無銘(R2) 1   作:フリーダムrepair

8 / 9
あ、はい、8話です。

ご意見・ご感想お待ちしております!!


無銘8

別に、待つのは得意だからいいのだ。

そもそも使っているCADがライフル型というのもあり、どこかのポイントにそっと潜み、標的がやってくるまでじっと待つ、というのも取り立てて苦手ではない。

俺は常に気長に待つように心がけている。

それは比企谷家(ウチ)がCADの部品生産・供給を主な生業としていることも関連している。

中学時代、家業の手伝いもあって親父よろしく社畜と化していた時も、

新企画のプレゼンをして取引先が持ち帰って検討の上、折り返しますと言っていた電話も、比企谷家の製造部署から納品先への納品完了連絡も、ずーっと待っていられる。

まあ、諦めている、というほうがより近いかもしれない。

無沙汰は無事の便り、返事がないのは良い便り、などというが、大嘘である。

往々にして、返事が遅い案件ほどロクでもない結果になることが多い。

何も問題が起きていないなら、返事はすぐに来るものだ。

取引先は新規企画のご案内に対してポジティブな反応なら

『いいですね!次の打ち合わせはいつにします?』とその場で言うし、製造部が納期通りに納品が出来る場合にはこれ見よがしに

『いやー、締め切り間に合いましたね、ガハハ!』とわざわざ報告に来る。

だから、音沙汰ないときは大体ヤバイ時か取り返しがつかない事態になっている時である。

しばらく待ってみて、こちらから連絡してみると『え?その話、まだ生きてます?』とか言い出す。

すっとぼけてくれるならまだマシな部類で、『いや、逆に何で間に合うと思ったんですか?』などと開き直る奴もいる。

最悪な連中だな…などと思うことなかれ。

普段は気さくないい人が多かったりするのだ。

けれど、仕事や納期や締め切りや売り上げやノルマが善人を悪人に変えてしまう。

全部仕事が悪いのだ。

なんもかんも仕事か悪いのだ。

仕事さえなければ人は皆心安らかに生きていくことが出来るのだ。

仕事憎んで人を憎まず。

俺が家から委任(という名の労働力提供)されていたのはCADの部品開発とその営業だが、営業職は特にこの精神が必要とされていた。

いや、営業職に限らず、人と人との関係を繋ぐ窓口的な役割を果たす者には寛容さと忍耐、あるいは不感症めいた性格が必要とされる。

だから、出先で10分、20分待たされても俺は特に何とも思わない。

配属させられたばかりのころは、市内のCADメーカーを何軒も回らされ、その度似たような仕打ちを受けた。

それに比べれば15分やそこら、会長達もいない生徒会室で待たされて、ガタイのいい上級生と小粋なトークタイムに興じることくらいどうということもない。

平気の平左屁の河童である。

第三次世界大戦前にベルトコンベアが蠢く飲食店の地下でひたすら寿司を作らされていた河童さんの苦労を思えばこの程度なんてことはない。

だが、それにも限度というものがある。

いや、先程も述べたが待たされること自体は別にいいのだ。

むしろ何時間であっても待っていられる。

ただ…。

 

「…ねえ、なんでこんなことになってるの?」

場所は第三演習室。

先程、生徒会室に突然現れた司波兄妹にここに来るように命じられ、ノコノコ行ってみれば、生徒会の面々がそこにそろって何やら慌ただしくしていた。

どうやら副会長と司波兄が模擬戦をするらしい。

いや、らしい、という表現はあまり適切ではない。

正確には''した''だ。

模擬戦前、副会長らしき人物が『君が司波さんと同じく新しい生徒会役員になる比企谷だね?丁度いい、君もここでブルームの戦い方というのを見学していくといい』とか言っていたが

結果を見れば、司波の圧勝。

秒殺という表現があるが、この試合には5秒もかかっていないだろう。

副長!!何やってんだよ副会長!!

…どうやら希望の花(ブルーム)は咲かなかったらしい。

まあ、元々、奴の能力は知っていたので副会長を司波兄が倒すことに疑問はない。

サイオンを使った波の合成。

振動数が異なるサイオン波を三連続で作り出し、三つの波動がちょうど副会長と重なる位置で合成されるよう調整して、三角波のような強い波動による''人為的なサイオン酔い''。

…まあ、これも鬼畜シスコン狂戦士として(俺に)知られている司波兄ならばやりかねない。

副会長が司波妹には謝罪するも、兄には視線をぶつけただけで踵を返すのも、副会長の心情を鑑みれば分かるし、その反応に目の前のブラコンがムッとする気配を飛ばすのも、いつも通りといえる。

だからここまでは俺の想定の範囲内。俺の想像を超えていたのはこの後だ。

「生徒会室に戻りましょうか」

会長の一声で、その場にいた全員が移動を開始しようとしたその時である。

どうだ!と言わんばかりに満足げな司波妹が俺に近づいてきた。

…うわぁ、凄く嬉しそう。

コイツがこういう嬉しそうな顔している時って大抵なんかしら面倒くさいことになるから関わりたくねぇんだよなぁ…ここはお世辞でも述べて即座に撤退しよう。

「…流石だな」

「当然でしょう?お兄さまの本来の実力を持ってすればこの程度のこと…曲がりなりにも、お兄様と体術で戦える私達と同世代の人物なんて貴方くらいのものでしょう?八幡?」

突然、そんなことを前方にいる2名にも聞こえるくらいの音量でのたまいやがった。

コイツ…ワザと会長と渡辺先輩に聞こえるように話やがったな…。

狙いは分からんがマズイ…会長達が好奇の目でこちらを見ている!!このままでは俺も司波兄と戦えとか言ってきかねない!!こちらも何か反論しなくては!

「は?俺が?アレと?…お前、どう育ったらそんだけおめでたい思考になるの?毎日が誕生日だったの?それとも恋人がサンタクロースだったの?」

そうでなきゃ一高の五本指とまで呼ばれているらしい(先程会長がこっそり教えてくれた)

副会長が秒殺されたすぐ後、そんなことをのたまうような脳内ハッピーにはならないだろう。

このまま成長したらきっと重度のブラコン+頭ハッピーセットで痛い目を見るに違いない。

取り返しのつかないことになる前に、起動修正してやった方がいい。

つい俺の中の人としての優しさが騒ぎ出してしまった。

俺はオブラートに包んで慎重に言葉を選ぶ。

「司波妹。お前は異常だ。勘違いもいいところだ。ロボトミー手術とかしとけ」

「…お兄様をアレ呼ばわりしたことは''今''は聞き流してあげる、けど八幡?少しは歯に衣着せた方が身のためよ?」

司波妹はウフフと微笑みながら俺の方を見るが、目が笑っていないので怖い。

なんなら足元にうっすら氷張ってるし。

や、でもカスだのクズだの言わなかっただけ褒めてもらいたい。はっきり言ってこいつの顔が可愛くなかったら俺は殴っている自信がある。

「ほう…キミもそこまで出来るのか、これはもう…なあ?」

「そうね摩利…丁度比企谷くんの実力も見てみたいと思っていたのよね」

じりじりと忍び寄る影。

不穏な空気を感じ、今すぐにでも逃げたいところだったが、2人の表情はにやにやと実に楽しそうで喜悦に満ちていた。

そ、そうだ!!司波兄なら!!奴ならきっと無用な戦いや面倒なことは避けてくれるはず!!

アレはとんでもなく嫌なヤツではあるが、そこの共通認識は同じなはず!!

期待に満ちた目で司波兄の方を振り向くと、何やら思考中のご様子。

「…そうですね、会長、渡辺風紀委員長、俺に比企谷と正式な試合をさせてくれませんか」

少しの間の後、司波兄はそんなことをのたまった。ギャワー!!この鬼畜!!シスコン!!司波達也!!

しかし、司波兄がそんなことを言うとは少し意外だ。

普段なら絶対この手の面倒ごとには手を出さないヤツだと思っていたが…一体何を企んでいるんだ?

「…ふむ、彼はこう言っているがキミはどうだ比企谷」

「嫌です」

あまりに力強く、俺らしい回答。

我ながらタイムラグゼロでやや食い気味に即答したことに驚いてしまう。

その驚きは渡辺先輩も同様だっただろう。

言葉に詰まり、口をぽけっと開いていた。

「…まあ、君ならそう言うと思ってはいたが即答されるとは思わなかったぞ…」

頭痛でもするのか、こめかみの辺りにそっと手を添えて渡辺先輩は俯く。

そんな時、隣にいた七草会長がなにか閃いたようにポンと手を叩くとそのまま口を開いた。

「まあまあ摩利、確かに比企谷くんが達也君と試合をしても何のメリットも無いものね」

会長が覗き込むように俺を見るとさらに話を続ける。

「だから比企谷くんにも戦うメリットを用意してあげる。もし比企谷くんが達也君に勝ったら私が貴方のいうことをなんでも聞いてあげる、というのはどう?」

「なんでもっ!?」

なんでも、ということはあれですね。いわゆるなんでもなわけですよね。…ごくり。

会長はそんなことを言うと、ニマニマと意地の悪い顔で耳元まで近くと妖艶に囁いた。

「ええ、なんでもです。比企谷くんは何か私に聞いて欲しいことがありますか?」

会長から漂う女の子特有の甘い香りが俺の鼻腔をくすぐる。ちょっ、近っ!?近い近い近いいい匂い!!

何とかして距離を取ろうとするも会長のニマニマ顔は止まらず、気がつけば俺は会長にぴったりくっつかれていたりする。

ていうか、これ当たってる!離れた!また当たった!!さっきからおっぱいがヒット・アンド・アウェイ!ヤベー!このおっぱいモハメド・アリだよ…。くそう、なんだか籠絡されかかってる気がしないではないけど、ここではいを選ばないと、それこそこの天国(じごく)が続きそう…。

「……………わかりましたよ、やりますよ、試合」

ついには根負けして司波兄と戦うことになってしまった。

「…比企谷も真由美の色香にやられたか、真由美のそういうところ素直に感心するぞ…」

渡辺先輩の呆れたと言わんばかりの視線もなんのその 会長はパチンと俺に向かってウィンクをするくらいの余裕さがあった。

「では決まりだな、20分後用意を整えてここに集合!風紀委員長として、2人の試合が校則で認められた課外活動であると認める」

「場所は第三演習室、試合は非公開とし、双方にCADの使用を認めます」

模擬戦を校則で禁じられている暴力行為…喧嘩としないための措置。

七草会長と渡辺風紀委員長が厳しい顔つきでそう宣言すると、中条先輩が自前のノートPCに何かを叩き始めた。

 

「はあ…やりたくねぇなぁ…」

生徒会長印の押された許可書(こういう物は未だに紙が使われている)と引き換えにCADのケースを受け取り肩に担ぐと、そんなに重くは無いハズのCADケースが途端に重くなったように感じる。…このまま帰ってしまおうかしら。

そんなことを考えていると目の前に見えるは司波兄妹。

ただでさえ重いこの肩がさらに重くなっていくのを感じた。

「さあ、行きましょうか八幡」

そう言って司波妹は俺の腕を取ろうとする。

それをするっと躱し、さらに司波妹がずいっと手を伸ばす。さらにそれをぬるりと避ける。

「…何すんだよ」

「いえ、貴方ならこのまま逃げそうだから、しっかり捕まえておこうかと思ったのだけど」

大した信頼関係である。

いや、まあ、こいつらとの間に信頼関係とかゼロに等しいけど…なんなら俺の場合信頼出来る奴がいないまである、つまり、友人ゼロ。

かっこよく言うと『Friend/zero』である。登場人物少ないから作画楽そう。

そんなバカなことを考えている間に、いつの

間にか背後にいた司波兄にガッシリとつかまれる。そこにぬすっと入ってきた司波妹が腕を拘束して完全に逃げ道を塞がれてしまった。

「さっ、行きましょうか」

「…諦めろ、こうなった深雪は俺でも止められない」

そう言って俺を拘束する手に力を入れるこの兄妹。

ちょ、ちょ…痛っ!痛いっつーの。

そんな俺の虚しい抵抗は功を成さず、俺はついに第三演習場の入り口前まで連れてこられてしまった。

先程までは帰りの生徒などで賑わっていた喧騒もここまで来ると人も少なくなるのか、シンと静まり返っている。

ああ…帰りたいなぁと心の底から思っていたそんな時。

ふと、不意に司波兄は口を開いて俺に質問をしてきた。

「比企谷、お前に聞きたいことがある…以前スクラップ同然となった特化型のCADの修理を俺に依頼してきた時の話だが…」

「はぁ?」

突然何を言い出すんだコイツ…確かに以前、事故によりハカナクモカナシく壊れたCADの修理をコイツに頼んだことがあった。

昨日の朝方にこいつら兄妹が渡しに来たライフル型のCADのことだが、それが一体なんだってんだ。

「いや、何ということは無いのだが、どうすればあんな壊れ方をするのか少し気になってな」

「…事故だっつっただろうが、事故だよ事故、魔法の使い過ぎによる故障だ、それ以上でも以下でもねぇよ」

そう言っても司波兄は食い下がる。

「CAD…とくにお前が以前使っていたライフル型の特化型CADは多少強力な魔法を使ったところで、スクラップになるようなことはない。…そうだな、例えば''戦略級魔法''の連続使用、なんてことでもしないとな…」

「…ただの事故だっつってんだろ…熱膨張って知ってるか?」

そう言って司波兄の質問を断ち切るように第三演習室の扉を開いた。

まあ、流石に熱々の紅茶をかけたくらいで銃は曲がらないとは思うが、多少は?ね?

 

所定の時間が経過し、再び俺は第三演習室で司波兄と向かい合っていた。

司波兄はタッシュケースから取り出した拳銃型のCADを取り出し、弾倉の部分のカードリッジを抜き出して、別の物に交換する。

一方、俺はというと件のライフル型のCADを使用する、という訳ではない。

特にコレといって使えない理由があるわけではないが、そもそもあのCADは接近戦を主とするCADではなく、どちらかといえば遠くからの狙撃がメインとされたCADだからだ。

CADケースを開け、均一に揃えられた10本のナイフ型CADを取り出すと、ついでに小型のケースをベルトに付け、腰に巻く。

勿論、こちらも特化型のCAD。

凡庸型も使えない訳ではないが、こちらの方が使い慣れているというのがある。

そも、特化型のCADとは凡庸型のCADと比べて使用出来る起動式の数が少ない。

凡庸型のCADが99種類の起動式を格納出来るのに対して、特化型CADは9種類しか格納出来ないという欠点がある。

ただ、まあ、一試合に99種類もの起動式はいらないし、何だかんだと使い慣れているCADの方がやりやすかったりするのだ。

「よし、それではルールを説明するぞ。直接攻撃、間接攻撃を問わず相手を死に至らしめる術式は禁止。回復不能な障害を与える術式も禁止。相手の肉体を直接損壊する術式も禁止する。ただし、捻挫以上の負傷を与えない直接攻撃は許可する。武器の使用は禁止。素手による攻撃は許可する。蹴り技を使いたければ今ここで靴を脱いで学校指定のソフトシューズに履き替えること。勝敗は一方が負けを認めるか、審判が続行不能と判断した場合に決する。

双方開始まで下がり、合図があるまでCADを起動しないこと。このルールに従わない場合は、その時点で負けとする。あたしが力づくで止めさせるから覚悟しておけ」

俺と司波兄、双方が頷き、五メートル離れた開始線で向かい合い渡辺先輩のルール説明に同意する。

まあ、勝負なんて適当にやって負けちゃいましたーてへへっ★でいいんだけどな。

参加することに意義があるって便利で素敵な言葉だなぁ。

「ただし、比企谷に限りワザと負けようとするような素振りを見せた場合、強制風紀委員雑用係を命じることにする。以上だ」

「横暴すぎる…」

この人ただの暴君だ!!風紀とは一体…。

「ふふん、君の雑務能力は入学式の時からよく知っている。もしもワザと負けようとするなら…楽しみだな、比企谷」

とても風紀を取り締まる側の人間とは思えないほどに威勢良く、むしろ普段より元気なんじゃねぇかってくらい渡辺先輩は嬉々としてそう言った。

嬉々としてと乳としては五感が似てるなぁ…なんて現実から目を背けてしまう。

しかし人に罰を与えるのが嬉しいとかどんな性格だよ。

俺はCADを握る力を強め、司波兄は右手を床に向けCADを構えている。

場が静まり返り、渡辺先輩の合図を待つ。

静寂が完全に支配した、その瞬間。

「始め!」

俺と司波兄の''正式な試合''その火蓋が切って落とされた。

司波兄の姿が消える。

いや、消えたのではない。目に見えない速度で司波兄の攻撃の間合いまで詰められたのだ。

「時空間制御!!」

当惑より先に手にしたCADに背骨髄反射的に起動式を起こす。

間一髪、飛び退いた俺の鼻先を、司波兄の拳が掠め過ぎる。

ったく…この化け物め…奴のこのスピードは魔法による自身の速度上げされた類のものではない。これは正真正銘、ただの体術によるものだ。

続けて放たれた追い討ちの左足をなんとか紙一重で避ける。

これは俺が体術に長けていたから躱せた、という訳ではない。

奴のアクションが体術100%というのであれば、俺の行動は正真正銘魔法100%によるものだ。

とは言っても次の三撃目を避けることは出来ない。腰を下ろして防御の姿勢を取りつつ左手でCADを頭上にかざす。

ドカッという鈍い音を立てて、なんとか司波兄の手刀を防いだ。

「…自己加速術式でも減速領域でもなく、時空間制御か…なるほど、比企谷一族の人間は時間に関する魔法を得意とするらしいが…お前のソレか?」

「…試合中に話しかけるとか、随分余裕じゃねぇか、司波兄」

魔法は基本的に中学ではあまり高度なものは扱わない。

そもそも高校で習うのを根本としているためか、中学で教わる魔法なんてたかが知れている、というのが一般的な認識だ。

ただし、これも全てがその通り、という訳でもない。

この魔法科高校に入学前にある程度の高度な魔法を使用できる生徒のパターンは大きく分けて二つ。

家業の魔法で代々魔法技術が伝わっている場合と学校以外の場所で魔法を学ぶ機会があった場合だ。

俺の時空間制御なんかは正に前者にあたる。

ウチ(比企谷家)は代々時間系統の魔法の研究をしていたこともあり、ウチの人間は大抵時間に関する魔法を何かしら使えたりするのだ。

俺の悪態など気にもくれず、司波兄は足さばきのみで間合いを取ると右手で突きを放ち、そのまま左手を使ってさらに追い討ちをかけてくる。

右手を八の字に振るうことで決め技を逃れ、なんとか身を捻って追い討ちから逃れた。

「…なるほど、お前の時空間制御(そのまほう) 時間を止めているのではなく、使用者の時間速度を速め、周囲の体感速度を遅らせているのか…それに加えお前のその戦闘術…随分と戦い慣れているじゃないか」

奴には起動中の起動式を読み取る魔眼''精霊の眼''を持っていることから、俺の魔法の特性を見抜かれていても、それ自体は別に不自然なことではない。

司波兄の本当に恐ろしいところは別にある。

俺の魔法は奴の言う通り自分に流れる時間を速め、一定範囲の時間の流れを止まっているに等しい速度まで遅らせるというものなのだが、時間を止めるということは、その世界の情報を止めるということ。

つまり、普通であれば俺が魔法を使った時点で奴は俺という情報を認識することは出来ない。

本来であれば俺の勝利は確実だろう。

だが、そうはならない。

何故なら、コイツは''止まった時間の中で俺の動きを認識し、それに合わせた攻撃を放っている''

俺が身を捻りながら投げたナイフ型CADも難なく避けられ、涼しげな顔でそんなことをのたまう司波兄。

「…ハッ、魔法と戦闘に関して''だけ''は優秀な(自称)師匠がいたんでな!!」

司波兄の軽口に返答するようにさらにナイフ型CADを投擲するも、やはりあっさり躱されてしまう。

残ったナイフは残り2本。加えて奴は未だ魔法すら使っていない。

俺がここからどうやったところで正面切っての勝利は厳しいだろう。

元々、司波兄が使える魔法は多くすらないが、奴が本気で掛かってきたならば俺は文字通り分子レベルで''分解''されてしまうのは必然だ。

そう、だからそんな''規定違反以上の魔法''しか奴が使えないところに勝機がある。

司波兄は再び一瞬にして距離を詰め、俺の額に自身のCADの銃口を向けた。

このまま副会長同様、異なるサイオン波で一気に決着をつける気だろう。

誰もが司波兄の勝利を確信したその時!!

俺は地面を蹴り、反り返りながら一つの魔法術式を展開させる。

「アクティベイトーーー''ダンシング・ブレイズ''」

先程も述べたが高度な魔法は原則高校に入るまでは習うことはない。

しかし何事にも例外があるように、この原則にも例外は存在する。

一つは家業の魔法が代々伝わっている場合、そしてもう一つは''学校以外で魔法を学ぶ機会があった場合''だ。

ダンシング・ブレイズは俺が彼女(ししょう)から習った最初の魔法であり、使い勝手の良さでは頭一つ抜けたお手軽便利魔法だ。

俺の音声認識でアクティブ化することでナイフを操るこの魔法は、先程''投擲したナイフ''を中心に司波兄を背後から襲い掛かる。

流石の司波兄とは言えどまさか予想だにしなかった音声認識型のCADに、精霊の眼をもってしても飛来するナイフを躱せなかった。

唸りを上げて飛んだナイフの切っ先は司波兄の肩に直撃し、司波兄の体勢が多少崩れる。

多少でいい、ほんの少しでも奴の気が逸れれば大成功だ。

自身の時間速度をさらに加速させ、CADを持つ手に力を込める。

司波兄の行動は予想以上に早く、崩れた体勢を整えるとCADの銃口をこちらに向ける。

おそらく次の攻撃を一度でも食らうとその場で負けるレベルの魔法だろう。

いくら奴が''直接死に至らしめるような魔法''は使わなくとも、俺1人気絶させることは本来容易なのだ。

そんな司波兄に対し活路は1つ。撃つ前に打つのみ。

勝った…双方が共に確信する。

負けた…双方が同時に理解する。

互いのナイフと銃身とが、互いの首元と額に押し付けられた。

…後一歩、後一歩踏み込めば、俺のナイフは司波兄の頸動脈を切り裂くだろう。

だが、俺がもしここでピクリとでも動けば司波兄の銃口が俺の額を撃ち抜くに違いない。

体感にして永遠にも等しく感じるこの感覚にどうにかなりそうになりながらも、目の前の司波兄と視線を交わす。

…ここから先は殺し合いだ。学校の模擬戦程度のことでなにも殺し合いまでする必要はない。

つーか、俺の魔法、使ってる最中はまだいいけど元の時間に戻す時の振り戻しがヤバイ…早く終わってくんねぇかな…リバースしそう。

そんな俺の思いが伝わったのか、渡辺先輩は俺と司波兄を交互に見渡すと模擬戦の結果を口にした。

「そこまで!!両者引き分け!!」

そんな渡辺先輩の宣言と同時に目の前の光が反転する。

あー、というか、これあれだ。

自分の時間イジリすぎた反動が意識まで来たヤツだ。

「…比企谷くん、貴方、その魔法」

七草会長が何か詰まるように聞いてくる。

いや、別に秘密にしているとか隠さないといけないとかそういう訳ではないのだが、今は口を開くのですら気だるい。

「…司波、ちょっと後頼むわ…」

そう一言口にすると俺の意識はゆっくりと暗闇に落ちていった。

気がつくと第三演習室に残されていたのは俺と司波兄妹だけであった。

「気がついたか、もう少し眠っているようなら保健室にでも運ぼうと思ったが」

まず初めに口を開いたのは司波兄。

まずは現状確認だ。

「…あー、あれからどんくらい時間経った?っつーか会長達は?」

未だ冴えない頭でボーッとしながら質問する。

別にコイツを信頼していたワケではないが、コイツら兄妹の場を捌くスキルが高いことは知っているし、何より俺じゃ出来ない。

俺じゃ出来ないなら、ほかのできる奴がやるべきなのである。

なんだったらできない奴であってもやらせているうちにできるようになるかもしれないので、やはり俺以外の誰かがやるべきなのである。

ここは親鸞上人よろしく、他力本願の精神で目の前の司波兄に業務委託っつーかアウトソーシングしたというわけだ。

俺、マジブッティスト。

まあ、親鸞そんなつもりで言ってねぇけど。

「お前が倒れてからまだ30分も経ってはいない。会長達には先に生徒会室に戻ってもらっているが…お前も無理したな、そこまでして七草会長になにかして欲しかったのか?」

司波兄はそんないつも通り少し意地の悪い顔で手に持っていたペットボトルを俺に投げ渡す。

…違ぇよ、ワザと負けられない状況だったんだっつーの。

「…不潔ね」

司波妹がまるでゴミを見るかなような目で俺を見る。

「偏見だ!高校男子が卑猥なことばかり考えてるわけじゃないぞ!」

他にもいろいろと、えーっと、考えてるよ!

…世界平和?とか?うん、あとは特に考えてないな。

「ふぅん?」

司波妹は疑わしきは死ねという目で俺を見てくる。

というかこいつさっきからなんでこんなに刺々しいの?ご両親、ウニかなんかなの?

いや、こいつらの両親は会ったことないが、親戚を名乗る戦闘民族になら会ったことがある。

まあ、うん、言明は避けるけど、あのビームおばさんというか…あの叔母あってコイツらあり、みたいな人だった。

「まあ、けしかけた本人が言うのもなんだが、お前の身体を案じているんだよ、深雪は」

「いや、本当だよ、ならなんでけしかけたんだよ…つーか、その、倒置法で暗に自分は違うアピールいらねぇから、知ってるから」

まあ、司波兄に心配されるとか怖気が走るし、本当されたくねぇからいいんだけどね。

そんな俺の質問には答える素ぶりすら見せず、司波兄は続ける

「それだけ話せるくらい回復したなら俺達は生徒会室に戻るが?」

司波兄は暗に目でお前はどうする?と訴えてくる。

まあ、一応ここまで来たなら行かないワケにも行かねぇよなぁ…

「…あー、後からいく」

「そうか」

自分から聞いた割には興味がなさそうに返事をすると、司波兄妹は第三演習室を後にした。

人が減った、というかようやく1人になったお陰か、窓からうららかな春風が吹き抜ける。

…あー、行くの面倒だなぁ。

風通しの良い職場っていうのは人が少ないって意味なんじゃねぇの?、と今から自分が置かれそうなブラックな労働環境を考えてしまった。




フッデダッハ!!お読み頂きありがとうございます!!8話目でございます!!…特にオランダ語に意味は無い。
いやー、8話目にしてようやく八幡の魔法戦が書けました!!(おせーよ)
あ、最初に八幡が話していた上級生、彼は背中で語る正義の赤マントみたいな声をしてるあの人です。fgoならシールダーとかで出そう。
無茶苦茶強い!!司波達也とは戦闘面で相性が悪いらしい。

やめてよお!!服部副会長を噛ませとか言うのやめたげてよぉ!!一科至上主義の癖に達也(ウィード)に秒殺された副会長なんて不名誉なアダ名酷すぎるよぉ!!
…だからよぉ、負けるんじゃねえぞ…キボーノハナー

みゆきん悪女かな?ワザと会長達に八幡やれる子ですよバレをかましていくあたり本当悪魔。
お兄様の調査の為なら八幡ですら切り捨てていくスタイルほんすこ。
いや、まあ、それでも八幡自体に傷ついて欲しい訳でもないから八幡が無茶すると胸の中がモヤモヤする複雑なお年頃の女の子。

会長のハニートラップは大抵の男子なら引っかかるから…
いや、あの人基本的に小悪魔を売りにしてるタイプのキャラだから…。
でも、あれで中々純情な子なので実際もし八幡が勝って約束守らないといけなくなってたら奥手になっちゃうピュアガールだと思うナ!

あー、八幡の魔法''時空間制御''は本編中で八幡と達也が解説していましたが、相手の時間を遅くして自分の時間を早める魔法です。
そのかわり、使用中の運動量と使用時間によって正常時間に戻した時と自分の時間速度のギアを上げた時一気に反動が来るタイプの諸刃の剣的なもの。
イメージは''僕はね…正義の味方になりたかったんだ…''という電マ…ごほん、とあるキャラクターの体内時間を操る魔法がモデルになっています。
比企谷家は代々時間系統の魔法(無属性に分類)を継承していますが、八幡が使える時空間制御は中でもあまり上等のものではないです。
ちなみに、小町はヤバイ…チート。

いやー、八幡の師匠…一体どこの誰なんだ、、、。
え?八幡の使用魔法で何となく目星ついた??…ちょっと、この人達劣等生好きすぎでしょう??流石に名前は伏せるけど…そうだよ!!あのポンコツ娘だよ!!
アニメしか見てないし、誰のこと言ってるか分からないって方、ご安心下さい。八幡の師匠とか当分出ないどころか本当出るところまでこのss続くの?ってレベルで遠いところまで出すつもりないから…具体的にはアニメの最終回の時系列部分終わらないとまず出番がない。(状況にもよりますが)

え?司波兄妹のパッパとマッマ?ウニかハリネズミだろ?
いや、特に達也マッマとかいつもトゲトゲしててマジ超ウニ。もし生きてれば、その幻想をぶち壊すとかいって右手と精神魔法による説教で十師族と戦う予定(未完)
今作ではもう故人の為、八幡とのコンタクトは無いけれど、もし生きてれば深雪や達也の友達として可愛がっていたかもしれない…。
え?あー、達也マッマの妹さん?
あー、あの人も八幡嫌いじゃないよ?むしろ気に入ってる部類。
どれくらい好きかというと会って初対面で自分の本気の流●群当てるか真剣に悩むくらいの好感度。

さて、ここまで読んで下さった方に感謝を込めて、次回もまた読んで頂けますように。
いつもコメントを残して下さる方!!本当助かっております!!
むしろコメントがあるから書けるまである(マジ)
というわけで!!お暇な時にでも軽くでもコメントして頂ければ幸いです。
…ごちうさの方も書かないとなぁ(白目)
そちらの方も運営てつだうひとー(抑止力)の影響受けない程度で構いませんので、好きなシチュエーションやキャラのご意見も貰えれば参考にさせて頂きたいとおもっておりますので、お待ちしております。
…すまんな、この作者、型月脳で出来ているんだ…。

絶対!!嘘次回予告!!(まだ書き始めてすらいない)
比企谷くん…私、貴方を調教…じゃなくて更正させなきゃいけないと思うの!ーー
〜〜(中略)その他で特別生徒会役員は一般の業務の他に個人的要望が奉仕メールとしてこのアドレスに送られて来るので、その都度他の奉仕部メンバーと解決に向かって貰いますーー
中条先輩…これは…え、マジですか?これ、俺がやんの?ーー
ふむ、比企谷も真由美に気に入られたか…ご愁傷様、まあ、なんとなくこうなる気はしていたがなーー
ちょっと2人とも、おねーさんに対する対応が少しぞんざいじゃない?ーー
会長と俺は、入学式の日が初対面ですよね?ーー
つーか、はーくんって俺のこと?なんなのこの人?ーー

…書いてないんだから、嘘も誠も学校も試験も仕事も会社も無い!!
そう!妖怪ならね!!
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