魔銃使いは迷宮を駆ける   作:魔法少女()

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第一四九話

 アポロ────ハゲファミリアから強奪した本拠の改装も全て完了し、荷物の運び込みの為に停車した馬車から木箱を下ろしていると、唐突にベルが大きなくしゃみをした。

 

「くしゅんっ!?」

 

 ベルの手から木箱が零れ落ちそうになるもなんとか支え────続けて「へっくしゅっ!?」と二度目のくしゃみが続く。

 

「なんだいベル君、風邪かい?」

「いや、そんな筈は……」

 

 同じく木箱を抱えたヘスティア様が振り返りながらベルに問いかければ、ベルは小さく首を傾げた。

 

「都市内で噂でもされてるんでしょ。今頃、ベルと私のLv.3への昇格の知らせがギルドから発表されている頃合いだし」

 

 間違いなく都市内で最も強烈(ホット)な話題として神々に噂されていてもおかしくはない。そう思って馬車の上から肩を竦めるとベルは「まさか」と肩を竦める。

 御者席に座っていた猫人の青年(ディンケ)が眉を顰め「嫌味か?」と呟くのを聞き流しつつ、私物の入った荷箱(トランク)を奥から引っ張り出した。

 

「それよりも二人とも、はやく来なよ!」

 

 引っ越し用の荷物を手に駆け出したヘスティア様を追ってベルが駆け出し、俺も遅れて荷箱(トランク)を引っ掴んで馬車から飛び降りて二人を追う。

 門の前に立ち、うららかな日差しに照らされた前庭を眺める二人に並ぶ。アポロンファミリアの本拠を強奪し、改装して出来上がった石造りの屋敷。新生ヘスティアファミリアの本拠である建物を見て目を細めた。

 

「わぁ……!」

「どうだい、今日からここにボク達が住むんだぜ?」

「……維持管理が面倒そうですねぇ」

 

 一部ヘスティア様の趣味に合わない部分等をガッツリと改装した結果、元の外観から質素に、けれど品の良く、そして新品同然の邸宅となっていた。三階建てで奥行きもしっかりしており、全員が一人一部屋与えられたとしても十部屋以上の余りが出るだけでなく、地下室に屋根裏ととてもではないが現在の人員だと管理不届きな部分が出かねない豪邸だ。

 前世だと一部屋に機能を纏め上げたこじんまりとした部屋に籠っていた事も多く、広い屋敷には余りいい思い出が無い────自分以外だれも信用できないというのに、同じ屋根の下に多数の人間が集まるなんて精神的疲労(ストレス)の原因でしかなかった訳だし。

 しかし、今回の建物に関して言えばそういったストレスを感じる要素は無い。なんたって家族で住む家だしな。

 正面の玄関口に飾られた鐘と竜を結ぶ炎の徽章(エンブレム)を見て目を細める。

 

神友(ヘファイストス)にボロい地下室を押し付けられてから、よくぞここまで…………」

 

 ヘスティア様が男泣き……女神泣き? しているが、ヘファイストス様が働き口と住む場所をくれただけでかなり温情なのではないだろうか。まあ口にしないけど。

 ボロい地下室、あの廃教会は瓦礫の撤去を終え、一応は地下室が残っているのみで誰も立ち入らないような場所になってしまった。あの廃教会に改装を重ね、いずれ立派な……というささやかな願いが潰えた事に悲しみを覚えるが、それはそれだ。

 新たな家族を迎え、皆と一緒に生活できる邸宅を手に入れた。ささやかでいて温かな地下室も良かったが、この屋敷ではもっと温かな出来事に出会えることだろう。

 ヘスティア様とベル、そして荷物を抱えて運び込む他の面々を見て自然と口元が緩んだ。

 

 

 

 

 

「さてみんな、まずは乾杯といこうじゃないかっ」

 

 『竈火の館』の食堂。

 引っ越し作業も程ほどに、最低限の荷物の運び込みを終えた全員が集まり顔を並べる長卓。昼食の時間というのもあり、真っ先に片づけを済ませた厨房で作り上げられた鶏肉のソテー等の軽い食事が並んでいた。

 食事を終えたらまた片付けがあるが、今はそれよりもテンション高めなヘスティア様の音頭の元集まった全員がグラスを手に取る。

 

「えっと、何に乾杯するんでしょうか?」

戦争遊戯(ウォーゲーム)の勝利でしょう」

「リリ殿の移籍の祝いでは」

「新しい本拠(ホーム)の完成祝いか」

「増援組の歓迎とか」

 

 ベルの質問にリリ、ミコト、ヴェルフ、俺がそれぞれ思い当たる要件を上げていくも、ヘスティア様は意味深に笑うのみ。

 

「確かにそれも目出度い、でも────新しい近況(ニュース)もあるだろう?」

 

 ヘスティア様の言葉に皆が考え込み、ほぼ同時に視線が俺とベルに集中した。

 正式にギルドからも発表された訳だし、まあ確かにそれもあるな。だとするとフィアとディンケの二人も含まれるが。

 

「ベル君、ミリア君、ランクアップおめでとう!」

「フィアさんとディンケさんもランクアップしてますけどね」

 

 拍手に包まれる食卓。ベルが照れたように頭を掻く中、下座に座っている面々を確認すると────サイアが舟をこいでいた。横に座ったメルヴィスが何度か肩を揺するも中々目が覚めないのかしきりに頭が揺れている。戦争遊戯後、迷宮解禁直後から夜も入り浸るぐらいに潜ってたらしいし仕方ないか。一部の依頼(クエスト)を片付けるのも協力してもらったしなぁ。

 

「流石というかなんというか、此処まで凄いと嫉妬もできないな」

「うんうん、凄いよねぇ」

 

 ディンケとイリスの二人がしみじみと呟く中、ヘスティア様がいたずらっぽく微笑みながらベルに音頭を促す。

 

「ほら団長君、乾杯の音頭を頼めるかな」

「はい、それじゃあ……ヘスティアファミリアに乾杯!」

 

 相変わらずと言うか、未だに慣れないのか若干固いベルの音頭を聞きつつ、グラスを小さく掲げる。

 

 

 

 

 

「しかし、まともになったもんだなあ」

 

 卓上の食事も殆ど完食し、グラスを片手にしみじみと呟きを零したのはヴェルフだった。

 

「来た時は酷かったですからねえ……アポロン様の趣味全開で」

「……アレはまさに『異界』そのものでした」

 

 例の光景を思い出したのかリリが表情を曇らせ、ミコトが神妙な面持ちで呟く。

 

「うひっ……」

 

 小さな悲鳴が下座から響き、皆の視線が悲鳴を零した人物に集まる。サイアが小さく震えながら頭を抱えているのを見て、全員の同情混じりの視線が注がれる。あの屋敷の入口で気絶するほどの衝撃を受けた彼女は、どうやらあの恐怖の館が心的外傷(トラウマ)になってしまったらしい。

 

「も、もうアレは無いよね?」

「大丈夫だって、全部排除したから」

 

 安心させるようにフィアが微笑むのを見て、思わず視線を逸らしてしまった。実は人形に加工する為に地下室の一角に纏めて保管してあるって言ったらサイアが発狂しそうだなぁ。

 アポロン像の運び込みを手伝ってくれたディンケとルシアン、リリルカの三人の視線がブスブスと突き刺さる中、話題を変えるべく拍手をして注目を集めてから口を開く。

 

「いやあ、それにしても派閥としても一気に立派になりましたよね」

「ミリア様白々しいですよ」

 

 リリ、話題変えるから蒸し返さんでくれ。

 

「まあ、確かに……Lv.3が六人だろ? Lv.2だって五人。一時的とはいえかなりのもんだぞ」

「うっ、リリだけがLv.1ですか……」

 

 ヴェルフの呟きの通り、派閥規模としてはヘスティアファミリアは中堅をほんのり超えたぐらいの実力はある。

 ただ、派閥規模は小さい。本来ならもっと新規団員を次々に受け入れる場面だしね。

 

 主神 女神ヘスティア

 Lv.3 【未完の少年(リトル・ルーキー)】ベル・クラネル

 Lv.3 【魔銃使い】ミリア・ノースリス

 Lv.1 サポーター リリルカ・アーデ

 Lv.2 未決定 ヴェルフ・クロッゾ

 Lv.2 【絶†影】ヤマト・ミコト

 Lv.3 【双拳乱舞】イリス・ヴェレーナ

 Lv.3 【不動城塞】グラン・ラムランガ

 Lv.3 【蒼空裂砕】フィア・クーガ

 Lv.2 【木漏れ日】メルヴィス・ハーヴェ

 Lv.2 【幼豪】サイア・カルミ

 Lv.3 【揺天秤】ディンケ・レルカン

 Lv.2 【濡鼠】ルシアン・ティリス

 Lv.2 【無色妖精】エリウッド・ベルメス

 

 人員を並べ立ててみればなんともまあ、少なくとも一か月前にたった二人しかいなかった零細派閥とは思えないだろう。とはいえ、イリス以下8名の面子は一年後には元の派閥に帰属する事にはなっているので、このままという訳にもいかないが。

 

「一年後には帰属する方もいますし、増員が急がれますね」

 

 新規団員募集用の羊皮紙(チラシ)はヘスティア様がこっそり作成してるのは知ってるし、そこら辺はこれからとは言えなぁ……時期が悪い。多分、まともに人が集まらないと思うんだよなぁ。

 前途多難だなぁ。

 

「んー……私、このままヘスティアファミリアでも良いかなぁって思ってるんだけど」

「え? ロキファミリアに戻らなくて良いんですか?」

 

 ふと、呟きを零したのはフィア・クーガだ。

 ベルが驚きながらも言葉を投げかけると、彼女は悩まし気に腕を組んでうんうんと唸りだす。

 

「だってさ、一人部屋だぜ? ロキの所だと一人部屋は幹部にならねぇと貰えないしなぁ」

「確かに、一人部屋ってのは良いよなあ」

 

 フィアの言葉にルシアンが深く頷く。

 ロキファミリアの規模的にも幹部以外は基本的に相部屋なのだろう。今のヘスティアファミリアは部屋が余りに余っているので一人一部屋だが、普通の派閥はそれこそ四人部屋とか、最悪の場合はベッドが並んだ宿舎状態というのもあり得る。

 ガネーシャファミリアとかもう考えたくも無いぐらいに規模が大きいし、一部屋に何人詰め込まれてたんだ?

 

「ガネーシャファミリアは駆け出しだと一部屋で十人。自分用の空間(スペース)も無くてなあ」

「上級冒険者になっても六人部屋とかだったぞ。と言うか団長と一部の最上位幹部以外は相部屋だしな」

 

 自分専用の部屋が与えられるのはごく一部の幹部のみ。最悪の場合は部屋すら与えられずに外部の宿に泊まる事になるというのもあり得るのか。

 

「うわ、十人部屋か……きっついな」

「一応、種族や性別で部屋割りは変わるが……エルフとドワーフが同じ部屋に居るとなあ」

 

 やれ芋臭いだの、やれ癪に障るだの、種族同士の相性が悪い者同士が同じ部屋に詰め込まれるとトラブルが多発する。特にガネーシャファミリアは来る者拒まずと言わんばかりに団員が増えていっているらしいしな。

 

「そう考えると……俺もヘスティアファミリアのままでも良いかもしれんなぁ」

 

 ルシアンのしみじみとした呟きに同情はするが、流石にどうなのかとヘスティア様を伺う。

 一応、彼らの意思は尊重されるだろうから、もし本当にヘスティアファミリアに帰属するというのなら各々の主神に一声かければ大丈夫だとは思うんだがね。

 

「一応、聞きますけど現時点で迷ってる人ってどれぐらい居ます?」

 

 質問を飛ばすと同時、ディンケとエリウッドが即答する。

 

「悪いが俺はガネーシャ様の所に帰る」

「私もだ、女神ヘスティアも尊敬できる部分はあれど、やはり私が崇めているのはガネーシャ様だからな」

 

 迷う事無く即答している事についてヘスティア様が軽んじられている様で若干面白くはないが、彼らのガネーシャ様への忠誠心の強さ故にの即答であって、ヘスティア様に含むところがある訳ではないのでこれは逆恨みにも近いモノだ。

 

「俺は……うーん、今はちょっと迷ってる。帰ってガネーシャ様の役にも立ちたいし、この派閥も良いなって思ってるな」

 

 二人に対しルシアンは深く悩みながらの返答だった。ガネーシャ様への忠誠心とで揺れている辺り、少し忠誠が足りないのではと思うが口にはしない。それだけヘスティアファミリアを魅力的に思ってくれているという事だろうし。

 

「んー、一人部屋は魅力的だけどなあ……でもやっぱロキの所が良いな」

「今の所は帰る積りですね」

 

 フィアはなんだかんだ言いつつも、やはりロキの所が良いらしい。メルヴィスも同様。

 対し、意外な事にイリスが腕組をして迷っていた。

 

「イリス様も迷っているのですか?」

「んー、ん、うん。すごく迷ってる」

「わたしもわたしもー」

 

 アマゾネスの二人の視線はベルの方に向けられていた。視線を向けられたベルが首を傾げ、イリスが代表して口を開く。

 

「団長が魅力的でさぁ、このままこの派閥に残って団長の子供産もうかなって。ロキの所だと団長に手を出したら死にかねないし」

「うんうん、フィンはもう先約がいて、てをだそうとすると腕をへし折られるからね!」

 

 いや、まあ、うん。この人達アマゾネスだったわ。

 要するに派閥に、というよりはベル個人を魅力的に感じているという事だろう。獰猛な肉食獣を思わせる瞳を向けられたベルが身を震わせ、ヘスティア様とリリが吠えた。

 

「ベル君に手を出すんじゃない! ロキファミリアに帰れっ!」

「そうです! ベル様に手を出すなんてリリが許しませんっ!」

 

 いや、まあベルが望んだハーレムに近づきそうだし、戦力的にもアマゾネス二人は良い感じなのでええんちゃう? 兎が肉食獣に食い荒らされる可能性はあるけど、合意無しで強引にやろうとするなら俺も止めるしね。

 

「合意無しで押し倒すのはやめてくださいね。ベルが合意したら別に良いですけど」

「ミリアッ!?」「ミリア君っ!?」「ミリア様ッ!?」

 

 いや、合意したなら良いじゃん。あー、まあ廊下でとか人目の着く場所で盛ったりしたら蹴り飛ばすけど。目障りだし。

 

「おー、副団長公認かぁ……ねえ団長、どう? 今晩」

「よばいしていい?」

 

 アマゾネスとしての発育の良さを遺憾なく発揮し、魅力的な身体つきをしたイリス。

 若干精神面が幼くはあれど発育も良く、抱き心地もよさそうなサイア。

 二人の視線を受けたベルが「ごめんなさいっ」と即答したのを見て、釘を刺す。

 

「拒否されたみたいなので()()()諦めてください」

「……って事は明日以降も機会(チャンス)はあるって事ね」

「まいにちこえかけるからねー」

「うひぃっ……」

 

 むしろ少しは女性慣れする為にも一晩ぐらいは良いのではないだろうか。

 

「モテモテだな団長、男として羨ましいぜ」

「畜生、俺もモテてぇなぁ」

「……ルシアン、もう少し落ち着きがあればお前もモテるとは思うが」

 

 ガネーシャ組ががやがやと騒ぎ出し、ヘスティア様とリリが絶対にベルに手を出させないとイリスとサイアを睨む。火に油を注ぐだけ注いで炎上するベルを眺めながら、グラスを傾けた。

 

 アマゾネス二人の色目をリリとヘスティア様が遮り、ベルが疲労困憊とでもいうようにぐったりとし始めた頃合いになって、ふと思い出したのでポケットから鍵を取り出してヴェルフに声をかけた。

 

「あ、そうそう。ヴェルフ、鍛冶場の鍵を渡しておくわ」

「お、おう」

 

 投げ渡すと戸惑いがちに鍵を受け取り、ヴェルフはしみじみとそれを見つめる。

 

「ゴブニュファミリアが完璧に仕上げてくれた、らしいので後で確認の方だけお願いします」

 

 俺は鍛冶場について詳しくはないから全部ゴブニュファミリアに任せたのだ。

 鍛冶と建築を司る主神(ゴブニュ)様が率いる派閥であるため、一応問題は無いはずだ。

 

「ゴブニュが建築をしたんだ。此方の注文通りに完璧に仕上げてくれたに決まってるだろ」

 

 ヘスティア様が意味深に呟き、リリとミコトが顔を見合わせて目を見開いた。

 

「と言う事はミコト様のあの注文も?」

「私のあの注文も、完璧に?」

 

 ミコトが待望したのは、極東式の檜風呂。

 三階に作られたその風呂は、ミコトが望んだとおりの仕上がりになっているはずだ。まあ、まだ俺も見に行ってないんだけどね?

 とはいえ、外装、そして食堂、後は談話室や自室、廊下、倉庫なんかの既に目についた部分においても非の打ち所がないぐらいに完璧だった訳だし、風呂だけが地獄めいた環境になっているなんてありえないだろう。

 …………ありえないよな?

 

 

 

 

 

 食事を終えた所で、サイアを除くロキファミリア組は迷宮へ。サイアは割り当てられた部屋で寝ている。ガネーシャ組は引っ越しの荷物の運び込みとキューイ、ヴァン用の竜舎の方での作業。ディンケが竜舎でのキューイとヴァンの世話を熱望したために任せる事となったのだ。

 んで、ヴェルフは自らの城ともいえる鍛冶場へ。ミコトは待望の風呂へカッ飛んで行った。

 ヘスティア様、リリ、ベル、俺の四人は屋敷の中の点検中。見取り図を覗き込むベルを他所にヘスティア様が上機嫌に口を開いた。

 

「二人ともすごく喜んでくれていたね。ボクも嬉しいよ」

 

 最初は驚いていたヴェルフも隠し切れない歓喜の表情で鍛冶場に向かったし、ミコトは狂喜乱舞しそうなぐらいに激しかった。他の増援組も何か要望があれば聞いたのだが、彼らは遠慮してたしなぁ。

 あー、竜の世話役を熱望したディンケは除く。むしろ面倒事を自ら背負い込みたがったのはどうなんだろうか? いや、本人が熱望してたので良いかもしれんがなぁ。

 

「ロキファミリアが改修費を出してくださったとはいえ、少々やり過ぎではないでしょうか?」

「ふふん、ロキが出すって言ったんだ。目ん玉飛び出るぐらいの金額を請求してやるぐらいでちょうどいいんだよ」

 

 なお金額的に鼻で笑われた模様。1,000万ヴァリスを少し超えるぐらいだったので、普通なら笑える額じゃないはずなんだがなぁ……ロキファミリアの資金事情を知ったらヘスティア様が憤死しそうだ。

 

「それに、ヴェルフ君もミコト君も、せっかくボクの派閥(ファミリア)を選んでくれたんだぜ? 来て良かったと思って欲しいじゃないか」

「その気持ちはわかりますが……」

「私的には増援として来てくれたイリスさんやディンケさん達にはもう少し何かあっても良かったと思うんですけどねぇ」

 

 リリがぎょっとした表情で此方を見た。

 

「まだ何か作るおつもりなのですか!?」

「いや、だって命懸けで私達の為に戦争遊戯に参加してくれたわけだし、報いたいじゃない? それに、リリも何か欲しい設備があれば言って欲しかったんだけど」

「むぅ……ミリア様は……はぁ」

 

 なんで溜息吐かれるんですかね。いや、だって命懸けで助けてくれたんだよ? 命を賭した行為に報いるのならどれほど金を積み上げても足りないと思うし、リリだって危険な橋を渡ってくれたのだから、何か恩返しがしたいって思うじゃん?

 

「リリは今までの恩を返す積りでですね……」

 

 恩と言われてもねぇ。そこまで大したことはした覚えは無いんだがね。

 

「……はぁぁぁぁ」

「ミリア君らしいねぇ」

 

 そんな深い溜息吐かなくても良いじゃん。それと、俺らしいってのはどういう意味ですかねぇ……まあ、何となく察しは着くけど。人から感謝されて恩返しされるっていうのは、むず痒いというか……まあ、なんだ。嫌だ。

 まるで恩返ししてくれる(そうなる)様に意図的に仕向けた様な感覚になってしまって気持ち悪くなるし。

 

「あはは、それにしてもこの屋敷広いですね。ヘスティア様」

 

 話題を変える為かベルが見取り図を見ながら呟く。

 

「管理するだけでも骨が折れそうです」

「前庭と裏庭もありますからねぇ。専属の庭師雇わないといけませんね、管理できる人が居ませんし」

「いっそ住み込みの家政婦(メイド)でも雇っちゃおうか」

 

 家政婦(メイド)か。

 元々が百人以上もの団員が生活していた屋敷であるため、主神含め十四人しかいないヘスティアファミリアには大きすぎるんだよなぁ。庭師も雇うとなるとかなりの出費になりそうだし、きついんだよなぁ。

 お金はあまり使いたく無いが、管理不届きで荒れ放題になれば派閥の名声が落ちるし。

 とはいえ竜種が屋敷内の竜舎に居る事を考えると、雇われてくれる人が居なさそうだし、逆に雇われて良いって言いだす人はとてもではないが信用できない。難しい問題だよなぁ。

 

家政婦(メイド)さんですかっ、良いですねっ」

 

 食い気味のベルの声にヘスティア様とリリ、俺の三人が同時に振り返った。

 後ろを歩いていたベルは締まりのない笑みを浮かべていた。何を想像しているのかが丸わかりというか、隠し切れていない。

 

「いや、やっぱ無しで」

「そうですね」

「ベル、家政婦(メイド)はそういった仕事はしないですよ?」

 

 普通に屋敷の管理維持を手伝ってもらうだけであり、『ご奉仕します』なんてエロ漫画じゃないんだから……。

 いや、現実で『ご奉仕』してくれるという家政婦(メイド)が居たら、そりゃただの色仕掛け(ハニートラップ)だろ。ベルは引っかかりそうで怖いなぁ……いっそ、イリスとサイアに色仕掛けしてもらって耐性つけるか?

 

「これ以上ベル君が目移りする対象を増やしてたまるもんか」

「今後はリリが厳しくチェックしていかないと」

 

 いや、流石にチェックはやり過ぎでしょ。ベルが誰に目移りしたとしてもそりゃベルの勝手だし、自らが目に留まる様に努力してだね……まあ、本当にやり過ぎだなって思った時はやんわりと止めるけど。

 

「ちなみにキミの部屋は主神権限でベル君から一番遠だからね」

「ナァッ!? そんなの横暴です!!」

 

 あー、ヘスティア様。流石にそれはやり過ぎ……いや、まあ男女の部屋が近いとトラブルの原因だし、男女で階層分けぐらいはした方が良いけどもがね。

 きゃぴきゃぴ騒ぎ出した二人を見て肩を竦めていると、ベルが何かに気付いたのか首を傾げだした。

 

「どうしました?」

「いや、なんか聞き覚えのある声が……こっちからかな」

 

 言い争うヘスティア様とリリを他所にベルが歩み出す。まあ二人は放っておいて大丈夫か。

 屋敷の外周を回って裏庭に向かう途中、ベルの指摘通りに聞き覚えのある女性の声が僅かに響いていた。

 

『このっ……いい加減にっ……』

『い~や~っ……!』

 

 この声は、元アポロンの眷属だった二人か?

 敷地の外、沿道で言い争い……いや、なんか一人が鉄柵に抱き着き、もう一人が引き剥がそうとしている光景があった。

 元アポロンの眷属、カサンドラ・イリオンとダフネ・ラウロスの二人だ。お前ら何してんの?

 前者は駄々をこねる子供の様に半分泣き散らし、後者は苛立ちを隠せない様に怒っている。

 

「はぁ……【ピストル・マジック】【リロード】」

「ま、待ってミリアっ、いきなりは不味いよっ」

 

 魔法を詠唱して指先(銃口)を彼女らに向けようとしたらベルが割り込んだ。序に俺の放った攻撃性の魔力の余波に気付いたのか鉄柵の向こう側で騒いでいた二人が動きを止めた。

 

「【リトル・ルーキー】に【魔銃使い】っ」

「ま、待ってこれには事情がっ」

 

 事情? 既にヘスティアファミリアの所有物になった屋敷の鉄柵にへばりついて泣き散らすのと、それを引っぺがそうとする奴。何がしたいのかわからんけど元敵だし追っ払ってええんちゃう?

 

「何をしていたんですか?」

「はぁ、見ればわかるでしょ?」

 

 深い溜息を吐きながら肩を竦めるダフネ。先ほどまでの光景を思い出しつつ、カサンドラを見て頷く。

 

「カサンドラさんが殴り込み(カチコミ)を計画して、ダフネさんがそれを止めてるとか?」

「ちっ、違うよぅ」

「…………いや、流石にそんな命知らずな事はしないよ」

 

 必死に両手を振って否定するカサンドラと、冷や汗を流しながら両手を上げるダフネ。何がしたいのかさっぱりですわ。

 

「【リトル・ルーキー】はわかるだろう?」

「…………いえ、全然」

 

 ベルが困惑した様に答えると、ダフネがまたしても溜息を零した。

 

「ほら、帰るよカサンドラ」

「でもぉ……」

 

 涙目で粘るカサンドラにそれを窘めるダフネ。両極端な性格なのに良く付き合ってられるなぁ、むしろ両極端だからこそ付き合ってられるのか。

 何がしたいのかわからずにこっちが溜息を吐きたくなる。

 

「あの……その……」

 

 ベルが戸惑い声をかけようとし、結局何も言えずに黙り込んだ。

 屋敷を奪った事を負い目に感じているのかもしれないが、最初に戦争遊戯(ウォーゲーム)吹っ掛けてきたのは相手なんだし気にしなくていいと思うんだがね。まあ、ベルは優しいし仕方ないか。

 

「ベル、勝ったのは私達ですし、最初に仕掛けてきたのは向こうですよ。そんな気に負う必要もありません。むしろ何してんださっさと失せろって言っても無問題ですし」

「……まあ、【魔銃使い】の言う通り。勝ったのは君達なんだし、後ろめたく思う必要はないよ」

 

 むしろ『失せろ』とこの子に言ってくれないかな。とダフネが若干疲れた様にカサンドラを指し示す。

 そこまで言われても負い目を捨てきれないのかベルが迷っていると、ダフネが続ける。

 

「むしろ感謝してるって。私もカサンドラも強引に入団させられたようなものだったから。むしろこうなって良かったと思ってるよ……まあ、流石に死にかけたのは怖かったけどね」

 

 ちらりと視線を向けられるが無視。死にかけた云々言われても困るんだわ。

 こちとら片目と片腕を奪われてた訳だし、容赦なく街中で襲撃してきた奴らに気を遣う余裕なんて無かったし。

 柔らかく笑いながらダフネが冗談を零し、ようやくベルも踏ん切りがついたのか口を開いた。

 

「それで、えーと、今は何を……?」

 

 ようやく本題を問えば、ダフネがカサンドラに呆れの視線を向けて説明しはじめた。

 

「この子がね、今まで使っていた枕を無くしたらしいのよ」

「枕?」

 

 はい? 枕? たかが枕一つの為に死にかけるぐらいの猛攻撃しかけてきた派閥に奪われた屋敷まで出張ってきて騒いでた訳? なんというか、見た目的に気弱そうなのにやってる事、肝が座り過ぎじゃない?

 

「新しいの買えば良いのでは?」

「私もそう言ったんだけどね」

「あ、あの枕じゃないとダメなのぉ~。あれがないと、私、寝付けなくて……」

 

 涙目と涙声で訴えてくる彼女の様子にベルが同情した様に眉を下げた。

 いや、言っちゃ悪いけどこの子相当アホな事してない?

 

「屋敷に忘れ物……全部運び出したはずなんですけど」

 

 武装と資金は取り上げたけど、衣類とかは返却したんだったかな。と言うか馬車に全部乗っけて外へ運び出したはずだし……枕、枕ねぇ……寝具の類も一度全部破棄……じゃない、馬車に乗せて運び出したはずなんだが。

 ベルの問いかけにカサンドラは鉄柵越しに顔を赤らめ、しりごみしながらも口を開いた。

 

「その、覚えてはいないんですけど……『予知夢(ゆめ)』でここにあるってお告げを……」

 

 ……………………はい?

 

「だからぁ! そんな馬鹿げた話を言うのを、止めなさいってば!!」

「お願いだから信じてよぅ~~~!」

 

 馬鹿らし過ぎて話になんねぇや。

 

「っていうか夢が見れるなら寝れてるじゃないですか。はあ……対応はベルに任せますね」

 

 くっだらね。女の子が困ってるからベルが何とかするだろ。もうなんかどうでもいいや。




 前回途中で熱が出たけど、今回は問題ナッシング。むしろ調子が良いまである。

 ミリアちゃんはカサンドラの『予知夢(ゆめ)』を『くっだらね』と切り捨てちゃいましたねぇ。一応、同じヘスティア様の恩恵を受けて『家族』になればその戯言にもちゃんと耳を貸して『仕方ないなぁ』と対応はしますが……違いますからねぇ。

 後、入団希望者が何人来るかですよねぇ……原作だと五十を超えてましたが……。

 本作だとぉ……ね? まあ、そうなるよねって感じ?
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