魔銃使いは迷宮を駆ける 作:魔法少女()
「君は最高の眷属だよ」
そんな風にぎゅっと抱きしめてくるヘスティア様。うぅむ……離せ。
ヘスティア・ファミリアのホーム、神ヘスティアの寝所……いや、ごめん。寝所……ベッドの上で神様と二人きり。これは俺が男であれば美味しい展開がー……無いな。
ホームへと帰還後、ヘスティア様に言われてステイタスの更新を行った。理由としては名前がしっかりと定まったか気になるだろう? との事だったし。俺も普通に気になったので更新した訳だよ。
そしたら……。
ヘスティア様に抱き締められながらも右手に持つ更新後のステイタスの書かれた紙切れを見つつ吐息を零す。数値上は何の変化も無い、と言うか当然だろう。ダンジョンに潜っていないし特に何かを頑張った訳でも無いのだ。しいて言うなら
って違うそうじゃない。俺が話すべき所は其処では無くてだな。
「ベル君はヴァレンなにがしなんてどこの馬の骨ともしれないロキ無乳の眷属なんかの影響を受けて……ぐぬぬ」
おぉ怖い怖い。ステイタスの、スキルや魔法って言うのは眷属の深層心理を映し出すモノであり。特にスキルって言うのは種族固有のもの……有名な所で言えばアマゾネスの力向上スキル。獣人系の敏捷上昇スキル等を除けば基本的に眷属の深層心理。深い所に存在する『思い』や『想い』が形となる事が多いらしい。
んでベル君の場合はヘスティア様の影響で深層心理に変化があったわけでは無く。見ず知らずの……ヘスティア様の嫌いな神、ロキと言う神が主神を務めるファミリアの眷属の影響を受けてスキルが発現した訳だ。ヘスティア様的にはかなり気に食わない展開らしい。
んで俺の場合はー……もろにヘスティア様の影響が出た訳だ。何がって? スキルが発現しました。
『
・早熟する
・信愛を抱き続ける限り効果持続
・信愛の丈により効果向上
・改宗により効果消失
ちなみにベルも同じ様なスキルを覚えてるっぽい。早熟すると言う部分は変わらずだが他の部分は違うらしい。ベル君の対象はヴァレンなにがしであるのに対し、俺のスキルは完全にヘスティア様に向いているのだ。
感動した……と言うかめちゃくちゃ嬉しそうなヘスティア様がぎゅっと抱きしめてくれてる訳なんだが……あの、恥ずかしいんで放して貰っていいですかね?
「ミリア君」
おい名前を呼ぶな。耳元で囁くな。やめろ。
「顔赤いよ? 嬉しいのかい?」
…………。ひ……否定はしない。
否定しねぇよ。名前を貰ったんだ。家族として認められたんだぞ。その上で名前を呼んでもらえるなんて。嬉し過ぎて……めっちゃ恥ずかしい話なんだが顔がにやけちまうんだよ。あぁ、くそ。
「は、離して」
「ミリア君は可愛いなぁもう」
おい馬鹿ヤメロとりあえず離せ。このままだと本気で惚れちまうだろ……いや手遅れか、もう惚れてるし。
半ば強引にヘスティアを引き剥がして枕にダイブ。耳まで所か首筋まで真っ赤になってると思う。顔が熱いわ。と言うか名前を呼ばれた程度でトキメキを覚えるとかもうこれダメかもしらんね。いや、名前を授かったあの瞬間にはもう堕とされた訳だしなぁ……。
「君は本当に可愛いよ、僕も胸を張って言えるね。最高の眷属だって」
ははっ……あぁ、そう言うのはベル君に言ってやってくれよ……恥ずかしいんだよ。くっそ、この神様恥ずかしい台詞をポンポン口にしやがって、しかも演技でも無く心の底からそう思ってるのが伝わってきてヤバイ。恥ずかしさで枕から顔を上げれんぞこれ。
そういう台詞はベル君にだな……ん? ベル君? そういやベル君帰ってないんだよな。
「ヘスティア様、ベルが何処に居るのかわかります?」
「ん? ベル君かい? いや、わからないけど……ミリア君を放っておいて何処か行っちゃうベル君なんて知るもんか」
ぷんすかと言う擬音でも出そうな表情のヘスティア様なんだが、ベル君にも事情があったしなぁ。いやそれ多分ヘスティア様の嫉妬だよね。『ヴァレンなにがしがどうの』とか言ってるし。まぁ置いてかれた事に思う事があると言えばそうだが、傷ついてたし……と言うかベル君何処で黄昏てんだろ。
とりあえずベッドから抜けだしてっと。
「ベルが居ないのは事情がありましたし。探しに行ってきますよ」
「事情?」
あー、ヘスティアに教えても良いかなこれ。いや、一応黙っておくか……ロキファミリアとトラブルがあってベル君が傷つきましたなんて言ったらロキの所に殴り込みしそうだし。
「まぁ、色々とありま……あー」
嘘じゃないけど今普通に誤魔化そうとしてたわ。もう嘘吐かないとか言いつつこんな調子じゃダメじゃねぇか……はぁ。
「ん? 気にしなくても良いよ。日頃の癖なんて直ぐに直したりなんてできないんだし。とりあえず何かあった訳だね? じゃあ僕も探すよ」
もう真夜中って時間なんだからヘスティア様に捜索させるのは気が引けるんだが。
「いえ、私一人で十二分でしょう。キューイも居ますし」
テテテテッテテー、
「でも……わかった。ミリア君を信じるよ。でも帰ってくるまで起きてるからね?」
いや、寝てていいです。寝不足はお肌の大敵……神様って肌荒れとかしないのか?
唐突だが、夜のダンジョンは超々超危険だって話は聞いた事があるだろうか? 昼間のダンジョンと夜のダンジョンは実はモンスターの量が全然違う。
ちなみにモンスターが増える量は昼も夜も変化が無い。RPGゲームで言えば夜間は強いモンスターがうじゃうじゃするのが普通だろうが、オラリオのダンジョンでは出現モンスターに違いは無いし、モンスターの増加量も変化が無い。それなのに夜の方がモンスターが多い理由とは何か?
正解と言うか答えは冒険者の数である。
当然冒険者達はヒューマンや
つまり一般的冒険者が潜るのが昼間なので夜間に潜る冒険者は殆ど居ないのだ。
それがどういう結果を齎すのかって言えば、冒険者が少なくなれば相対的に一人の冒険者が相手取るモンスターの数が増える。
と言うか上層の一、二、三階層は常にガネーシャ・ファミリアの団員がモンスターの数を調整して狩っているらしく駆け出しも駆け出しと言う新米冒険者がしっかりと経験を積める様に気を使っているらしい。ガネーシャ様すげぇなおい。
んでそう言う事だから夜間のモンスターは冒険者が少ない分狩られる事が無いので凄く増えたように感じる訳だ。と言うか逆なんだよ、夜のダンジョンが本来のダンジョンで昼間のダンジョンは冒険者に踏み荒らされたダンジョンって訳だ。
どうしてそんな話をって? 今の時刻は真夜中を過ぎたぐらいの時間。多分零時半とかそんぐらい? 現在位置は――ダンジョンの四階層です。えぇはい。
あ、ちなみに朝一でダンジョンに潜るともれなく夜中に増えに増えたモンスターの相手をしないとだからかなり大変らしいんだが、そこらもガネーシャ・ファミリアが朝一で十階層まで適度にモンスターを減らしてくれるそうなので新米冒険者である俺やベルが潜る時間帯にはダンジョンの中のモンスターの数が適度に減らされているのだ。ガネーシャ・ファミリアってすげー。
ちなみに残る残弾は20発を切り、次の一撃を喰らえばマジックシールドが弾け飛んでマインドダウンしそうです。マインドダウンして気絶したら死にそう。と言うかダンジョンで気絶とか普通に死ぬだろ。
どうしてこうなった。
「は? ダンジョンの中?」
「キュイキュイ」
そうそうと頷くキューイにあっけにとられつつもバベルからダンジョンに続く直径3メートルぐらいの大穴を見つつキューイの翼を摘まんで吊り下げる。
「え? マジで?」
「キュイキュイ!」
やめて離してと暴れるキューイを離すとそのままぽとりと床に落ちた。キュイキュイ文句を言ってくるがちょっと待ってほしい。今からダンジョンに潜るとか自殺行為過ぎて笑えないよ。
まさかのそのまさか、ベル君はどうやら侮辱された事を気にして黄昏るのではなくモンスターを切り刻んで強くなろうとしたらしい。夜のダンジョンは危ねぇんだよ何考えて……はぁ。
「キューイ、援護任せます」
「キュイ!」
キューイを自動砲台として付属させて行こう。魔法使い一人でダンジョンに潜るとか……でもベル君迎えに行ってヘスティア様にただいまって言わないとだし。
「『ファイアッ』!」
「キュイキュイっ!!」
発砲音が複数響き、俺とキューイの放った『ピストル・マジック』がコボルトを吹き飛ばすのだが……数が多すぎる。20匹近く居るんだけどこれぇ。二人がかりで漸くなんだけど。って銃声でモンスター集まって来たし。これマジで死ぬんじゃね?
マガジンクラフトを全力で行いつつキューイの射撃を頼りになんとか前進する。ちょ、数多い多いっ!
倍なんて生易しい数じゃない。もう数の暴力である。ゾンビゲーで見た事あるぞこれ。誰かグレネード持ってないのっ!?
「キュイっ!!」
え? 弾切れ? 待ってまだマガジンクラフト終わってないよ……あー……よし逃げよう。全力疾走である。もうダメだ。
「弾切れぇっ!?」
「キュイッ!?」
お、キューイって『マジで!?』みたいな事言えたのか。
はっはっはっは……はぁ、なんでこうなった。笑いがとまんねぇ。マガジンクラフトして何とか20発確保したんだが、戻れる気がしない。キューイレーダーがガンガン反応してどこから来るのかわかんないとキューイが泣き言言いだしたし。もうこれわかんねぇな。
現在位置は何処だ此処……あぁ、あれって六階層に通じる階段か……って道に迷ってる間に六階層に通じる階段まで来ちゃったよ。途中でベル君も見なかったし。キューイレーダーもモンスター多すぎてわかんなくなったとか言い出すし。ここで死ぬとか冗談じゃないよ。せっかくヘスティア様に忠誠を誓ったのにその後すぐ死にましたとかわらえんわ……。
「キュイ!」
お? キューイが何か見つけ……六階層への階段の周囲に魔石やらドロップアイテムが一杯散らばってるんだけど何アレ……いや? こんな時間にダンジョンに潜ってる奴って俺かベルのどっちかだろ? 俺はここで戦った記憶ない。つまりあれはベル君の痕跡って訳だ。拾い集めりゃ相応の金額だが、金に目が眩んで命落としてちゃ詮無いし今は無視無視……いやでも少しだけ拾ってこ。この魔石とか結構いい感じっぽいし。おっ、ドロップアイテム良いのあんじゃーん。
「キュイキュイッ!!」
いかんいかん、欲に目が眩んでんじゃん。全部捨ててかなきゃ、少し……いや、とても勿体ない。
ドロップアイテムを泣く泣く見捨てて下の階層に走る。さっさとベル君見つけてヘスティア様の所に帰らなきゃ。ほらベールー何処だー。
「キュイっ!」
お? キューイレーダーに反応あり。六階層まで下りてたのかぁ……六階層……マジかよ……。
「キュイッ!! キュイキュイッ!!」
えっと、こっちか? え? こっち?
キュイキュイ鳴く道案内を頼りに足を進める。お、血痕と魔石が転がってるじゃん。この曲がり角の奥ねー了解。
曲がり角を曲がって直ぐ、目の前に広がったのは一匹のフロッグシューターの姿。その口から見覚えのあるブーツを履いた冒険者の下半身が覗いているのを見て血の気が引いた。あれ、食われてんのベル君じゃね?
「『ファイアッ』!!」
速射でフロッグシューターの頭を吹っ飛ばせば、魔石を残してフロッグシューターが消えてベル君が投げ出されて地面に転がる。
「ベルっ!!」「キュイっ!!」
「うっ……」
慌てて駆け寄ってみれば、特に異常の無い……いやごめん嘘、フロッグシューターの粘液でぬちょぬちょのベル君が居た。ちょっとなんでベル君がぬちょぬちょになってんですかね……。怪我は無いみたいだから良いんだが。
「ミリア?」
「なんでこんな無茶してるんですかね」
「……ごめん」
怒ってる訳じゃ無いぞ? と言うか後ろ向きな自殺未遂やらかした俺が前向きに自殺未遂仕出かしてるベル君を説教とか出来るわきゃないじゃん。
「まぁ、悔しかったのは解りますが……無茶し過ぎですよ。帰りましょう」
「…………」
俯いて考え事か。何を考えてるんだかね。顔を上げたベル君の瞳を見て確信した。……あぁ、帰る気は無いのか。
「ごめん、僕……強くなりたいんだ」
「強く?」
「うん……僕は許せないんだ。何もしてないのに、何かを期待してた僕自身が……」
何もしてない……か。 冒険の一つもせずにアイズさんに追いつけるかななんて言ってたのを気にしてるのか。
……かっこいいな、侮辱してきた【
「そっか」
「だから……僕は……」
「わかった。じゃあ朝まで頑張りましょうか」
え? みたいな表情を浮かべたベル君。まぁ連れ戻しに来たはずなのにこうなるのはどうかと思うがね。でも、ここまで吠えた男って言うのを強引に連れ戻すなんてしたくないしなぁ……あーヘスティア様に申し訳ないなこれ。
「でも約束ですよ。死なないでくださいね」
「…………わかった」
よし。んじゃ俺は帰……れないなこれ。後ろから罅割れる音が聞こえてくる。マガジンは残り1つ。キューイの方はー……弾切れ? マジかー。
「ベル、一応援護はしますけど……15発しかないですし。多分次攻撃喰らったらマインドダウンしてぶっ倒れます」
「……わかった」
現れたのは昨日姿を探しても見当たらなかった・身の丈160cm、全身は黒一色に染まった人型モンスター、異様に長い腕の先には三本の指が備わっておりその指はナイフのような形状をしている。うん特徴もぴったり一致してるね。こいつウォーシャドウだよ。
しかも三匹も居るよ。やったねベル君役満だよ……これ、生きて帰れるかね? ……まぁ、大丈夫だろ。多分……きっと、めいびー。