魔銃使いは迷宮を駆ける 作:魔法少女()
朝食を食べてから鍛錬場に向かおうと腰を浮かした所でフィンとロキがやってきて話があると呼び止められた。
「すまない、少し話があるんだ」
「内容は?」
「それは此処では言えんなぁ」
真面目な表情のフィンと若干ニヤついている神ロキの対比は少し不安を煽るんだが……。
同じく朝食を食べていたベルに先に鍛錬に行く様に伝えて俺は二人に同行して廊下を歩く。
「アポロンファミリアの情報でも手に入りました?」
「いや、そっちの方はもう少しかかりそうだね」
話がさっぱり見えない。一応、ヘスティアファミリアが負けたら損をするのはロキファミリアも一緒である為、俺の鍛錬やベルの鍛錬を邪魔するような真似はしないはずなんだが。
つまり、朝の鍛錬の時間を削ってでも話をする何かがある? 無駄な事だったら少しイラつくんだが。
「不満そうやな」
客室の一室の扉の前に立ったロキが振り向いて此方を見下ろす。
ただでさえ時間が無いのだ。一分一秒が惜しいと思っている所でしょうもない話されたらキレるぞ。
「ま、とりあえず入ってみ」
「……? まぁ、そういうなら」
ロキがドアを開いて中に入る様に促してくる。フィンも特に何か言うでもなく此方を見ており、肩を竦めている。
本当に何なのかわからずに首を傾げつつも部屋を覗き込むと、五人ほどの人物が中でくつろいでいる姿があった。顔を見てもピンとくるものはない。
そわそわと落ち着きのない赤い目に灰色の髪のアマゾネス。ソファーに深く腰掛けて目を瞑っているたっぷりと髭をこさえたドワーフの男性。壁にもたれ掛かって腕組をして神経質そうな雰囲気のエルフの少女。しきりに足踏みをしては嬉しそうに笑みをこぼす獣人の女性。手を握ったり開いたりを繰り返す黒髪に碧眼のアマゾネス……?
ふと、彼らの視線が此方をとらえた。誰なのかと彼らを見回しながらも部屋に入る。
アマゾネス、最後の一人、手を握ったり開いたりを繰り返す彼女。そのアマゾネスの手が、おかしな色合いだというのに気付いた。まるで死人の様な血色の悪い両腕だ────褐色の肌のはずなのに、両腕だけが異常に白い。
思わず自分の右腕と彼女の両腕を見比べてみれば、よく似た色合いだというのがわかる。『再生薬』を使ったのだろうか?
首を傾げていると落ち着きのなかった赤眼のアマゾネスがばっと立ち上がって此方に向かってきた。
「えっと、貴女がミリア・ノースリスでいいの?」
「えぇ、はい。私がミリア・ノースリスですが……どちら様ですか?」
喜色が浮かんでおり、敵意や害意は見て取れない。なぜ彼女らと引き合わされたのかわからんのだが。というか女性比率高いな、男性一人に女性四人か、ロキファミリアの構成員か?
「待たせてすまないね」
「皆元気そうやね」
「ロキ様、昨日ぶりです」
首を傾げつつも促されて彼らの対面のソファーに腰掛けると、彼らはソファーの周りに集まり、二人掛けの席に赤眼のアマゾネスとドワーフの男性が腰かけ、他の三人がその横に並んで立つ。目を引くのはしきりに手を動かすアマゾネスなんだが……もしかして『再生薬』のお礼とかか? だとしたらそういうのはいらないんだが。
「神ロキ、もしかして再生薬のお礼とかですかね?」
「それもあるな」
「ミリア、君のファミリアの現状ではどれだけ鍛えた所でアポロンファミリアに勝つのは難しいのはわかっているかい?」
フィンの言葉に思わず舌打ちが零れかけ、視線を逸らしつつも頷く。どれほど勝率が低いのかは既に理解してるつもりだ────特にアポロンファミリア側に専属の
どれだけ火力特化で固めるかよりは、後方支援を行う回復役のドリアード・サンクチュアリや、防衛設備を設置可能なアルラウネ・フォートレスが居る方が勝率が高い。それに地対空ミサイル特化の召喚師たるケットシー・パトリオットや、空対空戦闘を行うワイバーンを召喚するケットシー・サモナーなんかがいた方が勝率は高まるに決まってる。
というかそれ以前に人数差で圧倒されてんだよなぁ。
「まぁ、わかってますよ。えぇ……現状、どれだけ楽観的に見ても勝てるとは思えませんね」
「いや、流石にそれは言い過ぎや。勝てる勝負形式もあるっちゃある。まあ、その勝負形式になるとは思えんけど」
アポロン側も数の優位的に考えて攻城戦を選択するのは間違いないだろう。平地戦では竜の被害を受ける可能性があるが、城塞に籠って
ニヤけ顔のロキが両手を大きく広げて対面に座っていた者達を指し示す。
「そこで、や。この子らをヘスティアファミリアに
「は?」
はい?
「嬉しくないんか?」
「嬉しいですけど。良いんですか? ロキファミリアの派閥構成員ですよね?」
「ああ、それなんだけどね。彼らはロキのファルナは受けているけど────ロキファミリアの冒険者じゃないんだ」
は? ロキファミリアの冒険者じゃない? いや、でもロキの
だったらロキファミリアの冒険者じゃねぇの?
「そもそも、私達は
「そうだな、冒険者資格も無くなっとるしな」
赤眼のアマゾネスと髭を蓄えたドワーフの言葉に首を傾げる。冒険者資格はない?
「えっと、犯罪でも犯したんです?」
「ドアホッ! ウチの子がンな事する訳あるかっ!」
あっ、はい……。え? じゃあなんで冒険者資格の剥奪なんてことになってるんで……あれ?
……一人のアマゾネスはどう見ても腕の色合いがおかしく、再生薬で
というか、よく見るとドワーフも右腕と右足が異常に白い。エルフの少女はわからんが、獣人の足も異常な白さ……赤眼のアマゾネスもわからん。
もしかして、冒険者として
「察しがついたかい? 彼らは
腕や足の欠損によって冒険者を続けられなくなった者達。
彼らの冒険者資格が無くなったのは当然と言えば当然だ、彼らを冒険者としてロキファミリアの構成員に含めているとギルドからの税金の徴収が多くなる。が、実際の所彼らは冒険者としての活動は絶望的に不可能な訳で……つまり税金を浮かせる為に派閥から脱退させられた者達か。
「はぁ……あ? えっと、つまり……」
「せや、無所属────それも
思わず彼らを見据える。
嘘だろ? いや、冒険者ってのは過酷な職業だってのは知ってた。ナァーザさんっていう前例もある、生きてはいても手足を欠損して冒険者を続けられなくなって派閥を抜けた元冒険者達。彼らに対する世間の評価は厳しく、『死にぞこない』といった扱いで……。
「そう、俺達は
「うん、地上に生きて帰ってきたけど、冒険者として
冒険者を続けられない。腕や足は義手や義足で補える。けれど、戦闘に耐えうる程の物ともなれば相応の値段がかかる。それこそヘファイストスファミリアの第一級武装と同等な金額がかかってしまう。しかも新調費用だけにとどまらず、定期的な整備や修理を必要とする。それこそ第一級冒険者でもないと賄えない金額が常に要求され続ける。
それに、義手の性能は第一級冒険者が使うには
ナァーザさんの様にトラウマを抱えてダンジョンに潜れなくなることもあるが、手足さえ治れば直ぐに迷宮に挑みたいと願う者の方が多い。しかし、今までは
どれほど願えど、どれほど祈れど、その想いが叶う事はない。
そんな彼らは、日に日に腐っていくことしかできない。明日には治る薬が開発されるかもしれない、明後日には、一週間後には、一年後には……そうやって明日の希望に縋りつき、『治らない』という絶望から目を逸らす事しかできない────できなかった。
同じ欠損を抱えた者同士、傷を舐め合い、腐っていくだけの毎日。嫌気がさして死にたくなる日々。
「私達は失ってから半年も経ってない。おかげで治ったけど……」
「まだ治っとらん子が何人もおる。一年以上前に冒険者引退してオラリオに燻っとる子がな、何人もおる」
いくら最強の派閥とはいえ、体の一部を欠損してしまう者がゼロという訳ではない。ここに居る彼らは体の一部を失ってからまだ半年も経っていない、だから治った。治せた。
けれど、まだ治っていない者が居る。
「昨日治してもらったんだけど、まだ夢を見てる気分だよ」
欠損の治療はディアンケヒトファミリアが掲げる悲願の一つ。そして、手足を欠損した冒険者が望む悲願でもある。今までは手足を失った冒険者は冒険者を引退し、場末の酒場で武勇伝を語って腐り落ちるだけの者達であった。
普通に働こうにも手足が無くて働けず、ファミリアに世話して貰わなくては生きていく事もできない。生きた恥晒しとまで罵られる事のある最悪。それを治す事ができる。
「先ほども言ったけど────まだ治ってない子達が残ってる」
「その子らの為にも、ヘスティアファミリアに負けて貰っちゃ困るんよ」
彼らも全員納得している。
不利な状況の
明らかに、誰もが嫌がる条件だ。負ければ全てを失い、下手をすれば命すらとられかねない危険な状況。それでも彼らは頷いた。
「一度死んだ身だ、他の者の事もある」
一度は冒険者として死に、生き恥を晒し続ける事しかできなくなった。けれど、それを挽回する機会を与えてくれた。そして、まだ生き恥を晒さざるを得ない者達が残っている。
かつてのロキファミリアの仲間が、まだ試作品では治せない欠損を抱えた者達が残されている。そんな彼らも治療できる、ディアンケヒトファミリアは宣言したのだ。
一年、これから一年以内に過去の欠損を全て治す『完全再生薬』を作ると、その為には俺が連れているキューイの血が必要不可欠で、ヘスティアファミリアが敗北すればそれは完成しなくなる。
残された者達の希望である『完全再生薬』。それの完成の為にも、ヘスティアファミリアが負けるのは困る。
「だから、命も賭けれるよ」
「ああ、ここに居る五名全員がヘスティアファミリアに
「体裁についても問題ない────この子らは今は無所属や。それに戦力外の生き恥晒す元冒険者なんて罵られとる」
他の派閥から妙な勘繰りはされる可能性はあるが、彼らは戦力外として爪弾きにされた元冒険者。
ヘスティアファミリアが焦りの末、レベルだけは一丁前でありながら戦力外でしかない元冒険者を引き入れ始めたとでも風評を流せば、アポロンファミリアの警戒心を上げる事無く戦力増強が出来る。
「本当に良いんですか?」
確かに、彼らの言い分も十二分に理解できる。
欠損を抱えて冒険者を続けられなくなり、腐っていくだけの毎日。それから脱却できた喜びと、いまだ脱却できずにいる傷を舐め合った仲間が居る。彼らの為にも、この希望を潰えさせる訳にはいかない。
それに、一生欠損を抱えて腐りながら生きるか。一年間だけヘスティアファミリアの力になって欠損を治すか、どちらが良いかなんて迷う必要すらなく即答できる。
目を見ればわかる、彼らは本気だ。元ロキファミリアの元冒険者、五人も増員すれば勝率は天地の差だろう。
「それに加えてな、ガネーシャん所にも一応声かけてあるんよ」
他派閥に悟られぬ様にガネーシャ様の所にも『欠損を治せる薬』の存在と、それを完成させるのにヘスティアファミリアの存続が不可欠な事を伝え、なおかつ一年間だけ欠損を抱えて冒険者として活動できなくなった者をヘスティアファミリアに
「返事は既に受け取っているよ。あちらからは三人が
マジか、信じがたい話だが、一気にヘスティアファミリアの人数が俺とベルを含めて十人にまで跳ね上がった。
勝率は、いまだに低いと言えば低いが、けれども戦力が一気に増えるのだ。
対面に腰掛けている五人の元冒険者達。戦力として加わってくれる。確かに、鍛錬を差し置いてでも話し合うべき事だ。
「ソーマん所に連れ去られたっちゅうサポーターの事もこの子らに任せるつもりや」
ソーマファミリアにロキファミリアの構成員が喧嘩を吹っ掛ける訳にはいかない。けれど元冒険者で派閥から抜けた彼らがヘスティアファミリアに改宗した後であれば何の問題もない。
つまり、リリを救出するのにも手を貸してくれるらしい。
「あともう一つ、ガネーシャの所から例の
「あの
下層の竜種にまで進化したヴァンを難なく屠るだけの威力を持つ
風評被害?
「あー、あの街中での抗争あったやろ?」
「あれ、キミの竜種が暴走したのをアポロンファミリア以下複数の派閥が鎮圧しようとしたって事になってるらしいんだ」
あー……。つまり悪いのは全部ヘスティアファミリアって事ね? んで本来なら街の住民が不平不満を抱く相手はアポロンファミリアの方である所を、竜種の暴走って理由付けしてヘスティアファミリアの方に押し付けてると。
オラリオでのヘスティアファミリアの評価ってどうなってるん?
「竜種を暴走させた挙句、街中で魔法を乱射していくつもの建造物を倒壊させた悪しき派閥」
「えぇ……?」
何それキレそう。いくらなんでも酷過ぎるでしょう。
「気にしなくてええで、今ガネーシャん所が必死に抑えとるしな」
竜種の暴走が原因だったとしてもガネーシャファミリアがそれを保証するし、もしアポロン側がでっち上げた嘘ならガネーシャファミリアが全力で潰すと宣言。対するアポロン側は『
多分だが、アポロン側が勝った後、ヘスティア様にヘスティアファミリア側の非を認める様に命令して全ての罪をヘスティアファミリアに被せた上で、ヘスティア様を天界に追放する積りなのだろう。
これは、酷いな。
「ま、勝てばええ話や」
「そうだね、他にも戦力になりそうな欠損持ちの冒険者がいれば此方からこっそりと声をかけておくよ」
とりあえず、ロキファミリアが全力で支援してくれているし、ディアンケヒトファミリアも
一応、戦力は今回の
「あ、そういえばレベルについて聞いてなかったんですけど」
「おお、せやったせやった。ほれ、この子らのステイタスや」
五枚の羊皮紙を無造作に差し出されて思わず面食らった。いや、ステイタスをそのまま差し出すのはどうなんだ? 一応、対面に並ぶ彼らに視線を向けると、皆して頷いた。
「問題ない。むしろ存分に活かしてくれ」
「一度冒険者やめちゃったしね、ただちょっと鈍ってるかもだからそこらへんは意識してくれるとありがたいかも」
主な返答をしてきたドワーフの男性と赤眼のアマゾネス。というか赤眼のアマゾネスは腕や足に異常はなさそうなんだが、彼女も欠損……あ、赤眼……もしかして、眼をやられてたのか。それも両目が赤い所を見るに、両目とも……。失明はきつかっただろうなぁ。
下手に触れても仕方ないし、今は優先すべきことが別にあるのでとりあえずステイタスの紙を一枚一枚丁重に見ていく。
スキルや魔法は……ふむ……アマゾネスの赤眼の方は『バーサク』か、アマゾネス特有の
ドワーフが『フォートレス』? 動きを止めると耐久が爆増するスキル? 完全に
他にもエルフの少女はちょっとしたステイタスを微増させる強化魔法を覚えていて、獣人は攻撃役なのか連続で攻撃を当てる度に力と敏捷が上がっていくスキルを持ってるっぽい?
全員レベル2……んん?
「えぇっと、すいません。レベル3? これって本当ですか?」
「ん? そうだよ」
赤眼のアマゾネスが頷いている。彼女のステイタス。それともう一人、ドワーフの男性のステイタス。
この二人、レベル表記が『3』だぞ。他の三人が『2』である。
「第二級冒険者?」
「せやで、その二人は第二級冒険者や」
…………。あれ? 普通に勝てるよねこれ。だって第二級冒険者二人だよ?
一人は完全な
「……本当に良いんですか? レベル3ですよ?」
「あんなぁ、この子らは残念な事に三ヶ月以上前に戦力外として派閥から抜けとるんやで?」
「彼らには申し訳ないけど、彼らが
そりゃ数ヶ月前に戦力外として派閥から抜けたんだし、今の戦力とは全く無関係ではあるんだろう。すでに新体制が出来上がっていて、戻ってきても直ぐに前の様な活躍が出来る訳でもなし。ともなれば一年間他派閥に行っても……本人達が納得してるのなら良いのか?
とりあえず、レベル3が二人も戦力に組み込まれたんだ。これは……勝てるぞ。
レベルが高い冒険者が多い方が勝つ。相手にはヒュアキントスが一人。こっちは元ロキファミリアの団員で、数ヶ月間は腐っていたとはいえレベル3の冒険者二人。普通に平地戦でも勝ち目がある。
しかも相手は此方が欠損を治せるとは考えないだろうし、『欠損を抱えた役立たず』としか思わないはずだ。
警戒されずに戦力増強できるとか、最高じゃないか。
相手の警戒心を引き上げずに戦力増強。アポロン側からすれば『ただのカカシですなぁ』状態。
名前考えるの面倒なので『赤眼のアマゾネス』『ドワーフの男性』とか単調に表記するか、まとめて『元ロキファミリアの冒険者』とでもしておこうかな。
TSロリモノ増えたよね。良いね良いね!
それとふと気づいたというか考えたんですよ。
この作品は『TS』ではなく『戦闘バランスが良い』『オリ主が原作主人公の活躍を奪わず、かといって霞まず』『スキル・魔法にちゃんと理由がある』等の理由で評価されてるらしいじゃないですか。
それでですね、『戦闘バランスがとれている』『オリ主と原作主人公が共存している』『魔法・スキルの理由がしっかりしてる』の三つの要素がありつつも、『性転換』の要素が無い作品と比較すれば『TS要素』がどれほどの割合を占めてるのかわかるんじゃないかと考えた訳ですよ。
で、三つの要素がある作品を探したら……探し方が悪かったのか見つけられませんでした。
なんというか、うん。1000件以上あるしね?
『原作:ダンまち』&『オリ主』で
ブロックワード『チート』
除外『性転換』『クロスオーバー』『神様転生』
これをして250件程が残って……見つけられませんでした。
『戦闘バランスがとれてる』
『オリ主と原作主人公が共存してる』
『魔法・スキルの理由がしっかりしている』
この三つの要素を入れた作品が少ないならだれか書けばいいんじゃないですかね。人気出そうですよ。需要と供給的に。