魔銃使いは迷宮を駆ける 作:魔法少女()
尖塔の上からの援護射撃の正体はミアハファミリア、唯一の眷属ナァーザさんによるものだ。もし、それがなければ手足を切り取られて達磨にされていただろう。
達磨にこそされなかったが右腕を失い、左目を消失した俺は完全に戦力外も良い所だが。
建物に背を預け座らされてベルとヘスティア様が覗き込んでくる。敵の包囲からは抜けていないが、ナァーザさんの援護射撃のおかげで一時的に身を隠す事に成功したのか周囲に敵影はない。
「ミリア君っ、ミリア君しっかりするんだっ」
「ミリアッ!」
ヘスティア様とベルの必死の呼びかけに笑みを浮かべ、痛みを必死に堪えて腰のポーチから取り出した
「使って、くだ、さい」
「でもっ」
「ベル君、使うんだ……ミリア君の傷は
「それじゃあミリアの腕と目がっ」
ベルが食い下がるのを見つつ、ベルに
「ベル君、残念だけど……
「ッ! ……でも、腕は千切れても形が残ってればっ」
「すいません、腕は……
「それじゃ……ミリアの目も腕も……」
通常の方法では治せない。それについては、仕方ない。
だが秘策はある。まだ世間に発表されていないディアンケヒトファミリアが研究・開発を進めている再生薬さえあれば、腕は治せるはずだ。目の方は……わからないが。
「私は、平気ですから」
「……ッッッ!!」
ギリリッと奥歯を噛み締める音が響く。怒らないで欲しい、俺が……俺がベルを撃ち抜いてしまわなければ、もっとマシだったのかもしれないのだから。
「それ、よりも……肩は、大丈夫……ですか?」
ベルの右肩に空いた風穴。今も血が滴るその傷の方が、腕と目を失った事よりも数百倍辛い。
早く
口で栓を咥えて開けようとした所でベルの手が伸びてきて、代わりに栓を開けて傷口に振りかけてくれる。顔に、右腕に……一瞬で失った目玉の部分が再生、というよりはゼリー状の何かが空洞になった眼孔を満たして違和感を消してくれ、罅の入っていた胸骨が癒える。失った腕は肘の辺りより少し上の部分で皮膚が断面を覆いつくし、不自然ながらもしっかりと回復させてくれた。
「これで、なんとか動けますね」
立ち上がろうとして────魔力の流れを感知した。攻撃性の魔力が此方に矛先を向けている。
「魔法ですっ!」
「なっ!?」
杖を構えるエルフの魔導士の姿。
建物の高低差を生かし、ナァーザさんの鐘楼から死角になる位置に陣取っている。更に付け加えるとベルの魔法の射程範囲外で、俺の魔法なら射程は足りるが負傷で精度が落ちているだろう事から当てれる距離じゃない。
慌てて二人と相手の射線上に立ち、左手を翳す。『竜鱗の朱手甲』の揺らめく赤色がマジックシールドを染め上げ、次の瞬間には射程距離の長い雷属性の魔法がマジックシールドにぶち当たり、四方に散った雷が住宅の壁面を縦横無尽に穿ち、削り、盛大に土埃が上がった。
塞がれた視界の中、ベルとヘスティア様に逃げる様に叫び、身を反転させようとし────無数の炎球が飛来した。
驚く暇もなく石畳が炎の海となって逃げ道を塞ぐ。
「リッソス、捕まえました!」
「でかした、ダフネ達を呼べ!」
肩で息をしながら道の奥から歩いてくる眉目秀麗なエルフの姿を見据えた。口元を襟巻で隠した特徴的な姿、アポロンファミリアの小隊長のリッソスだ。五人の冒険者まで連れてやがる。
前方は敵数、後方は火の海。
ベルが全快しているとはいえ、今の俺は戦力外。足手纏い二人を連れての逃走は不可能であろう。
ベルが覚悟を決めた様にナイフを構え、腰を落としたところで────背後の火の海が掻き消え、数人の人影がベルと敵の間に躍り出た。
「面白そうな事やってるな。俺達も混ぜろ」
後方の火を掻き消して現れたのは、六名の冒険者パーティだった。
「桜花、さん……」
「悪い、遅くなったな」
ベルの言葉に、背中越しに低く唸る様な返事を返す巨漢、タケミカヅチファミリアの団長、桜花だ。
他の者達も過去に顔を合わせた事がある者達ばかり。千草とミコトが此方を見てその目に怒りを露わにして刀を、槍を、戦斧を相手に向ける。
「何だ貴様ら、我々アポロンファミリアに盾突く気か!」
「その通りだが?」
「我らの盟友、そして恩人の危機を捨て置くなどできないっ!」
怒るリッソスの脅し文句を掻き消す程、濃密な怒気を含んだ桜花とミコトの各々の得物が彼らに向けられる。
敵意をぶつけ合うアポロンファミリアとタケミカヅチファミリアが、互いに怒りを含んだ雄叫びと共に激突しあった。
「間に合ったか……!」
「ミアハ様……っ!」
唐突な登場に呆然としていた俺達に、息を切らせたミアハ様が背後から走り寄ってきた。
ベルが驚きの表情を浮かべ、即座にミアハ様に縋りつく様に声をかけた。
「ミアハ様ッ、ミリアの目と腕が、治せませんかっ」
「っ……すまない、人体の欠損は……治せない」
もし治せるならナァーザさんの腕を治している。辛そうなミアハ様の表情にベルの顔が凍り付き、歯を食いしばる。
「……すまないが悠長に構えてる暇はない。ここは彼らに任せ、ベル達は行け」
「え……で、でもっ」
「聞くのだ。そなた達の身の安全が確保されねば、この戦いは終わらん。わかるであろう」
ベルが躊躇しているのを見て、その腕を強く引いた。
「ベル、行きますよ」
「僕は……」
「今は、逃げるべきです」
少なくとも、俺か、ベル、ヘスティア様、誰か一人でも捕まった時点でアウトだ。人質にされてしまいかねない。
裏路地の奥から大声が響く。増援らしき冒険者が此方に武器を向けて叫んでいる光景があった。序に屋根の上には
「さぁ、行け!」
「……ありがと、ミアハ」
「感謝を……死なないでください」
「それは此方の台詞だ……」
ヘスティア様を抱え、ベルが走り出す。俺も続けて走り出そうとし、よろめいて倒れかける。片腕一本を失った事で体のバランスが崩れて走りづらくなってる上、片目が無いせいで平行感覚も怪しい。それでもベルの背に追い付かんと足を動かそうとした所でベルに腕を掴まれた。
「ミリア、僕につかまってて」
ベルの首に左手を回す。出来る限り首を絞めない様にはするがどうしても片腕だけでは限界がある。両腕でヘスティア様を抱え、背中に俺を背負ったベルが一瞬、タケミカヅチファミリアの面々の背中を見て悔しそうに歯噛みし、呟いた。
「これが……派閥同士の抗争……」
一つの派閥が戦端を開けば、芋づる式に与する派閥が参戦し、抗戦しだす────結果、泥沼化。時が経てば経つ程に戦火は広がり、際限なく激化するファミリア同士の抗争。
これが弱小のヘスティアファミリアと、中堅のアポロンファミリアであってもこれだけの大騒ぎになっているのだ。例えばロキファミリアが下手に戦端を開けば────オラリオが滅びかねない被害が出る。
「都市端が近い、今いる場所は都市の西端か……っ」
ベルの背に必死にしがみ付きながら周囲を見れば、都市を囲む市壁が俺たちを見下ろしていた。そそり立つ石の巨壁と、オラリオの中央に立つバベルを見ればおおよその距離感は掴める。ヘスティア様の言う通り、現在位置は都市の西端に近い位置だろう。
ヒュアキントスから出鱈目に逃げ回ったせいか、ギルド本部からは遠く離れている。
だが、逆にガネーシャファミリアの本拠との距離は近づいた。
「ヘスティア様。ガネーシャファミリアの方に……いや、やめましょう」
ここから南の方角に行けば良い。しかし────無数の人影が屋根の上を駆けずり回っているのが見える。包囲が厚いどころか、あっちの方面は罠に近い状態になってる。近づけば確実に感知され袋のネズミにされる可能性が高い、突破は不可能だ。
『いたぞぉ!』
「……!?」
響く大声に続き、俺達の位置を知らせる甲高い笛の音まで響き渡った。
自身のファミリアの眷属に加え、他派閥の団員も数多く参戦しているせいで膨大な人海戦術を用いたゴリ押しが少人数しかいない俺達に盛大に突き刺さる。
ナァーザさんの狙撃から逃れて建物沿いに此方に接近してくる冒険者達。駆け抜けようとするベルの背から離れ、地面に降り立って詠唱。
「『ショットガン・マジック』『リロード』『ファイア』ッ!」
大雑把な狙いでも十二分な効果を齎す散弾で迎え撃ち、相手を完全に撃ち落とす。次の瞬間、矢が無数に飛来してシールドに当たって弾けた。
魔力の流れを感じ取るも、またしても距離が空きすぎている。散弾では届かず、ベルのファイアボルトの射程外。目を剥きつつも近場に倒れた冒険者の体を掴んで盾代わりに────詠唱が止まないっ!?
「ミリアッ!」
「ぐぅっ、ちょっと、仲間、巻き込んでっ!?」
一発目で盾代わりに前に押し出した冒険者が吹っ飛んで壁に叩き付けられる。二発目がマジックシールドにぶち当たって盛大に暴風を噴き荒らす。
着弾と同時に小竜巻を引き起こす『嵐の槍』の魔法。着弾後も小竜巻のせいで身動きが取れなくなった。ベルも近づけず、マジックシールドに断続的にダメージが発生する。防御が悪手だったと気付くも遅い。すでに嵐に囚われて動けないっ。
ベルが術者目掛けて冒険者が落とした剣を投げつけるも、他の冒険者が余裕をもって撃ち落とす。やばい、足を引っ張ってる。冷や汗をかきながらも周囲を見回し────見覚えのある赤髪が魔法を詠唱しているのが見えた。
「『燃え尽きろ、外法の業』」
短文詠唱の魔法が発動し、僅かに空間を揺らがす陽炎が術者目掛けて駆け抜ける。前に立っていた盾持ちが間に割り込むも風の様にすり抜け、術者に纏わりつく。瞬間、ボンッと唐突に術者が
罅割れたマジックシールドが修復されていくさ中、ヴェルフが駆け寄ってきた。
「ようやくみつけ────おいっ、腕と目はどうしたっ!?」
驚きに目を見開き一足飛びに近づいてきて腕を確認され、ヴェルフは俺たちの顔をそれぞれ見て、震える声で尋ねてくる。
「まさか、アイツらにやられたのか?」
「うん、ヒュアキントスに……」
「えぇ、油断してたわ」
俺とベルの答えにヴェルフの表情がくしゃりと歪む。
「ベル様、ミリア様っ」
ヴェルフに遅れてベル達の元へ駆け寄ったリリルカはすぐに気づいた。
赤い。大量の血を浴びた様に────否、大量の出血を強いられたかのようにベルとミリアの二人は赤く染まっていた。
ベルの装備している軽装の
自身の持つヒーラーバッグからありったけの回復アイテムを取り出して二人に差し出し、ミリアの肩を支える。いつのも安っぽいローブが赤黒く染まっているミリアが『汚れるわよ』と身を離そうとするのも構わず、彼女を支えた。
「ありがと、リリ……」
あまりにも惨い仕打ちにリリルカの小さな胸が痛んだ。これでは冒険者を続ける事も難しく、下手をすれば日常生活にすら支障をきたす程の傷だ。
手持ちのアイテムどころか、オラリオに現在出回っているありとあらゆる薬を使おうと治せぬ怪我を負っているミリアが若干ふらつきながら「移動しましょ、敵の増援もすぐ来るわ」と呟く。
「状況はなんとなくわかっていますが……やはり酒場のいざこざが原因ですか」
「……俺のせいなんだな?」
「いや、鍛冶師君が悪い訳じゃない。全部アポロンが仕組んだ事だ────遅かれ速かれこうなっていただろうね」
五人で走り抜けるさ中、ヴェルフがくしゃりと表情を歪めてミリアの傷をちらりちらりと見る。
余りにも酷い負傷具合。彼が責任を感じるのも無理の無い話だとリリルカは思いつつも、同時に彼の気持ちを痛いほど理解した。
もし自分が原因となったのなら、命を断ちたくなるほどの重責を感じるだろう。
「……ヴェルフ、あまり責任を感じすぎないで。この傷なら治す手段があるわ」
「なっ! ミリア様っそれは本気で言っているのですかっ!? 現状オラリオに出回っているモノでもディアンケヒトファミリアの『
ミリアの言葉に思わず声を張り上げれば、彼女は困った様に笑い。「普通はそうよね」と呟いて説明を続けようとし────舌打ち。
「見つかったみたいよ。正面、敵複数っ」
まず五人、そしてその奥に更に数十を超える冒険者の姿を見たベルとヘスティアが表情を歪め、ミリアが魔法を詠唱しようとし────ヴェルフが手で制した。
「お前らは行け。ここは俺が止める」
「でもっ」
「良いから行ってくれ。じゃねぇと、俺は俺を許せなくなっちまう」
強く握りすぎた拳、ギリギリと奥歯を噛み砕きかねない程の力で噛み締めたヴェルフの言葉にベルが動きを止める。ミリアが嘆息し、ベルの袖を引っ張る。
「ここは任せましょう」
「おう」
「はぁ、ベル様たちはギルドに向かってください」
「リリスケも行って良いぞ」
ヴェルフの言葉にリリルカは首を横に振り、ハンドボウガンの調子を確かめつつも彼の横に並ぶ。
「何処かの喧嘩っ早い鍛冶師を止められなかったのはリリの責任でもありますので」
「ヴェルフ、リリ……」
「わかったわかった。片付けたらすぐに追いついてやる。約束するから安心しろ」
悔しそうな表情を浮かべるベルの反論もヴェルフが塞ぐ。ミリアが一瞬ヴェルフを強く見つめ、小さく呟いた。
「死なないでね」
「わかってる」
ベル達を分かれ道の奥へと進ませたのを見届け、ヴェルフとリリルカは自ら前方の敵へ迫る。
「リリスケ、援護しろっ」
「わかってますっ、お二人の負傷分。たっぷりやり返してやりましょうっ」
もう幾度目かもわからぬ襲撃。
ヘスティアファミリアに与する派閥がいくつも立ち上がり、相手を攪乱してくれているとはいえ、まるで焼け石に水。相手方の数は優に総計300人を超える程の人員が動員されており。それに加えて傭兵らしい
一応、
大義名分を失った彼らはこれ以上の行動が危険と判断し、撤退。だとするなら筋が通る──通ってしまう。
結局、一周彷徨って戻ってきたホーム周辺。最初の騒ぎの場だからか既に住民は避難済みであり、住宅街は静寂に包まれていた。
その静寂を食い破る戦闘音が響き渡る。
「『ファイア』ッ『ファイア』ッ!」
「『ファイアボルト』!」
俺の散弾が敵を近づけられない様にしながら、ベルが空き家となっていた民家に全力の魔法を撃ち込む。
連射された炎雷が石材を巻き上げ、膨大な煙幕を発生させる。相手の視界を塞いだ隙に素早くその場を離脱しようとするも、風の下級魔剣が振るわれて煙幕が払われていく。
このままでは見つかると危ぶんだヘスティア様が急ぎ指さした方向に駆ける。そこにあったのは水路、裏路地の道から階段を経て進める。駆け下りた俺達は隧道状の用水路に飛び込んだ。
「大丈夫かい、二人とも……」
「はい、なんとか……」
「腕が無くて、走り辛いですね」
壁に寄りかかって息を整える。出血しすぎて貧血気味なのか一瞬視界が眩み、横に座っていたベルに倒れ込みかける。そのままベルが俺を支え、自身の膝の上に頭を誘導してくれた。ベルの膝につけていたプロテクターはいつの間にか吹き飛んでいたのか、柔らかさを残しつつも固いベルの膝に頭を預ける。
────膝枕してもらったのって、親父以来初めてかもしれないな。
「すいません、誤射してしまって」
「いや、僕の方こそ……ごめん、守れなくて」
煉瓦造りの水路は存外広く。まるで橋下の空間を思わせる。中央を走る水の流れの行きつく先は迷宮都市の地下にあるらしい地下水路だろう。反対側の出口からわずかに光が届いている。
水路の外からは姿を眩ませた俺たちを探すけたたましい足音が響いていた。見つからない事を祈りつつ────いや、すぐ見つかるな。
少しでも体力を回復させようと、今ポーチに収まっている分と、リリが手渡してきたすべてのポーションを浴びる様にベルと分け合って飲み干す。というより飲ませてもらう。そのさなかに、大声が聞こえてきた。
『聞こえているか、ベル・クラネル!』
ヒュアキントスのねっとりとした嫉妬交じりの声。聞きたくない声が響いた事でせっかくの膝枕を楽しむ事もできやしない。空気読めと文句を言いたくもなる。
『どこに隠れようと、どこに逃げ込もうと、我々は貴様を追い続ける。一時を
高台の上から周辺一帯に聞こえる声量で叫ぶ
『地上でも、ダンジョンでも同じことだ! この先、お前に安息は無いと思え!!』
あまりにも、ドストレートな脅し文句。もっと捻りを加えろと言いたい。
ともかく、あのド変態どもは一生ベルを付け狙うと宣言したのだ────最悪、禁忌の神殺しをしでもしないと止まらないかもしれない。いや、むしろ神殺しなんてしようモノなら復讐の鬼と化した者達の襲撃が始まりかねん。
ベルが表情を強張らせ、俺の左手をぎゅっと握ってきたので握り返す。何かしらの決着を付けない限り、彼らは此方を狙い続けるのだろう。────戦争遊戯で勝利する他無いか。
ただムカつく事に、彼らに対する報復を
一番確実なのは、派閥の眷属は全て一人残らず皆殺し。神は天界への送還だが……問題はアポロンファミリアに所属する者達の内、何人かは俺達と同じ様に付け狙われた結果、所属させられている被害者が混じってる事だ。
『ミリア・ノースリス! 大人しく出てこなければ、手足を叩き折って竜を召喚するだけの装置となる事になるぞ!』
……どうして、こうも人を利用したがるんだか。くっだらない、本当にくだらない。
ベルがより強く手を握り締めてくる。ギリギリと奥歯を噛み締める音が聞こえ、ベルを見上げた。
「ベル?」
「ぼ、僕は、ミリアを……」
守れないかもしれない。そう呟いたベルの瞳からぽたりぽたりと雫が零れ落ちてくる。雨の様に降る、温かな雫に思わず笑みが零れた。守ろうとしてくれている、それだけ大切に思ってくれている。それだけで俺にとっては十分過ぎる。
不安と恐怖に揺れるベルを、どうにか安心させてあげたい。けれど、現状持ち得る手段が無さすぎる。息が詰まり、ベルを泣かせている事実に胸が抉られた様に痛む。
「────二人とも、聞いてくれ」
繋いでいた俺とベルの手をヘスティア様が両手で優しく包み込み。
優し気な瞳で俺達を見据えた。
「アポロンが本気になった以上、このままじゃ僕たちに未来はない。打開する手段は二つ、勝ち目のない戦いに挑むか────このオラリオから逃げるか」
残酷な現実だ。力無き者が、力有る者に蹂躙されて被害を被るのは、世界の常識だ。
優しく、美しく、綺麗事だけで世界が回る訳が無い。そうであれば────もっと世界を好きになれたはずだ。
「ボクは君たちが居てくれるなら、どこへ行こうがへっちゃらさ。たとえ追われることになっても、君たち二人と一緒なら、一生逃避行し続けられる」
なぜ、俺はここに居るんだろう。
転生したから。そんな陳腐な一言で済ませてしまうには、ここで手に入れたモノは大きすぎる。
ガネーシャ様と来年の
前世では得られなかった、心を開いて相対する事の出来る。そんな素敵な人たちに出会えた。
欲張りだ、俺はきっととても欲張りな人間だ。皆と一緒に居たい、ベルやヘスティア様だけじゃない。汚らしい者達もいた、けれどそれを打ち消してなお有り余る程に、美しい人たちがいる。そんな人たちと別れたくない。
ベルと視線が交わった。胸の内に抱いた想いは、きっと同じだ。ベルの視線の先に憧憬の相手が居る。けれどそれだけじゃない、出会った仲間たちが居る。微笑みあった者たちがいる。それを捨てる事なんてできない。
「二人とも、ボクの事は好きかい?」
「は!?」
素っ頓狂な声を上げるベルに苦笑しつつも、俺はヘスティア様を見上げて宣言する。
「好きです。貴女の為なら、私は死んでも良い」
「ボクも、ミリア君の事が好きさ。けれど────死んでもいいだなんて言わないでくれ。ボクは君と一緒に居たいんだ。一緒に暮らしてほしいし、君が隣に居てくれればなんだってできる……君を一人になんてしないさ」
俺の素敵な女神様。貴女はそういうけれど、それでも俺は貴女の為なら死んだって構わない。
「ボクは君の事が好きだぜ? 可愛くて可愛くてしょうがない。君とずっと暮らしていたい。君の隣にずっといたい……君を誰にも渡したくない」
これはきっと告白。重要で、重大で、決して邪魔してはいけない────邪魔されてはいけないはずの告白だ。
「ベル君、君はボクのことをどう想ってる?」
邪魔してはいけないモノだ、だというのに────邪魔者は空気を読まずにやってきやがる。
身を起こし、二人の手を振り払って入口に陣取った瞬間、爆撃。マジックシールドで全てを受け止め、クラリと揺らぐ視界。すでに魔力が尽きようとしているらしい事を意識しつつも、魔法を詠唱する。
「『ショットガン・マジック』ッ! ベル、ヘスティア様、足止めしてますので続けてください」
後ろで呆然としていたヘスティア様がブチっと音を立ててツインテールを荒ぶらせている姿から視線を逸らし、前方に見えるアポロンファミリアの小隊を睨みつけた。
『いたぞ、水路の方だ!』
『かかれ!』
神聖な告白の場を邪魔しやがって、全員纏めてぶっ殺してや────ガシィッと首根っこを掴まれて一気に駆け出したベルに引っ張られていく。
「ちょっと、ベルっ」
「いいから逃げるよミリア君ッ!」
「そうだよミリア、逃げないとッ!」
顔が真っ赤の二人。ベルがヘスティア様を片手で抱え、俺の首根っこを掴んで走っている。器用過ぎるな、と感じているとヘスティア様が叫んだ。
「一度ならず二度までも、ことごとくボクたちの邪魔してっ……おのれぇ~~~っ」
怒髪天を突く勢いで怒っているヘスティア様を見つつも、後方に向かって散弾をぶちまけて追跡を妨害する。
「もう怒った! 二人とも、ボクは腹を括ったぞ!」
「は、はい!」
「南西だ、南西を目指せっ!」
ベルが困惑しながらもヘスティア様の指示に従ってギルドとは真逆方面に駆け抜けていく。俺は俺で首根っこを掴んでいたベルの手を振り払い、近づこうとしてくる冒険者に片っ端から散弾をぶちまける。住民の避難が終わっているおかげで流れ弾を気にする必要が無いって最高だ。
相手方の思いもよらない転進に加え、俺の放った散弾が盛大に相手の動きを阻害し、ベルの加速も合わさって一瞬で包囲を突破した。
早く戦争遊戯まで行きたいので『リリルカ救出作戦』は描写しません。
ご了承ください。
ファルナによって発現した魔法・スキルの理由付けがちゃんとしてあって良い。とお褒めの言葉を頂きます。評価の方でも……。
確かに殆どの作品で『転生特典』の一言で終わってるモノに対してちゃんとオリ主の性質から付けたって理由なのは珍しいかもですが、後付けで適当に付けた理由なので、作者的にはもにょもにょしちゃいますね(白目)
余裕がなかったので執筆時間2時間程しか取れてないです。いつも以上に誤字があるかもしれません。
お盆休み&ダンまち第二期アニメ放送中。これは『ダンまち×TSロリ』モノがポコポコ湧き出てくる!!
かと思ったらそうでもなかった悲しみ。