魔銃使いは迷宮を駆ける 作:魔法少女()
その情報はアポロンファミリア、ヘスティアファミリアの両派閥が合意してから僅か半刻足らずで街中に広まった。
都市の動きは活発に、そして慌ただしい日々が続いている。
最も割りを食らったのは都市管理機関の役割を持つギルドであった。
派閥同士の総力戦────それも片や危険度の高い竜を
付け加えるなら、そこに神々の
本来ならば、神の出席を促すべき立場のギルドであるが、それすらままならない状態である。
故にか────オラリオ中央、
「────今日もヘスティアは居ないのか!?」
列柱が高い天井を支え、円卓が一つだけ中央に配置された大広間。中央の円卓に設けられたたった二つの席の一つに腰掛けるアポロンの叫び声が大広間に響き渡る。
大広間に集まった数多くの神々も若干の呆れと、落胆の色合いを見せていた。
そして、都市を騒がせたヘスティアファミリア襲撃事件からすでに三日が経とうとしている。
その間、ヘスティアは
「全く往生際が悪い。こうなればギルドに不戦勝を認めて貰わねば」
『えー』
アポロンの一言に神々が不満そうな声を漏らす。せっかく楽しみにしていた
そんな神々の中、恰幅のいい一人の男神が手を挙げて発言を行う。
「しかし、このまま夜逃げ、等という結果になればアポロンが不利益を被る。それは避けるべきであろう?」
周囲の神々の視線を受けた恰幅のいい男神。商売神として知られ、がめつく、金に成らない事は一切行う事のない無駄を徹底的に嫌う神として知られる彼────本来なら、こういった
胡散臭さの滲み出た彼の発言に、ロキが呆れ顔を浮かべて呟いた。
「そんなつまらんことできんやろ。皆も期待しとるんやで?」
『そうだそうだー』『不戦勝なんて面白くない結末なんて期待してねぇんだよ』
神々の囃し立てる声に、恰幅の良い男神が怯み、舌打ちを零して席に座る。
彼の神を流し見たロキは小さく溜息を零した。あの恰幅の良い男神こそ、アポロンファミリアと結託して色々と策を講じてきている相手だ。今回の『不戦勝』に対してやけに食いついてきたのもおそらくはその一環であろう。
とはいえ、彼の神の思うようにはいきはしない。神々は三日間待たされてなお、
「くっ……いつまで待たせるのだ、ヘスティアめ……」
一向に姿を見せない女神に、アポロンは苛立ちを隠しきれずにいる。「病に伏せた」の一点張りで
────街中で多大な被害を出した襲撃を引き起こしたアポロンファミリアは、現在オラリオの街中での武装の所持を禁止、及びにガネーシャファミリア監視下におかれてヘスティアファミリアへの干渉を禁じられている。
半ば強引にでも引き摺って
苛立ちを示す様に舌打ちを繰り返し、幾度となく時計を眺め、自派閥の行動を妨害しているガネーシャを強く睨みつけ、本来ならヘスティアの出席を促す立場のギルドに対しても憤りを隠さない。落ち着きのないアポロンの態度に、ロキは内心溜息を零してぽつりとつぶやいた。
「ちゅうかな、苛立っとるんはわかるんやけど少しは落ち着いたらどうや、アポロン。全部、自業自得やろ?」
強引な都市内における襲撃事件。それも街に多大な被害まで及ぼしたのだ、ギルドから街中での行動を禁じられるのも当然。都市の秩序を守るガネーシャファミリアの監視が付くのも当然。己の考えなしとしか思えない行動によって、これまでの派閥の行動も相まってギルドから袖にされるのも当然であるし、他派閥の神も「まぁ、アポロンだしなぁ」と相手にしようともしなくなっている。
「……そういえば、ロキ。キミの派閥はヘスティアファミリアに与しているのだったな」
「はぁ? 与する? ウチはただ面白くするために
襲撃事件の直後。ヘスティアファミリアの構成員二人を派閥本拠に招き入れ、鍛錬を行っているロキファミリアの主神、ロキを軽く流し見たアポロンの言葉にロキは笑いかける。
周囲の神々の胡乱げな視線がロキに突き刺さる中、集まった神々がぼそぼそとつぶやいた。
「絶対嘘だぞ」「何か企んでるに決まってるだろ」「竜の素材を報酬にとはいえ、第一級冒険者が出張るのはなぁ」
神々の憶測に対し、ロキはにんまりとこれ見よがしな笑みを浮かべる。
「竜の素材なんて序や、つ・い・で。んなもんウチの子らやったらちょちょいのちょいでダンジョンで狩ってくるわ」
「じゃあ何が目的だっ!」
アポロンが立ち上がって声を張り上げたのを見たロキは、表情を憎らし気に歪めてドロドロとした黒い感情を一切隠しもせずに呟く。
「【リトル・ルーキー】がウチのアイズたん誑かしたんやぞ」
小さな、けれども確かに大広間全体に響き渡ったロキの言葉に、誰しもが察した。
アポロンファミリアの開催した神の宴。眷属二人を引き連れてくる様にという斬新なアイディアによって成功を収めたあの宴のさ中、ヘスティアの眷属である【リトル・ルーキー】ベル・クラネルとロキの眷属である【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインがダンスを踊った事は神々の記憶に新しい。あの百人切りを成した【剣姫】相手に、異常な最速記録を叩き出したヘスティアの眷属がダンスへの誘いを行い、そして成功させたのだ。
それを思い出した神々が次々に呟く。
「竜素材はついで……って事は」「これは、アレですね?」「合法的にベルきゅんをボッコボコに出来るから受けたんですね」「うわぁ……第一級冒険者にボコられる姿が浮かぶわ……」「というか死なないよな?」
神々の推測は的を射ていたのか、ロキはケタケタと楽し気に笑いながらも、ベル・クラネルがどのようにして第一級冒険者にボコボコにされているかを高らかに語りだす。隙あらば【
「ロキ、ベル・クラネルをいじめるのをやめてもらいたいのだが」
「あぁん? なんでや、ウチは
「絶対恨んでるだけだぞ」と神々が呟き、
「わかっているのか、ロキ。キミがやっている行動は我が派閥への敵対行為に等しいが」
「たかがレベル2に上がりたての子が、いくら第一級冒険者に鍛えられたからって数日でレベル3に勝てる訳ないやろ。むしろ、それで負けるって相当アホやで。少し粘るぐらいにはなるやろうけどな」
ロキの呆れ顔に周囲の神々が「たしかに」と納得の表情を浮かべる。
たとえ第一級冒険者に鍛えられたとしても、ランクアップしてから半年も経っていない冒険者が格上を相手に勝利を得る等、あるわけがない。むしろ、第一級冒険者に鍛えられただけで勝てるなら誰も苦労なんてしないのだ。
彼女の言葉にアポロンが苦渋の表情を浮かべ、大仰な仕草で嘆き悲しむ。
「あぁ、私のベルきゅん……ロキの所の子にいじめられて泣いてはいないだろうか……」
周囲の神々がまた始まったと呆れる中、ロキを含めたヘスティアファミリアの内情を知る者達が眉を顰める。
どう考えた所で、ロキの眷属による死と隣り合わせにも等しい鍛錬よりも、アポロンによって与えられた苦痛の方が遥かに上回っているだろう。涙こそ、流した。苦痛に呻き声ももらした、それでも彼は立ち上がって武器を構え、第一級冒険者の鍛錬を受け続けている。
アポロンの身勝手な愛の形にロキが深い溜息を零した瞬間、大広間の扉が開け放たれた。
「遅くなった。待たせてしまって、悪かったね」
口にする言葉とは反して、悠々とした態度で
悪びれる様子もない彼女にアポロンは限界だったとでも言う様に強く睨みを利かせる。
「遅いぞっ、ヘスティア。
「君の団員に追いかけまわされてね、熱が出てね~。いやぁ~、死の淵を彷徨ったよ~」
「うむ、あれは危なかった」
アポロンより投げかけられる文句にヘスティアと自称看病していたミアハが抜け抜けと答える。小憎いと顔を歪めるアポロン。
「主役も揃ったのだ、言いたい事は山ほどあるが。それよりは建設的な話をするべきだろう?」
恰幅の良い男神が胡散臭さを纏った満面の笑みで言い放つ。その胡散臭さに誰しもが内心でお前何か企んでるよなと勘付きながらも、これ以上待たされたら首が伸びると言わんばかりに
「まず、我々が勝利したらベル・クラネルとミリア・ノースリスは貰う」
「…………」
「そこだけははっきりさせておく。後で聞き苦しい言い訳を並べられても煩わしいのでね。ヘスティアが勝者となった暁には、要求は何でも呑もう」
自身の勝利を微塵も疑わないアポロンは、ベルとミリアの所有権────円滑な派閥の移籍だけを強調した。ヘスティアは何も答える事なく沈黙する中、会議の記録を取る書記の神は『ほーい』と軽い返事を返しつつもしっかりと一字一句違わずに明文化していく。
「ヘスティア、ベルきゅんとミリアたんの
ヘスティア側は特に要求をするでもなく、直ぐに話は次の段階へと移っていく。
「勝負形式は『代表戦』、選出した代表者数名による一騎打ちで決着を付けようじゃないか」
円卓の一角に腰掛けたヘスティアが、対面に座すアポロンを見据えながら発言する。
「闘技場を使って、観衆のもと、決闘を行うんだ。これが一番盛り上がるやり方だろう?」
「私も賛成だ。複数人で寄ってたかって二人を袋叩きにしても興ざめであろう」
「俺も賛成する」
鋭い目付きでアポロンを射抜くヘスティアに続き、彼女に味方しているミアハやタケミカヅチも肯定の意見を出す。それを見ていた恰幅の良い男神がにんまりと笑みを浮かべて、ロキに声をかけた。
「ロキ、オラリオ二大派閥を率いる神としてどう思いますかな?」
あくまでもロキは『戦争遊戯を面白くする』と『【剣姫】を誑かした【リトル・ルーキー】を合法的にボコる』という建前のもと動いている。ここでヘスティアの意見に賛同すれば『ヘスティアファミリアに与している』と明言する様なモノ。商売
「んなもん決まっとる────『争奪戦』や。無論、互いに全戦力を投じた、な?」
「それではヘスティアファミリアに不利過ぎる。人数は制限すべきではないか?」
ミアハがヘスティアに不利になりかねないと判断して意見を上げれば、ロキは鼻を鳴らして肩を竦める。
「ファミリアの人数が少ないっちゅうんはドチビの怠慢や。もっと勧誘しとけばもうちっと人数居ってもええしな」
ロキの言葉に商売
逆に味方をせずに盛り上げようとするだけなら、ヘスティアファミリアに不利な条件を出させるだけ。そうする事でどちらに転んでも損をしない策を講じた
フィンとミリアの机上戦の結果、勝負形式『争奪戦』の勝率はおおよそ8割。
アポロンはロキをちらりと見てから肩を竦め、冷静な仮面を身に着けたまま発言する。
「ロキの言う通りだな。子の数が少ないというヘスティアの泣き言に、我々が合わせる道理はない」
派閥を率いる者として行っておくべき当然の行動。派閥の拡大を行わずにいたヘスティアに対する厳しい意見に、ぐぬぬっ、と彼女は呻く。
確かに、ベルが他の女性に靡く可能性であったり、ミリアの家族に対する姿勢であったりと、今までが勧誘に対して非積極的であった経緯がある。前者はヘスティアのわがままで、後者はミリアの家族の為なら
「ここは公平に、くじ引きで決めようじゃないか」
他に案を上げようにも策謀に長けている訳でもなく、話術も高くない、事前に悪神ロキに様々な助言を貰ったとはいえ、所詮ひきこもりであったヘスティアにその助言を活かせる訳もない。
言い返す事が出来ないヘスティアが黙っていれば、必然的にアポロンの意見は通される。準備の良い神が、へい、とノリノリで取り出した箱が円卓に置かれる。
くじが完成し、では誰が引くかという段になってヘスティアとアポロンはそれぞれが引く
「アポロンの息のかかったやつは信用できない」
「……それは此方も同じこと。ミアハやタケミカヅチ達には自重を願おう」
小さく舌打ちをするアポロンは、ヘスティアと同様の条件を出す。
ならば……と
「ならば、ロキに引いてもらうというのはどうでしょう?」
少なくともヘスティアに与する訳でもなく。アポロンを妨害するでもない、此度の
アポロンが不服な顔をしつつも押し黙り、ヘスティアがあからさまに嫌そうな表情を浮かべる。
アポロンからすれば、脅威とはならずともヘスティアファミリアの強化を行っている派閥の主神。理由も納得できるとはいえもしもがありうる。
ヘスティアからすれば、裏では味方でもこの場では味方として動けない中立で楽しむ立場を崩せない味方。ロキ自身も彼女に口を酸っぱくして言い含めたが、
どちらにとっても
対する当事者たる彼と彼女は二人で見つめ合い、苦々し気にロキの方を向いて首を横に振った。
「ロキは信用できない」
「悪い、キミはちょっと……」
「…………なんでウチが悪いみたいになっとるん?」
場を盛り上げただけやんと拗ねた様に振る舞うロキ。その様子を見ていたアポロンとヘスティアは、二人同時に視線を向けた。その先に居た男神が目を見開き、驚きの表情を浮かべる。
「「ヘルメス」」
「えっ……
その流れでこっちに来る? と割と本気で困惑の表情を浮かべているヘルメスに対し、アポロンとヘスティアは同時に声をかけた。
「我が友よ、キミに全てを
「頼んだぞ、ヘルメス」
天界からの付き合いのあるアポロンが厳かに頷き、ヘスティアもまた優男の神を強い眼差しで見据える。
その場その場で立場を変えて敵対したり味方になったりと安定しないロキと異なり、常に神々の中で中立を気取っていたのが仇となった形だ。
両主神から念を押されるヘルメスは観念した様子で立ち上がり、円卓の隅に置かれた箱の前に歩み出る。そんな彼にこの場に居る全ての神の視線が集まった。
「どうかお手柔らかに……」
呟きながら箱を漁るヘルメス。
固唾を飲むヘスティア達の前で彼は取り出した一枚の羊皮紙を確認し、首を傾げて広げた羊皮紙を神々へ公開した。
『複合戦』
公開されたその形式を目にした神々がそろって首を傾げる。ロキも目を点にしたまま固まり、ヘスティアとアポロンが同時に眉を顰め、口を開いた。
「「なんだそれ?」」
少なくともこれまであった形式とは異なる代物なのは間違いない。神々の記憶の中にも存在しない未知の勝負形式。期待の眼差しがヘルメスに向けられる中、ヘルメスが困った様に苦笑いを浮かべる。
「あー、オレにはこれがどんな形式なのかわからない。書いた
「あ、俺が書いた奴だ」
一人の男神が手を上げ、神々の注目が彼に集まる。
当たると思っていなかったのか頭を掻きながらその男神が前に出てきて、説明を開始した。
「二つの勝負形式を混ぜ合わせた奴にしようかなって思って書いたんだ。もう二枚引いて、それを合体させた『複合戦』って感じでさ」
彼の説明を聞いた神々がざわめき、目を輝かせる。
今までにない、未知の勝負形式が適応される。それもくじ引きという公平な手段を以て、ヘスティアもアポロンも、どちらも文句を口にすることはできない。面白そうな事に目の無い、娯楽に飢えた神々に与えられた最高級の餌を前に、神々が囃し立てる。
「良いぞー!」「こういうのを待ってた!」「ヘルメスー、もう二回引けー」
「え? もう二回……嘘だろ……」
深い溜息を零し、ヘルメスは円卓で対面して座る男神と女神を伺い、箱に手を伸ばす。
どんな勝負形式であろうと勝利は確実だと腰を据えるアポロンに対し、顔を引き攣らせながらも気丈に振る舞うヘスティア。
二つの勝負形式を混ぜ合わせた結果、どんな反応が起きるのかわからない。それを知りつつもヘルメスは心の中で合掌しながら、二枚目の羊皮紙を引いて確認し、あっ、と小さく呟きを零して固まり、羊皮紙を神々へと公開した。
『旗守戦』
示された勝負形式を目にした神々が何かを察した様に吐息を零す。
互いに防衛対象として『旗』を掲げ、破壊された方が敗北する勝負形式。相手の『旗』を破壊する『攻撃隊』と、自らの『旗』を守る『守衛隊』の二つに分かれて行動する必要のある、人数の多さがものを言う勝負形式。
ヘスティアファミリアはたったの二人。他派閥から何人か
当然、アポロン側は攻撃隊五十人、防衛隊五十人というバランスのいい編成が可能。つまりヘスティアファミリアにとって凄まじく不利な勝負形式であった。
「ヘスティア、顔色が悪いぞ?」
「……まだだね、まだ……チャンスはあるさ」
アポロンの挑発に気丈に振る舞うヘスティア。だが彼女の顔色は非常に悪い。
傍から見ていたロキは内心で舌打ちを零しながらも、ヘスティアの言う通り
例えば、此処から『一騎打ち』または『代表戦』を引けば、人数を揃えての戦いになる。そうなれば勝負はわからないどころか、勝負形式次第ではヘスティア側が断然優位になる可能性は高い。
「じゃあ、最後の一枚を引こうかな……」
緊張した面持ちのヘルメスが箱に手を突っ込み、ガサゴソと漁り始める。
一度目、二度目よりも更に慎重に、より時間をかけてヘルメスが箱を漁る。次の形式次第で勝負の行方が決まるも同然。固唾を飲む皆の前で、ヘルメスは三枚目の羊皮紙を箱の中から取り出し、ゆっくりとした動作でそれを確認し────完全に言葉を無くして固まった。
「どうした我が友よ、早く見せたまえ」
「ヘルメス、覚悟はできてる。ばっと公開してくれ」
二人に促されたヘルメスは真顔のまま、その羊皮紙を神々の前に公開した。
『攻城戦』
明かされた勝負形式。『旗守戦』と『攻城戦』を組み合わせた『複合戦』。
ヘスティアが完全に言葉を失い、アポロンが哄笑した。
「フハハハハハハハハッ!? 神聖かつ公平なくじの決定だ、異論は認められないぞ!」
よりにもよって、攻めるにしても守るにしても多大な兵力を要する大人数戦闘。しかも本来なら『攻め手』側ならば攻める事だけを考えれば良い所に『旗印』という守るべきモノまで存在する。
攻撃側が圧倒的に不利でありながら、ヘスティアファミリア側が『守衛側』を選ぶ事が出来ない勝負形式。もし『守衛側』を選んでしまえば、制圧勝利されてしまう可能性がある。かといって『攻撃側』は守るべき物を守りながらの戦い。
全員が攻撃を行えない『攻城戦』。完全に人数がモノを言う勝負形式に決まり、ヘスティアが歯を噛み締める。
横から見ていたロキも流石に表情を引き攣らせ、内心で頭を抱えた。普通の『攻城戦』ならまだしも、守るべき『旗印』を抱えての『旗守戦』まで組み合わさり、不利を通り越して不条理ともとれる勝負形式にまで落ちた。
ヘルメスが申し訳なさそうにちぢこまり、ヘスティアが青褪めた表情で固まる中。上機嫌なアポロンが口を開く。
「いくらなんでも防衛側は不可能であろう。特別に攻め手を譲ってやる」
城を守り切るのは不可能。かといって攻め手はより不利。構成員の数が少ない方が不利になる形式。ここで防衛側を選んだとしても勝ち目はなく、攻撃側としても不条理な程に不利である。それでも『旗印』さえ守れれば一瞬で負ける事のない攻め手側の方がまだ
ロキやガネーシャの所からの増員を含めても、『旗』を守りながら城を攻めるのも。『城』を守るのも難しいという言葉を通り越して不可能に近いのはヘスティアにも理解できる。
「わかった……ボクの方が攻め手だ」
「ふむ、賢明な判断だなヘスティア」
既に勝利を確信したアポロンの言葉に、ヘスティアは小さく呻く様にしか返す事ができない。
最悪を超えた展開に彼女が諦めかけたその時、ヘルメスが「すまない、いいかな」と口を挟んだ
「アポロン、これじゃあヘスティアが余りにも気の毒……
「……」
「そこでどうだろう、助っ人の制度を設けるのは」
人数を制限して他派閥から協力者を求める、というヘルメスの提案に、アポロンが目を細める。
「…………ヘルメス、知っているぞ。キミはいつも何てことのないように言って、丸め込もうとする、その手に引っかかるものか」
天界から続く腐れ縁を語りながら、笑みを浮かべつつ不平を零すアポロン。受け入れがたいと、彼は主張した。
「第一、
「ああ、そうかもしれないね」
「それに、極端な話、第一級冒険者に近しい者がヘスティア側に加担すれば、我々の身が危うくなる。ヘファイストスの所など、ヘスティアと仲が良いようだしな」
円卓を見回しながら発言したアポロンの言葉を聞き、神々がうーんと唸り考え込む。
鍛冶の腕だけでなく、戦闘面においても優れている眷属を数多従えるヘファイストスが「そこまで肩入れしないわよ」と肩を竦める。
このままでは完全な
「では、こういうのはどうでしょう?」
オラリオに主神がいない、都市外の派閥の構成員のみを助っ人として許可する。人数については無制限。
ヘスティア側が敗北した場合ヘスティア側に助っ人として加担した者に対して、アポロン側が何らかの要求が出来る。
「これであるならば、相応に仲が良くない限り参加を見送る者が出てくるでしょう。そして、相応に仲がいいのであれば無理をしてでも彼女を救おうとする。美談としても美味しく、相応に公平かと……」
恰幅の良い腹を揺らしつつ満面の笑みを浮かべる商売神をロキが鋭く睨み、思案する。
アポロンに協力している癖に、ヘスティア側に優位になりそうな提案を上げる彼。そして、アポロンは彼の発言を受けて苦々し気な表情で考え込んでいるあたり、無視はできないのだろう。
静かに、アポロンが顔を上げて商売神と見つめ合い。しばらくして溜息を零したアポロンが宣言した。
「良いだろう。ヘスティアファミリアに助っ人制度を認める。ただし、都市外の派閥限定で、なおかつ参加した場合は敗北後になんらかの要求をさせてもらう。それでいいのならばな」
ただでさえ勝率の低いヘスティアファミリアに対し、都市外の冒険者が協力するのか。ましてや負けたらなんらかの要求を呑まねばならない、とまでくれば参加したがる者はほぼいない。そう確信してのアポロンの言葉にヘスティアは小さく拳を握り、ロキが眉を顰めて小さく呟く。
「何が狙いや……」
ヘスティア側に有利になる可能性を、アポロンに呑ませた。
少なくとも、アポロンはそれを呑まざるを得ない状態であるのは違いないが、なぜあのような条件を付けさせたのか、余りにも不気味な商売神の行動にロキは鋭い視線を恰幅の良い男神に向けた。
準備回だけで……八話ぐらい行きそう。ヤバいねこれは……。
商売神の名前、どっかから神の名前拾ってくるのだるいし、他のモブも適当に名前つけようかと思ったけど面倒過ぎるからパス。
『商売神』とかそれで済ませます。
TSロリモノが増えたやったーと思っていたら……増えた奴は次々に更新が途絶え、結局はほぼ無いに等しい状況に……皆頑張って更新をー……と思ったけど皆は私みたいな暇人ではないんだろうなぁ。
更新途絶えて悲しい。元帝国兵の人はアレかな、時期的に台風の影響で停電してる地域の人かもしれないし、なんとも言えないんだけど。
追記:『未完』になってなんで絶望的ですね(白目)
ふと思ったけど、ミリアちゃんって割と『チート』染みた性能ではあるよね。クラスチェンジとか、元のダンまちの冒険者のステイタスとか考えても、一人で複数のステイタスを持ってる様な状態ってどう考えてもチートに近いというか……まぁ、それ踏まえてもレベル上の冒険者に勝てない設定にしてるからチートじゃない判定になってるんだけど。
つまりチート設定でもレベル差に適わないって設定にしとけば……()