魔銃使いは迷宮を駆ける   作:魔法少女()

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第一四七話

 最大賭博場(グラン・カジノ)で起きた騒ぎによって喧騒に満ちた大賭博場(カジノ)区画(エリア)を抜ける道を進む。警備の為に駆り出されたガネーシャファミリアの団員を避ける道順(ルート)を選び取りながらリューさん達を先導して進んでいると、アンナさんが小さな悲鳴を上げた。

 

「きゃ……」

「大丈夫ですか?」

 

 曲がり角の先に誰も居ないのを確認してから後ろを確認するとアンナさんがリューさんに支えられている光景があった。

 

「どうかしましたか?」

「あの、すいません……靴が……」

 

 リューさんに支えられた彼女の靴を確認すれば、ハイヒールの踵部分が折れているのが確認できた。

 移動に適さない靴で駆け足で移動していた影響だろう、踵部分が折れた際に足を痛めたのか痛みを堪える様に表情を曇らせるアンナさんを見て、リューさんが此方を見た。

 

「ミリアさん、回復魔法を頼めますか」

「あー……すいません、今ここでは、ちょっと……もう少し進んでからでないと」

 

 周囲にガネーシャファミリアの警邏が見当たらないとはいえ、魔法を使うと魔力の余波で勘づかれる。今ここで見つかると不味いのでもう少し我慢して貰わないといけないのだ。

 不幸は重なるものなのか、大通りから外れた裏道である此処に足音が響く。話声と時機(タイミング)から警邏中のガネーシャファミリアで間違いない。

 

貴賓室(ビップルーム)を荒らした連中は貴族に扮しているらしい」

「エルフとヒューマンの二人組だったか、絶対に逃がす訳にはいかん」

 

 流石ガネーシャファミリア、騒ぎの発覚からわずか数分で包囲網の完成に至る程の連携を誇っている。それが今回は裏目に出ている訳だが。

 

「どうしよう、リュー、見つかっちゃうよ」

「……仕方ありません。アンナさん、少し失礼します」

「あっ……」

 

 ヒョイッと軽い調子でリューさんがアンナさんを抱き上げる。横抱き、俗に言う『お姫様抱っこ』で抱えられたアンナさんが一瞬で真っ赤になり、リューさんはそんな彼女の様子に気付く事無く此方を伺う。

 

「行きましょう」

 

 彼女の身体能力からして問題は無いだろう。急ぎ路地を抜けるべく走り出す。

 アンナさんと同じく走るのに適さないハイヒールを履いているはずのシルさんは割と平然としているが、履きなれているのだろうか?

 疑問を覚えて後ろをちらりと確認すると、スカートを僅かに持ち上げてスタスタと着いてくるシルさんの姿があった。なんか様になってる。

 

「あの……重くないですか?」

「……? いえ、別に重く無いですよ。むしろ軽いくらいです。しっかり食事はとれて……なかった様子ですね」

 

 お姫様抱っこで抱えられて羞恥から真っ赤になっているアンナさんの言葉に返事を返すリューさん。攫われてから不安で食事を取れていなかったらしい彼女を見てリューさんが心配そうな表情を浮かべているが、それよりもアンナさんの表情が、アレなんですが。恋する乙女というか……まあ、別に良いけど。

 大賭博場(カジノ)区画(エリア)を抜け、リューさんが馬車を止めていそうな地点に向かおうと足を向ける。

 

「リューさん、位置的にこの辺りですかね」

「……ミリアさんって私達の行動を知ってたんですか?」

 

 シルさんの驚愕の表情を見て肩を竦める。そんな訳ない、単なる予測だ。

 そしてアンナさんを確保した場合の逃走経路がどうなるか。多分というか十中八九箱馬車だろうなと予測は着く。後はその箱馬車をどこに停めておくか、目撃されにくい場所は何処か。そういった逃走経路確保の基礎の知識さえあれば、馬車をどこに停めてあるかは予測できる。というか場所が限られ過ぎてるので逆に張り込まれてたら危険だとは思うが、そういった逆手にとった予測をする奴が敵に居なくてよかった。

 停車している馬車の御者はしっかりと口止めがされた人員だろう。その辺りは抜かりない……はずだ。

 

 

「ここなら治療が出来そうですね。アンナさん、足を見せて貰っても? ついでにハイヒールも直しますか」

 

 リューさんがアンナさんを横抱きにしたまましゃがみ、支えたまま膝立ちの姿勢になる。何気に人を抱えたまま膝立ちするって相当負担になると思うんだが、まあ恩恵受けた第二級冒険者だしなぁ。

 

「【癒しの光よ────】」

 

 かなり強めに捻ったのか青黒く変色していた足首の辺りに回復魔法をかければ、ほんのりと赤みが残る程度にまでは癒せた。まだ違和感はあるだろうが痛みはないだろう。後はハイヒールの修理か。

 

「靴を直せるのですか?」

「ん? まあ、魔法でちょちょいと……あ、笑わないでくださいね?」

 

 クラスをケットシー・ドールズへ変更。

 このクラスの説明は────いらんだろ。名前から察せられるとは思うが『人形』を召喚して戦うクラスだ。

 原点(オリジナル)自身もまた人形であり、ドリアード・サンクチュアリが扱う回復魔法の恩恵を受けられない等、欠点(デメリット)は多数あるが、基本性能は高い。

 というか召喚(ケットシー)型においては珍しく、使用可能な『ガン・マジック』に『サブマシンガン・マジック』があり、本体の戦闘能力も結構高いクラスだったりする。まあ、あくまで他の召喚(ケットシー)型に比べて、の話であって戦闘(クーシー)型と比べると……まあ、そんな感じだ。

 ……アニメ版ではキチガイ畜生猫扱いだったがね。アレはファクトリーが綺麗になったのが悪い。

 

「【再起せよ、眠るには早過ぎる】」

 

 無機物専用の回復魔法。正確に言うなれば修繕魔法、だろうか。

 人形の修繕から、物の修繕まで、非生物であればなんでも直せる魔法ではある。無論、弱点というか修繕といっても限度はあるが、今回の踵が折れたハイヒール程度なら完全に直せる。

 

「よし、これで直りましたね」

「……三つ目のステイタスを使い分けられるようになったのですね」

 

 リューさんの察しが良い。まあ誰にも言わないで欲しいがね。

 

「誰にも言わないでくださいね?」

 

 アンナさんが靴の調子を確かめているのを見てから、深く溜息。なんとか見つからずに抜け出せたけど、俺はこの後戻らないといけないんだよなぁ。

 戻る時の道順を思い描きつつ、リューさんがアンナさんを馬車に乗せようとするのをシルさんと並んでみていると、アンナさんが何か戸惑っていた。

 

「さあ、この馬車へ」

「えっ……で、でも……」

 

 男装の麗人姿のリューさんに促され、戸惑うアンナさん。

 何事かと首を傾げていると、シルさんが補足する。

 

母親達(カレンさんたち)がいる場所へ行くようにお願いしてあります。後の事は大丈夫ですから」

 

 この馬車に乗って家族の元へ帰り、ドレスを脱ぎ去ればただの町娘に戻れる。此度の出来事もちょっとした悪い体験だったという事で、父親の悪癖改善にも繋がる……と良いね。

 彼女を攫った冒険者達は……うん、まあ、死んではいないけど、二度と悪さはしないだろう。いや、出来ないというべきかな? 綺麗に半殺しにされててビックリだね。

 リューさんが箱馬車の扉を開け、アンナさんを促す。

 

「さあ、どうぞ」

 

 馬車の中を一度見て、迷う様にリューさんの顔とシルさんの顔を交互に見てから、小さく拳を握り締め、勇気を振り絞る様にアンナさんがリューさんに一歩詰め寄り、声を上げた。

 

「……あ、貴方に愛する奥様がいらっしゃるのは重々わかっています!」

 

 愛する、奥様? シレーネ・マクシミリアン婦人に変装しているシルさんの方を見ると驚いた表情を浮かべて二人のやり取りを見ていた。あー……まあ、そっか、勇気を振り絞る訳か。恋、しちゃったのね。

 リューさんはどううまく切り抜けるのだろうか。

 

「これから言う事が貴方を困らせる事も! でもっ、それでも私はっ」

 

 突然放たれた彼女の発言にリューさんは完全に硬直して思考停止状態に陥っている。無表情でアンナさんを見つめるリューさんに、彼女は必死に振り絞る様にその想いを伝えようとしている。

 

「身を挺して守ってくれた貴方の事が……」

 

 そこで漸く再起動したのか、それとも察しがついたのか唖然としていたリューさんが彼女の瞳をまじまじと見つめ、慌てて彼女の言葉を遮った。

 

「私は貴方に恋を────」

「待ってください」

「────えっ?」

 

 ほんの一時の間、刹那と言うべき出会いと別れの間に抱いた女性の恋心。それを遮られたアンナさんが凍り付く。それを目にしたリューさんが慌てた様に付け加えた。

 

「────貴女は勘違いしている」

 

 着けていた眼帯を取り払い、整髪料(ヘアワックス)で固められていた髪を搔き乱して男性的な雰囲気を崩す。服装こそ男装しているが、眼帯を取り払って整髪料(ヘアワックス)で固められていた髪を乱せば、其処には男装した女性エルフだとわかる程度には変装が乱れたエルフの姿があった。

 ────リューさん、ちょっと最低過ぎやしませんかね。

 

「私は、貴女と同じ女性です」

 

 リューさんのその発言に、アンナさんは言葉を失い────数秒して悲鳴を上げた。

 

「…………え、えええぇぇぇええっ!?」

 

 ひとしきり悲鳴を上げたアンナさんがリューさんから視線を外し、箱馬車に乗り込む。足元はおぼつかず、ふらふらと幽鬼の様な足取りで馬車に乗り込み、席へと着いた彼女の目元には涙が滲んでいた。

 

「あ……あの、大丈夫ですか?」

 

 精神的な衝撃を受けて瞳は何処か遠くを見つめたままぐったりと席に着く彼女に、リューさんが心配そうに声をかけるが、反応は無い。

 どう声をかけるべきかリューさんが考え込み、静かに扉を閉めた。

 扉が閉まると同時に、馬が嘶きを上げて馬車は走り出す。

 白馬の王子様に救ってもらい、恋に堕ちた少女の恋心を粉微塵に粉砕したリューさんが所在なさげにその馬車を見送り、その後ろでシルさんがお腹を抱えて震えていた。

 

「ふふっ…………!」

「~~~~っ」

 

 リューさんが文句有り気にシルさんを睨むのを見て、深く溜息を零す。

 今のは無いわ。本当に無いわ。もっと気を遣うべき所だったと思う。

 

「リューさん、今のは無いですよ。本当に、酷いです」

「……男装を提案したのはシルです。私は────」

 

 いや、いやいや。アンナさんの気持ち考えると暴露(アレ)は無いでしょ。

 

「はぁ、私だったらとりあえず『気持ちはありがたいですが。今宵の出来事は全て悪い夢の出来事。忘れてください』とでも言って誤魔化しますよ」

「……そんな歯が浮く台詞なんて言えませんよ。それに、勘違いしたままでは申し訳ない」

 

 真面目なのは良い事なんじゃが……アンナさんの視点で考えるとなぁ。

 

「恋した王子様が実は男装した女性だったとか、呆然自失するのも仕方ないと思いますけどね」

「た、確かに少し悪い事をしてしまったかもしれません…………」

 

 若干反省の色を見せるリューさんが小さく溜息を零したのを見て、シルさんが口を開いた。

 

「リューは格好いいからね。女の人にもてるのも仕方ないよ」

 

 支援(フォロー)になってるのかなってないのかわからないんですが。

 案の定、リューさんはシルさんの言葉に若干機嫌を損ねたのかむっとした表情でそっぽを向いた。

 

「……私がシルの様に魅力的でない事ははじめからわかっています」

「そんな事ないよ。リューにだって魅力はあるよ」

 

 拗ねてそっぽを向いたリューさんを慰める様にシルさんがニコニコと話しかける。

 

「…………例えば?」

「────あ! 私預けてある着替え取ってくるからリューは此処で待ってて!」

 

 リューさんの問いかけが聞こえなかったのか、それとも無視したのか。シルさんは身を翻すとそのまま駆けて行った。対するリューさんは所在なさげに立ち尽くし、深い溜息と共に項垂れた。

 流石にリューさんも『女性的魅力の無さ』には落ち込んでいる様子らしい。何か支援(フォロー)しておくべきかとどう声をかけるべきか台詞を選ぼうとした所で、リューさんが此方を見た。

 

「ミリアさん、今回は、その……足を引っ張ってしまってすいませんでした」

 

 頭を下げる姿を見て、溜息を零しかけるも全力でそれを飲み込む。

 

 

 

 

 

「気にしなくて良いですよ。私だって主神の厚意を無下にされれば怒りますし」

 

 微笑みを浮かべる小人族(パルゥム)の姿に申し訳なさを感じつつも、リューは感心していた。

 彼女がガネーシャファミリアと協力体制を敷いてテッドを追い詰めるべく暗躍していた事を知ったのは、彼女と共に居る雇われの護衛がシャクティ・ヴァルマだったことに気付いた時だ。

 かつて悪行に身を染めていたと自称していたミリア・ノースリスの事を、何処か甘く見ていた節はある。

 彼女の語った悪行の数々、それらは迷宮都市(オラリオ)の何処を調べても微塵も出ては来ない。他国で行った事かと思いはすれど、大都市でそこまでの犯行を行ったのならば噂の一つぐらいはこの都市で耳にしないのもおかしい。神々はそういった噂話に目が無いからだ。

 故に、嘘とまではいかずとも誇張されているのではと薄らと感じていたが、今回の彼女の話術や技能を目にすれば、それらが嘘ではないのは彼女にも理解できた。

 

「それも含めありがとうございます」

 

 彼女がわざわざお膳立てをしてくれた。そのことを理解しているからこそのリューの礼に対し、ミリアは曖昧に笑うのみで言葉を濁す。

 

「むしろリューさんにお礼を言いたいですよ。私とシャクティさんだけだったら、多分引いてましたし」

「引いていた、とは?」

 

 テッドを上手く誘導して相手の不正(イカサマ)を封じつつ、自らの不正(イカサマ)を隠し抜いていたミリアが、あの場で引く理由等考え付かないリューが僅かに眉を顰める。

 それを見たミリアは肩を竦めた。

 

「無駄に自信満々でしたからね。あのドワーフ……何か隠し玉でもあるのかと警戒して引き気味だったんですよ。リューさんがガンガン突っ込んでいったからこそ、あの場であの手を打っただけで」

 

 元来、ミリア・ノースリスと言う少女────前世で悪行を重ねていた頃からそうだったが、彼女は臆病だ。

 全てを予測できる範囲に納めて事を成す。始まったその時には『勝つ』と言う確信が無ければ引く。未知が、予測不能な事柄があれば即座に身を引ける様に退路だけは確保しておく。

 失敗を恐れ、成功する場でしか勝負に出れない。失敗はイコールで大切な人を脅かす事に繋がるからこそ、必要以上に失敗を恐れ────結果、足を掬われる事が多かった。

 今回、リューが失敗を怯える事も警戒する事もなく真っ直ぐ進んでいったからこそ、不確定要素を飲み込んで前進を選び取っただけであり、それが成功へとつながった。

 普段の彼女なら間違いなく引いていた。彼女はそれを自覚しているからこそ、謙遜でもなんでもなく大したことはしていないと口にする。

 

「アンナさんが必要以上に傷付かなかったのはリューさんのおかげですね」

「盛大に傷つけてしまった気がしますが」

 

 先の出来事を思い浮かべてリューが眉を顰めるのを他所に、ミリアは微笑む。

 最悪の場合、ここでリューが来ず、ミリアも引いていた場合。アンナ・クレーズは今晩にでもテッドに手籠めにされていた事だろう。清い身のまま救い出されたのはある意味幸運な事だった。

 ミリアの口から語られた最悪の事態を思い浮かべ、不愉快そうに表情を歪める潔癖症のリュー。

 大通りから響く喧騒から離れた路地。再度切り出したのはリューだった。

 

「貴女が居てくれて良かった」

 

 リューが抱いた本心。ミリアが居て、リューの失敗の補助に回ってくれたからこそだったと彼女は感じている。対するミリアの反応はやはりと言うべきか自己評価の低さから否定的なモノだった。

 

「私なんて居なくても割となんとかなったと思いますよ」

 

 その言葉にリューが表情を歪める。十八階層でリューは彼女に自己否定が過ぎると強く諫めた積りだったが、彼女のその考え方は全く変わっていなかった。その事に若干の呆れを浮かべる。

 

「はぁ、貴女は本当に変わらない。自己否定が過ぎる、自分を貶める様な発言は控えるべきだ」

「…………まあ、そうですね。でも、無理ですよ」

 

 リューを真っ直ぐ見つめ────眩しいモノを見る様に目を細めたミリアは、呟く様に続ける。

 

「すごく、きれいなんですよ」

「……綺麗?」

「すっごく綺麗なんです。皆、素敵な人達なんですよ」

 

 唐突に何処かズレた応えを返すミリアの様子にリューが眉を顰めているさ中にも彼女は続ける。

 

「ベルはすっごく良い子なんです。真っ白で、誰に対しても助けの手を差し伸べようとするぐらい。ヘスティア様も素敵なお方です。こんな私なんかでも抱きしめてくれますしね?」

 

 恋焦がれる様に、憧憬した対象に向ける様に、空に瞬く星々を見上げる様に、手の届かない何かを見る様に、遠く離れた美しいモノに見惚れる彼女は続ける。

 

「リューさんも綺麗ですよね。あれだけ非道な行いをしたテッドを拳一つで裁いてお終いだなんて……()()()()()を抱く人は違います」

 

 彼女の言葉にリューは表情を歪めた。

 己が『正義』を名乗るには既に手遅れだと思っているからこそ、彼女の言葉をリューは肯定できない。

 

「私には『正義』など……」

「リューさん、正義っていうのは名乗るモノじゃないと思うんですよ」

 

 本物の正義とは何か。ミリアが定義するそれは、とても難しいモノであり。そしてとても簡単なモノだ。

 

「義憤を抱き、己を鑑みる事無く成されるソレこそが正義なんです」

 

 リュー・リオンはテッドの非道な行いに、モノの様に扱われる女性達に、義憤を抱いた。

 自らを鑑みる事も無く、ただ抱かれた義憤のままに突き進む。それを人は『愚か』と貶すだろう。しかし、その『愚かな正義』こそがミリア・ノースリスにとっての『本物の正義』なのだ。

 

「それこそ、自らを正義と称する奴らなんて禄でもない」

 

 己を正義と名乗る者は、ろくでなしだ。彼女は語る。

 たいていの場合、『正義』を騙る者達は────自らの行いを正当化する為の免罪符としてソレを扱う。

 

「『悪』を叩く際、己を『正義』と定義付けます。でも、本当にソレは『正義』なんですかね?」

 

 『悪』と対成すモノ、それが『正義』である。本当にそうだろうか。

 

「あの糞女は言いました。『悪』は良いモノだと……だって、『悪』はいくら踏み躙っても胸が痛みませんもの」

 

 『悪』を討ち果たす、それは正義の行いだ。だが、正義を名乗る奴は禄でもない。

 行いそのものは正義であれど、その心まで正義とは限らない。

 

「一般人を騙して金を巻き上げるのは、罪悪感を伴います。けれど、悪人を騙して海に沈めても特に何も感じないですよね」

 

 むしろ、『悪』を滅した事に悦びすら感じる。

 

「私は色んな正義を見てきました」

 

 義憤に駆られて『悪』を討たんと愚かにも策も弄さずに真正面から突撃してくる正義感に満ちた男。

 『悪』を裁く悦びに溺れ、己を『正義』と定義付けた偽物。

 

「『悪』は良い。叩いても貶しても……なんなら殺したって罪悪感を抱かなくて済む

 

 悪を裁く事に罪悪感は抱かない。むしろ、自らが正しい事をしたのだと悦びに溺れた。

 己も同じ『悪』だというのに、『悪』を潰して殺して、己の行いに酔いしれる。その行為の悍ましさに気付いたのは、同じく偽物の正義を騙る者達と対峙した時だ。

 

「正義を成す事に喜びを感じ、正義を名乗る者ほど悍ましい者は無いですよ」

 

 自らを正義だと思い込んだ精神異常者。世界にはそんな精神異常者で満ちている。

 

「悪い事をしている人を糾弾する者達。彼らは正義感からではなく、悪を叩く悦びでその行為を成すんです。なんて醜く、気持ち悪い正義なんでしょうか?」

 

 悪を叩く。それは正義の行いで違いない。けれど、その心は醜く歪んだ愉悦に満ちたモノに落ちぶれていた。

 そんな者達と比べ、義憤のままに行動し、愚かと笑われる愚直な正義は、なんと美しい事か。

 

「ほら、リューさんは本物の正義だ。とっても綺麗で美しい、輝かしい正義ですよ」

 

 そこらで民草が酔いしれる正義なんかが薄汚れて見えるぐらいに美しいモノだ。彼女は陶酔した様に語り────小さく溜息を零して肩を竦めた。

 

「テッドが殴り飛ばされた時、私は『ざまぁみろ』と思いました。そんな風に考える奴は気持ち悪くないですか?」

「ミリアさん、貴女は────」

 

 自分の事が嫌いなのか、そんな質問を飛ばすより前にミリアは答えた。まるで質問の内容を先読みした様に。

 

「嫌いですよ。嫌で嫌で堪らない、ベルがあんなに真っ白で綺麗なのに、ヘスティア様があんなに優しくて素晴らしいのに、リューさんが輝かしく美しいのに、私は……」

 

 卑しい考えが抜けきらず、愉悦に浸る事がある。

 周りの人々が滅多に居ない希少な人間性を持つ綺麗な人々だからこそ、自分のそんな部分が嫌いだ、と。

 

「皆が綺麗過ぎて、どんどん自分が嫌いになりますね」

 

 自嘲気味に笑い────ミリアは突然、背を向けた。

 

「すいません、話過ぎましたね。忘れてください」

「待ってください、まだ話は────」

「終わりました。それでは」

 

 呼び止めようとするリューの言葉を遮り、小人族の少女は路地を曲がっていった。

 慌てて追いかる為に走りだし、曲がり角を曲がった所でリューは足を止めた。

 隠れる場所の無い一本道。古びた街灯に照らされた其処には、小人族の姿は影も形も無かった。

 

 

 

 

 

 ジクジクと痛む胸を抑えて最大賭博場(グラン・カジノ)前で指揮を執っているシャクティさんに近づく。

 

「テリー・セルバンティスの身柄は確保したな? 女性達は丁重に馬車へ案内しろ。っと、ノースリス戻ったか。どうだった?」

「……ええ、上手く外まで誘導できましたよ。途中問題(トラブル)はありましたけど」

「何かあったのか?」

 

 前々から感じてはいたけれど、やっぱりリューさんも、皆……すごく綺麗なんだよな。

 

「ええ、アンナさんのハイヒールが折れて……リューさんがお姫様抱っこしてましたねぇ」

「……そんな事か」

 

 呆れた表情を浮かべたシャクティさんに曖昧に笑いかけておき、縄で縛られてギルド職員数人に囲まれて連れていかれる経営者(オーナー)に扮したテッドを見て、溜息一つ。

 

「どうした?」

「いっそのこと……」

 

 あんだけ好き放題悪行三昧だったのだから、ぶっ殺されていれば良かったのに。なんて考えてしまう辺りが何とも、自分の汚さを浮き彫りにしている様で気持ち悪い。

 

「いや、単に白い羽の件をどうしようかなって考えてたんですよ」




 魔法少女()は挿絵をおねだりした。
 ………………。
 しかし何も起こらなかった。

 悲しくないと言えば嘘になるけど、悲しみの度合い的には……ダンまち×TSロリ作品が一話だけ投稿されてエタってるのを見るのと同じぐらいの悲しみです。

 そうだ、もし描いてくれたら本編を更新しましょう。

 日曜に確定更新するのに加えて、土曜にも更新する感じ。
 貰った週には二回更新する形に……したら描いてもらえないかなぁ。




 あ、コラボ募集は続けてますよ(小声)
 Twitterでフォローされる度に『コラボかな?』とワクワクするけどなんか違うっぽくて悲しい。

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