魔銃使いは迷宮を駆ける   作:魔法少女()

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第一〇七話

 『神の宴』から一晩明けた。

 今日の目覚めも最悪。テレビのニュースで何度も、何度も、何度も繰り返し『とある死亡事故』についてが報道され続けるというループ系の悪夢であった。目覚めた瞬間にトイレに駆け込んで事なきを得たが……。

 『シラノ ユーノ』とその母親が交通事故を引き起こして死んだという報道。無論、あの糞女が書いた筋書きである。

 酷い夢もあったもんだ。あの人は、俺が────いや、そもそも『ユーノ』なんて架空の人物だった訳だが────死んだと思い込んだ訳だ。

 

 酷い話だ。

 

 

 

 

 廃教会の隠し部屋でステイタスの更新を行っているベルをちらりと見る。相変わらず神聖文字(ヒエロクリフ)は読めないので意味はないのだがね。

 ポーチに回復薬(ポーション)高位回復薬(ハイ・ポーション)を入れる。一応、念の為に万能薬(エリクサー)も持っていくか。

 


 ミリア・ノースリス

 Lv.2

 力:G249 → G249

 耐久:F344 → F359

 器用:A820 → A822

 敏捷:B783 → B783

 魔力:S963 → S966

 

《魔導F》

 

《魔法》

【ガン・マジック】

・詠唱派生魔法

 

・基礎詠唱『ピストル・マジック』

・消費弾薬 1/1

・単発の魔弾を放つ

・特殊詠唱『デュアル』

 

・基礎詠唱『ショットガン・マジック』

・消費弾薬 15/3

・単発の散弾を放つ

・特殊詠唱『ソードオフ』

 

・基礎詠唱『ライフル・マジック』

・消費弾薬 1/10

・高威力の魔弾を放つ

・長射程

・特殊詠唱『スナイプ』

 

・追加詠唱『ファイア』

・共通詠唱『リロード』

 

【サモン・シールワイバーン】

・召喚魔法

・最大召喚数『3』

・追加詠唱にて封印解除

 

・基礎詠唱『呼び声に答えよ』

・追加詠唱『解き放て(楔を壊せ)

・追加詠唱『飛翔せよ(階位を超えて)

 

【レッサー・ヒール】

・最下級治癒魔法

・基礎詠唱『癒しの光よ』

 

《スキル》

【タイプ:ニンフ】

・クラスチェンジ可能

・任意発動アクティブトリガー

→クーシー:アサルト

→クーシー:スナイパー

→クーシー:ファクトリー

→ドリアード:サンクチュアリ

 

 

【マガジン・スロット】

・装弾数『50→60』

・保有最大数『20→24』

・基礎アビリティ『魔力』により効果増加

 

【マジック・シールド】

・防御効果

・基礎アビリティ『魔力』により効果増大

・自動発動

・精神力消費


 

 ベルの更新を待つ間、手にしたステイタスの羊皮紙を見ながら嘆息。

 微妙に、ステイタスが上がっている。十八階層から帰還してから一度ステイタスは更新したが、それからダンジョンに潜るといった事は一切していない。強いて言うならキューイやヴァン、クリスの関係でガネーシャファミリアとギルドを駆けずり回ったぐらいか。

 ヒュアキントスに顔面蹴り抜かれたあの一撃か、それとも投げ飛ばされたからかはわからないが、あの喧嘩の一幕、戦闘とすら呼べないあの出来事で経験値(エクセリア)を得たという訳だ。なんともまぁ、レベル3の恐ろしさがわかるというものだ。

 容易く俺が潰され、ベルとヴェルフの二人がかりで挑んでも返り討ちだったのだ。レベル3は伊達じゃない。

 

「全く、アポロンめっ。よくもぬけぬけと戦争遊戯(ウォーゲーム)なんかっ……」

 

 ベルの更新を終えたのかバイトに行く準備を始めたヘスティア様。俺も廃教会の一階にいるキューイ達に飯を持っていかないとだな。昨日の晩飯も適当に食べさせたぐらいなせいでお腹空かせて不機嫌になってそうだ。

 

「ミリア君、何かあったら────」

「わかってます。出来る限り人が多い場所────叶うならガネーシャファミリアの見回りの方に合流します」

 

 街中で襲撃なんて真似をすれば町の住民に被害が出かねない。そうなればガネーシャファミリアが大義名分──町の住民を守る為──をえてアポロンファミリアを抑える事が出来るのだ。

 近くに置いてあった野菜の詰まった籠を持ち、階段に足をかけた。

 

「ミリア、僕も直ぐ行くから」

 

 急いで鎧を着こんでいるベルの様子に微笑みかけ、階段を上った。ベルの鎧の一部が破損し欠けてるし、装靴(グリーブ)は完全に破壊されたせいで革靴(ブーツ)に逆戻り。早いところ装備も整えないとなぁ。

 俺も剣を二本に杖そのものまで失って、今手にしているのはギルド支給の『新米用ナイフ』一本だし。まぁ、ヴェルフが予備を持ってきてくれるそうなのでそれ頼みかなぁ。

 今日はとりあえずダンジョン探索には行く。昨日の今日で仕掛けてくるとは思えないしなぁ。

 隠し扉を開けると、キューイが此方に顔を向けた。ヴァンの方は窓の外が気になるのかチラチラと窓の方を見ており、何か言いたげな雰囲気を感じとる。

 

「……? 二人ともどうしました?」

「キュイ……」

《主よ、外に人が集まっている。闘争の気配がするぞ》

 

 は? 外に人が沢山? いや、ここは大通りを外れた場所だぞ、そんなに人が──いる? おかしい。

 野菜入った籠をキューイの前に置き、そっと割れた窓に近づいて廃教会の正面を見た。

 

 居た。一人や二人じゃない、しかも魔法詠唱をしているのか所々で魔法円(マジックサークル)を展開している魔術師がいる。意識を集中させれば、攻撃魔法特有のチクチクとした詠唱中に感じられる出力の余波が感じ取れる。

 ────昨日の今日で襲撃!?

 ガタン、と隠し扉が開かれ、ベルが出てきて首を傾げながら問いかけてきた。

 

「ミリア、なんで魔法を使って……あれ? ミリアじゃない?」

 

 微かに感じ取れる魔力の余波を感じ取って俺が魔法を使っていたと誤認したベル。静かに口に人差し指を当てて静かにする様に指示を出し、もう一度外を見て数を確認。

 人数はおおよそ60人。そして、全員が『火精霊の護布(サラマンダーウール)』を身に纏い、数人の手には装飾剣────下級の魔剣が握られている。全員が完全武装しており、中央にはエルフ……アポロンファミリアの中隊長クラスのエルフ、名前は確かリッソスだったか。

 見るまでもないが、エンブレムは────やはり太陽に弓矢、アポロンファミリアのエンブレム。

 いや、アポロンファミリアの制服を身に着けていないのも何人かいる。布が被せられた何かの周囲で動き回る大きな馬上槍を持った奴らだ。身の丈程もある巨大な馬上槍を担いで運んでおり、全く意味がわからない。

 馬もいないのにあんな馬上槍を何に使うのか……いや、今はそんな事はどうでもいいか。

 

「どうしたのミリア?」

「ベル、静かに。外に敵がいます。ヘスティア様は?」

「え?」

 

 驚愕の表情を浮かべ、一瞬で青ざめるベル。ヘスティア様が隠し扉から出てきて首を傾げているのを見つつ、出来る限り静かに移動しようとすると、キューイがガツガツと野菜を音を立てて食べ始めた。

 

「キュイ」

 

 少しは誤魔化す。そんな風に呟いたキューイがあえて盛大に音を立てて食事をする中、外で耳を澄ます者達を意識しつつもヘスティア様に近づいて三人で顔を突き合わせる。

 

「まずいです。外にアポロンファミリア、それと所属不明が何人かいるみたいです」

 

 少なくとも数は100人近い。内6割がアポロンの人員だ。残りの40人近くがどこのファミリアかはわからんが、なんか企んでるのか、出てきたところに魔法を撃ち込むつもりらしい。

 

「なっ……昨日の今日だぞっ!?」

「ミリア、どうしよう……」

「……このまま出ていくと攻撃されます。ですが、どうしようもありません」

 

 今現状取れる手段は三つ。

 まず一つ目、馬鹿正直に正面から出ていって対話を求める事。当然、問答無用で攻撃されるだろう、そうすれば俺やベルは平気でもヘスティア様は死にかねない。

 二つ目は裏からこっそりと出て行く事。ただし、裏口にも張り込まれているのでこっそりというのがそもそも不可能。だが人数は裏口の方が圧倒的に少ないので強行突破する他ない。

 三つ目は、ヴァンを囮として突っ込ませて攪乱しつつ、キューイに乗って脱出。これは速度勝負だ、封印解除から階位上昇をいかに素早くやれるかにかかってる。

 

「とりあえず、一番確実なのは囮です。ヴァンを……その、捨て駒にして、時間を稼ぎつつ脱出」

「脱出した後は……」

「とりあえずギルドまで行くか、ガネーシャファミリアに保護を求めるかです」

 

 ただ、ガネーシャファミリアは現在ギルドに締め上げられてまともに動けないはずだ。そしてギルドもいまいち信用できない。逃げ場がどこにもないが、このまま捕まる訳にもいかないのだ。

 

「ベル、決断を早く」

 

 キューイが空っぽになった桶をガンガンと打ち鳴らしてキュイキュイと大きく鳴き喚き始めた。内容は『もっと食わせろ』である。あえて騒いで外に食事中だと思わせる積りか、それも限界がある。

 

「キューイ、今日の朝ごはんはそれだけだから我慢してちょうだい」

「キュイッ!」

「そんなに怒らないでってば……ベル、早く」

 

 小声でベルを急かす。どちらにせよ取れる選択等一つだ。

 

「ここで全員倒れればお終いよ。ヴァンはまた召喚できるわ」

「わかった。囮作戦にしよう」

「すまないね、ヴァン君」

《暴れれば良いのか?》

 

 ヴァンに謝罪するヘスティア様だが、ヴァンの方は当然と言わんばかりに身を起こして外の方に視線を向けた。

 

《俺様の眠りを妨げたのだ。万死に値する》

 

 良い意気込みだ。相手の持つ魔剣はせいぜいが下級だろう。魔法使いは上級冒険者も居そうだが、超長文詠唱クラスの魔法でもなけりゃ一撃で竜種は倒せない。漏れ出る余波から感じ取れるのはせいぜいが中文詠唱クラスだ、問題はない。

 

「ベルはヘスティア様を抱えて、ヴァンは入口で壁になって頂戴。どのみち吹き飛ばされるわ……」

 

 ヴァンを入口側に立たせ、手を翳す。ヴァンの封印を解除し、階位上昇させてから突撃させ、キューイの封印解除、天井の穴から脱出といった手順を確認し、キューイの傍に立つ。

 

「『解き放て(楔を壊せ)』」

 

 詠唱は短く。体から魔力が抜け落ち吸い取られる不快感を感じた瞬間、外から魔法の放たれる感覚。廃墟同然の壁など即座に粉砕され、土埃が舞い上がる中、一気に4M近い巨体となったヴァンが魔法や放たれた爆薬付きの矢を受け止める。

 

「うわぁっ」「ヘスティア様っ」

《あるじっ、早くしろっ》

「『飛翔せよ(階位を超えて)』ッ!」

 

 光が弾ける。土埃を弾き飛ばした巨体。体長はおおよそ8Mを超え、灰色だった全身の竜鱗は赤黒く変色し、口の端から零れ出る黒煙をそのままに咆哮を上げた。

 

『ゴォオオオオオオオオオオッッ!!」

 

 大地が振動し、アポロンファミリア側が騒がしくなる。

 

「なんだあれはっ!?」「なぁっ!? 下層種だとっ!」

「射て射てっ!」「魔法を詠唱しろっ!」

 

 巨大化し、下層種の竜、名称は不明だが下層に住まう竜種に変貌を遂げたヴァンが吠え、その首を巡らして崩れた廃教会の瓦礫を踏み潰して一歩前に出る。

 無数の魔法光が弾け、その全てが強靭な竜鱗の前に消え失せる。鏃の方がへしゃげ、矢は全て弾かれているのが目に入った。これなら十二分に時間稼ぎができる。

 

《主よ、早く行け》

「キューイッ! 『解き放て(枷を壊せ)』ッ!」

 

 キューイの枷を外す。一気に体長3Mを超える体躯となったキューイの背中に飛び乗り、ヘスティア様、ベルと共に背中にしがみ付いて合図を出そうとした。瞬間────腹の底に響く重低音が響いた。

 ドスンッドスンッと重機を使って整地作業をしているかのような爆音に近い重低音。

 

 赤黒い竜の胴体に無数の馬上槍が突き刺さっていた。

 

「は……?」

「キュイッ!?」

 

 なんだありゃ。馬上槍だ、凄まじい爆音と共に、飛んで────あぁ、ヴァンの顔面に突き刺さり、完全に動きを止めさせた。強靭な竜鱗も、頭蓋すらも穿ち抜き、ヴァンを即死させた。

 

「あれはいったい……」

「ヴァンが、一瞬で……」

 

 キューイの背中に乗ったまま三人で呆然とする。そんな中、キューイがぽつりとつぶやいた。

 

「キュイ……キュイキュイ」

 

 十八階層で見た機械みたいだ。と、あれ、大型弩(バリスタ)の矢だ。

 布が被せられていた巨大な何か。縦に三つ重ねられた超巨大な大型弩(バリスタ)である。十八階層で見た木製の物ではない、総金属製の大型弩(バリスタ)

 だが、十八階層の木製に金属で補強しただけのモノとは威力が比べ物にならない。あの大型弩(バリスタ)はせいぜいが中層の怪物を撃退するのに使える程度の代物だ。それに対し目の前のあの総金属製の大型弩(バリスタ)は下層種、レベル3~4クラスに近い能力となったヴァンを一瞬で仕留めてみせた。

 威力がおかしいっ!

 その大型弩(バリスタ)に巨大過ぎる馬上槍と見紛う矢を装填している者達。その周囲で拳を振り上げて叫ぶ者たちがいた。

 

「竜を一匹仕留めたぞぉっ!!」「もう一匹も直ぐに仕留めるっ! 空を飛んだら撃ち落とせっ!」

「これなら鉄屑(ポンコツ)呼ばわりしたロキファミリアを見返してやれるぞっ!」

 

 ロキファミリアが鉄屑(ポンコツ)呼ばわりした? いや、今はそんな事よりも────空飛んだら下層種の竜すら屠る矢が飛んでくる。空には逃げれないっ!

 

「キューイッ、低空飛行して逃げてっ! ベルっ、ヘスティア様っ、掴まってくださいっ」

 

 空高く逃げれば勝ち。その前提条件が音を立てて崩れ落ちた。

 キューイが即応で翼をはばたかせ、低空飛行で消えゆくヴァンの躯の上を駆け抜ける。視界が一瞬でぶれて体が振り落とされそうになるのを耐えてしがみ付く。

 無数の魔法が弾け、下級魔剣らしき魔法も合わさり、背後に無数の魔法がビュンビュンと音を立てて通り過ぎていく。次の瞬間、振動と共にキューイが悲鳴を零す。

 

「ミリアっ、尻尾がっ!?」

 

 掠った。一気に真下の景色が移ろう中、キューイの尻尾に馬上槍染みた矢がかすめ、尻尾を捥ぎ取った。長かったキューイの尻尾がギリギリで掠めたのだろう。かすめただけであの威力っ。

 あんなもん翼に当たったらアウトだぞっ!?

 

 

 

 

 

 ヘスティアファミリア本拠から一気に離れ、射程外に逃れて高度を上げたところで、振り返る。ベルもヘスティア様もなんとかしがみ付いている様子だが、キューイの羽搏く音を聞きながら、土埃に沈む本拠を見てベルが表情を歪めた。

 

「本拠が……」

「ミリア君、とりあえずガネーシャの所に……もしくはギルドに……」

 

 空からオラリオの街を見下ろすという、普段では絶対にできない事をしているのに。今、胸の中に湧き上がるのは感動ではなく焦燥。このままキューイに飛んでもらうのは不可能だ。ふらふらと頼りなくふらつくキューイを見ればそれは丸分かりだ。とはいえギルドかガネーシャファミリアの本拠までは一気に飛んでいける距────キューイが急に身を捩り、指示するまでもなく加速しはじめた。

 

「ちょっとキューイっ!? どこに向かってっ!!」

「キュイキュイッ!」

 

 はぁ!? 降りてっ!? 馬鹿かてめぇはっ、この状況で地上に降りたらどうな────糞っ。

 急上昇、急降下、激しく暴れ狂う飛行を繰り返すキューイ。振り落とされぬ様にしがみ付いていたが、限界を迎え、急降下したキューイから振り解かれて三人そろって民家の屋根に叩き落とされた。

 ベルがヘスティア様を抱えて守り。俺はなんとか受け身を取るもかなりの速度で叩き付けられて息が詰まる。

 

「ヘスティア様、無事ですかっ」

「僕はなんとか……ベル君とミリア君は?」

「僕は無事です。ミリアは……ミリア?」

「意味、わかんないんですけど……」

 

 あの糞ポンコツワイバーン、このタイミングで裏切りとかかんべん────爆音が頭上で弾けた。

 限定的に降り注ぐ雨。真っ赤な、雨と肉片。鱗の欠片に、内臓の一部が空から大地に降り注ぐ。

 ハラハラと木の葉の様に落ちてくる()()()()()()。バラッバラの残骸になった飛竜の欠片が飛び散っていた。

 

「うそ、キューイがやられた……」

「一体なにが、どんな攻撃でっ!?」

 

 もしかして、キューイは攻撃から俺たちを庇った? 思わず身を震わせ、立ち上がる。

 四の五の言ってられる状況じゃない。絶対中立を謳う管理機関、ギルドの本部に避難するしかねぇ。よりによってガネーシャファミリアの本拠の方が絶望的に遠すぎるっ。

 

「ベル、あそこに見えるギルド本部に行きましょう」

「わかった」

 

 応急処置にしかならなそうな逃げる算段を付けたところで、背後から声をかけられた。

 

「諦めた方が良いよ」

「っ!」

 

 振り返った先。俺たちが叩き付けられた民家の屋根に立っていたのは数名の団員を率いたダフネだ。ロングスカートの戦闘衣(バトルクロス)を身に纏ったカサンドラの姿まである。

 焦げ臭い風に吹かれてショートヘアーをなびかせるダフネは、その吊り目を哀れむように向けてきた。

 

「アポロン様は気に入った眷属を地の果てまで追いかける。手に入れるまでね」

「……!」

「ほら、見てみなよ。周囲がどうなろがアポロン様は知ったこっちゃないのさ」

 

 ダフネが示した街並み。先ほどは見る余裕がなかった凄惨な光景に息を呑んだ。

 街中に無数の馬上槍が突き刺さっている。一本や二本じゃない、二十か、三十か……あの金属製の下層種の竜すら殺す大型弩(バリスタ)の矢が突き立っている。

 

「これは……」

「あなた達が空に逃げたから、ばかすかと射った結果よ」

 

 ダフネの言葉に、納得し、同時に怒りが湧き出た。

 

「あなた達がやったことを、さも私たちが原因みたいに言わないでください」

 

 哀れみの視線が此方を射抜く。その目に宿るのは、同情。

 

「これ以上被害を出したくないのはこっちも一緒。今回の一件でギルドからの罰則(ペナルティ)が大変な事になるわ。だから────投降しない? これ以上抵抗すると、本当に滅茶苦茶になっちゃうわ」

 

 頭の奥の方がカッと熱くなる。滅茶苦茶なのはテメェらじゃねぇかっ。

 街中がどうなろうが、ベルと俺を手に入れられるならそれでいいだとっ!? というか他ファミリアが黙ってないだろっ。なんで動かねぇんだよっ。

 

「他のファミリアに期待しない方が良いよ。買収済みらしいわ。それで? 投降してくれるの? くれないの?」

 

 腰の鞘に収まった剣の柄をぽんぽんと叩くダフネに、ベルが答えた。

 

「できません」

 

 苦渋の表情で勧告を拒否したベルとヘスティア様と共にじりじりと後ろに下がれば、ダフネは溜息をついた。

 

「そうなるよね、じゃあ────かかれ!」

 

 ダフネは抜剣と共に切っ先を此方に向ける。号令と共に小隊員達が一斉に跳躍したのを見て、詠唱しながら背を向けたベルに続く。

 

「『ピストル・マジック』『リロード』」

「なっ、平行詠唱っ!?」「かまわん、短文詠唱だ、威力は大したことないっ」

 

 一部の小隊員が驚きの声を上げるのを聞きつつも銃口を後ろに向け────ダフネが投擲してきた短剣(ダガー)を撃ち落とす。

 

「『ファイア』『ファイア』っ」

 

 パキンッパキンッと金属音を響かせて弾かれる短剣(ダガー)。ベルの背後にぴたりと張り付き、団員の肩や足を狙って撃って、撃って、撃ちまくる。

 

「……魔法の威力は大したことない、けれど上手いね。それに速い。リッソスの隊を呼んで回り込ませてっ!」

 

 ダフネの指示が背中に響いてくるのを聞きつつ、ギルド方面に向かって駆け出した。

 

 

 

 

 

 

「逃げ足速いなぁ……無駄なんだから諦めれば良いのに。それにその方が被害が少ない」

 

 高い屋根の上、足を止めたダフネは駆け抜けながら魔法を駆使して包囲を突破しようと四苦八苦するミリアと、主神を抱えて守るベルの二人へ呟いた。彼女が浮かべる表情は同情的でありながら、達観している。

 ミリア・ノースリスが世間の噂より遥かに優れている事を認めながらも、ダフネは小さく吐息を零して肩を抑えた。

 

「あの距離で当ててきた……威力は低かったけど、厄介だね」

「あの、ダフネちゃん、やっぱり止めた方が……いいと思う」

 

 そんな彼女の背後から、場に一人残っていたカサンドラがおずおずと声をかける。

 ダフネと似た境遇で、かつ付き合いの長い少女は腰まで届く長髪を両手で弄り、その垂れ目を伏せがちにしていた。

 

「何が?」

「あの子達を、刺激する真似……『兎』を傷つけちゃいけない。せっかく『微睡む竜』を起こす事になるから」

 

 弱腰に警告してくる彼女にダフネは、溜息を零した。

 

「また夢?」

 

 呆れながら問い返されると、カサンドラはこくこくと必死に頷いた。

 

「あのね、鏡を持ってると『竜』の()()()()()()()けど、誤魔化しても意味がないから」

 

 浪々と語られる似た長い付き合いのある彼女の妄言────本人は『予知夢』と言って憚らない────それを聞き流そうとして、ダフネはカサンドラの顔を見た。

 

「ねぇ、その『()()()()』って何? 『兎』はなんとなくわかるけどさ」

 

 ダフネが思い浮かべたのは白い髪に赤い瞳の少年。確かに『兎』といえばそうだと頷ける。が、『微睡む竜』とは何なのだと問いかけなおせば、カサンドラはおろおろと視線をさまよわせる。

 

「それは、その……わかんない」

 

 しょんぼりとした雰囲気を纏った彼女の弱気な言葉に、ダフネは肺の空気を全て垂れ流す様に深々と溜息を零した。

 

「馬鹿な事を言ってないで追いかけるわよ」

「どうして信じてくれないのぉ~~っ」

 

 箱入り娘の言動にありがちな、一笑してしまうような『呪力(まりょく)』をもつ彼女の言葉に取り合う気のないダフネは面倒くさそうに、半べそのカサンドラに視線を向ける。

 

「じゃあどんな夢を見たのよ」

「ぅんと……『微睡む竜』が目覚めて、『兎』は跳躍する。高く高く、月に届くぐらいまで。沢山の仲間が止めようとするんだけど、『目覚めた竜』に睨まれて皆倒れちゃうの。鏡を持ってる人だけが竜の目を眩ませられて無事なんだけど、それでも止められなくて。最後には『兎』が太陽を飲み込んじゃう夢……」

 

 ダフネは鼻で笑う事すらしなかった。

 

「そうよね。夢はそれぐらい荒唐無稽じゃないとね」

「ダフネちゃぁ~~んっ」

「しつこい。行くわよ」

 

 まだ何か言い募ろうとするカサンドラを引き連れ、ダフネはヘスティアファミリアを追走した。




 読者のアポロンファミリアへの殺意の高さがヤバい……こわひ。


 下層種の竜の耐久を打ち抜くチート並み威力を持つの金属製大型弩(バリスタ)
 なおロキファミリアの評価は『屑鉄(ポンコツ)』。
 イメージは『ダークソウル3』の隠しマップ(?)『燻りの湖』にある、あの巨大な三連バリスタ。そのものじゃないけどあんなのイメージしてくれると良いぞ。
 超技術でプレイヤーを自動で狙ってくるなんてチートじゃないけど、威力だけは折り紙付きの代物。
 それでも二大派閥の一つからの評価が『屑鉄(ポンコツ)』の時点で割とお察しな代物。





 TSロリは良いぞぉ。増えろ増えろぉ。
 もっと、もっとだ、一つや二つじゃない!
 数えきれないぐらい沢山増えろ!

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