拶程度は小学生でもちゃんとするしな。
むしろ不審者には積極的に挨拶していけと小学校で教えてるまである。
そう考えると向こうから挨拶されたのは不審者に対する先制攻撃だった説が浮上してきちゃった。
あれだな、何見てんだよおめぇ、どこ中だよ!的なことかな。
そんな割とどうでもいいことを考え、適当に社交辞令的な話をすること十数分。そろそろHRに出る生徒は教室に向かった方がいい時間。
「ところで比企谷くんはこの後どうするの?私と雫はこれからHR出るけど」
「あー、俺は帰るわ…それじゃあ…」
ようやく世間話を終えて校門を出ようとすると、そこにはもうすぐHRの時間だというのに人だかりが…まあ、なんとなく予想はつくのだが。
「え?何々??どうしたの?」
人混みから中を覗こうと、俺におぶさるように肩から背中にかけて光井の腕が添えられた。
ゾワリと悪寒が走る。突然触られてびっくりしてしまった。
控えめにつけられた香水の香りが動きに合わせてふわっと漂う。
ボディタッチとか、これってファールでしょ…。
かといって、振り払ったり躱したりできるほど俺も冷静ではなく、そのままの姿勢で固まらざるを得ない。
「……」
光井は人だかりの先にある光景を目にしているのか、しばらく黙ったままだった。小さなため息だけが耳に届く。
「あー、司波さんだね、ほのか司波さんのすごいファンだから…」
…やっぱりあの人だかりの中は司波妹か、というかファンて。
「試験会場で一緒だったみたいで、そこで一目惚れしちゃったらしいよ」
「あ、そう…」
そんな俺の心情を読んだのか北山が解説してくれる。
すげえ。多分今までで1番いらない情報を手に入れてしまった。司波妹の洗脳歴とか使う機会が何1つとして思いつかない。
が、しかし、まあ分からんでもない。
確かに司波妹は男女問わず人気はあるし、なんならファンクラブの1つや2つ平気であるだろう。
「ああ!!…やっぱり司波さん綺麗だなぁ…あ!」
ひとしきり見て満足したのか、今の状態を振り返って自然とはずかしくなったのか、光井はようやく俺の背中から離れる。
「あ、あ、あの、すみません!!」
「…あ、ああ」
落ち着き払って答えたものの、正直心臓は未だに全力疾走したみたいになっている。なんでこいつはこういう行動を取るんだっつーの。いいですか?そういう無邪気な行動がですね、多くの男子を勘違いさせて、結果、死地へと送り込むことになるんですよ?わかったら、今後、『ボディタッチをしない』『休み時間や放課後、男子の席に座らない』『忘れ物をしても男子から借りない』、以上のことに気をつけて行動してくださいね。
と赤くなっていそうな頬を誤魔化すためにも説教をしておこうと光井に顔を向ける。
「あのな…」
「あれ、お兄さんだって」
「え!?どれどれ!?!?」
すると北山がさらに人垣の中の奥に司波兄を見つけたのか口を開く。
言うか早いか光井はぱっと反転し、ぱたぱたと早い足取りで北山に近づいていった。
逃げられたか…まあ、いいや。
しかし司波兄までそこにいるとなると、校門から出るのは少し時間を置いた方がいいかな…鉢合わせたら嫌だし。
「思っていたより普通だな、顔はまあまあだけど」
なんて北山から司波兄への酷評を聞きつつ、校門から遠ざかろうとすると、周囲も司波兄の存在に気がついたのかざわざわとざわめき立つ。
『補欠』『スペア』『ウィード』『花無し』『主席の妹に劣等生の兄』『シスコン悪魔ドSクソ兄』などなど色々な単語が風に乗って流れてくる。勿論最後のは俺。
そんな中で1人固まっている人物がいた。
「あの人だ…」
「え?」
固まっていた人物こと光井ほのかは司波兄をじっと見つめながら続ける。
「…入試のとき、すごく無駄のない綺麗な魔法を使う人がいて、さすが魔法科高校だなって思ったのよ…」
「それが、なんで…なんで二科生ウィードなのよ…っ!!」
ズビシッと音がしそうな程力強く指された指は勿論司波兄に向けられている。
まあ、確かに司波妹と同じ会場で受験をしたのなら司波兄の魔法を見ていてもおかしくはない。
そんな中で司波兄だけが二科生判定を喰らっていることに疑問があるのも分かる。
だがな…その前に光井、今のお前周りから見たらただの変な人だぞ?ほら、周囲の何人かはこちらをチラチラ見ているし。おーい、光井さん?
それでもよほどショックだったのか、光井は固まったまま動かない。
…やだ、なにこの子、不審者。今度からは俺も挨拶して牽制しよう。
挨拶ってほんと大事だな。
挨拶で、しっかり築こう、監視社会(今週の標語)
挨拶されて好意をよせられているのかと勘違いするどころか、挨拶されることに恐怖しなければならなくなる、こんな世の中じゃ。ポイズン。
そんなどうしょうもなく下らないことをかんがえながら、俺はそっとその場を後にした。
2話目ですよ2話目!!え?知ってる?そーいうのいい??
…こほん、失礼しました。
突然ですが、ヒロインって結構重要な物語の指針になると思うんですよ。
他の名作を見てもビリビリ電撃姫だとか、魔法成功率ゼロの爆発娘、願った事が本当になる力を持つとある組織の団長、などなどヒロインの魅力が作品の魅力になることは多々あることだと思います。
え?世代が古い??年齢バレるチョイス??
…。(コメントがない、ただの屍のようだ)
と、言うことをふと思い返したとき、よくよく考えたらこのss、ヒロイン決めてなかったなって事に気がついた今日この頃なんですが、どこかにいいヒロインとか落ちてないかしら…
余談はともかく、ここまで読んで下さった方に感謝を込めて…ご感想、ご意見なんでも結構でございます。何かありましたら是非ご投稿ください(切実)