魔銃使いは迷宮を駆ける 作:魔法少女()
────真昼。
頭上高くに上った太陽が強い日差しで都市を照らし出す。
「────と言う訳で、キューイ君が人と竜の相の子状態になったんだ」
あんぐりと口を開けたまま呆ける眷属達。
つい先日の【イシュタル・ファミリア】による襲撃事件、およびに派閥の副団長であったミリア・ノースリスが儀式の生贄にされかけた一件。それによって齎された異常としてキューイが竜から人の姿に転じたという話を聞かされた皆は言葉を失って女神の横に座り込んで林檎を咥えている少女に視線を向けた。
「キュイ?」
背丈はおおよそ120
その姿は背丈や瞳の色の違いはあれど、よく見知った人物と瓜二つである。
しかし、異質なモノとして、彼女の背には深紅の竜翼が生えており、時折わさわさと蠢いている。そして腰の辺りから伸びる鱗に覆われた細くしなやかな竜の尾。人にあるまじき姿であるが、ベルやヴェルフなど一部の眷属には見覚えのある姿だ。
正確に言ってしまえば、彼女の異質なスキルである『
「つ、つまり……ミリアは大丈夫なんですか?」
真っ青に青褪めたベルが
彼女は疲れ切った様子でベルを見やり、手を振って応えた。
「問題無し。キューイのこれからを考えると胃が痛い以外には別に問題は無いのよ。ええ、キューイの今後がね……」
「キュイキュイ!」
どすどす、と体格にしては重たい足音を響かせたキューイが
「……何?」
「キュイ」
「………………ああ、うん、まあ、ありがとう。でもこの林檎はいらないから」
額に乗せられた林檎をキューイに返し、身を起こしたミリアが全員を見回す。
「事情を理解できたら、この件について表沙汰にするのは暫く待って頂戴」
「あー……うん。その、体調に異常がないなら……」
酷く思い悩んだ様子のベルがもごもごと呟く横で、額を覆ったリリが天井を仰いで嘆く。
「どうしてこうも
「まあまあ、素材の方は大丈夫なのか? 『再生薬』とかの方は」
「そっちは問題無し。ただ素材の量はそれなりに減るのと……えっと、まあ、素材収集の見栄えがね」
ヴェルフの心配事に対し、ミリアが肩を竦める。
自身の尾を引き千切って差し出したり。
自身の指を食い千切って採血をしたり。
翼を捥いで素材として提供したり。
元の竜の頃と遜色の無い再生能力によって元に戻るからと滅茶苦茶な素材提供を行うキューイの姿の
「……いや、大問題だと思うのですが」
ミコトが恐る恐ると言った様子で手を上げて発言をした。
「他の派閥から何を言われるか……それに、人型のモンスターともなると……その……」
「『怪物趣味』って罵られるだろうなぁ」
言い辛そうに誤魔化したミコトの言葉を尻尾を揺らしたディンケが濁す事も無く言い切る。
ただでさえ元から【
その反応に対してミリアは軽く肩を竦めるのみ。
「まあ、それに関しては別に。ほら、私はあんまり気にしないし」
「……副団長が気にしなくても、私達は気にしますよ」
眉を顰めたメルヴィスの言葉にミリアが申し訳なさそうに身を縮こまらせた。
「それは……貴方達に風評被害が出ない様に手を尽くすわ」
「勘違いしてますよね?」
少女の物言いにメルヴィスが額に手を当てて嘆く。
別に自分達への風評被害に対して思うところがある訳ではない。ただ、酷く苦労を重ね続けている彼女が悪しき様に罵られているのが不愉快だという意味で言ったのに、全く通じていないのは何の皮肉だろうか。
団員達で頭を悩ましている中、ふとサイアが手を上げて呟いた。
「んー……副団長が二人になったって事?」
その言葉を聞いた女神が首を大きく横に振る。
「正確には二重人格。つまりは別人と言っても過言では無くてだね……」
僅かに呆れた様な視線をキューイに向ける。部屋の片隅で返された林檎にかぶり付いている彼女は、体格こそミリアよりも大きい。しかし行動は何処か幼さばかりが目に付く様に見える。
────元々の仕草をそのまま行っている為、正確に言えば動物的な行動が目に付くと言えるだろうか。
「それで、皆に聞きたい。キューイ君は、今まで通りと思って貰って良い。キミ達を傷付けたりしないし、ミリア君の言う事はおおよそ聞く。だから、姿形が変わってしまったけれど、今まで通りに接してくれないかな?」
「私からも頼むわ。ちょっと行動が突飛過ぎて私一人じゃ制御しきれない時もあるし、出来れば皆で面倒見て欲しいわ……」
申し訳なさそうに頭を下げる女神と少女の姿に皆は思い思いに顔を見合わせ、肩を竦めた。
「僕は別に……容姿がミリアみたいになっただけで、中身はキューイのまんまだし」
「リリも構いませんよ。今まで何度も助けられてきましたから」
「俺も別に構わん。ただ……素材採取はちょっと控える」
「自分は特に。中身がキューイ殿のままであれば異論はありません」
ベル、リリルカ、ヴェルフ、ミコトの四人の返答を聞いたミリアが肩の荷が下りた様に吐息を零し、残る面々に視線を向けた。
春姫はそもそもキューイと邂逅するのはこれが初めて。完全初対面の飛竜が人型になったと聞かされても事情がよく呑み込めていない。しかも元はモンスターと言う話を聞いてミコトの後ろに隠れている。
ディンケとエリウッドの二人は元々
残るロキ組の四人は困った様に顔を見合わせて頷き合う。
「アタシ等は、まあ気にしないよ。元があのキューイなら……」
人を襲わない稀有なモンスター。それが人型となっただけ、となんとか呑み込もうとはしている様子だ。
そんな彼らを他所に、ミリアは小さく吐息を零すと告げた。
「今日、この後直ぐにギルドで話し合いしないといけないから、できれば暫くキューイの面倒を任せて良いかしら」
「えっと、うん。良いけど……」
「ありがとう。それと……えっと、そっちは、どう?」
話を変えるべく、ミリアは言い辛そうにほぼ無言を貫く【ガネーシャ・ファミリア】と【ロキ・ファミリア】の者達に視線を向ける。
「ごめん、アタシ少しやる事がある。グランの墓に酒手向けてこないといけないんだ」
「あー……そうだな、悪い副団長、俺らもルシアンの墓に行ってこなきゃいかん」
増援組の者達全員が申し訳なさそうに言った言葉に、ベル達の方は何とも言えない表情を浮かべる。
むしろ自分たちの所為で大事な仲間を失ったとも言えるのだ。彼らが申し訳なさそうにする理由は何処にも無い。
「気にしないでください。むしろ……僕たちの方こそ、ごめんなさい」
「いや、団長は気にすんな。俺達は仲間が死ぬのは初めてじゃないしな」
ディンケが肩を竦めて呟く。その言葉にベルとミコト、春姫が目を見開き驚愕する横で、リリとヴェルフが僅かに目を伏せる。ヘスティアとミリアは何処か納得した様子で口を噤んだ。
「それって……」
「団長らには言ってなかったしな。俺とエリウッド、あとルシアンの三人はほぼ同期なんだが……他にも何人か居たよ。同期の奴らが」
同期の者全員が未だに無事に冒険者を続けている訳ではない。途中で挫折して去る者も居れば、当然の様に怪物に殺されて命を落とす者も居る。
Lv.1の駆け出しの時に命を落とす者が大半。神ガネーシャは特に言いふらしたりはしないが、数多くの人が彼の派閥に入団し、上級冒険者に至る前に命を落とす。
無論、Lv.2に至った上級冒険者ですらも迷宮では簡単に命を落とす。下手をすれば上級冒険者で構築されたパーティが一人も迷宮から帰らなかったという事もある。
故に、ディンケとエリウッドの二人は仲間を失う経験は初めてではない。
「ま、俺達【ガネーシャ・ファミリア】は【アストレア・ファミリア】と同じぐらい恨まれてるからな」
都市の規律を守り、民衆の安寧を維持する為に東奔西走する彼らは妙な逆恨みを抱かれる事は多い。今でこそ滅多にない話だが、『闇派閥』の残党が憂さ晴らしに下級団員を襲撃する
此度の死も、その内の一つに過ぎない。当然、親友の死に思うところはあるが、それで立ち止まって良い理由にはならない。とディンケはニヒルな笑みを浮かべると席を立つ。
「悪い。と言う訳だから今日一日はちょっと出かける」
「……私もディンケに付き合おう。すまないな」
二人が
つられてイリス、サイア、メルヴィスも立ち上がった。
「アタシ等も行く。言っちゃ悪いけど、仲間が死んだ事でめそめそしてたら冒険者なんてやってられない」
【ロキ・ファミリア】は『闇派閥』の掃討に深く貢献している。
当然多くの恨みを買っているし、他派閥との軋轢で襲われる事も多々ある。その中で命を落とした者が過去一人もいなかった訳ではない。
「まあ、もし一人でも死者が出たらロキが血眼になって首謀者を見つけ出して血祭りに上げるけど」
今回の一件に於いては既に首謀者であるフリュネはとっ捕まり、裁きを下された。
神ロキや神ガネーシャなど、自らの崇める神々がそれを認めたのであれば自分達はこれ以上口出しはしない。
「だから、まあ……アンタ達は気にすんなよ。もし気になるなら、グランの墓に山ほど酒を貢いでやってくれ」
どちらも、自分達は気にしていないと言い切ると彼らは揃って席を立った。
しばしの沈黙の後、残された面々の中でリリが口を開いた。
「ベル様、ミリア様、そしてヘスティア様」
神妙な面持ちで口を開いた彼女は、残る面々の視線が自身に集まるのを確認してから語りだす。
「良いですか。リリ達は凄く幸運でした。今まで、幾度も死に掛ける様な目に遭いながらも、誰一人欠ける事が無かったのはとんでもない幸運です」
迷宮決死行。黒い
それ以前にしてもそうだろう。Lv.1の新米冒険者がLv.2の上位に区分されるミノタウロスに襲われて生きている事もそうだし。駆け出しが相手取るには不利なシルバーバックを相手に大立ち回りを演じたのも、変異種と化してLv.3相当にまで至ったミノタウロスを撃破したのも、今までベルが歩んできた道の殆どが幸運に満ちていた。
「辛いのはわかります。ベル様、リリ達は凄く幸運だったのです……犠牲者が一人も出なかったのは、運が良かっただけ」
「……うん」
俯き、悔し気に目を伏せたベルが拳を震わせる。
ヴェルフは腕を組み、静かに呟いた。
「ダンジョンでは毎日死者が出てる。当たり前の話なんだよな」
「自分も、死に掛けた事は何度もあります。ですが……」
【タケミカヅチ・ファミリア】との関係は、死に掛けた彼らを【ヘスティア・ファミリア】が無茶をして救援した事から始まっている。
────今まで、仲間内から死者が出ていないのはただの幸運。
一般的な冒険者は、ダンジョン探索で命を落とす事は珍しくない。そして、これから迷宮探索を続けるにしろ、この派閥を維持するにせよ、何にするにせよ名を売りまくっている【ヘスティア・ファミリア】という派閥はこれからも数多の問題が押し寄せてくる。
嫉妬、妬み、やっかみ、何にせよ名が売れている以上、神イシュタルの様に強引な手段を講じる可能性はゼロではないと此度の一件で判明した。
「ですから────」
「まあ待て」
更に言い募ろうとしたリリをヴェルフが遮る。
「ヴェルフ様、ですが」
「とりあえず昼飯にしようぜ。腹減っただろ」
暗い話を払拭する様に豪快に笑い、ヴェルフはベルの肩を叩いて立たせる。
それに便乗した女神が大きく手を叩いて立ち上がった。
「そうだねヴェルフ君。お腹が減っていたら余計に暗くなってしまう。皆でパァーッと昼食といこうじゃないかァ!」
陽気そうな声を上げた女神を見て、ミコトと春姫が慌てて立ち上がる。
「きょ、今日は自分達がお昼を作りましょう」
「
皆が明るく振る舞う中、ベルはほんの僅かに表情を陰らせて拳を握り締めていた。
「キュイ?」
「あ、キューイ……なんか、ごめんね」
いつの間にか近づいてきていたキューイに見上げられ、ベルは小さく笑いかける。
此度の一件で姿が変わってしまった彼女に申し訳なさを感じながら、少年は部屋を見回す。
「……もっと、もっと強くならなきゃ」
────屋上庭園にて、アイシャ・ベルカに告げられた忠告が脳裏を過る。
今のままでは、足りない。春姫を守るだけじゃない、全てを守ろうなんて大言壮語を吐くには今のベル・クラネルでは全く足りていない。
より一層、強く願う。強くなりたい、と。
「キュイキュイ」
想い馳せるベルの腕を掴み、キューイがぐいぐいと引っ張る。
「えっと、何、キュー…………」
名を呼ぼうとしたベルが再度キューイを見下ろして、完全に硬直した。
貫頭衣の様な簡素な布地のみの彼女の衣類は、近くで見下ろすとかなり際どい。元は飛竜でモンスターとはいえ、見慣れた少女と瓜二つの姿にベルが怯む。
思い悩んでいた事が一瞬だけ吹き飛んだ所で、ミリアがキューイを呼んだ。
「キューイ、どうしたのよ」
「キュイ、キュイキュイ」
パタパタと駆けていくキューイを見て、ベルが安堵していると、ジトりとした二人の視線がベルの背中に突き刺さった。
振り返ると半眼でベルを見つめるヘスティアとリリの姿がある。
「あ、あの……神様、リリ?」
「ベル君、キミは女の子なら誰でも構わないのかい?」
「ベル様、見損ないました」
「ちょっ、待って、違うんだ!」
「それで、ギルドでの話し合いはどうだったんだ?」
夕刻。
紅い光が窓から差し込む
「ギルド長が顔真っ赤でしたね。ブチギレられましたよ。色々と」
救援組は全員揃って墓参り。ヴェルフは武装の新調に忙しく、ミコトは春姫と共に神タケミカヅチの下へ。結果として今日半日程、俺とヘスティア様がギルドに足を運んでいる間にベルとリリにキューイの世話を任せた訳だが……。
リリが完全にダウン。昼の俺と同じ様に
抱き枕の様にベルを抱いて寝るキューイは、盛大によだれを垂らしてアホ面晒していた。ギルドに足を運んでごちゃごちゃやっていた俺とヘスティア様の苦労も知らないで……このポンコツ糞竜が。
「大丈夫だったのでしょうか?」
「んー、と……実は
「
首を傾げたミコトに答える様にヘスティア様が羊皮紙を卓の上に置いた。
「何々……
「はぁ? 無人島で有人島?」
内容を読み上げたミコトの台詞を聞いたヴェルフが盛大に眉を顰め、横から依頼書を覗き込んで中身を見る。
「……マジだ、無人島『ユージン島』って書いてあるな」
「何ですか、その変な名前の島。リリは聞いた事ありませんよ」
ぐったりとしたままリリが呟く。
俺も何かのギャグかと思ったぐらいだが、実際にこの依頼書の目的地はギルドの正式名称である。ギャグでも何でもなく、人が住んでいない島としての『無人島』に対して、呼び名が『ユージン島』となっているのだ。きっと神々が名付けたに違いない。
「待て、島って事は……
「そうなりますね」
「大丈夫なのか? 戦力流出禁止令があんだろ?」
ディンケの質問は尤もだ。
隻腕になって冒険者を続けられなくなった者でも上級冒険者だと引き止めを喰らうらしい。まあ、再起不能の冒険者の場合は形だけの場合が多いみたいだが。
「まあ、ギルドからは既に許可状が出てますから」
今回の依頼については色々と事情があるのだ。具体的に言うと、都市内での
「これは……ん? なあ、この
「ああ、それはですね。元々の行き先が別の所になる予定だったんですが、ミアハ様が丁度依頼を持って来まして、其処で良いという話になりましたね」
元々はオラリオから遠く離れた大陸の果て、大樹海の秘境に存在する『エルソスの遺跡』への調査の方へと派遣する予定だったらしい。
その場合、飛竜による遠距離人員輸送も兼ねた実験的な行いも序に行われる予定だったらしい。飛竜と会話できる俺の能力を利用した計画だったのだが。
「詳細は知りませんが、既に【アルテミス・ファミリア】が調査に入ったらしくてですね、こちらへの依頼としては不適切だと言う事になりましたね」
「はぁ?」
「私も詳しくは知りませんが、遺跡調査という名目で都市外へ追い出したかったのが、調査先の遺跡に先に他の派閥が入ってしまったため話が流れた、と。其処に丁度ミアハ様が都市外での依頼書関連でギルドに相談に来てたんで、丁度良いとこの依頼を受けさせられた形ですね」
何処か要領を得ない話にヴェルフが首を傾げ、リリが眉間を揉む。
ベルは抱き着いているキューイを引き剥がそうとするが、力のあるキューイを引き剥がせずいる。力づくで抜け出そうとして彼女が下着を着ていない事に気付いたのか顔を真っ赤にして動きを止めていた。
悪いなベル……キューイは翼と尻尾が邪魔で下着を着れないんだわ。俺の魔法と違って、実体があるし、消せないから専用の下着が出来るまではノーパン状態でな。
助けを求める様に此方を見るベルから視線を逸らしつつ、話を進める。
「で、結局この依頼を受ける事になりましたね」
「と言うか、この島は何なんですか? リリ、一度も聞いた事が無いんですけど」
「あー……島全体が貴重な薬草の宝庫であるギルド管轄の島ですね。一部の医療系派閥が申請を出して通れば、薬草採取の為に足を踏み入れる許可が出るんですが」
島全体が貴重な薬草の宝庫。当然、密猟者が現れる可能性を危惧して一定基準を満たした医療系派閥以外には情報統制が図られており、一般的な派閥は存在すら知らないのが当たり前、らしい。
そして、ミアハ様の派閥は一応基準は満たしているので『ユージン島』への入島許可は持っていたが、それを他の派閥に依頼という形で譲渡する件についてギルドに相談に来ていた所を丁度良く捕まった、と。
「なるほど、でしたらこの依頼を受けると」
「受けるというか、ほぼ
断れない。と言うか断るとギルドが困る。
ただでさえ【イシュタル・ファミリア】の消滅問題を抱えながら、
今バレたら困るから、暫く都市外の僻地へ飛竜ともども行ってこい。っていうのが事の顛末。
「なので、今回の依頼は【ファミリア】総員で向かう事になりますね」
「はぇー……ん、レーネ様はどうするのですか? 確か、ヘスティア様が恩恵を授けていたと思いますが」
「彼女も連れて行く、予定だよ」
自由奔放で何処に居るかもわからない彼女を捕まえる事が出来れば、の話だが。
「期間は?」
「およそ三日か四日ですね」
身を起こしたリリが用紙を覗き込んで溜息を吐く。
「何と言いますか。
「別に好きで問題を起こしている訳じゃないんだけどなあ」
項垂れるヘスティア様の言葉はまさにその通りだ。別に起こしたくて問題を起こしている訳ではない。平穏無事にいられるならそれが良いに決まっている。
「って事は、俺達も暫く都市を離れる事になるのか」
「ディンケさんたちは大丈夫ですか?」
「大丈夫だが、『ユージン島』なんて聞いた事が無いぞ。それってちゃんと正規の奴なんだよな?」
【ガネーシャ・ファミリア】の平団員ですら知らない島。
ぶっちゃけ凄く不自然極まりない島だと思う。一応、ミアハ様のお墨付きがあるので問題はないとは思うが。
「ああ、手強いモンスターが出てきても大丈夫だぜ! 助っ人を呼んでるんだ!」
「助っ人?」
自信満々な様子で告げたヘスティア様の言葉に思わず首を傾げた。
助っ人? ナァーザさんか? でもあの人、確かモンスターが近くに居るだけでまとも動けなくなるぐらい酷いトラウマがあって戦力としては期待できないって話だが。
「ほら、
「リューさんも呼ぶんですか?」
リューさん呼ぶの? あの人、店が忙しいから来れないんじゃないかな。
と言うかいつの間に……ああ、そういえば帰りにヘスティア様一人で何処か行ってたな。その時か。
「もう許可はとってある。用意もしてくるってさ」
「はぁ、全くヘスティア様は勝手に話を決めて」
「仕方ないだろ。明日直ぐに出発しなきゃいけないんだから」
『『『『はぁ?』』』』
────待って?
異口同音が響き渡る。その中に俺も混じりつつも、思わず羊皮紙をガン見した。
「待ってください。明日直ぐ? その話、私聞いてないんですけど」
「ああ、ミリア君がキューイ君の関連でガネーシャと話している間にミアハから聞いたんだ」
『『『『──────』』』』
いや、いやいやいや。
朝一の行商馬車に乗って
明日の朝一? 正気じゃねェぞ!?
「ヘスティア様、それもっと早くに言ってくださいよ!? っていうかリューさんにも伝えましたか!?」
「大丈夫さ。エルフ君には序にレーネ君を捕まえてくるようにお願いしてあるから。明日の朝には集合場所に来るさ」
リューさんにレーネの捕獲を依頼したんか!? 滅茶苦茶良い様に使ってんじゃん!?むしろリューさんはなんでそれで承諾したんだよ!?
「いや、待ってくださいよヘスティア様、今から準備して明日の朝一とか時間が足りませんって!?」
「うおおっ、おい今すぐ準備するぞ!?」
「春姫殿、今すぐ自室に行って荷物を纏めましょう」
「は、はいっ」
どたんばたんと大慌てで荷物を纏める為に皆が駆け出していく中、慌てるでもなく何処か遠い目をしたディンケさん達の姿が目に入った。
「あー、ガネーシャ様も同じことやらかした事あるなぁ」
「アレは祭りの前日になって『もっと目立ちたいから』って滅茶苦茶な事をやろうとしたのが原因だが」
────主神の無茶振りが割と良くあるのか、二人は落ち着いた様子だった。
「ミ、ミリア、僕も準備するからキューイをなんとかしてくれない!?」
抜け出そうと暴れると際どいキューイの恰好がヤバくなる所為で動けないベルが助けを求めているのに気付いた。あのまま放置は流石に可哀そうだし、寝惚けたキューイを叩き起こして準備しないといかん。
というかキューイを隠蔽したまま島までいかないといけないんだが? ヴァンとクリスは【ガネーシャ・ファミリア】に預けておくしかないんだが? つか今から行かないといけないのか。
「ああもう、キューイ寝惚けてないでさっさと起きてくださいよ!?」
寝惚けてベルのシャツに盛大によだれを垂らすキューイの尻尾を引っ掴んで引っ張るが、離れる気配が無い。とろんと寝惚け眼で周囲を見回し、欠伸を零して再度ベルをギュッと抱き締め────
「グェッ……」
ベルが締め落とされる音が響いた。
「キューイ、直ぐにベルを放しなさいっ!!」
寝惚けてベルを絞め殺しかねんぞコイツ!?
……OVAⅡを改めて見直したけど、やっぱSAN値が削れるわ。発狂しそう。どう調理してやろうかしら……。
無人島『ユージン島』
・名前からして冗談染みているが、OVAⅡでの原作名称まんまである
・島の概要としては、島全体が貴重な薬草の宝庫(ナァーザ談)
・中には幻とされる究極の薬草があるとの噂(リュー談)
『ナンニデーモ菊』
・名前の通り、なんにでも
・モ〇ド『持ってるだけで恋人が出来た』
・ボー〇ス『持ってるだけで金貨のお風呂に入れた』
リューさんのポンコツ発言『レベル4ですから(キリッ』とか、暴走状態のヴェルフとか、最初の方は普通に面白いんだよなぁ。
どうしてキノコになったのか。何故キノコなのか……。