魔銃使いは迷宮を駆ける   作:魔法少女()

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第一九五話

 今頃、都市の外部、オラリオから真東に三〇(キロル)程いった平原にてラキア王国────【アレス・ファミリア】────と、オラリオの【ファミリア】群との戦争、と言う名の茶番劇が繰り広げられている事だろう。

 そんな都市外のゴタゴタした茶番劇に巻き込まれる事を免れた、というよりは絶対に関わるな、と念を押された俺達【ヘスティア・ファミリア】は今までに無い程にまったりとした時間を過ごしていた。

 

「キュゥ~」

「はいはい、ミコトと春姫が朝食作ってるから少し待ちなさいな」

 

 【ヘスティア・ファミリア】の厨房でテキパキと朝食を作っている二人の所へ「お腹空いた」と突っ込もうとするキューイの尻尾を掴んで引き留める。

 食卓にキューイを座らせた所で、ぱたぱたと慌ただしく春姫が食事を運んできた。

 黒の仕事着(ワンピース)と白の前掛(エプロン)、そしてホワイトブリム。とメイド服に身を包んだ彼女が懸命に働く姿を見やり、卓に置かれた焼き魚に手を伸ばそうとしたキューイを引き留める。

 

「皆が揃うまで待ちなさい」

「キュイッ!」

 

 お腹空いたっ、と大きく叫ぶキューイに軽く溜息を零す。

 姿こそ俺をほんの少し成長させただけの姿に竜の翼と尾というだけの姿なのだが、中身が元の竜のまま。人の姿になったからには最低限、人としてのマナーぐらいは覚えさせなければと食卓を共に囲もうとするのだが、我儘っぷりは変わりない。

 

「おはよう、ミリア君」

「おはようミリア。良い匂いだね」

 

 溜息を零していると、食堂にヘスティア様やベルも姿を見せた。

 

「おはようございます。ヘスティア様。それと、おはよう、ベル。今日の当番はミコトと春姫よ」

「なるほど、今日はミコト君が当番か。通りでね」

 

 【ヘスティア・ファミリア】は基本的に一日事の交代制で食事当番を行っている。よほどの事が無い限りは、ヘスティア様も含めた二人から三人で食事の準備を行っている。

 まぁ、俺は例外的にギルドへの提出書類を纏めたりで余り手伝う事は少ないが、やっていない訳ではない。

 例えば、ヴェルフ、イリス、フィアの場合は火を通しただけの俗にいう男料理。リリ、ディンケならば材料(コスト)をギリギリまで抑えた節約料理。エリウッド、メルヴィスならば野菜がふんだんに使われた健康料理。ヘスティア様の場合は手を抜ける所は抜いた手抜き料理。ベルならば普通の家庭料理。と、調理人の性格や腕によってバリエーションは様々。

 ちなみに、俺が料理人になった場合は『凄く美味しいが申し訳なくなる』と言うコメントを頂いた。前日から書類仕事で夜遅くまで起きてた状態から、朝早めに起きて食事の準備して普通に美味しい食事を提供しただけなのだがね……。

 

「ああ、みなさんおはようございます。直ぐに準備いたしますので座って待っていてください」

「ミコトちゃん、お茶碗はこれでいい?」

「はい、春姫殿」

 

 ぱたぱたと準備していたミコトが忙しそうに調理場を行き来するさ中に漂ってきた匂いに懐かしさを覚えた。オラリオに来てからはソース系かトマトで煮込む系が多かったからか、味噌の匂いは非常に懐かしい。

 

「へぇ、今日は味噌汁ですか」

「味噌汁? なんだいそれは」

「出汁汁に味噌を溶かした料理ですよ」

 

 少なくともオラリオでは見た事が無い。時折、極稀にだが極東の食材を取り扱う行商人は居なくはない。ないのだが、どれもこれも輸送費やら何やらでかなり値が吊り上げられており非常に高い。

 高い、のだが……本当に稀に、間抜けな行商人が『味噌』の価値がわからずに捨て値同然で売っている事があったりするので、稀に格安で手に入りはするのだが。

 

「極東の伝統料理もよくご存じですね」

「流石ミリア様ですね」

 

 ミコトと春姫が準備を進めながらも感心した様に呟くのを聞いて、思わず頬を掻いた。

 極東の人間ではないと思われている俺が極東の伝統料理を知っている事について感心されてもなぁ、という感じはするのだが。実際にはオラリオの人間でも無い訳だし。

 

「それで、その味噌汁というのはどんな味なんだい?」

「少々お待ちを」

 

 食事の準備をしながら、手早く小皿に一口分の味噌汁を用意して二人に渡すミコト。その横で春姫がせっせと料理を運んでいた。

 

「ミリア殿もいかがですか?」

「ん、いや、この後十分に味わうから遠慮しとくわ」

 

 横のキューイがジィーッと春姫が運んできた小皿を見つめているのを引き留めてる。その間にも味見をした二人が頬を綻ばせていた。

 

「何だか、ほっとしますね」

「うん、美味しいよ。これがミコト君達の郷土料理(ソウル・フード)って訳だ」

 

 ちょっと心配ではあったが、味噌汁の味が二人の口に合って良かったよ。それよりキューイ、お前『待て』も出来んのか! 焼き魚を丸かじりしようとすんな! 頼むから!?

 

 

 

 朝からキューイの暴走を止める騒動を終え、朝食後。

 ヘスティア様はバイトへと出かけ、ディンケ改宗予定組は一足早くダンジョンへと行き、残った【ヘスティア・ファミリア】の面々は一階の居室(リビング)に集まっていた。

 「ど、どうぞ……」と恐る恐る皆にお茶を配っている春姫はキューイにもお茶を出し、熱々のお茶を戸惑いなく一気飲みしたキューイに小さく悲鳴を零す。そんな様子にベルがキューイは大丈夫なのか心配したり、その後も平然そうなキューイに皆して呆れたりしていた。

 そんな一幕もありつつ、俺達はテーブルを囲んで会議(ミーティング)を開始した。

 

「では、春姫様と人化してしまったキューイ様に迷宮探索に参加していただくか否かですが……」

 

 司会進行役としてリリが口を開く中、皆の視線は春姫とキューイに向けられる。

 視線を向けられた二人は、片や太い狐の尾を若干緊張させ、片や欠伸混じりに尻尾を揺らす。

 

「正直に言いますと、リリは何が何でもお二人には着いてきて欲しいと思っています。春姫様の『魔法』は説明不要なほど、強力ですし。キューイ様の『索敵能力』には今までずっと助けられています」

「前提として、キューイの方は皆に抵抗感が無いのならば問題無いと思うわ。ただ、武具を持たせて、となるとある程度の習熟期間が必要だから暫くは素手で、ってなるし……今までのキューイの戦い方が出来る、と言う訳ではないはずよ」

 

 火炎球(ブレス)はできなくはないが、顎で噛み潰すといった行動は流石に不可能。加えて、耐久面は今まで通りだとしても、その容姿から負傷時に俺達への精神ダメージが洒落にならない可能性は高い。

 

「故に、キューイは今まで通り索敵は任せるけど、戦闘面では戦力低下は免れないと考えて頂戴」

「ギルドの方はどうなんだ?」

 

 ギルドの方、つまり人化したキューイの扱いに関してであろうが。

 そちらについては既に解決済みだ。神々の了承も一応得ている為、何の問題も無い。

 

「キューイに関しては既に解決済みですので、連れ歩いても問題は……ぁー、無くはないですが、世間体の方は問題ありませんよ」

 

 ノーパンで駆け回る俺とよく似た姿の竜、と言う意味で俺への風評被害以外は何も問題無い。

 …………キューイ専用の下着の開発が急がれるな。

 

「了解だ」

「うん、仕方ないよね」

 

 ヴェルフとベルが頷き、他の面々も頷いてキューイに関しての話し合いは終了。残るは春姫について、なのだが。その件についてはやはりミコトは良い顔をしない。

 

「春姫殿については、『魔法』の効果を間違っても知られる訳には……」

「勿論です。ですがやはり、春姫様の存在はパーティにとって限りない武器となります。ベル様達の危険もぐっと減るでしょう。使用場面や頻度、隠蔽方法を入念に検討した上で、リリは同行を希望します」

 

 整然と自分の意見を述べたリリは進行を見守るべく一歩引いた。

 春姫が扱う魔法【ウチデノコヅチ】、効果は『階位昇華(レベルブースト)』。

 他者のLv.を一段階【ランクアップ】させる超越魔法(レア・マジック)だ。この法外の『妖術』を利用しようとした【イシュタル・ファミリア】によって命を脅かされた様に、春姫の『魔法』が明るみになれば、彼女を誘拐して悪用しようとする者は必ず出る。

 同時に、その魔法を使わないのは宝の持ち腐れとしてしまうのは惜しいどころの話ではない。というリリの意見にも同意できる部分はある。

 Lv.が一つ違うだけで、本当に次元が変わる。のだが……。

 

「春姫の【ステイタス】的に……言い辛いけど、必要時以外はカーゴに押し込めておいて秘匿して常に守ってたんでしょうね。専門の護衛付きで」

「はい、ミリア様の仰る通りです。モンスターとは、一度も戦った事はありません……」

 

 『魔力』の能力値(アビリティ)を除けば、全てがサポーターであるリリすら下回る。専属護衛すらつけられて守られるだけだった彼女に最低限の自衛を求めるのすら酷だ。

 かといって、彼女専門の護衛役を用意する余裕はウチの派閥には残念ながら、存在しない。あれは大派閥である【イシュタル・ファミリア】だからこそできた事である。

 皆して難しい表情を浮かべて唸る。

 

「……どうする? ホームに留守番させるか?」

 

 本来のメイドの仕事通りに本拠に残ってもらうか、とヴェルフが声を上げた。

 そんなさ中、ミコトがベルの表情を伺う。一応この派閥の団長であり、春姫を助け出そうと奔走したベルの意見を聞きたいのだろう。

 

「……アイシャさんと、約束しました。何が一番いいのかわからないですけど、でも、ダンジョンでもどこでも、僕は春姫さんを……その、ま、守ります」

 

 後半は尻すぼみになっており、締まらなかったがベルの放ったそれは誓いの言葉だ。

 リリが面白く無さそうな表情を浮かべ、春姫が頬を赤く染め始めた所で、ベルは首を横に振って顔を上げた。

 

「……春姫さんだけじゃない、皆を、僕が守ります」

 

 何処か苦し気に、それでも、その誓いを貫かんとする決意はしかと感じられる程に力強く。そんな宣言をしたベルの腰を、ヴェルフが叩いた。

 

「守り守られ、だろ。守られるだけじゃあ、恰好が付かないだろ」

「うん、ありがとうヴェルフ」

「まあ、ミリアはもう少し守られてくれるとありがたいんだがなぁ」

 

 冗談交じりにそう肩を竦めるヴェルフに肩を竦めて応えながら、春姫の方を伺った。

 

「で、春姫はどう思うの。私達がどれだけ話し合ったとしても、最終的には貴女が決める事よ」

 

 もしここで、本拠で留守番をしていたい、というのなら本拠に春姫の護衛としてクリス当たりを残していくだろう。

 冒険を共にする、と決意するのならば……その場合も彼女の護衛はクリスに任せる事になるのだろうなぁ。キューイが前衛張れなくなっている現状、ヴァンを春姫の護衛に付けるのは無理があるし。

 

「…………付いて行きます。春姫は、皆様のお力になりとうございます」

 

 たっぷりと時間をかけて悩んだ彼女は、か細い声でしかと答えた。

 ミコトやベル、皆の顔を見回して、春姫はその翠の瞳に覚悟を滲ませる。

 

「わ、(わたくし)達は……家族(ファミリア)ですから」

 

 最後には俯いて赤面しながらも、か細い声で告げた。

 羞恥に悶えて顔を真っ赤にし、耳と尻尾をもじもじと揺らす【ファミリア】の仲間の姿に、俺達は自然と頬を綻ばせていた。微笑むミコトも、異論を唱える事はしない。

 隊員(パーティ・メンバー)はこれで八名+α。

 サポーター兼妖術師として新たなメンバーを加える事となった。

 

 

 

 

 

 怪物の咆哮が轟き叫ぶ、暗闇に支配された地中深く。

 剥き出しになった灰色の岩盤が目に付く岩窟内。頭上を飛び交う複数の蝙蝠、穿孔する壁の穴から飛び出してくる捕食者(ワーム)、強力な遠吠えをぶつけてくる大虎(ライガーファング)────様々なモンスターの混声が響く中、負けじと声を張り上げる。

 

「右方向、ライガーファング、三。ミコト、左壁面からワームよ! 加えて頭上バッドバット!」

「ヴェルフ!」

「わかってる、右は任せろ!!」

「自分の方は問題、ありませんっ!」

 

 返事代わりにワームを切り捨てたミコトが更に前進し、続くベルが純白の金属光沢を薄闇の中で煌めかせながら跳躍し、ミコト目掛けて頭上から迫ったライガーファングと交差、一撃で仕留めた。

 その間にも俺は空を飛び交う蝙蝠のモンスターを撃ち抜き続ける。

 ダンジョン15階層。

 会議(ミーティング)を終えた俺達はさっそく、迷宮探索へと訪れていた。

 第二級冒険者となったベルと俺の能力(ステイタス)、それに加えてヴェルフが作成した新武装の力をもって堅実、かつ破竹の勢いで進み、未到達階層であったこの階層にまで足を進めた。

 ハンドボウガンで後方から援護射撃をするリリの真横、俺の後ろであわわわっ、と圧倒されている春姫を他所に、ベルやミコトは押し寄せるモンスターの群れと激しい交戦を続けている。

 

「前方、『ミノタウロス』二匹接近! 左通路、ライガーファングのお代わり、三!」

「『咆哮(ハウル)』が来るぞ! リリスケ、耳を塞がせろ!」

 

 キューイの注意喚起を聞いて叫びつつ、『咆哮(ハウル)』を放とうとしたミノタウロスを狙い撃つ。

 前衛のベルとヴェルフとヴァン、中衛のミコト、俺、キューイ、後衛のリリ、春姫と配分された面々は、前方から絶え間なく襲い来るモンスターに不足なく対応できている。

 

「追加、ミノタウロス一、ライガーファング二、ワーム六ッ! リリ、今度は本当に耳を塞いでっ!」

 

 次々に、本当に絶え間なく現れるモンスターの中で飛行系に対応していた所為で、反応が遅れた。装填(リロード)する時期ぴったりに姿を見せた2М(メドル)を超える巨躯、その牛頭人体の怪物は俺の次の射撃を前にその顎をあけて大喉を震わせた。

 

『ヴヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

 

 原始的な『恐怖』で生物の動きを封じる威嚇、強制停止(リストレイト)を引き起こす『咆哮(ハウル)』をミノタウロスが放った。

 僅かに手が震えるが俺の戦闘続行に問題無し。リリが自身の耳を塞ぎながら春姫の獣耳を覆い被さる様に抑え込んで、Lv.1では抵抗困難なその絶叫に耐える。

 そして、それをもろに食らったヴェルフは、僅かに身を仰け反らせ────不敵な笑みを浮かべた。

 昇格した『器』、心身の強さを遺憾なく発揮し、ベルやミコトと同じ様に戦闘を続行。

 

「あの時とは違うからな!」

「ヴェルフ、右方向ライガーファング!」

「おうよ!」

 

 迷宮決死行のさ中、ただ足を引っ張っていた事を気にしていたのであろうヴェルフが意気揚々とライガーファングを切り捨てる。

 ベルが難無くミノタウロスを切り伏せる間にも、更に追加でモンスターが迫ってくる事をキューイが知らせた。

 

「キュイキュイ」

「……ああもう、後何匹居るのよ」

「ミリア様、『魔剣』行きます!」

 

 『咆哮(ハウル)』の余韻から回復したリリが叫ぶ。大型のバックパック側面から緋色の短剣を見て、俺はキューイの腕を引っ掴んで道を開ける。

 

「ヴァン、回避よ!」

 

 ミコト、ヴェルフ、ベル、そして最前線でモンスターの足止めをしていたヴァンが飛び退いて全員が左右に別れた。

 すかさず、リリが振り下ろした短剣が、業火の砲火を放った。

 

『───────────────ッ!!』

 

 瞬く間に大炎塊が放たれ、進路上のモンスターを分け隔てなく灰へと変えていく。

 体皮の力によって炎に耐性を持つ筈のミノタウロスも例外ではない。進路上全てのモンスターを一掃し、岩窟の表層を焦がし、モンスターの姿は焼失した。

 

「リリスケ、易々と使うな!? 『魔剣(ソレ)』はあくまで非常用だ、ぽんぽん使ってたら俺達(パーティ)の為にならない!」

「今のは十分非常時でした! ミリア様の射撃が遅れてミノタウロスが『咆哮(ハウル)』を使う余裕があったのですよ!? あのままでしたら、綻びが出て瓦解していました、何かがあってからでは遅いのですから!!」

「ま、まぁまぁ、ヴェルフ、リリ……ミリアは大丈夫? 反応遅れてたって」

「お、お二人とも、ここで大声を出されては、またモンスターが……はうっ」

「春姫殿の言う通りです。ここは落ち着きましょう。それとミリア殿、無理などはなさっていませんよね?」

 

 ぁー、タイミングが悪かっただけ、なんだが……。

 次々に現れるモンスターに対応していたら、装弾数が合わなくなって装填とかぶってしまっただけで、体調には何の問題も無い。しかし、ベルもミコトも心配そうに此方を伺ってくるのだ。

 なんか申し訳ない……。

 

「まったく、次はもっと慎重に使えよ」

「リリはいつだって慎重に使うべき場を選んでいます」

 

 ふんっ、と言い争っていた二人がようやく落ち着く。

 リリが使用したのは短剣型の『魔剣』────『クロッゾの魔剣』だ。

 リリと春姫、後衛達を護衛しながら中衛と前衛指示にまで回ると俺の負担が大きすぎるという事で自衛及びに緊急時のため、ヴェルフは『クロッゾの魔剣』を製作し譲渡してくれた。俺も一応、一本もらった。

 18階層で使用されたものや、戦争遊戯で使用されたものに比べれば────禁忌の一本を除いても────威力は格段に落ちているが、それでも上級魔導士の砲撃と同等の威力を持っていた。

 ヴェルフの言い分はこうだ、『クロッゾの魔剣』に頼るな、ソレはパーティの意識や力を腐らせる。今の戦闘はそのままでもなんとかなった。

 対するリリの言い分は、窮地に陥る前に安全第一でいくべき、という自分の意見は決して曲げない。何が起こるかわからないダンジョンでは出し惜しみせず、常に石橋を叩いて渡らなければならない。

 どちらも言ってる事は正しく、間違っていない。

 ヴェルフにリリ、どちらもパーティの、ひいては家族(ファミリア)を想って言ってくれているのだから、嬉しい……嬉しいんだが、その言い争いのきっかけとなってしまった事は申し訳ない。

 もう少し慎重に、残弾数にも意識を回しておけば……。

 

「……はぁ、俺が悪かった。だから気にすんな」

「……リリも、少し熱くなり過ぎました。すいません」

 

 すっと二人が矛を収める。

 その様子を見ていた春姫がほっと胸をなでおろし、ベルとミコトは溜息を零していた。

 

「そんな事より、春姫様、此方に来てください」

「はいっ」

 

 リリが手早く灰となったモンスターの下へ春姫を呼びつけ、サポーターとしての指示をし始める。

 

「これが『ドロップアイテム』でこれが『魔石』……」

「そうです。『ドロップアイテム』はリリのバックパックに詰めますので、『魔石』は春姫様が持っていてください。──────決して落してはいけませんよ?」

「は、はいっ!?」

 

 おっかなびっくり、春姫が灰の中から戦利品を拾い上げていく。

 春姫の装備は【イシュタル・ファミリア】の時にも使用していたらしい巫女装束に似た極東式の長い戦闘衣(バトル・クロス)──アイシャが押し付けてきた品である──に筒形のバックパック。そして俺達が纏っているのと同様の火精霊の護布(サラマンダーウール)だ。

 正真正銘、非戦闘員としてパーティに組み込まれている彼女に対し、リリは「これからサポーターとしてビシバシ鍛えていきます!」と宣言し、春姫はぺこぺこ頭を下げて「どうかよろしくお願いします!」と畏まっていた。その所為か、妙な師弟関係が発生している。

 苦笑しながらも、このままこの場にとどまっても良い事は無いので進行を再開する。

 

「この15階層まで探索をこなせていますし、非常に順調ですね」

「ベル様とミリア様のLv.とパーティの力量(バランス)を考えると、余裕はありますからね」

「エイナさん…………アドバイザーの人も一足飛びじゃなきゃ18階層まで行ってもいいって許可をくれましたし」

 

 通路を歩きながら放たれたミコトの声に、リリとヴェルフが同意する。

 曰く前衛は完璧である、とリリが続ける。

 

「このパーティの弱点は、リリ達後衛が力不足という点ですね」

「……そうかしら? そこまで力不足な感じはしないけど?」

「ミリア様、本日のクラスは何ですか?」

「汎用性が高いファクトリーだけど……」

 

 リリの指摘に首を傾げる。

 汎用性もあるし後衛としてはそれなりだという自負はあるのだが、何か足りないものでもあるのだろうか?

 

「……ソコ、なのですが。はぁ、良いですかミリア様。力不足、というのは継戦力の方です。戦い続けるとボロが出る、と言うと聞こえは悪いかもしれませんが。ミリア様はいくつもの役割を一人でこなす影響か、疲労しやすいのです」

 

 後衛の能力、という一点だけを見るなら最高峰の能力を持っている。それは間違いないのだが。

 問題は()()()()()()後衛が一人しか居ない事である。

 

「本来ならば正式な治癒士(ヒーラー)が欲しい所ですが……ミリア様が出来ますね」

「魔術師もな……ミリアが出来るな」

 

 『魔剣』の使用を忌避するヴェルフが釘を刺そうとして、俺を呆れた様に見やった。

 そうか、それが問題な訳か。

 やろうと思えば、魔術師としての攻撃支援も、治癒士(ヒーラー)としての補助支援も出来てしまう。だからこそ、やれる範囲全てに手を伸ばそうとする俺の悪癖が────待って。

 

「ちょっと、その悪癖って何?」

「何? って自覚無い訳ありませんよね。ミリア様は自分が出来る事ならば自分がやろうとする悪癖があります」

「魔術師、治癒士(ヒーラー)、加えて調教師(テイマー)、と一人何役やってるんだって話だしな」

 

 ぐぬぬぅ~、と唸りながらキューイとヴァンの様子を伺う。

 ヴァンの背に乗っかったキューイがキュイキュイ言いながら前進を続けている。少し前過ぎるから、下がって、どうぞ。

 

「はぁ~、全く。酒場のリュー様は、確か回復魔法もお使いになられるんですよね? 18階層で見た攻撃魔法も凄かったですし、……あぁ、パーティに加わってくれないでしょうか?」

「私が居るでしょ?」

「ミリア様の負担を減らす為に、ですよ」

 

 呆れた、とでも言わんばかりに肩を竦めたリリの視線に射抜かれ、思わず視線を逸らした。

 

「で、どうなんですかベル様?」

「いやぁ、それは流石に……ミ、ミアさんも怖いし」

 

 リリの希望にベルが表情を強張らせた。酒場『豊穣の女主人』の元冒険者であるリュー・リオン。彼女を冒険者としてパーティに加えるのは無理があるし、何より店主のミアを怒らせると非常に恐ろしい。

 終いにはベルは『無理デス』と絞り出す様に答えた。多分、怒ったミアさんを想像してしまったに違いない。

 

「暫く探索を続けたら、一度14階層へ戻りましょう。打ち合わせ通り、人気のない十分な安全地帯で春姫様の『魔法』をパーティ一人一人に試しておかなくては」

「ですね。いきなり使用されてもきっと混乱してしまいますし」

「序に、キューイやヴァンに使ってみて効果があるかも知りたいわね」

 

 可能性としては、キューイは適応しそうな気はしなくもない。元が俺の魂の欠片っぽいし? ヴァンの方は……難しいだろうか?

 想像ではあるんだが、俺が春姫の『魔法』の効果を受けて【ランクアップ】中に召喚魔法を唱えれば強化された状態になるのではないだろうか? もしくは、竜に対する階位昇華を行うとか?

 

「と言う訳ですので、春姫殿、よろしいですか?」

「はい」

「ベル、お前は一度かけられたんだろう? どんな感じだった?」

 

 ヴェルフに問いかけられたベルは、あの時の状況を思い出すかのようにうんうん唸りだす。

 

「えっと……ぱーって光って、力が強くなって、早く動ける様になって……」

「曖昧だな」

「う、上手く説明できないんだけど、力が溢れてくるって感じがして……」

「…………? あー、わかった。よし、春姫、この後楽しみにしてるからな」

「あっ、はい。よろしくお願いします」

「私も、少し気になるわね」

 

 春姫の【ウチデノコヅチ】を受けた感触はどんな感じなのだろうか。割と楽しみだ。




 ラノベ第8巻の内容に入っていきますがー……。

 よくよく考えるとヘスティア様誘拐事件とかあるんですよね。

 ………………ラキア王国、ヤバない?

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