無銘(R2) 1   作:フリーダムrepair

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あ、5話目です

ご意見ご感想お待ちしております!!


無銘5

昼休み。

先程の専門授業中に歩き回ったおかげもあって、わりとベストに近い昼食スポットを見つけることが出来た。

部活塔の一階。本校舎から少し離れた場所にある木陰に腰を降す。位置関係で言えばちょうどバイアスロン部の練習場を眺める形になる。

購買で買ったウィンナーロールとツナおにぎり、ナポリタンロールをもぐもぐと食べる。

安らぐ。

バイアスロン部とは、スケートボード&スノーボード(ssボード)という伝統的なスキーと射撃の二種競争というわけではない。

春、夏、秋はスケートボード、冬はスノーボードを使い、移動しながらコースに設置された的を魔法で撃ち抜く競技である。

パンパンと鳴り響く射撃の音が徐々に一定になってくる。

春の気温と相まって俺の眠気を誘っていた。

昼休みは女子バイアスロン部の子が自主練習をしているようで、コースを一周しては的に向かって射撃を放っている。

その動きをゆっくり目で追いながら本日の昼食を平らげた。

じきに昼休みも終わるだろう。

すずーっとパックのレモンティーを啜っていると、ひゅうと風が吹いた。

吹き抜けるような強い突風はうとうとした眠気を覚ますのには丁度いい。

こんな風を肌で感じながら1人で過ごす時間は嫌いじゃない。

そういえば、さっき昼食を買う時食堂の方が騒がしかったが、何かあったのだろうか?

まあ、何かあったところで俺には関係ないのだが、なんというか内輪ノリで騒ぐというのがぼっちとしては理解ならん。

ぼっちがノリが悪いと言われる所以だ。

別に恥ずかしいわけではないのだ。

ただ、いろんなことを考えてしまうから簡単には動けない。

人の迷惑ではないだろうか、危なくはないだろうか、自分が入ることで今の楽しい空気が乱れないだろうか…とかね?

まあ、単に俺が内輪ウケとか内輪ノリとかが嫌いなだけかもしれんが…あ、でも内輪モメは好きだ。なぜなら俺は内輪にいないからな!

そんな本当にどうでもいいことを考えながら携帯端末を開く。

授業には未だ時間があるし、読書でもして時間を潰すか。

しかし、雨じゃなくて良かったぜ…さしもの俺も雨に濡れながら飯を喰う趣味はない。

携帯端末でお気に入りの書籍サイトにアクセスする。

「あら?貴方は…新1年生ですね?どうかされましたかこんな所で」

携帯を眺めていると、頭上から声が降りかかって来た。

チラリと横目で見ると、まず目についたのは制服のスカート。

それから左腕に巻かれたランキー付きのCAD。

俺の記憶によれば、生徒で学内におけるCADの常時携帯することが認められているのは、生徒会のメンバーのみ。

俺を新1年生と言う口調からしてつまりこの人は生徒会に所属している先輩ということだ。

掛けられた声の方へ向かって顔を上げる。

ふわふわっとした長い髪が後ろで巻かれ、つるりとした綺麗なおでこがきらりと眩しい。

パッと見小柄な身長に加え男を虜にしそうな妖艶さを醸し出しており、なんともコケティッシュな出で立ちの女子生徒がそこにいた。

とは言え、先輩の、しかも生徒会を務めるような優等生と積極的に関わり合いになりたいとは思わないし、なんならどんな人物でも関わり合いになりたいとは思わない。

「おや、貴方もスクリーン型ですか、感心ですね」

だが、相手はそうは思わなかったようだ。

俺の誰だこいつという視線に、少しはにかんだ微笑みを向けながら端末を覗き込んでくる。

その瞬間、ざわざわと心にさざ波が立つ。

無論、一目惚れなんかじゃない。これは単なる警戒警報だ。

しかし相手はそんな俺の心情とは逆に話を続ける。

「当校では仮想型ディスプレイ端末の持ち込みを認めていません。ですが残念なことに、仮想型を使用する生徒は大勢います。でも、昨日の1年生といい貴方といい、入学してからもスクリーン型を使っているんですね」

「…はぁ、単に読書するのに都合いいってだけですが…」

言われて自身の端末に視線を落とす。

…まあ、つっても俺の携帯なんて着信ねぇ、メールもねぇ、電池もそれほど残ってねぇ。オラこんな携帯嫌だ。

そんな訳で使い所があまりなく多機能付き目覚まし時計くらいの認識しかなかった俺の携帯だが、その女子生徒は一層感心の色を濃くした。

「動画ではなく読書ですか、ますます珍しいです。私も映像資料より書籍資料が好きな方ですから、何だか嬉しいですね」

この人の言う''昨日の1年生''というのが誰かは知らないが、確かに映像の方が書籍より好まれる時代ではある。

が、だからと言って読書を好む者がそこまで珍しいということはない。

どうやらこの上級生は、見た目の印象こそコケティッシュな雰囲気はあるものの、人当たりがよく、俺に対しても距離を感じさせない馴れ馴れしさ、もとい人懐っこさがあるようだ。

…やはり危険だ。

「あっ、申し遅れました。私は第一高校の生徒会長を務めています、七草真由美です。ななくさ、と書いてさえぐさ、と読みます。よろしくお願いしますね」

「はぁ。比企谷です」

名乗られたので名乗り返す。どうやらこの学校の生徒会長の名前は七草真由美というらしい。ちぃ覚えた。

しかしまあ、七草ね…。

この魔法が実在するこの時代、現代魔法は先天的素質に左右されている。

よって血縁による強化が企画され、最強の魔法使いとして日本の魔法界に君臨する十師族と呼ばれる一団があるのだ。

その内の一つが七草家。

十師族とそれ以外の人々とでは圧倒的ともいえる差があり、その十師族中でも七草といえばかなりの有力勢力だったはずだ。

まさかこんな所で遭遇するなんて考えても見なかったが。

「比企谷君…」

七草会長は一瞬だけ考えるような間を取り、俺の顔をまじまじと見つめる。

その見られ方は特に目元を見られているようで、なんとも恥ずかしい。…そんなに腐ってるように見えますかね、俺の目(自覚あり)

会長はそのまましばらくじっと見つめると、突然左手を俺の頰に添え、何か大切な物に触れるかのようにそっと撫でる。

「な、な、なんでしゅ…なんですか」

突然すぎることに返事も噛みまくりだった。

そもそも人と話すだけでも緊張するっていうのに、それが年上の女性とくればなおさらだ。

「!ご、ごめんなさい…ただ貴方の雰囲気があんまりにも私の妹に似ていたものだからつい…本当にごめんなさいね」

ちろっと桜色の舌を出して七草会長が謝罪する。

その庇護欲をそそる姿に急速に罪悪感が襲ってきた。何か言い訳をしなければ!

「いや、その、俺耳とか弱いんで」

戸惑った様に言うと、クスクスと七草会長は笑う。

「ふふ、…あら、もうこんな時間。それでは比企谷君。もし、お時間に余裕があるときでも生徒会室に遊びにいらしてください。歓迎しますよ」

七草会長は冗談めかすように、腰に手を当て前に屈むと、右目でウィンクした。

時刻は13:30分。次の授業の予鈴が鳴っている。

最後にぱあっと華やぐような笑顔を浮かべて、会長は胸の前で小さく手を振った。そしててとてと去っていく。

勿論、俺が自ら生徒会に行くことも、あの会長を訪ねることもないだろう。

記憶が確かなら第一高校の生徒会は生徒会長こそ新入生代表が選ばれるにしても、他のメンバーはその会長が指名するシステムになっている。

つまるところ、全員が会長の完全身内ということだ。

そんな中に入っていくのは大変気まずいし、そこまで気が使えなくはない。

というか、あれだよ?俺とかめっちゃ気が使えるよ?

気ぃ使ってるから誰にも迷惑かけないように静かに隅っこにいる。

話しかけたりしないし、並んで歩かず一歩後ろ歩くし、誰かの予定を邪魔しないように誰も誘わないし。気遣いの達人すぎて操気弾くらいなら今すぐ撃てるレベル。

そんなどうしようもなくくだらないことを考えながら、次の授業会場である射撃場へ足を進めた。

 

入学二日目にして早くもぼっちを決め込んでいた俺は1人夕暮れの校門前で佇んでいた。

学校からの帰り道、国道を右に行けば大きな商店街へと行きつく。

映画館に書店、ゲーセン、漫画喫茶とそれなりに時間を潰せる場所だ。

どの辺をぷらぷらしようかなーなど考え、気持ちわくわくさせながら鼻歌交じりに校門まで来ていた。そんな時だった。

「お兄様…」

「謝ったりするなよ、深雪。一厘一毛たりとも、お前の所為じゃないんだから」

「はい、しかし…止めますか?」

「…逆効果だろうなぁ」

「…そうですね。それにしても、エリカはともかく、美月があんな性格だとは…予想外でした」

「…同感だ」

一歩引いた所から見守っている…いや、あれは眺めている?

…まあ、とにかく事態を俯瞰している司波兄妹の視線の先。

校門のド真ん中には一触即発の雰囲気で睨み合う新入生の一団がいた。

その片方は確か森…森山?とかいう司波妹の取り巻きの1人だった気がする。それに加え1ーAのクラスメイトが何人か。

もう一方の構成メンバーは司波兄チームの柴田、千葉、西城だった。

あの…そこに陣取られると邪魔なんですけど、そういうのは学校でやるなよ、家でやれ家で。

…いやまぁ、本当にやられても困るんだけど。

邪魔だ散れ!という意味を込めて、固まっている集団を注視するも、彼らは当然のことながら気が付く訳もない。

すると、偶然にも司波兄の目線が俺と合う。

一瞬驚いたような表情を取るものの、すぐに目線を逸らし、何も見なかったかのような無表情フェイスに戻った。

…おい、俺はお前が俺を見たのを見たぞ。

「いい加減に諦めたらどうなんですか?深雪さんは、お兄さんと一緒に帰ると言っているんです。他人が口を挟むことじゃないでしょう」

ほーん、何となくこの出来事の一端が見えて来そうな気がしなくもない。

つまり、司波妹を待っていた司波兄に1ーAの連中が難癖でも付けに行ったとかそういうこと?…自分で言っててよくわかっていない。

見ると、1ーAサイドの集団の中には光井と北山の姿。

2人ともこの一触即発の状況に戸惑っている。

つまり、この集団のように一級戦闘態勢ではないようだ。話を聞くならこいつらしかいないか…。

面倒事に巻き込まれるのは勿論ごめんだが、校門前で固まられているこいつらのせいで、この学校から出ることが出来ない。

ならば、その原因くらいは把握しておきたいものだろう。

あれだ、電車が遅延した時にその理由を聞かないと凄くイライラする、みたいなものだ。

「…これ、どういう状況?」

「あ、比企谷くん」

近寄って聞いて見ると、俺の存在に気がついたのか光井と北山が振り返った。

「…司波さんのお兄さんと司波さんが帰ろうとしていたところに一科生が割り込んでウィードだブルームだって言い争ってる」

北山が事実だけを淡々と教えてくれた。

なるほど…これで、一応は今回の件の全容は理解出来た。

つまりは、ここでも一科と二科の差別意識が如実に出ているのだ。

「別に深雪さんはあなた達を邪魔者扱いなんてしていないじゃないですか。一緒に帰りたかったら、ついてくればいいんです。何の権利があって2人の仲を引き裂こうとするんですか!!」

柴田が切れている。丁寧な物腰ながら、容赦なく正論を叩きつけている。

新・柴田が斬るくらいズッパリ切り裂いていた。

「…おい、あいつ司波兄妹を引き裂くとか言ってるぞ」

「…まぁ、司波さんも結構ブラコン気味っぽいし」

俺の小言に北山が付き合ってくれる。

俺の小言に付き合ってくれるなんて、こいつ実はいい奴なのだろうか。

だが、いい奴なのだとしたら話を広げてやれないのは申し訳ない。

あまりにも申し訳ないので今後は迷惑をかけないように話しかけないようにしたい所存まである。

「引き裂くとか言われてもなぁ…」

「み、美月は何を勘違いしているのでしょうね?」

「…深雪…何故お前が焦る?」

「えっ?いえ、焦ってなどおりませんよ?」

「…そして何故に疑問形?」

ギブ。

さっきのやり取りだけでラーメン無限大を食らったときくらい腹一杯だったのに、さらに野菜マシマシ化調マシくらいの重量だわ、これ。

「いや、あいつはかなりのブラコンだろ。俺も妹がいるがあそこまで酷くはねぇぞ。一周回ってドン引くレベル」

「へぇ…比企谷君も妹いるんだ」

「ああ、自慢の妹がな。可愛い、綺麗、器量好しと3K揃ってると自負しているが…よかった、あそこまで酷くはなかったらしい」

「いや、その反応は正直、かなりのシスコンだと思うけど…」

北山が半ば引きながら返答する。

「馬鹿な!俺は断じてシスコンなどではない。むしろ妹としてではなく、1人の女性として…ああ、もちろん冗談です、やめろ、CADに手を掛けようとすんな」

北山が驚愕と恐怖の入り混じった目で俺を見て、CADに手をかけ始めたあたりで言葉を止めた。最後まで口にしていたら俺に攻撃魔法が浴びせられたに違いない。

そんなバカなやり取りをしている間に、司波妹親衛団(仮)と司波兄さんチームはますますヒートアップしていた。

「僕たちは彼女に相談することがあるんだ!」

「そうよ!司波さんには悪いけど、少し時間を貸してもらうだけなんだから!」

「はん!そういうのは自活(自治活動)中にやれよ。ちゃんと時間取ってあるだろうが」

「相談だったら予め本人の同意をとってからにしたら?深雪の意思も無視して相談も何もあったもんじゃないの。それがルールなの。高校生にもなって、そんなことも知らないの?」

「うるさい!他のクラス、ましてウィードごときが僕たちブルームに口出しするな!」

「同じ新入生じゃないですか。あなたたちブルームが、今の時点で一体どれだけ優れているというんですか?」

決っして大声を張り上げている訳ではなかったが、柴田の声は不思議と校庭に響いていた。

あー、アウト。これはアウトですわー。

そも、このエリート思想やこの一科と二科というわけ方は学校の講師と制服のエンブレム不足から始まったと言われている。

つまるところ、初めから補欠ウィードなんてシステムはなく”誰か''がちっぽけな自己欲を満たすために作り上げた1つの呼び方にすぎないのだ。

だからと言ってこのちっぽけな悪意はバカに出来ない。

悪意は広がり、それは習慣となった。

要は''みんな''が''みんな”二科生をバカにし始めたのだ。

''みんな''が言うから''みんな''がそうするから、そうしないと''みんな''の中に入れてもらえないから。

でも''みんな''なんて奴はいない。喋りもしなければ殴りも怒りも笑いもしない。

集団という魔法が作り出した幻想だ。

気づかない内に生み出していた魔物だ。

個人のちっぽけな悪意を隠すために創造された亡霊だ。

仲間外れを食い殺して仲間にすら呪いを振りまく妖怪変化だ。

だからこそ、その悪意に立ち向かうのであれば、戦闘は免れない。

「…どれだけ優れているか知りたいのなら教えてやるぞ」

学校内でCADを認められているのは生徒会とその役員のみ。

学外における魔法の使用は法律で細かく規制されている。

だが、CADの所持が制限されている訳でもない。

意味がないからだ。CADは今や魔法技能師の必須の道具だが、魔法の使用に必要不可欠ではない。

だからか、CADを所持している生徒は、授業前に事務室に預け、下校時に返却を受けるという手続きになっている。

故に、下校途中である生徒がCADを持っているのは、別段おかしなことではない。

「特化型デバイス!?お兄様!」

司波妹が声を上げ司波兄が手を伸ばす。

それはCADを抜いた生徒があまりにも魔法技能師戦に慣れた美しく淀みのない所作だったからだ。

魔法は才能、血筋によるところが大きい。

つまりは、優秀な成績でこの学校に入学した生徒であれば、入学したばかりであっても、親や家業の手伝いといった形で実戦経験のある者も少なくない。

しかし一瞬にして事態が逆転する。

「ヒッ!!」

悲鳴を上げたのは銃口を向けられていた西城でも柴田でも勿論司波兄妹でもない。銃口を突きつけていた生徒の方。

CADは彼の手から弾き飛ばされていた。

そしてその眼前では、伸縮警棒を振り抜いた千葉が笑みを浮かべている。

「この間合いなら身体を動かした方が早いのよね」

周囲があっけにとられている。当たり前と言えば当たり前だ。

この実力至上主義の魔法科高校において一科生が二科生に遅れを取ったのだから。

しかし…

「…まずいことになったな」

「比企谷君?」

これでひとまずは丸く収まるだろうと踏んでいたのか光井が不思議そうに振り返る。

「ぶ、ブルームがウィードに劣るなどありえるかぁぁぁぁ!」

「舐めないで!!」

呆気に取られていた1ーAの集団が再び我に返り逆上する。

その怒りの炎は凄まじいものでサイバーファイヤーファクトリー社の社長ゴミ●ルーン氏も真っ青なレベルの炎上ぷりだった。

「やめなよ!!」

光井が逆上する男子生徒を止めようとするも逆に突き飛ばされてしまう。

「…無事か?」

「あ、ありがとうございます」

倒れ込んだ光井を起こすも、まあ、ここまで炎上するとちょっとやそっとじゃ鎮火出来ない。

どうしたものかと考える。

「…何かあいつらの気が引けるモンでもあればな…」

「…気が引けるもの…そうだ!!私の魔法なら!!」

「え?は?お、おい」

「何する気!?ダメだよほのか!!」

困惑する俺とこれから光井が何をしようとしているのか理解した北山が止めに入る。

が、時すでに遅し。

光井のCADは組み込まれたシステムが作動し、起動式の展開が始まる。

式の展開が完了後、展開された起動式を無意識領域内にある魔法演算領域に読み込み、座標、出力、持続時間等の数字を元に魔法式が組み立てられる。

起動式とはいわば魔法の設計図だ。

その設計図を元手にCADと自身のサイオン(魔力)を使い魔法を出す。

要するに物体にある本来の情報をCADという道具を使って別のものに情報を書き換えているのだ。

現象には情報が伴う。

逆に言えば情報という式さえ変えてしまえば一時的に現象が変わる。

これがCADを使った魔法システムだ。

しかし、以前も言ったようにCADとはただの機械でしかない。

魔法技能師からのサイオンを供給されなければただのガラクタ。

つまるところ家電製品のようなものだ。

コンセントからの電気供給、ここでいう魔法技能師からのサイオンが供給されなければ魔法は発動しない。

例えば、別のサイオン自体を展開中の起動式に打ち込まれたり、式に少しでも変化を加えられたりすると、そのまま式が合わずに霧散する。今のように。

「止めなさい!!自衛目的以外の対人攻撃魔法は、校則違反である前に、犯罪行為ですよ!」

光井のCADが展開中だった起動式がサイオンの塊によって砕け散らされる。

声のする方向を振りむくと、そこには昼間の生徒会長こと七草真由美。

それに加え、入学式初日。俺を馬車馬のようにコキ使っていた女子の先輩もいた。

「あなたたち1ーAと1ーEの生徒ね。事情を聞きます。ついて来なさい」

硬質な声で命じられ、彼女のCADは既に起動式の展開も済ませてあるぞと脅しの目的も含めてCADを見せびらかしている。

ここで抵抗の素振りでも見せようものなら、即座に実力行使されることは想像に難しくない。

光井も北山も先程まであれ程炎上していた奴らも、言葉もなく硬直している。

雰囲気に飲まれ動けなくなった西城や他の司波兄さんチーム(仮)の奴らを横に司波兄は先輩の前に出る。

「すみません、悪ふざけが過ぎました」

先輩にとって、司波兄妹は当事者にすら見えていなかったようだ。

「悪ふざけ?」

突然出て来た司波兄に、訝しげな視線を向けて問い返す。

「はい。森崎一門のクイックドロウは有名ですから、後学の為に見せてもらうだけのつもりだったのですが、あんまりにも真に迫っていたもので思わず手が出てしまいました」

…驚いた。いや絶句したという方が正しいかもしれない。

他の1年生も今までとは別の意味で凍り、先輩は警棒を手にしている千葉と、地面に転がっている拳銃型のデバイスを一瞥し、冷笑する。

「ではあちらの女子が攻撃魔法を起動していたのはどうしてだ?」

「驚いたんでしょう。条件反射で魔法を起動出来るとは、流石一科生ですね」

真面目腐った表情で答えていたがらその声は何処と無く白々しい。

「君の友人は、魔法によって攻撃されそうになっていた訳だが、それでも悪ふざけと主張するのかね?」

「攻撃といっても、彼女が編成しようとしていたのは目くらましのための閃光魔法ですから。それも、失明したり視力障害を起こしたりする程のレベルのものではありませんでしたし」

再び、息を呑む気配。冷笑が感嘆に変わる。

「ほう?…どうやら君は、起動式が読めるらしいな」

起動式は魔法を発動させるための膨大なデータの塊だ。

魔法技能師はそれを直感的に理解し、魔法を行う。

要は、PCに取り込んだ写真の画像のようなものだ。

1と0のデータでのみ画像を展示しているPCだが、俺達からすればそれはそのまま取った写真そのものに見える。

が、起動式を読む、ということはその画像を1と0で分けて見ることが出来るということだ。

つまり。普通の人間ならば意識して理解するなど不可能だ。

「実技は苦手ですが、分析は得意です」

だが司波兄は事も無げに、その非常識な技能を『分析』の一言で片付ける。

「…誤魔化すのも得意なようだ」

値踏するような、睨みつけるようなその中間の眼差し。

そんな眼差しに何か言おうとしている司波妹を片手で制し、その視線はこちらを向いている。

横を向けば力うなだれている光井の姿。

俺ならばここから先どう動くのかを予想しきったかのように司波兄は黙って俺を見つめ続けていた。

…本当、コイツのこういうところが嫌いだよ、俺は。

「…とにかく、状況判断はしなくてはならないから、君とそこの女子は…『いや、ここで連行されんのは光井や司波兄じゃねえだろ』」

俺の反応に周囲がざわついた。

それまで空気と同化していた俺に周囲の視線が集中する。

「何だと?…君は確か…どういうことか説明してもらおうか」

となれば、その発言の発端であり、かつ立場の弱い俺に先輩の矛先が向かうのは自明の理。

というか今気が付かれたんですね、俺。

七草会長とか驚いて目を丸くしちゃってるし。

「どうもこうも無いですよ。そいつの言うように一科生は魔法を見せびらかしていただけですし、危なくなってきたときに光井に魔法を使わせる発端を作ったのは俺です。なら、その結果は魔法を行使した者ではなくその原因に求められるべきでしょう」

「えっ!?そんな!?ダメだよ比企谷くん!?これは私がやったことで…」

「…おい」

俺のやろうとしていることに気が付いたのか光井が止めに入る。黙っていればこのままお咎めなしに出来そうなものを…真面目というか、頑固というか、ああ、違うな、これは偏屈というやつだろう。

だが、偏屈ぶりで負ける俺ではない。

「いや、実際余計な事言ったのは俺だしな、それで誰かに面倒事を被って貰うのは申し訳ない」

「ほう、なら君の言う原因とやらは君自身ということになるが?」

先輩は何か面白い物を見るような目つきで俺を見る。

「まあ、ここで言う光井が魔法を使う発端になったのは俺ですし、そういうことになるかもしれませんね」

横で騒いでいる光井より先に前に出て、先輩の問いに改めて首肯する。真正面から首肯されたこともあり面でも食らったのか、先輩はどうしたものかと頰を掻いた。

「摩利、もういいじゃない。達也くん、比企谷君。本当にただの見学だったのですね?」

会長のせっかくの助け舟だ、乗らない手はない。

今まで通り真面目腐った表情で頷く司波兄に続き首を縦に振る。

すると七草会長は何となく、得意げに見える笑顔を浮かべこちらに近づいて小声で''貸し1つ、ね''と呟いた。…いや、貸しって。

「生徒同士で教え合うことが禁止されている訳ではありませんが、魔法の行使には、起動するだけでも細かな制限があります。このことは一学期の授業で教わる内容です。魔法の発動を伴う自習活動は、それまで控えた方がいいでしょうね」

「…会長がこう仰っていることもあるし、今回は不問にします。以後このようなことが無いように」

慌てて姿勢を正し、呉越同舟ながら一斉に頭を下げる一同に見向きもせず、先輩は踵を返した。

が、一歩踏み出したところで足を止め、背中を向けたまま問いかけを発した。

「君の名前は?」

首だけで振り向いた切れ長の目は、その端に司波兄の姿を映している。

「1ーE、司波達也です」

「君は?」

振り返ると誰もいない。

これはひょっとして俺に聞いているのだろうか?

いや、でも俺じゃなかったら恥ずかしいしな…これ答えた方がいいのん?

「そこの目が腐った一科生の君に聞いている。名前は?」

「ひゃ、ひゃい!1、1ーA 比企谷八幡です」

あーこれは俺ですわー。

『目の腐り方に定評のある比企谷』が定着しそうな勢いだ。

まぁ、もう諦めたからいい。

ぼっちの特性として『自分の名前を呼ばれることに敏感』というのがある。

普段、名前を呼ばれることが少ない分、たまに呼ばれた時や名前を訪ねられた時なんかに超反応を示してしまうのだ。

ソースは俺。驚きのあまり『ひゃ、ひゃうい!』とかとんでもないリアクションをしちゃうよな。

「…司波達也に比企谷八幡か、覚えておこう」

「…結構です」

「…何か言ったか?」

先輩がシャーッと蛇のような目でこっちを睨んだ。

怖っ!何コンダだよ…。思わず『すすすすびばせんでした!』とか謝っちゃうところだったよ。

「…何でも無いです」

俺の言葉に満足したのか、そのまま先輩は七草会長の後を追う。

そんな後ろ姿を目で追いながら、大きなため息がこぼれ出ていた。

 

 




はーい!皆さんおはようございます!いや、こんにちは?こんばんわの人もいるかもしれませんね!!
無銘(仮)5話目投稿です。
と、言うわけでみんな大好き!まゆみんこと七草真由美会長初登場ですね!…いや、大好きかどうか知らんけど。
それに八幡を入学式でコキ使ったと噂の渡辺風紀委員長…初日から働かされるとかマジブラック…ブラック過ぎて逆にまともに見える…
まあ、あれも1つの行き違いが原因なわけですが。
あ、それと…一応補足しておくと、今回の司波兄の対応は八幡個人に対しての信頼というよりは八幡の今までの行動原理を計算すると…と言った方が正しい気がします。彼らは個人としては信頼もクソもあったものじゃないですが、その分行動に於いては両者共に絶対の予測を立てて行動するし、それが基本ハズレない為、意思疎通には問題ない、といったところですか。これが妹の方だとまたちょっと話は変わるのですが、兄と八幡はこんな関係。

さて、そんな余談はともかく、ここまで読んで下さった皆様に感謝を。
本当コメントにはいつもヒントを頂いており、感謝の念がつきません!!ありがとうございます!!
今後もまだ続く予定ではありますので、もう少しお付き合いいただければ幸いと存じます。

次回予告!!魔の校内アンケート!!…会長の手は八幡に及ぶ!?
女神降臨!!キタ!!司波妹キタ!!これで勝つる!!そんなお話(嘘)
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