魔銃使いは迷宮を駆ける   作:魔法少女()

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第一四一話

 『ルーレット』とは簡単に言うと回転する円盤に球を投げ入れ、落ちる場所を当てるカジノゲームだ。

 回転盤(ホイール)には均等に区切られた玉の落ちる落ち場(ポケット)があり、0~36の数字が記されている。交互に赤と黒の二色に分けられており、例外として0だけは緑色だ。

 専用の回転盤(ホイール)と、ルーレット用の賭け場(シート)が用意された賭博卓(カジノテーブル)に全員で囲む。進行役(ディーラー)は、兎耳のお姉さん。

 獣人の種族の一つ。兎人(ヒュームバニー)らしき女性がにこやかな笑顔と共に卓の下から踏み台を出してくれたため、その踏み台に立って卓を見下ろす。踏み台が無ければ賭け場(シート)がまともに見えないしね。

 

「それでは、どうぞお好きな所に賭けてください」

 

 ニコニコと綺麗な笑顔を見せてくれる進行役(ディーラー)の女性。兎という事で『バニーガール』をイメージするが別にそういう事はなく普通に燕尾服姿だ。体の線が出る様なレオタードとかではない。

 とはいえ兎耳がどうにも大賭博場(カジノ)想像(イメージ)にピッタリなのでそういう意図なのかと揺れる兎耳を見ているうちに、ベルがリューさんから丁重にルーレットの規則(ルール)を聞いていた。

 なんだかんだ言いつつ、教えるのは丁重だなぁ。

 

「賭ける方法によって配当は変わります。赤か黒、色に賭けたなら二倍。数字単体に賭ければ最高の三十六倍です」

「さ、三十六倍……」

「奇数賭けや偶数賭け、数字一列なんかもあるな。制限はねえし複数賭けても良い」

 

 モルドの補足を聞きつつ、頭の上にクリスに何処に賭けるのかを聞く。

 

《最初にしか賭けれないの?》

 

 ん? いや、まずは開幕賭け(オープニングベット)で各々が賭け場(シート)賭札(チップ)を置いてから、進行役(ディーラー)回転盤(ホイール)を回し、回転とは逆に玉を投入。

 んでそこから一定時間の間に参加者(プレイヤー)は玉が転がるのを見て予測し、追加で賭け(ベット)するか賭け(ベット)の変更を行い、賭け時間(ベッティングタイム)の終了を進行役(ディーラー)が知らせて参加者(プレイヤー)は行動終了。

 最期に玉が落ちた落ち場(ポケット)の数字と色を進行役(ディーラー)が発表し、当選者に配当。無論、非当選の場合は賭札(チップ)は没収。

 

《…………んん?》

 

 どうした? まだわからん所ある? まあ、一回目が始まるし一度やってみると良い。

 俺もやるかなぁ。さっきのギルド長達との賭博(ゲーム)がダメだったとしても、ここでガッツリ稼げば確実にここの経営者(オーナー)が声かけてくるでしょ。

 ベルが恐る恐ると言った様子で賭け場(シート)賭札(チップ)を置く。枚数は、たったの三枚。遠慮し過ぎではなかろうか。しかも配当二倍の色賭けか。

 

「んだよ、結局色賭けかよ。一番低い配当じゃねえか」

「い……いいじゃないですか。初めてなんですから」

「ふふ、ベルさん。もし勝てたら色を付けて賭札(チップ)をくださいね?」

 

 シルさんの駄洒落にベルがあいまいに笑う中、進行役(ディーラー)が此方を見回して確認をとる。

 

「他の皆さまはよろしいですか?」

 

 んむ、んでクリスは何処に賭ける? 俺は、とりあえず十枚を単体数字賭けするが。

 

《10!》

 

 まあ十枚賭け二か所で良いか。クリスが『10』、俺が『15』に十枚ずつ賭ける。

 

「おいおい【リトル・ルーキー】、ノースリスの方がよっぽど肝が据わってるじゃねえか」

「いきなり数字単体賭けですか……」

 

 モルドがベルの肩を叩いて笑う横で、リューさんが目を細めて此方をつぶさに観察し始める。さっきのポーカー見てたみたいだし不正(イカサマ)を疑われてるのかな?

 断言するがルーレットで不正(イカサマ)はしない。というか規則(ルール)上問題無い方法だし。この(テーブル)進行役(ディーラー)の女性には申し訳ないが()()()()()()()

 

「では、始めます」

 

 結局、賭けたのは俺とベル、あと密かにクリスの二人と一匹のみで他の人は非参加だった。冒険者の身体能力なら割と簡単だとは思うのだが、そうではないのかね。

 回転盤(ホイール)の回転と、玉の転がる音。これは────『1 赤』かな。賭け(ベット)を変更する為に口を開こうとした所で、クリスが呟く。

 

《1に落ちるよ!》

 

 ……おぉっと、クリスも()()()感じか。まあいいや。

 

賭け(ベット)変更、全てを1の赤に」

「はい、変更ですね」

 

 進行役(ディーラー)の女性が手早く賭札(チップ)を動かしてくれる。俺だと手が届かないからね。

 ほぼ勝ち確定だなとのほほんと構えていると、ベルが口を開いた。

 

「今から変更できるの?」

「玉を投入してから一定時間は賭け時間(ベッティングタイム)ですので、変更または追加があればしても良いんですよ」

 

 ベルが賭け場(シート)を見回して変更しようか悩み始めた所で、進行役(ディーラー)の女性が宣言しながら(テーブル)を撫でる。

 

「ノー・モア・ベット」

「え?」

賭け時間(ベッティングタイム)終了です。後は運に任せるしかないですね」

 

 もたもたしてる間に終了を告げられ、ベルが緊張気味にルーレットを見守り始める。

 

 まあ、安心しても良い────()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 のほほんとした雰囲気のまま、踏み台に立って(テーブル)を見下ろす小人族(パルゥム)の少女。

 左右で異なる彩光異色の瞳には、やはり緊張や祈りの様な感情は見て取れない。リューは目を細めつつ彼女を見据えていた。

 ベルと合流した事で誤魔化されてしまったが、やはり不正(イカサマ)をしていたのではないかという疑念は尽きない。もしかしたらルーレットでも不正(イカサマ)をするのではと若干注目しているのだ。

 どれほど慣れようと賭け(ベット)しているさ中にはやはり緊張や、祈る様な感情が宿る。そのはずなのに彼女、ミリアにはそういったモノは一切ない。ただのほほんとした雰囲気を崩さない。仮面(ポーカーフェイス)か、それとも素か。

 

「ミリアさん、賭け(ベット)を変更してましたね」

「…………不正(イカサマ)の雰囲気はありません」

 

 シルの言葉に応えつつ、成り行きを見守る。

 もう玉の勢いもだいぶ衰え、直ぐにでも落ち場(ポケット)に落ちそうになっていた。

 皆が固唾を飲んで見守る中、ミリアだけは変わらずにそれを見ており、それに注目している間に結果が出たらしくモルド達が目を見開いて驚愕した。

 

「おお!」「当たった!」「三十六倍じゃねぇか!」

「おめでとうございます。『Red 1』です」

 

 色賭けで『赤』に賭けたベルと、単体数字『1』に賭けたミリア。両方が勝利し、ベルの前に六枚の賭札(チップ)が、ミリアの前には二〇枚の三六倍である七二〇枚の賭札(チップ)が配当される。

 

「わぁ……」

「凄い、賭札(チップ)の山が……」

「一回目から的中とか()()()()なノースリス。それに比べて【リトル・ルーキー】お前ときたら……情けないとは思わないのか」

「ええ?! でも僕当たってますよね!?」

「あはは、ベルおめでとう」

「ノースリスが言っても嫌味にしか聞こえないだろ」

 

 ミリアがさも当然といった雰囲気で当選を喜ぶでもなく賭札(チップ)の山を台車に乗せているのをモルド達が手伝っている。彼女はまたルーレットを続ける積りなのか既に賭け場(シート)に二〇枚の賭札(チップ)を残している。

 

「ほら【リトル・ルーキー】、ノースリスを見習ってガンガン賭けちまえ!」

「そうだぞ、女の前で良い恰好できなくてどうする」

「みっともないだろ」

「うぅ……」

 

 モルド達に促され、ベルが二度目に挑戦する為に賭け場(シート)賭札(チップ)を置いた。

 今度は数字の縦一列。対するミリアの方は単体数字賭け、何故か二か所賭けをしている。

 

「ミリア、また単体数字賭け……?」

「ん? 何か問題でも?」

 

 流石に二度目は無いだろう、そう思いつつも進行役(ディーラー)が玉を投入した所で────リューは気付いた。

 ミリアの目がじっと回転盤(ホイール)と玉を見据える。その瞬間に感じたのは、()()()()()()()()()()()()()()を。

 

「変更で、全て赤の19に」

 

 またしても、だ。単体数字賭け、二か所から突然一か所に変更。二〇枚全てを一点賭けした。

 ベルの方は驚いており、モルド達も若干訝し気にミリアを見ている。ベルは特に変更も無くじっとルーレットを見つめていた。

 進行役(ディーラー)賭け時間(ベッティングタイム)の終了を告げ────結果が発表される。

 

「『Red 19』…………お、おめでとうございます」

 

 顔の引き攣った進行役(ディーラー)の女性の宣言。

 ()()だ、単体数字賭け、配当倍率三十六倍を二連続的中。ベルの方も当選しているが、そちらが霞む程の事だ。

 白髪の少年やモルド達が口を開けて驚愕するさ中、ミリアの方はふふんと得意げに笑みを浮かべていた。

 

「……ねえ、リュー」

「わかってます。不正(イカサマ)ではありません……彼女だからこそ出来る方法で()()()()()()()だけだ」

 

 回転盤(ホイール)と玉。その二つの動きを見て、何処の落ち場(ポケット)に玉が落ちるのかを()()しているだけ。

 ルーレットの規則(ルール)上、『賭け時間(ベッティングタイム)』中に玉の動きから何処に落ちるのか予測するのは認められている。だが、実際にそれを予測し的中させるのは困難だ。

 

 ────だが、それを可能だと言える者がいる。

 

 リューの脳裏に浮かんだのは、十八階層からの帰り道。中層の未調査領域での戦闘。

 正式名称不明の、温泉の主らしき怪物(モンスター)との戦闘のさ中に見せた、ミリアの射撃。

 無秩序な軌道を描いてベル・クラネルに迫る無数の触手を、瞬く間に魔法で撃ち落とした光景。

 

「多分ですが、先ほどのポーカーも同じでしょうね」

「どういう事?」

 

 ミリア・ノースリスにとって、無秩序に動く触手を見切って魔弾を以て撃ち落とす事は不可能ではない。むしろ────彼女の得意分野である。

 動きから予測し、魔弾を撃つ。人であろうが怪物であろうが、その動きから魔弾を的中させるだけの目と予測能力を持っている。ならば、切札(トランプ)切り混ぜ(シャッフル)する動きから山札(デッキ)の並びを予測する事ぐらいできるだろう。

 ルーレットなんてもっと簡単だ、回転盤(ホイール)と玉。二つの要素しか存在しない────彼女にとって予測は容易だったのだ。

 無秩序な軌道を描く無数の触手を撃ち落とす事よりは、簡単なのは間違いない。Lv.4のリューですらそんな予測が出来る筈もないが、彼女ならやってもおかしくはない。

 

戦争遊戯(ウォーゲーム)のさ中もそうです。彼女は予測が上手い」

 

 目の前で行われている行動や動作、それらの情報から結果を導く出す能力に優れている。

 彼女の目の届く範囲で切札(トランプ)切り混ぜ(シャッフル)しても、全く意味がない。あのポーカーのさ中、わざわざ不正(イカサマ)を疑われた際に、一回一回山札(デッキ)を検め確認していたのは、覚えていたからだろう。

 

「え、じゃあ玉が転がってるのを見て予測したって事?」

「……だと思います。彼女なら、不可能ではない」

 

 二連続の的中に進行役(ディーラー)がミリアに対し警戒心を見せて三度目の賭博(ゲーム)を開始しようとするさ中────唐突にその進行は妨害された。

 

 

 

 

 

「失礼、【魔銃使い】ミリア・ノースリス様は此方に居られますでしょうか」

 

 二連続的中。クリスは二回で飽きたらしく、『思ったより簡単(つまらない)』と投げてしまったので三度目は俺だけで参加しようと、進行役(ディーラー)の警戒を無視して賭け場(シート)に一〇枚の賭札(チップ)を乗せた所で外から声をかけられる。

 進行役(ディーラー)の女性があからさまにほっと息をつくのを尻目に、やってきた人物を観察する。

 白髪、ベルと違って地毛ではなく歳からであろう白髪の老人。燕尾服をしっかりと着こなし、片眼鏡(モノクル)を付けた、立ち振る舞いも完璧な大賭博場(カジノ)側の人間。それなりに立場もあるのだろう、進行役(ディーラー)の女性があからさまに安堵した様子からの予測だが間違っていない。

 

「ノースリス、お前何かしでかしたのか?」

「まあ、色々と」

 

 バレてはいないけど、切り混ぜ(シャッフル)の動作から切札(トランプ)の並びを予測してポーカーで勝率上げたり、ルーレットの()()したりはしたけど、不正(イカサマ)じゃないし問題無し(セーフ)だろ。

 まあ、それとは別件だ。さっきのポーカーでギルド長相手に()鹿()()()()()を行ったのが耳に入ったんだろうなぁ。

 

「私は此処にいますよ。どういった要件でしょうか」

経営者(オーナー)のセルバンティスが、是非貴女とお会いしたいと」

 

 …………あ、うわ、酷いなこれ。金で言う事を聞かされてるタイプの人間だろう。

 上を敬うと言った雰囲気が全く感じられない。ただ仕事上必要だからと従ってるだけと言った雰囲気を目の前の人物から感じた。

 

「ミリア、あの……」

「ベル達はそのまま賭博(ゲーム)を楽しんでいってください」

 

 ベルが声をかけてくるが、今はすまん無理だ。思った以上にギルド長相手に無茶苦茶な賭博(ゲーム)を挑んだ意味があった。

 改めて踏み台を降りてその老紳士の前に立つ。

 

「私の様な無骨な冒険者に経営者(オーナー)自らそう言って頂けるとは光栄です」

 

 うっそピョーン。とでも言いたい気分だが今は我慢。

 『再生薬』なんかで莫大な資産を得る可能性もあり、戦争遊戯(ウォーゲーム)での活躍もある。後ついでに、無いとは思うが子供(ガキ)みたいな身体だが見目は悪くないしそっち方面で童女趣味(ロリコン)垂涎。

 そんな奴が()()()()()()()()()()()なんてやってたら、食いついてくるだろうなとは思ってた。テリー・セルバンティス……否、彼に化けたテッドという人物なら食いつく。

 

「それで、どちらに向かえば?」

「どうぞ、こちらに」

 

 ベル達に小さく手を振り、シャクティさんを引き連れて老紳士に着いて行く。

 ふと思ったが、俺は予測でルーレットを的中させていたが。開幕賭け(オープニングベット)のみで二連続的中のベルの方が凄いのではないだろうか。まあ、流石に三回目以降はないだろう。

 

 

 

 

 

「ガッハッハッ」

 

 随分と品の無い笑い声だ。

 大賭博場(カジノ)側の人間らしい老紳士に連れられて行った先。

 数人の招待客(ゲスト)相手に談笑している一人のドワーフが居た。燕尾服が似合っていないタイプの、笑顔の仮面を着けた吐き気のする奴。ぶっちゃけ、俺が嫌いなタイプにドストライクだ。

 

「どうぞ今日はゆっくり楽しんでいってください」

経営者(オーナー)

 

 片眼鏡の老紳士が声をかけ、俺とシャクティさんを指し示す。

 振り向いたテリー・セルバンティス、という事になっている彼、経営者(オーナー)を気取るテッドは笑みを深めて此方を見下ろしてきた。

 

「私はテリー・セルバンティス。この大賭博場(カジノ)経営者(オーナー)を務めさせて頂おる者です。今宵はお越しくださりありがとうございます」

「此方こそ、私の様な無骨な冒険者を招待して頂き感謝しています。私は【魔銃使い】ミリア・ノースリス、此方は護衛として雇った『黒拳(こっけん)』のファウストです」

 

 まあ、形だけは丁重にドレスの裾を僅かに持ち上げて一礼。シャクティさんは無言で会釈のみ。

 顔を上げて経営者(オーナー)の顔を見ると、僅かに驚愕の色が見て取れた。まさか無骨極まりない冒険者が作法を学んでいるとは予想外だった……という雰囲気ではない。

 仮面を着けて無言で佇むシャクティさんを見て驚いている。もしかしてさっそくバレた? いや、絶対にないはずだ。少なくともテッドと『黒拳(こっけん)』に接点はない。もし接点があったら一発でバレて不味いと思ってしっかりと裏取りしたし、ここでバレて計画ご破算とかなったら泣くぞ。

 

「どうかしましたか?」

「いえ、よもや暗黒期に活躍した賞金稼ぎが護衛として雇われているとは思わなくてですな」

 

 誤魔化す様に笑うセルバンティス氏。だが、何かに気付いているのか、それとも訝しんでいるのか此方を伺う様に見下ろしてくる。

 

「何処で雇ったのかお聞きしても?」

 

 なんでいきなり警戒されてんだよ。糞、思った以上に頭が回るタイプだったか、不味いな。

 

「ええ、実は先の戦争遊戯(ウォーゲーム)の前に片っ端から傭兵に声をかけていたのですが」

 

 作り話(あらまし)として、戦争遊戯(ウォーゲーム)中に雇えないかと元から声をかけていたが勝ち目が無さそうだからと断られ、終了後に改めて雇う事は無いかと尋ねられ、今回の大賭博場(カジノ)へと足を運ぶ用事が出来た事で雇う事になった。という事になっている。

 まあ、当然全部嘘なんですけどね。

 

「ほほう、なるほど……しかし、本当に『黒拳(こっけん)』本人なのでしょうか」

 

 ……いや、ごめん。本当になんで疑われてるの?

 もしかして本人に会った事あるの? だとしたら本当に不味いんだけど……ていうかルノアさんに確認もとって会った事無いって明言して貰ってるんだが、もしかしてルノアさんが忘れてるだけで会った事ある?

 うーん……どうするかな。適当に誤魔化すか。

 

「いえ、実は『黒拳(こっけん)』と名乗っている人物ではあるのですが、此処だけの話、私は信じてないんですよね。それにかなり安価で雇われてくれましたし」

 

 後ろでシャクティさんが僅かに気を張ったのを確認しつつも、セルバンティス氏から見えない様に問題ないとハンドサインで知らせつつ、笑みを浮かべた。

 

「実力が確かなので雇っただけで、本人確認できてませんしね」

 

 しっかりと『黒拳(こっけん)』本人だと証明できる証拠は無いよ。けど強いし別にそこらへんが嘘でも実力があるならオッケーって感じで雇いましたー。って事にしておこう。あと序に安かったって事で。

 これで偽物だったとしてもそこそこ実力のある傭兵程度に収まる、はず。既にシャクティさんの変装だとバレてる場合は笑えないが。

 

「なるほど、そうでしたか」

 

 …………納得の表情を浮かべている辺り、シャクティさんの変装だとバレている訳ではなさそう?

 じゃあなんで警戒されたん? いや、ヤバいな。不確定な部分で警戒されてて滅茶苦茶怖くなってきたんだが。これで実は第一級冒険者を密かに雇ってましたとか言われても困るぞ。金を出せば動きそうな第一級冒険者……無いとは思うがイシュタルファミリアの【男殺し(アンドロクトノス)】とかはありえないと言い切れない。

 うーん、でっかい釣り針に引っ掛けたのは良いけど、このままのこのこ着いて行ったら鴨にされそうなんだよなぁ。

 

「失礼、実は『黒拳(こっけん)』とは顔見知りでして、本人とは余りにも異なる体格と性別でしたので気になってしまいましてな」

 

 は? いや……え? 顔見知り? 嘘だろ? え? どうして? ルノアさんは絶対知らないって……おい、脳筋過ぎて覚えてないとかじゃないだろうな。ルノアさんならありそ……いや、体格が違うのはわかる。しかし()()()()()

 

「そうだったのですか。私としては本人とお会いした事もありませんし、何より実力があれば名については気にしていなかったモノでして」

「なるほど、実力は確か、と……本物でなくとも気にしないとは容姿の可憐さとは異なって冒険者らしい剛毅さですな」

 

 愛想笑いしつつ、後ろを確認すればシャクティさんは無言で佇んでいた。本物かどうかより実力で選んだという辺りで頷いていたので自身も気にしていないって伝えたいのだろう。

 それを見ていたセルバンティス氏は一つ咳払いをして話題を変えた。

 

「本来ならもう少し早く挨拶をしたかったのですが、なにぶん今宵も招待客(ゲスト)が多かったもので……」

 

 ちょっと、不味いなこれ。こっちの意図が見抜かれてる可能性が出てきた。少なくともガネーシャファミリアの情報統制は完璧だったはずだ。情報屋から仕入れた限りではガネーシャ様の無茶ぶりで本拠魔改造計画の為にごたごたしてる、ぐらいしか出てこなかったはずなんだが……。

 どうする、このまま作戦続行する? それとも引く? 今引くと次が無いと思うんだが。

 

「あらためて、ようこそいらっしゃいました」

 

 手を差し出してきたので此方もそれに合わせて握り返す。

 おかしなことに、先ほどまでの警戒心が消え失せてる。さっきの警戒心の原因は何だ? 何故いきなり警戒を解いた? ただの間抜けな業突く張りではなく、しっかりとした頭を持った狡猾な奴かと思えば、それをひっくり返す様な仕草。演技っぽさは感じられず、本当に警戒心が消え失せたみたいだ。

 …………まずい、今まで情報屋から買ってきた情報の精度が高かっただけに甘く見過ぎていたかもしれない。

 

 こいつ、本物(マジ)の方かもしれん。だとすると、引くべきだ。

 

 いままで握らされてきた情報が全て虚偽だったら? 踊らされていたのだとすれば非常に危険な状況だ。こっちが予測して動く所まで()()されていたら……このまま進んだら死にそうな気がする。

 

「お聞きしたところ、ノースリス殿は高損失高収益(ハイリスク・ハイリターン)賭博(ゲーム)に興じているとのこと」

「ええ、私自らの出来る事であれば()()()()する代わり、相手には全ての賭札(チップ)を賭けて頂く賭博(ゲーム)をしていました」

「理由を聞いても?」

 

 警戒心は無いが、探りは入れてくる。どっちだ? 無能か? 狡猾か? 無能を演じる狡猾な奴だとすると、本当に、不味い。

 内心で嫌な汗を掻きつつ、表面上は完璧に取り繕って答える。

 

「実は……お恥ずかしながら戦争遊戯(ウォーゲーム)で勝利したのは良いものの、まともに賠償金を得られずに派閥の資産が底を尽きかけておりまして」

「再生薬等があるのではないですか?」

「あちらはディアンケヒトファミリアが未完成な状態での販売は出来ないと」

 

 手袋を外して手を見せ『再生薬』の効力で再生した右手と左目が色素異常を起こして異色な状態になってしまっていると示しつつ、相手の反応を伺う。

 

「まだ完成品ではないと、それでも欲しがる者は多いと思いますがな」

「作成の方はディアンケヒトファミリアが担っておりますので、此方の独断ではとても」

 

 とりあえず資金難なのは事実なのでここらは気にしなくて良い。後ろのシャクティさんに助けを求めたいが、今の彼女はあくまで護衛の傭兵。矢面に立つのはやっぱり俺だけだし。

 

「なるほど……そうですな。私から一つ提案なのですが」

 

 目が、嗤っている。セルバンティス氏の瞳の奥に、強欲の色が宿る。

 

「あちらの貴賓室(ビップルーム)に来ませんか?」

貴賓室(ビップルーム)ですか……」

 

 戸惑う様な仕草でセルバンティス氏の指示した貴賓室(ビップルーム)を見る。ナニソレって雰囲気で聞くのがポイントだぞ。

 

「ああ、そう警戒なさらずに。要は高額な賭博(ゲーム)を行う専用の部屋ですよ」

「高額……申し訳ないのですがあまりお金も無いのですが。それに不作法な冒険者が立ち入って良いモノなのでしょうか」

 

 断ろうとする雰囲気だけを出してみると────セルバンティス氏の目が舐める様に俺の身体に向けられた。

 あー、何? 童女趣味(ロリコン)も持ってるの? すごい多趣味ですね。

 

「いえいえ、()()()()を賭けて少額を稼ぐぐらいでしたら、奥の部屋で高額の賭けをした方が、ノースリス殿にとっても良いモノだと思っての提案です」

 

 嘘吐け。絶対に俺を狙ってるぞ……。

 シャクティさんを伺うと、彼女は興味無さげに肩を竦めて呟く。

 

「雇い主の意向に従うさ。好きにしろ」

 

 つまり、逝けって事でしょう? もう嫌な予感で手汗が凄い事になってるから個人的に引きたい。

 不明瞭な部分があるのが何より怖い。底が見えたと調子に乗った結果、痛い目を見るのは世の常って奴だし。

 特に、『黒拳(こっけん)』って部分にやけに食いついてきたのが気になる。

 

経営者(オーナー)自らがお気遣いしてくださっている事ですし、断るのもおかしな話。よろしければ是非に」

 

 ああ、畜生。

 何故『黒拳(こっけん)』に食いついてきたのか、さっぱりわからない状況で突っ込みたくない。

 こっちからどでかい釣り針垂らして食いつかせたけど、今となっては後悔してる。

 

「でしたら、どうぞ此方に、私自ら案内しましょう」

 

 獲物が掛かったとでも言いたげな色合いを宿したセルバンティス氏の目。選択を誤ったか?

 既に賽は投げられた、結果を見通す事が出来ない不確定な賭けはしたくないが、進む以外に道が無い。

 目の前に聳え立つ両開きの扉へと招くセルバンティス氏に続いて貴賓室(ビップルーム)に足を踏み入れる直前、会場の一角が沸き立つ。

 遠くから聞こえる歓声とざわめきに足を止めると、セルバンティス氏も其方を興味深げに見て首を傾げた。

 

「はて、盛り上がっている様子ですな」

「そうですね。誰かが大きく勝ったのでしょうか」

 

 遠くから聞こえるざわめきに耳を傾け────なんか【リトル・ルーキー】が盛大に勝ったと聞こえた。

 ふぅん……ベルが勝ったのかぁ……。待って、『三〇〇枚』『単体数字賭け』とか恐ろしい単語が聞こえるんだが。

 いくらなんでも俺だって単体数字賭けで三〇〇枚は賭けんぞ。予測は出来るが、かといって的中率なんて八割五分が良い所だし。確定勝利って程じゃないんだよなぁ。

 どんな博打打ちしてんだよベル……。




 予測するのは規則(ルール)で許可されてます、つまり何の問題も無いですな。
 不正(イカサマ)は無かった、良いね?

 ベル君の場合は開幕賭け(オープニングベット)のみで的中させる幸運。
 ミリアの場合は賭け時間(ベッティングタイム)中に的中させる予測。

 目に見える範囲で切り混ぜ(シャッフル)したり、ルーレットしたりであれば見て予測という化物染みた能力を見せる天才……一応、ミリアは天才って設定だし。

 逆に予測できない事が起きると一発でボロが出るという弱点持ち。



 評価と感想の方ください。

 乞食すれば一杯貰えるって聞いた。古事記にもそう書いてある。『こじき』だけに()
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