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休み時間ほど心休まらない時間もあるまい。
休み時間、1年A組の教室は、雑然とした雰囲気に包まれていた。
多分、他の教室も似たようなものだろう。
昨日の内に顔合わせを済ませた生徒も多いようで、既に教室のそこかしこで雑談の小集団が形成されていた。
ざわざわと喧そうに満ちた教室。
誰も彼もが授業の抑圧から解放されて、友人たちと親しく会話しながら、放課後の予定や昨日見たテレビ番組の話をしていたりするものだ。
飛び交う会話はまるで異国の言葉のようで、耳に届いても意味をなさない。
それにしても今日は初授業ということもあってか一段と賑やかな気がした。
おそらくは、先程講師が言った専門授業を誰と行くかというものだろう。
しかしまあ、『どこ行く?』という会話はあっても『誰と行く?』という会話にならないあたり、このクラスでは初まりにしてほとんどの人間が特定のグループを形成しているということなのだろう。
当然といえば当然だ。
学校という場所は単に学業をするための施設ではない。
要するに此処は社会の縮図であり、人類全体を箱庭にしたものだ。
だから、戦争や紛争があるようにいじめだってあるし、格差社会を引き写したようにスクールカーストだってある。
もちろん、民主主義そのままに数の理論が適用されもする。
多数派が、友達多い奴が偉いのだ。
クラスメイトの様子を俺は頰杖をついて、半分眠ったような姿勢で眺めていた。
睡眠は充分とっているし、眠くなどないのだが、昔から休み時間はこうして過ごしていたため、身体が条件反射で眠ろうとしていた。
うとうとしかけている俺の視界の前でひょいひょいと小さな手が振られる。
んっ、なんだぁと顔を上げると、俺の前の席に昨日遭遇したクラスメートの北山雫が座っていた。
「おはよう」
くすっと微笑むようにして、北山は目覚めの挨拶をする。
ぼんやりと辺りを見渡したところ寝ていたのは俺1人のようなので必然的に彼女が話かけた対象は自分だと理解する。
「…なんか用か?」
「特に用事はないけど…比企谷君がいるなと思って…ダメだった?」
「…いや、ダメってワケじゃねぇけど…俺と話してていいのか?えっと…もう1人の…」
「ほのかならあそこ」
北山が指差した方向を向くと、相も変わらずうっとうしく司波妹を取り囲む人垣の前でオロオロする光井ほのかの姿…いや、なおさら俺と話してる場合じゃないでしょ…
「ほのかはもう少し積極的に行かないと、私が手助けしているだけじゃダメ」
そんな俺の心情を見透かしたかのように、腰に手をあてて北山はフンスと息を巻く。
そして、はたと何かに気づいたのか、ぱんと柏手でも打つかのように両手を合わせた。
「比企谷君はこれからどこ回るか決めたの?」
「いや、決めてるっちゃ決めてるが、決めてないっちゃ決めてない」
俺がそういうとうまく意味が伝わらなかったのか北山は小首を捻って下から覗き込むようにして俺を見た。
そのせいでかなり距離が接近してしまい、女子特有の甘い香りが辺りをただよう。
近い近い近い…何でコイツといい昨日の光井といいこうも無自覚なのん?
いいですか…そういう行為がですね…(以下略)
「…あー、つまりどこでもいいんだ、俺は。特に魔法関係でなりたい職とかあるわけでもないしな、どこに行こうと大して変わらん」
そもそも将来の希望職専業主夫だしな。
先程の時間にやった生徒会管理の調査アンケートでも進路調査の欄にそう記入したし。
…自分で書いておいて何だけど、魔法科高校広しといえどもこの職を希望したのは自分だけなのではないだろうか。
「ふーん、じゃあもう誰かと行く約束とか…した?」
少し躊躇いがちに、けれど確かな意思を感じさせる瞳で北山雫は俺の目を見つめてくる。
何だ今の言い方は。『一緒に行きたいんだけど、もう決めちゃってたら、残念だなぁ』みたいな意図を孕んでそうな言葉じゃねぇか。
まさしく不意打ちだった。
その奇襲のせいで、俺の記憶の扉が新聞の勧誘並みの勢いで激しくノックされる。
確か昔にもこういうことがあったような…
そう、それは中学に入ったばかりのころ、俺がクジ引きで学級委員になっちまった時、可愛い女子が立候補して、その女子が『これから一年間よろしくね』とはにかみながら言い…。
っああっ!!あっぶねえ!!またあの意味が全然わかんねぇ思わせぶりなセリフに騙されて大怪我するところだったぜ!
既にそのパターンは一度味わっている。
訓練されたぼっちは同じ手を二度も引っかったりはしない。
じゃんけんで負けた罰ゲームの告白も、女子が代筆した男子からの偽ラブレターも俺には通じない。
百戦錬磨の強者なのだ。負けることに関しては俺が最強。
OK。落ち着いた。こういうときはとりあえずオウム返しをするのが1番無難なやり方である。
つまり、オニドリルはきっとぼっちの達人。
なので、質問に質問で返すことにした。
「お前は決めてるのか?」
「私?私はほのかと…」
急に聞き返して戸惑いでもしたのだろうか、一瞬の間が空き北山は光井の方に目を向ける。
「雫ー!!」
人ゴミを掻き分け北山の名前を呼びながら這い出てくる光井と、それに続く司波妹。ああ…なるほど。
確かに校内一(推定)美少女の司波妹とこの高校以前(推定)からの友人であろう光井がいるのならば回る相手がいないということはないだろう。
「お待たせしました。さて、それでは光井さん北山さん行きましょうか」
ちょっと!!後ろの群衆(主に男子)が羨ましそうにうろうろしてるんですけどー!!ちょっと気の毒にも思えてくるぞ…!
「ごめんなさい、急に会話に割り込んで」
「ううん、助かっちゃった…ところで…」
光井と会話していた司波妹と目が合う…これはマズイですよ!!
ゆっくり近づいてくる司波妹に対し、静かに席を立つ。
と言うかあれだ、あいつが動くたびに後ろの群衆が集まってきて、あれよあれよという間に皆が押し寄せてきて、ついには俺の席まで占領されてしまった。
押しよせられる人数に比例して俺の存在感もまた希薄になっていく。
なんだよ、俺忍者かよ。九重寺か甲賀の里にでも就職した方がいいんじゃねえの?。
では、拙者、この辺りでドロンさせていただくでゴザル。
まあ、言うまでもなく、いつでもどこでもドロンと消えてるようなものだけどな。
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工房工作室と呼ばれる主に実験道具や魔道具作成を行っている建物がこの第一魔法科高校にはある。
1ーAの生徒たちは専門授業の見学時間が始まるとめいめいに己の希望する場所へと見学を繰り出した。
その内で今回俺が向かうのがこの工房である。
この部屋で行われる今日の授業は放出系統魔法がメインらしく、工房、工作室という語感に反して工学実習室は小規模な工場といった趣の建物だ。
今日は1人でこの工房を見学する、予定だったのだが…。
実際そこへ向かって見るとわらわらと司波妹に人だかりが集まっている。何?大名?
…というか司波妹も工房選択かよ、くっそ…なんでいるんだよ…。
闘技場にしておけば良かった…。
ぬかったぜ…。
ちゃんと調べてから選ぶべきだった。
司波妹の周りには先程から群がっていた男子集団もいれば、北山や光井の姿も見つけることができた。
ちらほら数えても教室の6割くらいの人数がここへ来ていたようだ。
人込みはあまり得意ではない。たまに休日出かけてみても人が多いだけでもう帰りたくなってしまう。
自然と俺のポジショニングはその集団の最後尾につけていた。
さすがは俺、自ら進んで殿を務めるなんて戦国武将なら褒賞ものである。
先程も述べたように、ここは魔法に必要な道具を作成する場所だ。
そこは単純に校内と研究施設というだけでなく、周辺に解放されたスクリーンシアターや研究を一望できるラウンジなどアミューズメント性にも富んだ場所だった。
これを無意識に選んでいるのだとしたら司波妹の引きの良さというか、天性の勘は素晴らしいものだ。また、逆に大勢人が集まることを見越してここを選んだのだとしても、その気配りには舌を巻く。
何より、こういうメカメカ系の展示なんかはぼっちの俺が1人で見ても楽しい。
トランペットを欲しがる少年のように、ガラスにぺったりと張り付きながら、機械がうぉんうぉん動く様子を眺めているとワクワクするのだ。
『俺たちは機械じゃない』というのは、管理されることや苦役に投入されることへの反発心から出る言葉なのだろうが、まったくもってその通りだ。
俺たちは機械ではない。
だから、時々俺みたいにどこにも絡まない使い道のよくわからんギアが存在していたりする、これがミニ四駆だったらタミヤに問い合わせちゃうぜ。
厳密に言うのならこんな機械や魔道具、魔法にだって無駄な部分は存在する。
俗に言う『遊び』といわれる個所だ。
機械ならチェーンの余った部分や余計なギア比、魔法なら直接は必要の無い起動式なんかをこう呼ぶこともあるらしい。
こいつがあることによって魔法式自体に余裕が生まれ、より完全な発動が出来たりするのだそうだ。今日講師が言っていた。
魔法にも人にも遊びが必要なんだと。
まあ、ぼくは遊びにも誘われないわけですが…。
俺は集団から適度に距離を取りながら、下で行われている放出系統魔法の実験を見て回った。
前はきゃっきゃと小声でお喋りをする者やじゃれ合いを楽しむ者、司波妹にアピールしようと躍起になる者。
後ろを振り向いても誰もいない。
後方はシーンと静まり返り、耳に痛いほどだ。
だが、その静寂を前方同じくざわざわとした雑音が切り裂いた。
「比企谷。お前もここに来ていたのか」
再び後ろを振り返ると司波兄とその友人(であろう)数名。
「お前も工房見学か?」
「まあ、そんなところだ」
とそっけなく答えるも向こうは大して気にも止めずいつもの無表情を貫いていた。
すると後ろにいた男子生徒が遠慮がちに司波兄に耳打ちをする。
「達也、コイツは?見たところ一科の生徒っぽいが…」
引き気味に言われ、男子生徒の胸元を見ると司波と同じく二科生のようだ。
ああ…なるほど…一科と二科の溝は何しも一科を二科が見下しているだけではない。
二科生もまた一科生に対しては複雑な感情があるのだ。
そんな二科生同士の中に俺がいるのは気まずかろう、ここはさっさと退散するのが吉だ。
首だけペコっと小さく下げ、その場を後にしようとすると…その肩をガシッと掴まれた。
「まあまて、レオ、こいつは比企谷八幡。この男は目と根性は腐っているが、腐っているだけあってリスクリターンの計算と自己保身に関してはなかなかのものだ。…害にはならん、だろう?」
「何一つ褒められてねぇ…紹介する気ねぇだろお前。違うでしょう?リスクリターンの計算とか自己保身とかじゃなくて、ただ常識的な判断が出来ると言って欲しいんだが」
しかも疑問系だし、慇懃無礼とでも言うのだろうか。やはりとても嫌な奴である。
「ほーん…おっと、自己紹介がまだだったな。西城レオンハルトだ。親父がハーフ、お袋がクオーターなせいで外見は純日本風だが名前は洋風、得意な術式は収束系の硬化魔法だ。レオでいいぜ」
「はあ…どうも」
西城たらゆう男子生徒に促されて、俺は会釈する。さっき名前は司波兄が口にしたが、多分ここはこのまま自己紹介タイムに入る流れなんだろう。
「1年A組比企谷八幡です。えーっと、得意な術式は…」
「え、なになに?司波君の友達?あたしは千葉エリカ。よろしくね比企谷君?」
俺の自己紹介は、これまた司波兄の後ろにいた少女の声に遮られた。
見ると、明るい栗色の短髪に、無駄のないスラッとしたプロポーション。
ハッキリとした目鼻立ちも含め、司波妹に負けじとも劣らない出で立ちの陽性の美少女で、有り体に言えばリア充ど真ん中系の女子であった。
その千葉さんとかいう女子は笑顔と共に右手を差し出してくる。
…ああ?握手?なんだってこうリア充系の奴は馴れ馴れしいのかね?まったく、ほんとふざけんなよ。アメリカ人かってんだよ。
「お、おう…」
躊躇いがちに右手を取るも、おかげで変な返事が出てしまった。
しかし千葉…千葉ねぇ、その苗字に聞き覚えがない訳ではないが、必ずしもあの数字付きとも限らないし、もちろん、我が愛しの故郷の方とも関係はない。
まあ別にこの手の女子と今後関わることもないので、別に、どうでもいいことではあるのだが。
なんならどの手の女子とも関わりがないまである。
「あの…」
そんなどうでもいいことを考えていると、また、声を掛けられた。
「私、柴田美月といいます。よろしくお願いします」
「比企谷八幡です」
そう言われて何度目かの自己紹介。
千葉とは対称的に気弱そうな口調と外見。人を見た目で判断するのは危険かもしれないが、自己アピールが得意なタイプとも思えない感じの女子だった。
しかし、メガネを掛けた女子は今の時代、かなり珍しい。
二十一世紀半ばから視力矯正治療が普及した結果、この国ので近視という病は過去のものとなりつつある。
余程重度の先天性視力異常でもない限り、視力矯正は必要ないし、視力矯正が必要な場合でも人体に無害で年単位の連続装着が可能なコンタクトレンズが普及している。
わざわざメガネを使う理由があるとすれば、単なる趣味かファッションかあるいは…。
「しかしお前はここにいていいのか?一科生には引率の講師が付くと聞くが」
俺の思考は、司波兄の声で中断された。
ただそれはタイミングのいいリリーフでもあった。
あまり込み入った人の事情に足を突っ込むのはよろしくないし、知ったところで何か得をするわけでもない。
司波兄の指摘を受け、辺りを見渡すと先程までいた司波妹の大名行列的な集団はかなり離れている。
どうやら司波兄達と少し長く喋りすぎてしまったらしい。
司波妹達を引率する講師はすでにこのメカメカロード(仮)を抜け次の場所へ移っていた。
「あ、ああ、こう俺の中のロボット魂が騒いでだな…あの、俺はそろそろ行くが?」
暗に別れるタイミングを打ち出すように司波兄に持ちかける。
これはぼっちならではの気の使い方かもしれない。
1人で街中にいるとき、知人にばったり出くわしてお互いに二言三言会話してみたものの、『これってどのタイミングで別れればいいんだろう…』みたいな微妙な空気を作り出したりすると何故かこちらが悪い気がして申し訳なるのと似たようなもんだ。
予想外の邂逅はすぐさま撤退すべし。慢心よくない。
大食いの赤い人や作品は違えど金色の王様が教えてくれた。
「…いや、俺達もそろそろ出ようか」
俺の言葉に続くように司波兄が退出を促す。
柴田はすぐさま頷いているが、西城と千葉はかなり不満そうにゴネた。
「もう行くのか?」
「まだ時間残ってるよ?」
確かにまだ授業時間としては残っているし、退出には少し早いようにも思えるが…。
司波は無言で通路の反対側へ目を向けた。
俺達もつられて振り返る。
そこでは、後ろから来た一科生を引率している教師が、苦い顔でこちらを睨んでいた。
「…お前と会う前に少しあってな、俺達も出ることにするよ」
司波の言葉にさっとあらぬ方向を向く千葉と西城。
…おい、お前ら何したんだよ。あの講師めっちゃニラんでるんだが…。
今ちょっと会話した程度じゃねぇだろ。
司波の言葉に首をすくめた千葉と西城は、こそこそと柴田と司波の後ろに続いて退出して行った。
ハロー!お読みいただきありがとうございます!!
4話目ですね!!4話目!!これ、今のところは一週間に一回のペース守れてるけどストックが実は残り3つしかないし、なんなら8話に関してはまだ書き始めてすらいなくで割とワロエナイ状態なクソ作者です。
そんな状況なのに別の所で放置した別の俺ガイルクロスssもこっちで片付けたいなぁ…ごちうさとか。なーんて考えてるから手に負えない。
え、映画見たから書きたくなったとか、そ、そんなんじゃないんだからね!!
そんなことはともかくお読み下さいありがとうございました!!そしてコメントを残して下さる方々本当にいつもお世話になっております!!マジ感謝!!や、これ本当に。
少しでも早く次話投稿出来るよう、これからも投稿していきますので、是非よろしければもう少しお付き合いいただけると幸いです。
次回!!貴方も大好き!!みんなが大好き!!まゆみんでるよ!!まゆみん!!…まゆみんって誰だよ…。