魔銃使いは迷宮を駆ける   作:魔法少女()

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第十五話

 怪しい、何が? 簡単だろう。

 

 相手に対して譲歩する様な交渉をする様な奴に碌な奴はいない。

 

 ベルやヘスティア様なんかは、わかりやす過ぎるぐらいに真っ直ぐだから疑うのも馬鹿らしい。アレで演技でしたーなんて言われた日には俺は首を吊っても良い。

 

 ともかく、俺を保護してくれたらしいオラリオ最大派閥の【ロキ・ファミリア】の団長、フィン・ディムナと言う人物と話をしているが。

 

 コイツは何か裏がある。生前……いや、今も生きちゃ居るが。ミリアになる前、こんなやつは沢山見て来た。

 

 男も、女も、何かしらの目的を持ってる癖に妙に笑顔で相手に譲歩する様な交渉をする。

 

 そして、その譲歩にホイホイ乗ると大概碌でも無い目に遭う。

 

 フィン・ディムナ(コイツ)もそのタイプの人間だ。関わり合いにもなりたくないし、そもそも視界に納めるのも嫌だ。

 

 だからと言って、此方が相手を嫌っている事を察せられると何をされるかわからん。

 

 フィン・ディムナがどういった思惑で動いているのかすらわからない現状、下手に手を打てない。

 

 ……そもそも、最大派閥の片割れ【ロキ・ファミリア】の団長の立場に収まっている時点でやりたい放題出来るだろう。俺がどんな抵抗したって無駄か。

 

 

 

 

 

「ふむ。なるほど」

 

 目の前で柔らかな笑みを浮かべて此方の言い分を聞くフィン・ディムナ。

 

 怪し過ぎるからオマエ、良いか? 笑顔で交渉の席に着く奴は大抵腹に何か抱え持ってるんだぞ? 特に相手を安心させる笑みって言うのは真っ黒である。

 

 ここで一貫して至極真面目な雰囲気で真顔のまま対応してきたのであれば騙されかけただろう。

 

 どの道、このフィン・ディムナと言う人物は腹に何か抱えてやがる。変に付き合うのも馬鹿らしいし、そんな事に巻き込まないで欲しい。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()途中で掌返す事も厭わんぞ俺は……()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「はい、私自身、マインドダウンしていた様子で当時の事をよく思い出せないんです」

 

 質問の内容はシンプル。何があったのか?

 一匹目のミノタウロスが侵入してから優に20分間、駆け出しがどうやって逃げ回ったのか?

 最後にフィンが発見した際にミノタウロスは顔面を……正確には目を中心に鼻の辺りにまで負傷が見られた。

 少なくとも視力を奪われて暴れ狂っていたのだが、何をしたのか?

 そこら辺の質問に普通に答える。

 

 そも、覚えちゃ居ない。ベルはどうなった?

 

「此方からも質問よろしいですか?」

「ん? 気になる事があるなら聞いてくれ」

 

 やっぱコイツの笑み不自然だよな。

 

「白髪、赤目の少年……私の仲間を見ませんでしたか?」

 

 一瞬だが、フィンの眉がピクリと動いた。なんだ? もしかして()()()()()()()()()()()

 

 よもや、ベルに何かあったのだとしたら……レベル6ってどうやったら殺せるんだ?

 

「白髪……赤目……少年……確認していないかな。団員からの報告も上がっていない。君が倒れていたのは六階層に通じる階段の傍だったけれど、その後の周辺探索で冒険者の死体は見つからなかったよ」

 

 …………嘘の気配はしない。真面目な表情で思案している。欺瞞に長けてる可能性は否定できないが、今すぐどうこうする理由は無いか。一度帰ってヘスティア様にベルの無事を確認してからで十分か。

 

 ……ふむ、しかし六階層の傍で? 俺は上の階層に逃げなかったのか? ベルだけ逃がして俺は囮にでもなった可能性は高そうだが……なら、ベルは大丈夫なはずだが……。

 

「分りました」

「力になれなくてすまない」

 

 しっかしまぁこのフィン・ディムナって奴、考えてる事がさっぱりわからん。

 

 魔法とスキルの存在がバレてる? でも神の使う語言……えっと、この世界の普通の言語である共通語(コイネー)とは別に神様独自の言語……神聖文字(ヒエロクリフ)って奴で書かれてるから地上の子供ではまず読めないって話だが……

 

 いや、待て、このファミリアにも主神が居るだろ。ソイツに背中見られてたらアウトじゃねぇかっ!?

 

「……すいません、もう一つ質問なのですが。【ロキ・ファミリア】の主神は……」

 

 その質問をした途端、フィン・ディムナの雰囲気が少し揺らいだ。

 

 なんだ、その反応……。

 

「ロキは今は帰ってきた団員にじゃれついていてね。久々に会った眷属(こども)といちゃつくんやーって言っていてね……こんな状況だから、出来ればロキにも会って欲しかったんだけど……」

 

 困った様な笑みを浮かべて本心かららしい溜息を零したフィン・ディムナの様子を見て察した。

 

 あぁ、神話通りに奔放で好き勝手動く神なのか……

 と言う事は気絶中に背中を見られてステイタスを読み取られた可能性は低そうだな。

 

 神様ってのは眷属(こども)の珍しい魔法やスキルを希少(レア)等と呼んで収集したがるらしいし。俺の魔法は『ミリカン』関連でレアっちゃレアだし、見られてたら迷わず狙ってくるだろう。

 

 と言うかロキは策謀に長けた神。天界のトリックスターなんて呼ばれるヤベェのだぞ?

 天才的だとか天賦の才だとか言われた神童とか謳われてた俺も所詮は人間。神になんて勝てる訳無い。

 要するに狙われたらアウトじゃねぇか……絶対この【ロキ・ファミリア】とはお近づきになりたくない。

 

「そうなのですか」

「あぁ、所でさっきの少年は……君の恋人とかかい?」

 

 悪戯っぽい笑みの質問に思わず首を傾げる。何言ってんだコイツ……場を和らげようとでもしてんのかね。

 

「いいえ、違いますが……まぁ、好意を抱いている人と言う意味では間違いないですよ」

 

 純粋に此方に接してくるベルは、身構える必要も無い貴重な人間だ。ヘスティア様も同じく腹の内に何か抱えて此方に接して来る事が無い。前世では絶対に出会う事の無かった人達……。

 もしそんな純粋な人間に出会っていたら……絶対に考えたくも無い事をしていただろう。丁度騙しやすそうだしーって……反吐が出る様な屑だな。何でこんな所に居るんだか。

 

「なるほど……」

 

 考え込む様な仕草をしているフィン。

 

 和ませる為の質問じゃなくて探りの質問? …………なぁ、もしかしてオマエミリアちゃん()に惚れてんの?

 まあ、無いか。こんだけ美少年で通る上に実力も有る。そして演技も相当上手いと来ればどんな女もいちころだ。要するにあえてミリアちゃんを狙う意味も無いだろ。

 もっと綺麗所を、其れこそ日替わりで違う女を抱けるぐらいの地位だろあんた……。

 

「ところで、そろそろ話を切り上げても良いですかね。仲間の安否が気になりますし」

 

 と言っても、10分も経っちゃいないがな。

 ぶっちゃけ直ぐにでもこのフィン・ディムナから離れたい。何より鏡見てるみたいで気持ち悪い。

 

「ふむ、そうか。確かにこのまま長居させるのも申し訳ないからね。次来るのは三日後で良かったかな?」

「はい、明日すぐにと言うのもアレですし。其方も遠征等の処理も有る事でしょうし」

「それはありがたい。三日後には謝罪金なんかもしっかり用意しておく。それじゃあ、出口まで案内するよ」

 

 ……普通に解放するのか。と言うか俺の所属ファミリアとか教えて無いが……いや、ぶっちゃけ【ロキ・ファミリア】って時点で主神ロキだろ? 多分ウチの主神が『ロキめ……』とか悪態ついてたし、不仲なファミリアだろうから黙ってたんだけど……。良いのか?

 

「ああ、そうだ。これを渡しておくよ」

 

 思い出したかのように渡されたのはハンカチ……えっと、笑う道化の文様の浮かんだ……おい。【ロキ・ファミリア】のエンブレムだろこれ。

 

「次、訪ねて来たときはこれを門番に見せて僕に用事があるって伝えればすぐに案内するから」

 

 …………あっ、察しがついたと言うか。こいつアレか。こっちが警戒してるの理解して踏み込むのやめたっぽいな。探る様な視線が揺らいでる。

 

 ……しまったな……相手に感情が読みとられてるのか? 表面上を取り繕うのはそこそこ自信があったんだが……。

 

 

 

 

 

 本当に普通に見送られそうである。キューイの事に突っ込む訳でも無し。脅す訳でも無し。ただ客人を送り出すかの様に【ロキ・ファミリア】の門番も槍の石突を石畳に突いて敬礼してるし……。

 

「それじゃあまた三日後に」

「はい、助けて頂いてありがとうございました」

 

 もう一度言うぞ? 団長直々に見送りとかオマエんとこ頭大丈夫か?

 こっちは一介の駆け出しファミリアの、駆け出し冒険者だぞ?

 オラリオで最大派閥の片割れである【ロキ・ファミリア】の団長様が、だぞ?

 わざわざ見送りに?

 

 絶対なんかあるだろ。できればもう二度と関わりたくない……でも数百万ヴァリスあれば教会の修理できるしなぁ……うぅむ……金か……罠か……うぅん……。

 

 とりあえず振り向かずに歩いていく。背中にすっげぇー視線感じるけど、ヤメロォー……と言うかここは何処……とりあえずバベル方面へー……いや、大通りに出るか。

 

 

 

 

 

 二週間の間、少しエイナさんとオラリオの地理についても学んだ成果だろうか。なんとか大通りに出られた。ダイダロス通りとか言う頭のおかしい迷路的なヤバイ所があるらしいので近づきたくない。

 

 と言うかダイダロス通りって……地下迷宮ってお前が作ったんじゃ……ミーノータウロスとかダイダロスが関係してなかったか? 気の所為か……?

 

 まさか迷宮は神様が娯楽の為に作りましたー……なんて事は無いな。どうにも神様が天界とやらから降りてくる以前からあったっぽいし。

 

 神の恩恵無しに迷宮に潜る冒険者も居たらしいからなぁ……恩恵無しとか信じられんぞ。ぶっちゃけ恩恵がでか過ぎて無い時の事とか考えられんしな。身体能力向上もそうだが、精神面の強化もあるっぽいしマジ便利。

 

「キュイ」

 

 ふむ? 袋のキューイがベルの感じがするって……ベル? 何処だ……と言うか気が付いたら冒険者ギルドまできてんじゃねぇか……考え事し過ぎたか。

 

 【ロキ・ファミリア】の本拠(ホーム)『黄昏の館』は北のメインストリートにあり。『万神殿(パンテオン)』通称『冒険者ギルド』があるのが北西のメインストリート。

 

 と言うか道に迷ってんじゃネェか……冒険者通りだろここ…………まぁ良いか。エイナさんの所に顔出して……ってそろそろ日暮れ時か。夕焼けが綺麗に街並みを染め上げて……って、5時間も意識失ってた割に……。

 

 まぁ、一二階層ガン無視で三階層に潜って……一時間程度で四階層にって……新米がやる事じゃなかったな。稼ぎも今日は最悪だろうし……。魔石関連は全部ベルが預かってたからアレだが……。

 

 …………荷物持ち、俺がやった方が良いかねぇ……女の子だからとか言ってベルは大分気を使ってくれてるし。

 

 いつも通りのオラリオの風景、と言ってもまだ慣れない。

 

 猫耳、犬耳等の獣人や、長耳のエルフ。背は低くとも大柄なドワーフはまだRPG系のVRゲームでお馴染みと言えばお馴染みなのであまり気にならないが、大分薄着と言うか肌を晒す踊り子を彷彿とさせる褐色の美女美少女が普通に街中を歩く光景は余り見慣れない。

 前に何処かのファミリアの眷属かと思っていたが、どうやらアレはアマゾネスとか言う種族らしく。種族総じて羞恥心が無い……少ない? らしく。女性しかいない種族らしい。

 

 戦場で強い男見つけたらその場で逆レかます事もあるらしい。なんてうらや――恐ろしい種族なんだ。

 

 と言うか、どの種族とも子供が残せて、生れるのは女の子のみって……割と種族特徴ヤベェんじゃ……と思ったが。一人の男に固執するんじゃなくて、()()()にのみ固執して、弱いと判断されたら見向きもしない事が多いらしい。後は一夫多妻と言う訳ではないが、強い男を囲って……と言うか、種馬としてしか見ない上に、血の気が多いのか同種族同士の殺し合いとか日常茶飯事らしい。と言ってもオラリオに居るアマゾネスは其処までではない様子だが、血の気が多いのは変わらず。

 

 戦闘民族なのか……怖いわ。絶対関わり合いになりたくない。……【ロキ・ファミリア】に【怒蛇(ヨルムガンド)】と【大切断(アマゾン)】とか言う二つ名聞いただけでチビりそうなヤベェ感じのアマゾネスが居るらしいので、今回そいつらと出会わなくてマジでよかったわ。本当にな……はぁ……今度行く時、絶対出会わない事祈るか。

 

 と言うか、この世界ってもしかしなくてもエロゲの世界なんじゃ……だって、アマゾネスとかソッチ系大歓喜でしょ? ホラ、逆レ好きって多そうじゃん? 俺? 無いな。

 

 パルゥムも特殊な性癖には堪らんだろうが……そうなるとミリアちゃんの貞操もヤバイのか。まぁ、パルゥム自体オラリオでは目立たないしあんま居ない種族っぽいが。どうにも雑魚扱いが普通らしい。歩いてても微笑ましげに見られる場合が多いが、パルゥムの冒険者だと分ると途端に態度が急変する冒険者多いっぽいしなぁ……

 

 子供が頑張ってるのは微笑ましくとも、小人族が頑張ってるのは生意気なんだと。よく分んない倫理観である。

 

 そんな事を考えながら何気なく周囲を見回しながら冒険者ギルドに歩いていく。

 と言うかキューイ曰くベルが居るはずなんだが……何処に居るんだ?

 

 そんな風に周囲を見回していると、冒険者ギルドから嬉しそうにベルが駆けだしてきたのが見えた。

 

 あぁ、無事だったのか――――

 

「エイナさん大好きーっ!!」

 

 ……え?

 

 …………人が心配してたのに、肝心のベルくんはエイナさんとヨロシクやってた訳か…………。

 

 純情そうな顔してよくやるわ。まぁ、無事だったみたいだから良いか。


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