魔銃使いは迷宮を駆ける   作:魔法少女()

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第一二七話

 大の男が十人並んでも塞げない程に広い幅を持つ空中(わたり)廊下。長大な一本道の先から次々に現れるアポロンファミリアの冒険者達が放ってくる魔剣の砲火が視界を埋め尽くす。

 色とりどりの魔剣の砲火は、ドワーフの持つ大盾(タワーシールド)によって受け止められるも、数発は後ろの者達にまで届いた。

 

「ぐぅっ、ふざけろっ、どんだけ魔剣を備蓄してやがんだっ」

「ヴェルフ様っ、下がってくださいっ」

 

 警告と共にリリルカの放った雷の魔剣の一撃が廊下の壁や天井を粉砕し、空中(わたり)廊下全体を振動させる。

 次の瞬間、リリルカの持っていた最後の『クロッゾの魔剣』が色を失い、砕けてしまう。

 

「なっ、クロッゾの魔剣は打ち止めですっ!」

 

 吹き飛んだ冒険者が外に落とされる姿を見ながら、ヴェルフは通路の先に視線を向けて新たに現れる敵に舌打ちを零した。

 

「はっ、此処を守り切らなきゃいけねぇってのによぉっ!」

 

 ドワーフが大盾で魔剣を防ぎながら、彼の影に隠れたリリルカとエルフの少女が魔剣や弓で反撃を行うも焼け石に水。赤目のアマゾネスが魔剣の砲撃を両手に持った曲剣で打ち払い、撥ね退け、砕き壊しながらも次々に敵を沈めては破壊された廊下の窓から冒険者を投げ落とす。

 腕の白いアマゾネスと狼人の少女も懸命に魔剣で撃ち返すも、ヴェルフの作った即席のクロッゾの魔剣ですらない、敵から奪取した下級魔剣では抑えきれない。

 

「くっ、このままだと本当に押し切られそうだよっ」

「塔の方はどうなってるの!?」

 

 ベルとミリアが乗り込んだ玉座の塔。それが粉砕されてからそれなりの時間が経つが何の音沙汰も無い。

 予定ではヒュアキントスを倒して旗印を探している所であろうが、それにしては様子がおかしい、とリリルカが目を細める。

 もし想定外の事が起きていたら、そんな考えが脳裏を過った。

 

「ごめん、矢束の予備を」

「はい、わかりました……これが最後の矢束です」

 

 エルフの少女の求めに応えて矢束を彼女の腰の矢筒に突っ込み、注意を放てばエルフの少女が苦々しい表情を浮かべた。

 この空中廊下を封鎖してまだ十分程しか経っていない。けれども、既に限界に近い状態であった。

 これがただの近接戦であったのなら、まだ十二分な勝機はあった。しかし、アポロンファミリアは多量の魔剣を湯水の如く使い潰してくる。対する此方は奪取した下級魔剣とヴェルフが応急で作った即席魔剣のみ。しかも即席魔剣は城壁攻略の際に殆ど使い切り、最後の一本もつい先ほど失われている。

 唯一の救いは、ヴェルフの対魔力魔法(アンチ・マジック・ファイア)のおかげで相手がむやみやたらと魔法を撃ってこない事だ。もしそれが無ければ防ぎようのない長文詠唱魔法が撃ち込まれていた可能性がありえた。

 

「おい、このまま耐えるのは厳しいぞ」

「んー……ん? あれ、この魔力は……っ!?」

 

 赤眼のアマゾネスが視線を向けた先、通路の最奥に巫女(シャーマン)を思わせる民族衣装を身に纏った女性が胸に手を合わせて立っている姿があった。

 彼女からひしひしと感じる、魔力の波長。そしてその女性の口から零れ落ちる呟く様な詠唱────長文詠唱魔法。

 

「鍛冶師くん!」

「任せろ! 【燃え尽きろ、外法の業】」

 

 放たれた陽炎が鉄砲水の如き勢いで無数の冒険者をすり抜け、魔術師であろう女性に届いて詠唱を乱し魔力暴発(イグニスファトゥス)を引き起こ────さなかった。

 ぐっとこらえる様に強く唇を引き結び、顔を上げた巫女姿の女性がその両手で包み込んでいた魔法触媒(タリスマン)を高らかに掲げ、魔法を完成させる。

 

「嘘だろ!? 対魔力魔法(アンチ・マジック・ファイア)が効いてねえ!?」

 

 掲げられた魔法触媒(タリスマン)に集うのは、星屑を思わせる光。一瞬で握り拳大から一抱えある程の大きさに変貌を遂げた其れは────次の瞬間、巨大な光る槍に変貌し、飛翔する。

 真っ直ぐ、アポロンファミリアの前衛の背中目掛けて放たれた魔法。回避を呼びかける合図も無いそれを見て、赤眼のアマゾネスが敵の前衛を盾にすべく射線上になるように動き────すり抜ける様にアポロンファミリアの団員の体を通り抜けた槍が、赤眼のアマゾネスを直撃した。

 

「ぎっ、あぁああああああああああっ!?」

 

 胴を穿たれ転げ、アマゾネスの体から紫電が弾ける。

 視界を塞ぐ閃光に全ての者の動きが止まった。驚愕の表情でアポロンファミリアの団員も固まっている事から、彼らにとっても想定外の攻撃であった事がうかがえる。

 閃光が消え去った後、焦げ臭い臭いが立ち込める廊下の中央、最前線でアポロンファミリアを食い止めていた赤眼のアマゾネスが倒れ伏して痙攣していた。

 

「嘘だろ、なんだ今のっ!?」

「っ! あれはっ、皆さん気を付けてください! あの魔法は()()()()()()()()()()穿()()魔法です!」

 

 同一主神の恩恵を受けた者には一切損傷(ダメージ)を与える事なく、異なる主神を崇める眷属だけを穿ち殺す、異教殺しの槍。

 外部から傭兵として雇われ、中央の城塞内に配置されていたLv.3の冒険者の持つ魔法。事前に情報があった為、対策としてヴェルフを中央に直接連れ込んで封じようとした魔法だ。だが────ミリアの作戦は意味が無かった。

 最悪な事に巫女姿の冒険者には、対魔力魔法(アンチ・マジック・ファイア)が効かない。

 

「やった、一人倒したぞっ!」「残る奴らもやっちまえ!」

 

 ヘスティア側の第二級冒険者が一人倒れた事で勢いを取り戻したアポロンファミリアの団員が隊列を組んで前進し始める。放たれる魔剣の勢いが増し、ドワーフが目を細め────エルフの少女が鋭く叫ぶ。

 

「連唱! 次の魔法がきますよ!」

 

 巫女姿の冒険者が手に持つ魔法触媒(タリスマン)には、既に魔力が充足している。

 放たれた二射目の魔法が、アポロンファミリアの前衛を透過して迫る。ドワーフが大盾を構えてその雷矢を受け止め、紫電が弾けた。

 

「ぐっ……ふぅぅうう、効くなあ」

 

 焦げ付く臭いを漂わせながらも雷撃を受け切り、余裕そうな笑みを浮かべるドワーフ。彼が視線を向けた先では────既に巫女姿の冒険者は次の魔法を放たんとしていた。

 目を見開き再度腰を落として大盾を構えるドワーフ。続く連撃が直撃し、紫電が弾け────更に重ねて雷撃が弾ける。

 

「おい、なんだあの詠唱速度!?」

「発展アビリティの《連唱》ですよ! 同一魔法の連続発動時に次の詠唱にかかる時間を半減させるものです!」

 

 発展アビリティ《連唱》によって詠唱時間の軽減効果を受けて連発される雷槍。両手で掲げられた魔法触媒(タリスマン)は絶えず魔力が溢れ返り、連続する雷撃の槍を生み出していく。

 大盾に雷槍が当たるたびに紫電が撒き散らされ視界がふさがれ────更に追撃の下級魔剣による砲火がドワーフに降り注ぐ。

 第二級冒険者の前衛攻役(アタッカー)前衛壁役(タンク)を真っ先に潰さんとする彼らの猛攻に、第三級冒険者でしかないエルフが歯噛みしながらも矢を番え────狼人の少女と視線を交わした。

 雷撃の槍がドワーフの持つ大盾に弾け紫電が飛び散った直後、狼人の少女が駆け出す。

 無数の下級魔剣の砲火に愚直に突っ込む寸前、焦げ付いた床を蹴り抜き跳躍して回避する。天井すれすれにまで飛び、空中で無防備に体を晒す彼女に対して雷撃の槍が放たれ────彼女は空中で()を蹴って回避した。

 飛来した雷槍によって矢が一瞬で粉微塵に粉砕されて欠片が飛び散る。それを尻目に、狼人の少女が手にした槍で冒険者の肩や腕等を素早く突きながら彼らの頭の上を()()()行く。

 後方、弓を構えたエルフの少女が連続して放つ矢が狼人の少女の足場として機能し、連続して攻撃を当てた際に力と敏捷が増幅するスキルの効果も相まって、瞬く間に敵の頭の上を超え、最奥部で魔法触媒(タリスマン)を掲げた魔術師の傍に降り立つ。

 

「ふむ」

「悪いが、死ねぇっ」

 

 鋭く速い突き。飾り気の無い槍で巫女の胸を突いた狼人に対し、巫女は魔法の連続詠唱を止めて迎え撃つ。

 布製の魔法触媒(タリスマン)に隠されて握り込まれていた儀礼用短剣で槍の一撃を受け、彼女は不愉快そうに鼻に皺を寄せて呟く。

 

「獣の亜人風情が……首輪にでも繋がれているのがお似合いです」

「っ、こいつっ」

 

 獣人に対する侮辱を口にし、軽蔑の視線を向けた巫女(シャーマン)。狼人の少女が素早く連続して突きを放ち、その衣装をズタズタに引き裂いていく。

 所詮魔術師、大した近接戦能力は無いのか瞬く間に無力化しようとし────巫女が手放さなかった魔法触媒(タリスマン)が淡く輝いた。

 

「獣は獣らしく、野山に帰るべきでしょう」

「何を────」

 

 彼女が左手に持った魔法触媒(タリスマン)を胸元に寄せ何かを発動しようとする。それを防ごうと狼人の少女が穿とうと魔法触媒(タリスマン)へと突きを放った瞬間、激しい閃光と衝撃波が撒き散らされ、狼人は吹き飛ばされ────破壊された壁の向こうに消えていく。

 

「ちく、しょうっ!」

「さようなら」

 

 予め詠唱しておくことで敵の特定行動時に発動する、反撃(カウンター)タイプの魔法。特殊な魔法(加護)を使って戦う、戦闘巫女(シャーマン)。元居た派閥から破門と言う形で追放された神に仕える者。

 今や神を信仰し仕える者から身を堕として戦いに身を置く、異端の冒険者。

 冷めきった瞳で、アポロンファミリアの前衛に守られた彼女は再度、その魔法触媒(タリスマン)に魔力を充填する。

 リリルカが冷や汗を流しながらハンドクロスボウを構え────外から響き渡った咆哮に動きを止めた。

 

「え……?」

 

 リリルカが驚愕しながらも向けた視線の先。西側で暴れていた重装竜(アーマードドラゴン)が全身から煙を吹いて痙攣している光景であった。

 

「マジか……Lv.4クラスの怪物だったんだぞ!?」

 

 生半可な魔法では倒せないはずであり、唯一警戒すべきだったのは大型弩(バリスタ)のみであったはずの彼の竜が、膝を突いていた。よろめく竜に対し、無数の魔剣が弾ける。

 西側の城壁の上で指揮を執る老エルフの指示に従い、重装竜(アーマードドラゴン)の────胴体に突き立つ馬上槍(ランス)に似た矢に、()()()()()()()()()

 苦悶の咆哮を零した重装竜(アーマードドラゴン)の口から、大量の黒煙が漏れ出る。

 

「嘘……まさかっ」

「あ、はは、そっか、そんな殺し方があったんだ」

 

 引き攣った表情で重装竜(アーマードドラゴン)を見下ろすヘスティアファミリア。

 胴体に突き立った金属製の矢を通じ、電撃が直接竜の内臓を焼き尽くしていく。彼の重装竜(アーマードドラゴン)の体表を覆い尽くす鱗は、殆どの物理魔法問わずに高い耐性を持っており、生半可な攻撃では傷一つ付けられない。唯一、その耐久を射ち抜ける大型弩(バリスタ)のみを警戒していたヘスティアファミリアは────副次効果まで意識していなかった。

 金属製の矢を通じ、電撃が内臓を焼く。いくら竜とはいえ、内臓を直接焼き尽くされれば、あっけなく膝を突き────倒れるだろう。

 漆黒の巨体が、倒れ伏す。最後に抗おうとしたのか、城壁に全身を叩き付けて揺らし、そこで力尽きて凭れ掛かる様にして竜が伏した。

 ────城壁に配備された冒険者を足止めしていた重装竜(アーマードドラゴン)が倒れた。

 それはイコールで、この空中廊下に冒険者が群がってくる事を意味する。

 

「不味い、不味いですよ」

 

 リリルカが震える声で呟きながら空中廊下の戦場に視線を戻そうとした所で、肩を掴まれる。

 

「ごめん、もう抑えきれない……」

 

 苦渋の表情を浮かべたエルフの少女は、手にしていた弓を手放して腰の剣を握りながら、リリルカに語り掛ける。

 

「あの鍛冶師と私、あとあの子の三人でどうにか頑張ってみるけど……無理っぽい。貴女はここに居ても無駄だろうから、団長たちの所に行って旗を探す手伝いしてあげて」

 

 ヴェルフが連続して放つ対魔力魔法(アンチ・マジック・ファイア)によって、魔力暴発(イグニスファトゥス)こそしないものの、詠唱を止められて巫女(シャーマン)の放つ魔法は一時的に止まっている。

 だが、それももう長続きしないだろう。ヴェルフの額から流れる汗の量と顔色を見れば、もう魔力があまり残っていない事は明白だ。

 足元に転がっていた赤眼のアマゾネスが震えながら立ち上がろうとし、腕を痙攣させながら呟きを零す。

 

「ごめ……ま、麻痺……あんま、うご……けな……」

 

 必死に動こうとするも、先ほどの雷撃が直撃した影響で麻痺しているらしく、動きは酷く緩慢だった。

 ここにきて、彼らは失敗を悟る。相手側の治癒士(ヒーラー)を発見しきれずに何人か逃していたのだ。もっと早く、早期に旗を発見し破壊する予定だったことから、治癒士(ヒーラー)の確実な排除よりも早期決着を優先してしまった。

 リリルカが迷うさ中、ヴェルフが膝を突き────相手の魔法の発動を止められず、雷撃が迫る。

 アマゾネスの少女が盾を構えて飛び出し、雷撃に打たれて吹き飛んだ。

 ヴェルフは精神枯渇(マインドダウン)で魔法の打ち止め。エルフの少女は弓使い(アーチャー)だが矢が尽きた。赤目のアマゾネスは麻痺で動けない。ドワーフは魔法を受け止めて昏倒。狼人の少女は通路から投げ出されて安否不明。アマゾネスの少女は雷撃を受け昏倒。

 既に、空中廊下を止めるには、人数不足過ぎた。

 

「っ……貴女は……」

「平気、サポーターの貴女と違って、私はそこそこ戦えるし」

 

 震える手に握られた剣。エルフの少女は通路を駆けてくる冒険者を見据えて目を細めた。

 

「行って、早く」

「リリスケ、俺からも頼む」

 

 一分でも、一秒でも時間を稼ぐ。そう呟いたヴェルフに背を向け、リリルカは駆け出した。

 駆けていく小さな背を見送り、通路一杯に二十人以上が一気に駆けてくる光景を前にしたエルフの少女は不敵に笑みを零し、その奥で未だに魔法を放とうとする巫女(シャーマン)を見て顔を引き攣らせた。

 

「あ────これ無理なやつだ」

「おいおい、泣き言はやめてくれよ────俺も泣きたくなる」

 

 たかが一介の弓使い(アーチャー)如きでは止められない。そんな泣き言を零すエルフに対しヴェルフが軽口を叩きながら大刀を構え、アポロンファミリアの冒険者と斬り結ぶ。

 格好良く足止めすると宣言しておいての体たらくに悔し気に彼女が笑い、覚悟を決めて剣の切っ先を敵に向け────次の瞬間、空中廊下の最奥で構えていた巫女(シャーマン)の真横の壁が粉砕され、その姿が掻き消える。

 

「なんだ!?」「何が起き────ごぶっ!?」

「きゃあっ……」

「うぉっ……ぶねぇな、何が起きた!?」

 

 石材を粉砕する轟音が連続して響き渡り、ヴェルフがよろめいた瞬間。彼の目の前を巨大な馬上槍(ランス)が通過し、アポロンファミリアの冒険者を吹き飛ばした。

 

「何が……あっ……」

 

 粉砕された壁の穴から外を覗き見れば、城壁上に設置されていた大型弩(バリスタ)が全て空中廊下にその矛先を向けていた。それらを一つ一つ発射して回っているのは、猫人の青年。

 射手席に飛び込み、碌に照準を覗く事なく引き金を引く。放たれた矢は空中廊下の壁を粉砕し、渡ろうとしていたアポロンファミリアの冒険者を的確に粉砕していった。Lv.4に区分される竜を屠る威力をもってすれば、たかが石材製の壁など紙切れの様に粉砕できるだろう。

 

「はっ、ナイスだな……」

「えぇ、ですが……もう打ち止めみたいですよ」

 

 元々城壁上に設置されていた大型弩(バリスタ)の中で、半ば壊れて放置されていたモノの中から使えそうな物を無理矢理応急処置だけ行って放ったのだろう。猫人の青年が両手で大きくバツ印を作って駆けていく姿が見えた。

 一時的な時間稼ぎにしかなっていない。けれど、十二分な時間稼ぎだった。序に言うなれば────十二分な空中廊下への損害(ダメージ)だった。

 軋む石材の音色。ガクンッと空中廊下全体が揺れる。

 幾度もの魔剣の砲火。激発する魔法。そして力任せに暴れるアマゾネス。激戦の会場となった空中廊下には甚大な被害が出ていた。壁の殆どは粉砕され、床に敷かれたなけなしの赤絨毯は剥がれ、焦げ、焼け尽きている。

 ヴェルフが頭を掻き、天井を見上げてからエルフと視線を交わした。

 

「あー、逃げるなら今の内だと思うぜ?」

「……仲間をおいて、逃げられませんし」

 

 軋む音は通路全体に及び、城砦として建てられた堅牢な空中廊下に細かな亀裂が走っていく。

 

「貴女こそ、逃げるべきだと思いますが」

「あー……悪い、走れそうにない」

 

 通路中腹、下から駆け上がってきた東側の門の防衛を任されていた老エルフの顔を見て、ヴェルフは手を振って口を開いた。

 

「おーい、()()()()()()()()()()

 

 ニヤりと笑みを浮かべたヴェルフは、大刀の切っ先を床に走る亀裂に捻じ込んだ。それが止めであったかのように、

 ────()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 遠く響く崩落の音色。それを耳にしながら、ミリアは舌打ちを零す。

 戦闘開始から、既に十分以上が経過している。ベルは────形勢逆転されていた。

 ヒュアキントスの放つ波状剣(フラムベルジュ)による連撃を、右に左に、時にナイフで、時に掠らせながらもベルが懸命に回避を続けていく。既にその身には無数の切り傷が刻み込まれ、限界が近い事を知らせてきていた。

 懸念していた現実が、目の前に迫ってきている。

 このままでは、ベルが押し負ける。そう認識しながらもミリアは近衛兵を押しとどめるので精一杯だった。

 治癒士(ヒーラー)であるカサンドラを倒す事も、近衛兵を蹴散らしてベルを助けに行くことも出来ない。口惜しさと恐怖に叫びそうになるのを必死に押しとどめながらの戦闘。

 精神的に追い詰められ、徐々に動きが鈍っていく。

 

 このまま、負けてしまうのではないか? 空中廊下の崩落の音が更に焦燥感を掻き立てる。

 治癒士(ヒーラー)を倒せない。前衛壁役(タンク)を突破できない。前衛攻役(アタッカー)を削り切れない。

 時間が過ぎれば過ぎる程、勝利は遠のいていく。けれど、焦れば焦る程動きが荒くなっていく。

 

「【ファイア】ッ」

 

 押され、既にベルが傷だらけ。対するヒュアキントスは回復魔法の恩恵によって傷は無く、一方的にベルを嬲っていた。

 

「気分は、どうだぁ! ベル・クラネルゥッ!!」

「ぐぅっ」

「よくも、よくも私の目を────貴様なぞ、嬲り殺しにしてくれるわっ!」

 

 激しく飛び散る火花。スタミナが底を尽き、猛攻が止まったベルに対する執拗な攻撃。あえて体を掠める様に振るわれる刃が、ベルの身に着けていた鎧に数え切れない傷を刻み込んでいく。

 早く、早くしなくては。焦燥感に身を焦がし、周囲を見回して────カサンドラの背後に忍び寄る影を見つけた。

 

「────リリ」

 

 回復魔法の発動に意識を集中していたカサンドラの背後、リリルカ・アーデが彼女の持つ杖目掛けて飛びついた。

 

「ミリア様っ!」

「きゃっ!?」

 

 不意打ちに近い一撃。ちょうど魔法を放とうと魔力が充足していた杖に対し、リリルカが掴みかかり────カサンドラから杖を奪うには至らず、引っ張り合いに転じた。

 

「は、放して!」

「嫌です!!」

 

 ────いくらカサンドラが後衛の治癒士(ヒーラー)だったとしても、Lv.1でサポーターのリリルカの力では、Lv.2の彼女から杖を奪う事は出来なかった。

 だが魔法の詠唱途中の妨害には一応、成功している。咄嗟に仲間がカサンドラを助けるべく動こうとし、ヒュアキントスもつられて視線を奪われる。

 

「何をしているカサンドラ! 早くその小人族(パルゥム)なんぞ引き剥が────ぐぅ!?」

「だぁああああああああああっ!!」

 

 視線が外れた瞬間、爆発したようにベルの猛攻が再開される。攻撃を防ぎながら、スタミナをほんの少しずつ回復させ続けてきたベルの、猛反撃。

 合わせる様に、ミリアが魔弾をばら撒いて注意を逸らす。カサンドラがリリルカを引き剥がそうと何度も力任せに振り回し、瓦礫に叩き付けたりするが、彼女は死に物狂いで杖に縋りつく。

 

「放して、放してって!」

「ぐっ、がはっ……嫌、ですっ!」

 

 二度、三度と叩き付けられて血を流しながらも、必死にしがみ付いていたリリルカは、魔力の込められた杖を見つめ、意を決した様に呟きを零した。

 

「【貴方の刻印(きず)は私のもの────】」

「ッ!?!?」

 

 唐突ともとれるリリルカの魔法詠唱。それに最も驚いたのは、カサンドラであった。

 カサンドラが詠唱していた魔法の魔力がたっぷりと詰まった杖、それにしがみ付いて魔法の詠唱を始めるリリルカ。何をしようとしているのかは────火を見るよりも明らかであった。

 

「やめてっ、お願い、やめッ────」

「【────私の刻印(きず)は私のもの】

 

 リリルカは知っていた。杖には魔力の許容限界がある事を、そして専用(オーダーメイド)武装の場合は本人に合わせて装備が作られる事を、それが杖であるならば、本人が持ち得る最大の運用魔力量に合わせて許容限界が設定されている事を────過剰な魔力を受け入れる余裕のない、専用(オーダーメイド)の杖に、余計な魔力を捻じ込むとどうなるのか。

 カサンドラが目を見開き、何かを堪える様に杖を握り────リリルカを再度地面に叩き付けた。

 いくら後衛職で力が弱くとも、Lv.1のサポーターを攻撃するのには過剰過ぎる力を以て、二度、三度と小さな体躯を引き剥がそうと、必死に叩き付け、叩き付け────リリルカが小さく笑いながら、呟く言葉を聞いた。

 

「ベ、ル様……ミリ……様……どうか────」

 

 ────勝利を。

 

 パンッと小さく杖が爆ぜ、魔法石に罅が入る。Lv.1で、しかも変身魔法と言う杖を使わない魔法でありながら、無理矢理にカサンドラの杖に魔力を捻じ込み、魔力暴発(イグニスファトゥス)させた。爆発の威力はまるで玩具を思わせる程に大したことのない、小さな爆発であった。

 それが、カサンドラに致命的な損害を与える。

 罅割れた魔法石。杖の中で最も重要な部位────そして、彼女の魔力が詰まった、爆弾。

 ふらふらと、暴れ狂いそうになる魔力を必死に制御しながらカサンドラが杖をひったくる様に胸に抱く。魔法を発動させる余裕は無い────今はただ、魔力暴発(イグニスファトゥス)しそうな杖に込められた魔力の制御で手一杯だった。

 

「カサンドラ! 何をして────ぐっ!? 早く回復魔法────ぐぉっ!?」

 

 ベルの猛反撃に切り刻まれ、後退を続けるヒュアキントスが叫びかけた所で、カサンドラは小さな呟きを零す。

 

「────あっ」

 

 杖に込められた魔力が渦巻く。彼女の制御能力を超え、魔力が荒れ狂いだす。制御不能────魔術師として恥ずべき、魔力暴発(イグニスファトゥス)という現象を引き起こした。

 爆発が巻き起こり、カサンドラを中心に周囲を薙ぎ払う様な爆炎が溢れ返る。大盾を構えていたドワーフも庇っていたカサンドラ自身の爆発に巻き込まれ姿勢を崩し────アポロンファミリア全体に動揺が走る。

 

「ベルッ! 旗を見つけた!!」

 

 次の瞬間、ミリアの叫びが響き渡り、ヒュアキントスが目を見開く。

 彼女が視線を向ける先、ちょうどカサンドラの魔力暴発(イグニスファトゥス)によって瓦礫が吹き飛んだ事で露わになった、アポロンファミリアの旗印が存在した。

 近衛兵の一人が旗の確保に向かおうとし────ミリアの魔弾に穿たれる。

 

「【ファイア】ッ!」

「ぐっ!?」「旗を確保しろっ!」「ヘスティアファミリアの連中を近づけるな!」

 

 近衛兵がミリアに一気に近づき────ミリアの剣の横に張り付いていた結晶が砕け散るのを見た。

 それは、彼女の残弾を示す代物。今までは『装填詠唱』を行う際には決して近づかれない様にしていたミリア・ノースリスの見せた、明確な()

 彼女を抑えようと囲んでいた近衛兵は三人。彼女が再装填を行うより早く、近衛兵が届く距離だった。

 

「かかれぇっ!!」

 

 一斉に、ミリアに飛び掛かる近衛兵。

 彼女は────装填詠唱を行う事なく、自ら、初めて前に出た。

 迫る三人の内の一人、槍を持つ近衛兵に向かって突っ込み────薄淡い青色の半球(ドーム)状の障壁で攻撃を受け止めた。

 

「なっ!?」「これはっ!?」「何だっ!?」

 

 他の二人の攻撃も、障壁に阻まれミリアに届かない。

 そんな中、ミリアはもう一歩槍を持つ近衛兵に近づき────彼の持つ槍に剣を押し当てた。

 弾くのでもなく、押しのけるのでもなく、槍の穂先にミリアが剣を優しく押し当て、詠唱する。

 

「【リロード】」

 

 ────装填詠唱。魔力の塊を装填し、一定回数魔法を速射可能にする『分岐詠唱魔法(ガン・マジック)』特有の特殊詠唱。攻撃性は無く、ただの準備段階の詠唱でしかないそれを、至近距離でおこなった。

 彼女が再度速射可能になったのに気付いた近衛兵が慌てて飛び退いて距離を取ろうとし────()()()()()()

 

「ぎゃああっ!?」「何が起きた!?」「大丈夫か!?」

 

 槍を握り締めた近衛兵の手にしていた槍。それが何の前触れもなく爆発し、彼の手を破壊した。理解不可能な出来事に近衛兵の動きが止まり────ミリアが懐に接近しているのに遅れて気付く。

 剣を持った彼の懐に飛び込み、彼の胴鎧(ブレストプレート)を攻撃する。

 不意を打たれ、反応の遅れた彼は衝撃に備えて身を固くし────優しく刃を押し当てられた事に目を丸くした。

 

「────は?」

「【リロード】」

 

 またしても、装填詠唱。攻撃らしい攻撃をするでもなく、ミリアは近衛兵の脇を潜って彼を置き去りにして走る。虚を突かれた彼が慌ててミリアを追うべく振り向こうとし────自らの胴鎧に違和感を覚えた。

 魔力を感じる。それも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を。

 

「一体、なんだ」

 

 自身の胴体を守っていた胴鎧に視線を落とし────気付いた。ミリア・ノースリスが剣に装着していた魔力の塊、『分岐詠唱魔法(ガン・マジック)』で言うなれば『魔力の塊(マガジン)』が胴鎧に張り付いている事に。

 

「まさか!?」

 

 既に、その魔力は制御下を離れている。それなりの量の魔力が、一瞬で鎧に込められた。何が起きるのかは、魔術師でない彼にも理解できる────魔力暴発(イグニスファトゥス)

 『装填詠唱』で相手の武装に直接魔力の塊(マガジン)を捻じ込み、制御を手放す事で爆発させる。常識で言えば考えられない────誰も思いつかない奇策だった。

 近衛兵の一人が爆炎に呑まれる。それも、自らが身に纏っていた身を守る為の防具が、爆弾にすり替えられての、爆発である。威力が低くとも────致命傷には十二分に過ぎる攻撃。

 

「嘘だっ!」「ノースリスに近づくなっ!」

 

 装備そのものを爆弾と化して攻撃してくる小人族。近づいて抑え込めば無力化できると必死に近づく事ばかり意識していた近衛兵に対して、これ以上ない程の動揺を与える。

 彼女から距離を取ろうと近衛兵全員が離れた瞬間────ミリアは目を細めて魔法を詠唱した。

 

「【ライフル・マジック】」

 

 ゾッとする感覚。威力は先ほどの『ピストル』や『ショットガン』とはくらべものにならない。今すぐ近づいて無力化をしなくては────けれど、下手に近づけば装填詠唱を使っての装備の爆弾化をされてしまう。

 距離を取るべきか、近づくべきか。判断に迷った彼らが動きを止めた瞬間────目にも止まらない程の早撃ちを以て、ミリアが近衛兵を沈める。

 

「【リロード】【ファイア】【ファイア】【ファイア】【ファイア】」

 

 相手の方に一切視線を向けず、剣先(銃口)だけを向けての盲目撃ち。それでいながら、しっかりと命中させ、周囲の近衛兵を一掃した。

 倒れ伏した近衛兵を一瞥する事もなく、ミリアが銃口をヒュアキントスに向ける。

 

「【ファイア】」

 

 防戦一方で必死にベルの猛攻を抑え込もうとしていたヒュアキントスの左足に、ミリアが放った魔弾が着弾する。

 バランスを崩した彼が姿勢を立て直すより早く、ベルの持つ紅緋色の短刀が閃いた。

 

「ぎァッ……!?」

 

 ヒュアキントスの視界に、くるくると回る物があった。

 傷だらけで、冒険者用装具(アクセサリー)の指輪を無数に付けた、腕。

 肘の辺りから切り取られた、己自身の腕が宙を舞っていた。その光景を目にしたヒュアキントスは、同じく宙をくるくると回っている波状剣(フラムベルジュ)に視線を向け────魔弾によってそれが弾かれて遠くへ飛んでいくのを見た。

 続く魔弾がヒュアキントスの肩を抉り、腹に着弾し、完全に姿勢を崩される。目の前に迫るのは────傷だらけの『兎』。

 魔弾によって姿勢を完全に崩されたヒュアキントスに、その攻撃を往なす手段は無い。

 ────彼の姿を最初に見たときに感じた、恐怖。

 戦意をその深紅(ルベライト)の瞳に漲らせ、返り血を半身に浴びながら迫る殺人兎の姿を幻視させる、その少年。

 青年は、表情を恐怖と、絶叫に歪ませた。

 

「あ、ああああああああああああああああああッ!?」

 

 ────死。

 明確に感じ取ったその感覚のままに喉から叫び声が放たれ────ベル・クラネルが目の前の無防備な青年を無視し、駆け出した。

 

「────は?」

 

 止めを刺す場面で、唐突にベル・クラネルが身を翻した。信じられない光景に一瞬思考が停止しかけ────ベルが駆けだした先に露出した、アポロンファミリアの旗印を見て、ヒュアキントスは目を見開いた。

 ────ヒュアキントスに対する止めより、旗印の破壊を優先した。

 気が付けば、ヘスティアファミリアの旗を守っている深紫の剣には無数の罅が入り、壊れかけている。あの魔法が解けるのは、時間の問題だったのだろう。

 加速する思考の中、緩やかに流れていく光景にヒュアキントスは自問自答を繰り返す。ベル・クラネルの背に追い付けるか? 否。ベル・クラネルは負傷で速度が落ちているとはいえ、自身の方が深く負傷している。走る事など出来まい。

 この場面において逆転する手はあるか────魔法はある。彼を一撃で屠れる、最後の手段。

 だが、魔法は無意味だ。旗の一定範囲に近づかれてしまえば、魔法は問答無用で無力化されてしまう。魔法その物は間に合うだろう、ベル・クラネルの動きは明らかに遅い。だが、旗印の一定範囲には入られてしまう。

 そうなれば、ヒュアキントスの放つ魔法は無力化され、効果を失う。

 故に、打つ手無し────絶望がヒュアキントスの表情を染め上げる直前。彼の視界の端に片膝を突いて荒い息を零すミリア・ノースリスの姿が映った。

 

 ────最後の機会(チャンス)。逃す手は無い。

 

「────【我が名は愛、光の寵児。我が太陽にこの身を捧ぐ】!」

 

 過去最速の、ヒュアキントスの記憶の中にある詠唱のどれよりも早く、限界を超える程の速度を以てして、詠唱が紡がれる。

 ベル・クラネルが旗印に辿り付くまで、後一〇M。

 

「【我が名は罪、風の悋気。一陣の突風をこの身に呼ぶ】!」

 

 魔力の波長に気付いたベルが更に加速しようとし────ヒュアキントスの呟きに止められた。

 

「────良いのか、ミリア・ノースリスが死ぬぞ?

「────え?」

 

 ベルの速度が見るからに遅くなる。

 ニヤりと、ヒュアキントスは醜悪に笑い、魔法の矛先を片膝を突くミリア・ノースリスに向けた。

 

「【放つ火輪の一投────】」

 

 彼の狙いに気付いたベルが瞬時に左手をヒュアキントスに向け、魔法を放つ。

 

「【ファイアボルト】!」

 

 速射可能な速攻魔法が激発し、ヒュアキントスに直撃する。同時に、自身が狙われている事に気付いたミリアが回避をしようと立ち上がり────足を掴まれてよろけた。

 

「きゃっ……っ!? 放しなさい!!」

 

 足を掴んだのは、ミリアが行動不能にし意識を刈り取るに至らなかった、アポロンの眷属。近衛兵の一人。

 

「アポロン様に、勝利をっっ!」

「くっ、放せって、言ってるでしょうが!!」

 

 剣を振るい、二度、三度を切りつけるも死に物狂いでミリアの足を掴む近衛兵を引き剥がしきれない。

 集中し過ぎて気付いていなかったが、ミリアのスタミナももうすでに限界に近い。剣を振るう手は力なく、僅かに血を滲ませる事しかできない。

 ベルの放った炎雷が轟き、ヒュアキントスを爆炎が呑み込む。が────詠唱は止まらなかった。

 

「【────来たれ、西方の風】!!」

 

 瞠目し、即座に速攻魔法の利点を生かした連射で妨害を計ろうとする。

 

「【ファイアボルト】ッ!!」

 

 轟く炎雷がヒュアキントスに迫り────横から割り込んだカサンドラを守っていた前衛壁役(タンク)のドワーフに直撃し、爆炎が弾けた。

 ボロボロになったドワーフは、意地でも倒れまいと立ち塞がり、ヒュアキントスを守る。

 

「よくやった!」

 

 褒める言葉と同時に、ヒュアキントスは魔法の発動姿勢に入る。ミリアは、抜け出せていない。

 ベルの動きが、止まる。

 

「【アロ・ゼヒュロス】!!」

 

 ヒュアキントスが放ったのは、太陽の如く輝く大円盤。狙いは当然────ミリアだ。

 

「【ファイアァッボルトォォオ】ッッ!!」

 

 横合いから殴りつける様にぶつかる、ベルの炎雷。

 軌道を微塵も揺らがせる事なく、大円盤は炎雷を蹴散らし、足を掴まれて動けないミリア目掛けて直進する。

 瞠目し、歯を食い縛り、ミリアが左腕の『竜鱗の朱手甲』を使った。

 ミリアを守る薄青色の半球(ドーム)状の障壁が真っ赤に染まり────大円盤を弾いて砕け散る。

 

「ぐぅっ! ベルっ、旗をっ!」

「無駄だァッ!!」

 

 弾かれた大円盤は、ヒュアキントスの叫びに呼応する様に再度ミリア目掛けて飛翔する。

 驚愕に目を見開いたミリアとベルの視線が交差した。

 背後に迫る円盤。足を掴まれて動けないミリア。

 背後にたなびく旗印。即座に駆け寄って破壊すれば、派閥の勝利を得られるベル。

 

「────ベル、旗を」

 

 今度は、防げない。彼女の持つ障壁は一度破壊されてしまうと、一定時間経たねば再生しない。

 彼女を守るモノは、何も無かった。

 

「旗をっ!」

 

 ミリアの叫びが響く。

 直ぐ近く、後少し走れば無防備に瓦礫に引っかかるアポロンファミリアの旗印がある。それを切り裂けば、ヘスティアファミリアの勝利だ。

 遠くに見える深紫の剣は、既に砕け散る寸前だ。後、数秒で砕けてしまう。そなれば────負けるのはヘスティアファミリアだ。

 ミリアの背後に迫る大円盤。彼女は身を守る術がない。直撃すれば────街中で四散して即死したキューイの様に、ミリアも死ぬだろう。

 一刻の猶予も無い。

 

「ベルッ! 早く旗をッ!」

 

 響くミリアの叫びに、ベルは歯を食い縛った。

 ────ミリアを見捨て、ヘスティアファミリアの勝利をとるのか。

 ────ミリアを助け、ヘスティアファミリアの敗北を受け入れるのか。

 

「…………」

「ベルッッ!!」

 

 過去の光景が、ベルの脳裏に浮かび上がる。

 ダンジョンの13階層────崩落した足場────闇に堕ちていく、家族の姿────。

 あの時、彼女は言った『キューイっ! ヴァンっ! 私は良いから、ベル達をっ!!』と、

 自らの命よりも、ベル達を優先した。そして────たった一人、暗闇に落ちていった。

 なんの為に、この戦争遊戯(ウォーゲーム)で勝利を目指したのか。

 

 それは──────家族の為だ。

 

 

 

 

 

 『鏡』に映し出された光景に、ヘスティアは唇を噛み締めた。

 ジワリと広がる血の味を感じ取りながら、ヘスティアは静かに頷き、拳を強く握りしめた。

 

 ────『(えいぞう)』の向こう側には、二人の眷属が大爆発に呑まれる光景があった。




 家族を見捨て、派閥の勝利を目指すか。
 家族を助け、派閥の勝利を逃すか。
 ベル君なら、どちらを選ぶかなんて決まり切ってますしね。

 ヒュアキントスの最後の足掻きが非常に外道臭漂う行動ですが、派閥を率いる者として、手段選ばずに派閥の存続の為に抗った結果なので……多少はね?

 次回、決着。



 んむ? 昨日更新したのに今日も更新? 今日は日曜日だぜぃ? 更新するに決まってるじゃないですかー。

戦争遊戯編の後のストーリーについて

  • 正規√(大賭博場※→イシュタル編)
  • 劇場版:オリオンの矢
  • グランド・デイ
  • 『魔銃使いは恋に堕ちた』ベル√
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