魔銃使いは迷宮を駆ける 作:魔法少女()
ベルはどうやら【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインに助けられたらしいんだが……。
俺自身は何があったのかうろ覚えだが、どうやらベルを逃がすために囮になったらしいが、俺がどうやってミノタウロスに一杯食わせたのかはワカンネ。
ベルは俺と別れた後、別のミノタウロスと出会ってしまい、恐怖のままに逃げ出したのは良いものの、がむしゃらに走り回ったせいで部屋の隅っこに追い詰められてしまい、恐怖から俺が囮になって逃げた事も頭から吹き飛んでもうダメだと諦めかけた時に件の【剣姫】が颯爽と現れてミノタウロスを細切れにしてしまったらしい。
その華麗な姿に心奪われたベル少年は、女性に対する免疫のなさと、ミノタウロスの血に濡れた自身の姿のあまりの情けなさに思わず逃げ出してしまったのだと言う。
その後、ダンジョンから出てバベルの地下一階で正気に戻り、周囲の冒険者に笑われているのに気がついたのと同時に俺の事を思い出して慌ててダンジョンに戻ろうとしたがミノタウロスの事を思い出して周囲の冒険者に五階層でミノタウロスに出会ったことを伝えて俺を助けて下さいと頭を下げて回ったらしい。
しかし、周囲の反応は芳しくなく自分達では無理だとそそくさとダンジョン探索予定を変更して逃げ出すものばかり。
助けに応えてくれる処か、俺が小人族の冒険者だと言うのを知ると「身の程知らずの糞生意気な小人族が死んだだけだろ」と笑われる始末。
もしかしたら【剣姫】が……なんて期待するも、俺の魔法の音はベルが最初に悲鳴を上げてから途絶えており生存は絶望的。
周囲の冒険者も「もう死んでるだろ、それ」と完全にベルを慰めるモードへ……
自棄になったベルは自身で俺を探そうとダンジョンに再度入ろうとするが、上層に危険なモンスターが出現したと言う事で【ガネーシャ・ファミリア】がダンジョンへの侵入制限を行うと入口で止められてしまった。
【ガネーシャ・ファミリア】行動早すぎだろ。
強引に突破しようと問答しているさ中にギルドから緊急で駆け付けたエイナさんに見つかり、エイナさんの説得の末ギルドへと足を運んで血塗れのままだったのでベルはシャワーを浴び、頭を冷やすことに。
んで、そっからベルが俺を置いて逃げてしまった事や、自身の掻いた恥なんてかなぐり捨ててでも【剣姫】に俺を助けてくれとお願いするべきじゃなかったのかと自分を責め立てたそうだが……。
結局、それなりに時間経った後に【ロキ・ファミリア】から今回のミノタウロスが上層に侵入した事件に関しての報告がギルドにあげられ、【ガネーシャ・ファミリア】の団員もダンジョンから引き揚げたそうだ。
んでその【ロキ・ファミリア】の報告の中に被害者は一人のみであること。その被害者の特徴が小人族で金髪、ぼろいローブ姿の少女であり……まあ、要するに俺を【ロキ・ファミリア】が保護し、治療を行っていると言う情報もあったためエイナさんがベルに伝えたと。
でもベル自身ももしかしたら別人かもしれないからと、自分でダンジョンに探しに行きたいとエイナさんにせがんだが、エイナさんが当時ダンジョンに潜っていた冒険者や、同じ金髪にぼろいローブ姿の小人族の冒険者が俺以外に居ない事等でベルを説得し、ベルも漸く納得。
……ベル君が多少なりとも情報を鵜呑みにしなくなったのは良いんだが。其れが原因で一人でダンジョンに潜ってたらちょっとアレだったな。エイナさんが居てマジ助かったわ。情報を疑う事を教えたの俺だけど余計な事したかな……。
迎えに行こうか、と言う段階になって【ロキ・ファミリア】の【剣姫】に助けられておきながら礼も言わずに逃げた事や血塗れで恥を掻いたを思い出して【ロキ・ファミリア】に尋ねに行き辛くどうしようかうじうじ悩み始めると……。
エイナさんがベル君を励まして……んで、エイナさんの励ましで漸く迎えに行く決意をしてギルドを飛び出したと。
血塗れの防具や衣類を洗浄してくれたりだとか、わざわざつきっきりで励ましてくれたりだとか、俺の情報をいち早く知らせてくれたりだとか…………エイナさんもしかしてベル君に気があるのか?
じゃなくて、そこら辺の事でエイナさんに感謝していたらしい。
俺もエイナさん大好きー。マジで、いやぁ、あの人やっぱ有能だわ。キューイとは大違い。林檎食いたいってうるさいもん。
……と言うか俺の所属ファミリア、割れてね? ギルドに保護した冒険者の情報問い合わせたろ、絶対。
だから所属ファミリアとか聞かなかったのか……。
「それで、ヴァレンシュタインさんが――――」
これで、何度目だろう。
俺の無事を喜んでくれたベル君だが、どうやら【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインと言う人物にほの字らしい。まぁ……どんな人物かは少ししか知らんが。
えっと、所属は【ロキ・ファミリア】。あのヤベェ奴らが集まってる所。
んで、二つ名は【剣姫】でレベルは5、年齢はベルの二つ上の16歳。
好きな物は『じゃが丸くん 小倉クリーム味 クリームましまし』で、趣味は『ダンジョンアタック』。
見た目は金髪の人形の様な美少女。最近は胸も大きくなってきたらしく少女らしさと女性らしさが同居する破壊力抜群の見た目をしているらしい。へぇ……。
後は6歳と言う若いなんてレベルじゃなくて幼い少女が一年と言う短い期間でランクアップし世界記録を残しているらしいんだが……。
失礼な話だが、噂に聞く限り人間の皮被った化け物かなんかだろ……。
その他色々と良い噂も悪い噂もある……。うぅん……ベル君は完全にほの字っぽいんだが……。
ヴァレンシュタインだったか? ソイツ【ロキ・ファミリア】なんだよなぁ……。
フィン・ディムナが嘘吐いてた? 可能性は高そうだが……助けた相手に逃げられてしまって話が出来なかった? 詰る所素性が不明だったから未報告? でも助けた事ぐらい一応報告するだろ。ホウレンソウは組織として重要だぞ。
どちらにせよ【ロキ・ファミリア】に所属しており、なおかつ高レベル冒険者と言う事で相応に地位もあったはずなんだが……報告を怠ったっぽいな。もしくはあの糞王子が嘘吐いたかだ。くっそやっぱ嫌いだわアイツ。
まぁ、良い。
問題はベルの方なんだが……所詮駆け出しの少年が、助けられた事に感謝し、かっこいい姿や可憐な姿に憧憬と恋心を抱いた。非常に解りやすい。
だが、問題はヴァレンシュタインの行動から読み取れるベルの印象だが……。
路傍の石ころ。そんな所か。
【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン
可憐な容姿、ヒューマン種の中では最高峰とも言える剣の実力、幼い頃から世界記録を数多塗り替えた超人……。
そんな人物だが、二つ名の【剣姫】には別名が存在する。
【剣鬼】アイズ・ヴァレンシュタイン
モンスター相手に容赦のない攻撃、その他の冒険者が居ても見向きもせずより強いモンスターを求めてダンジョンを徘徊し、モンスターの血に塗れたまま、眠りもせず、食事もとらず、やつれた姿を晒しながらもただ只管にモンスターを狩る鬼の様な剣士……。
要するに強さ以外に興味を示さない化け物の様な女、それがアイズ・ヴァレンシュタインと言う人物。
そんなアイズ・ヴァレンシュタインからすれば、ミノタウロスは必要だったから倒した程度の認識。
ベルは其処らに転がってた石ころ。報告の必要性も感じなければ、関わり合いになろうとも思わない雑多な背景。
そうでもなければ助けた相手のことを団長に報告しない訳がない。死んでないし良いかと思考の端っこにも引っ掛からなかった可能性もある。
詰る所、ベルはそもそも冒険者として認識されているかどうかすら怪しい。
……まぁ、全部推測だし。本人に会ってみたら意外と――なんて事があるかもだが。ぶっちゃけ今のほの字のベル君は……。
仕方ないか、エイナさんも助けてもらったのに逃げた所為で【剣姫】に会い辛いと言うベルに【剣姫】がどんな人物か教える際に恐ろしい噂は全部排除したっぽいしな。
当然、路傍の石ころ扱いされてるかも……なんてベルに教えた日にはベルは【ロキ・ファミリア】に絶対に近づけなくなるだろう。そうならない気遣いから悪い方の噂は全部カット……其れは其れでなぁ……。
綺麗な側面だけを見て、其処に惚れ込むのはヤバい。もしその【剣姫】と言う奴が本当に【剣鬼】であったのなら……ベルは酷く傷つくだろう。
そう言った姿は見たく無いんだが……恋心ってのはどうしようもない。
変に引き剥がせば傷は永遠に残る。かと言って近づきすぎれば、より心の深くまでその恋心が浸透した状態で引っぺがされたら…………。
まぁ、その時はなんとか慰めますか。ミリアちゃんも容姿は可愛いし、なんとかなるだろ。妹みたく全力で甘えてみるとか……ヘスティア様も居るし。挫折して動けなくなるなんて事は無い筈だ。
「それでね」「ベル」「ん?」
「ヘスティア様の前でヴァレンシュタインさんの話はやめておいた方が良いでしょう」
「え? なんで?」
「…………」
とことん、女性関連の耐性も無ければ、経験も無いな。まぁ経験豊富だったら冷静に【剣姫】の情報を精査するんだろうが。其処まで行けば人間不信……他者を疑う事しか知らない愚か者になるが。まぁ、ベルの良い所か。
「助けて貰った、の一言で済まさないと……何度も同じ話をされれば、流石に飽きますし」
神様はどうやら一度見た光景や話を決して忘れる事は無いらしい。人間も一応覚えているが思い出せないって言う話だっけか? まぁ、ともかく。神様からすれば愛しのベル君が知らない女に惚れ込んだと……。
そもそもベル君はヘスティア様がベル君を異性として見てるとか知らないのか。まぁ、ベル君からすれば神様は神様、家族みたいな距離だからなんともしようが……。
と言うかヘスティア様もヘスティア様で、押せ押せ過ぎてベル君が引いて……アレはベルを慣らす意味もあるっぽいんだが。なんともなぁ……。
「えっと……僕、もしかして同じ話を何度もしてた?」
「そうですね、ミノタウロスが一刀両断されてって件は六回は聞きましたね」
むしろギルドから【ヘスティア・ファミリア】の本拠がある此処まで六回も同じ話をループ出来るとか……恋は盲目と言うが……ここまでなのか。恋した事なんてありゃしないからわかんねぇな。
……恋ねぇ。
「おーい、ベル君、ミリア君」
んむ? 日も沈み、薄暗い廃教会の前、におっぱいたゆんたゆん言わせて手を振ってる乳神……ヘスティア様が居た。何時みてもあの胸スゲェな。ベル君も嬉しそうに手を振り返してる。一応振り返すか……。
「いやー、二人とも今日は少し帰りが遅かったね。少し心配したんだよ?」
「すいません、今日は色々ありまして」
ベルがコートやらなんやらを衣類掛けにかけて脱いでいるのを横目に、キューイを袋から出して適当に部屋の隅っこに投げて置く。
「きゅい!」
ぽん、ころころーと体を丸めたキューイが転がっていって抗議の声を上げるが。知った事か。林檎一個で買収される駄飛竜にかける気遣いなんかもっちゃ居ねぇよ。
「ミリア君、何かあったのかい? キューイ君と喧嘩かい?」
「林檎一個で裏切ったんですよ」
「林檎?」
首を傾げるヘスティア様を横目に机に置かれて居たモノに気が付いた……まぁた、じゃが丸くんか……いや、美味いんだけどね。でもさぁ……一週間の内、8割がじゃが丸くんって辺り……いや、なんでもない。美味しいし腹が膨れるから良いんだよ。もっと別のものも食べたい気はするが。
異世界だぞ? やっぱこう、こんな……いや、こんなものって言ったらヘスティア様に失礼だが、じゃが丸くん以外にも色々とありそうじゃん? 市場見た限りは見た目は現実の野菜っぽいモノもあれば、見知らぬ野菜もあるんだよな。どんな味……値段が意外とお高かったから……はぁ……。
「何があったんだい?」
「えっと……五階層でミノタウロスに会いまして」
「なんだって!? ミノタウロスなんて中層のモンスターじゃないか!! 怪我はなかったかい? 痛いところは?」
「怪我はしてないですよ。痛いところも特に無いですね」
俺は半殺しになってたみたいだがね。まぁ、怪我は全部治療済みだしわざわざ教えるなんてしないが。
「そっか、怪我がなくてよかったよ。
……ベルの心配だけしてれば良いのに。俺まで心配してた何て言われても困るんだがな、割りと死ぬ覚悟してたっぽいし。これで死んでたら……まぁ、死んでないから良いか。死ぬよりゃ安いってな。
「そうだ、今日は君達に美味しいお土産があるんだ」
「何ですか?」
「じゃじゃーんっ!!」
ヘスティアが勿体ぶって示したのは机の上のじゃが丸くん。
晩飯だろうなぁ……贅沢言ってるのはわかるんだが、他に食べるもの……キューイ、てめぇは林檎食ってたよなぁ……お前の分はねぇに決まってんだろ。反省しろ駄飛竜。
「キュイ?!」