魔銃使いは迷宮を駆ける 作：魔法少女（）
ふむ。なるほど。
【ロキ・ファミリア】の深層遠征組が帰還途中にミノタウロスの群れに遭遇した際に、フィンが新人育成の為に指揮を次期団長候補の人物に託して、なおかつ深層において活躍の場が無かったサポーター組に編成されていたレベル２、３の団員にミノタウロスの掃討を任せた所、ミノタウロスが瞬時に反転、逃げ出した為に追撃に入る。
しかし四十階層近くを一気に駆け上がってきた影響も有り、疲労状態が限界に近かった為か追いかける為に編成した追撃組が完全に追いつき切れず、なおかつ道中で
察した団長であるフィン・ディムナと言う人物が遠征組の指揮をリヴェリアに託して追撃組に加わる。
その後、上層五階層に逃げ込んだ二匹の内一匹をアイズ・ヴァレンシュタインと言う人物が撃破。
フィンも少し遅れて五階層に入り込んだもう一匹を撃破。
撃破の際にミノタウロスの近くで致命傷を負った状態の俺を発見して、慌てて治療を行い保護。
発見時にミノタウロスは目や口、鼻等をやられて顔面が血塗れだったらしく状況から俺が何かやらかしたっぽいと判断。
と言うか瀕死の重傷の怪我人を一発で治せる『エリクサー』とか言う薬、ヤバすぎだろ。なんか変なモン入ってないだろうか……まぁ、ファンタジーでおなじみの万能薬っぽいし、大丈夫か。
【ロキ・ファミリア】も遠征で疲労が溜まっていたとは言え、駆け出し冒険者にレベル2でも苦戦必至のミノタウロスをぶつけてしまった事を謝罪する意味も込めて【ロキ・ファミリア】本拠へ護送。
その途中、ローブの中で縮こまっていたキューイを発見。団長であるフィンが危険は無さそうで、この子のテイムモンスターかもしれないから手出しは厳禁と言う命令を出して一応モンスター用のケージ……檻？ を用意しようとしたが直ぐには用意できず。鳥籠を代用。
キューイ本人は特に暴れる様子も無く、林檎をあげたら喜んで食べていたので、鳥籠の中で大人しくしていてほしいとリヴェリアがお願いした所、普通に頷いて肯定。
言葉は喋れない様子だがかなりの知能を持ち、なおかつ危険も無さそうと言う事で保護した俺の部屋に一応置いておいたと……
ほほー……あぁ、なんかまだ完全に思い出した訳じゃ無いが……一つ疑問が産まれた。
――――――ベルは？
「すいません、ベル……えっと、白髪に赤目の私と同じ駆け出しの少年が近くに居ませんでしたか？」
ミノタウロスに襲われた？ 危険度についてはエイナさんの勉強で習ったが、確かミノタウロスってレベル2でも避けて通るヤバイ奴だるぉ？
まぁ、【ロキ・ファミリア】の失態について特に指摘する積りは無いし。其処を逆手にとって高額なヴァリスを要求なんてしない。と言うか……なんか【ロキ・ファミリア】側が既に謝罪金などの手配をしているらしい。
数百万ヴァリスだと……マジかよ……。
えぇ……俺とベルが3階層へ一日ガッツリ潜ったとして収入って3500ヴァリス前後だぞ？
数百万とか……多すぎィ……と思ったんだが、どうにも【ロキ・ファミリア】側としてはそれでも少なすぎるらしい。
深層遠征での利益は数億ヴァリス単位になるらしい。でっかいファミリアって金銭感覚ぶっ壊れてるのな……
あぁ、忘れてたが【ロキ・ファミリア】と言えばオラリオ最大派閥……えっと、美神のフレイヤ、悪神のロキと言うオラリオを二分する最大派閥の一つらしい。
収入が億を超えるとか……
一級冒険者と呼ばれるヤベェのがゴロゴロ所属しているヤベェファミリアらしい。
ふぅむ。変に敵対するのは不味いし、このまま何事も無かったかの様に帰りたい。
でもミノタウロスになんかしでかしたりだとか、キューイ関連で絶対目つけられてるだろこれ。こんなクソ弱な幼女に何期待してんですかねぇ……まぁ、割と使える魔法やらスキルは習得してるからアレか……
「ふむ？ 少年……少年か。すまないなそう言った少年が居たと言う報告は聞いていないな。今回の騒動に置いて、被害者はお前一人だけだったと言う話だ」
……嘘、では無さそうだ。本当に知らない様子である。
まぁ、目の前のエルフの女、リヴェリア・リヨス・アールヴだったか？ この女が欺瞞に長けている可能性は否定できないし。ファミリアぐるみでこっちを騙そうとしてきてる可能性は無くは無い。
…………無いか。このリヴェリアと言う人物、オラリオでも片手の指の数しかいないレベル6冒険者であり、なおかつ【ロキ・ファミリア】の副団長と言う立場の人間らしい。
わざわざ副団長なんて肩書を持つ偉い人物が、目の前で頭を下げたんだぞ？
エルフってのはプライド高く、異性に触れられただけで激怒する様な種族って話だし。そんなエルフの中でも更に上の地位に居るらしいハイエルフと言う種族のこの人物がわざわざ一介の駆け出し冒険者の俺に頭を下げるか？
ありえんな。
「そうですか……」
ベルは無事か？ 危険度ヤバイらしいしな……ベルは敏捷が高めだったし、逃げれると思うんだが……。
と言うか、俺ってどれぐらいの期間気絶してたんだ？
「ああ、すまないな。迷惑をかけてしまって」
「いえ、誰しも失敗はあるでしょう。死んだ訳でもあるまいし。それよりも私はどれぐらいの間気絶していたのでしょうか？」
もしかして二日三日？ な訳無いか。流石に二日三日寝たきりなら素直に体が動くなんて事無いからな。
「5時間程度だな」
……ファッ!?
え？ 瀕死の重傷＋マインドダウンだった俺が、発見されてからまだ5時間!?
冒険者の回復能力はバケモノかよ……。
「ふむ……すいませんが一度、帰っても良いですかね？」
「む？ もう少し休んでいても構わないが」
自分のファミリアの本拠に他ファミリアの団員が居るのを危険視するファミリアもあるらしいが、別にそこらを気にした訳じゃ無い。
と言うか、他ファミリアの団員を危険視するって辺り、複数のファミリアと敵対してたりするんじゃな……あー。
神ロキ、もしくは悪神ロキ。割と有名な神様な気がする。
えっと、北欧神話随一のトリックスターだとかどうとか……具体的に何やったのかは覚えてないが。悪神と言う名から大体察しがつく気はする。
下界に下りてから悪神の側面は揺らいだから安全……と言う訳ではないにしろ大人しいらしいが……。
美女・美少女好きなんだっけ？
……ミリアちゃんは美少女……えっと、美幼女の方が正しいのか？ どちらにせよ可愛い容姿なのは間違いない。
……そっち方面で目つけられても困るんだよなぁ……。
「いえ、主神にベルの無事を確認したいので」
確か神と眷属はファルナによって繋がりが確保されていて、神は眷属の状態をぼんやりとだが理解できるらしい。
勘の良い神や、鋭い五感を持つ神等は眷属が何処で何をしているのかすらファルナを通じて理解できるらしいな。個人のプライバシー何処行った……あぁ、眷属だもんね。神の下僕だよね。プライバシーなんて無いよね。
「ああ、そう言う事か……お前の着ていたローブ等を持ってくる。少し待っていてくれ」
「わかりました」
そう言うと部屋を出て行くリヴェリアさん。ふむ……エルフって年齢が見た目で測れないって言うが、どれぐらいの年齢だろうか？ 女性の年齢を聞くのはアレだが……。
……え？ ミリアちゃんの年齢？ 確か『ミリカン』では14歳って設定だったが。今？ 中身は40過ぎのオッサンだよ……ははっ、笑えよ。
と言うかわざわざ一介の駆け出し程度に副団長が出張ってきて相手してるって不思議な光景なんだが……
ふぅむ？ キューイが危険視されてる？ 訳じゃなさそうだが……なんだかなぁって感じだ。
割と目をつけられてそうで怖い。なんたって【ヘスティア・ファミリア】は登録してからまだ二週間の駆け出しファミリアである。最大派閥に圧力かけられた日には一時間持たずに崩壊するぞ……と言うか潰れる。
「なるほど、その服の中の不思議な袋はその幼竜を入れておくモノなのか」
「そうなりますね」
興味深そうに此方を眺めるリヴェリアさんを流し見てから身嗜みを整える。
持ち物関連は、残念な事に木の杖がミノタウロスに掴まれた時に圧し折れていたのと、ポーション関連も小瓶が砕けてアウトー。
その他は血塗れだったので綺麗にしてくれたらしい。
一応、持ち歩いていたナイフは大丈夫だったが。杖が折れたのは若干痛いとは思うが、どうせ600ヴァリスの安物である。手痛い出費と言えばそうだが、背骨をボキッとやられるよりはるかにマシである。
【ロキ・ファミリア】の倉庫から好きな武具をーなんて言われたが……遠慮しといた。
どうせ使われていない物だから好きにしても良い？ 必要な者に使われる方が武具の為？
杖一本でいくらすると思ってんだ。一本で数百万は当たり前だぞ……魔法の触媒と言って持っているだけで魔法の威力を高めてくれると言う素材を使った杖とか、そんなん渡されても困る。
何のためにミリアちゃんの初期装備の見た目だけ豪奢な杖やローブを本拠に置いておいて安物を身に纏っていると？
他の冒険者に目をつけられない為ですよ？ 其処に【ロキ・ファミリア】の倉庫に放り込まれた不用品を？
馬鹿言え、最大派閥の不用品なんて駆け出しファミリアじゃ絶対手に入らない武具に決まってんだろ。何処で手に入れたのかなんて疑問に思われるし、最悪ごろつき連中に目をつけられかねん。地雷過ぎんだよ……
「謝罪金等は流石に今すぐは受け取れませんので、また後日伺います」
「む、そうか」
今すぐ受け取る？ 数百万ヴァリスを背負って【ヘスティア・ファミリア】の本拠へ？
はっきり言って【ヘスティア・ファミリア】の本拠は防犯関連が死んでるからなぁ……
廃墟に大金持ち込むなんて怖くて出来ねェよ。このままばっくれてしまおうか……
無理かなぁ……キューイとかで目を奪ってしまってるしなぁ。
「そうだ、すまないが帰る前にフィンと少し話をしてもらえるか？」
「良いですよ」
できればさっさと帰りたい。と言うかベルは本当にどうなったんだ？ 怪我人やらは居ないらしんだが……
まぁ、俺を助けてくれた人っぽいし一応礼は言ってくか。
「ついてきてくれ」
しっかしこのエルフの女性は……クール？ あんま笑みを向けてこない人だな。緊張と言うより真面目……なのだろう。いや、エルフと言う種族全体的に愛想笑いを嫌うらしい。潔癖な側面ってめんどうなんだな。まぁ、別に笑顔で出迎えられても裏があるんじゃと疑う羽目になるから今のままでいいんだが。
リヴェリアさんの後ろをぽてぽてと歩いていく。
キューイはお腹の袋の中に放り込んでおいた。赤いの食べたいとか言ってたが無視。強引に捻じ込んでおいた。こいつには後で説教しておかなくては。食い物程度で買収されるとか笑えない。
しかし……なんだ、この、凄いごてごて感。
複数の尖塔が連なった炎の様な見た目の【ロキ・ファミリア】の本拠……『黄昏の館』だったか？
黄昏って辺りに大分皮肉を感じるのは、神話を聞きかじった俺だからか？ ベルに言わせると「かっこいい」らしいんだが。
まぁ、ベルくんも二つ名に憧れてるらしいから何とも言えないが。
そう言えばそのフィンとか言う人物も【
アイズ・ヴァレンシュタインが【剣姫】、リヴェリア・リヨス・アールヴが【
どれも痛々しい事で、でもかっこいいと褒め称えたり羨ましがったりする冒険者が多いのはなんともなぁ……。
まぁ、ともかく、内装自体は割と落ち着いた感じなのだが、尖塔を沢山くっつけたようなデザインだからか内部構造が妙に入り組んでる様に感じる……。
まぁ、それはともかく。俺が居た客室は、大分離れた所にあったらしい。まあ、当然か。警戒してるっぽいしな。むしろ警戒してんのに客室が用意されてるってどういう……。
そんな風に考え事をコロコロしてたらふと気が付いた。歩くのが辛くない。
と言うかちらっと前のリヴェリアさんを見上げて、納得。
無愛想に感じはしたが、この人相当気遣い出来る部類の人だな。
ベルと歩いていると時々歩幅の違いで此方が小走り状態になる時がある。そこら辺は女性に不慣れなベル君なら仕方ないが、割と直ぐに気が付いてペースを落としてくれるが。
このリヴェリアさんは最初から俺のペースで歩いているらしい……と言うか妙に慣れてんな。
まぁ、良い。無愛想に感じた女性の意外な一面でコロっと落ちる男も、逆のパターンもよくあるが。別に綺麗だから惚れるなんて事は無い。
なんでかって？ あの糞女も、
「ここだ、少し待っていてくれ」
っと、そんな事を考えていたらフィンとやらが居る部屋に到着したらしい。
「フィン、例の被害者を連れてきた」
部屋をノックして声をかけている。ふぅむ、普通にノックしているが地域によってはノックの習慣が無いのが普通らしい。ベルなんかはノックをしない事もあるしな。まぁ、別にみられて困る体じゃないしなぁ。
「入って良いよ」
中から聞こえたのは落ち着いた子供の声。え？ 子供の声？
リヴェリアさんが扉を開けて中に招いてくれる……あのさ、この人、普通に副団長って言う肩書あるんだよね？ なんでそんな召使みたいに恭しく扉を開けてくれんの？ ぶっちゃけ気が引けるんだが……
「目が覚めたのかい、無事で良かったよ」
…………ショタっ子王子様がソコに居た。えぇ!? 待って、何こいつ……って、あぁ納得。
キューイの言ってたミリアの男……パルゥムの男性ってコイツの事か。
なるほど、ミリアの男版……金髪に碧眼の王子様風の少年が執務室っぽい部屋のデスクに座って微笑みを浮かべている。
「はい、お陰様で……助けて頂いてありがとうございます」
「いや、礼はいらないよ。元を言えば僕たちの責任だからね」
しっかりと頭を下げて礼を言えば微笑みつつ返事をしてくるフィンと言う男性。
十中八九幼い見た目と落ち着いた雰囲気からパルゥム、しかも相応に歳は食ってる感じか。
と言うか、これで見た目通りのショタだって言ったら俺はドン引きだよ。
指し示されたソファーに腰かければ、対面にショタ王子様が座った。
「自己紹介をさせてもらうよ。【ロキ・ファミリア】団長をやらせて貰っている【
「えっと、ミリア・ノースリスです」
丁重な自己紹介だけではなく、リヴェリアさんは紅茶やらを用意してくれてー……。
……あのさ、最大派閥の【ロキ・ファミリア】の団長が、一介の駆け出しファミリアの駆け出し冒険者にどうしてこんな仰々しい対応すんのかね？ ……キューイか？ キューイが悪いんか？
キューイ、テメェ……とことん足を引っ張りやがって……どうにかして返品できねぇかな。
「リヴェリアから話は聞いたよ。一度ファミリアに帰りたいって話だったね」
「はい、一緒に組んでダンジョンに潜っていた仲間が気になりますので」
緊張する訳ではないが、やはりここまで仰々しい対応を、しかもかなり目上っぽい役職の人達にやられると反応に困る。何か期待されてる？ と言うかこのフィンとか言う男……。
…………あぁ、ダメだな。俺、こいつ大嫌いだ。
「そうか……謝罪金は後日受け取りに来ると言う話だったかな」
「そうですね。直ぐに受け取っても扱いに困りますし、駆け出しの私が大金を持ち歩くのも悪目立ちする恐れがありますから。それと一つ相談、というかお願いがあるのですが」
「お願い？ なんだい、僕に出来る事なら出来うる限り力になるよ」
…………媚びてくるなコイツ。しかも目はこっちを覗き込む様に見てきやがる。探りを入れてこようとしてんのか？
「キューイ……私が連れていたワイバーンの幼体については他のファミリアやギルドに報告しないでください。ギルドにも未報告で連れ歩いているので報告されると困るのです」
無許可でモンスターを連れ歩いていた。あまりにも突かれると痛いが、そもそもこんな風に他ファミリアに保護される様な失態を犯すとは思わなかった。
と言うかダンジョン内部での出来事は自己責任だから、誰かが助けてくれるなんて考えない方が良いって話なのに、普通に助けてくれ……あぁ、【ロキ・ファミリア】の所為だからか。
「あぁ、それについては心配しなくても良いよ。その幼竜の事で何か脅したり、なんてことは絶対にしないから。なんなら二つ名に誓っても良い」
……二つ名に誓う、それがどれほど重い意味を持つのか知りもしないが。
俺は神様じゃない。だから嘘がわからない。
そもそも、
なんなら、俺は愛してもいない女の為に『愛してる』と囁く事も、『キミが好きだ』と告白する事だって出来る。必要ならば絶対に関わり合いになりたくも無い屑共を『親友』だと言って信用