魔銃使いは迷宮を駆ける 作:魔法少女()
自分の名前は言えますか?
俺は言える……俺は、言えるはずなんだ。
俺の名前は――――――
「神様! このステイタス間違っていませんか!?
トータル150オーバーなんて初めて見ましたよ!! 耐久なんて今日ゴブリンに一回しか殴られてないのに凄く上がってますよ!!」
おおう、シャワー浴びてたらなんかベル君が騒いでるんだがなにかあったのか? というか、トータル150とか聞こえたぞ。何があったし。
今日のダンジョン探索を終え、ドロップアイテムの換金をして6200ヴァリスの収入があり、満足げにしていたが、ステイタスの更新で何かあったみたいだな。
まぁ、昨日のなんかが原因だろう。
「さぁ、成長期なんじゃない?」
…………ヘスティア様の返答に誤魔化す気が微塵も感じられんぞ。
「そうなんですかね。この調子なら直ぐにアイズさんに追い付けるかも」
……しかし、トータル上昇値150って、俺はせいぜい20かそこそこだったんだが。
まぁ、ベルが前衛をやってるし、後ろでほとんど動かずに魔法をぶっぱしてるだけだから魔力しか上昇しないんだよな。まぁ、今回はちゃんと敏捷を意識して走り回ったりしたから少しは延びたけど……
水気をしっかりと拭き取ってーっと、髪が長いと面倒なんだが、ヘスティアもベルも切らない方がいいって言うからな。
シャワーから出てチラ見したベルのステイタスの紙、敏捷がもうGなんだけど……えぇ、なにそれ凄くない?
俺なんてようやく魔力がIからHになりそうだなってぐらいなんだが……なにしたんだ? というかどんなスキルが発現したんだよ。
「そのヴァレンなにがしが――――
ヘスティア様よ、言いたくないが嫉妬はやめて差し上げてください。神様の嫉妬とか怖すぎわろえない。
とりあえず服を着ますか。ってキューイ、お前はここで何を……まぁいいか。犬猫に裸見られたからって騒いでも仕方ないしな。
「うう……」
「ふんっ」
服を着てから部屋にはいれば傷心を抱えたベルと不機嫌さをアピールしているヘスティアの姿が……
鼻息荒く不機嫌アピールは良いんだが、【剣姫】にはどうせ男の一人や二人居るに決まってるだとか、そもそもファミリア違うから結ばれるのは無理だとか、ベル君の心はもうボロボロだぞ。少しは手加減してあげるべきだと思うんだが。
「あ、そうだ神様、今日の朝にシルさんっていう女の子と会いまして、是非店に来てほしいって……三人で一緒に行きませんか?」
「シル……? 誰だいそれ?」
えぇ……へこんでたのに自分から地雷を踏みに行くのか。鈍感って怖ぇ……。ほら案の定、【剣姫】の件で不機嫌だったヘスティアさまもまた新しい女かと不機嫌さが増すしさぁ。
「大通りにある『豊穣の女主人』っていうお店で働いてる女の子です。今晩食べに行くって約束したんで一緒に「二人で親睦を深めてきなよ。そのシル君とやらとも良い感じになってくれば良いじゃないか!」え?」
まるで狙い澄ましたかのような地雷を踏み抜いていくベルの技能、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。って、冗談じゃない、ヘスティア様がコート着こんでどっか行っちまうぞ。
「ヘスティア様、今日は用事ですか? できれば一緒に行きたかったのですが」
嘘は何一つ言ってないぞ。割りと一緒に行きたかった。なんかあのシルっていう女が変な感じしたしヘスティア様にどんなやつに見えるのか確認だけでもしてもらいたかったんだが。
「ごめんねミリア君、実は前からミアハと飲みに行く約束してたんだ」
あぁ、なるほど。もともと約束があったのか。
「そういえば、二人には伝えてなかったね。ごめんよ」
別に気にしちゃいない。そも今朝約束して今晩行くって言うのが急すぎた感じなんだよな。
「そうですか、神様同士楽しんで来てくださいね」
「君たちも二人で楽しんでくると良いよ。あっそうだ」
そそくさと近づいてくるヘスティア様。
「その女がどんなやつか知らないけど。もしベル君に何かしようとしたら」
「わかってますよ。ちゃんと一線を越えそうなら止めますから」
むしろ、ベル君が一線を越えると思っているのか……見た目は幼くとも魅力的な胸のヘスティア様の誘惑に普通に耐えてる辺りベル君の理性は鋼かなんかだろ。
……アマゾネスの媚薬とかいうヤバいもんも出回っているらしいので、毒を盛られないか心配ではあったんだが、弁当は普通の食材で作られてたしな。
キューイに確認させた。毒見に使えるとか、便利だなぁ……あれ? 腐っても竜種のキューイは大丈夫でも、人間のベルはアウトな毒だったら……。
まぁ、なんだ。毒が入ってなくて良かったな。俺は見知らぬ人から貰った食べ物は口にできんからな。何入れられてるのかわかんないし。
あ、キューイは留守番ね。
「キュイ⁉」
だって人が多そうじゃん? 見つかったら面倒だし。お土産はちゃんと買ってくるから……ヴァリスに余裕があればね。
「ねえ、ミリア、あの店かな……」
「『豊穣の女主人』、店名も立地も記憶と相違無いので間違いないでしょう」
窓からちらりと覗く店内では、可愛らしい猫人とエルフなどの女性達が忙しなく動き回り客をもてなしている。
風俗関係ではなく一般的な酒場な感じだ。女性店員ばかりでベルは若干気圧されているが。
まぁ、そっち系列の店はこんな大通りに店を構えちゃいないだろう。確か、北の方に歓楽街、性産業が盛んな地域があったはずだ。【イシュタル・ファミリア】が取り仕切っているんだったかな。
「行かないんですか?」
「う……ちょっと……その……」
まぁ、女性に不慣れというか、綺麗な女性に気圧されるきらいのあるベルにこの店の雰囲気はきついか。
しゃーないし、俺が先陣切りますかね……幼女に先陣切らせるとか、見映えがアレだが。
「ベルさん、ミリアさん、来てくれたんですね」
おぉう。扉に手をかけようとしたら中からシルが現れた。ふむ? 昼間の変な雰囲気がしない?
「あ、シルさんどうも」
「こんばんは」
なんだろうね、雰囲気が昼間と全然違うんだが……あ、雰囲気っていうか、裏? なんか昼間と違う人に感じるんだが。
昼間に感じた変な感じ、あっちの方が俺の勘違いっぽいな。今のシルさんは普通の町娘みたいな感じがする。
「こっちの席へどうぞ」
シルは店の奥まったカウンター席に案内してくれた。
パルゥムの俺は酒場とかだとよく酔っぱらいに絡まれるらしいので目立ちにくい場所に案内してくれたらしい。気が利く……云々の前に、パルゥムの扱い酷くね? 合法ロリだぞ……まぁ冒険者基準で言えばこの扱いが普通らしいが。
しかしまぁ、綺麗どころを集めたもんだね。
茶髪の猫人と黒髪の猫人、エルフにシル。後は店の奥で皿洗いに勤しんでいるのか茶髪の猫人が汚れた皿を厨房に運び込む度になんかやり取りが聞こえるし。
……あれ? こんなに綺麗どころを集めた店なんだから酒に酔った勢いでやらかす客が居そうなんだが。ここ、酒場だよな? 酒の臭いもするし。用心棒が見当たらないんだが……大丈夫なのかこの店。客に紛れてる?
「あんたがシルの言ってた子かい。何でもあたしに――――」
でっけぇ……巨人って言われても信じてしまいそうなぐらいでかい女の人だな……って、俺がちっこいだけか。
ドワーフか?
「シルさんっ?!」
「えへっ」
「えへっじゃないですよ‼ 僕が大食いだったなんて僕自身初耳ですよ‼」
シルに食って掛かるベル。まぁ、あることないこと吹き込まれてたらベルも気にするのか。
ふむ、まぁ大なり小なり尾びれがつくのはしゃーないわなぁ。だからと言って強引に売り付けるのは良くないんだが。オラリオにそこらの法律は無いのかね。
何事もなかったかのようにメニュー表を差し出したシルの姿に感心したわ。
「それで、注文は何にします?」
「えっと……パスタ300ヴァリス?!」
「え?」
おい、待て。なんだその値段。
慌ててベルが持つメニュー表っぽいものを覗き込む。
パスタが300ヴァリス、飲み物が200ヴァリス。最安値でもそんなもんだ。水? んなもん頼むんじゃねえ的な雰囲気を感じる。
ここはキャバクラかなんかかよ……ああ言った店は接待料が含まれるから高いんだよなぁ。この『豊穣の女主人』の提供物、どれもこれも高っけぇ。パスタなんて普通の店なら120ヴァリスとか、高くても200ヴァリスぐらいだった気がするんだが。
「なににします?」
「えっと……パスタと飲み物を……」
「私も同じものを……」
駆け出しには間違いなくきつい値段設定なところを見るに、この店の客層は冒険者は冒険者でも、上位の冒険者を対象にした店なのだろう。
駆け出しのうちに店の存在をアピールしといて大成したらおもいっきり利用してもらう感じか。あくどいと言うほどじゃないが……狡猾だなぁ。
「わかりました。少し待っていてくださいね」
笑顔で対応してくれるが、はめられた感がするので素直に受け取れないだろ。心が広すぎるぐらいのベルですら顔がひきつってるんだからさぁ。
出てきたパスタの量を見て料金に納得。かなり多めだな。皿の上に小山になったパスタにたっぷりのミートソース。普通に美味そうである。
ただ、ベルの前に出されたパスタと俺の前に出されたパスタの量が同じってのは……いや、違ったら違ったで文句を言うだろうが、少し量を減らして値下げしてくんないかな。これ、ミリアちゃんの胃袋的に全部食えるのか?
「おいしい」
「そうですね」
ベルの一言に同意しつつも、この店のヤバさに気づいて内心ガクガクしてる。
ここの店の店員、綺麗だったりかわいかったりするわけだが、強さも別格っぽい。
本当に偶然と言うか、俺の座った席から店の奥の厨房が覗けるんだが……店の奥で皿洗いさせられてる顔面ボコボコの男がいるんだなこれが。うん、俺の知識が間違ってなければレベル3の冒険者だよな?
誰にやられたのかなって思うじゃん?
その冒険者は横に立っているヒューマンの女の子と肩を並べて皿洗いに勤しんでるわけよ。そこにこの店の店主のミアが行った瞬間。その冒険者のからだが震えて皿洗いのペースが上がったのだが、皿を落としたんだな。
そのあと……まぁ、なんだ。横のヒューマンの女の子がだね、ぶっ飛ばしたんだよ。誰を? 冒険者の男をだよ。顎を的確に打ち上げる一撃……だったと思う。ぶっちゃけ動きが全く見えなかった。ついでにミアも凄まじい威圧感を出して冒険者を睨んでた。
……あのミアの威圧感、こっちに向いてるわけでもないのにチビりかけた。ミノタウロスよりヤベェじゃねぇか。
『本日のおすすめ』850ヴァリスとかを頼んでもいないのに出してきたときは若干苛立ったが、あの光景を見てしまったことで逆らう勇気が消え失せた。料理はジャガ丸くんばっかで飽き飽きし始めていたところだったのも相まってすごく美味しく感じたので良いのだが。
酒の肴としての側面が大きいのか、どうも全体的に味が濃い目っぽい。
不味くはない。ただ、もう少し薄味の方が好みかなと言う程度だ。前世の俺の好みではあると思う。ただ、ミリアちゃんの舌には濃すぎるのか舌が痺れるぐらいだ。
変なもんは入ってないだろう。そんな感じはしないし……。
「お二人とも楽しんでますか?」
「圧倒されてます」
「そこそこですかね」
接客に余裕ができたのかシルがベルのとなりに腰かけた。
ベルの方は支払い金額を想像して若干顔が強張っている。夕食代はベル持ちだからな。まぁ、今回のダンジョンでの収入をベルが持っているだけだ。
幼女が財布取り出して代金支払いしてたらさすがにね? ベルの立つ瀬が無くなるし。
シルの自分語りを聞き流しつつ、パスタを食べる。
うん。余裕がないねこれ。お持ち帰り出来ないかなこれ、申し訳ないが食いきれん。小柄なミリアちゃんにこれはきついよ。
しかし、人間観察が趣味ね。色んな冒険者の夢や冒険の話を聞くのが楽しいんだと。
だから冒険者が数多く集まるこの店で働いてて、駆け出し冒険者なんかに積極的に声をかけてるらしい。
ふぅん。そうなんだ。いい趣味ですね。
別にバカにするつもりはないが、かといって感心するようなものでもない。下世話な話好きの主婦みたいなもんだろう。要するにどうでもいい。
俺も親父やベルみたいに真っ直ぐ夢を語る人は大好きだし。できるならそういった人の力になりたいとも思う。ただ、そういった人は数少なく。途中で挫折することも多いからなぁ。
割りと失礼なこと考えてると猫人が大きな声でご予約のお客がどうのと言っているのが聞こえてベルとシルの視線がそっちに向いた。
俺の位置からじゃ見えん。
「おい、見ろよあれ」
「おお、えれぇ別嬪。お近づきになりてぇ」
「バカ、エンブレムを見ろ」
「笑う道化師……」
「【ロキ・ファミリア】じゃねぇか」
「ってことは、あれが【剣姫】か」
「【
「壮観だな。近づきたくはないが」
ふぁ? 【ロキ・ファミリア】⁉
おいっ、聞いてねぇぞ?! 予約席とか言う札がおいてある席があったなとは思ったが、まさか【ロキ・ファミリア】だとか。帰りてえ。
「【ロキ・ファミリア】の主神ロキ様はこの店を大層気に入ってまして、よくファミリアの団員をつれてきて宴会を開いているんですよ。お得意様ですね」
………………なにそれ。
この店、二度と来たくなくなったんだが……。
カウンターの奥まったところにいるお陰で俺は見えないが、ベルはシルの影に隠れつつ憧れのアイズ・ヴァレンなにがしに熱い視線を送っている。
お願いだからここに俺が居るの感づかれないでくれ。頼む神様。
……相手のファミリアの主神も