魔銃使いは迷宮を駆ける   作:魔法少女()

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第一三三話

 乏しい燐光に照らし出される岩窟内は、湿った空気に満たされている。

 うっすらとした光によって映し出される影の主は、怪物(モンスター)だ。火炎を吐く犬型の怪物、黒犬(ヘルハウンド)が唸りながら鼻を研ぎ澄ませ、白い毛並みの一角兎(アルミラージ)の群れは愛くるしさを感じさせる仕草で周囲を見回し、時折耳を澄ませる。

 彼の怪物達が探し求めている対象は、命知らずにもこの迷宮に足を踏み入れた酔狂な侵入者(冒険者)達だ。

 無数に錯綜する洞窟を思わせる迷宮内を、獲物を求める怪物達が徘徊している。

 

 ふと、一匹の一角兎(アルミラージ)が微かな異音を察知し、周囲の仲間に伝える。にわかに殺気立った彼らは、音の出処目指して一丸となって駆け出していく。細い通路を抜け、彼らが飛び出した先には大きく広がった空間。冒険者の間では広間(ルーム)と呼ばれるその空間の中央には────異質な小人が一人。

 大きめのローブを身に纏い、銃を思わせる杖を手にした人。小人族と呼ばれる小さな体躯をした、金髪で容姿の整った────怪物にとっては容姿など関係なく、ただの侵入者である────少女。

 彼女の背には、一対の翼。翼竜を思わせる、目に焼き付く程の深紅の色合いを持つ、竜翼。よく見れば、その足元には蜷局を巻く様に細くしなやかな尾が目に入った事だろう。

 彼のモンスターは、それが人々にとって異質な姿であろうが関係ない。侵入者である以上、排除する対象にほかならず────殺意を向ける対象に他ならない。

 唸り声を響かせ、威嚇の咆哮を上げる。その愛くるしい兎は、今や殺意漲らせる怪物の本性をその身に写し出して駆け出していく。手にした天然武装(ネイチャーウェポン)の石製の片手斧(トマホーク)をある個体は手に、別の個体は口に咥え、獲物に殺到する。

 その身を引き裂き、血を浴びて喰らい付く。怪物として植え付けられた憎悪のままに、憎らしい敵を屠る快楽に身を委ねようとし────兎は獲物から向けられた視線に凍り付いた。

 

「ようやく、来たわね────試し撃ちの相手が」

 

 獲物が手にした銃杖には十二分な魔力が宿っている。銃口を思わせる魔法陣が、四つ。四本の銃身(バレル)を持つ多銃身機関銃(ガトリング・ガン)の効果を魔法として落とし込んだ、特徴的であり、独創的な、冒険者が持つ、魔法。

 詠唱を終えて即座に発動可能な状態のそれに対し、彼らの反応は速かった。即座に数匹が壁になる様に前に出て、何匹かは後退して生存を重視する。群れを作り活動する一角兎(アルミラージ)の特性上、一匹でも獲物に辿り付ければいいという効率的な本能に任された、犠牲ありきの戦法。

 両手に握る片手斧を交差させ、防御姿勢を取る前衛。防御した彼らが倒されたら直ぐに前に出れる様に突撃姿勢を保ち待つ後衛。数匹は片手斧を投擲する事で魔法そのものの妨害へと走り────その全てが魔弾の雨に消えた。

 

「【ファイア】」

 

 視界を埋め尽くす発火炎(マズルフラッシュ)。瞬く間に閃光を超え────獲物を狩る側であると誤認した兎達を、瞬く間に引き裂き、挽肉へと変えていく。

 鼓膜を引き裂く銃声。断続した音色は、激しく、そして休む間もなく耳朶を打ち聴覚を破壊する。閉鎖された空間で引き起こされた甲高くも断続したその音色は、遠く激しく響き渡り────僅か数秒間に百を超える弾丸を吐き出す。前衛の壁役、後衛の突撃役、数匹の妨害役、その役割の全てを無残に引き裂き、全てを無に帰す雨。

 慈悲の欠片もない魔弾の雨は、十匹以上からなっていた一角兎(アルミラージ)の群れを、綺麗さっぱり灰に変えた。

 

「…………あー、効率悪過ぎ。しかも魔石も吹き飛んでるし。今のでマガジン三つ消費って割に合わないわね」

 

 ぼやく様に灰の山と化した獲物を目にし、小人族の少女────とあるゲームの職業(クラス)に変化し、試射を行っていた、ミリア・ノースリスは深い溜息と共に、今回の試射の総評を纏める。

 

 

 

 結論。弱くはないが迷宮内で使うのに難有り。

 身の丈と同等の大きさの竜翼を羽ばたかせると、身体が大きく揺れる。バランスを取り辛く、ゲーム時代とは異なり重心を保つ為に翼を微妙に広げておかないといけないのが面倒臭い。耐久実験はキューイに攻撃してもらって試したが、かなり耐久性は高い────が、所詮俺そのものの能力(アビリティ)『力』が不足している影響もあってか、防御姿勢で耐えるなんてできずに吹っ飛ばされたのだ。

 

「キューイ、戻ってきて良いですよ」

「キュイ!」

 

 のそりと、岩場の影に身を潜ませていたキューイがのそりのそりと現れる。

 ランクアップの影響もあってか、その身が大きくなると思っていたのだが、特に大きくなるでもなくキューイは体長1M程で成長が止まった。成長? かどうかは知らんが、どうにもこれ以上大きくなりはしないらしい。同じくヴァンも1.5M程と同じままだ、まあ身体能力はかなり向上してるらしい。

 今までは俺一人掴んで飛ぶのが精いっぱいだったのが、ベルとヴェルフを同時に掴んで飛行可能になっていたので間違いではないだろう。他にもなんか火球の威力があがったとかどうとか。

 クラスチェンジ『フェアリー・ドラゴニュート』を解いてニンフ型に戻りつつ、キューイの背にしがみ付く。

 

「キュイキュイ?」

 

 また壁にぶつからない? だって。思い出させんな。

 閉所空間での竜翼を使った回避行動の結果、壁に激突してしまったのだ。あれは久々過ぎてちょっと失敗しただけだから。本気でやれば密林地帯を颯爽と木々の間を抜けて高速でぶっちぎれるから。

 まあ、正直なところ迷宮内で使うのならもう一つの『ドールズ』の方が最適だろうが。

 『ガトリング・マジック』の方もかなり燃費が悪いし、あの一斉掃射で三マガジンである、スナイパーの砲撃の方が威力はあるが────雑魚を薙ぎ払うのには使えるか。

 

「余計な口叩くとその口に唐辛子捻じ込みますよ」

「キュイ!」

 

 横暴だ! なんてキュイキュイ喚きだすキューイの首に手を回し、頭をぺしぺしと叩く。早くこの場を去るぞ────今日は俺とお前しか居ないんだ。Lv.3になってクラスチェンジで新しいのが増えたので試す為に中層まで足を運んだ訳だが。今日は他に仲間はいない。

 屋敷の改装の方で皆が色々話し合いをするらしく、特に要求の無かった俺は部屋の場所は極力ヘスティア様の近くにと言って、ドラゴニュートについての調査をしに来たのだ。

 文句を零しつつもキューイが加速し、視界が一瞬歪む。ぐっと振り落とされかねない程の加速を得たキューイが一瞬で迷宮内を駆け抜けていく。

 時折、翼を使って飛行しつつも中層から一瞬で上層に────途中で驚いた下級冒険者が尻もちをついていたのに気付きつつもスルー。見知らぬ下級冒険者よ、それぐらいで驚いてたら命がいくつあっても足りんぞ。

 

 

「キュイキュイ」

「あー、わかってますってば。この後はガネーシャファミリアに行ってクリスを回収ですよね。はぁ、まだドールズの方の確認終わってないんですけどねぇ」

 

 『フェアリー・ドラゴニュート』についての説明は、そうだな。

 まず、空対空の飛行格闘戦(ドッグファイト)と、空対地の機銃掃射(ガトリング・レイン)────ちなみに、アニメ版の『ミリカン』ではミリア・ノースリスと言うキャラは巨大なグレイブ、薙刀の様なモノを使う近接格闘キャラになっている。なお漫画版では大剣も振り回す模様。

 

 アニメ版も漫画版もそうだが、主人公のニンフ型の新兵の少女に対しミリアちゃんの当たりがだいぶ悪かった影響もあり、二次界隈ではミリアちゃんアンチが多かった訳だが、あれはアニメ版が悪い。尺の関係でミリアちゃんの背景に関して何もアニメ版で明かされなかったのだから────漫画版だと印象ががらりと変わる。

 上層部からの指示を忠実に実行する為、主人公の少女が所属する部隊が出していた救難信号を無視したり、遠距離通信で『川にでも飛び込んで祈りなさい。アンタらに構ってる時間は無い』とか言っちゃうしね。

 無論、上層部の指示である。確かミリアちゃん本人は別の任務で物資輸送を請け負っていたけど、救難信号を察知して助けに行くべきと何度も上層部に通信で打診して────任務の優先を言い渡されて結果的に助けに行けなかっただけだ。んで、『川に飛び込め』っていうのは、上空で騒ぎ起こして敵兵の注意を上に向けさせるからその隙に川を下れって意味だったのだが。

 わざと見つかる空路を飛ぶことで注意を逸らし、主人公の所属する部隊の撤退に一役買っている。

 アニメ版では上層部に噛み付きまくるミリアちゃんの描写が一切なかったせいで、主人公を何度も見捨てたり、酷い事言ったりするだけのキャラとしての印象が付いたのだ。

 漫画版だと上層部から厄介者扱いされてる優しい子なんだけどねぇ。

 

 その所為でミリアちゃんが最期に上層部に見捨てられた場面では『ざまぁ』と言われていたが────ちなみに実際には命令無視にならない程度の範囲で、身勝手に他の部隊を助けたりしている事を疎まれた結果。部隊諸共処分する為にミリアちゃんが必死に出し続けた撤退要望を拒否し続けただけなんだがね。

 上層部からの最後の通信は『撤退は許可できない。攻撃を続行せよ────以後撤退要望を行った場合、反逆の意図有りと判断する』である。

 視界を埋め尽くす大量の戦闘機を前に、残り片手の数しか残っていない部下からの縋る視線を受けながら、彼女は部隊の皆に突撃命令を出し────五〇近い戦闘機を薙刀でぶった切り、最期には自分以外の部隊員が全滅したのを見届けてから機銃の雨に撃たれて散った。

 ミリアちゃんアンチするならせめて漫画版読めって話である。他にも飛行部隊の隊長の話とか、アニメ版で尺の都合があって色々と省かれた話は多いしね。

 あと、原作のゲーム版だとただの狂人のファクトリー型が漫画版、アニメ版ではすこぶる善人になって────っと、話が逸れたか。

 

 今の俺が薙刀を使うのは、無理だ。銃剣風の杖で精いっぱいだし、そもそもこれは攻撃用ではない。あくまでも自衛用の短剣が付いた銃杖に過ぎないのだ。

 じゃあ漫画版よろしく大剣で戦闘機を片っ端から真っ二つにしていく? 無理だろ。

 というか、ゲームの方で近接格闘型のドラゴニュートって色物枠だったし、銃弾飛び交う中、わざわざ近接武装で戦う奴とか頭おかしいとしか言えないしね? ……え? 帝国兵? あれは存在そのものが色物枠だから。

 ゲームでも時々いたが、魔法少女に近接戦させんなよ。挙句の果てに帝国兵と近接戦挑むなよ、それで勝つなって話だ。あの変態魔法少女筆頭とも呼べる頭のおかしい近接魔法少女は、今は元気にしてるだろうか……あ、なんか元気一杯に帝国兵と近接戦してる姿が浮かんだ。何の心配もいらんな。

 

 と、考え事をしてる間に地上に続く大穴が見えてきて────その大穴の中央から、真上に向かってキューイが飛ぶ。円形の穴の外周に設けられた階段を歩む冒険者が驚きの表情で此方を指さしているのを尻目に、一気にバベルの地下一階に到着。

 周囲で起きるざわめきを無視し、キューイの背を下りて────駆け寄ってきたギルド職員に盛大に怒られた。

 街中で飛竜を飛ばすの厳禁と言われたのでバベル内ではオッケーでしょ、なんて言い訳をしてなんとか今回はおとがめなしになったが、次やったら罰金を取るだそうだ。せっかく翼があって移動が楽なのにどうして禁ずるのか……絶対嫌がらせだろ。

 

 バベルの地下から出て、中央広場(セントラルパーク)に顔を出せば────花束の群れがお出迎えしてくれた。

 

『ミリアちゃん俺の眷属になってください!』『俺のファミリアなら三食首輪付きだよ!』『むさ苦しい男神じゃなくて私の所とかどう?』

 

 わちゃわちゃしてる神々を見て、嘆息。というか首輪付きとか言ったそこの男神、顔は覚えたからな。

 あの戦争遊戯(ウォーゲーム)の影響は、とてつもなく絶大であった。

 このように、街中を歩むと何処からともなく神々が湧き出てきて勧誘される様になってしまったのだ。最初はあまりの面倒臭さにキューイを使って空を飛んでいたが────あの糞豚ギルド長、飛行料金を取るとか訳の分からん事言い出しやがって。街中で空を飛ぶなんて言語道断? 街の住民が不安がる? その為に金を払えっておかしいだろ。しかも一ヶ月当り二〇〇万とか足元みやがって。

 

『狐っ娘になってくれー!』『犬耳とか無いのかぁ?!』『猫、猫耳とか是非!』

 

 あの、この神様連中、実は俺のクラスチェンジの全貌わかってて言ってません? というか花束は返すしいらないから帰って。 

 面倒だから空を飛んで無視したいが、出来ないんだよなぁ。本拠の改装が終わるまでの仮住まいの宿の前にも神々が集まって迷惑になってたし────ベルも似たようなもんだけど。あっちよりも俺の方が一段と酷い。

 と言うか頭撫でようとすんな、キューイこいつら追い払って。

 

「他派閥に行く気は一切ありません。退いてください────キューイを暴れさせますよ」

 

 ざっと神々で作られた壁が割れる。キューイはモーゼだった……?

 まあ、冗談はさておきガネーシャファミリアの本拠に向かわなくては。

 

 

 

 ガネーシャファミリアの本拠、『アイアムガネーシャ』の前の門兵の方に軽く会釈して────素通り。

 良いのかそれでと思わず突っ込みを入れそうになるが、ちゃんと素通りさせる相手は選んでいるらしいので良いらしい。俺はそこそこ信用されているらしく、素通りさせてもらえる。ちなみにこれがヘスティア様だと確認がとられる。意味がわからない。

 流石にキューイは預ける事にはなるがね。

 目の前に聳え立つ神ガネーシャ自身の形をした本拠、その入り口である股間に歩みを進めていると、しょうもない考えが浮かんだ。

 あの入口のガネーシャ様の股間に毎日出入りし続けるのと、毎日アポロンの顔に包まれたあの本拠。どっちがましかなんて考え────出来ればどっちも遠慮したいな、と溜息。

 慣れないとはいえ、一度中に入ればあの本拠とは異なり上質な調度品が適度に置かれ、落ち着いた雰囲気の内装であるこの本拠は天国に等しいだろう。入口にさえ目を瞑れば良いのだ────あと絵画。廊下の絵画に躍動感あふれるガネーシャ様の筋肉が描かれている。雄々しい口元の微笑みと勇ましいその姿は、絵としてはなかなかの代物。

 ただ、ちょっと数が多いかな。いや、アポロンに比べるとまだまだだ。

 自身の本拠の惨状と比べつつも廊下を歩いていると、前方からシャクティさんが歩いてくるのが見えた。

 

「ノースリスか。すまないな、祝勝会でガネーシャが煩くて」

「いえ、むしろ盛り上げてくださって感謝していますよ」

 

 顔を引き攣らせた彼女の笑みに、しっかりと返しておく。と、ふと疑問を覚えた。

 

「ところで、なんですが。ヴァルマさんは何を? わざわざ私を出迎える、とは思えませんが」

 

 彼女はこの超巨大派閥の団長。飛竜関連の話であろうが彼女がわざわざ出迎えを行うとは思えない。

 

「ああ、その話か……少し、な。娯楽都市(サントリオ・ベガ)を知っているか?」

 

 真剣な表情を浮かべて呟かれた言葉に、背筋を伸ばす。

 娯楽都市(サントリオ・ベガ)

 過去、『世界の中心』とすら例えられる事のあった迷宮都市(オラリオ)には、致命的に欠けているモノがあった。

 冒険者が集う。彼らが必要とする武装を作り出す鍛冶師が集まる。治療を行うための治癒士が集まる。日常品を取り扱う商人が集まる。迷宮より生み出される魔石を加工する職人が集まる。最初は野蛮な冒険者が集っただけの街、それが神々が降り立った事で一気に発展していった迷宮を探索する都市。それが迷宮都市だ。

 莫大な金の流れが生まれたその都市。其処に足りなかったモノは────娯楽施設。

 神々の要望に応えるべく、過去の管理機関(ギルド)は各国の大都市から融資を募り、繁華街に無数の娯楽施設を作り上げた。

 有名どころで言えば大劇場(シアター)、そして大賭博場(カジノ)

 この二大娯楽施設はギルドの本国、本都市の規模を上回ってしまう程に発展を遂げ、今や管理する側であったギルドですら口出しできない程になっている。運営を主導するのは、あくまで投資を行った他国────それもまた、ただの外向けの話。実際には各国ですら制御しきれない程に、大きくなり過ぎた施設だ。

 都市管理を行うギルドも、国々も口を挟む事が難しい、超巨大施設。

 治外法権とすら比喩される、危険な場所だ。

 他にも数か所、そういった治外法権は存在するが────イシュタルファミリアが取り仕切る歓楽街とか────其方と違い此方は人が管理している施設だという違いがあるぐらいか。

 

「一応、知識としては。行った事はありませんが」

「だろうな。お前が毛嫌いしそうな場所だ」

 

 不愉快そうに眉を顰めた彼女の背を追い、一室に辿り付く。

 客室らしいその部屋に入り、彼女がクリスを運んでくる様に団員に指示を出す。

 

「あの場所は、我々ガネーシャファミリアも手を焼いている。どうにか尻尾を掴みたいのだがな」

 

 他国から足を運んだ大富豪達に何かあれば、オラリオに威信に関わる。

 ギルドからの勅令に等しいその命令に、ガネーシャファミリアは大きく関わっている。彼の場所で行われる非業な行いを、目にしながら手出しは出来ない。腸の煮えくりかえる思いをさせられている、そんな場所。

 

「最近、街中で強引な手段を使った人攫いが発生している」

 

 手口としては単純だ。賭博で大きく負けさせ、借金を背負わせる。

 その借金の形として、娘を攫っていく。……なんというか、阿呆らしいやり方だな。足が付きまくっている時点でこの方法を採用してる奴は頭の悪い馬鹿か────そんな馬鹿な手段をとっても大丈夫だと無駄に慢心してる阿呆だ。

 

「馬鹿か阿呆ですね。保身の一つも考えてない方法です」

「その保身をする必要が無いほどに、あの施設の人間は金と権力を握り締めているからな」

 

 いや、馬鹿だ。間違いなく、そいつは馬鹿野郎だ。

 例え金や権力を握り締めていたとしても、尻尾を掴まれる余地が残っているのならば不味い。相手が社会的立場を考えている普通の人ならまだしも────立場も、何もかも関係ないと自暴自棄に等しい狂人と化した奴が敵に回った時、その人物は金も権力も意味を成さない暴力の下に死ぬ。あの女の様に。

 

「────と、私はクリスの引き渡しの為に訪ねてきたんですが。なんでその話を?」

「……はぁ、ガネーシャがノースリスがこの手の話に詳しいと女神ヘスティアから聞いたらしくてな。何か尻尾を掴む手段が無いかと思ったのだが」

 

 あー、猫の手も借りたいって感じか。いくらなんでも俺に話すのはおかしくないか?

 うーん……金と権力を握り締めて慢心してる阿呆だと仮定するが。普通のやり方だと手が無いんだよなぁ。

 現行犯、が出来ないから困ってるんだろうし。身分を偽って潜入して内側で証拠を掴んで────多分、名の知れた第一級冒険者や第二級冒険者だと無理だろうな。

 

「手が無いって訳ではないですが、多分、というか間違いなく都市の威信をぶち壊しますね」

「そうか、それは駄目だな」

 

 そう呟いて腕組をして唸るシャクティさん。やはり、というか絶対におかしいな。

 いくら猫の手を借りたい状況でも、他派閥で、なおかつ都市内で微妙な立ち位置になったヘスティアファミリアに話すのはおかしい。

 

「あの、すいません。単刀直入に言いますが、私に何をしてほしいんです?」

「実はな、お前には件の娯楽都市(サントリオ・ベガ)、『エルドラド・リゾート』に存在する最大賭博場(グラン・カジノ)への招聘状が届いている」

 

 は? 招聘状? いや、なんでガネーシャファミリアに?

 え、ていうか何処から? どっかの国からの推薦状でしょ? 意味わかんないんだが。

 

戦争遊戯(ウォーゲーム)の際にお前の調教(テイム)していた竜について是非とも話がしたい、とな」

 

 ………………。ああ、金持ちの道楽ね。うん、なるほど────馬鹿じゃねぇの。

 

「って、もしかしてギルドから?」

「ああ、他国の大都市からギルドを通して、な。ギルド長が今朝になって大慌てでやってきて秘密裏に頼むと」

 

 他国の大都市。それの中枢に深く食い込んでいる大富豪の一人が、どうも竜に高い関心を持っているらしい。ギルドも無視できないモノだったらしい。

 あの糞豚エルフ、普段邪魔ばっかりするんだからこういう時ぐらい役に立てよ。

 それで、是非とも調教(テイム)の難しい竜種を二匹も従えている俺の話を聞きたいと────ヘスティアファミリアに直接、ではなく間接的にギルドを通し────それも治外法権である娯楽都市(サントリオ・ベガ)で話がしたい、と。

 

「……罠以外ありえないんですがそれは」

「ああ、だからこうやって我々も動いている」

 

 本来なら最大賭博場(グラン・カジノ)の経営者であるテリー・セバンティスの調査を行いたい所を、今や俺関連の問題でガネーシャファミリアは頭を抱えているらしい。

 

「お前のファミリアに丸投げすると不味いだろうしな」

「ご、ご迷惑おかけします……」

 

 戦争遊戯からまだ数日だというのに、勧誘しまくってくる神々問題もそうだし、まだギルドにランクアップ報告していないってのにあれだけの大騒ぎだ。これに他国の大富豪が関わってくるとかちょっと冗談じゃない。

 

「団長、飛竜を連れてきました」

「ああ、テーブルに頼む」

 

 入ってきた団員の手には、美しい煌めきを宿した神秘的な結晶で形作られた飛竜が入った鳥籠の様な檻と、分厚い資料の束。

 内側でスヤスヤ寝息を立てているそれは、結晶というとてもではないが生物とは思えない体の、生きた飛竜だ。今や寝入っている様子だが、ガネーシャファミリアの調査で分かった事は、この飛竜は非常に非交戦的な事。非生物だが食事を取らないと餓死する可能性がある事────この飛竜の体、結晶そのものがダンジョンの下層または深層域で極稀に見つかる希少(レア)結晶(クリスタル)である事。

 そして蒼い炎は、炎とは異なる代物である事。発展アビリティである《耐呪詛》があれば防げるが、逆に無い場合はほぼ確実に防げない事────冒険者としてのレベルが高ければ高い程、結晶化までの時間がかかる事。

 ……どうやって調べたのかは聞かないでおくか。

 それよりも問題は、その招聘状についてだ。無視は流石に不味いだろうしなぁ。

 

「それで、お前はどう動く」

「ロキファミリアに協力……は無理ですね。今は色々と忙しいみたいですし」

 

 他国とはいえ、大富豪が関わっている以上、何が起きるかはわからん。アポロンとかいう糞を撃退した直後にこれだよ、俺関連で面倒事が次々に転がってくるのなんとかなんないかな。

 アマゾネスのでっかい方に命狙われてるってのにさぁ……。

 

「一応、我々に協力してくれるのなら護衛も出せる。むしろそうしてくれるとありがたい」

 

 最大賭博場(グラン・カジノ)の経営者である男の悪行を裁く為に協力するなら、此方の問題も解決を手伝ってくれる、と。なるほど、困ったときはお互い様って訳か。

 

「こちらこそ、ガネーシャファミリアがバックについてくれるのならありがたいです」

「……あまり、期待はしてくれるな」

 

 迷宮都市の威信を壊す訳にはいかない。ガネーシャファミリアも深く関わっている以上、迷宮都市の威信が落ちるというのはガネーシャファミリアの威信にも関わってくる。つまり何か事があった場合は非常に大変だと。

 寝入っているクリスを鳥籠から取り出して転がして弄びつつ、深い溜息をついた。

 

「日時の指定っていつです?」

「四日後になってるな」

 

 余裕なさすぎぃ!? 四日後ォッ!? おかしくない? ねぇおかしくない? なんでそんな急に予定捻じ込んでくるの? 馬鹿なの? 死ねよ。

 賭博場(カジノ)とか嫌な思い出しかない所に、治外法権とかいうヤベェ場所に、四日以内に対策して行けと。死ねって言われてるのかな?

 もしも処刑場(VIPルーム)にお呼ばれしたら全力で逃げよう……。

 

「どういった形で向かう事になるんでしょうかね」

「お前の護衛と言う形で一人付ける」

 

 ガネーシャファミリアの団員を護衛として付ける、と?

 

「そうなるな」

 

 いや、それ無理。間違いなく護衛として意味を成さない。

 治外法権であり、ガネーシャファミリアの威信にも関わる場所だ────手足を封じやすい護衛なんて護衛の意味がない。

 

「だとすると、外部に頼む事になるが」

「普通に私が外部冒険者を雇うとか、もしくは────肩書だけ借りて身分を偽る、とかですかね」

 

 もっと言ってしまうと、権力も糞もない破落戸連中。もしくはそこそこ名の知れた殺し屋、喧嘩屋、用心棒当りを雇ってしまう。もしくは彼らの名だけを借りて別の腕利きを護衛にするとかだな。

 ありふれた手段だが、かなり有効だぞ────バレなければ、の話だが。

 

「私が個人的に護衛として雇いましたーって形で連れていくんですよ。ガネーシャ様の眷属だと名声に傷がつきかねませんし」

「宛はあるのか?」

 

 一応、なくはない、かなぁ。

 豊穣の女主人の店員に何人か、名前を借りれそうな人はいる。条件がどうなるかわかんなくて怖いけど……一応、頼み込んでみるか。

 あ、護衛として付く予定の人員って誰だ。

 

「護衛として誰が付くんでしょうか」

「私だが?」

 

 第一級冒険者様が付いてくださるんですか。

 あれ、もしかしてかなり本気でテリーって人物を捕えたいのか? 団長自ら出るって時点でガネーシャファミリアの本気具合が伺えるな。

 

「あー、了解です。一応、明日には結果を知らせますので……」

 

 シャクティさん。顔を隠せばワンチャンあるか?

 えっと、そうだな。頼むならルノアさん当りに土下座してみようか。本人が付いてきてくれるのが理想だけど、ミアさんの事もあるし絶対に無理だろうからね。

 にしてもこれだけコロコロ転がしても起きないとか、クリスお前はどんだけ無防備なんだか。




 面倒事がスキップしながら突っ込んでくる図。ベル君程ではないが、ミリアちゃんも相当なモノをお持ちなようで……(グルグル目)

 原作だとリューさん視点で進みますが、本作ではガネーシャファミリアの方からアプローチかけます。賭博場でリュー&シルと出会うミリアちゃんの反応が楽しみですな。

 ドールズの説明はー、最大賭博場(グラン・カジノ)が終わった後当りで。
 つまり猫耳は当分先じゃ。しばし待てい!



 ダンまちオリ主モノ、増えないかなぁ。出来れば原作沿いの奴。TSだとなお良い。
 やっぱ『ドキッ、オリ主だらけの戦争遊戯』とかをだね……5人のオリ主が集まり、アポロンファミリアをボコボコに────誰が一番早くヒュアキントス狩るか競争が始まりそう。

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