魔銃使いは迷宮を駆ける   作:魔法少女()

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第一三〇話

 小石を車輪が踏んだのかガタリと馬車が揺れた事で目を覚ます。

 戦争遊戯終了後、苦労して半壊した玉座の塔から地上に下りた所でやってきたギルドの調整員の案内の元、馬車へと乗せられた事をうっすらと思い出しつつ、幌馬車の中を見回した。

 

「……目が覚めましたか。オラリオまでは暫くかかりますのでもう少し寝ているべきかと」

 

 包帯で覆い尽くされた顔に一瞬驚き、それが功労者でもあるリューさんだと気付いて身を起こした。

 馬車の中にはベル、俺、リリ、ヴェルフ、ミコト、そして包帯で全身を覆ったリューさん。リューさん以外は疲労の為か寝ている。まあ、俺もついさっきまで寝ていた訳だが。

 外套を丸めて枕代わりに使って寝ているベル。乗せられた木箱に凭れて眠るヴェルフ、そのヴェルフの足を枕にしているリリ。ミコトは座ったまま刀を抱く様に寝ている。視線を巡らせて再度リューさんを見て笑いかけた。

 

「なんか、目が覚めちゃいました」

「そうですか」

 

 寝ている他の皆を気遣ってか小さな声で返事をした彼女は、小さく息を吐いて目を閉じた。

 ガタリ、と大きく馬車が揺れる。現代のアスファルトで舗装された道ではない踏み固められただけの街道。当然の事ながら、揺れは酷い。行きはキューイの背に乗っていたので気にならなかったが────キューイの背もそれはそれで乗り心地はあまり良くはないが────時折小石を踏んでなのか揺れるのは仕方のない事だろう。

 ふと、御者席の方から話声が聞こえてきたため、耳を澄ました。

 

「オラリオの市壁が見えてきたな」

「塔は結構前から見えてたけど、もうすぐかー」

「んー、まだまだいけるだろ」

 

 御者を務めているのはガネーシャファミリアから改宗(コンバージョン)してくれた増援の内の二人。猫人の青年、ディンケ・レルカンとヒューマンの青年、ルシアン・ティリスの二人だったか。一人だとつまらんと二人で肩を並べていたはずだ。

 それよりも、オラリオの市壁が見えてきたのか。距離としては四Kぐらいか? あれ、でもあれは地球の大きさで言えばの話だし、この世界だともっと距離があるのか? それとも近いのか? いや、でもどうでもいいか。

 馬車の中で寝ている皆を踏まない様に御者席の方へ近づき────遮っていた布がはらりと捲れ、猫人のディンケがおお、と声を漏らして此方を見ていた。

 

「目が覚めちまったか。悪いな、ウチのヒューマン、御者として未熟でよ」

「おい、俺が悪いみたいに言うなよ。御者なんて誰がやっても一緒だろ」

 

 またまたぁとニヤりと笑って冗談を零した所で、ガツンッとしたから突き上げる様な衝撃を受けてよろめいた。腕を掴んでもらって転倒は免れるも、ルシアンの方は舌でも噛んだのか呻いている。腕を掴んでくれたディンケが呆れ顔で肩を竦め、彼の手から手綱を取って御者を交代した。

 

「ったく……って、今ので皆目が覚めちまったか」

 

 馬車の中を覗き込んで彼がそう言ったので、俺も後ろを振り返ればむすっとした表情のリリがヴェルフの足をべしべしと無言で叩いていた。

 

「どうしてベル様ではないのですか」

「おい、叩くな叩くな……」

「二人ともどうしたの?」

 

 確かに、皆が目を覚ました様子だ。ミコトは……舌を噛んだみたいで涙目で口を押えていた。

 

「ベル様の膝枕が良かったです」

「人の足を枕代わりにしといてその言い草はないだろう」

「あはは、そうだ、もうオラリオについたのかな」

 

 ベルの言葉に視線を進行方向に戻せば、無言で猫耳を掴んで引っ張るルシアンと、それを平然と受け流すディンケの二人越しにオラリオの市壁が見えた。

 思わず二人の横から御者席に乗り出してみれば、広がるのは草原地帯。なだらかな丘の上からオラリオを見下ろす光景がそこにあって────思わず、ディンケの肩を掴んで更に身を乗り出した。

 

「────あ」

 

 オラリオの入口、東門の所に大勢の人が集まっている。その中に、見覚えのある女神の姿がある。

 大勢の人に囲まれ、此方を見ている、黒髪をツインテールにした女神────ヘスティア様が門のすぐ前に仁王立ちしているじゃないか。ディンケが苦情を口にするのを聞いて申し訳ない気持ちになりつつも、後ろでリリとじゃれ合っているベルに声をかけた。

 

「ベル、ヘスティア様が居ます」

「え? 神様が、ごめんリリ、ちょっと退いて」

 

 慌てた様子で御者席に身を乗り出す。ルシアンが身を退け、ベルが御者席から身を乗り出し、目を輝かせた。

 

「神様!」

 

 ぱっと御者席から飛び出し、馬車を引く馬の背を踏み付けて大きく飛んでベルが駆け出して行った。文句有り気にいななく馬を見つつも、後ろを振り返って一声かける。

 

「すいません、一足先に帰りますね」

「ちょ、ミリア様まで────」

「おう、行ってこい」

 

 ぐっと親指を立てて見送ってくれるヴェルフと、口を押えながらも親指を立ててくれたミコト。リリが呆れ顔を浮かべているのを尻目に御者席を飛び出してベルの背を追った。

 あれだけの激戦の後、即座にオラリオに向かうべく一晩の休憩を挟んだだけのベルは、全快と言える程ではないはずなのに速い。俺が遅い、と言う訳ではないと思う。俺も十分に速いが、それでもベルには敵わないか。

 それでも追い付くのを諦めない様に足を動かし────首根っこを引っ張られ、身体が持ち上がった。

 

「うわっ!?」

「キュイ、キュイ?」

 

 ────遅いじゃん、何してんの? そうキューイに声をかけられる。

 首根っこを咥え、放り投げられてキューイの背に着地。つい昨日、片翼を捥がれたというのに脅威の再生能力で回復したキューイが、俺を背に乗せて加速した。

 いや、速いなキューイ。地上を駆けるベルも速いが、キューイも負けてない。ベルの背に追い付き、並走する様に飛び始める。

 徐々に近づいてくるオラリオの東門。沢山の人々が集まっていた。

 市壁の上にも数え切れないぐらいの人と、神。よく見れば『寄り添う兎と竜』の描かれた旗を大きく振っている。出迎える様に門の前に仁王立ちしていたヘスティア様が、此方に気付いて大きく手を振っていた。

 

 大した距離ではないというのに、それこそ十分もかからずに到着できる距離だというのに、徐々に近づいているのに、それがもどかしいぐらいに遅い。

 ヘスティア様が門を飛び出して此方に来ようとするも、ギルド職員らしき者に止められている。オラリオの外への戦力流出禁止令を守る為か、上級冒険者を眷属に従える神はむやみやたらとオラリオの外に出られないというギルドの規則(ルール)によってだろう。

 ベルが一段と加速し、俺もキューイの背を叩いて加速を指示する。()使いが荒いと文句を零しつつも微妙に加速してくれるキューイに感謝しながらも、先を見た。

 市壁の上にみっちりと詰まっている人々も、神々も、浴びせられる罵声混じりの歓声も、どれもが遠い出来事に思える。

 

「神様っ!」

「ベル君っ!」

 

 もう数秒で門へと辿り着くという直前、ギルド職員を振り払ったヘスティア様が飛び出した。ベルが減速し、ヘスティア様を受け止める形で止まる。抱きしめ合う二人の横に、キューイが地面を削りながら減速して降り立つ。

 急ぎ、キューイの背を飛び下り────キューイの頭を蹴り付ける形になり、文句を言われるが謝罪混じりに二人の近くに駆け寄り、跪いた。

 

「神ヘスティア、約束の勝利を────」

 

 貴女に、そう呟く前に体を捕まえられ、抱きしめられた。

 引っ張られるように、三人で縺れ合い倒れる。ぎゅーっと力一杯抱きしめられ、ヘスティア様の声が響いた。

 

「二人とも良くやった! アポロンに勝ったんだ!」

「はい神様!」

 

 少し苦しいぐらいに、力強く抱きしめられ、遠くで大歓声が響いた。その、大きな歓声も気にならないぐらいに、胸の奥から熱いものが溢れ返る。鼻の奥がつんとし、気が付けば涙が溢れ出てきて、二人を抱きしめ返した。

 小さな俺の腕では、とてもではないが二人の背中にまでは手が回らないけれど────そんな俺でも、守れたんだと、抱きしめる。

 

「────ただいま、帰りました」

「おかえり」

 

 耳朶を打つその温かな一言が、何よりも嬉しかった。

 

 

 

 

 

 オラリオの中心に聳え立つ巨塔『バベル』。

 それを中心に広がる中央広場(セントラルパーク)に数多くの人と神が集まっている。

 昨晩から興奮冷めやらぬ都市に新たな興奮を齎す要因がやってきたことで、再燃した市民、冒険者、神々が周囲を取り囲み、今か今かとその時を待ちわびていた。

 中央広場、取り巻く観客に囲まれているのはボロボロのアポロンファミリアの眷属達。その数、二四〇人程。

 戦争遊戯(ウォーゲーム)前には四〇〇を超えていたはずの彼らは、その激戦──── 一方的な猛攻を浴び────数を減らしている為、数は少ない。

 死者一一三名、負傷者二〇八名、一部重傷者はそのまま治療院に運び込まれ今なお生死を彷徨っているらしいと聞く。

 集められた残りの生存者────そして、戦争遊戯(ウォーゲーム)の敗北者達は、裁きの時を待っているのだ。

 

「────で、アポロンファミリアへの要求はどうしようか」

 

 オラリオへの帰還後、一晩経った今日はアポロンファミリアへの要求の発表の日だ。

 と言っても、要求をどうするか晩の内に纏める事はできなかったんだがね、だって寝てたし。三人で。

 神々が勝手に用意した舞台(ステージ)の上に集められたヘスティアファミリアの面々。リューさんは当然この場に居ない。あの人出てきたら不味いしね?

 それと、片足を無くした狼人の【蒼空裂砕】フィア・クーガと、雷撃の槍を盾で受け続けて捥げてしまった【不動城塞】グラン・ラムランガの二名は治療の為居ない────フィアさんは、その、あの『再生薬』の刺激臭で嘔吐と失禁して昏倒。再生するからと調子に乗ったのを激怒した神ディアンケヒトが、嗅覚を麻痺させずに治療した結果である。可愛そうに……獣人には刺激が強過ぎたんだろう。

 残るメンバーは全員集められている。人々から処刑執行はまだかと言った雰囲気が発せられており、どんな沙汰が下されるのかの賭けすら始まっているらしい。中央で身を寄せ合って沙汰を待つアポロンファミリアの面々は死んだ目をしていたり、俺は悪くねえと騒いだりしてる。

 最前列に立たされた幹部連中と、彼らの前で跪かされているアポロンを見下ろす舞台(ステージ)の上、居心地悪そうにヴェルフとリリが呟いた。

 

「どう、と言われても」

「リリもその要求をしても良いのですか?」

 

 困惑した様子の二人がそう呟くのを聞いてヘスティア様が大きく頷いた。

 

「ヴェルフ君もリリルカ君も要求する権利はあるさ。もちろん、キミ達もね」

 

 女神に視線を向けられた面々────増援で加わった者達が困った様に顔を見合わせた。

 

「え? いや、でもさ?」

「俺、俺達は、なあ?」

「…………女神のご意向に任せる」

 

 完全にキョドり始めたルシアンに、猫耳をビクビクさせるディンケ、目を閉じて腕組をして逃げたエルフのエリウッド・ベルメス。ガネーシャファミリアから来た三人は特に言いたい事はないらしい。

 続いてロキファミリアの面々、と言っても二人抜けてるが。

 

「えー、えーっと、特に、ないかなぁ? 目は治ったし?」

「すいません、てっきり既に決まっているモノかと……特には思いつかないですね」

「んー、お腹減った!」

 

 一番年長者の【双拳乱舞】イリス・ヴェレーナは本気で何も思い付かないのか肩を竦め、エルフの少女、【木漏れ日】メルヴィス・ハーヴェはぺこりと頭を下げた。最後、両腕の白いアマゾネスの【幼豪】サイア・カルミさんは多分ダメみたいですね。この子、本能で生きてる子っぽいし。

 

「あの、自分は特に……」

 

 残るミコトも要求の内容が思いつかないらしい。

 要求、要求ねえ……彼らに対し、ヘスティアファミリア(おれたち)は何でも要求できる。

 総資産全ての没収も、派閥の解体も、本当に何でも、だ。それこそ────死ね、と命じる事すら出来る。

 

「んー……派閥の構成員一人残らず処刑、アポロンも天界に送還ってのが話が楽なんですが」 

 

 まあ、それはそれで不味いっちゃ不味い。特にあの戦争遊戯(ウォーゲーム)の様子をオラリオ全土で放送していた為、ヘスティアファミリアへの警戒度が異常に高まっている今現在に置いて、慈悲の欠片も無いような行動をとれば他派閥からの印象が悪化する。

 ただでさえ『超遠距離砲撃(アンチ・マテリアル・スナイパーライフル)』なんて馬鹿げた攻撃を持ってる眷属が所属する派閥が敵対派閥の構成員を問答無用で虐殺(ジェノサイド)なんてした日には、ねえ?

 無用に警戒されて何するにしても足を引っ張られかねないしなぁ。

 

「当然、外部からの増援である傭兵とかも含めて、になりますかね」

 

 無論だが、完全に恨まれているだろうししょうもない逆恨みされてる状態な訳だ。今後一切関わる事を禁ずるとした所で、他派閥への改宗(一年後)後に報復をしようとする奴だって出てくる可能性高いしね。

 

『ま、待て! 俺達は関係ないだろっ!』『騙されたんだ!』『あの商売神が!』

 

 話し合いの声はわざわざ拡声器で広場に響く様にされている為か、集められたアポロンファミリアの構成員……じゃないな、後から入団した勝ち馬に乗ろうとした冒険者や雇われ傭兵等が騒ぎ出す。

 っつっても仕方ないだろ。こいつら正規団員の様に大人しく沙汰を待つ事もせずに『俺は悪くねぇ! 商売神が悪いんだ!』の一点張りだし、ヘスティアファミリアを逆恨みしてるだろうし。

 

「うぅん、ミリア君の言う通りではあるんだけど……流石にね」

 

 色々な観点から皆殺しは危うい。となれば後はもっと何らかの罰則を……となるんだがね。

 

「とりあえず、アポロンファミリアの本拠(ホーム)と派閥資産、それから各構成員の個人資産と武装の没収ですかね」

 

 無論、貸金庫の鍵も没収で。それからオラリオから退散してもらうか……しかしなあ。

 にしても、騒がしくて煩いな。自分は悪くないと本気で思ってる奴多すぎじゃないかね。そんなん戦争遊戯に参加した時点で無関係とはいえないだろうし。

 それに、ギルドが正式にアポロンファミリア構成員だと認めてる訳だから逃げるなんてできないんだがね。

 

「あ、ごめん僕から一つ良いかな」

「ベル君? 良いよ、なんでも言ってくれ」

 

 考え込んでいたベルが何かを思いついたらしい。ベルの要求、何か気になるな。

 

「アポロンファミリアには街の皆に謝って欲しいんだけど……」

「ベル様? それはどういう意味で?」

「うん、僕らとの抗争で街の皆には迷惑かけたし、それを謝って欲しいなって」

 

 ああ、俺達を戦争遊戯(ウォーゲーム)に引っ張り出す為にアポロンファミリアが引き起こした街中での襲撃。それの際の抗争で街の住民に多大な迷惑をかけたし、それを謝罪しろって事か。なるほど。

 ……言いたくないけど、それって逆にムカつきそうだけどなあ。どうせこいつら悪い事したなんて微塵も思ってないだろうし、上っ面だけの謝罪になりそうだ。

 

「でしたら、街の復興費を出して貰いましょうか。何件か家屋が倒壊したらしいですし」

 

 とりあえず、金で解決だ。心が籠ってなくても金品を出せばある程度はなんとかなる。

 ベルの放った速攻魔法(ファイアボルト)の所為とは言ってはいけない。あれは空き家だったし、多少はね?

 しかし、アポロンファミリアの資金って今どうなってるんだ?

 

「えっと、神アポロンに質問です。……派閥資産、残ってます?」

 

 あれだけ盛大に物資を用意して運用したんだ。しかも殆どを俺達が吹っ飛ばした訳で……彼らの治療費とか考えたくないな。

 

「残っていると思うか?」

 

 無駄に胸を張って誇らしげな様子で逆に質問を返してくるアポロン。殴っていい? ねえ、殴っていい?

 残ってるなんて思う訳ないじゃん。まともな賠償金回収も出来なさそうで困ったなあ。

 

「アポロン、質問に答えろ」

「…………借金まみれでまともに資金は残っていない。唯一残っているのは本拠(ホーム)ぐらいだ」

 

 ああ……賠償金、さよなら、さよなら。序に復興資金とか出せる訳ないね、こりゃ。

 となると、だ。これどうすんの? 困るんだよなあ……資産回収の前に借金まみれですって宣言されてどうしたらいいのよ。というか額は?

 

「借金の金額は?」

「────だ」

 

 んむ?

 

「二億と三〇〇〇万ヴァリスだ」

 

 わぁお、すっごい金額ぅ……ちなみにヘスティアファミリアは残り四億と七〇〇〇万の借金があります。アポロンの事笑えないね、あははは……はは……はぁ。

 いや、まあ、そうだな。とりあえず本拠(ホーム)は没収だ。後は残った構成員に対する罰をどうするか。

 

「じゃあ第一要求として本拠(ホーム)の引き渡し。それで良いかな」

 

 ヘスティア様の問いかけに全員で頷く。取れるものは片っ端からとっておこう、とりあえず借金に塗れちゃってるとはいえ、残ってるモノもあるしね?

 

「第二要求は……アポロンの眷属の個人資産と武装の没収かな」

 

 それも同意し、羊皮紙へと記載する。傭兵や増員の冒険者なんかが『ふざけんな!』と騒ぎ立てるが────ギルド職員が大声で黙る様に指示を出し始める。

 彼らがどれだけ騒ごうが喚こうが泣こうがちびろうが関係ない。敗北者である以上、黙って沙汰を受ける以外に選択肢は無いのだから。とはいえ絶対に恨まれるよなあ……勝っても面倒臭いし、やっぱ争いなんて碌なもんじゃねえ。

 

「第三要求として、派閥の解散……は流石に不味いね」

「外部冒険者が何しでかすかわかんないですしね」

 

 忠誠心の高い者達は良い。アポロンの顔に余計な傷を付けない様に敗北者の刻印の押された彼らは大人しく指示に従うだろう。負けてなお喚き散らす様な恥晒しな真似はしまい。

 けれど、何度も言う様に外部の冒険者は話は別だ。忠誠心の欠片も無い彼らは、アポロンの名に瑕が付こうが関係が無いのだ。故に、何をしでかすのか本当にわからん。報復を考える可能性が高いし。

 

「よし、ならこうしよう」

 

 現在の派閥構成員の内、本当に派閥を抜けたいと申し出る者は脱退の許可を出す事。ただし、戦争遊戯(ウォーゲーム)を受託した日以降に入団した団員は今後派閥の脱退を禁ずる。

 これなら過去に俺達の様に強引な手段を以て望まずに入団させられた者達を脱退させつつ、何しでかすかわからん奴らはアポロンの所で縛っておける。

 

「第三要求は今ので良いでしょう。で、第四要求として今後一切のヘスティアファミリアに対する間接的、直接的問わずに害する行為の一切を禁ずる、と」

 

 友好派閥や友好的に接していた市民なんかを攻撃して間接的に害してくる可能性も排除しないとだしね。

 

「第五要求、オラリオからの永久追放」

 

 まあ、妥当か。派閥資産はゼロ、個人資産も完全没収。武装も没収なのでほぼ着の身着のままオラリオから放り出される事にはなるだろうが、なんとかなるでしょ? 多分、神だし、恩恵受けてるし。

 

「あ、リリから一つ良いでしょうか」

「ん? なんだい?」

 

 真剣な表情でアポロンファミリアの団員達を見回し、リリは口を開いた。

 

「ルアン・エスペルに謝罪を要求します」

 

 ルアン……ああ、あの小人族の男。何かあったんかね?

 ざわりと静かだった彼らがざわめきだし、数人の団員が何かを引き摺って最前列から放り出した。べしゃっと地面に叩き付けられたのは────小人族の男、らしい何か。

 いや、本当に何があった? 顔面の形が変形してるのか元の形が想像できないぐらいにボッコボコにされたルアンの姿があった。

 

「────えっと、何があったんです?」

 

 いや、一晩でルアンに何が────あっ、待って、言わなくて良いかも。

 

『裏切り者がっ』『くたばれ』『こいつさえ居なけりゃ』

 

 …………うん、すっかり忘れてたけどルアンは裏切り者扱いだったね。そりゃ敗北者として一纏めにして輸送されてりゃこうもなるか。まあ、なんとも言えないけど、利用したの俺達だしね? タネ明かしするとリリの魔法がバレるし、リスク考えると擁護も出来ないんだよね。うん……アポロンは投げ出されたルアンを見ても無反応。愛してるとか言ってたのが嘘みたいに虫けらでも見る様な視線を向けてる。怖いね。

 

「リリ、彼に対する要求って何です?」

「……ミリア様に謝罪してもらおうかと」

 

 はぁ? はい? えっと、俺に、謝罪? むしろこっちから謝罪するんじゃなくて? あんだけズタボロにされたルアンに、何を謝らせるんです?

 

「ミリア様を怪物趣味呼ばわりした事を、ですが……」

 

 あー、なるほど。この世界における最上級の侮蔑の言葉を放った事を謝罪させようとしたのね。うん、まあ────そんなのされても困るんだけど。というか殺意が沸き出てくるからやめて欲しいかもしれん。

 

「リリ、気遣いありがとうございます。ですが必要ありません」

 

 どうせ謝罪する気ゼロだろうしね。上っ面だけの言葉で『ごめんなさい』なんて言われたら殴りたくなる。というか、殴る。気持ちの欠片も無い吹けば飛ぶ謝罪の言葉程、ムカつくモノは無い。

 

「上っ面だけ謝られても困りますしね」

「ミリア様がそれで良いのなら、リリは構いませんが」

 

 気遣ってもらえるのは嬉しいけど、ルアンからすれば裏切り者扱いの原因になってる俺達への心証最悪だろうし、謝罪する気なんて微塵もわかないだろう。とすると俺も謝る気が失せた。口は災いの元と言うし、余計な事を言ったルアンが悪いって事でここはひとつ。

 

「他に要求はあるかい?」

 

 んー、今の所思いつかな────あ。

 

「一つ、思い付いた要求があります」

「ミリア君、何かあったかい?」

 

 んむ、反省を示す為に頭を丸めてこいっていうじゃん? いや、実際に丸坊主にしろって意味じゃないんだけどさ。あれは『猛省してこい』って意味であって、実際に丸坊主にしてきたら意味理解してないだろって笑われ────いや、言った相手からキレられるだろうが。

 どうせ『猛省しろ』って言ってもしないだろうし、丸坊主にしちゃおうぜ。脱退する子は、まあ大目にみてやるか。丸坊主になってでもアポロンの恩恵を手放しませんっていう忠誠心の高いのだけにしとこう。増援? 全員丸坊主決定で。

 

「アポロンファミリアの構成員、脱退を望む者を除いて全員の髪を剃りましょう。当然、アポロンも同様で」

 

 アポロンを含め全員がぎょっとした様子で此方を見上げる。やめてと悲鳴を上げる巫女服姿の女性もいるが、知るかハゲ────まだ丸坊主(ハゲ)じゃないけど────自業自得って奴だ。

 それに、名は体を表すと言うし、派閥名も相応しいモノにしようか。

 

「序に、派閥名もアポロンファミリアから『ハゲファミリア』にしましょうか」

『ッ!?』

 

 逆だったか? 逆だな、体は名を表すになってるが、まあ細かい事は気にしなくて良いだろう。

 神を殺せないから、髪を剃ろ(殺そ)う。

 これは上手いギャグだな、盛大な笑いが取れるに違いない。




 ミリアちゃんにギャグセンスは無かった。

 アポロンへの罰は、派閥名を【ハゲ・ファミリア】に改名する事と、派閥に残る者+アポロンは全員ハゲにする事に決定、と……ゆるゆるな罰でさーせん。

 原作と違い、資産の接収は出来ませんでしたが、まあ資産は嫌でも増えますよ。『再生薬』ありますし。
 後は戦争遊戯(ウォーゲーム)勝利後の宴と、アポロンファミリアから没収した本拠(ホーム)の視察ですかね。それが終わったら、『ファミリアクロニクル エピソード・リュー編』の『大賭博場』ですね。





 TSロリ増えろ増えろと最近言わなくなったことをツイッターのDMで指摘された私です。

 どうせ、みんな、エタになる。

 というか何個か投稿されてるの見たけど、シルバーバック戦まで進んだの見た事ないからもう何も言えないんですよ。
 増えて欲しいってのは今でも思ってます。でも増えるよりは、今は続いて欲しいですかね。
 プロローグや第一話読んで『ヤバい魔銃使い(私の作品)より絶対に面白い!』って思っても更新が途絶えちゃってますし。

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