魔銃使いは迷宮を駆ける   作:魔法少女()

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第一一三話

 鍛冶場に戻ったヴェルフが真っ先に向かったのは、最上級鍛冶師たる椿・コルブランドの元であった。

 専用の鍛冶場、片隅に置かれた多種多様な精錬金属の鋳塊(インゴット)。そして数多のモンスターの素材。

 腰掛けてヴェルフの話を聞いていた椿が眼帯に覆われていない目を細め、ヴェルフを睨んだ。

 

「ほぅ、ヴェル吉。お前はつまり、手前があの『結晶』を持って行ったから。代わりに魔剣の素材を寄越せと?」

「ああ、あれは元々『ミリア・ノースリス』のもんだ。完成品を渡すとは言ったが、まだ完成しないんだろう?」

 

 普段の凛とした冷静沈着に物事を計る少女が、必死の形相で頼み込んで来た事。『魔剣を打ってほしい』という願い。それを叶えるにはヴェルフの工房に保管されているだけの素材では足りない。

 元々、魔剣を打つ積り等微塵もなかったヴェルフは、当然の如く魔剣の素材の備蓄等ありはしない。それらの確保に頭を悩ませた彼がとった行動はシンプルだった。ミリアから預かった素材を興味本位で持って行った最上級鍛冶師に頼み込んで素材を分けてもらう事だ。

 

「はぁ、あのパルゥムの娘の武器か。完成しているぞ? 今朝早くに届けに行こうと思ったが。本拠が取り囲まれておってな」

 

 アポロンファミリアとソーマファミリア、他『無所属の冒険者』と無数の技術者が何人か。大型弩(バリスタ)を弄りまわしていて、近づけなかったと。

 現に彼女が指差した台の上には布に包まれた武器らしきものが鎮座している。

 

「まあ、その代わりに得られるものはあったがな」

 

 にやりと笑みを浮かべ、椿は素材置き場に近づいて被せてあった布に手をかける。素材置き場の一角に布を被せられた何かが鎮座している事に気付いたヴェルフはそれが何なのかわからずに訝し気な表情を浮かべる。椿は意気揚々とその布地を取り払った。

 

「鱗は何枚か奪われたが殆ど手前が確保したぞ」

「はぁ……ッ!?」

 

 そこにあったのは深紅の翼、頭の半ばが砕けた飛竜の頭、千切れ堕ちた尻尾。モンスターの残骸────素材だ。

 それも、ヴェルフが見慣れた怪物の一部がそこに無造作に置かれている。その光景を目にしたヴェルフが驚愕の表情で凍り付く。

 

「それ……」

「そうほれ、あのミリア・ノースリスが連れていた飛竜の()()だ。」

 

 空を飛翔するさ中に数個の炎輪の様なもの、魔法攻撃に晒され、最終的に爆発に巻き込まれて四散して死亡したキューイの素材がそこに置かれていた。未だに血が滴り落ちる程、()()()()()にヴェルフは言葉を失う中、椿は嬉しそうに素材をつかみ取った。

 

「いや、何度も何度も素材を売ってくれと打診したが、断られ続けていたからな。これは僥倖だった」

「おい、それはミリアの……」

「何を言っている。手前はいきなり頭の上から血の雨が降ってきてずぶ濡れにされたんだぞ」

 

 いきなり頭の上から夥しい量の血が振ってきて何事かと思えば、竜の肉片やら鱗やら、挙句の果てに頭骨の一部に翼がまるまる降ってきた。それを見た椿は迷わず確保。アポロンファミリアの眷属共がぎゃーぎゃー喚いていたらしいが、レベル5で最高峰の鍛冶師たる椿は「人の頭の上に血生臭いものをぶちまけてくれた礼をすればいいのか?」と笑いかけて脅し、素材の殆どを()()()()()受け取った。

 

「まあ、血なんて洗い流せばそれまでだしな。素材が手に入ってよかったよかった。なんならヴェル吉にもわけてやろうか?」

 

 無造作に差し出されたのは、『火竜の延髄』。炎の属性を持つ魔剣に使えば、より強力なモノを作れるだろう。そうでなくとも通常の武具に使えば耐火性能を引き上げ、『火精霊の護布』無しで炎の中を歩き回れる様になる鎧や、熱で刃が鈍る事のない剣等が作り出せる希少(レア)素材だ。

 少なくとも、ミリアと出会う以前のヴェルフだったら迷わずその素材をもらう選択をしただろうが、今その素材を目の前に出されてこれっぽっちも嬉しくない。

 

「……いや、良い。とりあえず素材をくれ」

「ほう、いらんのか? まあいい、それよりも『結晶』はどうする?」

 

 ミリアの与えてくれた『結晶』。下層から深層にかけて採取できる希少(レア)結晶(クリスタル)だ。

 魔力に対する高い親和性を持ち、魔術師の使う魔法石の素材としても優秀であり、魔術師垂涎の代物と言われるこの『結晶』だが、ヴェルフはミリアに言わなかったが他にも使い道が存在する。

 

「魔剣の素材にしないのか?」

 

 椿の言葉の通り。ミリアの結晶竜からとれるその『結晶』は魔剣の素材となる。正確には魔剣を作るのに必要な訳ではないが、魔剣を作る際にその『結晶』を素材として使うだけで()()()()()()()()()()()

 ただし、欠点も存在するが。

 

「使わない。使う気は無い」

「なぜだ、お手軽に魔剣を強化できるのだぞ?」

「おい、その結晶を使った魔剣がどうなるか、お前も知ってるだろ」

 

 嫌悪感を示すヴェルフに対し、椿はおかしなものを見る目でヴェルフを見た。

 

「知っておるとも、ああ、何度も試したからな」

「だったら────」

「それがどうした?」

 

 『結晶』を使った魔剣が、どんなものかは知っている。そのうえで、なぜ『結晶』を使わない? むしろ使わない理由なんてどこにもないだろう。椿はそう言って首を傾げた。

 ヴェルフは溜息を零し、顔を上げて椿を見据える。

 

使()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんて必要ない」

「……そうか、まあ素材は好きに持っていけ。ほれ、素材倉庫の鍵だ」

 

 無造作に投げ渡された素材倉庫の鍵。受け取ったヴェルフが顔を上げたときには、椿は既に飛竜の素材の選別作業に入っていた。より良い素材を集め、よりよい武具を生み出す。職人気質で回りが見えていない椿の様子にヴェルフは視線を逸らして背を向けた。

 きっと彼女に何を言っても無駄にしかならない。キューイの躯とも呼べる素材の数々、ミリアと出会う前のヴェルフ・クロッゾなら羨ましがっただろう。今は、彼女とキューイがどれほど仲が良かったのかや、迷宮で何度もその力を遺憾なく発揮してパーティに貢献してきたかを見てきた事から、素直に羨ましいとは口にできなかった。

 

「……『結晶』か」

 

 使えば、どんな魔剣も一段階上の魔剣になる。下級の魔剣が中級に、中級の魔剣は上級に、上級の魔剣は最上級に。では、『クロッゾの魔剣』に『結晶』を使えばどうなるか?

 

 ────()()()()()()()()()()()周辺一帯を灰塵に帰すだろう。

 

 それはまさに魔剣の暴走だ。一本の魔剣を爆弾とし、使い手もろとも全てを破壊し、砕け逝く。『結晶』は魔剣の暴走を発生させる代物で、たった一振りで魔剣を砕き壊し、壮絶な破壊を齎す。

 割合を減らして調整を試みようとして腕を吹っ飛ばす間抜けな魔剣鍛冶師が後を絶たない危険素材。

 

「…………」

 

 使い手殺しの呪われた魔剣。威力は折り紙付き、『クロッゾの魔剣』と組み合わせたらどうなるのか。想像もつかない程だ、ただの中級魔剣ですら上級鍛冶師が片腕を失いかける程であり、上級魔剣に至っては椿が重傷を負う程の威力と化す。それが『クロッゾの魔剣』だったら?

 たしかに、もしもの時用にあればとは考えた。しかし、その魔剣を振るうということは、自らを殺す事を意味する訳である。

 

「────ミリアに渡したら迷わず使いそうな危険なもんは作れねぇな」

 

 鍵を使って足を踏み入れた素材倉庫。棚に整理されてなお溢れ返って雑多な印象を受ける室内を見すえ、必要な素材を頭に書き出したヴェルフは素早くその素材を棚から取り出した。

 

 

 

 

 

 広々とした談話室に集まったロキファミリアの幹部達はテーブルに置かれた資料を囲みながら会議を行っていた。本人達は鍛錬の疲れもあって既に倒れる様に眠りに落ちている。

 資料にはベル・クラネルとミリア・ノースリスの基礎ステイタスが記載されていた。最初にそれを目にしたフィンとリヴェリアは目を見開き驚きを露わにした。

 ベル・クラネル 力:C 耐久:D 器用:C 敏捷:B 魔力:D

 ミリア・ノースリス 力:G 耐久:F 器用:A 敏捷:B 魔力:S

 どちらも非凡どころか、とても《ランクアップ》してから二週間と少しとは思えない程のステイタスだ。

 その原因、というよりはその要因となっているスキルとして、ミリアの『家族/眷属(ファミリア)』というものがロキファミリアに伝えられている。

 自らの家族、同じ派閥の者達に対して強い感情を抱いているからこそ発現したスキルであり、『改宗にて消失』という重要な要因がある事など、ミリア本人が語っていた。ベル・クラネルの方も似た様なスキルが発現していたが、増長を懸念し本人には伝えられていない事。

 そのほか、ミリアが扱う魔法の特性、回復魔法についてが記載されている。神会でも話し合われた『竜を従える魔法』については未記載ではあるが。

 

「うわぁ、めっちゃええ子やん」

「……家族の為、か」

 

 酒場でミリアの過去について聞いたフィンが目を細め、他の者達は一様にそのスキルを食い入る様に見ている。特にアイズ等はじっとそのスキルを見つめていた。

 

「ねぇ、もしかしてもっと仲良くなれば私たちも同じスキル出たりしないかな?」

「おっ、ええなぁティオナ。ならなかようしようやぁ」

「あ、そういうのはちょっと」

 

 ()()()しようと手をわきわきさせてティオナに近づこうとしたロキに皆が呆れの視線を向け。ガレスがロキの首根っこを掴んで止める。

 

「今、必要な話し合いはそれではなかろう。ヘスティアファミリアがどうすれば勝てるか、だ」

「そうだね。スキルについては今は置いておこう」

 

 ロキが渋々といった様子で席に戻り、壁にもたれかかるベート以外が全員席についた所で話し合いは開始された。

 ベルとミリアに鍛錬を付けた者がそれぞれの評価を下す。

 

「まずはベル・クラネルからかな。アイズ、ティオナ、ベート、どうだった? 特にアイズ、君が面倒を見たんだろう?」

「え……あ、えっと……」

「癖出てたよね。なんかアイズっぽかったっていうか」

「ああ、いつ鍛えたのか知らねえが、アイズと同じ立ち回りしてやがった。見て覚えたってよりは本人が教えたみたいにな。アイズ、おまえあの兎野郎にわざわざ鍛錬つけてやがったのか」

 

 フィンの一言にアイズが冷や汗を流して視線を逸らす。

 アイズの戦闘技術はフィン、ガレス、リヴェリアに教わったモノだ。それを他派閥の者に勝手に教えていたともなれば……確実に怒られるだろう。

 アイズの表情が青ざめる中、フィンがくすりと笑みをこぼした。

 

「その事について怒る積りは無いよ」

 

 アイズがその一言に目を見開き驚きの表情を浮かべる。怒られずに済んだとフィンを見てほっと一息ついた瞬間、フィンが目を細めて呟く。

 

「今は、ね」

 

 一瞬で顔色が変化していくアイズを目にしたベートが呆れ顔で肩を竦めた。

 

「自業自得だな」

「でもアイズが鍛えてなかったら厳しかったんじゃない?」

「ミノタウロス、ね」

「これ、話がまた逸れておる」

 

 ガレスの一言に全員がガレスを見た。ロキがにやりと笑みを浮かべ、呟く。

 

「そういうガレスも気になっとるんやない?」

「いくらアイズが鍛えたとしても、レベル1であの動き、そして連携……」

 

 この場に居る者達はガレスを除いてみながみていた。レベル3に届きうる危険性を孕んだ変異種たるミノタウロスと二人の冒険者の死闘を。それらを各々脳裏に浮かべ、同時に納得する。

 

「まあ、あのガキが本気でファミリアを大事に思ってるのはわかるが」

 

 ベル・クラネルを死なせない。その一点のみに集中して彼の援護を行った小人の少女。彼女が何を思ってあの場で戦っていたのかは彼女の持つスキルが物語っている。

 

「つまり、今回も彼女は凄く活躍するって事だね」

「……なあ、フィン、お主もしかして」

「あ、わかるかい? 結構、期待しちゃってるね」

 

 またしてもそれゆく話題にリヴェリアが咳ばらいをし、アイズに顔を向けた。

 

「それで? 彼に対する評価は?」

「……うん、私が教えた事を忠実に守って、すごい速度で強くなっていってる」

「うーん、ちょっと()()()()()()()()()気はするけど、確かに半日鍛錬しただけですごく変わったね」

「良い足を持ってやがる。鍛えりゃ良い線行くだろうな。ただ────素直過ぎる」

 

 ベートの言葉にガレスが大きくうなずいた。

 ベル・クラネルは未熟な点が目立つ。目立つ、とはいえその成長速度からすれば未熟な点はすぐに消えてなくなるだろうが、根本の部分だけはどうしようもないだろう。彼は素直過ぎる、欠点という程ではないが戦闘中に素直過ぎる動きは見切られやすい。

 実際、ヒュアキントスとの戦いのさ中で彼は焦りから考えが及ばす、下地である『素直さ』に準じた裏表のない突撃をしでかして返り討ちに遭っている。

 ステイタスの差もあるが、何より動きが単調過ぎたのが問題だろう。

 

「彼については鍛えれば鍛えるだけ強くなる。そんな感じかな」

「まあ、大体そんな感じだな」

「うん」

 

 ベートとティオナの返事を聞いて頷いたフィンは次にミリアのステイタスの書かれた資料を手に取る。

 

「ちなみに、アイズ。ベル・クラネルの鍛錬の時、彼女もいたんだよね?」

「……ミリアもいたけど」

「おいおい、お前は」

 

 ベートが呆れすぎて言葉を失う中、フィンは鋭い眼光でアイズを見据えた。

 

「キミが彼女に()()()()()()を教えたのかい?」

 

 鍛錬場で見せた完成された戦闘型(バトルスタイル)

 自身の持ち得る魔法の特性と、彼女自身の持つ平行詠唱技術。そして魔法を命中させるだけの集中力と、それを補助し完璧なモノに押し上げる()。まさに完成して変化の余地のない戦闘型(バトルスタイル)だった。

 ただアイズが扱う型とは全くの別物。なおかつ彼女が冒険者になってからわずか2ヶ月程度で完成しているという驚愕的な速度から誰もが不自然さを感じ取っていた。

 それでも、アイズが教えてモノにしたのなら彼女が天才的な才能を持つというだけの話なのだが。

 

「ううん、ミリアは最初からあの戦闘型(バトルスタイル)だったよ」

「はぁ? おいおい、冗談だろ?」

 

 アイズの否定の言葉にベートが声を上げ、他の者達は同様に驚きの表情でアイズを見た。

 ミリア・ノースリスは誰に教えられるでもなくあの戦闘型(バトルスタイル)を完成させた。その信じられない情報にフィンが考え込み始めた所で、アイズが補足を口にする。

 

「でも、()()()()()は全然だめだったみたい」

「は?」

「最初戦った感じ、対人戦闘を意識した戦い方だったと思う。ミリアに教えたのも対怪物戦闘に関する事だけだし」

 

 ミリア・ノースリスの最初の戦闘型(バトルスタイル)は対人戦闘用のモノであり、対怪物戦闘を行うには様々なモノが不足していた。アイズが教えたのは対怪物戦闘における基礎、そしてダンジョン内で戦う際の注意点のみ。

 

「つまり、彼女は元から対人戦闘に長けていた訳か」

「……あのガキ、ナニモンだ? おかしいだろ」

 

 話によればベル・クラネルと近しい年齢であるらしい彼女。経歴は不自然な点が多い中、その類い稀なる戦闘技能と、対人戦闘能力。人の嘘を見抜く観察眼、あきらかに不釣り合いな能力をあまた持ち合わせており、なおかつ本人の頭も非常に回る。

 

「兵士だったのではないか?」

 

 ガレスの一言に全員の視線が集まった。

 彼は静かに顔を上げ、ミリア・ノースリスの戦い方の評価を口にする。

 

「時間稼ぎ、敵が自分より強いとわかった時点で、こやつは遅延戦闘────時間稼ぎに徹する動きをしておった。自分より弱ければ倒し、強ければ他の仲間が到着するまで時間を稼ぎ、合流して倒す」

「なるほど……」

 

 冒険者という職業上、通常ならば『助けを待つ』といった選択肢は出てこない。基本的にパーティ戦においてもそうだが、誰か他の冒険者が助けてくれることはほぼないと言っていい。分断されて各個で戦う事になるにせよ、助けを待つよりはまず逃走を頭に浮かべるだろう。逃走し、合流して怪物と対峙する。それが冒険者の常識である。

 しかし、ミリアの場合は敵が自らより強い場合()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()といった形の戦術をとっていた。しかも、ほぼ無意識にであろうことは何となく察しが付く。

 

「どこぞの国の()()だったのならあの戦い方も納得できる」

「確かに、他の仲間の到着まで場を持たせる。そう考えればあの戦い方も理解できるね」

 

 軍属で学ぶべき戦い方を身に着けた、過去に人をだまして金を稼いでた小人族の少女。

 彼女についての疑問が増えていくが、それよりもまずは解決すべき事があるとフィンは顔を上げた。

 

「とにかく、一週間後の予測について聞きたい。このまま一週間、彼らを鍛える訳だけど────鍛えたとして、彼らはアポロンファミリアとの戦闘遊戯に勝てるだろうか?」

 

 フィンの言葉に真っ先に反応したのは、アイズであった。

 表情を引き締めたアイズが首を横に振る。

 

「無理」

 

 彼女に続き、並んで座っていたティオネ、ティオナも頷いてアイズの言葉を肯定し、ベートも吐き捨てる様に呟いた。

 

「うん、無理」

「そうよね、無理だわ」

「無理に決まってんだろ」

 

 四人のにべもない否定にロキが眉を顰める中、リヴェリアが口を開いた。

 

「それはどうしてだ?」

「強い冒険者が二人いても、百人は相手にできない」

「多分、その半分でも厳しいよ」

「相手が二十人ぐらいなら余裕じゃないかしら」

「一人二人強いのが居た程度であの数相手に戦えねぇ」

 

 四人の言葉を聞き、ロキが頭を掻く。

 彼らの言い分は何も間違っていないどころか、正鵠を射ている。

 確かに、ベル・クラネルもミリア・ノースリスも強い。特にミリア・ノースリスは対人戦闘技能は非常に高く、同格が十人集まった程度では相手にもならないだろう。

 だからといって、彼ら二人で百人を相手に戦い抜くのは不可能だ。相手方には治癒士(ヒーラー)も居るのだ、倒した端から回復されてしまう。

 待ち受けるのはベル・クラネルのスタミナ切れか、ミリア・ノースリスの魔力切れか。どちらにせよ戦争遊戯での勝利は厳しい。

 

「フィンはどうおもう?」

「勝負形式次第かな」

 

 戦争遊戯(ウォーゲーム)の勝負形式。

 互いの派閥構成員全てが平地で同時に戦い全員が戦闘不能になったら敗北する『掃滅戦』

 大将頸を取った時点で勝利が確定する『大将戦』

 互いの派閥の団長が一対一で戦う『一騎打ち』

 代表数名を選出し一対一で戦い、負けた者から抜け落ちていき最後に残った方が勝つ『代表戦』

 特定の物または人を一定時間防衛する側と、それを破壊ないし攫う側に別れて戦う『防衛戦』

 そのほか、数え切れないぐらいの勝負形式は多岐に分かれる。それこそ『SUMOU』や『やきう』等、神々の遊びにもなっているモノすら戦争遊戯の形式の一つに挙げられるのだ。

 特に『やきう』や『蹴球』は冒険者の身体能力を生かした『消える魔球』やら『燃える魔球』やらやりたい放題になり、神々が盛り上がった戦争遊戯としても名が知られている。

 その中で今回の戦争遊戯、ヘスティアファミリアが勝つ可能性が高い勝負形式はほとんどない。

 

「勝てる勝負形式は何やと思う?」

「まずは、代表者一名同士の『一騎打ち』。ベル・クラネルなら勝率を2割から3割ぐらいまで持っていける」

「ほう……多くて3割か、きっついな」

 

 互いに無傷の状態で向かい合い。戦闘開始した場合の勝率はほぼ2割から3割。

 逆に互いにある程度損耗がある場合は()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「え? 損耗してた方が勝率上がるの?」

「ああ、彼はきっと()()()()()()()()()()()()タイプだからね」

「ほぅ、おもろいなぁ」

 

 ロキが面白がっているのを見つつ、フィンは続ける。

 

「もう一つ、こっちは下手すると勝率100%なんだけど」

「はぁ? 勝率100%? なんだそりゃ」

「『代表戦』だね」

 

 互いの派閥から代表を数名選出し、一対一での勝負を行っていく。勝負に負けた者は抜け落ち、互いに最後の一人が負けた時点で敗北となる勝負形式。

 ヘスティアファミリア側は二名、ベル・クラネルとミリア・ノースリス。

 対するアポロンファミリアが代表十名を選出したとすれば、彼ら二人で十人を連続して倒し切らないといけなくなるのだが。

 

「先鋒でミリア・ノースリス、多分これだけで同格の冒険者は九人抜きできるよ」

「そして、最終はヒュアキントス……ノースリスならばただではやられんだろ。勝てはせんでも相応の損耗を強いて負ける」

「最後はベル・クラネルが損耗したヒュアキントスを仕留める」

 

 この勝負形式ならば勝率は100%に近くなるはずだ。フィンがそう呟けば、ロキが首を傾げつつも問いかけた。

 

「逆に絶対勝てない勝負形式ってなんや?」

「『攻城戦』だね。攻撃側と防衛側に別れるんだけど……まず防衛側だと人数が足りなすぎる。竜種二匹が居ても焼け石に水過ぎてどうにもならない。攻撃側だったら……()()大型弩(バリスタ)が大量配備されるだろうしね」

 

 下層種の竜を屠る事が出来るだけの威力を持った大型弩(バリスタ)。ロキファミリアの面々は口を揃えて『こんな重たいもんダンジョンに持っていけるか』とキレた代物ではあるが、威力は折り紙付き。

 迷宮内で致命的欠点となる『重量』と『機動性の無さ』はそもそも設置型兵装として城の防備に使うのであれば気にならない部分である。そうなれば後に残るのはその『攻撃力』である。欠点が欠点として機能しない以上、あの大型弩(バリスタ)が大量配置されればミリアの連れている竜による襲撃は無力と化す。

 それに加え、たった二人では城門を突破するまでもなく城壁に張り付く事すらできないだろう。

 

「だから、勝負形式を決めるとき、アポロンファミリアは必ず『攻城戦』を選ぶだろうね」

 

 ミリアの連れている竜種を強く警戒するなら、防衛設備の整った城にこもるのが一番安全であるからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 日曜日には確実に更新するから許して……土曜日更新しようと思ってたけどきつすぎた。



 最近、TSロリモノ増えてきて嬉しい嬉しい。


 オリ主モノ書く上で注意点。
 『オリ主が薄っぺらい』と思われがちにならない様にしましょう。
 なんで薄く見えるのかわからないって方も居るでしょう。ちなみに私にもわからん。
 私なりに作品を読む中で感じ取った事は以下の事ですかね。

 過去・現在・未来を意識しよう。

 過去:経験してきた事
 現在:目の前に現れた選択肢
 未来:選び取った選択

 この三つがちゃんと繋がってれば薄っぺらいオリ主には見えなくなるはず。

 とりあえず『過去』がネック。どういう事かっていうと、『現在』と『未来』は過ぎ去れば『過去』になるからです。
 例えばミリアは一度アイデンティティを破壊されてます。それを女神ヘスティアが『ミリア・ノースリス』だと肯定し、背中を押しました。
 その後、ミリアは『クラスチェンジ』という能力を得ましたよね? 女神ヘスティアの肯定が彼女の安定しない不定形の魂にれっきとした形を与えた事で発現したスキル。
 いまだに不定形ながら、ヘスティアが肯定する事でその形へと変化を遂げる。そんなスキルです。

 問題なのは『過去』になった『現在』と『未来』が積み上がらない事。一度失敗したら二度目は無いとでもいえばいいんでしょうかね。

 ちなみに過去描写面倒とかそういう理由か知らんけど『記憶喪失』なんかを理由に『過去』を無くしておく場合もあるでしょうが……『現在』と『未来』は過ぎ去れば過去です。それが積み上がらなければ薄っぺらいままのオリ主です。
 人として成長するにしろ、悪に堕ちるにせよ、ちゃんと積み上げてきた『過去』がなければキャラクターに厚みなんてうまれません。
 薄っぺらいって言われる原因は『過去』が繋がっていないから。とにかく『重い設定』を付ければ厚くなるなんて事はありません。『重い設定』でなおかつしっかりと『現在』そして『未来』にその設定が繋がっていなければ、薄っぺらいオリ主っていう印象は変わらないでしょう。

 だからってキャラの過去を厚く書きすぎると本作みたく文字数跳ね上がっちゃうんですけどね。まぁ、そういうスタイルの小説って事で一つ……。
 

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