魔銃使いは迷宮を駆ける 作:魔法少女()
激しく打ち鳴らされる金属の悲鳴。
打ち合わされる度に飛び散る火花、目にも止まらぬ銀閃を前にそれを真っ向から叩き落す鈍色の斬撃。
真後ろに迫る影が少年の頭部目掛けての刈り取る様な鋭い蹴りを放ち、それは空を切る。数本の白髪が飛び、身を捻って大剣の一撃を回避すると、今度は銀の一閃が回避した先を抉り切り取る様に振るわれる。
罅割れたナイフでその一閃を受け止め、続く蹴りに対応が遅れた少年の横っ腹をすくい上げる様に攻撃が炸裂し、少年の体が宙を舞う。錐揉み状に回転して鍛錬場の踏み固められた土の上に投げ出され、少年は痛む体に鞭打って即座に立ち上がった。
荒い息を吐きながらもなんとかナイフを構え────次の瞬間には顔面を穿つ正面蹴りが炸裂し、少年、ベル・クラネルは鼻血を噴きながら倒れ伏す。
不機嫌そうに鼻を鳴らしたベートが半眼でベルを睨みつけて口を開く。
「遅ぇぞ、兎野郎。何度言えばわかる、いちいちテメェが構えるまで待ってくれるとでも思ってんのか? あァ?」
「……ベートさん、やり過ぎだと思います」
「今のは酷くない? 結構良い反応だったと思うけど」
小休止と言う様に剣をおろすアイズ。肩に大剣を担ぐティオナ、頑なにポケットから手を出さずに蹴りだけで攻め立てるベート。第一級冒険者三人を相手にした過酷な鍛錬。
ベートの過激な追撃に苦言を漏らすアイズと、ベルの反応速度を褒めるティオナ。二人をちらりと見たベートは鼻を鳴らすとベルを見下し、呟く。
「テメェはそれで満足か?」
「…………いえ、僕は……まだ」
鼻血を拭き取りながら震える膝を叩いて顔を上げたベル。過激な追撃に晒され、その鎧はへしゃげ、凹み、原型を留めていない。手にしていた鈍色のナイフも、罅割れて砕ける寸前。それでもベルは立ち上がり、構えをとって三人を見据えた。
何度も、何度も、何度も、ほんの少しだけ遅れた瞬間に捻じ込まれる蹴り。幾度となく打ち込まれたその蹴りをとっさの反応で回避を試み、回避しきれずに直撃の威力を下げる程度しかできなかったとはいえ、それでも立ち上がる事ができる。それを見たアイズが小さく頷いて構えをとり、ベートが無言で姿勢を落とす。ティオナが大剣を振るって重々しい風切り音を響かせ────今まさに鍛錬の再開を行おうという場にフィンの声が響き渡った。
「ベル・クラネル、アイズ、ベート、ティオナ、四人とも少し待ってくれ」
肩に槍を担いだ小人族が微笑みを浮かべながら砕けた短剣の残骸と鎧の欠片、そして少なくない量の血が飛び散った鍛錬場に足を踏み入れる。
急に現れたフィンの姿にベートが不愉快そうに眉を顰めるのを他所に、アイズとティオナは完全に武器を下してフィンを出迎えた。ベルは突然やってきたフィンの姿に驚きながらも休息を求めて荒い息をつく体をなだめようと深呼吸をしていた。
「すまないね、少しベル・クラネルと話をしたくてね」
片目を閉じて気さくそうに話しかけてくる姿を見ながら、ベルは姿勢を正して彼を真っ直ぐ見つめ────次の瞬間、喉元に突き付けられた槍を見て目を見開いた。
切っ先は微動だにせずに少年の喉元で静止しており、何が起きたのか理解するのが遅れた少年の理解が及び喉を鳴らす。それを見てフィンは気さくそうな雰囲気を一切崩さずにベルに
「ベル・クラネル。キミに頼みがあるんだ」
「……頼みって」
「ミリア・ノースリスを説得して欲しい」
「説得……?」
「ああ、彼女はキミの言葉なら聞いてくれるだろう。だからキミに頼むんだ────彼女にロキファミリアに
「……え?」
槍を喉元に突き付けられた状態での彼の頼みに少年は目を白黒させて驚き、気さくそうな微笑みを浮かべたフィンを見て震える声で尋ねる。
「それは、その、どういう意味ですか」
「わかっているだろう? ヘスティアファミリアは勝てない」
その微笑みからは想像もつかない様な確信を突く言葉。
少年の目の前に立ち塞がる壁。
「このままではダメなんだ。キミ達は勝てない。負けてしまえば、彼女は自害するだろう。それは、避けなければいけない。けれど、キミ達の戦力ではどう考えても勝てないんだ」
フィンが持つ槍の穂先はベルの喉元に突き付けられたまま微動だにせず、少年の体が震えた事で皮膚を裂き血雫が膨らみ始める。
「僕が考え付いた方法は二つ。一つ目は同盟を組んでロキファミリアから第一級冒険者をヘスティアファミリアに
第一級冒険者【
「でも、それはもうできない」
今朝の時点で、派閥の
都市外の冒険者であれば増援として加わる事が出来たが、ロキファミリアはどう言い繕った所で都市内の派閥。それも二大派閥の片割れである。出来るはずもない。
「もう一つは……ミリア・ノースリスとベル・クラネルの
女神ヘスティアを見捨てる事にはなるだろう。それでも最も被害が少なく済むのはそれだ。
ヘスティアファミリア壊滅。ベル・クラネル一人がアポロンファミリアに奪われ、ヘスティアは天界へ送還、ミリアは自害。そうなるぐらいなら眷属二名を
無論、ロキファミリアは周囲の派閥から責められるだろうが、そのあたりはミリアの能力を示せば解決する。
「ミリア・ノースリスの価値はわかっているだろう?」
ロキファミリアの団長が戦力として加わっても良い。そう思える程に彼女には価値がある。
竜種を従える能力。その竜種より得られる『再生薬』を含めた数多の資源。彼女自身が持つ魔法の才能。それだけにとどまらず、派閥の為に命すら賭けられる程の情愛。瞬く間に状況を理解して打開策を打ち出す頭脳。
ヘスティアファミリアという小さな枠組みでは収まらない程に多彩な彼女が、ロキファミリアという多方面に秀でた派閥に入れば、きっと彼女はもっと高く羽搏ける。
今のミリア・ノースリスにとってヘスティアファミリアは枷にしかなっていない。弱小故に危険にさらされ、弱小故にその本質を隠さねばならない。ならば、彼女をロキファミリアに入団させるのが最も良いのではないか。
「そうは思わないかい? ベル・クラネル」
気さくそうな微笑みは消え去り、冷酷な視線を向ける小人族。彼の目を見て拳を握り震えた少年は口惜し気に歯を食い縛る。
「無論、キミも非凡の才を持っている。それも踏まえての提案さ」
キミの言葉なら、きっと彼女は頷いてくれるだろう。このままいけば破滅しか待っていない、だからこそ、彼女を説得して破滅から救い上げてくれないか。そういってフィン・ディムナはベル・クラネルを真っ直ぐ見据えた。
少年が握りしめる拳から血が滴るのを見たアイズが口を開こうとし、フィンがそれを制した。
「アイズ、少し黙っていてくれ。これはヘスティアファミリア団長である彼と、ロキファミリア団長である僕の会話だ」
派閥の長同士の会話であり、幹部如きが口出しするな。そう言い切ったフィンは再度、ベルの鼻先に槍を突き付ける。
「答えを聞こう」
彼女を説得し、ロキファミリアに改宗する様に言ってくれるか。それとも拒むのか。
少年は、震える手でナイフを振るって槍を退けた。
軽い金属音を響かせて弾かれた槍。フィンは小さく笑い、少年を見据えて槍を構えた。
空気が一瞬で凍り付き、槍を払い除けた少年は一瞬で身を強張らせる。第一級冒険者の威圧を前に、目を見開き、足を震わせ、歯をガチガチと打ち合わせてしまう。
勝てないという本能的恐怖を味わい膝が折れそうになった瞬間、ベートが鼻を鳴らしてベルを見下した。
「この程度で折れるなら、ダメだな」
唐突に身を翻し、彼は肩越しにベルを睨んで呟く。
「さっさと頷け。そうすりゃぁ────守ってやる」
彼の告げた一言が、少年の心に火を着けた。
守られたい訳じゃない。守りたい。震える足を、打ち合わされる歯を食い縛って抑え込み、少年はナイフを構えた。いつ倒れてもおかしくない程の疲弊具合、壊れかけの武具、勝ち目のない強さの第一級冒険者の威圧の前に、少年は武器を構えて腰を落とした。
自らを鼓舞する為の雄叫びを上げ、少年が愚直な突撃を行う。真っ直ぐ、何の飾り気も無い、単調な突撃にフィンは目を細めて迎撃を行う。
目にも止まらぬ速さで放たれる槍。何度も、何度も繰り返された第一級冒険者三人との鍛錬の中で少年が掴み取ったほんの些細な勘が働き、ギリギリで反応した鈍色の一閃がそれを叩き落とす。
叩き落した次の瞬間、更に加速し槍の間合いからナイフの間合いへと身を捻じ込む。過去最速で放たれた少年の一閃、対するフィンは────その一閃を無造作に掴み取った。
「……ッ!?」
ベルの腕を襲うのはまるで岩を殴りつけたかのような反動、対するフィンは微動だにしない。ナイフを握り込んだ小さな手には、見た目にそぐわない力が込められていて、ベルの力程度では抵抗すらできない。
目を見開いたまま驚愕するベルに対し、フィンが槍を振るい────ベルの側頭部に向かって放たれた蹴りを受け止めた。
「ベート、やり過ぎだ」
「チッ、おい兎野郎……テメェは何度言えばわかるんだ、動きが単調過ぎんだよ」
フィンに睨まれながらもベルを睨むベート。彼の言葉にはっとなり慌てて身を引けば、フィンはナイフを手放してベルを開放した。威圧はとうに消え去り、小さく肩を揺らすフィンがベルを見上げて笑った。
「いや、すまない、少し試させてもらっただけだ。ベル・クラネル」
試されただけ、そう聞かされてベルは目を見開き、すとんと腰を落とした。
限界まで酷使された体に残った全てを駆使しての突撃。簡単に受け止められてしまった事に対する衝撃が押さえきれず、ベルは小さく表情を歪めてベートの言葉を反芻する。動きが単調過ぎるという言葉。
腰を落としながらも口惜し気に歯を噛み締めるベルを前に、フィンは槍の石突をドンッと地に打ち付けてベルの視線を上げさせる。小人族ながら団長として派閥を率いる彼は口元に笑みを浮かべて少年を見下ろしていた。
「ベル・クラネル。この僕が保証しよう────キミは負けないだろう」
第一級冒険者の激励の言葉に少年は目を見開く。
夜明け前のオラリオの街、ひんやりとした空気が満ちている。
幾本もの
都市が朝の静寂を纏っている中、深紅の翼を広げた飛竜はか細く咆哮を響かせていた。
「キュイ……」
「もう少し緩めに、そんな感じで」
ロキファミリアの本拠内にある庭園の一角。茶会が開けそうな広間となっている庭園の中心で、飛竜は居心地悪そうに何度も身動ぎを繰り返していた。
体長3M程の体躯の飛竜の背には鞍が取り付けられており、至る所に荷物を入れる鞄が吊り下げられている。飛竜の翼の動きを阻害せず、それでいて大量の荷物を輸送できるように考えつくされた鞍に不満そうな鳴き声を零すキューイの足元、紐の長さを調整していたミリアは小さく溜息を零してロキファミリアの本拠を振り返った。
「はぁ……ヘスティア様と会うのはこれで最後になるかもだなんて……」
嘘みたいだ。そんな呟きを零す彼女。ヘスティアに諭されて眠りについてから今朝に至るまで、泥の様に眠りについていた彼女は、目覚めと共に飛び起きて出立の準備をし始めていた。
ステイタスの更新も終え、ベルが準備をしているのを待っている間、ガネーシャファミリアから提供されたキューイ用の鞍の取り付けを行う。
本来ならば、
到着にかかる時間は半分以下だろう。本来の移動時間は丸一日かかるところを、空を行くことになっている。
既にギルドには飛竜を使った飛行で目的地に向かう事と、門を介さずに街を出る為の手続きも終わらせている。ガネーシャファミリアが率先して『
再度深々と溜息を零したミリアが立ち上がり、大きく伸びをしてからキューイを見上げて呟きを零す。
「勝てますかね」
リリルカ達が考え付いたという作戦。彼女らが立てた作戦について、ミリアは何も知らない。現地、アグリスで合流した際に詳細を伝えると言われただけである。
連絡役として伝えにきた【
ほぼ一日、泥の様に眠って体調は万全になった彼女は何度も深い溜息を零しては後悔を繰り返す。
「やっぱり、ゆっくり寝てるんじゃなかった……」
「キュイキュイ……」
煩いなぁ、と深紅の飛竜は主の苦悩など知った事かと軽く角で小突いて黙らせる。
「キュイキュイ、キュイ」
「嘆くのは終わった後でいくらでもできるって……その通りですけど」
余りにも無遠慮な飛竜の言葉にミリアが溜息を零したところで、彼女に駆け寄る二つの影があった。
ベルとヘスティアが駆けてくる。それに視線を向け、ミリアはなんとか微笑みを浮かべる。
「ミリア君、準備は出来てるかい?」
「ごめん、遅くなって」
「はい、出来てます。キューイの速度なら二、三時間で到着するので余裕はあります」
地を駆ける者より、空を駆る者の方が速い。故にもう少し時間をおいてから出立しても問題は無い。しかし、最近発生した小火騒ぎの関係もあり、飛竜が街の上空を飛ぶ事を街の住民は良い顔をしないだろうと告げられ、早朝に出立する事で人目を避ける為に早く出なければいけなくなってしまった。
少しでも長く共に有りたいと思っていた彼女は不満そうでいて、不安そうな表情を浮かべている。
それを目にした女神は微笑みを浮かべ、彼女を抱きしめた。
「ミリア君、大丈夫。昨日、リリルカ君たちが勝てる策を思い付いてくれたんだ。だから、ボクは安心してキミたちを送り出せる」
「……でも」
「キミはリリルカ君達を疑うのかい?」
「…………」
疑っている訳ではないのだろう。ただ、不安がぬぐい切れないだけであって、決して信じていない訳ではない。そう口にしようとしたミリアは身を震わせ、口を閉ざす。
不安が完全に無くなっていない時点で、信じていないと口にしている様なモノだった。
「ミリア、
少年の力強い言葉にミリアが静かに頷く。ヘスティアの抱擁から抜け出したミリアが
「ごめん、私は……まだ不安に感じてる。どうしても、勝てる未来が見えないから」
「わかってる。僕も同じで、全然勝てる気がしないんだ」
ベルがミリアの手を掴み、鞍の上に引っ張り上げられる。ベルが後ろに乗り、ミリアが前に乗る。落ちない様に鞍から伸びる紐をベルトに固定しながら交わされる会話。
二人の会話を聞いていたヘスティアが笑みを零し、飛竜の背に乗る二人を見上げた。
「二人とも心配性だなぁ、なんてボクが言えた義理ではないね。ボクだって不安さ」
見下ろす眷属達と、見上げる女神。
本来ならロキファミリアの者達も見送りに来る予定であったが、ロキが気を利かせたのかこの場にはヘスティアファミリアの眷属しかいない。
今生の別れになるかもしれないこの場において、なんと言葉をかければ良いのか。その場の皆が考え、真っ先に口を開いたのは女神であった。
「……ボクは誰よりも君達を信じてる。凱旋して帰ってくるのを待ってるよ」
ミリアが表情を苦し気に歪めてヘスティアから目を逸らし。ベルは静かに頷く。
「……行ってきます」
言葉少なに答えたベル。残る一人の小さな少女は何を口にすべきか迷い、迷って、白み始めた空を見上げてから、女神の方に視線を向ける。
「私は、誰よりも私自身を信用できません」
嘘を吐いてきたから。大事な人と交わした約束すら守れなかったから。彼女の言葉に含まれる重い意味に、ヘスティアは笑いかけた。
「言っただろ、ボクは
今生の別れに飾る言葉には相応しくないだろう。何か付け加えなければとミリアが口を開こうとし、口にしても良いのかと悩む。手綱を握る手が震え、息が詰まり、言葉にならない呟きを零そうとして────ベルが彼女の手を握った。
「ミリア、一人じゃないから」
前世での約束は、彼女がたった一人で交わした約束だった。今は違う、そう言ってベルが笑う。
彼女は苦し気にその言葉を呟いた。今度は目を逸らさず、あの時と同じ様に、約束を口にする。
「必ず勝ちます。勝って、帰ります。帰ってきます……」
負けたら死のう。けれど勝って帰って来よう。そう誓いを立て、ミリアは手綱を引いてキューイに合図を出す。
深紅の翼が風を掴み、身体に固定された荷物をものともせずに飛び立つ。一瞬の加速を置いて、女神を残して飛竜は空を駆る。
「大丈夫、勝てるさ。やれる事は全部やったんだから……」
──────だから
女神の呟きを置き去りにし、空を旋回していた飛竜は南東方向に向かって飛び去っていった。
街の上空から都市を見下ろし、ベルは小さく感嘆の吐息を零していた。
ひんやりとした冷気に包まれた早朝のオラリオの街並み。高高度から見下ろすという、通常であれば塔にでも登らなければ見下ろす事の出来ない、空から見た光景を見たベルは、腕の中で手綱を握るミリアに声をかけた。
「ねぇミリア、今度は神様も一緒に飛べたら良いね」
「……そうですね」
何処か沈んだ声を響かせるミリアの姿に、ベルは小さく拳を握り、彼女の『約束』を嘘にしない為にも必ず勝とうと胸に誓うさ中、キューイが速度を緩めてキョロキョロと辺りを見回し始めた。
「キューイ? どうしたの?」
「キュイキュイ?」
「え? 呼んでる? 誰が……シルさん?」
ミリアが会話を交わし、豊穣の女主人の店員の一人であるシルが二人を呼んでいるらしい事を知り、ベルとミリアが顔を見合わせ、小さく頷きあう。
「キューイ、シルさんの所に降りれそう?」
「キュイィ」
面倒くさそうな雰囲気を丸出しにしたキューイがだるそうに鳴き、ゆるりとした動作で東の大通りの上空を低空飛行しはじめる。街中という事もあって極力羽搏く音を控えめにしてくれというミリアの無理難題に律義に答えて静かに滑空する形で大通りに降り立つ。
ガリガリィッと大通りに爪痕を残しながら降り立った所で、声が響いた。
「────ベルさん! ミリアさん!」
急いできたのか息を切らせながらシルが駆け寄ってくる。
何故彼女がベルとミリアの出立予定を知っていたのか、空を飛んでいるのを偶然見つけたのか。ミリアが怪訝そうな表情を浮かべる中、駆け寄ってきたシルは飛竜に怯える事なく近づいて二人に手を差し出した。
「これを受け取ってください」
「これは……」
差し出された金属の輝きを咄嗟にベルは受け取る。ミリアも困惑しつつも受け取り、それを眺める。
ベルに渡された物は
ミリアが渡された物は
「これは?」
「私達の酒場を懇意にして頂いている冒険者様から譲ってもらって……お守りです」
お守り。その言葉にミリアが小さく嘆息し、右手にその
「……貴女が私達に害ある行為をするとは思いませんが。小人族用の
余りにも都合がよすぎるのではないかとミリアが怪訝そうな表情を浮かべる中、シルはニコリと微笑んだ。
「私、こう見えて顔が広いんですよ」
「……そうですか。ありがとうございます。効果を聞いても?」
何らかの
「さぁ……?」
「もしかして、知らないんですか?」
「えぇっと、その……急いでいたので……」
おろおろとしている彼女を見下ろし、ミリアは小さく嘆息。手綱を握り直して呟く。
「ありがとうございます」
「頑張ってください。また、私達のお店に来てくださいね」
頭を下げて距離をとったシルを見てから、ミリアが手綱を引く。羽搏く音を響かせない様にしているせいか音はあまりなく、渦巻く風を残して飛竜は空へと飛び立つ。
「お、お弁当作って待ってます!」
恥ずかしそうに頬を紅潮させる酒場の少女に、ベルは破顔した。
ぐるりと一周、彼女がいる広間を中心に旋回し、再度南東方面に向かって飛び去っていく。
遠ざかっていく彼女に二人が手を振る。見送る様に胸に手を当てた彼女は、市壁に遮られて見えなくなるまで、その姿を見送っていた。
「……どういう効果なんだろうね」
「
ベルが
羽搏く音が響く中、東から朝日が顔を出し始める。
山の
朝空を照らす太陽の光に、ベルとミリアは瞳を細めた。
「ベル、勝てますかね」
「勝てる……いや────勝とう。勝って、帰って来よう」
季節の変わり目、寒暖差の激しさから著しく体調を崩しまして寝込む羽目になりました。皆さんも体調管理には十分に気を付けてください。
次話でヒュアキン側視点、その後
ヘスティアファミリアの徽章をどうするか考えてなかったんですが、原作通り『兎』にするか……それとも『寄り添う兎と竜』にするか。まあ、どちらにせよあまり意味は無いんで適当に決めますが。
戦争遊戯後に正式な
『鐘に炎のエンブレム』に銃弾か飛竜を追加? ごちゃごちゃしてそう。
TSロリに限らず、殆どの作品が『
更新を続けるコツなんて伝えた所で意味無いですしね。
私は一週間に一度、日曜日には確実に一話は投稿する。それ以外は完成し次第投稿すると自分自身で
決めておけばそれは必ず守る律義な性格なんですよね。まあ、決めておかずになあなあでやってると面倒臭がって途中で投げちゃう飽きっぽい性格でもあるんですけど……。