魔銃使いは迷宮を駆ける 作:魔法少女()
糞女が死んで、死んで。居ないはずなのに、声が聞こえる。
『あんたのやる事成す事、全部無駄だってわかんないわけ?』
仲間を搔き集めた。同じ境遇に立たされて部下として扱われている組織の者達を扇動して糞女を殺す為にと、元居たあの頃に帰る為にと、仲間を集めた。
作戦決行まで残り一週間。糞女の監視の目を掻い潜り搔き集めた
後少し、後少しと急ぐ気持ちを抑えて慎重にあの糞女を殺す手筈を整える。三日後にはあの糞女は海の藻屑と消える。あとすこし、だったんだ。
『よくやるわねぇ、まぁ無駄だけど』
用意していた船が海上の沖で炎上している。本当なら、糞女もあの船に乗っていて、扇動して反旗を翻した下っ端共がやらかした
灯台から双眼鏡で眺めていた。ようやく、あの女が死んで自由の身になったのだと、安堵の吐息を吐いて灯台の階段を下りていく。一段、一段を踏みしめる度に湧き上がる歓喜。これで終わりだと零れそうになる笑いを堪えて灯台の入口の扉を開けた。周辺に集まった同志達に作戦の成功を知らせる為に声を張り上げようとして────開け放った扉の先であの糞女が不機嫌そうに立っていた。
『はいはい、久しぶりねぇ……にしても、よくもまぁこんなに集めたものね。私も気付かなかったし、というかよく裏切りを唆したわね。絶対に裏切らないって信じてた部下まで私を裏切ってたのには驚いたわ。やっぱり私が思った通り、アンタには才能がある』
パチパチと手を叩きながら歩み寄ってくる女。灯台の周辺に集まった同志達が、全員倒れ伏していた。周囲を取り囲むあの糞女の部下達。片手に持っているのは、箱の様な何か────銃の機構が組み込まれた、一見ただの箱にしか見えない、暗殺用の武装だ。それは、その武器は、搔き集めた仲間を殺したその武器は、俺が使い捨ての下っ端に提供した、目の前の糞女を殺す為の武装だ。
『信じられない。後少しで私が
醜悪に笑うあの糞女が、優しく肩を抱いてくる。片手に黒い塊、バチバチと電撃の音を響かせるスタンガン。見様見真似の格闘術での抵抗を試みようとして────気が付けば俺は椅子に縛り付けられていた。
どこかの倉庫、じゃない。俺が
『あっはっは、マジ怖いわアンタ。別動隊用意して確実に仕留めにくるとか、流石に冷や汗かいたわ。あぁ、アンタの才能が恐ろしいわ。この子、お気に入りだったのに……私を裏切ったんですもの。何? 抱いたの? どんなふうに? 絶対に裏切らないって思ってたのに、この子は私を裏切った。信じられる? 私の為に死んでも良いとまで言ってくれた
倒れた仲間の一人。まだ年端も行かない少女だ。どっかの国の孤児院で違法な娼婦として売られていた所を、糞女が買い取った者だったと思う。心地良い言葉と、献身の姿を見せて裏切りを唆して、此方の味方に引き入れた彼女。手を、打った。出来得る限り、可能な事は全て。それでも届かなかった。
謝罪の言葉が響く。許してくださいと必死に懇願する少女の声。助けてと叫ぶ彼女に対し、糞女は無造作にスタンガンを押し当てた。違法改造された、致死性の電撃を放てる、殺人道具と化したそれ。
『アタシが集めた子達、半分ぐらい裏切っちゃった所為で組織が滅茶苦茶なんだけど……立て直しまでかなりかかるじゃない。まったく』
ぶつぶつと文句を零しながら足元の少女にスタンガンを押し当て続ける糞女。痙攣して悲鳴を上げる事も出来ずに縛られた体が陸に打ち上げられた魚の様に跳ねて、跳ねて……あの糞女が退くと、糞尿を垂れ流して白目を剥いた少女が微弱な痙攣をしたまま、多分、ほぼ間違いなく絶命していたと思う。少なくとも、その後姿を見てはいない。
『まぁ、アンタが
言う事を聞くなら。俺が半壊させた組織の復興を手伝うなら、今後一切裏切りを行わないなら、今まで通り
『アンタの才能はね、最っ高。アタシですら気付けずに、滅茶苦茶な損害が出ちゃったし。だからね、惜しいのよ……アンタが惜しい。アタシの指示に従う、部下であってくれれば……こんな事する必要も無いんだけどね』
押し当てられたスタンガン。弾ける
電撃が止んだ瞬間、求めていた空気を肺一杯に吸い込もうと口を開き────糞女に唇で塞がれた。熱烈な
電撃による苦痛。
あの女が嗤っている。
『だから、言ったでしょう? アンタの行動は全て無駄に終わる。足掻くのをやめなさい、私の為に生きて、私の為に死になさい。そうしてくれるなら、アンタの大事なモノには手を出さないでおいてあげる』
押し当てられたスタンガン。響く嘲笑が倉庫の内部で反響する。集めた仲間が倒れ伏し、立てた作戦は無駄に終わり、あの女が嗤うのだ。いつだって、なんどだって────
────上手くいくはずの作戦は、なぜか歯車がズレて上手くいかない。
気分を害する悪夢を見て魘されて目覚めた次の日の朝。ベッドから起き上がる事も出来ないぐらいの頭痛、そして暴れ狂う吐き気。昨日の出来事を思い返しつつ、深く深呼吸を繰り返す。
『旗守戦』と『攻城戦』の組み合わせ。
自らの派閥のエンブレムの刻まれた『旗印』を破壊された方の負け。
『旗印』は
アポロン陣営が『籠城』する城塞。城塞内のアポロン陣営の人数より、ヘスティア陣営の人数が倍の数になれば『制圧勝利』。アポロン陣営が三日間、城塞を守り通せば『防衛勝利』。
開示された勝負形式に則った机上戦闘。アポロン陣営の指揮を行ったのはフィン。ヘスティア陣営の指揮を行ったのは俺。結果は十戦中、アポロン陣営十勝、ヘスティア陣営十敗。
攻撃側でありながら、守らなければいけない『旗印』を抱え込まされたヘスティア陣営。全人員を攻撃に回せなくなるどころか、全人員を防衛側に回してもすり潰されて負ける事しかできなかった。
もっと、人員が必要だ。リューさんが増員として入ったとしても、まだ足りない。
ベル、俺、リリ、ヴェルフ、ロキファミリアの五人、ガネーシャファミリアの三人、リューさん、ミコト。加えてキューイとヴァン。
ヘスティア陣営、総勢14名+2匹。『旗印』設置場所、平地。
対するアポロン陣営、総勢108名。『旗印』設置場所、城塞内部。
馬鹿げてる。どうしてこっちは防衛用の壁も何もない平地に『旗印』を置かされてるにも拘わらず、相手陣営は防壁に囲まれた城塞内部に『旗印』を置くのだろう。勝ち目が微塵もありゃしない。
クリスさえ参加許可を得られれば、そう思いギルドに問い合わせを行った結果は……一度目に拒否されて以降、送った嘆願書は全てそっくりそのままロキファミリアに返還されてきた。呆れてモノも言えない、忙しいの一点張り。神ウラノスの考えはさっぱりわからないが、クリスの参加はできないし、最初の一通目の返答が『結晶竜の参加は許可できない。この通達を無視した場合、ヘスティアファミリアを殲滅対象派閥に指定する』である。簡単に言えば『
「最悪な気分、あーああー……はぁ」
ベッドから身を起こして溜息。時計を見ればすでに十時を回っている。寝坊だ、昨日は────何時に寝たんだったか。ベッドに入ってからもずっと勝つ為の作戦を考え続けていて、何も思い浮かばなかったんだ。
深い溜息が零れ落ちる。夢見は最悪で、散々魘された挙句の果てに寝坊。
早く起きて朝食を食べなければ。戦場はオラリオ南東部に存在する『シュリーム古城跡地』。
跡地とはいえ堅牢な城壁を兼ね備えた城塞だ。近隣の村や街から『盗賊団が住み着いている』との報告と、討伐の
ガネーシャファミリアがギルドの要請で討伐に向かっており、地形情報等を記載した地図なんかを秘密裏に此方に用意してくれる手筈になっている。────露見しようモノなら間違いなく叩かれる危険な行為だが、ガネーシャ様は『俺に任せろっ。俺を誰だと思っている、俺はガネーシャだぞ!』と自ら申し出てくれた、らしい。
ありがたい、話なのだが…………現状ではその地図が役に立つとは思えない。そもそも城壁の突破前に『旗印』の防衛が上手くいかないのだから。
着替えを終え、扉を開け────バンッと扉が開かれた。目の前に立っているのは、ティオネ・ヒリュテだ。外から騒ぐ声が響いてくる。何事かと驚いていると彼女の腕が伸びてきて首根っこを掴まれた。
「ちょ!? 何事ですか!」
「緊急事態よ、今起きた所なのはわかってるけどすぐ来なさい」
来なさい。そう言いながらも首根っこを掴んだ状態で廊下を駆けていくティオネさん。駆け抜ける廊下には無数の団員が騒がしく駆け回っている。まるで火事でも起きた様な騒ぎだ。背筋が凍り付く感触と共に、糞女が耳元で囁く様な声が響いた。
『どうせ全部無駄なんだから、諦めなさいよ』
────無駄かどうかなんて、まだわかりゃしないだろう。
リリルカ・アーデは街を駆けていた。つい昨日、ソーマファミリアを脱退してヘスティアファミリアに
息せき切らし、大急ぎで向かうのはロキファミリアの
時刻は既に昼過ぎ。
彼女が急ぎ駆け抜ける理由は、ロキファミリアから護衛として待機していたアナキティ・オータムという猫人の少女がもたらした最悪の知らせにある。
ヘスティアファミリアが臨時拠点として利用していた場末の酒場兼宿。扉を蹴破る勢いで飛び込んで来た猫人は、激しく動揺した様子でその場に居た女神ヘスティアと、リリルカに叫んだ。
「アポロンファミリアが都市外の冒険者の
ヘスティアは目をひん剥いて『嘘だ、有り得ない! あの
詳しい話を聞けば────あのアポロンファミリアが増員を決定した事。街中で商人達が騒ぎ立てているらしい事。アポロンファミリアの団員が多数の『入団証明書』を抱えてギルドに足を運んでいる事。
とうてい信じられない情報が数多飛び出し、夢か何かなのではないかと現実を疑う状況にまで至ってヘスティア様が苦悶の表情を浮かべて、リリルカに頼み事をした。
『ミリア君たちにこの事を知らせてくれ。ボクはまだ協力してくれそうな冒険者達を探すから』
欠損を抱えた冒険者。彼らを味方に引き込むという目的でヘスティア様が駆けずり回っているのは既に知っていた、そしてその結果が芳しくない事も知っている。
通常、欠損を抱えた冒険者は派閥を抜ける。抜けたその後は────どうなるか知っている者はいない。
ロキファミリアやガネーシャファミリア等、大きな派閥であれば欠損を抱えた元冒険者をなんらかの役職、新人の育成等に就けるか、職場を斡旋して生活環境を整えるかのどちらかを行う事ができる。しかし、小規模、中規模程度の派閥ではそこまで手が回らない。結果として、小・中規模派閥の欠損冒険者は派閥の脱退後は
派閥の保護下にある欠損冒険者を勧誘する事はできない。『再生薬』の効力を知れば、余計な手出しをしてくる派閥が増えかねないのだ。だからこそ大規模派閥であれば信用できる派閥からしか受け入れられず、小・中規模圧であれば無所属に堕ちた者は行方知れず。結果、勧誘対象を見つけるのも苦心している現状。
戦争遊戯の勝負形式の時点で神ロキ曰く『勝ち目が毛程も無い』と言わしめる程の状況だというのに、アポロンファミリアの増員という最悪の知らせである。
駆け抜ける街並みの中、商人達が声を張り上げている姿がちらほらと目に映る。
「今ならあのアポロンファミリアに入団できるぞ!」「彼の派閥であれば勝ちは確定、旨い汁を吸いたけりゃ今から神アポロンの所に行くべきだ」「戦争遊戯の活躍次第では、正規団員として認めてくれるぞ」
無所属の冒険者が足を止め、彼らの話を耳にしては囁き合う。
「あのアポロンの所だろ? どうする?」「美形揃いの所じゃねぇか。前訪ねた時は断られたが今ならいけるらしいな」「俺、今から行ってみようと思うんだが」「俺も行こう。あの派閥に入れれば旨い汁が吸えるみたいだしな」
商人達の口車に乗せられ、その気になった冒険者達が駆けていく。上級冒険者も下級冒険者も関係なく、全ての団員を受け入れるという凶行はとても信じられない。すでに百人を超える入団者を迎え入れて戦力が跳ね上がった彼の派閥、それがヘスティアファミリアを潰そうとしているという現実がとてもではないが信じられない。
足早に駆け抜けるさ中、背中に聞こえた声にリリルカは目を見開く。
「アポロンファミリアの増員数、二百を超えたってよ」「三百いくんじゃね?」
今なら、彼の中堅派閥になんの審査もなく入れる。そんな噂を聞きつけた者達は我先にとアポロンファミリアに入団を申し込みにいっている。収集が付かない程に集まっていく人員。元の数を合わせれば、人数だけで言えばロキファミリアに匹敵するほどの数にまで膨れ上がっているだろう。
いくらなんでもおかしいと感じつつもリリルカ・アーデは大通りを抜けてロキファミリアの本拠前に辿り付く。
「む、お前は」
「あの! リリはヘスティアファミリアの団員です! ベル様とミリア様に会いにきました!」
「少し待て、確認をとる」
門兵の冒険者の片割れが駆けていくのをもどかし気に思いながらも仕方なく待つ事しかできない。
暫くして、確認がとれたのか案内役の冒険者に引き連れられ、他派閥の本拠の廊下を歩いていく。普段の日常では有り得ない、他派閥の本拠を案内されるという状況。早鐘を打つ心臓を落ちつけようと何度も深呼吸しながら案内役に着いて行った先、客室の一つらしい扉の前に立った案内役の冒険者が扉を開けようと手をかけた所で、ガシャンッと陶器の割れる音と共に甲高い悲鳴にもにた叫びが響き渡った。続くのはなだめるような声。
『そんなの嘘よ!』
『落ち着いてくれ』
『落ち着く!? なんでアンタはそんなに落ち着いてられるのよ!!』
『今、慌てた所で事態は好転しない。だから落ち着いて話し合おう』
『五月蠅いわね!!』
暴れる様な音と、甲高い悲鳴にも似た叫び。それをなだめようとする誰かの声。
甲高い悲鳴にも似た叫びは、リリルカにとって聞きなれないモノだったが、同時にどこかで聞いた事のある声だった。まさか、という予感と共に案内してくれた冒険者を押しのけて扉を開く。
客室だったと思われる部屋の中には資料が散乱していた。資料以外にも
淡い金髪の髪をガシガシと掻きむしりながらもブツブツと何かを呟く小柄な人物。それに相対しているのはロキファミリアの団長であり、世界最強の小人族と謳われるフィン・ディムナだ。なぜか紅茶塗れになっている彼は、冷静な声で対面の人物に語り掛けている。
「どうか落ち着いて話を聞いて────」
「黙ってなさいっ! アンタの話を聞いてもどうにもならないでしょ! 考えさせて……」
異常な程に興奮した様子で叫ぶ人物。リリルカ・アーデはその人を見て言葉を失った。
長くのばされた淡い金髪の髪。小人族の中でもとりわけ小柄でリリルカよりも更に小さい背丈。見開かれた目は
「ミリア様……」
「フィン、資料を……アイツらは何人に増えるの?」
「…………少し待ってくれ、すぐに確認を────」
「ねぇ、早く……時間が無いのよ!?」
唐突に叫びながら立ち上がり、髪を掻きむしりながら爪をガリガリと噛みながら呟きを零したかと思えば、ソファーに腰掛けて資料に手を伸ばして駒を動かし始める。明らかに正常な様子ではない彼女の姿に息を詰まらせ、リリルカは震えながら部屋に入った。
足元に転がっていた陶器の破片を踏んでしまい、パキリッと音が響く。バッと顔を上げたミリアとリリルカの視線が真っ向からぶつかり合い、ミリアが微笑みを浮かべた。
「リリ、ソーマファミリアから脱退おめでとう。少し待って頂戴────どうにか勝てる案を考えるから」
背筋を凍り付かせる悪寒。正常じゃないのに、明らかにアポロンファミリアの増員という情報で
「フィン、その資料貸して」
「あぁ、これかい」
「……
「もう終わってる。これが
頭から紅茶をぶっかけられていながらも微笑みを絶やさず、ミリアを刺激しない様に彼女に従うフィンの姿。普段なら有り得ない光景だ。
あの冷静沈着で臆病な程に慎重に物事に当たるミリア・ノースリスが第一級冒険者を顎で使う真似をしている。現状がどれほど彼女の負担になっているのかなんて、考えるまでもなかった。
ただでさえ『勝ち目が無い』と言われるほどの状態。それをどうにかしようとしている。冷静さを欠いているはずなのに、冷静に戦力を分析して勝利への道筋を立てようとしている姿にリリルカは言葉を失う。
「ミリア、キミはまだ朝食を食べていなかっただろう? そろそろお昼だ、一度休憩を────」
「煩いわね、そんな時間は無いわ」
「……キミが倒れでもしたら、もっと事態が深刻になる。休憩を────」
「煩いって言ってるのよ!」
彼女の手元にあったインク壺をフィン・ディムナに投げつけた。回避は容易なはずのそれを真正面から浴びて真っ黒になったフィンは静かに目を瞑ったまま黙り込む。荒い息を吐きながらも資料に手を伸ばしたミリアは舌打ちを零し、立ち上がった。
「
「……わかった。気を付けて」
「リリ、そこを退いて」
有無を言わさない態度に、扉の前で呆然としていたリリルカは思わず道を開けてしまう。
荒い息を零しながら、冷静さを明らかに欠いているミリアが立ち去った部屋。インクまみれのフィンは小さく溜息を零してタオルに手を伸ばした。
「水性インクで助かった。油性だったら落ちなかっただろうしね……っと、すまない。今ちょっと立て込んでいてね、キミは確か……リリルカ・アーデだったかな」
インクを拭き取ったフィン。オラリオが誇る第一級冒険者。そんな人物はミリアに当たり散らされてなお、冷静な振る舞いを崩さずに散らばった資料を搔き集め、テーブルの上に乗せなおし始めた。
「困ったね、一番冷静だった彼女が
そう呟いたフィンは資料の一つをテーブルに乗せ、残ったティーカップに紅茶を注いでリリルカに手渡した。
「あ、ありがとうございます……」
「どういたしまして」
「……どうして、怒らないのですか?」
「んー……彼女の気持ちは痛い程わかるからね」
「むしろ彼女はあの状態でも冷静な方だよ」
泣き叫んで全てを投げ出してもおかしくない。そこまで追い詰められてなお、彼女は
戦力を分析し、勝率の高い作戦の立案を行う。不足する情報の中、持ち得る手札から導き出される答え全てが『敗北』であったとしても、考える事を止めない。
「本当に申し訳ないけれど、ボク達ロキファミリアはこれ以上手を貸せない」
ベル・クラネルとミリア・ノースリスの鍛錬を請け負っている。敵の情報を搔き集めた。可能な限り人員も用意した。アポロンファミリアに対する直接的な攻撃を除けば、出来る事は全てやりつくした。
それでもなお、アポロンの奇行によって勝率が限りなくゼロに近い状況に叩き落された。
「儘ならないね……」
深い溜息と共に零された言葉に、リリルカは表情を歪めた。
リリルカは鍛錬場で魔法を連射し、用意された的を片っ端から撃ち抜く背中を見つめていた。
別の鍛錬場ではベル・クラネルが第一級冒険者三人相手に必死な立ち回りを繰り返している。
二人とも、余裕は無い。あの戦力差相手にどうすれば良いのか必死になって考え続けてもなお、案は浮かばない。派閥を率いる団長であり、困難を何度も乗り越えてきたフィン・ディムナですら『悪いけど、ボクも何も浮かばないんだ。情けない事にね』と暗い表情を浮かべる程の状況。素人でしかないリリルカに妙案が浮かぶわけもない。
それでも、彼女は小さな胸に手を当て、ただ無心に的を射抜くミリア・ノースリスの背中を見つめていた。
どれほど
パタリと、唐突にミリアが倒れ伏す。
「どうして……どうして助けてって言ってくれないんですか。ミリア様……」
自分一人で何でもこなしてしまう。彼女はいつだってそうだった。本当に、小器用になんでもできてしまう。
ベルと違って、彼女には欠点と呼べるものは無かった。
簡単に口車に乗せられて騙されそうになるベルと違って、彼女は詐欺にあう事は無い。いつだって冷静で、場を見極めて場を治める。
彼女の助けになりたいと思った。彼女が救ってくれた、
その彼女が、今まさに壁にぶち当たっている。遥か高い壁に阻まれ、それでも何とかしようと涙を零しながらも足掻いている。────それでも、誰かに助けを求めるのではなく、自力でなんとかしようとしている。
彼女を助けたいと願った。余りにも器用な彼女は、なんでも自分で片付けてしまう事が多い。だから、助けなんて必要無さそうで、今回だってそうなんだと思っていた。
増強されていくヘスティアファミリア。片目と片腕を失っても治す手段を自力で用意していた。いくつもの大型派閥と取引してアポロンファミリアに対抗する手段を整えていた。
矮小な小人族でしかない自身なんかでは届き得ない程に数多の手を打ち続ける彼女の背中が、遠かった。だから、今回もきっと、自分には出番なんて何もなくて、彼女が解決手段を見つけてしまうのではないかとリリルカは思っていた。
「ミリア様、たすけてって言ってください。そうすれば────」
助けは必ず来る。そう呟き、リリルカは拳を握り締めた。
「今度は、リリの番です……必ず、かならず救ってみせますから」
ミリアちゃんは『助けて』とは言わないでしょうね。前世で散々人を蹴落としてきた自分なんかが『助けて』なんて言える訳が無いって考えてるでしょうし。普段から『私なんか』等と自分を貶してばかりですしねぇ。
リリと同じような感じですね。『第五十二話』でリリが『助けてなんて言える訳ない』と言ってたのと同じ様な理由。
今日の更新が遅かった理由は……その、お酒の飲みすぎですごめんなさい。
途中から『やべぇな、これ以上飲むと書けなくなる』って自分でも理解しながらもやめられず、途中でぶっ倒れて気が付けば7時過ぎです。いやぁ……最近、お仕事忙しくてストレスがですね(小声)
とりあえず今日中に上げれたのでセーフ。
TSロリ、殆ど更新ありませんね。
ノリと勢いだけで書き始めればそうなるのは当然……っていうのは私が言っていい台詞じゃないんですけどね。
『第六十四話』のあとがきで『ランクアップ後の強化どうしよう』とかほざいてましたし。その後、読者の感想で『ミリカンのクラス一杯あるっぽいし活かしてほしい』みたいな感想から『じゃあクラスチェンジみたいな感じで』とクラスチェンジを入れて……。
バランス調整の為に『職業変更って拠点でしかできないのが普通よね、じゃあヘスティア様だけが変更可能って事で』と適当に決め……。
※この時点ではクラスチェンジの理由は考えてません。
『第八十五話』~『第八十九話』で『ヘスティア様居るからイベントっぽくクラスチェンジし放題じゃんやったね』と運よく話が盛り上がるパターンになって……。
『第九十一話』で『水着回だ! っと、そういえば感想でヘルメスから見たミリアちゃんってどんな感じなのか知りたいって言われてたっけ? じゃあヘルメスから見た感想をー……うーん、まぁテキトウに書こう』と適当にクラスチェンジの理由付けして……『よし、書き終わった! あるぇ……? 水着回はどこ? ここ?』とかほざいてるんですよ?
もうね、私自身がノリと勢いだけで週一更新してるんで他の人に『ノリと勢いだけで書くとエタるからやめた方が良いよ』なんて口が裂けても言える訳ないんですよ。
とりあえず……その、他のTSロリ作者の皆、頑張れ! 私も完結まで頑張るから!