魔銃使いは迷宮を駆ける   作:魔法少女()

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第一四四話

 順調過ぎる程に何もなく賭博(ゲーム)は進行していく。

 セルバンティス側は既に打つ手無し、といった状況。それでもなんとかリューさんから幾度かの勝利を得ては首の皮一枚で耐え凌ぐ彼らの涙ぐましい健気な抵抗をちょんっと突いて奈落に叩き落す。

 

「お疲れ様でした」

「そ、そん……な…………」

 

 獣人一名ご案内、リューさんとの駆け引きに負けてトンだ。残りセルバンティス含め三人。

 予想外な事に、セルバンティスの引きがなかなかに捨てたモノではない。まあ、リューさんの駆け引きに負けてるので結局はギリギリ拮抗状態にしかなってないが。

 んで、残り二人……小人族の方は既に死に体だな。あれはどうにもならん。

 ヒューマンの方は中々に粘る、が……ダメ。アレももう詰んでる。

 相手側三人の合計所有賭札(チップ)はせいぜいが500枚に届くか否かしかないし、やるならさっさと不正(イカサマ)してくんねぇかな。もう止めも刺せそうだし。

 

「いやはや……参りましたな」

 

 セルバンティスが汗を零しながらぼやく。

 周囲の黒服が此方を強く睨み続けており、何処かに不正(イカサマ)が無いかを見張り続けている。しかし、当然の事ながら俺の不正(イカサマ)は易々と見抜けまい。そしてリューさんは……そも不正(イカサマ)を行う性質でも無いし、当然の白。

 残りの賭札(チップ)の枚数も僅かな彼らが目配せをしているのを確認。進行役(ディーラー)にも何やら指示だししてるっぽいな。何かしてくるか?

 進行役(ディーラー)切札(トランプ)を回収し、切り混ぜ(シャッフル)し始め────ゴンッと言う異音と共に給仕(ウェイター)が盛大に躓いて進行役(ディーラー)にぶつかり、彼が切り混ぜ(シャッフル)していた(カード)が卓上にぶちまけられた。

 

「何をしとるか!」

「す、すいません」

 

 セルバンティスがこれ見よがしに給仕(ウェイター)を叱り付け、申し訳なさそうに立ち上がった。

 

「いやはや、ウチの従業員がお見苦しい所をお見せしました」

「……いえ、構いません。失敗は誰しもありうる事ですから」

 

 リューさんが卓上にばら撒かれた(カード)を集めながら返すのを見つつ、周囲を伺う。

 目の前に散らばった内の一枚、『♥Q』を手に取り進行役(ディーラー)に投げ返す。此方の予測の為にも一度切札(トランプ)の欠けの有無を調べないと不味いな。

 卓上にばら撒かれた札を集め終わった所で、覚え直す為に確認すべきだと俺が発言するより前に、セルバンティスが口を開いた。

 

「一応、(カード)に欠けがあってはいけませんな。皆さんに見える様に確認を」

 

 こちらの予測に気付いてる訳ではないらしい? 目配せをしてた辺りで確実に何か仕掛けてくるだろうとは思ったが、この行動の意図が読めない。

 並べられた切札(トランプ)を確認していくと、案の定というか一枚欠けが発生していた。『♥A』が無い。

 

「おや、一枚足りていませんな」

「何処かに落ちているのでは?」

 

 小人族とセルバンティスの白々しいやり取り。何か意図があるみたいだが……とりあえず足りない札がどこかに落ちていないかと卓上を見回し────セルバンティスがポケットに手を入れているのに気付いた。余りの怪しさに口を開いてそれを指摘するより前に、リューさんが声を上げた。

 

「ありました。どうやら卓の下に落ちていた様です」

 

 彼女が差し出したのは『♥A』だ。意味深にポケットに手を突っ込んでいたので何かしていると決めつけてしまったが気のせいだったか?

 リューさんが(カード)を差し出した瞬間、セルバンティスの笑みが深まった。

 

「おや、おかしいですね────♥Aは私が持っているのですが?」

 

 彼の胸ポケットから一枚の(カード)が出てくる。その絵柄(スード)はハート、数字はA、無かったはずのその(カード)が彼の胸ポケットから出てきた。

 そして、リューさんが札を差し出したまま固まる。彼女の手にも同じ絵柄(スード)で同じ数字の(カード)がある。

 ────何だこれ? 嵌め、られ……え? いや、何がしたいんだ?

 

「まさかマクシミリアン殿、すり替え等の不正(イカサマ)を行っていたのでは?」

「……私は不正(イカサマ)なんてしていない」

「では、なぜ貴方は同じ(カード)を?」

 

 いや、なんだこれ、凄い雑な言い掛かりの付け方というか。酷いゴリ押しだなおい。

 

「失礼、何がなんだかわからないのですが。どうしてセルバンティス殿はその(カード)を懐に納めたのです?」

 

 絶対におかしいだろ。少なくとも賭博場(カジノ)で正式採用されてる切札(トランプ)と同じモノを一般人が手に入れるのなんてかなり難しい。それに入場時にそういった切札(カード)を隠し持っていないかはしっかり調べられる。

 卓毎の切札(トランプ)もしっかり管理されているはずであって、どこかで盗んできたのならすぐわかる。

 要するにリューさんがどっかから持ってきたってのは無し。多分、普通に落ちて────落ちてた? いや、違う。

 少なくともばら撒かれた札は卓の下に落ちてはいない。だというのにリューさんは卓の下からソレを見つけた……? あれ、これアレか? 悪足掻きか?

 

「いやはや、もしやと思いましてな。マクシミリアン殿が不正(イカサマ)を行っていないかを確認する為に密かに札を懐に納めたのですよ」

 

 いや、苦し過ぎるんだけど。もっとマシな言い訳考えてよ……。

 

「言い掛かりだ。私は卓の下に落ちていた札を拾ったまでの事。不正などしていない」

「おや? 確かに札はばら撒かれましたが、それは卓上での出来事。いくらなんでも卓の下にまで札がいくとは思えない」

「そうですな、いささかマクシミリアン殿の言う事は怪しいですな」

 

 残ってる三人がねっとりとリューさんを責め立てる。随分と、酷いやり取りだな。

 まあ、確かに札が卓の下にあったのは不自然だ。そこは認めてやろう。でもリューさんが不正してた証拠にはならんよなぁ?

 グチグチとリューさんの不正について文句を口にするセルバンティスの取り巻き二人。リューさんの方が刺す様な視線を向けて彼らを睨むさ中、セルバンティスが両手を叩いて注目を集めた。

 

「まあ皆さん落ち着きましょう。マクシミリアン殿が実際に不正を行っていたかどうかは不明ですが」

「不正はしていないと言っている」

「……マクシミリアン殿も落ち着いて頂きたい。実際、卓の下にあるはずのない札を貴方が手にしていたのは事実でしょう?」

 

 口が上手いって訳ではない。反論を潰そうとしてる節はある、か…………正直かなり下手糞だな、酷過ぎて顔を覆い隠したくなる。

 

「……つまり、何が言いたいのでしょうか」

「ですから、マクシミリアン殿は信用ならないのです────代役として、奥さんが賭博(ゲーム)に参加するという事で手打ちとしませんか?」

 

 は? はぁ? えっと、何? リューさんと真っ向勝負してたら勝ち目無さ過ぎだと。んでやけっぱちになってシルさんを代役で出させろと要求する為にこんな下手糞な言い掛かりを?

 …………うわぁ、見てるこっちが恥ずかしくなる。

 リューさんの方は何を企んでると言わんばかりにセルバンティスを真正面から睨みつけ、セルバンティスはにこやかな笑みで手もみをしつつリューさんの伴侶役のシルさんを伺っている。

 

「いかがですかな?」

「……それを私が受け入れるとでも?」

 

 このままいけば潰せるというのに妙な言い掛かりをつけられてリューさん激おこなう。いや、今すぐにでも飛び出して暴れそうな雰囲気なんじゃが……頼むから押さえてくれ。というかシルさん相手なら勝てると踏んだセルバンティスに言いたい事がある。

 ────シルさん(その人)、リューさんより厄介極まりない危険人物だぞ。

 

「リュー」

 

 しおらしい様子のシルさんがリューさんの手に自らの手を重ね、目を見合わせて諭す様に彼女を抑える。今すぐにでも暴れそうになっていたリューさんがぴたりと停止し、シルさんと視線を交わして静かに俯いた。

 それを見たシルさんが今度はセルバンティスに視線を向けて口を開く。

 

経営者(オーナー)、一つお伺いしたい事があります」

「はあ、なんでしょう?」

「もし、貴方が勝利した場合。何を要求する積りか、聞かせていただけませんか?」

 

 シルさんの質問の意図もわからん。ここで相手の要求内容を聞く? どうせ一晩中好きにさせてくれとかじゃねぇの? 下半身で生きてそうな奴だし。

 

「私が勝った時の願い……? そうですな、私が勝った暁には────【魔銃使い】殿とマクシミリアン夫人殿には晩酌に付き合って頂こうかと考えていますが」

 

 わぁお、欲張りだな。俺も付けるのかぁ……とこの状況で性欲に塗れた発言をしたセルバンティスを冷めた目で見てたら背筋が凍り付く様な殺気が振り撒かれた。

 黒服の殆どがその鋭い刃の様な殺気を浴びて動きを止め、唯一のLv.3の用心棒二人が身構えていた。いや、別の賭博卓(カジノテーブル)についてる奴も一人立ち上がって構えてるな。誰だアイツ?

 というか、その殺気の発信源は言わずもがな。己の知己に劣情を向ける下種を前にした潔癖症を患ったエルフ、リュー・リオンである。マジで殺す三秒前ぐらいの鋭い視線がセルバンティスに向けられるも、彼はニタりと笑みを浮かべてリューさんを挑発しおる。死にたいんですかね?

 

「いやはや、お若い奥様をもらわれて羨ましい限りだと思っていたのですよ。私も是非そのお零れに預かりたいと思いましてな。なあに、暇なときに晩酌に付き合って頂くだけですよ────私と二人きりのね」

 

 あんた死にたいのか。というか二人きりになったら俺の方が強い訳だし返り討ちにするぞ?

 リューさんが限界を迎えたのか拳を握って椅子を蹴倒し────シルさんが彼女の腕を抱き込んで止めた。ナイス、止めなかったら完全に戦闘(ドンパチ)に発展してたわ。

 

「シル、止めないでください、この下種(ゲス)は此処で────」

「リュー、落ち着いて」

 

 一応、俺はマクシミリアン殿とは初対面って事になってるし、口出しできないからシルさん頼むぜ。

 周囲で完全に警戒姿勢となっている黒服達に対し、シャクティさんの動じなさはありがたい。というか寝てない? 腕組したまま微動だにしないせいで寝てる風に見えるよ? クリスは寝てるけど。

 

「それで、どうしましょう? 代役で奥さんが打つ、というのは」

 

 それ言ったら不正(イカサマ)してたセルバンティス達も総入れ替えじゃん。まあ面倒だし突っ込まないけど。

 

「わかりました。その勝負受けさせていただきます」

「シルッ!」

「リュー、大丈夫だから」

 

 手綱を握って暴れそうなエルフを抑えるシルさん。心の中で声援を送りつつも余裕の表情のセルバンティスに若干の同情心を向ける。

 このままリューさんと戦って勝ち目が無さそうだから、弱そうなシルさんを引っ張り出す作戦なんだろうけど、実はシルさんの方がよっぽど強いとは考えてないだろうなぁ。

 

「では、マクシミリアン殿の代役として奥さんが打つと────」

経営者(オーナー)、一つ我儘を聞いていただけませんか」

「…………はて、その我儘とはなんでしょう?」

 

 シルさんの手が微かに震えている。それに気付いたセルバンティスがニタりと笑みを浮かべた。

 言い掛かりをつけられて激昂しそうになった頭の固いエルフの夫を止め、自らが敗北した際の末路を知って恐怖に震える健気にも立ち上がろうとする妻、な雰囲気でも感じ取ったんですかね。

 いや、多分、それシルさんの演技ッスよ、セルバンティスの旦那ぁ。あれは見事に騙されてる。

 

(わたくし)の命の恩人とお会いしたいのです。その為に、この部屋に呼んでいただければ、と」

 

 はい? シルさんの我儘の内容が意味不明過ぎるんだけど……他に協力者がいたのか?

 

「実は、私と主人の危機を救ってくださった『さる冒険者様』がいらっしゃって、今夜もお礼を兼ねてご一緒にお食事する予定だったのですが……けれど、もし……晩酌を務めさせて頂く場合は私は行けません」

 

 声を震わせて不安そうな雰囲気を醸し出しながらも、それをどうにか封じ込めて気丈に振る舞おうとする姿で訴えかけるシルさん。流石というか、演技派だなぁ……あんま好きじゃないけど。

 

「ですから…………その、お別れを済ませたいのです」

 

 言い掛かりをつけられての選手交代。手持ちの賭札(チップ)の量からしてシルさんは優位のはずだが、彼女自身がそう思っていない事はその様子から見て取れる。まあ演技だけど。

 要するに、優位な状況ですら自分が勝てるのか不安に感じているという演技をする事によって、自分はポーカーが苦手であるという印象付けをしているのだろう。

 まあ、セルバンティスがいくら大馬鹿野郎でもここで外部から冒険者を迂闊に招き入れたりしないだろう。

 

「良いでしょう、特別にこの貴賓室(ビップルーム)に来る事を許可しましょう」

 

 しないだろう。しないだ…………ろう? なんでしてんのっ!?

 ニコリを笑顔を浮かべ、シルさんを舐め回す様に見ながら最期の健気な願いを叶えてやるかと言う雰囲気で許可を出した大馬鹿野郎(セルバンティス)。ちょっと、何を考えてんのかわかんないんだけど……監視下であれば接触オッケーだとでも思ってんの?

 暗号使って外部と連絡とられる可能性とか考えないのかよ、自分が暗号使ってたんだからそれぐらい予測しろよ。

 

 シルさんが『さる冒険者』の特徴を黒服に伝え、会場内を探して貰う事数分。賭博(ゲーム)が止まっていて暇な俺は適当に賭札(チップ)を積み上げて山にして遊んでいた。

 絶妙な均衡(バランス)で縦に積まれた賭札(チップ)、更にもう一枚てっぺんに追加しようとした所で、入り口の両扉が開かれる音と共に、両腕を掴まれた冒険者が引き摺られてくる。

 真っ白い髪に、小動物を思わせるおどおどした雰囲気。何故こんな所に呼ばれているのか理解できておらずに挙動不審に陥っている少年。先日の戦争遊戯(ウォーゲーム)にて活躍し、格上を屠る偉業を成し得た『戦争遊戯(ウォーゲーム)の覇者』、そしてヘスティアファミリアの団長────ベル・クラネルが貴賓室(ビップルーム)に入ってきた。

 

「なっ……彼はもしや戦争遊戯(ウォーゲーム)の……」

「間違いない、【リトル・ルーキー】だ……」

 

 同時に、視線が俺に集中する。

 俺の知り合いどころか、同一派閥に所属する冒険者だから当然。警戒心が強まり、余計な口を開けば間違いなく攻撃されるであろうチクチクとした空気にさらされる。

 ベルが来たなら外部と連絡を、と考えるが無理か。いや、出来なくは無いけど……暗号だって用意はしてあるし。

 シルさんがベルに駆け寄って行き、少年の手を取って微笑みを浮かべた。

 

「ごめんなさい、クラネル様。この後付き合いが入ってしまって、お詫びのお食事は取り消しにさせて下さい」

「えっ、あ、あの……?」

 

 何のことかさっぱり理解できていない。って事は事前打ち合わせも無しなのか。

 戸惑って貴賓室(ビップルーム)を見回すベルと視線が合ったので小さく手を振って応える。即座に黒服が殺気を飛ばしてくる辺り、滅茶苦茶警戒されてるんだなぁ。

 

「ミリ────」

「どうか今はシレーネとお呼びください」

 

 ベルの言葉を遮った。シルさんがちらっとこっちを文句有り気に見てくるが、俺は悪くないじゃろ。

 

「シレーネさん……今、何をしてるんですか?」

「……いけない、遊びですよ?」

 

 シルさんの言葉にベルが何かを察し、俺を見た。いや、見られても応えられんのよ、だって周囲からバリバリ殺気向けられてるし。余計な事言ったら潰すって空気が満ちてる辺りで察してく……いや、何も察しないで鈍感っぷりを発揮してくれ。モテモテの主人公が女性からの好意に気付かないとかいう軽小説にありがちな不自然で気持ち悪いぐらいの鈍感っぷりを発揮してくれ! モテモテなのは共通してんだから、後は鈍感属性を付与すれば完璧だ!

 何か察して余計な動きしないで! 本気(マジ)で!

 

「いいですか、クラネル様。ここはガネーシャファミリアの皆さんも入られてはいけない場所。だから、誰も通ってはいけないのです。たとえ、もしここで何かあったとしても……誰も入ってはいけないのです」

 

 念押しをする様にベルに伝えていくシルさん。勇敢な少年が無茶をしてこの会場に突撃してこない様にするために、釘を刺す様に。

 

「勇敢な、あなたもです」

 

 俺が負ければ、彼らに玩具にされる訳だが、そうなればベルが突っ込んできてもおかしくはない。それを止めようとするかのようなシルさんの発言にセルバンティスが訝し気な表情を浮かべつつも成り行きを見守る。

 余計な事────『助けて』等と言うのではなく、逆に『助けに来ないで』と釘を刺してるおかげか、彼らは動かない。

 

「貴方にお会いできて嬉しかった。……また縁があればお会いしましょう」

「シルさっ────シレーネさん」

「最後に、手を握ってもよろしいでしょうか?」

 

 ベルが何かを言いかけ、それを遮ったシルさんがおずおずと手を差し出す。

 戸惑った少年もまた、身を強張らせてからおずおずと彼女の手を握り締めた。

 数秒程のやり取り。監視されて余計な事を言えないシルさんは小さく微笑みを浮かべ、ベルの手を振り払って目尻の涙をぬぐう仕草をしながら彼に背を向けた。

 

「ありがとう……さようなら」

 

 ベルが何かを言い募ろうと口を開きかけた瞬間、彼の両サイドから黒服が腕を掴んで部屋の外へ引っ張りしていく。

 

「うわっ、ちょっ……!」

 

 強引に引き摺られていく姿に若干苛立ちながらも表面上は普通に振る舞っていると、セルバンティスがそれを止めた。

 

「待て」

 

 黒服二人が停止してセルバンティスを伺い、腕を掴まれたベルが目を瞬かせる。

 何事かと彼を伺うと、セルバンティスは俺を見据えて微笑んできた。

 

「【魔銃使い】殿は同一派閥でしたな。貴女からも何か伝える事はありますかな?」

 

 探る様な彼の台詞。要するに『助けに来るな』と言って欲しいのかね。

 まあ、丁度良いし外部に暗号で連絡とるか。ベルなら多分上手く伝えてくれるはず。

 

「んー、ベル。ちょっとお願いがあるんだけど」

 

 周囲の黒服から向けられる殺気が更に増す。余計な事言ったら今すぐ潰すと言いたげだ。

 

「ディンケに言伝をお願いします。()()()()()()()()()()()()()()

「え?」

 

 ぽかんと口を空けて呆けた表情を浮かべるベル。まあ、このタイミングでする会話としては不自然っちゃ不自然だが、同じ派閥の団員に向けた伝言だし違和感は少ないはず。

 まあ、警戒はされたみたいだが。

 

「ほら、ディンケが世話してくれる事になってるでしょ? 明日の朝食を野菜にする様に伝えておいて。そうね、会場のガネーシャファミリアの団員に伝言を頼めばディンケに伝わるわ」

「えっと……? それって、どういう?」

「今日も調教師(テイマー)として手伝いに行ってるから、ガネーシャファミリアの誰かに伝えると早いわ。入口に居るヒューマンの女性、幹部なら確実に話が通るしその人に伝言頼んでおいてくれる?」

 

 言う事は言った。暗号としては『キューイ』『ヴァン』のどちらかで状況の良悪を、『肉類』『野菜』『林檎』で作戦の決行か否か。

 キューイは『状況良』、『野菜』で『作戦は決行、しかし突入は無し』だ。

 ディンケ・レルカンは戦争遊戯(ウォーゲーム)の際にヘスティアファミリアに入団してくれた人物。元ガネーシャファミリアであり、調教師(テイマー)として何種類かの怪物を従えた事もある人物。

 竜の世話を代役して貰ってるって事もあって違和感はあれど不自然ではない内容になってる。ついでに、ガネーシャファミリアとは友好派閥だし、シルさんがあれだけ念押しして『助けに来るな』って言った後で『竜の朝食についての伝言』を伝えてる訳だからなぁ。

 多分、若干天然なのでは? ぐらいに思われるだろう。もしくは勝利を疑ってない奴。

 

「伝言は以上です」

「…………ふむ、もう良い」

 

 セルバンティスが追い払う仕草をすると、ベルが両扉の向こう側にぽいっと投げ出され、扉が閉められる。扱いが雑過ぎる。

 場の空気が弛緩する。と言うか俺に向けられていた殺気の類が消えた。

 どうやら今のやり取りを『怪しい』とは思わなかったみたいだ。

 

「いやはや……それにしてもマクシミリアン殿。どうやら奥様は恋多き女性の様ですなぁ?」

 

 リューさんを煽りに行ってるな。

 妻に不埒な視線を向けるセルバンティスに激昂しかける程に妻を愛しているマクシミリアン殿。その妻が不倫しそうなぐらいに冒険者に入れ込んでいるのを見て、彼の誠実さに対し妻であるシレーネ殿が浮気しそうじゃん、って煽ってる積りなんだろうなぁ。

 まあ、そもそもリューさんも女性でシルさんをそういった目で見てないから全く意味無いんだけど。

 

「それで、奥様はお別れは済みましたかな?」

「はい」

「【魔銃使い】殿は他に言う事はなかったので?」

「別に、ここにきて負けるなんて考えられませんし」

 

 余裕ぶって笑みを浮かべると、明らかに目付きが鋭くなるセルバンティス。キミはもう少し煽り耐性つけた方が良くない? 大丈夫、ちょっと挑発しただけじゃん。

 シルさんがリューさんの代わりに席に着き。リューさんが席を立ってその後ろに控える。これ以上、不正(イカサマ)云々と言い掛かりをつけられたくはないのかしっかりと両手を後ろで組んで背筋を伸ばして立つリューさん。まるで騎士道物語に出てきそうな、姫に仕える騎士を思わせる佇まいは様になってる。

 対してシャクティさんは腕組をして『傭兵ですよ』と全身から滲み出させててそれはそれで様になってるんだよなぁ。というか本当に動じないなシャクティさん。

 

「では、始めたいと思いますが……奥様はポーカーの規則(ルール)はご存じで?」

「はい、お店の同僚────」

 

 気を抜いてたのか早速失言を漏らしかけて咳払いして誤魔化すシルさん。大丈夫?

 

「やんちゃな使用人(メイド)達に誘われて、よく主人の目を盗んで興じておりました」

 

 リューさんが若干微妙そうな表情を浮かべてシルさんの横顔を見つめてる。

 『主人』はミアさんで、やんちゃな使用人(メイド)達……アーニャさん達かな? 本人達の前で言ったらギャーニャー騒がしくなりそうだな。

 

「お恥ずかしいのですが、私はあまり難しい種類のモノはやっていなくて……ドローポーカーでもよろしいですか?」

 

 『ドローポーカー』はポーカーの中では基礎のモノだろう。

 五枚の(カード)で役を作り、一度だけ(カード)の変更が許される。質素(シンプル)規則(ルール)だ。

 というかシルさん、自分の得意な種別(ゲーム)を選ぶってちょっと……いや、良いけどさ。

 

「ええ、問題ありません」

 

 セルバンティスは既にシルさんがポーカーが不得意と思い込んでるっぽくて即答しやがった。ああー……これはもうアカンじゃろ。

 場の流れに沿って俺も種別(ゲーム)変更に同意した所で、パンッと拍手する音が響いた。

 音の出処は、シルさん。

 

「それと、勝負を降りる際には参加費(アンティ)の二倍を払うというのはどうでしょう?」

 

 シルさんの発言に明らかにセルバンティス達がたじろいで戸惑う。

 ただでさえ所持賭札(チップ)が少ない状況で、強制参加費(アンティ)の負荷が高まるのは嫌だろう。明らかに否定的な雰囲気を纏う彼らに対してシルさんが微笑んだ。

 

「いつも使用人(メイド)達とはこの規則(ルール)でやっていまして……()()()()()()()()()()()()っていう()()()()()()()()()規則(ルール)なんです」

 

 は? ……あ、おいこれ、俺も使用人(メイド)の一人に勘定(カウント)されてんじゃねぇか!

 勝つときだけ勝負に出る。イコール、負ける時は確定で下りるので『下りる(フォールド)』する負荷が増えるとかなりきつくなるのだ。

 シルさんの言葉にセルバンティス達の視線が一瞬俺に向けられる。要するに、俺対策としてこの規則(ルール)を適応する利点(メリット)と、自身が被る欠点(デメリット)を天秤にかけているのだろう。

 数分ほど悩んでから、顔を上げた。

 

「ええ、構いませんよ」

 

 あー……シルさん、本気で勝ちに来てるな。多分、俺もすり潰す積りだ……。

 

「【魔銃使い】殿も、他の方々もそれでよろしいですな?」

「……え、ええ、良いですよ」

 

 これは、あれだな。

 起死回生の一手としてリューさんを場外へ飛ばしてシルさんを参加者(プレイヤー)に捻じ込んだのは良いが、実はシルさんの方がリューさんよりよっぽど強いって言うオチ。

 頑張って起死回生しようとするのは良い。悪足掻きっぷりがかなり見苦しいが、滑稽で嗤える。

 が、とりあえず喧嘩売る相手は本当に注意しないとあかんぜ? シルさんとの賭博(ゲーム)とか、地獄かな?




 皆さん評価ありがとうございますぅ……遠回しにゲームやるなって言われてる訳ではないと信じたいです。

 それと、ダンまち二次が日間一位に輝いてますねぇ。この影響でダンまち二次が増えて欲しいモノですな。
 乞食すれば評価とか一杯貰えますよ! 古事記にも(ry

 にしても、ハクスラはよくナーフで好きなビルドが弱化するからなぁ。GrimDawnに限らず、ボーダーランズでもよくあったから辛い。


 そういえばTS作品は割と出てくるのですが、バランスの取れたオリ主って出てこないですよねぇ。
 バランスの取れた能力を考えたい人へ、ちょっと助言を……『ゲーム』を参考にすると良いです。

 具体的には『バランスの取れたゲーム』ですかね。GrimDawnもそうですし、ボーダーランズ3もそうですが、『一つだけ異常に強いビルドや職業』ってのを無くそうとしてるゲームは良作です。まあ、出来るとは言いませんが。
 例えばですが、一つの職業がぶっちぎりで強いせいでそれ以外の職業が息してないとか時々ありますよね? あれって創作小説で言えば『オリ主以外いらなくね?』っていう状態な訳です。
 一つの職業が強過ぎてそれ以外いらない、じゃなくてどの職業も役割があって一つとして欠けてはいけない、って感じだとオリ主も原作主人公もどっちも活躍させれますし。

 後は最初の方にバランスとれてたのに後から崩れていくタイプのオリ主。
 この場合は純粋に強化の仕方を失敗してる感じですかね。かといって何か助言出来る訳ではないんですが……。
 本作で言うと『新しい職業追加』でどんどん出来る事増えてーって感じでバランス崩れそうになりますが、これを『クラスは一つしか設定できない』って形で抑えてますを。
 ぶっちゃけ、『クラスチェンジ』と『クラス毎の特徴的ガン・マジック』が絶妙に上手く働いてバランス取れてる感じ。
 むしろこれ以外の方法でバランスとれって言われても、私じゃ思い付かないレベルだし……案を授けてくれた読者感想に感謝してます。

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