魔銃使いは迷宮を駆ける   作:魔法少女()

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第二十一話

 フロアに出てすぐ、目を疑う光景を目にすることになった。なんか人が吊るされてやがるぞ。どういうこっちゃねん。

 

「下ろしやがれっ!」

 

 灰髪の……獣人の場合は灰毛って言うんだったか? の青年が荒縄で縛り上げられてあられもない姿になっている。誰得なんだよ……。

 

 つか、吊るされてんの【凶狼(ヴァナルガンド)】じゃね?

 

 だって回りに座って笑ってる集団にフィンとか居るし。

 

 あのフィンの隣のべろんべろんに酔ってるっぽいおっぱいでかい子。多分ティオネって子だろ?

 んで、ごついドワーフは【重傑(エレガルム)】ガレス・ランドロックだろう。んであっちのエルフはリヴェリアで……えぇっと……エルフの少女? 見た目は少女……あぁ、なんか酒じゃなくてジュースっぽいもの飲んでるし多分若いエルフだわ。その子は【千の妖精(サウザンドエルフ)】レフィーヤ・ウィリディスだったか。レベル3の。他にはー……アマゾネ……アマゾネス? の恰好をした女性。あれアマゾネスか?

 

 いや、アマゾネス……うぅん? 胸が無い。いや、無いっつったら失礼なんだが。アマゾネスってこう、みんな胸がでっかいイメージがあったんだが。その子だけはなんか、胸がー……こう、控えめなんだわ。でも容姿はチョコレート色の肌に黒髪に暗緑色の瞳ってわかりやすいぐらいアマゾネスしてるし。容姿がティオネ・ヒリュテとよく似てるからティオナ・ヒリュテの方なんだろう。多分……双子って話だよな? 胸の大きさに差があり過ぎだろ……いったい何があったってんだよ。

 

 つか、第一級冒険者を吊るせる奴なんているのか……。

 

「酔いすぎだ」

 

 ……あぁ、納得だよ。【凶狼(ヴァナルガンド)】ってレベル5だしね。レベル6の【九魔姫(ナインヘル)】なら吊るせるのか。見た目は凄く綺麗なエルフの女性だが、人をあられもない姿で吊し上げるとかヤバそう。

 

 いや、おかしくね? 【九魔姫(ナインヘル)】って魔法使いだろ? 確かオラリオどころか世界最強にして、最高峰の魔術師かなんかじゃなかったか? レベル差があっても魔法使い相手なら近接戦闘すればなんとかなるとか思っちゃあかんのか……。

 

「全く、酒は飲んでも呑まれるなって言うだろうに」

「糞がーっ!!」

 

 あはは、楽しそうで何よりだよ。さてと、働きますかねぇ。もちろん、ロキファミリアには近づかないように細心の注意をしつつね。

 

「ミアさん、着替えてきました」

「ふぅん、似合ってるじゃないか」

 

 お世辞どうも。ちっこい子供が背伸びしてるようにしか見えんだろうに。むしろそういう意味では似合ってるのか。

 

「んじゃさっそく、あのテーブルにこれを運びな。もちろんだけど笑顔でね」

「……あっはい」

 

 ねぇ、今指差したのってロキファミリアのテーブルだよね? 拒否できる流れじゃないけど、嫌だって言いたい。言わないけど……ボコボコとロキファミリアに会うの、どっちが良いかって? どっちも嫌だよ……。

 

「ミリアさん、これ使ってください」

「どうも」

 

 シルさんが気を聞かせておぼんをくれたよ。これで一度にたくさん運べるね。あはは……はぁ……。

 

 

 

 

 

 ロキファミリアの重要メンバーが座る席の真ん中でベートが吊るされており、縄を軋ませて抜け出そうともがいているのを眺めつつ目立たない様にこっそり近づいて注文の酒をテーブルにそれとなく並べて行く。

 無論、酔って周囲への警戒やらが薄いかあまり周囲を気にせずに飲んでいるドワーフの辺り。特にドワーフは体がでかいので視線を遮るのに超役に立つ。良いね良いね。このままバレずに酒を配膳し終えー。

 

「おー、ちっちゃいアイズだー」

「っ!?」

 

 うげっ!? 唐突に抱き付いてきやがったっ!? なんだなんだっ!?

 

 チョコレート色の肌に胸の小さい方のアマゾネスっぽい女性が唐突に後ろから抱き付いてきた。ちっちゃいアイズ? もしかして同じ金髪だから勘違いされた? 酔っ払い怖すぎ……。

 

「なんやっ!! ちっちゃいアイズたんやってっ!?」

 

 連鎖的にこっちを見る奴増えたーっ!?

 

 緋色の髪に糸目の少年……少年? 少女? 顔立ちが中性的でわかりづr……。いや、エセ関西弁にロキ無乳……神特有の雰囲気……。こいつ神ロキだーっ!?

 

「……ノースリスさん……?」

「なっ……なんでここに……」

 

 あっ、フィン・ディムナとリヴェリアに気付かれた。オワタ……オワタ過ぎるよ……。と言うか放せアマゾネス。テメェ金髪ってだけでヴァレンなにがしと勘違いしてんんじゃねぇよ……。

 

「あの、放してください」

「あれ? アイズじゃない?」

「……そうですね」

 

 このおっぱいちっちゃいアマゾネス、美女だとは思うぞ。若干アホっぽいが。

 と言うか放せ。マジで、今すぐ。

 

「ごめんねー」

「うおぉーイメージとちゃうかったけど可愛い子やん。新しい子入ってたんか。なんで言ってくれへんのやミア母ちゃん」

 

 うひぃ……今度は神が抱き付いてきやがった……ってこいつっ!? 何処に手をやってやがるっ!!

 服の上からとは言え尻と胸を同時に撫でまわすとか何考えてんだこいつっ!!

 

「ちょっ!? 何処触ってんだあんたっ!?」

 

 良い音と共に神の頬に紅葉を刻み込む。ははっ……やべっ……思わず手が出た。

 

「いったぁ……」

 

 他のファミリアの神を引っ叩いちまった……。

 

「ロキ、こっちに来い」

 

 唐突に神……ロキ? がぐいっと引き剥がされて首根っこを掴まれてリヴェリアに引っ張られて行った。

 

「僕達の主神が変な事をしてすまない」

 

 赦された? マジで? やったー。

 

「団長、そいつは誰ですか」

 

 腹に響く重低音。女性の声……これは……ひぃっ!? 酔っぱらってテーブルにダウンしていたっぽいティオネが起きやがったっ!? しかも凄まじい眼光がこっちを見てる!?

 

「ティオネ、ストップだ。少し静かにしていてくれないか」

「ですが団長っ!!」

「はいはいー、団長の言う事は聞こうねー」

「離しなさいよティオナっ!!」

 

 ティオナって子に引きずられていくティオネを見送っていればフィンが近付いてきて困ったような笑みを浮かべた。

 

「仲間が騒がしくてすまない。少し話したいのだけど時間はあるかな?」

 

 そんな時間は無い。そう答えるためにはーうむ。

 

「すいません、お仕事が忙しいので」

 

 完璧だな。これであとは――

 

「ミア、彼女を少し借りても良いかな」

「あん? 金を払ってくれりゃかまやしないよ」

 

 うぉいっ!! なんだそりゃ!!

 確かに雇い主に聞くのは良いんだが、ミアは断りたいって俺の意図を察してくれよっ!?

 

「いくらかな」

「1850ヴァリスだよ」

 

 安くねっ!? 俺の値段安くねっ!?

 ……あ、1850ヴァリスって俺とベル君の食事代じゃん。ははぁん、俺の食事代を出すなら体で払う必要ないし仕事で拘束される事無いからオッケーって事か。

 

「わかった、これで足りるかな」

「はいよ」

 

 本人の意思をガン無視かよ……はぁ、やだなぁ。

 あ、でも俺の意思で断れるかも……?

 

 

 

 

 

「何か頼むかい?」

「いえ、気を使っていただかなくても結構です」

 

 結局、隅っこの席にフィンと並んで座ることになったし。なんなんもう……帰りたい。

 でも結果的にではあるが食事代を出してもらった形だしなぁ、ぶっちゃけビンタして帰りたいがあのアマゾネス怖すぎ。

 というかあのティオネさん、まだ背中に視線を感じるんだけd……ひぃっ!?

 

 ティオネがティオナに押さえられながらもまるで呪詛呟いてるんじゃないかあれ……。

 

「アバズレが団長にアバズレが団長に――」

 

 延々と同じ事呟いてるーっ!? と言うかアバズレぇっ!? 俺なんかしたっけ? いや、気絶してる間にキスでもかました? まっさかぁ……いや、でもさっきまで俺の存在知らなかったよね? なんでそこまで罵倒されなきゃいけないんですかねぇ。口にはしないけど、口にはしないけど。だって第一級冒険者に喧嘩売って死にたくないし。いや、でも現時点でなんか恨まれて殺されそうになってるのかコレ? 俺はどうすりゃこの死亡フラグを回避できるんだ。

 

「ふむ……少し待っていてくれ」

 

 そう言うとフィンがティオネに近づいて――トンッ。

 

「ティオナ、ティオネが酔って寝てしまったみたいだから後は頼むよ」

「はーい」

 

 今アイツ何した? いや、よそう。手がブレた瞬間にティオネがパタリと倒れた。うん、その……やっぱレベル6なんやなって……。

 

 ティオネを担いだティオナが、なんか山積みになったロキファミリアの冒険者の山……酔っ払いが積みあがった山にぽいっと放り捨ててから席に戻って行く。扱いひど……待って。あの山の頂点にある緋色の髪の奴って神ロキなんじゃ……見なかった事にしよ……。

 

「待たせてすまない」

「いえ、大丈夫ですよ」

 

 やだーレベル6冒険者に目をつけられるとか嫌過ぎぃ……何で目つけられてんの……キューイだよなぁ……。

 

「此処で働いているのかい?」

「事情があって手伝いをしていますね」

 

 なんか凄く微妙な笑みを浮かべて聞いてくんな。考えながら喋ってるっぽいし……。酒入った状態で考え事はなぁ……。

 

「いつからここに?」

「そうですね……『笑う道化師のエンブレム』『【ロキ・ファミリア】じゃねぇか』『壮観だな。近づきたくはないが』って辺りからですかね」

 

 これで通じるか? あ、通じたっぽいな。凄いな、周りの言ってた台詞を覚えて……いや、行く先々で同じ反応されてるから覚えてたとかそんな感じかね。

 

「そうか……と言う事はさっきの話も……」

「トマトの様に真っ赤な少年の話ですか? それなら本人ともども余す所無く聞かせて頂きましたが」

「本人?」

 

 ふむ? 気付いてない? ……少し顔が赤いしやっぱ酔ってるのか?

 

「もしかして、さっき食いに……店を出て行ったのは……」

 

 ははっ、はっきり言いきっても良いぞ。すっげームカつくけど事実だしな。食い逃げみたいなもんだよ。間違いねぇ。

 

「そうですね。あまりの羞恥に耐え切れず赤っ恥でトマトの様になって行ってしまいましたね。一応、私のファミリアの団長で今回の支払いはベルが持つ事になっていたので……生憎と私の所持金が足りず体で払う事になってましたがね」

 

 その言葉に顔を引き攣らせてるのを見て、溜息が零れそうになる。

 

「食事代を出して頂いた事には感謝していますが」

「……本当にすまない」

「謝る必要は無いでしょう。事実ですから……まさか酒場での笑いの種にされるとは思いませんでしたが」

 

 事実であり、赤っ恥である。せめてお礼言ってから立ち去っていれば……自業自得……と言えばそうだからなぁ。【凶狼(ヴァナルガンド)】って案外間違った事言ってないし。まぁ、周りの反応的に極論っぽいが。

 弱い冒険者に存在価値無しって……。弱いなりに使いようはあると思うがね。全員が強い訳じゃ無いし。

 

「……そうか」

「其れよりも聞きたい事があるのですが」

 

 一応、聞いてみるか。答えてくれるかは知らん。

 

「何故、私なんかに気を使った態度を取るのでしょうか。本音を言いますと、何かされるのではないかと疑ってます」

 

 人も多いこの場所なら手出ししづらいだろうし、最悪ミアさんに助けを求めることもできる。相手は酒も入っていて酔っている。

 条件は良い方だし、今後同じ条件が揃うとは思えない。

 

「なんか……ね」

「キューイの事を気にしているのでしょうか?」

 

 反応が微妙だ。なんか変な感じの反応だなぁ。

 

「君は自分の事をどう思っているんだい?」

 

 質問に質問で返すのか。まぁ、一応答えるか……。

 

「そうですね。駆け出しも駆け出し、わざわざオラリオの最高峰のファミリアの団長や副団長が対応するまでも無い様な地位の冒険者。そもそもロキファミリアが原因とは言えダンジョン内で起きた出来事は全て冒険者本人由来のものと判断する為、意図的な怪物進呈(パスパレード)でない限りはダンジョンに一歩でも足を踏み入れた時点で()()()()となるので助ける必要はほぼ無いでしょう。それに助けた後にわざわざ保障まで用意する必要も全くないです」

 

 冒険者、ダンジョンの中に富と名誉を見出した者達。冒険者に成るにあたって最重要項目はただ一つ。

 

 ダンジョンの危険に身を晒す以上、ダンジョン内での出来事は基本的に自分の責任である。

 ダンジョン内で死んだりする事は珍しくない。其れの責任の所在を他のファミリアに擦り付ける事は多々ある。しかしそれはファミリアの規模が相手より大きかったりする場合のみ。

 今回の場合、ヘスティアファミリアは完全な駆け出しも駆け出し。所属眷属はたったの二人、対してロキファミリアは規模、勢力共にオラリオ最大と言われるファミリアに相応しいモノである。要するにわざわざ駆け出しファミリアに媚を売るまでも無く、駆け出しファミリアが枕を濡らすだけでお終いのはずなのだ。

 

 なのにわざわざ団長と副団長が出張ってきて丁重な対応をしていると言うのは不自然が過ぎる。キューイ関連に関しても『教えろ』と一言命令するだけでこっちは大人しく従う以外に無いと言うのが本音だ。

 

「なるほど。それで君の質問だったね」

 

 さて、どんな答えが出てくるやら……誤魔化される可能性は高そうだけどなぁ……。


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