魔銃使いは迷宮を駆ける 作:魔法少女()
あのさぁ、【ロキ・ファミリア】ってなんか俺に恨みでもあんのかよ。なんでピンポイントで俺やベルを話題に出すんだよ。
しかも、俺が吐いてた嘘がモロバレじゃないですか。
何のためにキューイ関連で捕まってただけだと嘘ついたのかわかんなくなるだろ。
間違いなく、泣いてたぞ。俺が男の姿だったら迷わずに慰めに行くが……今の俺は
魔法やスキルなんかの関係もあるし、見た目は幼くとも中身は四十過ぎである。要するに人生経験が違う。だからこそ罵倒も侮辱も聞き流せるのだ。
ベルからすれば、自分より幼いのに強くて頼れると感じてしまうだろう。そんな俺に慰められても逆効果にしかならん。
だが、俺からすればベルの方が俺なんかと比べるまでもなく素晴らしい人物だと言えるんだがな。
ともかく、俺が慰めに行くべきじゃない。
女であることを武器にして慰める方法もあるが……。
男ってのは適当に女を抱けば立ち直れる場合が多い……。それで立ち直れるなら俺でよけりゃ好きにしてもいい。
だが、ベルには難しいだろう。無理に抱かせた場合、逆にストレスが加速しかねんしなぁ。
……ベルに嫌われたかな。それは、すごく嫌だな。
『豊穣の女主人』という店は、綺麗な女の子がウェイトレスを務め、料理も酒もどちらも美味いと言う冒険者御用達とも言える店である。
値段が少し高めでもリピーターが多いのはそういった理由が存在する。
まぁ、俺にはどうも濃い目の味付けが合わないらしく舌が痺れを覚えるぐらいだったし。【ロキ・ファミリア】が常連客だと言う情報から出来る限り近づきたくない店として記憶したわけだが。
「勝負や! 勝った奴はリヴェリアたんの胸揉む権利やるわ!」
「俺も参加するッス!」
「俺もだ!」
「ヒック、あ、僕も参加するよ」
「団長っ⁉」
騒がしいファミリアだこと。まぁ、別に酒場で騒ぐななんてアホなことは言わないが。
なんつーかなぁ、席が悪くて【ロキ・ファミリア】の様子が確認できん。まぁ、こっちから確認できないってことは向こうからも見えてないってことだから良いんだけどね。
それにしても、ベル君はストーカー予備軍状態なんじゃないか? さっきから「アイズさん……はぁ……」と悩ましげなため息ついてるし。
件のアイズ・ヴァレンなにがしさんがどんなのか知らんが、あんま目立たんでくれよ? ここに俺が居るのばれると必然的にあのロキとか言うヤバい神様とエンカウントするはめになる。
「ぷっはぁっ、ガレスやりおるな」
「ふっ、まだまだ余裕だ」
「団長、胸なら私のを好きなときに好きなだけ触っても良いですよ」
「いや、ティオネ。遠慮しておくよ」
はぁ、ほら、フィンさんには熱烈な女性が居るじゃん。そっちの女の子の胸にでもしゃぶりついてろよ。見た目的にお似合いだろ。
……はぁ。ウチの少年は恋する少年状態だし。向こうはちょっとはめを外した宴会だし。そろそろ帰りたいんだが……シルさんはベルの様子を見て首をかしげてるし。
「ミリアさん、ベルさん、もしかして……」
「お察しですよ。それよりも食べきれなかったパスタ、包んで貰っても良いですかね?」
「あ、はい。少し待っててくださいね」
あぁ、良かった。お持ち帰りできるのか。ヘスティア様にー……あっちはあっちでミアハ様と楽しんできてるか。明日の朝食かな。朝からこの味付けは辛い……いや、ベルは平然としてるし。普通の味付けなのかね。
しっかし、この場から動けんのよなぁ。出て行ったら間違いなく見つかるだろうし。向こうが飲み終わるか、酔ってべろんべろんになるまで待機か。
「アイズさん……はぁ……」
……ベルはこんなんだしなぁ。
そろそろ頃合いか? 酒飲み対決みたいなのやって半数がべろんべろんになってるっぽいし……くっそ、なんで酒場に酒飲めない未成年っぽい子供まで連れて来てんだよ……ベルもまだ酒は飲めないからブーメランになるが……。
願わくば酔ってないっぽいリヴェリアとヴァレンなにがし、後はレフィーヤ? とか言う人物がこっちの顔を認識してませんように……リヴェリアってのはあの綺麗なエルフ様よな? ……ダメじゃねぇか。いや、ごく自然に出て行けばワンチャン? ここで目立たなければいけるいける。
「よっしゃあ、アイズ。そろそろあの例の話、皆に披露してやろうぜ」
「あの話?」
お? 男の声? 話の流れ、変わったな。店の中の人達の注目もあの男に集まって……この隙に逃げよう……ってベルも注目してるし。と言うか変に注目が一点に集まってる時に動くとこっちに注目が集まるなこりゃ。どうすりゃいいんだこの状況。
「あれだって、帰る途中でいきなり逃げ出したミノタウロスの――――」
ふむ? ミノタウロス……俺が半殺しにあって、ベル君が追い掛け回されたモンスター……?
……嫌な予感がするな。
「五階層でお前が一匹始末したろ? その時居たトマト野郎の」
……ベルの事か? おい、それベルの事か? いくらなんでも笑い話風にすんのはやめてやれよ。死にかけたんだぞ……。
……まぁ、駆け出し装備のまま、油断と慢心に塗れて調子こいて五階層まで足を運んだのは否定できんのだが。
ベルは大丈夫……うわぁ、これは気付いちゃってますねぇ……どうしよ……いや、ここから離れるか。しゃーなしだな。ベルの肩を叩く。
反応は無し。ただ震えているだけ。
「アイズがぶっ倒したミノタウロスのくっせぇ血を浴びて、真っ赤なトマト見てえになっちまったんだよ」
「「「あはは」」」
失笑……みたいな感じの笑い方だな。あまり愉快な話と言う訳ではない様子だ。だがそれでもベルにとっちゃ赤っ恥だな。トマトだけに。誰が上手い事言えと。
「それでだぜ、そのトマト野郎。叫びながらどっかに行っちまいやがってよ」
「ベート、ストップだ」
「あぁん?」
お? 団長さんのストップ入りましたね。まぁ、ベルへのダメージは絶大っぽいんだがな。テメェもっと早くに止めろよ。と言うか何で報告しなかったし。声からして男……ベート? ベート……【
……ベル君は運が無かったな。だから、その……直ぐ此処を離れよう。お願いだから俯いて震えてないで反応してくれー。
「ミリアさん? どうしました? ……ベルさん。顔色悪いですよ? ……? ベルさん?」
シルさーんっ! シルさん来たこれで勝つる。ほら綺麗な女の子だぞー。ベル反応しろよー……あぁ、周りが見えてねぇなこれ。
「その報告、なんで僕の方にしてくれなかったんだい? 何かあれば報告する様にって指示した積りだったんだけど」
「あぁ? いちいち雑魚の事なんて報告する必要ねえだろ」
あーはいはい。なるほどね。ヴァレンなにがしと同じタイプか。ベルの事を雑魚の一言でお終いな感じ。悲しいねぇ……事実だけど。ねぇベル、そろそろ離れようぜ。腕掴んでもダメだこりゃ……。
キスでもしてやろうかな。ほら、こういうショッキングな出来事ってのはキスみたいな唐突な衝撃的な出来事で上書きすりゃぁ……やめとこ。ベルがファーストキスかは知らんが。夢見る少年の唇を奪うのはどうかと思うし。
「はぁ……今は宴の席だからこれ以上は言わないけれど。今度からはちゃんと報告する様にしてくれ」
「チッ、わぁーったよ。ったく面倒臭えな」
あはー……宴の席だから少しは許すね。……そうだよな。ベートって奴も酒が入ってたんだからしょうがないよな……ベルからすりゃ変わらんか。事実を指摘されてんだもんなぁ。
「アイズも、何で報告しなかったんだい?」
「……ごめんなさい」
「はっ、そりゃ決まってんだろ。家のお姫様は助けた相手に逃げられちまったんだよ。情けねえったらありゃしねぇぜ」
「……はぁ、今度はしっかり報告する様にね?」
「…………はい」
……人並みに羞恥心があった訳か。ベルに逃げられた事をショックに思う程度には……ねぇ。
……はぁ、このままベルを慰める……難しいかなぁ。
「ベート、いい加減にしろ。そもそも十七階層でミノタウロスを逃がしたのは我々の不手際だ恥を知れ」
「んだぁっ?! ゴミをゴミと言って何が悪い」
あははー……ゴミだってよ。ちょっとベル君。強く手を握りこみすぎぃ。爪食い込んで血が出てるよー。ほら痛いでしょー……手を開いて。深呼吸だ、ほら、ひっひっふーひっひっふー……聞こえてないかこれ。くっそ。あの狂犬、黙らせらんねぇかな。
とりあえず回復魔法を使って回復ーっと……あっ、やべ、シル見てんじゃん。シルさん。この事は内緒にー……流石シルさんだ。頷いてるし黙っていてくれるらしい。
「っつーかよ。フィン、テメェが助けたあのガキはどうなったんだよ」
「ガキ?」
「てめえがお姫様抱っこして運んでた金髪の血塗れだったガキだよ」
「お姫様抱っこですってっ!? 団長っ!! どういう事ですかっ!!」
「ティオネ君は座って……ノースリスさんの事だね? 彼女なら仲間の安否が気になると言って主神に尋ねるべく帰って行ったよ」
今の女の声、なんか殺意が籠ってたよな?
「団長にお姫様抱っこされるなんて……アバズレに違いないわ。どっかで始末しないと……」
…………えっと。ティオネちゃんの声かなぁ? ……なんか知らんけど。敵視されてる? あぁ、団長さんにおっぱい揉ませようとした子と同じ子じゃね? そんな怖い事言わないでよー……待ってね。
えっと……うーんと……ティオネ……ティオネ……いや気の所為じゃね? まっさかぁ……あははははは……。
……ちょっと話変わるね。【ロキ・ファミリア】に所属してる第一級冒険者はレベル6が三人。レベル5が四人だったはずだ。
その中でレベル5がベル君の初恋相手【剣姫】、ベル君を貶した【
確かー……どっちかがティオネ、どっちかがティオナとか言う名前だったよなぁ。
ははっ……俺の記憶が正しけりゃ、知らぬ間に第一級冒険者に始末対象に指定されてますね。
……あの糞王子、見た目可愛らしい癖に俺の死亡フラグをガンガンおったててくれやがる。アイツ絶対俺になんか恨みあんだろ。俺なにしたよ。
「はっ、ボロッちい装備で半殺しにされてよ。逃げる足もねぇ癖にダンジョンに潜ってんじゃねえよ」
あははー……不相応な装備が嫌で駆け出しにお似合いの安いローブだったんだが。第一級冒険者には不評みたいですねー。はぁ……つか俺の話題だす……ベル?
「ミリア、半殺しって……どういう事? キューイの事で色々聞かれてたんじゃ……」
…………あ、ヤベェ。
「しっかしよぉ、あんな雑魚が冒険者名乗ってんだぜ? 同じ冒険者として恥ずかしくねえのか?」
「いや、彼女はミノタウロスに一矢報いていたよ。僕が見つけた時には致命傷を負っていたとは言えね」
おい、ここで俺の話題をヤメロ。いますぐベルの耳を塞いでー……あぁ、くっそっ。ベルが気付いちまったじゃねぇか。
「はっ、結局死にかけてんじゃ意味ねぇだろ……それよりもアイズ。例えばの話だがあのトマト野郎と俺ならどっちを選ぶんだ?」
……うわぁーベル君がすっごい悲しみの瞳でー此方を見るのー……ごめん待って言い訳させて。心配させたく無くて……いや、本当にごめんよ。
「自分より弱くて軟弱なクソ野郎に、オマエの隣に立つ資格なんてありゃしねえ。他ならないお前自身がそれを認めねえ」
その言葉と共にベルが立ち上がり、椅子を蹴倒して一気に店の外へ駆けて行ってしまった。
「ベルさんッ!?」
「…………っ!」
「何?」「食い逃げ?」
あっ!? おいベル……あぁ、クッソ。肝心な時に何も言えないのは俺の悪い癖だろ……詐欺師として活動するときは平気なんだが……はぁ。
「ミア母ちゃんの店で、大それたやっちゃなぁ」
……【ロキ・ファミリア】くっそムカつく。嘘吐いてたのは確かに俺が悪いが。始末するだの、ベルを侮辱するだの。俺の意思とは無関係だったり、事実だったりが混じり合ってるのが余計にムカつく。
こちとら色々と我慢してんだぞ……。
……ここでキューイの封印解いて全部めちゃくちゃにしてやろうかな……。