魔銃使いは迷宮を駆ける 作:魔法少女()
都市は熱気に包まれている。
人々そして神々が待望していた
朝早くから全ての酒場が店を開き、街の至る所で出店が路上に展開している。通りには神々の悪乗りによって散々宣伝が行われた結果の
お祭り騒ぎともいえる都市の賑わいに冒険者達も今日は休業し、酒場に詰め寄せて観戦準備をしている。何とか休暇を捥ぎ取った労働者達、一般市民も大通りや
『あー、あー! えーみなさん、おはようございますこんにちは。今回の
ギルド本部の前庭には仰々しい
『解説は我らが主神、ガネーシャ様! ガネーシャ様、それでは一言!』
『俺が、ガネーシャだ!!』
『はいっありがとうございましたー!』
実況者イブリの横で巨大な像の仮面を被った男神、ガネーシャが吠える。観衆の歓声が弾け、ガネーシャが満足そうに頷く。
そして何より、神々の求める至高の娯楽。それが
「おー盛り上がっとる盛り上がっとる……」
窓に顔を押し当てたロキが眼下の光景を見下ろす。
白亜の巨塔『バベル』三十階。
それ以外の少数の神々は酒場で冒険者達に交じる者や、
「それで、女神ヘスティア……このまま
「くどい、何度も言ったはずだ。ボクは降参はしない」
「ぐぅ……ですが、無事では済まないです。
「これはボクとアポロンの問題だ、無関係な奴は黙っていてくれないか」
ぐぬぬっと唸り声を響かせて後ずさる男神。ヘスティアに
「しつこいぞー」「今日の為に色々頑張ったんだから開始前に降参とかやめろよ」「中止になったらキレるわ」
次々に投げかけられる批判の声に商売神が怯み、忌々し気にヘスティアを一睨みするとその場を離れていった。
その後姿を見たロキが指差してケラケラと笑っていると、代理戦争を行う神の片割れたるアポロンが不機嫌そうな表情で大扉を開いて場に足を踏み入れた姿が皆の目に入る。
商売神が駆け寄り、ひそひそとやり取りをしはじめるとみるみるうちにアポロンの表情が歪んだ。一分ほどするとアポロンが無造作に商売神を突き飛ばす。
「断る。これ以上付き合いきれん」
「なっ……それは此方の台詞だっ!」
喧しく騒ぎ始めた二人を見た神々の呆れの表情が突き刺さる中、入り口で騒ぐ二人────アポロンに歩み寄る女神がいた。艶やかな黒髪をツインテールにした幼い女神、ヘスティアは鋭い視線をアポロンに向けて口を開く。
「やぁ、アポロン。キミに少し話があるんだ」
「これはこれは……まさか服従を選んでくれるとは」
「…………ボクはアポロンに話しかけているんだ、邪魔だから失せてくれ」
手もみをしながら近づこうとした商売神を睨んで押しのけ、女神はアポロンの前に立った。
アポロンは鼻を鳴らして口を開く。
「ヘスティアか、眷属との別れは済ませたのか?」
「ああ、たっぷりとね」
「それは良かった。この
「そうか」
アポロンのこれ見よがしな挑発に動じる事なく、ヘスティアは彼を見上げて目を細める。
「降参するなら今のうちだぞ」
「……は?」
女神の言葉にアポロンは半口を開け呆然とした表情を浮かべ、次の瞬間には失笑を零して顔を押さえた。
「ふっふはははっ、いや失礼……まさかキミからそんな言葉が飛び出すとは思わなくてね」
「ボクは本気で言ってるんだ。キミの眷属が犠牲になる前に、降参してくれないか?」
「……何を言っているんだキミは。私の眷属が犠牲に? よもや、砦に詰める我が子らがキミの眷属に打ち倒されるとでも?」
戦力差を考えてくれたまえ、そう言ってアポロンは女神の横をすり抜け、自らの座すべき場へを歩みを進めた。
その背中に向かい、ヘスティアは小さく言葉を投げかける。
「キミは、きっとこの選択を後悔する」
「それは此方の台詞だ、ヘスティア……私が負ける訳ないだろう?」
周囲の神々からも失笑を浴びた女神が小さく吐息を零し、彼女もまた座すべき場へを足を運ぶ。
神々の集まる場の中央に備え付けられた円卓。その両端に対面する様に腰掛けたヘスティアとアポロン、周囲を囲む神々の注目を浴びながら、彼らの円卓に一人の優男神が歩み寄り、懐から取り出した懐中時計を見ながら口を開いた。
「そろそろ時間だ」
ヘルメスが見ていた懐中時計の針は、正午を目前に控えている事を告げている。
彼は顔を上げ、宙に向かって話しかけた。
「それじゃあ、ウラノス、『力』の行使の許可を」
空間を震わせた優男神の声に、数秒の間をおいて応える声が響き渡った。
『許可する──』
瞬間、酒場や街角、ありとあらゆる場所に虚空から『鏡』が出現する。
都市の至る所に現れた円形の
下界でごく一部の
オラリオから遠く離れた戦場にて行われる
『では
鏡に映し出された光景に人々がどよめきを零す。
『古城』と称するにはその映し出された城はいささか物騒に過ぎた。城壁各所に設置された
詰める冒険者の数も膨大で、今まさに北川方面のわずかな緑と荒野の広がるヘスティアファミリアが旗を設営している方面。その北門の内側で200名からなる攻撃隊が無数の馬車を引き連れて今か今かと出撃の時を待っている。馬車には
それだけに留まらず、炎に氷、雷に風と色とりどりな多種多様な魔剣が彼らの腰に備え付けられていた。
あまりにも物々しく、弱小派閥たるヘスティアファミリアに向けるには不相応な装備の数々を目にした人々が溜息を零す。
「もう良いかァー! 賭けを閉め切るぞォー!」
「賭けも糞もねぇだろこれ」「あんなん無理無理、アポロン賭け一択だっての」「賭けになんなくね?」
酒場では盛り上がりに欠けながらも商人と結託した冒険者主導の元、賭博が着々と進められていた。今回の戦争遊戯の勝者がどちらかを賭けるのだ。しかし、既に勝敗は決したも同然と言える程の状況に賭けの対象はアポロンファミリア一択であり、これでは賭けが成立しないのではと疑問を覚えた冒険者の声が響く。
「アポロン派とヘスティア派、四十対一って所か……」
「ヘスティアファミリアの
胴元の冒険者が金と賭券を集計しながら安堵の吐息を零す。勢力状況から言っても間違いなくアポロン派にのみ掛け金が集中するはずが、ヘスティア派も少なからずいる。
「どうせ神連中だろ……」
神の馬鹿共はいつでも大穴狙いだ、と呆れる胴元冒険者の視線の先では『うおーっ!?』『来い来ーい!!』『幸運の兎と竜よーっ!!』と賭券を握り締め祈っている
数多の酒場でアポロン側にしか賭ける者が居らず、賭けにならないと嘆きの声を響かせる胴元冒険者が多くいる中、とある酒場でも同様の光景が繰り広げられていた。
「糞、アポロンに賭ける奴しか居ねえ……誰かヘスティアに賭ける奴はいないのかァー!」
酒場の面々を見回して叫びを響かせるも、帰ってくるのは嘲笑ばかり。鏡の光景を見てなお、ヘスティアに賭けようとする者など、大穴狙いの
畜生と愚痴るドワーフの前に、ヒューマンの冒険者が歩み出て、金貨の詰まった袋をテーブルに叩き付けた。
「────兎に十万」
「おいおいおいっ!」「本気かよモルド」「頭おかしくなっちまったんじゃねぇのか!?」
「他にヘスティアに賭ける奴は居ねぇのかァー!? 今ならそこの馬鹿と一緒に大損できるぞっ!」
名乗り出た強面の男に、わっ、と酒場が沸き立つ。周囲の客の嘲笑を浴びながらも────十八階層でベルを忌み嫌っていた────モルドは、両腕を組んでふんぞりかえる。
「はんっ……
「竜? あんだけ対策されてたらどうしようもないだろ」「街中で撃ち抜かれて死んだんだぞ?」
強がり染みた言葉と捉えた周囲の客に笑われ、モルドは眉を顰めた。
『それでは、間もなく正午となります!』
実況者の声がはねあがる。
ざわめきがギルド本部の前庭から波のように広がった。
冒険者が、街の住民が、神々が、全ての者達の視線がこの時『鏡』に集まった。
そして、
『
号令と共に打ち鳴らされた銅鑼の音と、爆発した様に弾ける歓声の音と共に、戦いの火蓋は切られた。
同時刻、古城跡地。
開幕を知らせる銅鑼の音が遠方の丘の上から響き渡る。
盛り上がるオラリオとは打って変って、戦場である古城の士気は最低に落ち込んでいた。
「出撃ィーッ!」「門を開けるぞォーッ!」
鉄門扉が軋む音を立てて開かれていく。城壁の上に待機していた冒険者達が弓を構え、門が開き無防備になる瞬間の警戒を行っている────が、欠伸をする者もいれば、そも弓を構えていない者がいたりと統率は取れていない。
それでも僅かに残った従順な傭兵が律義に警戒を続け、城壁の向こう側に広がる平野へと視線を向けた。
平野にはほとんど物陰などありはしない。時折、思い出したかのように岩の塊が存在するが、人一人隠すので一杯であり、とうてい竜の姿など隠せる代物ではない。
北から東にかけて僅かな緑と荒野が続き、南の遠方には川、西の方向には林が見える。北の先の方にはヘスティアファミリアの
距離は
「気を付けろっ、奴ら姿が殆ど見えない! 何らかの
「うるせぇな」「それがどうしたよ」「数見てモノを言えってんだ」
「うるせぇのはどっちだよ……」
ゲラゲラと下品に笑う攻撃隊の面々に交じり、馬車に乗り手綱を握っていたルアンの愚痴が響く。
城壁内にて待機を言い渡されるかと思えば、なぜか攻撃隊の馬車の一両に編成された彼は背後に乗った猫人の青年に励まされて舌打ちを零した。
「まあまあ、気楽に行こうぜ、な?」
「チッ」
半月刀を腰に吊り下げた彼は気さくそうに手を振って城門の上の外套を被ったヒューマンの男に応える。
「気を付けるわー」
「おう!」
攻撃隊が門をくぐったのを確認し、城門が閉じられていく。
攻撃隊200名。アポロンファミリアの正規団員の数は僅か5名を除き、その九割以上が外部冒険者によって形成された攻撃隊は、八機の
向かう先は北の先に見えるヘスティアファミリアの旗印。あれを破壊すれば勝負は着く。それなのに防衛に当たっている冒険者はたったの一人という不自然さを気にする事なく、彼らは出撃していった。
隊列後方部に混じっている小人族のルアンはガタゴトと整地されていない荒れ地を行く馬車の振動に嫌気がさした様に眉を顰め、周囲をしきりに見回しては不安そうな声を零した。
「おい、本当に大丈夫なんだろうな?」
「だいじょぶだいじょぶー」
「なんでお前はそんなに気楽そうなんだよっ」
「んー? なんとなく?」
ケラケラと軽薄そうに笑みを浮かべる猫人の青年にルアンがぎゃーぎゃーと喚くさ中、先頭を進んでいたリッソスの声が響き渡った。
「これより砦に設置された
リッソスの言葉を聞いた外部冒険者達がのろのろと動き出し、大型弩を調整したりするさ中、猫人の青年もルアンが御者を務める馬車に備え付けられた大型弩の確認を行い、装填できていることを確認し始める。
その姿を見ながらもルアンが身を震わせ、近くに居た正規団員に声をかけた。
「なぁ、やっぱオイラ戻っていいか?」
「駄目に決まってるだろ」
「でも、城の中と違って竜に襲われるかもしれないだろっ!?」
「いい加減にしろ、第一これだけ見晴らしが良いんだから近づいてくればわかるだろ」
怯えた様子で周囲を見回すルアンに呆れたように同僚は溜息を零し、リッソスの指示に従って前進し始めた。それに伴いルアンも手綱を操り馬車を前進させる。
「そんなに不安なら空に向けときますかぁ。ほら、地上を走る
「お、おう……」
猫人の青年が馬車でガチャガチャと
『────ッ!?』『まて、なにが────ぎゃっ!?』
轟音を立て、
「なんだっ」「何処からの攻撃だっ」「いきなり馬車が────ぎゅがっ!?」
隊列前方、右手側を進んでいた馬車がもう一台宙を舞い、別の馬車に叩き付けられて乗っていた数人が巻き込まれて血を巻き散らす。それだけに留まらず唐突に煙が舞い上がり、視界を塞いでいく。
よく見れば足元には大量の煙玉が撒き散らされている事に気が付けただろう、彼らが冷静であれば、だが。
突発的強襲に対応しようと弓を手に取った者もいれば、呆然と立ち尽くす者もいる。剣を抜き放った途端に上半身が潰れた冒険者も居た。彼の体が宙を舞い、大量の鮮血を撒き散らした事で敵の姿がぼんやりとだが虚空に映し出される。
口元を大量の血で濡らし、煙幕を吹き飛ばしながら出現したのは────無色透明な竜。浴びた血が虚空にその形を映し出し、煙幕によってぼんやりと輪郭が理解できるそれは、明らかに竜の形をしていた。
太く大きな尻尾が振るわれ、馬ごと馬車を弾き飛ばして宙を舞わせる。ルアンの乗る馬車のすぐそばに叩き付けられた馬車を見て、ルアンが一瞬で青ざめた。馬車の下敷きになった冒険者が呻き声を響かせて助けを求める最中、彼は悲鳴を上げて手綱を手放す。
「うわぁぁぁぁああああっ!?」
「チッ! 御者代われっ!」
猫人の青年がルアンを馬車の中に叩き込み、手綱を引いて馬車を反転させた。彼は近場に居た冒険者達に声を張り上げて叫ぶ。
「全員逃げろっ! 城の
良く通る猫人の叫び声に反応し、何人かの冒険者が彼の乗る馬車に飛び乗るさ中、混乱していた冒険者も慌てて指示の通りに動き出す。
「逃げろっ!」「何処から竜がっ」「助けてくれっ!」
「貴様らっ、隊列を整えろっ!
リッソスが応戦を呼びかけるも混乱に陥って統率のとれていない彼らは反撃も儘ならない。
彼が舌打ちと共に剣を振り上げ、撤退を命じた所で、姿の見えない襲撃者は煙幕に紛れて草原を駆けて離れていく。全身に浴びた血と、煙幕によって輪郭がはっきりとしていた無色透明な襲撃者。大地を駆ける度に振動を響かせ、遠く離れていくそれを見ていたリッソスは目を疑った。
「なっ……
駆けていく無色透明な血塗れの竜。煙が晴れていくさ中、大地駆ける血まみれの何かが虚空に色着いていき徐々にその襲撃者の姿が露わになっていく。
赤黒く分厚い堅牢な鱗に身を守られた、鈍重でありながら機敏に動く恐ろしい耐久力を持った下層の竜。
「あの竜にそんな能力は無かったはずだぞっ!」
『
血塗れになった
「潜入、成功すると良いけど……」
彼女が視線を向けた先には、多大な被害を出した事で撤退を余儀なくされた攻撃隊。そのうちの無事に走り続けている猫人の青年が駆る馬車があった。
「っと、ベル達と合流しなきゃ。ヴァン、西側の林に向かうわ。もう一度魔法で透明化させるから、出来る限り静かに、後草地は避けて……血を洗い流せればよかったんだけど」
彼女が詠唱を終えると、血塗れの竜が色そのものを失っていくかのように透明化していく。姿を消した竜が静かに歩みだし、わずかに生えた草が踏み潰される姿を見てミリアは眉を顰めた。
「勘が良い奴にはすぐバレそうね」
姿は消せても、足元に生えた草を踏み潰せば痕跡が残る。そういった弱点ばかりの
『これはすごーい! ドラゴンテイマーのミリア・ノースリスの強襲が決まったァーッ! これはまさかの短期決戦でしょうかっ! というかなんか
オラリオでは驚愕が伝播していた。
宙に浮かぶ『鏡』には早くも攻撃隊が半壊する程の被害を受けて尻尾を巻いて逃げていくアポロンファミリアと、無数の冒険者を噛み殺して血塗れになった竜が幼い狐人の放ったらしい魔法で姿を消して潜伏する姿が映し出されていた。
ドラゴンテイマーとして知られている小人族のはずの彼女が獣人の様な姿になっている事に驚きの声を上げる者もいれば、第一次攻撃隊が呆気なく撤退した事に舌打ちを零す者。姿を消す魔法という恐ろしい代物に目を見張る者など、さまざま居る中で幼い狐人の様な容姿となった彼女に声援を送る者もいた。
『しかしガネーシャ様、魔法を四つ以上覚えるなんてありえるんでしょうか!』
『うむ、ロキファミリアにも何人か所属しているが、分岐詠唱魔法というモノがある』
『つまり彼女はその分岐詠唱魔法をっ!?』
『いや、共通点が無さすぎる。分岐詠唱魔法とは言えないな』
『じゃあアレはなんなのでしょうかっ!』
『アレは────ガネーシャかっ!』
『さっきまで解説できてましたよねェッ!?』
ギルド前の実況と解説の
「あれって、【魔銃使い】か?」
「
「でも魂の形は似てた気がするが……」
広間の一角で男神達が一つの『鏡』に集まる一方、円卓に腰掛けたアポロンが立ち上がりヘスティアを糾弾していた。
「あれは誰だヘスティアッ! まさか未申請の助っ人を……ッ!」
「……ミリア君だよ。ボクの眷属のね」
ヘスティアの言葉に会場がざわめく中。ロキは、ほぅ、と呟きを零して鏡を見据えた。
「なるほどなぁ、アレがこうなったんか……」
「これは、盛大な番狂わせが起きるかもなぁ」
『クーシー・スナイパー』型の特徴。
超火力。超射程。が基本ですが、彼女にはもう一つの特徴があります。
『
前世のミリアちゃんが死ぬほど苦しめられた姿消しと音消しの強烈コンボ。油断しきって一直線に旗を目指す彼らの進行方向で隠蔽待機していたヴァンの強襲。初っ端の
それと話は変わりますが、神々の反応やら街の住民の反応やらロキファミリアの反応やら、描写してるととてつもなく長くなるうえ、どうせ『ヘスティアファミリアSUGEEEEE』にしかならないので、そこらへん描写を削るかもしれません。
ロキファミリアに関しては解説役としてちょろっと描写を──でも長くなる、けど書かないと多分だけど作戦がわかり辛くなるかもしれないし、どっちもどっちというか。