魔銃使いは迷宮を駆ける 作:魔法少女()
【ヘスティア・ファミリア】
閉じられた正面門前に集う神々がざわめく音が響く中、正面玄関を抜けて俺が姿を現す。
俺が処女か非処女か、娼婦に堕ちたか否かで騒がしくなっていた神々が一瞬黙り込み、熱狂した様に喚きだすのを見て一気に体力を持っていかれ、思わず逃げ出したくなるも後ろの玄関は固く閉じられており開きそうにない。
リリに正面玄関からほっぽり出されて本拠前に集まった神々をなんとかしろと言われたのだ。仕方がないので渋々と閉じられた門を少し開いて神々の前に出る。
「ミリアちゃん今晩はどうするの!」「いくらぐらい!?」「三食首輪付きで!」
……首輪付きに拘ってる男神もしれっと混じってるなぁ。
意外な事にこういった事に目が無いと思っていた神ロキの姿は見えないが、それでも面倒な神々が集まっている事に変わりはない。
はぁ、面倒臭いなぁ。
「えー、まあ、そうですね。情報紙をみた神々が集まっているとは思いますが……質問があれば、三つだけお答えします。三つだけです、一人三つじゃなく、この場で三つだけお答えしましょう。返答後もこの場にとどまる様なら、焼きます。キューイに焼いてもらいます」
ざっくりと条件付けする。後、居続けられても困るので留まって喚く場合は焼く。キューイが。
脅し混じりに条件を付けると神々が一瞬で黙り込み、瞬時に輪陣形を作ってひそひそとやり取りを行い、代表して一人の男神が手を上げて口を開く。
手を上げるとか律義だなぁ。
「ミリアちゃんが非処女ってマジッ!?」
「私は処女です」
この体になってから男性とそういった性交等を一切行っていない。少なくとも俺の記憶の限りでは……気絶してる間に手を出されている可能性は否定できないが、そんなもん知るか。記憶にねぇんだからこの体は処女だ。
『処女……だとっ!』『嘘、じゃないッ!?』『えっ、でも経験済みって』
驚愕の表情の神々が騒ぎ出す。経験済みの処女ってなんや、自分でも今までの発言振り返ると突っ込みどころに塗れているが、知らん。そもそも自分の貞操云々を気にして生きてきてないし。
貞操? ナニソレ美味いの? そんなもん気にするよりもっと気にする事あるじゃん。お金とか、お金とか……。
『も、もしかして……後ろの方でのプレイ専門?』『な……なん、だと……っ!!』『つまり、前は処女っ!』
…………あー、経験済みで処女。つまり後ろの方……肛門性交しかしてないって発想になるのか? 前世的にそれは洒落にならんのだが。
「初めての男は誰? そいつ吊るし上げるわ。ベルきゅん?」
まあ、確かに俺の付近に居る男で可能性が高そうなのはベルぐらいか。一つ屋根の下って条件だし……当然、違う訳だが。
「男性との経験は有りません」
男を抱いた事も、男に抱かれた事もない。どっちも未経験に決まってんだろ……いっそ転生の事を
俺の回答と同時に空気が凍り付き、神々が静まり返る。その静寂も神々の絶叫によって引き裂かれて直ぐに先の喧騒を取り戻した。
『男性経験無しぃっ!?』『えっ……ええっ!?』『つまり、同性専門の娼婦……?』
うわ、なんかすごく面倒な方向にすっ飛んでいった気がする。つか、そもそも娼婦になってないっての。
『しょ、娼婦堕ちって────』『今晩は何人客とる予定────』『ミリアたん俺だー結婚してくれー!』
一気に喋るな聞き分けるの面倒だやめろ。というか質問は最期の一つだっての。
爆発した様に騒ぐ神々を前に眉間を揉んでいると、男神達の間を抜けて数人の女神が姿を現す。見目麗しい女神たちだが、その目付きは周囲の男神と同じ様に揶揄う様な色が多分に含まれており、目が合っただけで体力を持っていかれた気分になる。
『男がダメ、ならば私とどう?』『今晩、暇なのよねぇ』
鉛の様に重たい溜息が肺から飛び出し、目の前の女神たちを見上げる羽目になる。彼女らの後ろの男神達が野次を飛ばし始め、女神たちと睨み合いに発展しはじめる。
お前らさぁ、ほんとに、暇なんだなぁ。暇してるんだろ? だからこんな面倒な……死ぬほど面倒な事に……。
「質問は最後の一つです。それに答えたら帰って貰いますので、さっさと質問をどうぞ」
語気を強めて神々を睨むと、『ミリアたんの睨み付け!』『ご褒美ですっ』等と一部の神々が興奮気味に騒ぎだした。逆効果じゃねぇか。
俺の睨み付け如きでご褒美とか、面倒くせぇ。
『ミリアたんの目から光が消えっ』『良いぞもっとやれー!』
…………。どんな反応しても神々が喜ぶだけじゃないか。面倒過ぎる、さっさと最後の質問しろよ。
眉間を揉みながら質問を待つ。一部の神々が額突き合わせて何を質問しようかと相談しているし、そこから質問が飛んでくる事だろう。特に身構えるでもなく神々の出方を待っていると、一人の女神が神々の中から歩み出てきた。
「昨日ぶり~。元気だった? 後、読んでくれたかしら」
「……ああ、あの記事ですか。どうも、おかげ様でこんな有様ですよ」
藍色の髪、清楚そうな服装。全体的に見れば清楚な雰囲気で『純潔の女神』と言われても納得しそうな容姿をしていながら、その目には悪戯っ子の様な色合いが宿っており、加えて口元はニヤニヤという擬音がぴったりな笑みが浮かべられていて全体像がやけに歪に歪んだ女神────真名不明の女神。『ダルトン』の主神である女神が其処に居た。
この惨状を生み出した
「喜んでもらえたようで何より」
「これが喜んでる様に見えるならば、今すぐ人々の感情を学ぶ為に天界に帰って千年間は地上を指くわえてみてた方が良いのでは?」
「あら、辛辣」
クスクスと見た目通りの控えめの微笑みを零すも、表情は揶揄いの色合いが強い。その容姿に対して浮かべられる笑みや仕草、そして口から飛び出す軽口の全てが不協和音の様に歪に交じり合って不快感がより一層増す。
狙ってやっているのか、それとも素なのか。清楚な女神なのか、揶揄い好きの女神なのか、とにかく尖った性格なのは間違いない。
「最後の質問は貴女ですか」
「うん、最後の質問ねー……」
真っ直ぐに此方を見下ろし、清楚な笑みを浮かべて藍色の髪の先を指で巻く仕草をしながら、その女神は他の神々を伺う様に流し見る。神々が黙り込み、促す様に目の前の女神を見つめ返し、ようやくその女神は質問を飛ばしてきた。
「男の子と女の子、どっちが好き?」
…………? 意味のわからん質問だな。好きか嫌いか、それは性的嗜好の話か?
「それはどういう意味で?」
「どういう、って言うと?」
「恋愛対象としてか、性的嗜好か、それとも純粋な好意を抱く相手としてか」
「ふぅん、じゃあ恋愛対象は男の子か女の子、どっちかしら?」
恋愛、対象……ねえ。全く興味がない。
男……ベルの事は好きだが、恋愛対象かと言われると首を傾げる。ヴェルフも好きだし、桜花も嫌いじゃない。ガネーシャ様は好きな方だし、ミアハ様やタケミカヅチ様も好意的な感情を抱いている。無論、フィンだって好意的な感情を抱いてはいるが、それは恋愛対象に向けるものと同一かと言われると首を傾げる代物だ。
ベルは家族としての好意、ガネーシャ様は尊敬を、ミアハ様やタケミカヅチ様は純粋にその在り方が好ましい。フィンに対しては、尊敬や好ましさが交じり合ったモノ。
女、ヘスティア様は敬愛すべき相手。リリは、嫌いではない。ミコトは生真面目で好ましい性格。千草は知り合い、他の女性達もほぼ似たり寄ったり。
特定の感情を抱く相手、というのは思い浮かばないし、今のところはどっちにも興味無し。
「興味がないですね」
「……それは、男の子にも女の子にも興味がないって事?」
「今のところは、好意を抱く相手はいても、それが恋愛感情とは言えませんので」
恋愛、と言われても……人を騙す小道具の一つとして利用した事はあれど、よく恋愛小説等に描かれる様な情熱的な恋などとは無縁の生活を送っていたので、知らないし、わからない。
「そっかぁ……そっか~、ふぅん。オッケー!」
「……何がオッケーなのかわかりませんが。直ぐに立ち退いてもらえるとありがたいですね」
「うんうん、良いよー」
呑気そうに手をひらひらと振って藍色の髪の女神が踵を返すと、神々が蜘蛛の子を散らす様に散開して、瞬く間に本拠の前に居た神々の姿が消える。
まるで最初からそうであったかのように、立ち尽くす俺の周囲は静寂に満たされ、先ほどの問答が無かったかのような錯覚に陥りかける。しかし、耳を澄ますと、遠くの方で神々が『最新の
「まあ、神々が散ったので、よしっ」
「何が『よしっ』ですかっ!!」
ベシッと後頭部に衝撃。後ろを振り返るとリリが顔を真っ赤にして怒っている姿があった。
「あの女神に余計な事を言うとどうなるか既に経験済みだというのに、どうしてそんなに無防備に答えたのですかっ」
「……どうもこうも、嘘は吐けないし、吐いても碌な事にならないのは一緒でしょう?」
どっちにしろ面白おかしく捻じ曲げた
何せ、
「もういいわ、流石にしつこいようならその時は対処するわよ」
「対処って、何を────」
「そりゃぁ、面白そうな話題提供よ」
「…………?」
まあ、常套手段というか、
密かに作っておいた
やり方はいたって質素。そこらにある裏取引してる企業のいくつかの情報をこっそりとその出版社に流してやり、
発行したのを確認したら、暴かれて焦ってる企業に『仕事人』の伝手を貸し与える訳だ。
こっち風に言うなら、商会の黒い部分の噂を出版社に
裏で密かに闇派閥と取引してた商会なんかは慌ててその噂を揉み消そうとするだろう。何なら『同じように闇派閥と取引してたけど、このまま情報流れると問題になるから、金は用意してやるからそっちで潰してくれ』と商会に潰させればいい。
んで、最後に利用した商会の黒い部分をギルドに全部
俺の手が入ってる事を悟らせなければ『商会が後ろ暗い事を暴かれて慌てて証拠隠滅して出版社を潰したけど、隠滅しきれずにギルドに尻尾掴まれて壊滅しちゃいました』という
「無論、信用できて口の堅い情報屋の伝手があれば……リリが協力してくれれば確実なのよねぇ。ほら、変身魔法で化ければ
「…………」
んむ? どうしたリリ、なんか苦虫を噛み潰した様な表情なんか浮かべて。
「いえ、ミリア様がとんでもなく真っ黒な性格だってのをようやくリリも理解できましたよ」
「…………実行なんてしないわよ?」
お金勿体無いし?
「
「相手がやり過ぎた時だけよ」
そもそも
…………あの女神の手の届かない範囲の情報屋を探すべきか。
『ダルトン』は確実にアウト。マイヤーズの方は、単独の情報屋のはずだが裏で繋がってるか? 一応、マイヤーズについてももう一度洗うか。他の情報屋も動きに注意しておかないと不味いだろうな。面倒極まりないが、やっておかないと後で後悔しそうだ。
西の空が茜色に染まる夕焼け時。
俺はリリとヴェルフを伴い集合場所に向かった。場所は、言い方は悪いがだいぶみすぼらしい書店だ。
店舗前には既にヘスティア様やベル、ミコトが集まっていた。皆で合流し、その店に入る。
「やぁ、おじいさん! 約束通り、手伝いに来たよ!」
「あぁ、ヘスティアちゃん。本当に来てくれたんだね」
ヘスティア様は元々、今日はこの店の手伝いに来る約束をしていたらしい。
朝の内に言いつけられており、皆で集合してくる段取りになっていたのだ。
「すっかり有名になっちゃって、儂は驚いとるよ。口だけじゃなかったんだなぁ」
「フフン、まぁね。ボクの勧誘を断ったことを後悔しても遅いんだぜ?」
「はっはっはっ、こりゃ確かに惜しい事をしたかな!」
ヘスティア様と親し気に会話しているのは、この店の店主。老齢で短い白髭が特徴的なヒューマンの男性。
ベルが
続く様に俺の方に視線を向け、目尻を下げて優し気な笑みを浮かべると「初めまして」と声をかけてくる。
「お初にお目にかかります。ヘスティア様の眷属、ミリア・ノースリスです」
「可愛らしいお嬢さんだ」
快活に笑う彼に丁重に頭を下げる。
他の面々も軽く挨拶を交わす中、ヘスティア様は「今は居ないけど他にもボクの眷属が居るんだぞー」と自慢げに胸を張り店主に主張しては談笑を繰り返す。
「よし、じゃあみんな、朝説明した通り、このお店の蔵書整理を手伝ってくれ。これも奉仕の一環だと思ってさ、頼むよ」
ヘスティア様の頼みとあらば、どんなお願いでも聞きましょう。そんな気分で返事を返し、蔵書整理を始めた。
団員総掛かりで本棚の移動や蔵書の片づけを行っていく。
一冊一冊の重量はさほどなくとも、数が集えばシャレにならない重さになる。加えて一部の本棚は劣化によって棚板が僅かに歪んでいるモノもあり、そういった棚板を新しいモノに取り換えたり等も平行して行う。
そんなさ中、ベルが上の空のまま作業を進めているのをみつけた。顔を赤くしては顔を振って、何かを思い悩んでいる事が伺える。
多分、春姫の事を考えているのだろう。悶々とした気持ちになるのはわかるし、悩んでいる事自体、嬉しくないと言えば嘘になるが、嬉しいと言っても嘘になる。出来るならば春姫の事は考える事も無く忘れて欲しいが……我が心ながら、ままならないモノだな。
多分、傍から見たら俺もベル同様に思い悩んでる様に見えるのだろう。
溜息を飲み込んで一階の書庫に足を踏み入れると、ヴェルフ、リリ、ミコトが木箱に本を詰めたり、本棚の蔵書を並び替えたりしている姿があった。
ヘスティア様は店主と別の部屋で作業を行っているのだろう。後に続いてベルが入ってきて蔵書を置いた所でベルがミコトの背に声をかけた。
「……あの、ミコトさん」
「どうかしましたか、ベル殿?」
ヴェルフやリリ、俺も気になって作業の手を止めて二人のやり取りに聞き耳を立てる。
「春姫さんっていう
「どっ────どこでその名前をっ!?」
身を乗り出して大きな反応を返すミコトに視線を向けながら、やはりかと内心溜息を零す。
リリとヴェルフが俺に視線を向け、事情を聞きたげにしているが、そうしている間にもベルが春姫の事をミコトに伝えていく。ベルの話が進めば進む程、どうしてもっと早くに言わなかったとリリとヴェルフが眉間を皺に寄せてこっちに視線を向けてくるが、俺は何ともいえない。
関わるべきじゃない。それを知っているから、黙っていたのだ。
ミコトが表情を歪めて胸の前で拳をぎゅっと握り締め、呟く様に問いかけてくる。
「ミリア殿も、知っていたのですか……」
「知ってたし、黙ってた」
「なんの、はなし?」
僅かに視線を此方に向けたミコトが、なんとも言えない表情を浮かべて呟く。
猜疑心に満ちているのだろう。けれど、俺はこの件に関して口を開く事はしたくない。
ミコトは裏切られたと感じるだろうか。春姫という名の
不思議そうにベルが俺とミコトを交互に見る中、ミコトが悔し気に表情を歪めると俯いた。
「ミコト、私は謝罪できない。それだけは言っておくわ」
派閥の事を思えば、関わるべきではない。けれど、個人的には助けてあげたい。
「私、ヘスティア様の手伝いにいってきますね」
嫌われただろうか。それは、少し嫌だな。
書庫の扉が軋み、閉じる音が響いた。
これ以上の会話を拒絶する様に小人族の少女が書庫を出て行き、空気が重くなる。
ヴェルフが眉間を揉み、リリが溜息を零す。ミコトは困った様に笑っている様な、複雑な表情を浮かべて黙り込む。
「……もしか、して……ミリアは知ってたんですか?」
つい昨日、歓楽街で
その後ベルと行動を共にしていた彼女は、それ以前にミコトから春姫に関する話を聞いていた。だからこそ、春姫と出会ったあの場でその話を出さなかった事、一切触れなかった事に僅かながらにベルが驚く。
「ベル殿、勘違いしてはいけません。ミリア殿は悪く無い」
「でも、知ってたのなら……教えてくれても」
良かったんじゃないか。そう口にしかけて少年は口を閉ざした。
ミリアと言う少女について少し考えれば、すぐにでも理解できる。話さないのは嫌がらせでもなんでもなく、話す事そのものが
「その、もしよかったら……春姫さんについて、教えてくれませんか?」
話題を逸らす様にベルが問いを投げかけ、ミコトがゆっくりと語りだす。
【タケミカヅチ・ファミリア】の眷属達。桜花や千草、所属する者達全員が孤児である事。それは
様々な理由で
日に日に増える孤児に対し、収入は微々たるもの。そんな決壊寸前の生活は、やはりというべきか限界を迎えてしまう。
子供達の家を支えていた善良な神々と話し合い。年長者で戦える者達を連れて
莫大な富が眠るこの迷宮都市で金を稼ぎ、世話になった神社に仕送りをする為。
そんなミコト達が春姫と出会ったのは
彼女達が暮らす社があった山の麓、そこに春姫が暮らす屋敷はあった。
高貴な身分故に屋敷の中で蝶よ花よと愛でられ育てられている春姫を見て、
とてもあくどい顔で、子供のような笑みで告げられたミコト達は、その
武神によって幼い頃から鍛えられていたミコト達は、屋敷の警邏をものともせずに忍び込み、密かに春姫を連れ出しては裏山で遊んでいた。
当然、子供のやる詰めの甘い潜入は露呈する事もあり、春姫の父は烈火の如く怒る事もあったが、そのたびにタケミカヅチが土下座をしてでも許しをえていた為、問題にはならなかった。
幾度となく交流を重ね、友愛を育むそんな生活も────唐突に終わりを告げた。
その後、あらゆる手を尽くし────孤児で貧困の彼女らにできる事はほぼ無いに等しかったが────結局、春姫は行方知れずとなった。
「桜花達と比べれば、あの方と過ごした時間は短いものです……ですが、確かに自分たちは、友と、知己と呼べる間柄でした」
言葉の端々に春姫への想いと、悔悟を滲ませ、ミコトは語り終える。
話を聞き終え、書庫に静寂が満ちた。
「わかっていると思いますが」
広い書庫に満ちた静寂を破ったのは、リリルカであった。
腕を組み本棚に凭れ掛かるヴェルフの隣で、前置きをしてから言葉を続ける。
「その
弾かれた様に顔を上げるベルと、強く拳を握り締めてうつむいたミコト。二人とは対照的にリリは冷静な表情で淡々と告げた。
「当然です。
リリが放った手痛い正論にベルが面食らう。
「
ミリアの『クラスチェンジ』と言う例外はあるが、それを除いても【ヘスティア・ファミリア】が持ち得る戦力、能力は
名声を得た彼らは、その分他の派閥に詮索される事になっていた。
街の人からちやほやされ少なからず浮かれていたベルは、面食らって言葉を失う。
「更に、今の【ヘスティア・ファミリア】は非常に危うい立場に居るのです。ベル様はそれを理解していますか?」
「あや、うい?」
「そうです。ミリア様が【
全ての派閥がミリアの、ひいては【ヘスティア・ファミリア】の動向を伺っていると言っていい。
もし隙を見せれば、そこに付け込まれて妙な契約を結ばされかねない。
「そもそも、【イシュタル・ファミリア】と【アポロン・ファミリア】は次元が異なる相手。団員を誘拐して対立するなどもっての他です」
「で、でも【ロキ・ファミリア】とか【ガネーシャ・ファミリア】は助けてくれるんじゃ────」
「無理です」
ベルが必死に考えて咄嗟に放った反論は、リリの一括で封じられる。
「ベル様、都市有数の派閥が補助してくれるのは、あくまで【ヘスティア・ファミリア】が被害者の時だけです。加害者となれば話は変わります」
都市有数の派閥である【ロキ・ファミリア】は数多の神々から疎まれており、妙な隙を見せれば袋叩きにされる事間違いなし。突飛な理由────他派閥の眷属を誘拐し、攻勢に出て殲滅する等と言う真似は出来ない。
【ガネーシャ・ファミリア】は都市の秩序と安寧を守る派閥と言っていい。そんな彼らもまた、自ら秩序、安寧を乱す抗争の片棒を担ぐ等出来る筈もない。
故に、彼らの協力は仰げない。全く以て正論であるリリの言葉にベルが凍り付く。
「他派閥の助力を得る事は出来ません。むしろ【イシュタル・ファミリア】側に付いて【ヘスティア・ファミリア】の殲滅を行い、利益を得ようとするでしょう」
加害者、仕掛ける側となれば【ヘスティア・ファミリア】が悪となる。そうなれば絶好の機会と言わんばかりに利益を求める派閥が次々に攻めてくるだろう。そうなれば、勝ち目云々の話ではなくなる。
リリが放つ至極真っ当な意見。反論の余地のない彼女の言葉に、ベルが口の開閉を繰り返し、ミコトが完全に黙り込む。
「
リリルカは底冷えする程に容赦無く、反論を一切許さない真っ当な正論を以てベルを黙らせた。
完全に凍り付いた空気を砕き壊す様に、ヴェルフが口を開く。
「おい、一人で悪者にならなくてもいいぞ」
手にした本の背表紙で、凍り付く様な空気を生み出していたリリの頭を小突く。
一瞬呆気に取られていたリリは、すぐに頭を小突いてくる本を払い除けた。
「わ、悪者なんてっ!」
顔を真っ赤にして声を荒げるリリに、緊張が解けたベルは遅れて気付いた。
小柄の少女は【ファミリア】の為、
赤らめた顔を背けるリリの隣で、ヴェルフはみんなをまとめる長兄の様に笑った。
「【ファミリア】の一員としては、俺もリリスケの言い分に賛成だ。派閥を危険に晒せない。それにミリアも同じだろうな、だから黙ってたんだろうしな」
皆の顔を見回し、ヴェルフは言葉を続ける。
「だが、お前達が何かしたいって言うなら、俺は手伝ってやる。最後まで付き合ってやるさ」
ベルやミコトの意思を汲む。そう宣言して笑みを浮かべるヴェルフに対し、二人は何も言えずに口を閉ざす。
「こらぁー!? サボるなぁーっ! 終わらせないと今日中に帰れないぞー!」
様子を見に来た主神に怒鳴られ、彼らは慌ただしく作業を再開していく。
手分けして作業する様に主神から指示を受けたベルは、一人古い木と、紙の香りが漂う二階に足を運んだ。
ベルが入団の儀を行った、始まりの部屋。
四方を埋める本棚だけでなく、床に積まれた書物の山。窓から暮れなずむ空の赤色が部屋を染めている。
僅かながらの感慨深さを覚えながらも作業を開始したベルは、ふと一冊の本を手に取り、開いた。
古び、黄ばんだ頁を捲る音が響き、その英雄譚にある挿絵の一つに辿り付き、手を止めた。
────主人公である英雄が、娼婦の女性の求愛、懇願を切って捨てる
『娼婦は破滅の象徴です』
春姫が放った言葉、それらを肯定するかのように、容赦のない糾弾がその英雄譚に綴られている。
ベルが抱いたのは、無力感とやるせなさ。自問自答を繰り返す中、少年は絞り出す様に「でも」と繰り返す。
────出会わなければよかった。そんな風に思いたくない。出会いはきっと、特別なものだから。
過去の記憶の中に居る祖父の言葉。先ほどのヴェルフ達とのやり取りを思い浮かべ、ベルは口を引き結ぶ。
真っ先に、逃げる様に書庫を後にした少女が、春姫の件を黙っていた理由。派閥、組織、立場、抱いた願望、そして責任。様々な
答えを見つけ出せずにいるベルは、おもむろに黄昏に染まる窓の外を見つめる。
少年が向けた視線の先には、真っ赤に染まる夕陽が浮かんでいた。
性交経験有り。
処女。
男性とは経験無し。
恋愛対象不明。
…………。
クールで、腹黒で、身内に甘くて、なんでもかんでも背負い込んで、優秀で……。
んで、ヤンデレ気質あり()
属性過多の闇鍋状態なオリ主ですな!(目反らし)
本編とは無関係ですが、コラボ小説の方投稿してました……えっと、4/28と5/24に。
すいません、本編でテンション上がりまくってて告知忘れです。ごめんなさい。
『ソード・アート・レジェンド』
『にゃはっふー』様とのコラボ。
原作が『ソード・アート・オンライン』と初のダンまち以外とのコラボで少しまごついてしまった感じはあると思います。
アニメ一期、二期と『フェイタルバレット』しか触ってないですしねぇ。
『ホロウフラグメント』もFBの予約特典で貰ってたけど起動どころかインストールすらしてないし(白目)
『ベル・クラネルの兄が医療系ファミリアにいるのは(性格的に)間違っている!』
『超高校級の切望』様とのコラボです。
コラボ申請から承諾、書き始めが全て含め4~5時間で完成。
しかも同日に投稿した本編執筆と同時進行でやってて……我ながらよく書けたなぁ。
すごく楽しかったです(小並感)
コラボの方はいつでも募集してますのでー。
したい方は『魔銃使いは異界の夢を見る』のあらすじに記載されてるTwitterの方へDMにてお願いしします。