魔銃使いは迷宮を駆ける 作:魔法少女()
月が綺麗な夜だった。
ただ、意味も無く、真ん丸で綺麗な月を見上げながら歩いていた。
目的もなく生きていた。
ただ、運が無かった訳では無いと思う。
俺が
そんな
崖と言っても、急な傾斜になっているだけで垂直と言う訳では無くて、何度も体を打ち付けて、どうにかして止まろうと手を広げてみたり何かを掴もうとして見たりしたが、意味なんてなかった。
崖の下に転がって空を見上げていた。
綺麗な月だった
真ん丸で、明るく光ってる。
そう言えば月は自ら輝くのではなく、太陽の光が反射して輝いている様に見えるんだったか?
そんなしょうもない事を思い浮かべながら、月に両手を伸ばした。
肘の辺りから捻じ曲がった右手、腕の途中で折れて骨が露出していた左手
どちらもまともな形を持っていなくて、何故か笑ってしまった。
何で、こんな月明かりが辺りを照らす真夜中にこんな山の中をうろついていたのか。
何故と言われても困る。なんとなくだったのだから。
人の気配は無くて、薄れゆく意識の中
怪我をした体が熱く生を実感させ、近づいてくる死の感覚をより明確に感じさせてくる。
血が地面に広がって、背中がべたべたして気持ち悪い。
体が冷えて行く、このままだと死んでしまう。
動こうとしても、壊れた体はさっぱり動かなかった。
寒い、怖い、冷たい、寂しい、誰か、誰か居ないのか。
真ん丸で綺麗な月だけがぼんやりと意識が薄れていく俺を見下ろしていたんだ。
自分の名前を言えますか?
俺は言えます。
えぇ、言えるんです。
俺の名前は『ミリア・ノースリス』だ。
……まぁ、待つんだ。
『ミリア』? なんて女の子らしい名前なんだ
それなのに一人称が『俺』?
なるほど、俺は俺っ娘だったのか、ってそんなわけはない。
俺、名字が漢字二文字、名前も漢字二文字の平凡な名前だった普通……の男だ。
とりあえず、ここはどこなのか、俺の愚息は何処に行ってしまったのか。
わかるのはここが薄暗い洞窟の中だと言うことぐらい。
後は『ミリア・ノースリス』と言う
『
バーチャルの中に表現された架空世界にて、様々な国が陣取り風に戦争を繰り返すゲーム。
様々な国の兵器が登場し、かなりガチ陣が蔓延っていたVRシューティングゲームだ。
出てくるのはむさ苦しい男ばかり。硝煙の臭い漂う、
だった。過去形である。
勢力は四つ。元は二つだったのだが……
第一に連合国、言わずとしれた第二次世界大戦の際の連合国の武装が使用可能な勢力。
第二に枢軸国、こちらも第二次世界大戦の際の枢軸国の武装が使用可能な勢力。
第三に大帝国、なんだそりゃと言う話だが武装は弩や大砲。簡単に言えば中世勢力である。ぶっちゃけネタ枠……と言われていた。バランス調整の関係で半端ないチート具合となっている勢力。ちなみにそのチートをもってしても最も勝てない勢力。どうしてこんな勢力を作ったのか理解に苦しむ。
第四に魔道国、魔法が使える勢力で、『ミリア・ノースリス』の所属していた勢力だ。
この四つが陣取りを行うゲーム……と言えばストラテジーゲームを思い浮かべるだろう。
だがしかしこのゲーム、なんとファーストパーソンシューティングゲームなのだ。
このゲーム、最初は連合VS枢軸と言うわかりやすい第二次世界大戦を題材としたFPSゲームだったのだが、大型アップデートで第三勢力の大帝国が出てから変わった。運営が何を考えているのかわからないが、銃弾やミサイルの飛び交う中に、剣と弓で挑むキチガイ勢力が加わり、世界観は混沌の坩堝と化した。
まぁ、それなら良いだろう。なんか大帝国がタイムスリップしてきた云々の設定だったから。
ただ、第四勢力が出てからおかしくなったと言うか、第三勢力の時点で頭がおかしくなったと言われていたのに、第四勢力の登場で更に混沌が増した。
魔道国が異世界からやってきた(設定)
魔法を使える
国の設定なんて覚えちゃ居ない。どうでもよかったし。ただ自分の使うキャラについては良く覚えている。
『ミリア・ノースリス』は優れた魔法使いを輩出している五家の一つ『ノースリス家』の末っ子として生まれ、その才能から齢十五歳と言う若さで魔道国の戦線に立つ事となった天才魔法少女である。
優しい性格の少女だが、『ノースリス家』と言う家名を背負う責務を負って戦争に参加し、『ノースリス家』の期待を背負っている為、普段は気の強そうな発言をしている。
淡い金髪に碧眼、ドレスと見紛う装飾の成されたローブ、背に背負うのはオーブを包む様に精巧な翼が作りこまれた背丈より長いロッド。
まるで蜃気楼の様な不安定さを持ちながらも、存在感のある羽衣の様なモノ。
無論だが美少女である。ただし身長は100㎝程度しかない幼女だ。
(被弾判定が小さいが故に)糞高い回避率を誇る超火力支援系回避型幼女である。
まあ、そんな事はどうでも良い。
いや、良くないが良いのだ。ローブの中の下着やらなんやらを確認とか、色々と終わった事はどうでも良い。
可愛らしいピンクのパンツでした。ぶら? んなもん必要無かったよ。あ、でもやっぱ女の子なんだなって、柔らかかったです(真顔)
元の設定がどうあれ、今は関係ないだろう。多分
なんか死んだんだけど、そしたら俺がやってたゲーム『ミリカン』の『ミリア・ノースリス』になっちゃったんだ。
……なるほど、これはアレか。二次創作によくある憑依転生と言うモノか。
たしか『ミリカン』のチュートリアルは各勢力毎に別々にしてあったはずだ。
連合・枢軸は軍の養成所での最終訓練を受けている設定で、大帝国が森林の中を味方陣営に向かって行軍中。
魔道国のチュートリアルは洞窟を進んで敵と戦うと言うモノだったはずだ。
洞窟の中と言う話だが、詰る所この洞窟は『ミリカン』のチュートリアルステージなのだろう。
ほぅ、画面越しにみたテクスチャーと違い自分の目で見た景色はまったく違うモノなんだな。
進む事で初期魔法にして他の枢軸国や連合国で選ぶ様なサブマシンガンやピストル的な武装(魔法)が使用可能になるのだろう。あ、アーマーもあったか。
あ? 大帝国? 初期装備が青銅の剣(超真っ直ぐ飛ぶ投擲武器)と弓(狙撃銃を超える射程+威力)とか言う頭のおかしい武器の話はしてないんで。ちょっと帝国兵はどっか行ってて、どうぞ
まぁ、ともかく。
魔道国における初期武装は『ピストル・マジック』であったはずだ。
初期装備とも言えるそれ。他には? ネェよんなもん。
戦場は『ピストル・マジック』一つ持って放りだされる。それが魔道国の常識だから(震え声)
つまり、今の俺は『ピストル・マジック』一つでチュートリアルを突破しないといけない。
……まあ、チュートリアルなんで余裕なんですがね。
確か敵対MOBの性能はNPCだから糞雑魚だし?
性能も一発でも当てりゃ倒れるぐらいだし?
そもそもこの見ている洞窟にしろなんにしろ、全てが魔術で見せられてる幻覚(っていう設定)だし?
最悪の場合は訓練教官が出てきて『失格だ、やりなおし』って言われるだけだし?
むしろ蔑む目で見降ろされながら『やりなおし』とか言われるのって最高じゃない?
超美女だよ? ご褒美じゃん(確信)
つまり最初の一回はわざと失敗してご褒美受け取っても良いわけなんだよ。
と言う訳で適当に直進しますかね。
と思っていた時期が俺にもあったんだけど。
『ミリカン』のチュートリアルでは一本道だったはずの洞窟が、なんかすっげー入り組んでるんだけど。
……と言うか本当に『ミリカン』の世界で良いのか?
曲がり角の先から「ぎゃぎゃぎゃ」みたいな声が聞こえたから、覗きこんだらなんかモンスターが居るんですが?
……と言うかあの緑色の目が赤い子供ぐらいの体躯のモンスター、ゴブリンっぽくね?
『ミリカン』の世界にゴブリンなんて居ネェよ。
訓練用の実銃(に見える張りぼて)を持った人形(魔術で動いてる)がうろついてるから『ピストル・マジック』で倒せって言われるだけの簡単なチュートリアルじゃないのか?
……しかもなんか人が倒れてるし。と言うか死んでね? だって頭割れてるしアレ……ぴくりとも動かないんだが? ほら、VRホラゲーでよくみる死体とかあんな感じだよ? と言うか服装がアレだな。ハーフプレートメイルとか言う鎧に剣か? 剣はゴブリンが拾い上げて振り回してるけど……え? なんか思ってたのと違う。
ホラー系VRでは血の臭いや腐臭なんかを再現する機能とかあったから平気……なんて事は無いな。VR用の香料で再現された安っぽい臭気とは別物だコレ。……吐きそう。
『ミリカン』は全年齢対応だったしなぁ…………一応、規制とかあったから、血が噴き出る表現は無かったし。基本的に血を連想させるモノはアウトで、血の代りに電子的なデータっぽい光が体からボロボロと零れ落ちる表現だったはずなんだよな。
憑依転生した所為でなんかリアルになったっぽい?
…………いや、待って。
良く考えたらさ、憑依転生して超喜んでたけどさ、普通に痛みとかある訳じゃん?
撃たれたら痛いよね? と言うか痛いで済む訳? 失禁しちゃうくね?
…………『マジックシールド』あるから大丈夫……じゃないですよね。『マジックシールド』毎消し飛ぶ魔法少女とか普通だもんな。そりゃ対物ライフルやら対戦車砲なんかぶち込まれりゃ不思議マジックも一撃だよな。そういうゲームだったし。空飛んだ魔法少女は狙撃対象。容赦ない狙撃が魔法少女を襲う。
……ヤバくね?
…………あれ? 大丈夫じゃね? あのゴブリン(仮称)って遠距離攻撃持って無さそうじゃね?
あ、勝ったな。第三部完。
よし、遠距離から『ピストル・マジック』で攻撃。絶対近づかせない。これで完封可能ですわ。
そうとわかれば、いざ行かん我がチュートリアルの敵よ
一足跳びに岩陰から飛び出し、握った拳から人差し指と親指だけを立てた『銃』の人差し指『銃口』を相手に向けて魔法発動の為のキーワードを叫ぶ。
「『ピストル・マジック』『ファイアッ』『ファイアッ』『ファイアッ』」
相手は三匹。故に三度の連射。
指先から放たれた
……あれ?
飛び出した自分に対して勝利の余韻を味わっていた三匹のゴブリンは一瞬だけ動きを止めた。
そんな敵が出て来た瞬間に動きを止めるNoob達に向かって容赦のない三連射が突き刺さるはずだった。
魔法発動と共に放たれる特有の音は無く、それ所か何も起きない。
初期の『ピストル・マジック』の装弾数は10発。三発で弾切れとかありえんから。
……あ、やっば……『マガジン・クラフト』してねぇっ!!
『マガジン・クラフト』簡単に言えば魔力を弾丸に製錬する事であり、製錬中は一歩も動けなくなる上、製錬中に攻撃を食らうともれなく爆死するとか言う危険な魔法。
基本は安全地帯に引きこもって『マガジン・スロット』数最大まで『マガジン・クラフト』をしてから敵と戦うのだが……
そう言えばチュートリアルの際には普通に説明されてたなぁ……おい、今チュートリアル中だよな?
……これ完全に敵に気付かれてますわ。この場で『マガジン・クラフト』なんてしてる余裕なんてないよな? ちょっと待って……くれないよねぇ……死体から離れてニヤニヤした顔でこっちに詰め寄ってくる。
何アイツらおちょくってんの? すっげぇムカつく顔してるぁ……
こっちには近接攻撃だってあるんだぞ。対人では滅多に使わない『ぶん殴り』とか言う技がなぁ……
初期の(見た目だけは豪華な)ロッドで殴り殺してやる。
そう、チュートリアルで大帝国の兵士っぽい死体があるが、多分余裕だろう(震え声)
……あれ? これってチュートリアル……っておい、さっきの人の死体、武装なんだっけ?
『鉄の剣』(今はゴブリンの一匹が持ってる)+『ハーフプレートメイル』(死体が身に着けたまま)。
……大帝国側の兵士の装備、しかもそこそこプレイヤーランクを上げた人の装備じゃないですか。
……あ、詰んだわ。
なんで弓装備してないのか知らないが、『鉄の剣』って言えばプレイヤーランク五以上の武装だ。
ソレ装備した奴が倒される=初期の無改造『ピストル・マジック』では相手にならない。
マジか
冒険者、ベル=クラネルは初ダンジョンで幼き日に祖父に助けられたあの日からずっと脅えていたゴブリンを初めて自力で討伐できたことにはしゃぎ過ぎて、神様の元へ向かって笑われてしまった事に恥ずかしさを感じながらダンジョンの一階層でモンスターを探していた。
「居ないなぁ……」
『
ギルドの専属アドバイザーには最初の一週間は一階層で無理をせずに慣らした方が良いとの事なので一階層でのみ活動している訳だが……モンスターに出会う事が少ない。
もう一度神様の元にゴブリンを倒したことを報告に行ってから一時間近くダンジョンに潜っているが、モンスターとは五度程しか出会えていない。
それに美少女との出会いも全くない。
「いや、ボクは冒険初日、初日から女の子との出会いなんて期待しちゃダメなんだよ……こういうのは気長にいかないと」
自分に言い聞かせるように呟いた瞬間、どこかから魔法の詠唱らしき女の子の声が聞こえてきた。
「『ピストル・マジック』『ファイアッ』『ファイアッ』『ファイアッ』」
魔法が発現しなかったので羨ましいとは思うが、羨んだ所で手に入る訳でも無し。
「魔法かぁ……いいなぁ……あ、この辺りに人が居るなら離れた方が良いかな? 間違えて攻撃されたら怖いし」
基本的に他の冒険者とは不干渉である事が推奨されているので、ベルはゆっくりとした足取りでその場を離れる。
走って離れたりすれば不要な不信感を相手に抱かせる事になるからだ。
「女の子だったけど、大丈夫なのかな? ……魔法が使えるみたいだから大丈夫だよね? ボクの助けなんて必要無さそうだしなあ」
亡き祖父の言葉に従い、女の子との出会いを求めてオラリオにやってきたベルだが、今のところ神様とアドバイザーの女性、後はモンスターぐらいとしか出会えていない。
そんな風に溜息を零しながらダンジョンを歩いて魔法詠唱の声が聞こえた通路から離れようとした所で、その声が聞こえた通路から小柄な影が飛び出してきた。
膝まで届きそうな金糸を思わせるさらさらとした長髪
豪奢な装飾の施されたドレスローブ
片手に背丈より長そうなオーブを包む翼の装飾のあるロッド
十人中十人が美少女と口をそろえる美貌を持った幼い少女である。
その少女は目に涙を湛えながら唐突に飛び出してきて、ロッドで後ろから飛び出してきたゴブリンを殴った。
「うわわっ、効いてないっ」
『ギャギャー』
「えいっ! やぁっ! とぉおおおおっ!!」
ビシッ、バシッ、ゴスッ
流れる様な動きで三回ゴブリンを殴るも、ゴブリンは少し怯んだだけで直ぐに少女に向き直った。
そして通路から新たに現れるゴブリンが二匹、一匹は鉄の剣を持っている。
明らかに幼いその少女は怯んだ様子を見せた。
「ちょーっと不味い。いやごめん嘘、ちょっと調子に乗り過ぎた。ちょっとじゃなくてかなりヤバイ」
焦った様に呟かれた少女の言葉に、ベルは思い描いていたシチュエーションそのままの光景に思わず息を飲み、それから幼い少女を救うべく足を向けた。
そう、ソレが少年と少女()の出会いだった。