魔銃使いは迷宮を駆ける   作:魔法少女()

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第一〇四話

 ヘスティア様と神ロキの()()()()()やり取りをなんとか仲裁し、彼らと別れた。

 ベルが名残惜しげにアイズさんを見つめ、アイズさんの方も何か言いたげな表情でフィンと共にロキに連れ添っていってしまった。その光景を見ていたら『ロミオとジュリエット』という悲劇が浮かんだが……悲恋話となるかはベル次第だろう。アイズさんは気付いてないのか自覚がないのかどちらかはわからないが、ベルを()()()()()()っぽいしな。

 少し、寂しい気持ちはあるが。

 

 その後はヘスティア様と共に挨拶回り。ヘスティア様が天界に居た頃に知り合いだった神々とそれとなく言葉を交わしたのだが、なんというか……。やはりヘスティア様の知り合いは誰もかれもが同じ雰囲気を持っており、類は友を呼ぶというか、誰もかれもが優し気な雰囲気を身に纏っていたのが印象的だった。

 そんな挨拶回りをしつつ、美酒に美食……かなり癪だが神アポロンの言う通り、酒も食事も美味と言わざるを得ないそれらをそこそこ堪能していれば、気が付けば既に開始から二時間ほどが経過していた。

 

「ふぅ……」

「ベル、水をどうぞ」

「ありがと」

 

 若干頬に朱がさし、酒に酔っているのか場に酔っているのか、ベルが疲れた様な溜息を零しつつ壁にもたれかかりながらパーティ会場を見ていた。水を渡しつつも横に並んで会場を見回せば、未だに鬱陶しい視線が俺を見ている事に気付く。本当に鬱陶しいな全く。

 流麗な音楽が流れだし、男性たち────神も眷属も分け隔てなく────美神たる神フレイヤをダンスに誘おうと周囲に群がっている様子が見て取れた。大変そうだなぁ……あ、こっち見て微笑んでる。小さく手を振れば、フレイヤ様も小さく手を振り返してくれた。やったぜ!

 視界の端で性懲りもなく口喧嘩をおっぱじめて神々に囃し立てられてるヘスティア様と神ロキから視線を逸らしつつ、ベルを見上げればぼんやりとした表情でシャンデリアを見上げていた。

 

「疲れました?」

「……うん。こんな世界に足を踏み入れたのは初めてで……僕もいつか()()()のかな」

 

 ふむ。絢爛豪奢な世界に慣れ、かぁ。

 

「どうでしょうかね」

「ミリアは慣れてるんじゃないの?」

「慣れ、というよりは()()に近いかもしれません」

 

 慣れない雰囲気なのは、今も変わらない。諦めて染まるしかなかったから、慣れてる風に見えるんだと思う。

 

「私は、こういう場所、すっごく嫌いなんですよ」

「それは……」

「皆、笑顔ですよね」

 

 会話する者達は皆、笑顔を浮かべている。だが────その何割が()()なのだろうか?

 言える。九割以上が偽物だと、嬉しくもないのに浮かべられる薄っぺらな笑顔。右を見ても、左を見ても、誰もが同じ笑顔で会話をしている歪な空間。誰もおかしいとは思わないのだろうか? 少なくとも、俺はそんな異質でありながら、それが当たり前な場所であるこの場所は好きになれない。

 

「気持ち悪いって、感じません?」

 

 少なくとも、俺はこういう場所は『楽しい』とは感じられない。

 

 

 

 

 

 次々と運び込まれてくる豪勢な料理に、給仕が手渡す鮮やかな色合いの葡萄酒。どこからともなく流れる流麗な音楽が流れ出し、中央では舞踏が始まっている。

 懲りずにヘスティア様とロキ様が口喧嘩をしていた。

 ミリアと共に壁に凭れて眺める景色。しっとりと濡れた様な黒色のドレスを着こなしたミリアが微笑みを浮かべて会場を見つめていて、それなのにどこか虚ろな雰囲気を感じる。

 彼女の言葉は、どこか空虚だ。中身が無く、空っぽで、それでいてドロリと濁った何かが這い出てきそうな。そんな不気味な台詞を零したミリアが、頭を振って虚ろな雰囲気を打ち消して微笑む。

 

「すいません、やっぱこういう所に来ると思い出しちゃうんですよね。私はヘスティア様と神ロキを止めてきます。ベルは夜風に当たってくると良いですよ」

「……うん」

 

 今度はちゃんとした微笑みを浮かべ、ミリアは溜息を零しながらヘスティア様とロキ様を仲裁すべく足を運んでいった。その背を見送り、彼女が二人をなんとか止めようとフィンさんと共に四苦八苦している光景から逃げ出す様に壁から背を離した。

 この絢爛豪奢な世界に夢を見ていた。もっと美しく煌びやかに輝く世界なのだと思っていた。感じる視線が粘っこく絡みついて離れない。此方を遠くからちらりと見ては囁く様に言葉を交わす商人風の人たち。ミリアを見て微笑む人がいて、それなのにどこかズレた感じ。

 ミリアの言う通り表面上は美しいのに、一皮剥いたら悍ましい何かが出てきそうな、そんなモノを感じ取るには十分な程、粘っこい視線が離れない。

 この会場に足を運ぶ前、ミリアが体調を崩していた。昨日の夜から隠し切れない不安を抱いて、夜には魘されて飛び起きる程に────ミリアが魘されだしたのは数日前からだ────ヘスティア様も気付いていて、僕も昨日の晩に気付かされた。

 ミリアは何も言わずに居て、それを隠そうとしている。聞き出したい気持ちはあった。けれど魘される原因の一つが自身にあると理解した今は、それを切り出す勇気は無かった。

 ミリアが魘されだしたのは、アポロンファミリアと酒場でいざこざを起こした日からで、彼女にとってそれがとてつもない心労となっているのは間違いない。ヘスティア様もそう口にしていた。

 少し歩いて開け放たれた窓辺から、外に出る。

 バルコニーに足を踏み入れた瞬間、澄んだ空気に包まれた。

 頭上には雲一つない星空。蒼い闇が周囲を覆い、ここからは見えないメインストリートの方角はうっすらと輝きが見て取れた。

 軽く深呼吸をして気分を入れ替えようとするも、何処か隅っこにこびりつく泥の様なモノが残っている様な気がして落ち着かない。

 

「……はぁ」

 

 泥の様に思い溜息が溜息が口から零れ落ちる。

 もう少し外の空気に当たっていようと、豪華な造りの手摺りに歩み寄った時だった。

 蒼い闇に沈む噴水の設けられた庭。いくつかの魔石灯の明りの下に見覚えのある姿を見つけた。

 会場施設であるこの場所は広い敷地を有し、眼下のような背の高い庭木に囲まれた青い芝の庭がある。

 宴の会場から離れた魔石灯の下、『焔蜂亭』でミリアを蹴り飛ばし、ヴェルフと二人で挑んであっけなく返り討ちに遭った青年。ヒュアキントスと、あとは見たことがないヒューマンの男性が一人。

 

『──早ければ明朝──仕掛ける時期は──まずは竜を仕留め──いいな、ザニス?』

『言われなくとも──報酬は──』

 

 背筋を駆け抜ける悪寒。言葉にならない予感に突き動かされて、反射的な行動だった。

 集中し恩恵によって強化された聴覚を研ぎ澄ませる。

 二人がいるのは噴水のそばの街灯型の魔石灯の下、バルコニーから距離があって声はよく聞こえないが、唇の動きからなんとか会話の一部を予測していく。

 『ザニス』という名前。どこかで聞いた名前だと思案しながらも、より詳細な情報を求めて手摺に手をついて身を乗り出す。

 しかしそこで、こちらの視線に気が付いたらしいヒュアキントスさんが振り仰いだ。彼の碧眼と視線がぶつかり、一瞬、息が止まる。

 

「ベル君?」

「……!」

 

 唐突に背後にかけられた声に振り向く。

 窓辺に立っていたヘルメス様が、広間の光景を背にいぶかしげな表情を浮かべている。慌てて庭園に視線を戻せば、ヒュアキントスさん達は忽然と姿を消していた。

 

「こんなところで何をしているんだい?」

「あ、いえ……別に」

 

 いぶかしげな表情のまま歩み寄ってくるヘルメス様に、言葉を濁す。

 盗み聞きをしていた手前、後ろめたさがあった。彼らの会話が非常に気になるし、悪い事が起きる前触れの様な予感を感じつつも、なんでもありませんと誤魔化してしまう。

 

「逢引でも盗み見ていたのかい?」

「い、いえっ」

 

 いぶかしげな表情から一変、ニヤニヤとした軽薄な笑みを浮かべたヘルメス様が僕にグラスを差し出しながら庭園を見下ろした。

 

「うぅん? ()()()()を見ていたのかなって思ったんだけどなぁ」

「そ、そんな事しませんよ」

 

 言葉に詰まりつつも何とか返事を返した。やっていた事自体はそう大した違いがない事を自覚しつつも誤魔化すと、ヘルメス様がこれ見よがしに庭園を見下ろすのをやめ、こちらに向き直った。

 つい受け取ってしまったグラスを片手にヘルメス様を見上げると、ヘルメス様は一笑した。

 

「ゆっくり話す機会がなかったからね。可愛い女の子じゃなくて悪いけど、いいかい?」

 

 おどけた物言いに笑みが零れ、「勿論です」と快諾した。

 先ほどの光景と『ザニス』という名前。それだけは忘れないように頭の片隅に刻み込みつつ、ヘルメス様とバルコニーで向かい合った。

 

「君とミリアちゃん、ヘスティアファミリアの快進撃は留まることを知らないね。前から気になっていたんだけど十八階層での戦いっぷりを見て、オレもすっかり君の応援者(ファン)になってしまったよ」

「そ、そんなっ……」

 

 最初こそうろたえたけれど、陽気な笑みを浮かべたヘルメス様の雰囲気に肩の力が抜ける。賞賛したり、からかったり、冗談を言ったり。今まで会った人の中では、ミリアのように話術(はなし)が上手い。

 会場から聞こえてくる心地よい旋律を耳にしながら、ヘルメス様と当り障りのない話題を交わしていく。

 

「ベル君は、どうして冒険者になったんだい?」

 

 一瞬口ごもり、『ダンジョンに運命の出会いを求めて~』とか、『英雄になる夢が捨てきれなくて~』とか、今更ながらアレな理由を語るのに羞恥を感じた。

 それ以前にミリアと似ている部分のあるヘルメス様を見ていたら過去、ミリアとダンジョンの中で出会った際に恥ずかしげもなく冒険者になった理由を彼女に話していた事を思い出してしまい、思わず頭を抱えてしまう。

 

「ベル君、大丈夫かい? 酒を飲みすぎかな、でも良い経験だろう?」

「いえ、ちょっと恥ずかしい過去を思い出しまして」

「へぇ……」

 

 ニヤニヤと揶揄う様な笑みを浮かべたヘルメス様の様子に思わず身を引いた。神の前に極上の餌を与えてしまった事を自覚して身震いしていると、ヘルメス様の揶揄う様な笑みが柔らかな笑みへと変化した。

 

「恥ずかしい過去っていうのには興味があるけど、オレが気になってるのは別の事でね」

「は、はぁ……」

 

 羞恥的な過去への詮索を逃れた事による安堵半分、何を聞かれるのか恐怖半分の返事を返す。

 ヘルメス様は安心させるような笑みを浮かべた。

 

「ベル君はオラリオに来るまでは、ずっと生まれ故郷に?」

「はい、山奥の田舎で……だから、知らない事が沢山あって」

 

 当り障りのない質問。こちらの緊張を解こうとしているらしい事に気づきつつも、ミリアとは語り口が異なる事に気付き、思わずミリアの姿を探してしまう。

 煌びやかな会場、ミリアは会場に見劣りせず、かといって目立たない衣装を身に纏っていた。それに加えて小柄で人混みに紛れてしまえば、そう簡単に見つけられない。

 

「それじゃあ、ゼウスっていう神は知っているかい?」

「ゼウス様……? えっと、知らないです。有名な方なんですか?」

 

 元最強のファミリア。現在オラリオを二分している最強といえばロキファミリアとフレイヤファミリアの二つだが、それは十五年前からの話であってそれ以前はゼウスファミリアとへラファミリアの二大派閥が君臨していた。

 その二大派閥との形勢がひっくり返り、今の状勢となったのが十五年前だとヘルメス様は語った。

 勢力争いに負けた結果。といえばそうらしいが、直接的な原因となったのはとある冒険者依頼(クエスト)の失敗によるもの。

 そしてその冒険者依頼(クエスト)というのが、下界全土(せかい)から求められている三大冒険者依頼(クエスト)なのだという。

 僕たち地上の人間が『古代』と呼ぶほどの昔の時代、ダンジョンから地上に進出した三体の怪物────それの討伐依頼。

 『古代』の時代、つまり今から千年以上も前にダンジョンから進出したモンスターが生き残り、地上に君臨しているという事実に、僕は息をのんだ。

 祖先(オリジナル)怪物(モンスター)から派生した子孫、というわけではない。その祖先(オリジナル)怪物(モンスター)そのものが約千年の時を超えてなお、地上にいる。

 

 そして、ここ迷宮都市オラリオは世界の状勢の中でも飛びぬけている。ダンジョンというモンスターの坩堝が冒険者たちを鍛え上げ、ランクアップの機会を絶えずもたらしているからだ。

 世界各地で強者と称えられている人達のステイタスもせいぜいがレベル2、レベル3であるらしい。

 地上に住み着いた祖先(オリジナル)から劣化した怪物(モンスター)や、人間同士の争いから得られる経験値(エクセリア)は迷宮のものに比べ、質が劣る。その結果だとヘルメス様がつぶやいた。

 迷宮都市が『世界の中心』とも呼ばれる、最大の理由がその絶大な力によるものだ。

 

 そしてゼウスファミリア、ヘラファミリアの最盛期。まさに世界最強の派閥として君臨したかのファミリアは、満を持して三大冒険者依頼(クエスト)に挑んだ。陸の王者(ベヒーモス)海の覇王(リヴァイアサン)を次々に撃破して────残る一体に完敗した。

 『黒竜』、僕の知るその怪物は『隻眼の竜』と言った。

 子供のころに読み耽った英雄譚の中で、僕はその絶望の象徴と出会った。

 遡る『古代』、このオラリオの地で偉業を成した英雄達の物語。幼き日の愛読書(バイブル)であった『迷宮神聖譚(ダンジョン・オラトリア)』────その最終章を飾る。暴虐の怪物。

 最強の英雄が己の命と引き換えに片目を潰し、この地から退けた、竜の王。

 生ける災厄。生ける伝承。生ける終末。

 数多の英雄譚、そして御伽噺に語られる伝説の存在。それがただの空想の産物ではなく、実際に世界に居るのだと伝えられ……僕は果てしない衝撃を受けた。

 

 そして、その伝説の怪物、『隻眼の竜』『黒竜』『生ける災厄』『生ける伝承』『生ける終末』それに挑んだ世界最強派閥のゼウス、ヘラ、二つのファミリアは────全滅した。

 主力を失い、派閥の力が大きく衰退した彼らを、当時彼らと仲が悪かったロキ様とフレイヤ様が結託し、都市から追い出した。

 

 世間知らずの僕に、世界最強を絡めて下界の現状を説明してくれたヘルメス様の言葉に立ち尽くす。

 ちょっと前まで辺境の田舎に閉じこもっていたとはいえ、無知であったことを痛感させられる。一見、平和そうに見える世界が、そんな災厄(ばくだん)を抱えていたなんて。

 『黒竜』はどこにいるのか、今は何をしているのか。知りたいことが次々に浮かんでくる──けれど、それを聞く事は僕にはできなかった。一介の冒険者に過ぎない僕には詳しく知る必要も、知っていい理由もないのかもしれない。

 少なくとも彼の竜の最も近くにいるのは──二つの都市最大派閥に所属する、あの憧憬の剣士達なのだろう。

 

「さて、話も長くなって悪いね。でも一つだけ、聞きたいことがあってね」

 

 緊張を解く。それに僕に下界の状勢を教えてくれたヘルメス様が知りたい事。それが何なのかと彼を見た。

 

「ミリアちゃんについて、どこまで知ってるのかなって?」

 

 ミリアについて、どこまで知っているのか。

 かつて幸せに暮らしていた事、それを壊した誰かがいて、悪事を働かされていた事。大雑把なあらましは知っている。けれど、彼女の過去に触れるには、いささか勇気が足りなかった。

 

「えぇと、その、あらましぐらいは……」

「詳細は、知らないと?」

「はい」

 

 ヘルメス様が顎に手を当てて、会場の方に視線を向けたまま呟く様に語る。

 

「ミリアちゃんは、今……追い詰められてるみたいだね」

 

 言葉を失った。確かに、ミリアは今、何かに追い立てられるかのように、焦り、怯え、震えている。

 僕はそれが何かを知りたいと思った。けれど、ヘスティア様は探らない様にと言った。自らが話していいと思える様になるまで、探るべきじゃない。追い詰められているミリアを、更に追い詰めてしまう結果になりかねないから。

 

「はい、何かに怯えてるみたいで」

「ミリアちゃんはさ、聞けば答えてくれる子だよ」

 

 ヘルメス様の言葉の通り、ミリアは聞けば答えてくれる。誤魔化しはするだろう、けれどさらに一歩踏み込めば、彼女は全てをさらけ出してくれる。包み隠したりせずに、背負ったモノも、負った傷も、それが自身の心を抉る様な事であっても、踏み込めば答えてくれる。

 だからこそ、ヘスティア様は『聞かないであげてくれ』と言ったのだ。いつか、ミリアの心の傷が癒えて、自ら語れる様になるまでは、そっとしておくのだと。

 

「聞く気はない、と?」

「はい、ミリアが自分で言える様になるまで待つって、神様と二人で決めたんです」

「その傷が、今まさに抉られるかもしれないこの場所でもかい?」

 

 胸に杭を打ち込まれたような衝撃を受け、息が詰まった。急ぎ、ミリアの姿を探す。

 今度は、簡単に見つけられた。数多の人に囲まれ、空虚な微笑みを浮かべながら何かしらの返事をしているのが見て取れる。どこか虚ろで、作り物染みた微笑み。

 一瞬だけ、視線が合った。一瞬驚き、そして微笑んだ。視線で『来るな』と訴えかけてくる。それでも僕は一歩を踏み出し、ヘルメス様に肩を掴まれて止められた。

 

「やめた方がいい」

「でも、ミリアが……」

「ベル君、君は言っちゃ悪いが世間知らずだ。下手な事をすると商人に反感を抱かれかねない。君は、腹芸(そういうの)は苦手だろう?」

 

 もし僕が行ったとして、彼女を取り囲む者たちの相手ができるかといえば、そうではない。

 彼らは商業系ファミリアの者達で、ミリアが連れている竜種、キューイとヴァンの素材を求めて交渉を行おうと群がっているらしい。本来ならガネーシャファミリアがそれを阻止するはずが、今回のパーティに参加していない事から、直接彼女に声をかけられる機会は今しかない。

 世間知らずで無知な僕が彼らを止められるとは思えない。百戦錬磨の商人達に囲まれて、彼女は空虚な笑みを浮かべている。それでいて、華麗に彼らの商談を回避していく。僕が割り込んだところで、出来るのは彼女をあの場から引っ張り出す事のみ。それをすれば反感を買いかねない、だからこそ、反感を買われぬ様に丁重な態度でミリアは彼らに対応しているのだ。

 無知な僕には到底出来っこない芸当だ。何もできない口惜しさに俯き、拳を握り締めた。

 

「……僕は」

「ベル君、適材適所って言葉は知っているかい? ほら、あの通り」

 

 ヘルメス様の言葉を聞いて顔を上げれば、ミリアの手を優しく引いて商人の群れから連れ出していく人物の姿があった。

 

「【勇者(ブレイバー)】……」

 

 フィンさんに手を引かれたミリアが彼らから離れていく。第一級冒険者としての名声と、最大派閥という強みを生かし、ミリアをあの場から連れ出した彼の人物。

 ミリアと同じ金髪碧眼。絵になるほどに、お似合いだと感じた。

 

「いやぁ、二人とも見た目は幼いけど──お似合いだねぇ」

 

 ヘルメス様も同じ感想を抱いたのかうんうんと頷きながら陽気に笑い、ふと此方を見てニヤりと笑った。

 

「ミリアちゃんはダンスするみたいだけど、ベル君はダンスはしないのかい?」

 

 暗く沈んだ僕を元気づける為にか、今まで以上に陽気に誘ってくるヘルメス様になんとか笑い返しながら、会場に視線を向けると、ミリアがフィンさんと共に此方に歩いてくる姿が見えた。

 ヘルメス様の言う通り、白い燕尾服姿のフィンさんと、黒いドレス姿のミリアの二人はとても絵になる。第一級冒険者と、第三級冒険者。アイズさんと僕、それと同じで天地の差があるはずのフィンさんとミリア。そうでありながら、絵になる二人を見て思わず視線をそらした。

 きっと、僕とアイズさんが並んだら二人と違って失笑されるのだろうな。




 最近、執筆画面で書いていると入力がバグってしまい、まともに執筆できなくなってしまいました。昨日から再起動や色々な調整を行ったものの治らず、結局諦めてその状態で執筆した結果、午前11時に書き始めて終わったのがこの時間。昼食を挟んだとはいえ酷く時間がかかってしまった……。

 キレそう(激怒)

 前回とかほぼ1時間半とかで書きあがったのに今回時間かけすぎだなぁ。


-追記-
 普通になおった。
 ふざけんなふぁっく! 8時間返せ! 三話は書ける時間やぞ!

家族√か恋愛√かその他か(※実際に書くのは家族√のみで、アンケートのみの実施となります)

  • 家族√(正規)
  • 恋愛√inベル・クラネル
  • 恋愛√inヘスティア
  • 恋愛√inフィン・ディムナ
  • 恋愛√inその他

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