魔銃使いは迷宮を駆ける   作:魔法少女()

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第一〇八話

 俺が前を、ヘスティア様を抱えたベルが後ろを走る。

 包囲を壊しても直ぐに再包囲されなおしてというのを繰り返し続けている結果、思ったようにギルド本部に近づく事が出来ていない。

 それに加え、逃げ遅れている市民が立ちつくしていたりして移動が面倒過ぎる。跳躍し壁を蹴って一気に頭上高くを通り抜ける序に背後から射られた矢を撃ち落とす。

 

「ちょっと! 市民が居るでしょっ! 『ファイア』『ファイア』ッ!!」

 

 頭を抱えて蹲って怯える市民もお構いなし。飛んでくる矢の内、市民とベルに当たりそうなモノを全て撃ち落としつつも着地。屋根の上を走る弓使い(アーチャー)が執拗に矢を射ってきやがる。しかも市民が居ようがお構いなし過ぎる、庇うのも限度ってのがあるのに────むしろあえて市民を狙って俺の反撃を潰そうとしてるのか。

 

「ごめんなさいっ」

 

 ベルが謝罪しつつも市民の頭の上を飛び越えてきたのを見つつ、再度発砲。残りマガジンにはかなり余裕がある、1マガジンで『ピストル・マジック』でいえば60発分、威力を控えめにしてるので消費半分で120発。それを二丁持ち(デュアル)で使って、合計240発だ。残りマガジン数もまだ18もある。

 むしろすでに120×4を消費してる時点で相手の本気度がうかがえる。また、矢が飛来してきたので撃ち落とし────射手の持つ弓を撃ち抜いて破壊した。

 

『糞、弓を壊された』『何なんだあの精度は、威力が高かったらヤバかったぞ』

『かまわんっ、このまま追い込めっ』

 

 しつこ過ぎる。足を撃ち抜いたりして何人かは離脱させたりしたが、すぐに復帰してくる所を見るに治療師(ヒーラー)が待機して即座に復帰させてるらしいので、武器を破壊させて貰っているのだが、それでもすぐに新しい武装を持ち出してくる。本当にキリがないっ!

 

「ま、また来たっ……!?」

 

 ヘスティア様の言葉を聞き、前を向けば一本道の先に回り込んできたらしい二人の冒険者。それぞれが剣を構えている。即座に指先(銃口)を向け、ベルに声をかける。

 

「そのまま前進するわ!」

「わかった!」

 

 返事を聞き終えぬ内に発砲。相手の手首を狙って剣を取り落とさせる。序に浮足立った瞬間に足も撃ち、転倒させてから倒れた相手の頭部を踏み付けつつ通り抜ける。ベルも同じ様にもう一人を踏み付けて微妙な顔をしているのを見て声を張り上げた。

 

「ベルっ、今は容赦しちゃダメよっ。一人でも多く負傷者を出して相手の治療師(ヒーラー)を疲弊させないと先にこっちがバテるわっ」

「……うん」

「すまない、二人とも……足を引っ張ってしまって……!」

 

 ヘスティア様の謝罪に胸が痛くなる。彼らの包囲を突破しても直ぐに再包囲されてしまうのは、確かにヘスティア様を抱えているせいとも言える。

 俺もベルも、上級冒険者としての最低限の耐久があり、全力疾走すれば包囲を撒けるだけの地力はあるのだ。しかし、ヘスティア様はあくまでも地上の者と同じ身体能力、耐久しかなく、下手に全力疾走中に不意打ちを受けて投げ出されれば、打ち所悪く死ぬ可能性が否定できない。

 本来なら地上の者が『神殺し』をするのは禁忌、絶対の規則(ルール)である。神に手を下せるのは神のみだ────例外として、事故死が挙げられる訳だが。

 彼らはヘスティア様が死のうが関係無い。むしろこれだけ大量の矢を放っているのも『誰が射った矢が当たったのか不明』なんて言って禁忌を犯した犯人を不明にする為だろう。

 神々は致命傷を与えられると、封印している『神の力(アルカナム)』が発動し肉体が生命維持される。そこから神の定めた地上における『神の力(アルカナム)』使用を禁ずるという規則(ルール)に抵触し、天界へ強制送還されてしまう。

 極論、事故死でなくともアポロンファミリアにヘスティア様が確保されれば、神アポロンの手で処刑されてしまえば、俺とベルは無所属(フリー)となり──しかも恩恵の力も失った無力の状態で──他派閥へ強制的に改宗させられてしまう事になる。可能性としては、ヘスティア様を人質──神質か──にでもして、下界在留と引き換えに入団を強いられる可能性が高い。

 ともかく、どれだけ足枷となっていたとしても、ヘスティア様をどこかに置いていく訳にはいかないのだ。

 

「『ファイアボルト』ッ」

 

 炎雷が閃き、屋根の上から此方を狙っていた弓使い(アーチャー)を吹き飛ばす。爆炎に吹き飛ぶ仲間に動揺した他の冒険者の手に持つ武器を片っ端から打ち抜き、ベルが一瞬で接近して仕留める。

 相手のレベル2の冒険者の能力と比べ、俺とベルの方が若干上回っているらしく対処自体は簡単だ。特に『敏捷』に関してはベルが確実に高く、俺はベル以上に『器用』と『魔力』は高いので余裕だが……ただし、力と耐久が致命的に低いので近接戦を挑まれると間違いなく俺は落ちる。

 それにしても、数が多い……包囲網が薄くなっている場所を探せば、すぐに見つかった。まて、なんか不自然過ぎるだろ……姦計か? あえて包囲の薄い部分を作って誘導しようとしてきてる。それに包囲が薄い方角は、大通りに面する様に作られた大広場だ。あの大型弩(バリスタ)に囲まれたら命がいくつあっても足りん。

 糞、包囲の分厚いところを強行突破しかねぇぞ。

 

「ベ、ベル君、ミリア君、二人の『魔法』を撃ちまくれば、ひょっとしてなんとかなるんじゃないかっ? ミリア君の魔法はさっきから敵を倒しまくってるし、ベル君の魔法なんて一撃じゃないか」

「いえ、その、『魔法』はあまり使いたくなくて……」

「私の『魔法』ならまだしも、ベルの魔法はここいら一帯を火の海にしようと思えばできますよ。ただ、それをしてしまったらアポロンファミリアどころか、オラリオ全てを敵に回す羽目になりますが」

 

 俺の魔法は炎上効果がないおかげでなんとかなっているが、ベルの魔法は炎の雷、元が炎であるからか炎上しかねない危険性をはらんでいる。おかげでベルの魔法の威力はかなり控えめにしているのだ。俺の方は────本気で脳天を撃ち抜けば即死させれるだろうが、それをすると恨みを買って本気で殺されかねないのでできない。

 屋根の上から此方を追跡してくる狩猟者(ハンター)。随所に配置されて逐一此方の位置を仲間に伝える観測手(スポッター)。足止めを行ってくる雑兵。屋根の上から鎮圧射撃の如く矢を放ってくる弓使い(アーチャー)。直接攻撃を仕掛けてくる上級冒険者で構成されている突撃兵(アサルト)

 対する此方は汎用型の駒二つ。むしろ良くもってる方だ、『ミリカン』だったらとっくの昔に鎮圧されているだろうし。

 

「なっ!?」

「ベル、どうしたのっ」

「ソーマファミリアッ!?」

 

 ベルの言葉に思わず息が詰まる。人数が多いとは感じていた、それに加えて他派閥も交じっているのは理解していたが、よく見てみると屋根の上の狩猟者(ハンター)観測手(スポッター)はアポロンファミリアのエンブレムを付けていないどころか、そもそも制服すら身に纏っていない。

 そして、彼らのエンブレムは────三日月に(さかずき)、ソーマファミリアのエンブレムッ!

 

「ミリア、ヒュアキントスと『ザニス』って人が密会してたんだっ」

 

 嘘だろ。どこでだ────あの『宴』の時か。今更遅すぎる情報を受け取りつつ、半ば強引に包囲を突破せんと分厚い所に突っ込む。四方八方から降り注ぐ矢を片っ端から撃ち落としつつも前進、包囲を突破したのか矢が飛んでこなくなった。

 って、やられた。包囲を突破した先はギルドと真反対の方角だ。舌打ちと共に大回りする道順を考え、すぐにたたき出す。

 

「よし、こっちの道を通ってギルドに────」

 

 だんっ、と何者かが後方に着地する音が響いた。

 これまでにない、重圧に殺気。格上の重圧を感じつつもベルと共に反転。

 白を基調にした戦闘衣(バトル・クロス)、腰に佩いた長剣と短剣、揺らめく大型のマント。冷笑を浮かべる美青年。アポロンファミリア首領、ヒュアキントスの姿があった。

 ベルがヘスティア様を道の脇手に突き飛ばし、俺が指先(銃口)を向けて発砲する。

 

「『ファイア』『ファイア』ッ」

 

 目にも止まらぬ速度で抜剣し、紅炎(プロミネンス)の如く輝く長剣────波状剣(フランベルジュ)が振るわれ、魔弾は一瞬の内に切り払われる。

 

「ミリア、援護を」

「わかって────」

「良いのか────流れ弾で神が死ぬぞ?」

 

 醜悪な嘲笑の笑みを浮かべたヒュアキントスの言葉。思わずヘスティア様の方に飛び込んだ瞬間、無数の矢がヘスティア様めがけて飛来し、俺の『マジックシールド』によって弾き落される。

 ふざけんなっ、()()()()流れ弾じゃねぇかっ!!

 ヘスティア様に怪我がないのを確認して振り向いた瞬間、ベルが吹き飛んだ。後方に飛んで石畳に墜落するベルを、ヒュアキントスが追撃しようとしているのを見て、指先(銃口)を向けようとして────牽制の矢が雨あられと降り注ぐ。『マジックシールド』が砕ける気配はなくとも、ヘスティア様の傍を離れられず、ベルの援護射撃をしようにもヒュアキントスはベルを盾にする様に陣取って狙いきれない。

 ベルも俺の射線を塞がぬ様に動こうとするも、相手の方が上手なのか上手くいかない。

 

「ベル君ッ!」

「ヘスティア様っ、動かないでくださいっ」

 

 急ぎ屋根の上の弓使い(アーチャー)を撃ち落とす。そのさなかにも二刀のナイフと長剣が、凄まじい量の剣戟を交わし続ける。聴覚を塗り潰す程の金属音が場を支配する。

 屋根の上には次々に弓使い(アーチャー)が現れ、キリがない。むしろ矢だけでなく投擲まで加わり、雨の如く降り注ぐ石に矢が『マジックシールド』を叩き続ける。撃っても撃っても留まる事を知らず、包囲が完成しようとしている。ベルの援護が出来な────ベルが競り負けてる。

 飛び散った血が次第にベルの装備を汚していく。赤が、白い髪すらも染め上げていく。一瞬でズタズタにされていく、援護射撃を────出来ない。ヒュアキントスの醜悪な笑みが此方を見ていた。『撃てるモノなら撃ってみろ』と挑発してくる。撃てば、ベルを盾に使う積りだ、援護射撃なんてできない。

 いつもなら、射撃位置を変えれば済む話だが、ヘスティア様を庇っていて身動きが出来ない。常にベルを遮蔽物扱いしているヒュアキントスに攻撃が出来ない。屋根の上から降り注ぐ攻撃がとどまらない、足元には小山に成る程に矢や石が散乱している。

 ベルとヒュアキントスがこれ見よがしに鍔迫り合いに入っても、ベルが全身に負わされた切り傷から出血していても、援護が出来ない。

 

「アポロン様の寵愛を向けられる貴様が憎くてしょうがないが……それも主の望み、栄えある我が派閥の一員にしてやる」

「う────ぁああああああああああああああ!?」

 

 ベルが咆哮と共に剣を打ち払う。退き離れたヒュアキントスに対し、極限までベルの体が沈み込んだ。

 自らを弓矢に見立てた様な────まるで放たれる矢の様にベルが突撃する。

 ベルの加速に蹴りつけられた石畳が爆発し、瞬く間にヒュアキントスに接近。怒涛の超連続斬撃が打ち込ま────ヒュアキントスの嘲笑は微塵も揺らがない。

 

「遅い」

 

 紫紺(しこん)紅緋(べにひ)、繰り出される(おびただ)しい光の円弧。

 一部斬撃は俺の目にも止まらぬ速さだというのに、ヒュアキントスは顔色一つ変えず、先ほどと同じように受け止めていく。

 援護しなくては────『マジックシールド』が罅割れている。あと30秒もせずに守りが消える。ヘスティア様を狙った()()()()()()()はいまだに止まない。

 装飾過多の波状剣(フランベルジュ)が閃いた。残像すら残すほどの速度で振るわれ、ベルがそれを受け止めようとするも二刀のナイフはあっけなく弾かれる。高速かつ巧妙な切り払い。

 流れるような技に、美しさすら感じられる技に────弾かれた反動でベルの両腕が泳ぐ。

 

「『兎』風情が、吠えるな」

 

 息が詰まった。逃れ得ぬ斬撃がベルを襲おうとしている。援護を────出来なかった。ヒュアキントスが嗤っている。『撃てまい』等と嗤っている。撃てば、ベルを盾代わりに使われる。だから────俺は何もできなかった。

 

 超反応で後退したベルの、胸甲(ブレストプレート)ごと切り裂く。軽装を断ち皮膚に食い込む波状の刃が肉を抉り、削ぎ落し、多量の血が飛び散った。

 

 さらに加えて、ヒュアキントスは距離を詰め、逃れようとするベルに追撃を仕掛ける。

 頭の中で火花が散った。一気に発火し、怒りが冷静さを打ち払い、かき消す。

 

「『ライフル・マジック』ッ! 『リロード』ッ! 『ファイア』ッッ!!」

 

 ヒュアキントスに向けての射撃。冷静さを欠きつつも眼球目掛けて放った一撃。指先から飛び出した一発の魔弾が狙い通りにヒュアキントスの両眼に向けて飛び────ヒュアキントスが醜悪に嗤った。

 ベルの腕を掴み、射線上に投げ出す。気付いた時にはもう遅い、俺の放った魔弾が、ベルの右肩を撃ち抜いていた。飛び散った血と、撃ち抜いた魔弾がどこかに消えていく中、ベルの体が地面に投げ出され、倒れ伏した。

 立ち眩みの様な感覚、ヘスティア様の悲鳴の様な呼び声と共に、硝子の砕ける音。

 

 ベルが倒れてる────とどめを刺したのは、おれだ。

 

 呆然と立ち尽くした瞬間、ドチュンッという異音と共に左半分の視界が掻き消え、異物を左目に打ち込まれた様な感覚。激痛が弾けた。

 

「がぁあああああああああああああっ!?」

「ミリア君ッ!?」

 

 冷静さを欠き、『マジックシールド』が消えた事に気付かずに呆然とした報い。左目を射抜かれた。矢自体はそこまで深く刺さっていないが、完全に左目の眼球が壊れたらしい。急ぎ引き抜けば────矢に球体が刺さっていた。

 あー、目ん玉ぽろりしちまったよ。空洞になった左目に違和感。激痛で集中力は削がれ、膝を着いて顔を抑える俺の前に影が差した。

 

「無様だな。まさか仲間の背を撃ち抜くとは……『小人』風情が調子に乗るな」

 

 ガッという音。衝撃が胸を穿ち息が詰まる。顔に感じた激痛に加えての打撃に意識が一瞬遠のく。ぼんやりとした視界の中、ベルと目が合った。ヘスティア様がいつの間にか近づいていた冒険者に取り押さえられてる。

 

「ベル君ッ! ミリア君ッ! 放せっ、放せってばッ!!」

 

 あぁ、何もできない。このままじゃ、ヘスティア様が、ベルが…………俺は────何もしない方がマシだったんじゃないか。

 体から、力が抜けた。左目から突き抜ける激痛。蹴り抜かれ胸骨に罅でも入ったのか呼吸のたびに胸が痛む。言われた通り、無駄な足掻きでしかなかったのか。ぼやける視界の中、ヒュアキントスがベルに歩み寄っていく。

 ベルは────立ち上がろうとしていた。

 

「まだ、意識があるのか」

 

 ベルの目には、怯えの表情が浮かんでいる。けれど、()()()()()()()()()

 

「醜い顔だ、品もない……なぜアポロン様はこのような輩に執着されるのか」

 

 血まみれのままヒュアキントスを見上げていたベルを、奴は容赦なく蹴り飛ばした。防御なんてできようはずもないベルの体が呆気なく吹っ飛び、小山になっていた石や矢にぶつかって石や矢が飛び散った。

 

 ────やめろ。

 

「私は身も心もあのお方に捧げている。私だけが、あのお方の全てを受け止められる。…………兎など大人しく狩られていればいいのだ」

 

 ────やめろっ。

 

「…………暴れられても困る。どうせ後で治すのだ、腕や足の一本は斬っておいても構うまい」

 

 バチンッと脳内に火花が散る。このままではベルがやられる、何もできずに、何もせずに、このまま見過ごすのか? 余計な事をせず、ただ家族(ベル)が傷つけられ、家族(ヘスティア様)が泣くのを見過ごすのか?

 

 ────ふざけんなッ!! ベルも、ヘスティア様も、傷付けさせないッ!!

 

 腕を突き出す。威力を高めた魔法を放つべく、相手の脳天を確実に穿つべく、魔力を込め、怒りを込め、憎悪を込め、詠唱を紡ぐ。

 

「『ライフル・マジック』ッ!! 『リロード』ッッ!!」

 

 片目しかないせいで距離感が上手く認識できない。それでも撃ち抜く事ぐらいはできる。

 高まる魔力。ヒュアキントスが気付き、此方を見た。────殺してやるっ!

 

「『ファ────」

「遅すぎるぞ」

 

 漸ッ! と目の前の空間が薙ぎ払われた。魔力との繋がりが途絶え、魔法が不発に終わる。

 くるくると、中空を飛翔する()()()()。一瞬で接近したヒュアキントスの顔の横の辺りに俺の腕があった。突き出し、魔法を放たんとしていた右腕が、くるくると中を舞っていた。()()()()()()()()()

 まるで時の流れそのものが遅くなったかの様にゆっくりと腕がくるくる回っている。遅れて切り落とされた切断面から血が溢れだし、黄色い脂肪と白い骨を真っ赤に染め上げていく。

 

「そういえば、ミリア・ノースリスの方は生きてさえいれば手足を切り落としても構わないのだったな」

 

 ヒュアキントスの何気ない一言。まるで『明日は晴れそうだ』とでもいう様な、気軽な言い草。不自然に感じる程に、切り取られた腕の付け根が発火したように熱を持つ。

 ヒュアキントスはもう一度刃を翻し、反対の腕を切り落とさんと波状剣(フランベルジュ)を振りかぶっている。

 そこで、ようやく遅れていた感覚が追い付き、激痛が爆発し脳裏を埋め尽くす。絶叫が口から零れ落ちそうになり────中空を舞っていた俺の腕が爆発した。

 

 至近距離の爆発。体が吹き飛び、壁に叩き付けられ、意識が遠のく。しかし、激痛で完全に意識を失う事は出来なかった。溢れる血の感触、地面に広がる多量の血。

 ヒュアキントスが顔を抑えて膝を着いている姿が目に入った。

 

「き、貴様……よくも、やってくれたなぁっ! ミリア・ノースリスッ!!」

 

 押さえていた手を退けたそこには、顔の半分程に軽度の火傷を負ったらしいヒュアキントスの姿あった。

 痛みで上手く回らない思考。零れ落ちる血、傷口を抑えなくてはと左腕で右腕を抑える。怒りに燃えるヒュアキントス、美形の顔に負った火傷と、般若の如く歪んだ表情が完全に釣り合っていた。

 むしろ今までの美形に醜悪な顔という組み合わせに比べ、今の方がお似合いまである。

 痛みから考えが明後日の方向に飛んでいく中、ヒュアキントスが長剣を拾い上げ、此方に迫ってくる。

 

「どんな隠し種を使ったのかは知らんが、顔を傷つけたのだ────貴様の顔も同じ様に切り裂いてやろう。安心しろ、貴様の役割は()()()()()()()()だけだ。それ以外の役割は無い。手がなかろうが、足がなかろうが、顔がズタズタになろうが、関係無い。息をして、魔法を詠唱できさえすれば他はいらんのだからな」

 

 醜悪に怒りと憎悪に歪み切った顔。こちらは痛みで真面に動けないというのに、相手ときたらピンピンしてやがる。あぁ……ちくしょう……。

 迫ってくるヒュアキントス。何もできない、見上げて、口元を歪めて笑う事しかできない。

 

「お、お似合いの、顔、になり、ましたね」

「黙れっ」

 

 長剣の切っ先が向けられる。ヘスティア様の静止の声を無視し、ヒュアキントスは俺の顔をズタズタにしようとしている。ベルが這いずって立ち上がっているのが見えるが、間に合わないだろう。

 

 ────結局、なにも……できなかった。

 

 ビュンッと矢が飛来し、ヒュアキントスの鼻先を掠めた。ヒュアキントスが大きく飛び退いた瞬間、横から抱えられる。

 ベルが俺を抱え、いつの間にか自由の身になっていたヘスティア様と並んで走り出す。ぐらぐらと揺れる視界の中、遠くの古びた鐘楼の上から矢を射っている誰かが居るのが見えた。

 飛来する矢はどれもヒュアキントスを狙い、気が付けば周囲を取り囲んでいた弓使い(アーチャー)や他の者達は全員、矢で射抜かれたのか倒れ伏しているのが目に入る。独特の臭気が漂っており、飛来する矢は全て毒矢のたぐいだというのはわかった。

 ベルが必死に足を動かし、ヘスティア様の先導の元進んでいく。遠ざかっていくヒュアキントスが、憎悪の炎を滾らせて此方を強く睨んできていた。




 シールド剥がされてからの一閃……読者がヒュアキントスに向けるヘイトが凄く高まりそう……()
 あ、目と腕はちゃんと治りますんでご安心ください。隻腕隻眼とかちょっと憧れるけどミリアちゃん的には困るでしょうしね。


 不定期更新ながら、ここ数日毎日更新してきました。明日、明後日もできれば更新する積りですが、もしかしたらできないかもしれません。ご了承ください。
 四日連続更新、頑張ったご褒美にお気に入り・感想してくれー。評価は『戦争遊戯』終わった後に付けてくれー。


 『ダンまち×TSロリ』が増える事を願って……。
 俺も更新頑張るからよ……みんなも『TSロリ』作品増やしてくれよな……(白目)

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