魔銃使いは迷宮を駆ける 作:魔法少女()
酒に酔った客の賑やかな大笑の声に囲まれながら、ヴェルフやリリに『腹黒い』だの『あくどい』だのと心外な事を言われていた。割と傷付くんだが……。
心底、心外だとしか言いようがない。確かに
────それよりも、だ。リリの様子がおかしい。
ジョッキを両手で持ちながら口を閉ざし、何処か遠くの方に意識が向いてる。何か悩んでいるのは丸わかりなんだが……。
「リリ……大丈夫?」
ベルが心配そうに声をかけるも、「すいません。ぼーっとしてました」と作り笑顔を浮かべた。
やはり何か、おかしいぞ。
「リリ、ちょっと良い?」
「なんですかミリア様」
はきはきとした喋り方だが、何処となく無理をしている感じは否めない。
リリの悩みは、多分色々あるとは思うが確率の高そうな奴を突いてみるか。ついでにヘスティアファミリアに危険が及ぶ可能性が高いモノを、杞憂なら良いんだがな。
「久々のソーマファミリアの様子はどうだった?」
リリの耳元に囁く様に呟いて反応を確かめてみれば、案の定。リリは一瞬でさーっと血の気が引いた様に青褪め、表情を引き攣らせる。
「ど、どうして……」
「当てずっぽう。鎌をかけただけ……そっか、ソーマファミリアの方に顔出したのね」
あー、不味いな。何処に居るかまでは知られてないよな? ヘスティアファミリアに匿われてる所まで話してたら色々と面倒事になりかねない。
傍から見たヘスティアファミリアっていうのは
ましてや金にがめついどころか、意地汚いとすらいえるあのファミリアが『正当な理由』を手にしたらどうなるのかなんて考えたくもない。
「とりあえず、ヘスティアファミリアに匿われてる事は」
「言ってません」
「……そう、後をつけられたりはしてないのよね?」
金に意地汚い奴のする事だ、跡をつけて弱みを握ろうとするなんて普通にやりそうな事だし……。
肝心のリリの反応は、かなり困惑した様な表情をしていた。というか、不味いんじゃないか?
「リリ?」
「すいません、実は十八階層の件で生きてた事がバレてしまって……その、脱退したい事を伝えたのですが……」
十八階層での行動。誰もがビビって動かないときに、一人でベルの為に武装を最前線まで届けた事が噂となり、その際に変身が解けていたからかバレたっぽい? というか特徴が一致してたからもしかしてって考えて探したのか? リリの変身魔法ってかなり利便性高そうだしなぁ。
んで、脱退の件は断られるどころか、今まで世話になった分の脱退金10,000,000ヴァリスを払えたらなどという馬鹿げた条件を出されて呆然と帰った為、尾行されたかどうかはわからないとの事。
「まぁ、あんまり気にしても仕方ないわ。とりあえずこれからは気を付けた方が良いわね。貴女を出汁にしてこっちのファミリアに要求されたら……悔しい話だけど正当性は向こうにあるから、抵抗できないわ」
ファミリアの眷属を攫われた。だから襲撃し、仲間を取り戻そうとした。等と理由付けされて攻撃される可能性はゼロじゃない。むしろ金に意地汚い奴ってのは本当に面倒臭い。変に頭も回るらしいし、其処ら辺の警戒は解けないなぁ。
「……ごめんなさい、リリが勝手な事を」
「責めてる訳じゃないわ。ただ、警戒は怠らない様にした方が良いってだけの話」
リリから離れて背もたれにぐぃっと凭れ掛かる。なんともまぁ、嫌な予感が漂う話じゃないか。はやめに一言相談して欲しかったんだが……。そういう訳にもいかないか。
俺はギルドで缶詰になってたしなぁ。
「ミリア、リリは……」
「んー? また胸が大きくなってブラのサイズが上がった所為で全部買い替え。出費が激しくてどうするかーって悩んでるみたいよ」
「え?」
「ちょっ、ミリア様っ!」
この情報は、確定情報じゃないし此処で教えて良いとは思えん。今は祝賀会の最中だ、この件は後で共有しよう。とりあえずリリの胸の話題にでもしとけば、ベル達は無暗に触れないだろうし。
「おう……」
「そっか、その、ごめんね」
「……ミリア様」
リリに強く睨まれるが、まぁ話題を変える為にだね。
「それより、ベル様もミリア様も先日の事件で随分と株が上がった事だと思います。少なくともあの
「う、うん」
「ベルは確かに上がったけど、私はどうかしらね」
「どう? なにかあったのですか?」
話題逸らしにベルが困惑してるが、まぁそれよりもあの事件でベルの株は上がったが、俺の株ってかなり微妙な事になってるんだよな。
俺が視線を逸らすと、ベルとリリは不思議そうに首を傾げた。ヴェルフだけは嘆息して納得の表情を浮かべる。
というかリリは情報集めきってないのか。まあ、噂話の方はヴェルフの方が詳しいか。
「聞いたぞ、なんでも
もう察しが良い人は気が付くだろう。そう、あの時の砲撃魔法を放った人物は
「え? 狐人?」
「……もしかして、耳の所為?」
「ですかね。あの砲撃を放ったのは
「回復魔法は?」
「俺がやった、って言ってる冒険者が数名居るらしいですねぇ」
直接俺が魔法を使っているのを目撃したのは後方に居た者達のみ。んで、そいつらも全員が注目していた訳ではない上、なんかその回復魔法を使ったのは自分だ、感謝して金寄こせみたいな詐欺し始めた奴も居るらしい?
せこい事するなぁ。
「って事はミリア様の活躍は……」
「キューイとヴァン突っ込ませて真っ先に討滅されて、それ以降は役立たずのお荷物。【
ヴェルフの言葉にリリとベルが顔を引き攣らせている。
仕方ないっちゃ仕方ないが、目立ち方が中途半端で、なおかつベルと違って後方支援に徹する形だったので全員が全員顔を見た訳ではない。その結果がコレだ、情報は錯綜し、誰がやったのか確定できる情報が埋もれている。
俺としては助かっているのだがね。激しい勧誘を受けずに済んでるし。
「ま、有名になっても面倒事が舞い込むばっかりで疲れるだけですし。むしろ無名が羨ましいですね」
経験談だ。むしろ無名の方が好き勝手動きやすいしそっちの方が良いなぁ。
「────何だ何だ、どこぞの『付属品』が一丁前に有名になったなんて聞こえてくるぞ!」
これ見よがしな大声で騒ぎ立てる声がすぐ近くから響き渡った。
俺たちのテーブルのすぐ真隣、六人掛けのテーブルに座る冒険者達の内の一人である小人族らしき男の声。
「
幼い小人族の男の声がわざとらしく店内に響き渡り、全員がその小人に注目する。ついでに傍に座っていた俺達にも視線が降り注ぎ、注目が集まった。
えっと、付属品? 大言壮語? あのさぁ、付属品はまだ良いけど、大言壮語は言い過ぎだろ。というか俺が言った訳じゃないし、彼のガネーシャファミリアが保証してくれてる事を『大法螺吹き』呼ばわりは不味いだろ。
つか何処のファミリアじゃボケ……あぁ? 肩の徽章はー……弓に球体? 太陽か? ってアポロンファミリアかこいつら。うわ、要注意ファミリアの一つじゃねぇか。
確か街中で平然とトラブル起こしてはギルドから注意勧告受けてる所だぞ。確か凄い粘着質でしつこい勧誘をする所で、住民からも苦情が届くほどだったはず。今までギルドから受けた勧告数だけで言えばトップクラスに届きうるとまで言われる傍迷惑なファミリア。うへぇ……
あんまりな出来事に思わず苦い表情を浮かべていると、その小人族の男は酒をぐぃっとあおり、此方を見て嘲笑った。
「竜に頭下げて
冷やかしか、侮蔑か。どれでもないな、喧嘩売ってきてる。そして、これを買うと面倒事を招きかねない。つまり無視が一番である。
好きなだけ貶すと良い。ただ口に気を付けるべきではあると思うがね。特に『法螺吹き』って部分、ガネーシャファミリアが保証してるんだから、俺を法螺吹き呼ばわりするって事はつまりガネーシャファミリアは嘘を吐いてるって貶してるのと同義になりかねないんだぞ。下手を打てばオラリオ最大規模を持つガネーシャファミリアを敵に回しかねない発言だ。というかマジ気を付けろよ。
「ベル、気にしなくて良いわ。というか何言われても無視しなさい。面倒事は御免よ」
「うん……」
俺への挑発をやめない小人族。大きな目が特徴だな、的当てにちょうど良さそうな目してるなぁ。
周囲の期待が白けるのを感じ取ってしまった。喧嘩が勃発するのを期待していたのだろう、これだから冒険者は
「にしても、『寄生虫』の小人に加えて其のファミリアの団長の『兎』ったらないぜ。逃げ足ばっか凄いだけの嘘とインチキばっかのやりたい放題野郎なんかが居るんだぜ!」
標的が変わった。俺から、ベルに……完全に此方のファミリアを標的にしてきてるな。狙いは、竜素材か? それとも、
「オイラ知ってるぜ! 法螺吹き『寄生虫』にインチキ『兎』は
無視してる影響か、標的がコロコロ変わるな。というか狙うなら最も煽り耐性の低いベルを狙い続けりゃ良いだろ。俺だったらベルを狙うし、リリは慣れてるだろうし、ヴェルフは耐性持ち。俺はそもそもんな事気にしちゃいない。寄生虫でもなんでも好きに言え。
ベルに対する嘲笑はイラつくが、とりあえず我慢できる範疇だし我慢、我慢。
ベルの方は仲間を侮辱されて一瞬腰を浮かしかけ、ヴェルフに止められていた。っと、危ねぇ、此処でベルが飛び出したら不味い、止めとかないと。
「よせ、構うな。好きなだけ言わせとけ」
「ベル様、無視してください」
「何言われても立ち上がっちゃダメよ、喧嘩を買う必要なんて無いわ」
ヴェルフは余裕そうに酒を飲み。リリは若干の呆れすら含む表情を浮かべてる。
ベルの怒気が薄れ、大きく深呼吸を繰り返している。
と、大きく響き渡る小人族の男の舌打ち。無視の姿勢が気に食わないらしい彼の行動。そして口を開こうとした所で、俺はゆっくりと彼の方に体ごと顔を向け、微笑む。
「威厳も尊厳もない女神が率いるファミリアなんてたかが────」
「失礼、
「────なっ!?」
「これ以上、主神への侮辱を行う様なら……覚悟はしてくださいね?」
目を見て、確信した。アイツ
レベル2の俺からしたら、赤子の手を捻る感覚でぶちのめせる雑魚。そうか、上級冒険者からみた駆け出しってこんな風に見えるのか。今まで意識しなかったからわからなかったな。
威圧しただけで、小人族は震えて身を縮こまらせる。情けない、なんて笑う事は出来ない。
たとえ、たとえ相手が自身より小さな小娘如きであろうが、レベル1からすればレベル2は化け物だ。俺はそれを知ってるし、彼が身を震わせたことを笑う積りはない。
「────はっ、竜が居なきゃなんもできないガキがなんか吠えてるぜ?」
「おいおい、ルアン。笑ってやるなよ」
「あれで精一杯の強がりなんだろ」
おい、その竜が居なきゃなんもできないガキに睨まれて言葉詰まらせた奴が吠えるなよ。
呆れてものも言えないってのはこの事なんだろうなぁ。というか嘲笑してくる相手増えたし、面倒臭ぇなぁ。
相手の構成は、レベル1が小人入れて二人、レベル2が三人、最後の奴は────おい、団長自ら出張ってくるのかよ。レベル3の冒険者が悠然と椅子に腰かけ、ワインを優雅に楽しんでやがる。
「竜に尻尾振る事しか出来ねぇくせに、一丁前に吠えるじゃねえか!」
吠えてんのはおまえなんだよなぁ。というか良く喧嘩売ってくる気になったな、情報が錯綜してるとはいえヘスティアファミリアって今、結構な大御所との取引をしてるファミリアだぞ。
ガネーシャ、ヘファイストス、ディアンケヒトって言えば『オラリオ最大規模のファミリア』『オラリオ最上級の鍛冶ファミリア』『オラリオ最上級の医療ファミリア』だぞ、友好取引相手を攻撃されりゃ出張ってきてもおかしくないってのに。
虎の威を借る狐はあんま印象良くないが、今のヘスティアファミリアってそんな感じだってのによ。
「何か言ってみろよ! どうせ竜が居ねぇから何も言えねえしできねえんだろ!」
キューイとヴァンはガネーシャ様の所だからなぁ。竜が居なきゃ糞雑魚パルゥムかって……舐めてると痛い目見るだろうに。それにこいつは勘違いしてるんじゃねぇか? たとえ、たとえ俺がレベル2の中で最弱だったとしても、だ……レベル1如きに負ける事なんてない。
それこそ、ベル並みの例外でもない限り、レベル1がレベル2に勝利を得るのは不可能に近いのだ。だというのに挑発をやめない……つまり、アレか、どうしても喧嘩に持ち込みたいのか。
「チッ、どうせ『怪物趣味』の変態女なんd────ぶびっ!?」
唐突に潰れた悲鳴を響かせる
あ? あー、ああああああ!
「ヴェルフッ!? 何してんのあんたっ!!」
「悪い、足が滑った」
うゎああああああああああああああああああああっ!? 喧嘩買わない様に注意してたのにヴェルフが買いにいきやがったぁあああああああああああああ!? しかも全力で買い占めにいっちまったぁ!!
馬鹿野郎! お前が喧嘩買うのも不味いんだよっ! 友好ファミリアだからって、今はヘスティアファミリアの団長であるベルが率いるパーティの構成員になってんだろうがっ! 派閥が違うから喧嘩売っても大丈夫なんて事にはならんだろぉがぁあああああああああ!!
「てめぇ!?」
「やりやがったな!!」
小人族の仲間が一斉に立ち上がる。いや、最大のボスが座ったままだ。酒の入ったグラスを優雅に掻き回し、香りを楽しみながら、口元を笑みの形にしている。
慌ててリリの腕を掴んでテーブルから引っぺがせば、次の瞬間には相手の冒険者共の蹴りによってテーブルが派手に吹き飛んだ。食器の割れる音、給仕の悲鳴。周囲の冒険者が示し合わせた様にテーブルを蹴倒し、即席の
ヴェルフが不敵な笑みを浮かべ、迎え撃ち。ベルも同じく拳を握り締めて迎え撃とうとしている。
おい待て、此処でベルまで応戦したら言い訳もできなくなるだろっ!? ベルは止めるべき立場ぁ!?
「これだから冒険者は!」
周囲の冒険者の歓声が響き渡り、酒を片手に殴り合いを観戦する野蛮っぷりを発揮しているのを見たリリが批難の声を上げた。
狭苦しい酒場で突如として発生した乱闘騒ぎ。これが他人事であれば俺も観戦する一人になっていたかもしれんが、巻き込まれた側としては笑えない。
周囲から巻き起こる歓声にジョッキをぶつけ合う音、声援とも怒声ともとれぬ叫び。
「あぁもう、怪我させるのは不味いでしょ……『癒しの光よ』」
鼻血をだらだらと流したまま放置されている小人を隅っこに引っ張って安全を確保して治療しつつも中央を見れば、相手方四人を圧倒するベルとヴェルフの姿があった。
伊達に前衛中衛で連携をとっている訳じゃない。二人の息の合った連撃に一人が吹き飛び、一人がテーブルに叩きつけられ、一人が鼻からド派手に血を噴き出す。ってやりすぎぃ!
ベルの足払いをもろに受けた獣人が「ギャンッ!?」という情けない声を上げているのを聞きつつも、残りの一人に注目。アイツだけは不味い、さっきから余裕ぶってニヤニヤしながら酒を口にしているアイツ。アレが出てきた時点でアウトだ、というか現在進行形でアウトォ!
とりあえず最後の一人の牽制の為にソイツの前に立つ。
「どうも、初めまして……で良いわよね。ミリア・ノースリスよ」
声をかけてみるが、反応は芳しくない。
「ふん……よくもやってくれたな。【ドラゴンテイマー】」
あ、ダメな奴だ。完全に話を聞く気がねぇぞこいつ。恨みを買った積りなんかネェのに、面倒臭ぇ事になったなこれ。
「最初に侮辱をしたのはそちらでしょう」
グラスを傾け、此方に笑みを浮かべてきたその男。
整った茶髪に女性と見紛うきめ細やかな色白の肌。金属のイヤリングをはじめとしたさまざまな
嘲笑の色合いを移すその瞳を見据えつつ、肩を竦めるも、ダメか。
「手を出したのはお前たちだ」
身を引き、構えるより前に胸倉を掴まれた。と思った次の瞬間には視界がぶれ────天井にぶち当たった。
投げ飛ばされた。そう感じた時には既に天井の梁にぶち当たり、肺の中の空気が全部飛び出し、意識が明滅する。
倒れていたテーブルの一つに落っこち、盛大な音を響かせた所でベルの声が響き、ヴェルフの咆哮が聞こえる。
なんとか引っかかっていたテーブルから落ち、身を起こして────目を開けたら目の前の靴の裏。
「のろまだな【ドラゴンテイマー】。まるで虫けらの様だぞ」
件の人物────レベル3、第二級冒険者【
皆さん毎度の事、評価・感想の方ありがとうございます。
本作に推薦を書いてくださった方が居ました。
この作品の推薦の方書いて頂きありがとうございました。
気付いたのは昨日の事です。なんと言いますか、通知が一切無かったため、気付きませんでした。(推薦の通知ってないんですね。初めての推薦だったので吃驚です)
それとは少し話が変わりますが、
内容な『戦争遊戯中にミリアに使用してほしいクラスについて』です。
結果は以下の通り。
『クーシー・アサルト』 52 / 7%
『クーシー・スナイパー』 111 / 16%
『クーシー・ファクトリー』 23 / 3%
『ドリアード・サンクチュアリ』 26 / 4%
『フェアリー・ドラゴニュート(追加習得)』 488 / 70%
総回答件数700件
圧倒的にドラゴニュートが支持を集めた様でして、期待が集まっている事かと思います。
しかし、今回の戦争遊戯中においてドラゴニュートを使うのは非常に話が作り辛く、作者の技量では描き切れないと感じております。
これから少しずつ書いていく中で、良案が浮かんで実装可能になる可能性はゼロではありませんが、現段階においては難しいとしか言えません。
戦争遊戯開始直前、ヘスティア様の最後のステイタス更新の場面までは全力で考えてみますが、かなぁり難しいです……期待しないで待っててください。