魔銃使いは迷宮を駆ける 作:魔法少女()
「撃てぇっ! 【魔銃使い】ぃぃぃぃぃっ!!」
「早く詠唱しろぉぉぉぉっ!?」
響き渡る怒声に続く、巨人の咆哮と爆音染みた衝突音。
現在階層は17階層、場所は最奥部、嘆きの大壁のある広大な広間。
「
味方を鼓舞する様な怒号やまとまりのない詠唱が響き渡る中、俺は数人の冒険者に詰め寄られている。
「あの
「分け前も出す、さっさとしてくれ!」
本来ならば17階層の外れ辺りで
事の始まりは17階層に降り立った直後に聞こえた鬨の声、加えて巨人と思しき凄まじい大咆哮。【ヘスティア・ファミリア】団長のベルと【タケミカヅチ・ファミリア】団長の桜花は阿吽の呼吸で頷き合い、即座に予定を投げ捨てて正規ルートを駆け抜けた。
その先に広がっていたのがこの光景。そう、
「いや、ですからですね……」
「早くしてくれ!」
「あの
衝撃音が響き渡り、大盾を隙間なく並べた壁が大きく歪む。前線を張る冒険者達から期待と焦燥の感情が向けられるのがひしひしと感じられた。
ベルは
さて、ここで俺が直面している問題について少し話そう。
というかそんなに難しい事ではない。簡単に言ってしまえば、冒険者一団から俺はとある魔法を期待されている。
……そう、
「いや、ですから無理なんですってば!?」
「何言ってやがるんだ! 出し惜しみなんてしてんじゃねぇ!?」
断じて、出し惜しみとかではない。
幅と奥行き何百
『────オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
17階層の
『小遠征』を行うのに関して、事前にしっかりと情報収集は行っていた。行っていた、のだ……『地上の』情報はしっかりと。つまり、地上ではない、
非常に間の悪い事に、18階層の『リヴィラの街』の住民達による
およそ二週間の
俺達が直面したのもその討伐作戦に違いない。
そしてそれが厄介で面倒事に繋がっているのが、過去に18階層で発生した
それに付随して
もう察しが良い者は察するだろうが、その冒険者が【魔銃使い】ミリア・ノースリスであり、俺の事であるというのは
「早くしてくれ!?」
「何してんだ、詠唱する時間稼いでやってんだろ!?」
そう
ただ、それができない事情が俺にはあるのだ。
「だから、ちょっと今はその魔法が使えない、といいますか……」
「なぁに言ってやがる!?」
ぎゃんぎゃん吠えたてる冒険者に詰め寄られているさ中にも、前線で戦う冒険者達の悲鳴が響いてくる。
なんとも言い難いのだが、俺は
当然ながら【ステイタス】は秘匿している訳で、一般的な冒険者の知る【魔銃使い】という冒険者は、『超遠距離砲撃魔法を扱う冒険者』である。
「
「あれは奥の手でして、気軽に撃てないんですって!?」
実際には撃てなくはない。いや、この言い方では非常に語弊が強い。
だが、今回の『小遠征』の目的を考えて、俺の今の
「ンだよそれっ、使えねぇ!?」
最初こそ期待して縋り付いてきた名も知らぬ冒険者は、俺が魔法を撃たないと分かった途端に唾を吐きかけて戦線へと駆け出していく。
ローブにべっとりと着いた唾を見やり、溜息を零しながら
「【ピストル・マジック】【
汎用性の高さに罠類の利便性から迷宮内での野営目的で設定したクラス。当然、対
仕方ないだろ、と言い訳をしたいが【ステイタス】に関して秘匿している現状だと言い訳のしようがない。おかげ様で、この一件で
お人好しのベルにつられて助力する事になったが、正直無視して隠れていればよかった。
「【
後方で荷物満載状態で戦闘に参加できないヴァンと、その傍で頭からすっぽりと外套を纏って周囲に混乱を撒き散らさない様に待機してるキューイをみやってから、前線へと視線を向ける。
過去に見た黒い
加えて、18階層の時とは異なりLv.4の冒険者がこの場に居ない。居るのは
「【
一応、屈強な
詠唱を妨害される者、『完成』した魔法を仕方なく
お世辞にも連携が取れているとは言えない。もとより
「【ファイア】【ファイア】!」
かくいう俺も、接近してきた
「【
装填、発砲、装填、装填、発砲、発砲、発砲、装填、発砲。
きりが無い。というかゴライアス狙う余裕すらない。
離れた位置でLv.2に登り詰めた千草とミコトが阿吽の呼吸の連携を見せ付けて、モンスターを切り刻んでいく。それと比較して上級冒険者達はばらっばらのぐっだぐだ。もう滅茶苦茶だ。
「────この
前衛の冒険者の一人が大声を張り上げる。
迷宮を徘徊しているモンスターも個体によって能力にバラつきがある様に、『
まあ、あの時より戦力が足りないし、
こう考えると、結構酷い時に合流してしまったな。それに、この救援のおかげで俺はいらない
「チッ、数が足りなかったか……【魔銃使い】も役に立ちやしねえ……おいっ、街へいって援軍を連れてこい!?
「無茶言わないでくれぇ、ボールス!!」
街の纏め役らしい巨漢の大頭の指示がなされ、命じられたヒューマンが悲鳴を上げた。
あの糞
『ラキア王国』の進軍に対応すべくほとんどの派閥が地上で活動しており、今のこの戦場にLv.4が一人も存在しないのも上げられる……いや、だったら最初からLv.3をもっと投入しとけよアホか。
俺達【ヘスティア・ファミリア】の増援を含めても五十にも満たないパーティ。
第二級冒険者が奮闘しなければならず、兎の様に縦横無尽に駆け抜けるベルは
俺の魔法はいわずもがな。今回の目的は巨人討伐ではないがゆえに
「【
まともに魔導士の
「ミリア様!」
「リリ、状況が悪いわね」
「はい。ですので────」
駆け足で近づいてきたリリの言葉に耳を傾けつつ、前線を伺う。
ヴェルフや桜花、ディンケやフィア等が前線に立っているが、
秘匿して置くべきなのは違いないが、このままだと仲間の命に関わってくる。
「かける対象は……ミコトが良いわね」
「はい、直ぐにミコト様に声をかけます。ミリア様は」
「私はここで派手なのを決めるわ。見かけだけは派手な奴をね」
春姫の【ウチデノコヅチ】による『
ただでさえ
リリがミコトに声をかけて共に下がっていくのを見送っていると、遂にその時が訪れた。
『ぎゃああああああああああああああああああっ!?』
「くそっ……!?」
ひしゃげ壊れた大盾と共に宙を舞う
「【深紅の外套──巨大な大斧──濁った瞳】」
原作『ミリカン』におけるケットシー・ドールズ型は使用する人形次第で戦術がガラリと変わるのが面白い所。強力な単騎人形で蹂躙するか、多数の人形で圧殺するのかで非常に個性が出てくる。
人形にも
「【鋭い牙──疾駆する身体──獣の吐息】」
上級にまで至ると、整備費用でゲーム内通貨が消し飛んでいくが、それに見合った性能は持つ。
そして、最上位等級の人形に至っては同一サーバー上で一体までしか存在せず、一人のプレイヤーが所有すると他のプレイヤーが所有できない特殊人形。
「【奏でる銃声──燻る硝煙──虚ろな心】」
春姫の詠唱が終盤に入るより前に、詠唱を完了した。体から一気に魔力が引き抜かれる感覚に陥る。キューイやヴァン、クリスの召喚、追加詠唱なんか目ではない。それを数倍凶悪にした消費量だ。
正面位置に展開される魔法円から、獣を思わせる唸り声が響き渡る。周囲の冒険者がぎょっとした表情で俺を見やり、魔法円に視線を落とした。
ミリカン内において一つのサーバー上で一人のプレイヤーしか所有を許されない
「【
魔法円から深紅の影が飛び出す。
ずしん、と重々しい音色と共に降り立った人形は、二足歩行ではあるが、人ではない。
おおよそ二
その両手には特徴的な得物、
獣の様な唸り声を響かせるその人形に、周囲の冒険者が唖然としていた。
「【我は操者、操る者成りて────汝は傀儡、五指奏でる調べに踊れ】」
操糸を接続。
瞬間、僅かに俯いていた人形が顔を上げた。鼻先もすっぽり覆われ、目元が確認できないルー・ガルーは、両手に持った
後方で春姫の魔法が完成し、フードで全身を隠したミコトも淡い燐光を纏いながら前進。
「そこの冒険者、合わせなさい!」
「ッッ!!」
大声でミコトに声をかける。僅かに頷いたのを見やりながら、人形を真っ直ぐ前進させる。
深紅の砲弾が黒き矢を従えて戦場を横断する。
進路上に存在する全ての敵対者は
崩れた
ズドンッ、と人形から重い衝撃が操者の俺にまで伝わってくるが、止めた。真っ直ぐ、真正面から血塗れの獣人形に受け止められた巨人に、ミコトが光粒の力を両手に集め、黒銀に輝く長刀を引き抜いた。
「はぁあああああああああああああああああっ!!」
鯉口から遠く離れた位置にまで響き渡る抜刀音が響き渡る。肉薄したゴライアスの足元で光の斬撃が瞬いた。
目の前に現れた
『!?』
太く短い巨人の左足から鮮血が噴き出した。
見間違い様が無い、痛打の一撃。灰褐色の硬皮を斬り、その奥の深くの血肉を断った。
片足を大きく負傷した
「ただの
獣人形にかかっていた
響くのは轟音。込められていた弾薬の種類は
『──ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!?』
ほぼ
「すげぇ!?」「どこの所属だ!?」「あの人型のモンスターは!?」「【魔銃使い】がまた何かやりやがった!」
「追撃よ!」
これ見よがしに俺が操ってます。と主張しながら、たった一発の発砲で銃身と斧部が赤熱で真っ赤に染まった
唖然とする周囲を置き去りにしながらミコトが素早く前線から引いて行き、余計な詮索を受けない様に発足地点に居た春姫とリリも大急ぎで移動していく。
「
千載一遇の
足を狙い地に落とす。大型級、及び階層主攻略の
地面に倒れてなお抗う巨人の胸に飛び乗り、顔面目掛けて
かなりの魔力を注ぎ込んだのだが、人形の動きが鈍くなりはじめている。消費と効果が見合わない。強いと言えば強い、第一級冒険者とまではいかずとも、第二級冒険者ならば軽く捻り潰せる強さを持つ人形なのだが、召喚から性能低下まで三分と少ししかない。
ともすれば、全力攻撃を行った場合は下手すると一分も持たないかもしれない。
『人形複製』による魔力のみでの人形召喚の効率の悪さに眉を顰めていると、冒険者の怒号やモンスターの咆哮の中でもはっきりと人の声が響いた。
「────ふむ、手前も交ぜてくれ」
一つの影が後方から躍り出る。聞き覚えのある声と共に戦場を瞬時に横断したその人物は、あろうことか一瞬の内に
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!?』
「なっ……」
太刀を装備し、深紅の袴を揺らす、褐色肌に結えられた黒の長髪の女性。
防具は手甲を始めとした僅かな軽装のみ。その特徴的な衣装、そして得物から江戸時代以前の日本における剣客を彷彿させる。
そして、何より目を引く特徴は、左目を隠す眼帯。
【ヘファイストス・ファミリア】団長【
「も、もらったぞっ、てめぇらああああああああああああああああ!!」
耳を劈く程の冒険者達の大歓声が戦場を支配する。
戦力不足気味だった所に現れた強大な増援に、落ちかけていた
果敢に攻めていく冒険者達の雄叫びを聞きながら、人形の操作を手放す。
既に半身が消滅しかけていた『
「あー、なんか損した気分」
一応、隠し札ではあったが使い辛い。
消費は大きいし、術者の俺が割と無防備になるし。威力、人形性能は高いんだけどなぁ。
『
かといって他の人形は癖が強いし、術者搭乗型の人形は消滅したら放り出されるだろうから使いたくないんだよなぁ。
冒険者達が群がり
階層主は間もなく、特に問題らしい問題も起きずに討伐が完了した。むしろ、問題は討伐し終えた後に発生した、と言った方が良いだろうか。
『
そして、俺達【ファミリア】連合は臨時の
というか、未だに出現している
そして、ちゃっかり戦利品を確保してきたモルド達は「冒険者なんてこんなもんだ」と笑っていたが、笑えないんだよなぁ。
「戦利品の奪い合いなんて見ていても仕方がありません。18階層に行きましょうか」
「うん、そうだね」
豊かな大自然と水晶群が広がる、モンスターの発生しない
階層天上に広がる白と青の水晶群によって疑似的な空が作り出されている『
「図らずとも18階層まで来てしまいましたね」
眩しそうに太陽代わりに輝く白水晶を見上げたリリがポツリと呟く。
本来の予定から大きく外れてしまったが、俺は魔力の消費が割と洒落にならないし、他の面々も突発的な大規模戦闘で疲弊している事もあり、予定を強行するのは危険が大きい。
「ま、とりあえず今日はこの階層で野営しましょうか」
「うん。ディンケさん達もそれで良いですかね」
「ああ、問題無い」
約一ヶ月半ぶりの『
階層南部に広がる森の小川へと向かいつつ、この後どうなるかを考えて眉間を抑えた。
「ミリア、どうしたの、大丈夫?」
「んー……ああ、ちょっとトラブルですね」
心配そうに声をかけてきたベルに事情を軽く説明する。
あの場において俺が『
俺の【ステイタス】に関して説明すれば納得はして貰えるだろうが、そもそも秘匿すべきそれを開示してまで彼らからの評価を回復させるべきかどうかっていうところ。
一応、あの場で出来得る限りの最高戦力である『人形』で対応してはみたが……。
「はぁ……こんな事になるなら、スナイパーにして来ればよかったわ」
「流石に今日が丁度大規模戦闘をしている日だったなんて知りようが有りませんでしたし仕方が無いですよ」
「文句なんて言いたい奴には言わせとけば良いだろ」
肩を竦めるディンケの言葉に桜花やリリがうんうんと頷いているが……。
今後、18階層より奥へと進む時に
この一件でミリアの『
一つ情報が洩れるだけで、他の情報も芋づる式に割れていくんですねぇ。