魔銃使いは迷宮を駆ける 作:魔法少女()
蒼然とした夜空に星が散らばる。
アポロンファミリアの
エンブレムは掲げられておらず、どこの所属かも不明な馬車を見据えたティオネが深い溜息を零し、呟きを漏らす。
「何、あれ……バレッバレなんだけど」
現在、アポロンファミリアの本拠にはほんの僅かな非戦闘員のみが残るのみ。籠城する古城跡地に向けて出発済み。彼らは籠城に向けての大掛かりな準備があるのだろう。
故に、このタイミングでアポロンファミリアを訪ねる者なんぞ片手で数える処か、たった一つの派閥しか存在しない。わざわざエンブレムを掲げずに訪ねてきていても何の意味もないのだ。
「にしても、きな臭いわね。この
闇夜に身を隠す為の黒色の外套を身に纏ったティオネは小さく舌打ちを零し、巡回として巡ってきた商売神に雇われているらしい傭兵から身を隠すべく影に身を潜めた。
団長の頼みとはいえこそこそ身を隠す行為に苛立ちを覚えつつも、彼らに直接危害を加える処か、見つかってしまえば派閥に多大な損失がある事を理解している。故に、慎重に彼らの話に耳を傾ける。
どうやら愚痴を零しているらしい。
「あぁ、色狂いなんてあてにするもんじゃねぇな」
「だよなぁ。好色家とはいえ流石に考え無し過ぎるだろ」
彼らの会話の内容から、色狂いがアポロンファミリアの主神を指す事を察したティオネが目を細める。
「開催予定まで四日か、何人集まるんだかね」
「最低でも二百、できれば四百集めたいって神様は言ってたな」
「おいおい、相手方はたったの二人……それも片方は片目と片腕やられてんだろ? そんなにいらなくね?」
「知らないのか? あの派閥、ロキファミリアとガネーシャファミリアから数人改宗したぞ。後、ヘファイストスファミリア、タケミカヅチファミリア、ソーマファミリアから一人ずつ」
ティオネは訝し気に眉を顰め、思考を巡らす。
アポロンは他派閥からの改宗による自派閥の増強は行わない方針のはずである。付け加えて言うと派閥に所属していない者の増援が認められているのはヘスティアファミリア側であって、アポロン側ではない。故に人を集めても何の意味もないはずだと考え、二人の巡回兵が消えていくのを見て溜息一つ。
あまり情報が得られそうに無く、団長の役に立てない事に苛立ちつつも場所を変えようと身を起こした。
ギルドによって手配された
「いやはや、ヘスティアファミリアも強情ですなぁ。アポロン様の仰った様にさっさと眷属を差し出せば良いものを……」
「ふむ、確かに少し予定とは違うが。
自信満々に豪奢な金細工の椅子に深々と腰掛けるアポロンが深い色合いの葡萄酒を口にする。
その様子を見ていた商売神の眉がひくりと痙攣し、一瞬だけ鋭い眼光でアポロンを睨むも、即座に表情を和らげて微笑みを浮かべて頷く。
「えぇ、ええ、そうでしょうな。
「ああ、竜に対する対策は万全。古城の修繕も完璧。我が
アポロンが追憶に耽り、愉悦の極みにあるのを目にした商売神が憎らし気に彼を睨むも、遠くない未来の光景を想像して、歓喜に打ち震える彼はそれに気付かない。
「我らの頼み事については考えていただけましたかな?」
表情を微笑みに戻し、媚びへつらう様にアポロンをうかがう商売神。でっぷりと肥えた頬が緩く笑みの形を浮かべているのを見たアポロンは、まるで嫌悪の対象を目にしたかのように表情を歪め、吐き捨てる様に呟く。
「まさか、あの件か────当然、断る」
断言したアポロンが葡萄酒を口にする。それを見ていた商売神は微笑みを崩さずに「それは残念……」と小さく呟く。
「そういえば一つ、面白い噂をお聞きになったのですが、お聞きになりますか?」
「いらん、情報料等と言って金をとる積りなのだろう?」
がめつい商売神のやり口を知り尽くしているアポロンが拒否すれば、商売神は腹を揺らして笑いながら口を開いた。
「あっはっは、ご安心をアポロン様。これはただの噂話です。金をとろうなんて考えちゃいませんよ。
人好きする笑みを浮かべた商売神の言葉にアポロンが訝し気に眉を顰めるも、彼が『嘘』は口にしない事を知っているアポロンは肩を竦めて先を促した。
既に勝利を確信し、ベルきゅんとどんな熱い一晩を過ごすかを頭の片隅で考えながら聞いていたアポロンは、商売神の意図になんぞ気付く様子はない。商売神は頬を緩めながら粘っこい視線をアポロンに向け、明朗な声で
「なんでも、【ドラゴンテイマー】は
ヘスティアファミリアの
アポロンファミリアの構成員が放った無数の魔法、矢、爆発物の全てをその身で受け止めて無傷を誇った怪物。下層種の竜の中でもとりわけ堅牢にて重厚な鱗によって守られ、生半可な攻撃では傷一つ付ける事叶わない、ギルド指標の
アポロンは溜息を一つ零し、商売神を見下しながらグラスを揺らす。
「何を、そんな事既に知っている。確かにあの小人族の娘が下層種の
「ですが、良いのですか? アポロン様の眷属は
しかし、
いくら城塞とはいえ、古城でしかなく、応急処置的な修復しかしていない城壁で下層種の竜を止められるのかは不明だ。
「ふん、そんなもの
望んでいた言葉を引き出した商売神が深い笑みを浮かべる。
確かに、
────だからこそ、アポロンは商売神を敵に回してはいけなかったのだ。
「ええ! ええ、その通りですとも我が派閥の用意した
手もみをしながら自慢の商品を褒め称える商売神。アポロンは訝し気な表情を浮かべ、溜息を零して呟く。
「わかっている。貴様らの用意した大型弩のおかげで作戦は上手くいっている。褒美も期待しておくがいい。あの小人族の小娘の一人程度なら好きにしろ」
ミリア・ノースリスの身柄については、彼の商売神のもとへ引き渡す事が契約上で決まっている。彼の商売神がその再確認の為にしつこく言い寄ってきていると
「アポロン様ぁ、一つ、アッシから助言をさせて頂やしょう」
「……なんだ?」
急激に変化した商売神の態度にアポロンが身構え、彼の神は恰幅の良い腹を揺らしながら指を立ててアポロンを見据える。
「
いやらしくも粘っこい笑みを浮かべた商売神の言葉にアポロンが表情を歪める。
「まさか、金銭を要求する積りか?」
「いえいえ────言ったでしょう? 嘘は吐きません」
嘘は吐いていない。
その紙束を見たアポロンは眉を顰め、紙束を指さして吐き捨てた。
「前にも言っただろう。貴様の用意した人員は使わないと」
彼の商売神が用意したオラリオの外から搔き集められた都市外の冒険者集団。最低基準としてレベル2以上という条件付けで集まった人数は、なんと優に二百人程。今なお搔き集めるのをやめておらずに募集をかけ続けている。
彼らが雇われた理由は一つ、アポロンファミリアに改宗して戦争遊戯に参加する事であった。
しかし、これらについてアポロンは完全に拒否。気に入った眷属ならまだしも、ただの傭兵なんぞに恩恵を授ける等、愛の神たるアポロンの矜持に反すると言って受けなかったのだ。
商売神は腹を揺らして笑い、アポロンを鋭く睨んだ。
「いいえ、
「……何を馬鹿な事を、前にも言っただろう。
太陽神の瞳に映っているのはベル・クラネルただ一人。それ以外を眷属になど、資金繰りの関係でミリア・ノースリスに
商売神の言う事に従う義理は無い。
「それは困りますねぇ……」
「
負ける要素等、どこにもないではないか。自信満々に言い放つアポロンに対し、商売神が額に手を当て、笑みを吹き飛ばして苛立たし気な表情を浮かべ、自信満々な神を睨みつけた。
「馬鹿ですかい」
「なに?」
「馬鹿ですかって聞いてんですよ」
アポロンが商売神の豹変に驚きの表情を浮かべる中、商売神は指を一つ立てた。
「一つ、アッシとアンタの契約はミリア・ノースリスを手に入れて此方に引き渡すまでのモノ」
「あ、あぁ」
「二つ、アンタはアッシらに決して損はさせない事」
「そうだ、ミリア・ノースリスは確実に手に入る。損はしな────」
「勘違いしてやすね」
商売神の眉間に青筋が浮かび、ブチリッと堪忍袋の緒が切れる音が響く。
震えながらアポロンを睨みつける商売神。すでに取り繕う事が出来る段階を超えた怒りを抱いた彼の神は、立ち上がり腹を揺らしながらアポロンを糾弾した。
「アンタの所為でウチは商売あがったりなんだよ!」
「は……?」
怒りのままにアポロンに吠えたてる商売神。
始まりは、ほんの些細な事からだった。
【ドラゴンテイマー】に対する素材の取引を許可する様に頼み込んだ。しかし、ガネーシャファミリア管轄であるから其方に訪ねてくれとたらいまわしにされ、行きついたガネーシャファミリアでは『え? 無理』の一言で叩き斬られ、せっかくの金脈が死んでいる事に腹を立てた。
それを聞きつけたアポロンファミリアが協力を申し出てきたのだ。彼の派閥を滅ぼしてほしいモノを手にするのを手伝って欲しいと。最初は拒否したが、よく話しを聞けば彼の太陽神が欲しているのはベル・クラネルただ一人。ミリア・ノースリスはもののついで、最悪の場合はベル一人を手に入れれば他はどうなろうが知った事ではないと。
つまりミリア・ノースリスの身柄を快く譲ってくれるというのだ。商売神はその手を取った。彼の神の言った『ヘスティアなんぞ、少し脅せば簡単に眷属を差し出す』という台詞も彼の神の背を押した。
「アンタは何か勘違いしてやす」
商売神としては、脅せば簡単に手に入るなら是非とも自派閥のみでそれを行いたい。けれど実際にそれを起こすには商売神の派閥は『清廉潔白』が過ぎた────正確にいうなれば多少後ろ暗い事はしていても、表面上は清廉潔白の派閥として振る舞っていたのだ。しかしガネーシャファミリアやギルドからは目を付けられ、警戒対象に入っている。
この状態で新興派閥のヘスティアファミリアを恐喝する真似なんぞ出来る訳がない。今度こそ痛い腹を探られて面倒な事になる。
だが、アポロンファミリアが脅すなら話は別だ、何せ彼らは前科が山ほどある。今更、前科が一つ二つ増えた所で痛くも痒くもない。故に、彼らを矢面に立たせて自分たちは美味しい所だけをかっさらおうとした。
とはいえ、それではアポロンも納得しない。だからこそ大量の資金を搔き集め、アポロンファミリアに物資や兵器を貸渡した。兵力も含め、ヘスティアファミリアが
だが、問題が発生した。
アポロンは、商売神の用意した戦力を派閥に加える事を拒んだのだ。最初は何度も説得を試みたものの、頑ななアポロンの態度に折れ、商売神はこのまま作戦を進める事に決めた。
それが、間違いだった。
「アッシらはね、
アポロンの言う通りなら、彼の神の宴の会場ですでにミリア・ノースリスの身柄を確保できていたはずなのだ。しかし、彼の派閥の主神である女神はそれを拒否。そしてアポロンは
商売神は慌てに慌てた、確かに物資や兵器を貸し与えた。だからといって実際に
そう、使うのではなく、見せつける。戦う前に、戦っても無駄だと思わせて降伏させる。それこそが商売神の思惑。
何の損失も発生せず、戦力だけを見せつけて終わる。簡単な話に、なるはずだった。
「
だが、神の宴で女神ヘスティアは一度、戦争遊戯を拒否した。商売神は諸手を上げて喜んだ、これで損失は少なく済むと。戦力差的に当然の判断で、後は圧力をかけるだけ。
かけるだけ、だったのに。
「アンタら、アッシらの派閥が用意した
あれの所為で、ギルドから厳重注意が下ったのだ。アポロンファミリアと────彼らに大型弩を提供した、してしまった商売神の派閥に対してである。
竜素材にて金を稼いでいるはずだったヘスティアファミリアから罰金として毟れたのはほんの雀の涙程度の金額。それによってギルド長たるマルディールが他からどうにか金を得られないかと策略を練っているさ中にアポロンがやらかした。
商売神の派閥に対して罰金を背負わせる絶好の
これなら、まだ取返しが付く。そう、女神ヘスティアが降参してミリア・ノースリスの身柄を手に入れる事さえ、できていれば。
しかし、アポロンは芳しくないどころか、最悪の結果を引き当ててくれた。
「ですが、アンタはミリア・ノースリスに重傷を負わせた────結果、彼の女神を怒らせた」
ミリア・ノースリスに重傷を負わせた。片目に片腕、欠損という冒険者にとっての致命傷を与えてしまった。
それが引き金となり、女神ヘスティアは一度は断ったアポロンとの戦争遊戯に乗った。
脅すだけで終わる、簡単な話を、莫大な金を必要とする
「アッシは感謝の極みです。えぇ、アンタの所為でアッシの派閥の看板に大きな傷っ! ギルドの
どう考えても、大損である。ミリア・ノースリスの身柄を手にしたところで、この損失を埋めるには数年かかるに決まっている。商売神が想定した最高の結末から程遠い、最悪の結末に向かっている。
だからこそ、此処で一手打つ。その為に、アポロンを脅すのだ。
「わかりやすよね? この傭兵を受け入れなきゃどうなるか」
「……まさか」
アポロンファミリアとヘスティアファミリアの
結果は言わずもがな、アポロン側が勝利するだろう。ただし、下層種の竜の存在を考慮しなければの話だ。
「
「このタイミングで裏切るか……チッ、使えない奴だ。だが、良いだろう。金も払おう」
苛立たし気に、裏切られた事を知ったアポロンが商売神を睨み返す。
資金については問題ない。使用した分を支払う事ぐらいは可能だ。
「あぁ~そうですかぁ~。なるほどなるほど、金だせば黙ってくれるとでも思ってやすね?」
「……どうした? 金なら払うが」
「お断りします」
「な!?」
驚愕の表情を浮かべたアポロンの正面に座る商売神は、腹を太鼓の様に叩きアポロンを嘲笑しながら、囁く様に告げる。
「それと、アッシらが集めた兵力についてなんですがね────今から彼らを連れてヘスティア様に頭を下げに行こうと考えてるんですよ」
「ま……まさか」
『オラリオに主神がいない、都市外の派閥の構成員のみを助っ人として許可する。人数については無制限』という
商売神が集めていたのは
「わかりやすか? アンタの所為でアッシらは大損。もう一度言いやすが、戦争遊戯なんて真っ平御免なんですよ」
だから、圧倒的戦力差を見せつけての、無条件降伏を突き付けろ。その為に、商売神が用意した戦力を派閥に迎え入れろ。そう脅しかけてきた商売神をアポロンは苦々し気に睨みつける。
「私の矜持を知っていての発言か……?」
「矜持? アッシは色狂いの大馬鹿野郎の矜持なんて知ったこっちゃ無いですよ」
アポロンを見下した商売神は腹を揺らし、テーブルの上の資料を指さす。
「レベル3を五人も用意できやした。これが敵に回ったらどうなると思いやす?」
「……ぐっ」
資料に乗せられた都市外の冒険者の
たとえ都市内の冒険者の方が優れていようと、レベル3冒険者を五名もぶつけられれば一溜りもない。ましてや二百名を超える人員だ。彼の商売神が用意した戦力が、全てヘスティアファミリアに受け渡されればどうなるのか────ましてや、
「アポロン様よぉ、アンタが負けたらどうなるでしょうねぇ?」
完全に脅しに来ている商売神の様子にアポロンがたじろぎ、どうすべきか必死に考える。
現在の自派閥の戦力。商売神から借り受けている
ヘスティアファミリア側に全て持っていかれれば────負ける。
何せ
「負けるか、条件を呑むか、選んでいただきやしょう」
だから言ったんだ。タダより高いモノは無いと、商売神が嗤う。間抜けな太陽神を嘲笑し、勝利を確信した商売神。アポロンはただ睨み返す事しかできない。
「くっ、わかった、条件を呑もう」
「あぁ、条件についてですが……もう一つ追加をお願いしやす」
「な!? まだ何かあるのかっ!」
条件の追加を言い渡した商売神の顔を睨んだアポロン。次に放たれた商売神の言葉にアポロンは顔を引き攣らせた。
「アポロンファミリアに入団を希望する全ての者を受け入れてください。やらなきゃ、わかりますよね??」
ニンマリとあくどい笑みを浮かべた商売神の言葉。
今まで訪ねてきた入団を希望する者達を門前払いしていたアポロンに対し、これから訪ねてくる団員は、たとえ犯罪者であったとしても全てを受け入れろ。彼の商売神はそう言っているのだ。
「待て、流石にそれは」
「でしたら、アッシはこの資料を手にヘスティア様の所を訪ねましょう」
見た目にそぐわない機敏な動きで傭兵の
「今のアンタに許される返事は『はい』か『Yes』だけだよ。いい加減気付け間抜け」
アポロン君、味方のはずだった商売神に手酷く裏切りをされる。
まぁ、アポロンは『戦争遊戯』を目的にして動いてましたし仕方ないんですけど。
商売神は金のかかる事が嫌いで、なおかつ裏では非道に走ろうと表面上は『清廉潔白』でいってたのにアポロンが引き起こした街中での抗争で裏で手を引いていたと糾弾されて看板を傷だらけにされましたしね。
『戦争』に金がかかるのは当然。金をかけたくない商売神としては戦争遊戯はNo, thank you. 当たり前だよなぁ?
敵方を間抜けに描写し、味方側を有能に描写する。最近流行りの『なろう系』を意識してみました()
敵方:味方に裏切られる間抜けなアポロン。
敵方:アポロンのやり口と反りが合わず裏切らざるおえなくなった商売神
味方:最大限、出来得る事をしまくりつつも相手の警戒心に引っかからない神ロキ。
味方:色んな所に対し牽制しまくりつつも戦力を送ってくれるガネーシャ様。
完璧じゃないですかね?
敵対は戦力超強化。(なお連携はごみ屑)
味方も戦力強化だけど雀の涙。
戦争遊戯が楽しみですねぇ。