魔銃使いは迷宮を駆ける 作:魔法少女()
蒼い夜空に抱かれた金色の望月。
少年の想いを乗せた言葉をぶつけられ、一人の少女が瞳を閉じた。
「春姫、よく考えて答えを出して」
僅かに迷いを残す春姫にそう声をかけ、俺は声を張り上げ、
「【イシュタル・ファミリア】に宣言しましょう。この場で投降するのなら、助命嘆願をしてあげても良いです」
「はぁ?」
「へぇ~?」
訳が分からないとでも言う様にフリュネが眉を顰め、サミラが興味深そうに口元を吊り上げる。
「未だにわからないですか? 春姫がどんな答えを出したとしても、この後貴方達は【ロキ・ファミリア】、【ガネーシャ・ファミリア】の報復を受けます」
「それがどぉしたってんだ?」
「命の保障は一切ありません。ですが、此処で私達を襲わずに逃がしてくれるのなら、助命嘆願しても良いです」
既に戦意喪失しているアマゾネスが二十人近く居る。加えて、
「当然、フリュネ、貴女も対象に含みますよ? どうします? 春姫が答えを出すまでが期限です」
彼女が答えを出した時、此方に付いていれば助命嘆願してやる。
敵対を続けているのなら、知らん、死ね。
次の瞬間、フリュネとサミラ、そして
「ゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲッ!? 本気で言ってるのかァ!?」
「あっはっはっはっはっはっ!? 傑作だなぁ、オレ、そんな面白い冗談聞いたのは初めてだぞぉ~?」
肩を揺らして笑う好戦的姿勢を崩さないアマゾネス達。そんな彼女達とは別に、既に戦意喪失していたアマゾネス達が僅かに顔を上げて此方を見ている。
────想定と違うな。
此処で戦意喪失してくれれば良かったんだが、まだ七十近い
いくらフリュネでもロキ派とガネーシャ派が同時にかかってくれば一溜りも無いと思うのだが。
「はっ、おいお前達ぃ~、裏切りたい奴はさっさとあっちに付いちまえよぉ~」
思わず、発言者の顔を見つめてしまう。
他ならない幹部が、寝返りを推奨する様な発言をしたのだから。
ミコトやフィア、ベルも含め、全員の視線がその
「ほら、恐いんだろ? 死にたくないんだろぉ~? 今なら素通ししてやるよぉ~」
「何を、考えている訳……」
「あ? 後ろからいきなり斬りかかられても嫌だろ? それに────臆病風に吹かれる様な奴はウチにはいらねぇよ」
サミラの発言を聞いた数人のアマゾネスが、恐る恐る此方側に近づいてくる。
それを楽し気に見つめる幹部の姿に、思わず背筋が震えた。
あのサミラと言うアマゾネス、更に彼女に肩を並べる女戦士達。瞳には燃え滾る戦意が漲っていた。
「ほ、本当に助命してくれるの?」
「やったのはフリュネなんだ! 私達は関係無い!」
ロキ派、ガネーシャ派の報復を恐れ、絶望した幾人かが、地獄に垂らされた蜘蛛の糸に縋りつく。
そんな彼女らに、出来る限り優しい笑みを浮かべて対応する。
「ええ、貴方達が此方に付くのなら、ロキやガネーシャに助命嘆願してあげます」
【イシュタル・ファミリア】は一枚岩ではない。
好戦的に、抗争を求める者達も居れば。非好戦的で娼婦をやっている事だけで満足している者も居る。
その結果、必要以上に敵が増えている現状。更に儀式の失敗によって勝利の目が消えたのだ。
後が無い。勝利の目が消え、迫る報復に怯える者達が出るのも必然。
「どうしますか? 此方に付くか、彼方に付いたまま滅ぼされるか?」
このままイシュタル派として俺達を襲うのなら、その先に待つのはロキ派、ガネーシャ派からの報復。同胞の命を奪われたも同然の彼らは、ほぼ手加減無しの報復がなされる。その結果、派閥が滅びた後も、彼女らは元【イシュタル・ファミリア】の眷属であったとして二つの派閥から狙われ続ける事になるだろう。
その際、ここで
────地獄に垂らされた蜘蛛の糸に縋る様に、数人の
「おいおい、本当に裏切り者が出るとはなぁ~。まぁ、覚悟はしとけよお前等? オレは裏切り者に優しくしたりなんかしないからなぁ~?」
裏切りを唆された彼女らの行動を、
「アイシャ~、オマエも裏切りたいなら【リトル・ルーキー】に付いちまえよ。可愛い可愛い妹分達も、もしかしたら助けてくれるかもしんないぜぇ?」
「…………」
「アイシャさん……」
ベルの小さな呼び掛けに、アイシャは一切の反応をしない。
周囲に集まる若いアマゾネス達は、きっとアイシャを慕う妹分達なのだろう。彼女らは不安そうに身を寄せ合い、アイシャを伺っている。
彼女の腕は震えていた。大朴刀の切っ先が震え、地面と触れ合いガチガチと音を立てている。堪える様に、耐える様に、女傑はただ動きを止めていた。
そんな様を見て、フリュネが哄笑を響かせる。
「ゲゲゲゲゲッ!? どいつもこいつも不細工は大変だねぇ!?」
「フリュネ、貴女も助命を乞うなら今ですよ」
実行犯であるお前が処刑されない理由は何処にもないがな。
それでも、このまま戦闘を開始するよりは、回避する方向でいきたい。少なくとも、今は、本当に戦闘を回避したい。
儀式を終えて、己の状態を再確認しているが────クラスが上手く切り替わらないのだ。
どうにか出来ないかと悩みながらも、それを悟らせぬ様に笑みを張り付ける。
「馬鹿だねェ? アタイの美貌にかかれば、【
────はぁ?
自信満々に胸を張って言い放たれた言葉に、思わず唖然としてしまう。
フィアやサイア、ミコトに、ベルも、皆が顔を引き攣らせて沈黙する。対する
本気で言っているからこそ、余計に性質が悪い。
「イシュタル様の無茶振りの所為で儀式にも失敗しちまったし、もうこの派閥は駄目だねぇ~」
「おい、フリュネ、そりゃあどういう意味だ?」
「そのままの意味だよぉ? やっぱりあんな不細工な女神は駄目だねぇ」
自らの主神に対する侮辱を繰り返すフリュネの姿に、思わず眉を顰めた。
「え……イシュタル様は貴方の主神じゃあ」
「ゲゲゲゲッ、なんであんな不細工な女神を敬わなきゃいけないのさぁ? アタイの方が美しいっていうのに偉そうにしやがってぇ~、ずぅぅっと前から気に食わなかったんだよぉ」
ベルの呟きに、フリュネは哄笑と共に答えた。
自意識過剰。自尊心の塊。そして、本気で自分が美しいのだと思い込む精神異常者。むしろ、その精神性こそが彼女が第一級冒険者にまで至った要因とも言えるのだろうが、それでも侮蔑に値する。
「本気で言ってるのなら、随分とまあ……狂気的ですね。
その顔で、その醜悪な容姿で、よくもまあそこまで……。
派閥解体か、そうでなくとも弱体化するのは確実。勢力として最低限を残して手足を捥がれるも同然だ。返り咲こうなんて考える事も出来ないぐらい、派閥として弱体化するのは確実だろうに。
その過程で、下手な抵抗なんかした日には……命の保障は何処にも無いと思うのだがね。
「こんな派閥が滅びようが知ったこっちゃ無いよぉ~? むしろ、アタイを見下すあの醜女が零落れるなんて良い事じゃぁないかぁ~」
────は?
『はぁ!?』『何言ってんだフリュネ!?』『どういう積りだぁっ!!』
「不細工なアンタ達と違ってぇ~? アタイ程の美貌だと引く手数多ぁ~。わかるだろぉ~?」
いや、さっぱりわからん。
割と本気で、この巨女が何を言っているのか理解が出来ない。こいつは何を言っているんだ?
「不細工なうえ、馬鹿で愚図だなんて救い様が無いガキだねぇ?」
酷い言い様だが、本当に彼女の考えは理解できない。
少なくとも、同じ次元に居るとは思えない。何処をどう考えれば『こんな派閥が滅びても知らない』などと言う発言が出てくるのか。
「ゲゲゲゲッ、アタイにかかれば不細工で平たい
絶対に無理だ。
もしフリュネが美少女だったとしても、フィンの傍に控える
「乗っ取れば良いのさァ!」
…………えっと?
思わずベル達の様子を伺ってしまう。春姫ですら唖然とした表情でフリュネを見つめる中、その巨女は自信満々に己が計画を語る。
「アタイの美貌でガネーシャを堕としてこの都市を支配するのも良いねぇ? 春姫も【魔銃使い】も、どっちもアタイが頂くぅ、それでアタイが仕切る派閥でもう一度『儀式』を行うのさぁ~?」
不細工なアンタ達では絶対に達成不可能だろぉ~。と大哄笑を響かせる
精神性からして、もはや人ではなく化物のソレではないか。本当に、本気で、理解できない思考回路をしている。
一族の悲願を掲げ、歩み続ける
最上級の侮辱ともとれる発言を繰り返す巨大な醜女に、最も慕う
────だが、それ以上に激昂している一団が居た。
「なあ、フリュネ……」
「なんだいサミラぁ?」
「お前の考えはよぉ~~~~く分かった」
いつの間にか、フリュネの周囲に居たアマゾネス達が距離を取っている。
ぽっかりと空いた空間の中央。アマゾネスの人垣がフリュネを取り囲んでいた。
ベルが僅かに身動ぎし、悍婦達が纏う怒気に思わず俺達も怯む。春姫が答えを出すまでのほんの僅かな時間稼ぎの積りが、巨女はとんでもない地雷を自ら踏み抜いてくれやがった。
「今から、オマエも、テキだ」
『殺す』『イシュタル様への恩も忘れやがって』『死ねヒキガエル』
「はぁ~、アタイの美しさに嫉妬する不細工共は本当に面倒だねぇ────」
ほ、本当にフリュネの思考回路が理解できない。
今まさに【イシュタル・ファミリア】を『捨てる』発言をした。その結果、どうなるのかを考えなかったのだろうか。そこまで考え無しだとは思えない。何か策があって言ってるのだろうか?
「今からイシュタルなんて捨てて、アタイに協力するって言うならぁ~。仕方ないから不細工で弱っちいお前達も
本気で、本気で言ってるのかこいつ。
自分に付いてくれば何の問題も無い。そう言っているのだ。本気で……狂ってる。
「悪いが、イシュタル様には恩があるんでな。そっちの裏切り者共と違って、オレは最後までイシュタル様に尽くす」
成る程。と思わず納得してしまった。納得、出来てしまった。
サミラ達は、イシュタル様への恩を忘れていないのだ。己の生存より、其方を優先している、ともいえるか。少なくとも、傍から見れば嫉妬に狂う迷惑極まりない恐ろしい美神であったとしても、彼女らからすれば従うに値する女神だったという訳か。
「ああ、そうかいなら────アタイに従わない奴は全員殺す!」
ズガンッとフリュネが石板を踏み抜いて衝撃波を散らし、俺達の後ろに庇われている春姫を睨んだ。
「春姫ぇ」
他者と比べ異常に大きな頭部、横に裂けた分厚い唇、ギョロギョロ蠢く血走った眼玉。ヒキガエルを思わせる容姿をした、元派閥団長。【イシュタル・ファミリア】と決別し、己が道を行くと宣言した愚かで醜い巨女。わかっているだろうな、と少年越しに春姫の名を呼ぶ怪物。
全身を震わせた春姫が静かに詠唱を開始した。
「【────大きくなれ】」
堪える様にミコトが震え、ベルが僅かに拳を強く握る。
フリュネだけは僅かに口元を歪め、自らの思惑通りにいくと疑う事もせずにベルを嘲笑していた。
今、この場において、春姫が魔法をかける対象が誰なのか────それが彼女の答えになる。
「ゲゲゲゲゲッ! 春姫ぇ、アタイに魔法をかけるんだよォ。オマエみたいな役立たずの不細工でも、アタイの糧になれるんだよぉ、嬉しいだろォ?」
交渉の積りなのだろうか。
その台詞を聞いて、フリュネに付く者が居るなら見てみたいモノだ。
「【其の力に其の器。数多の財に数多の願い。鐘の音が告げるその時まで、
祈る様に、差し出す様に、春姫がその両手を前に突き出し、詠唱を響かせる。
春姫の歌声が響く中、フリュネが一人の戦闘娼婦から新しい大戦斧を受け取った。
呼応する様に、戦意漲らせたアマゾネス達が各々の武器を構え出す。
春姫がどんな答えを出したところで、俺達を殺す積りだろう。仲間の仇討の積りだろうか、だとしたら、身勝手が過ぎる。
「【────大きくなれ】」
獲物を打ち鳴らす女戦士の軍団に、ベルやフィア、ミコトがより一層警戒を深める。
武器を構えもせず、ただ成り行きを見守っていたアイシャが気付いたのか、目を見開いていた。
「【
────春姫の『魔力』が向けられた対象が、
アイシャはその事を仲間に伝えるでもなく、僅かに口元に笑みを浮かべてベルと俺に視線を向けてくる。
その目に宿るのは覚悟か諦めか、何を思っているのかはわからないが、何事かを呟いて周囲のアマゾネス達が僅かに目を見開くのが見えた。
「春姫、遠慮はいらないわ。全部ベルに
ベルの直上、
フリュネが驚愕の表情を浮かべる中、少年はより強く《ヘスティア・ナイフ》を握り締める。
形作られた円柱────柄の無い槌。それが照らし出すのは一人の少年だ。
「【────大きくなぁれ】」
詠唱の最終段階。
温かな光が少年に降り注ぎ、少女は僅かな微笑みを少年の背に向ける。
遅れて事態に気付いたサミラ達が飛び掛かろうとし────
まるで春姫と悍婦達の間を切り裂く様に、大朴刀を振り抜いて一条の線を引いたアイシャ。
アマゾネス達が驚愕に染まる中、少女の唇から魔法名が紡がれる。
「【ウチデノコヅチ】」
燦然と輝く光の槌が落ち、ベルの全身を包み込んだ。
光の本流が齎すそれは、『ランクアップ』。
制限時間内に限り対象のLv.を一段階上昇させる。
フリュネはただ硬直していた。他のアマゾネス達はアイシャが立ち塞がった事実に目を見開き止まっている。
「へぇ、まあアイシャならそうするよなぁ~?」
「春姫……聞かせてくれ」
イシュタルに、フリュネに深く刻まれた
「もう、体を売りたくない……! もう、誰も傷つけたくない……!」
紡がれる度、女傑の腕の震えが収まっていく。
「死にたくない……!」
震えが────完全に止まる。
「助けてっ……!」
少年に、女傑に、知己に、一人の少女が助けを求めた。
フィアが僅かに鼻を鳴らし、サイアが首を傾げつつも頷く。
その光景に愕然としていたフリュネが怒号を響かせる。
「は、春姫えええええええ!?」
激昂した彼女が、アマゾネスの集団から一歩前に出ると、俺達の最奥に庇われる春姫を睨み付けた。
「アタイ達を裏切るのかァ!? 出来損ないの娼婦の癖にィ!?」
響き渡る化物の怒声に、春姫は僅かに怯えを滲ませながらも毅然とフリュネを見返し────崩れ落ちる。
「春姫殿ッ!?」
「マインドダウンしただけだ、暫くしたら目を覚ます」
ミコトが春姫を抱え、アイシャが心配ないと断じ、フリュネと向き合う。
真っ赤に染まった顔中に青筋が浮かび上がり、今にも飛び掛からんとする化物を前にし、アイシャが口元を吊り上げた笑みを浮かべて、声を張り上げた。
「【リトル・ルーキー】、【魔銃使い】、虫の良い事を言ってる自覚はある。だが話を聞いてくれ」
「何ですか、アイシャ・ベルガ」
「アンタ達に加勢してやる。だから────
此方から交渉した内容。積んでしまった【イシュタル・ファミリア】と言う沈みゆく船から逃げ道を作り、裏切りを
「貴女自身は?」
「────この戦いが終わったら、好きにしな。煮るも焼くも……生かすも殺すもな」
その代わり、
【イシュタル・ファミリア】が犯した取り返しのつかない罪。妹分達にも等しく分け与えられたその罪を自身が背負うから、彼女らは許して欲しいと。
自らを慕う妹分の若いアマゾネス達を庇う姿。虫の良い話だ────だが、良い。
「良いでしょう」
ベルが付与光を纏いながら、アイシャと肩を並べる。其処に不機嫌そうなフィアも加わり、此方に寝返った数少ないアマゾネス達もまた、武器を構えて抗戦の意思を示す。
「アイシャさん……」
「後にしな【リトル・ルーキー】、今はこの場を切り抜ける事だけ考えるんだよ」
「アイシャだったか、テメェは後で半殺しにしてやる」
「サイアさんとミコトは下がって春姫を守ってください。他のアマゾネスの皆さんは防衛優先で、フリュネはベルと私、フィアさんとアイシャさんでいきます」
対するは【イシュタル・ファミリア】に忠義を尽くす女戦士達。
「裏切り者も含めて全員この場で始末してやる。そのあとはロキ派、ガネーシャ派との抗争だ! 楽しみだなぁ~!?」
『ああっ!!』『イシュタル様の為にッ!!』『抗争だぁ~~っ!?』
────あ、こいつら狂信者じゃない。狂戦士だ。
血で血を洗う抗争を求め、イシュタルに従っている、生粋の狂戦士達。
俺達を倒したとしても【ロキ・ファミリア】と【ガネーシャ・ファミリア】が報復を仕掛けてくる。それから生き残る為に【イシュタル・ファミリア】を裏切るのではなく、その報復抗争すらも楽しもうとこのまま俺達の殲滅を実行する気だ。狂ってる────いや、だからこその『狂戦士』なのか。
「アタイを裏切る奴らは皆殺してやるぉおおおおおっ!?」
自尊心の塊で、自意識過剰な発言を繰り返して誰からも見限られた巨女が吠える。
ヘスティア勢力、イシュタル勢力、フリュネの三つ巴だ。
全員が武器を構え、今まさに開戦の火蓋が切られ────その時だ。
「お~~~い! 皆ぁ~~、大変だよぉ~?」
素っ頓狂な調子で、雰囲気をぶち壊す陽気な声が響き渡った。
宮殿側から吹っ飛んできたのは、一人のアマゾネス。悠々自適で
「皆ぁ~、どうしたの? 儀式は?」
「レーネか、どうした」
代表して
開戦の空気をぶち壊した彼女は、空中庭園の惨状を目の当たりにして首を傾げつつも────超特大級の爆弾を投下した。
「いやぁ、【フレイヤ・ファミリア】が襲撃仕掛けてきてるんだけど」
『──────!?』
思わず、目を見開いた。
【ロキ・ファミリア】でも【ガネーシャ・ファミリア】でもない。
此処で絶対に名前が上がるとは思っていなかった【フレイヤ・ファミリア】が出てきたことに思わずアイシャを見る。
アイシャは僅かに目を見開き、舌打ち。
「レーネは馬鹿な嘘を吐かない……って事は、
「どうして、【フレイヤ・ファミリア】が」
「あの女神の考えを理解する方が難しいぜ。それより早くなんとかしねぇと────
都市最強派閥の乱入の知らせにアイシャとベルが動揺し、フィアが舌打ちを零す。
意図を理解できずに困惑する俺達を他所に、サミラ達は眉を顰めて真偽を疑っていた。
「本当かよ、信じらんないぜ」
「いや、嘘じゃないって────ほら」
まるで予期していた様に、ニヘラとレーネが笑みを浮かべた瞬間────
「……お前の部下がやらかしたんじゃないのか? オレ知ってるぜ? お前が裏切る積りでいるのを」
余りにもあからさまなレーネの態度に、まるで予期していた様なその言動は余りにも信憑性を欠くものだった。故に、サミラ達が疑わし気にレーネを睨み────止まらぬ爆音に全員が身を硬直させる。
『────────ッッ!?』
フリュネですらも目をひん剥いて驚愕する中、ドンッドンッドンッと断続的に爆発音が響き
誰しもが空中庭園から歓楽街を見下ろす。
火の海だった。歓楽街、第三区画の外周部から徹底的に焼き尽くす様な業火が内側目掛け繰り返し放たれ続けている。魔法、魔剣、その他ありとあらゆる攻撃方法を以てして、徹底的な殲滅を行っている派閥が居る。
高々と掲げられたその派閥の
「イシュタル様からの命令でね、今すぐ【フレイヤ・ファミリア】の迎撃に当たれって命令を伝えにきたんだよねぇ~」
にこやかな笑顔を浮かべ、レーネが宣言すると同時。サミラが大声を上げて剣を掲げる。
「い、今すぐ【フレイヤ・ファミリア】を迎え撃つぞっ!?」
「フリュネは!?」
「構ってる暇はねぇよ!!」
【イシュタル・ファミリア】に尽くすと決めていた
そんな中フリュネとアイシャ、少数のアマゾネスが動かずに居るのを見てレーネが首を傾げる。
気が付けば、イシュタルに忠義を尽くす狂戦士達が消え、場に残ったのはフリュネと、ヘスティア側に与したアマゾネスと俺達。そして、敵か味方か不明のレーネのみ。
「フリュネ、アイシャもだけど、イシュタル様からの命令だよ? ……なんで【リトル・ルーキー】が春姫の魔法をかけられてるのか知らないけど、儀式失敗したなら早く報告に行かないとぉ~」
「五月蠅いねェ!?」
「レーネさんッ!?」
無防備に近づいたレーネの首を掴み、巨女は吠えた。
「あの高慢な女神の事なんか知りゃあしないよぉ!? それよアタイの命令を聞きなァッ!!」
「……? えっと? 何? イシュタル様の命令に従わないの?」
場違いにも思えるぐらいに、能天気でおっとりしたレーネの問いかけ。
春姫の魔法の効果時間を考えるに、今すぐ仕掛けるべき場面ではあるのだが────動けない。
圧だ、何か悍ましい圧力がレーネから放たれている。
「アアッ? 愚図なレーネにもわかる様に説明してやるよぉ~。【イシュタル・ファミリア】はもう終わりさァ~!? アタイに付いてくるなら愚図で不細工なアンタも
だから、自分に従えと叫んだ彼女は、レーネをこちら側に付きだしてきた。
「あの【リトル・ルーキー】に
「んー? んー……?」
二度、三度と小首を傾げてベルと見つめ合ったレーネは、徐にアイシャに視線を向けた。
「アイシャ、裏切った?」
「…………ああ、そうだとしたら?」
びっしりと、恐ろしい量の汗を掻いたアイシャが僅かに身を震わせて大朴刀の切っ先をレーネに向ける。
「ふぅん……私ね? イシュタル様に
「知ってるよ……」
「皆さ、いっつも、いつもだよ? 私が裏切ったとかなんだとか言って疑うんだよね」
────裏切ってなんていない。
【ウェヌス・ファミリア】の仲間を殺したけど、裏切った積りは無い。今でもウェヌスを敬愛し、仲間だった者達を愛している。
イシュタルの行動を邪魔して『裏切りだ』と罵られるけれど、そもそもお前達を仲間と思った事は一瞬たりとも無い。
「だからさぁ、皆が『裏切り者』って言う度にすっごくムカついてたんだよねぇ~」
ドロドロと粘っこく、一度絡み付いたら二度と剥がれないぐらいに粘着質な、耳に張り付く様な言葉。きっと感情を抑え込み、煮詰め続けたらこうなるのだ。
「何をくっちゃべってるんだ、早く【リトル・ルーキー】に
喧しく大喝するフリュネに、レーネはにこやかな笑顔で振り向き────フリュネの顔面に鞭を叩き込んだ。
「フリュネも裏切り者。アイシャも裏切り者。裏切り者は殺さなきゃね、でも殺す順番までは指定されてないし────まずはフリュネ、お前から殺してあげるっ!」
楽しそうに、嬉しそうに、それでいてねっとりと絡みつく様な不快感を伴うレーネの言葉。
『イシュタル派の仲間には一切手を出すな』と命令され、フリュネの暴行に一切の反抗できなかったレーネが、今────その枷から解き放たれたのだ。
「あっはっは、フリュネいつも言ってたよねェッ!? 私の事、裏切り者だってぇ────」
完全に虚を突かれ、顔面に一撃を受けたフリュネに対し、レーネは此方を一切気にする事無く背を向けたまま、フリュネを睨む。
「今はお前が裏切り者だねええええッ!?」
────歓喜と狂気の交じり合ったレーネの言葉が響き渡る。
地獄に垂らされた蜘蛛の糸……ミリアちゃんは『ロキ派閥、ガネーシャ派閥に助命嘆願してあげます』とは言ったけど『自分が許してあげます』とは一言も言ってない件。
『どちらの派閥も許してくれたんですか。良かったですね────でも私は許さないので死んでください』とか平然とやりそう()
ただ虐げられていた子が、反撃の機会を得たら……そりゃ発狂するよネ。
本編がシリアス過ぎてきつい方も多いでしょう。そんな皆様のためにぃ~此方。
https://syosetu.org/novel/199739/
『魔銃使いは恋に堕ちた』を紹介しましょう(ダイマ)
『√女神ヘスティア』は恋愛要素が無い気がしますが、神と人、無限と有限、いずれ来る別離の話です。
『√ベル・クラネル』と『√フィン・ディムナ』はふっつーの恋愛話。
砂糖吐きそうなイチャラブする系ではないです……恋に堕ちる話なので。
もしくはコラボ小説の方。
https://syosetu.org/novel/214037/
他のコラボ作者様の方の作品を読みにいくのも良き。
序にコラボ対象の募集も(密かに)続けてるので作者で興味ある方は是非に。