魔銃使いは迷宮を駆ける   作:魔法少女()

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第二十九話

 ガネーシャ様の話をざっくりまとめるとこうなる。

 

 約二週間前、ダンジョンの入り口にてガネーシャ・ファミリアの団員がモンスターを違法にダンジョンの外に連れ出す冒険者が居ないかを監視していたところ、金髪のパルゥムの少女が白髪の少年に連れられて出てきたのを確認した。

 その少女からモンスターの気配を感じたので違法なモンスター売買に関わっている可能性を考え、警戒対象に指定し、密かに監視を開始。

 その場で即時に拘束すれば良かったと思うのだが。それをしなかったのは他にも仲間が複数いる可能性を考え、背後の組織まで根絶すべく泳がせていたらしい。

 

 監視開始から次の日に冒険者登録したのを確認、この際にオラリオの玄関口の入国履歴との照らし合わせを行うもオラリオの玄関口である四方の門を通過していない事が発覚。

 違法な侵入の可能性も考え、即時に拘束する案が提案されるも、所属したファミリアが天界でもそこそこ名の知れた神ヘスティアだった事もあり拘束ではなく監視を続行。

 

 それから二週間近く監視していたがモンスターを街中に連れ出す以外には特に問題も起こさず、神ヘスティアもそのモンスターに警戒心を持っていないこともあり、監視から警戒へと移行。

 一応、背後関係を調べるも過去の経歴は一切不明で尚且オラリオの門を通過していない事もあり、要注意人物として重要施設に近づいた際には警戒度を上昇させることに。

 

 そして俺がミノタウロスに襲われた日。その日もダンジョンに潜る際にガネーシャ・ファミリア団員が侵入を確認していた。

 その後、ベル・クラネルの方がダンジョンより出てきて中層のモンスターに襲われたと騒ぎ始めた為、直ぐにダンジョンを封鎖。ベル・クラネルは監視役を付けた上でギルド側に引き渡し、調査を開始。

 あの際、ガネーシャ・ファミリアはダンジョン内にて発生した不自然なモンスターの移動、中層のミノタウロスが上層に現れた原因がミリア・ノースリスにある可能性を考え拘束を決定。

 

 しかし、その場に於いてガネーシャ・ファミリアが身柄を確保するより先にロキ・ファミリアがミリア・ノースリスを保護してしまい不可能に、だが後の調査でロキ・ファミリアが引き起こしたものであった事が発覚。

 ミリア・ノースリスは無関係であることが後に判明。

 

 怪物祭(モンスターフィリア)に向けて厳重な調査、警戒を張っている所にのこのこ現れた怪しい人物。

 モンスターを連れ歩き、それでいてモンスターを暴走させず、()格者として知られる神ヘスティアの眷属となった少女。

 何らかの裏を疑うも調査結果が出ず、かといって強制拘束するには理由が足りない。

 

 そんな中、ガネーシャ・ファミリアが怪物祭(モンスターフィリア)の開催に伴う各ファミリアの協力を感謝する及び、つつがなく開催できる事を皆に伝えるパーティーに珍しく神ヘスティアが出席していた為、話を聞く事に。

 

 神ヘスティア曰く、全く悪い子では無いし。色々隠し事もしているけれど僕の可愛い眷属だから信じてあげて欲しい。

 

 と言う事と、ついでに俺の連れているモンスター……と同じ気配を発しているキューイについていくつかの情報を貰い、その上で神ヘスティアに取引を持ちかけるも一存では決められないと本人を呼び出す事に決定。

 

 

 

 

 

 つまり、最初っから監視されてたと……。

 

 道理でガネーシャ・ファミリアの仮面を付けた人が常に街中に居た訳だよ。ファンタジー世界だし多いし、警察っぽい働きしてたから常に街を見回りしてんのかなって思ったけど、実際のところは其処まで余裕は無く、あくまでも俺の監視の為に周辺に散らしていただけっぽい。

 

 呆然だよ、有能過ぎるとは思ってたけど逆に俺が無能だった訳だ。こんなファンタジーな世界で服の中に放り込んだだけで大丈夫とか考えた俺はアホか。

 金属探知機的な物ないし大丈夫だろとか考えてたけど、ファンタジーでもそこら辺の安全管理やらは割としっかりしてんじゃねぇか。

 

「うむ、納得して貰えただろうか?」

 

 あー……いくつか質問しとくか。

 

「何故ベルを拘束しなかったので?」

 

 ミノタウロスから逃げてガネーシャ・ファミリアに引き留められた際、ベルを拘束して話を聞くぐらいは出来たし、俺を呼び出す口実にもなったかもしらんのに。

 

「ふむ、その少年は背後関係も洗ったが特に何かある訳でも無かった。それに騙されている可能性も高かったからな」

 

 …………心が痛いです。

 

「まあ、ヘスティアが言う事だからな、間違いは無いだろう」

 

 ヘスティア様への信頼が厚いな。流石ヘスティア様だ……。

 

「他に質問は?」

 

 うーん……一応、気になる点は全て聞いた、訳じゃない。まだ肝心な事を聞いてないぞ。

 

「手伝って欲しい事とは?」

 

 それだ、なんか手伝ってくれるなら罪状を全て無かったことにしてくれるとか言ってるし。何やらされんの?

 

「うむ、それについてか……協力の内容とはつまりそのキューイを街中で普通に連れ歩いてほしいと言うものだ」

 

 はいぃ? ……え? 街中を普通に連れ歩けって? それって違法なんじゃ?

 

「無論、現在俺の神威を受けて殺意を抱かないのを確認できているが、俺やヘスティア以外の神だと反応する可能性もある。その場合を考えて監視役を付けさせてもらう」

 

 うむ? えぇとだな。

 

 つまり怪物祭(モンスターフィリア)の目玉としてワイバーンを一体、闘技場で見世物にする。それはそれでインパクトはあるだろうが闘技場に入れる者しか見る事が出来ないと。

 んで他にも多数の人が集まるだろうから幼体であってもワイバーンともなればかなり話題を集められる。

 

 簡単に言えば客寄せパンダとして適当に行動してほしいとの事。この件に於いて俺は期間中一時的にガネーシャ・ファミリアの団員と同等の扱いをする。

 其れとは別に今後キューイの所属等はガネーシャ・ファミリアとするとの事。

 これに関しては団員の強制徴収ではなく、キューイがトラブルを起こした際にガネーシャ・ファミリアが全責任を取る為の処置であり、同時に新興ファミリアであるヘスティア・ファミリアのままでは他ファミリアがちょっかいをかけてきた際に抵抗できない可能性が高い為である。

 

 幼体とは言えワイバーンは高価な素材がとれる為、下手をすればキューイがモンスターである事を笠に着て街中で堂々と襲撃を仕掛けられる可能性も高い。

 それを防ぐ意味でもキューイについてはヘスティア・ファミリアが相応の実力を付けるまではガネーシャ・ファミリアの所有物とし、ミリア・ノースリスに対して貸し出しと言う形で世話の依頼を行っていると言う体をとると……。

 

 なんかすっごい高待遇なんですが其れは……と言うかガネーシャファミリアが全責任をとるって……。

 

 つか、キューイは何時まで寝てん……あ、違うこれ寝たふりだ。何時から寝たふりしてたんだコイツ。

 

「それで、受けては貰えないだろうか?」

「受けなかった場合はどうなるのでしょう?」

 

 拘束されちゃう?

 

「その場合はガネーシャ困るんだが……」

 

 しょんぼりされちゃったんだけど……ってかどうなるの?

 

「そうだな、特には無いな。その場合には公平に判断させて貰う事にはなるだろうが」

 

 公平に?

 

「モンスターを街中に連れ出した罪に問うと言う事だな」

「受けさせて頂きます」

 

 っぶねぇ、こっちが立場下なの忘れそうになってた。そうだよ俺今重罪人じゃん? こんだけ高待遇約束されててんのに断る事考えるとか何してんだよ……。

 

「そうか、うむ。ガネーシャ、超感激」

 

 その、毎回ポーズ決めなきゃダメなのかソレ……なんつーか、良い神様なんだろうがちょっと暑苦しい気がする。

 

「では、そのワイバーン、キューイと言ったか? 彼……いや、彼女か? このワイバーンの性別はどちらだ?」

 

 うぇ? キューイの性別? ……えっと、どっちだったっけ?

 

「キューイ、起きてますよね?」

「……キュイ」

 

 あ、やっぱ寝たふりじゃん。

 

「あなたは男の子? 女の子? どっちですか?」

 

 雄か雌か……キューイの公式性別なんて調べた事無かったな、そう言えば。

 

「キュイ? キュイキュイ」

 

 ……え? どっちがいい? どっちがいい?? え? どういう事?

 

「えっと、キューイ……どういう意味です?」

「キュイキュイ、キュイ」

 

 ふむふむ? まだ性別決まってないと……何それ怖い。じゃなくてこの場で性別決めろって事? それってもっと早くに言ってくんないかな。

 じゃあ男の子で良いんじゃない? いや、女の子の方が良いのか? ヘスティア様に相談してぇ……つか性別決まってないってなんだよ。

 

「……性別、不明ですね」

「…………」

 

 腕組みをしたままこちらをじっと見据えるガネーシャ様、どうしたんだ?

 

「ミリア・ノースリス……もしかしてそのワイバーンと会話できるのか?」

「はい、一応……」

「ガネーシャ、超吃驚!」

 

 うぇあっ!? いきなり大きな声だすなよっ! こっちが吃驚だわっ!

 

「うむ、驚かせてすまない。……他のモンスターとも会話できるのか?」

 

 他のモンスターとの会話? さぁ? 話し合いで何とかなる雰囲気でモンスターと対峙した事無いしなぁ。

 

「わからないです」

「ふむ……」

 

 考え込んだガネーシャ様……頷いてから大業に腕を振るって眷属に指示を出し始めた。

 

「彼女をモンスターの拘束部屋に連れて行ってやってくれ。会話が可能か調べたい」

 

 ふぅむ? 別に構わんが。と言うか他のモンスターと会話できるとは思えんのだがなぁ。

 

 

 

 

 

 ギャーギャー喚くモンスター達。ファンタジー定番のゴブリン。豚顔で薄い本で良く見るオーク、尻尾を震わせて威嚇するダンジョンリザード。檻をブッ叩いて壊そうとしているシルバーバック。

 

 どいつもこいつも会話不可能っぽい。と言うか何言ってんのかわかんねぇ。

 

 キューイを肩にって思ったが、肩につかまるの無理っぽいから頭の上に乗っけて一緒に連れて来たがキューイが半眼でモンスターを見て『おいしくなさそう』とか言い出した。何言ってんだお前、全部お前より強いだろ。

 

「どうだ、わかるか?」

 

 護衛らしき数人の冒険者に囲まれてモンスターの居る場所まで足を運んだガネーシャ様、神様をこんな所に連れてきて大丈夫かよ。

 

「いいえ、さっぱり」

「そうか」

 

 凄く残念そうな顔されたがこればっかりはなぁ……キューイが特殊なんだろ。

 

「キュイキュイ」

「うん?」

 

 頭の上のキューイがあっちに居るって言い始めた。何が居るって? モンスターならそこらの檻に入ってんだろ?

 

「キュイ」

 

 ……? キューイの示しているのは別の倉庫への入口。

 

「えっと、あっちの部屋には何が?」

「うむ、あちらには調教済みのモンスターが居るな。其方にも行ってみるか」

 

 ほほう、調教済みのモンスターとな? 普通に見てみたいな。此処にいるモンスターは全員暴れて逃げ出そうと……いや、これ神ガネーシャに凄まじい殺意を見せてんな。何この……『絶対ぶっ殺す』的な視線。こんなの向けられたらチビりそう……。

 いや、俺はチビらねぇし。

 

 つか神ガネーシャ平然とし過ぎだろ。直接向けられてない俺ですらチビりそうなぐらい怖いのに。何で平然としてられるんだか。

 

「うむ。当然、俺の眷属(子供)は有能だからだ」

 

 ……あれ? なんか自然に心読まれた? 待って、何この神様怖い。

 

 

 

 

 

 檻の中、大人しく座って……座って……なんか目を細めて気持ちよさそうにしている蜥蜴のモンスター。ガネーシャ・ファミリアの団員がブラシを持ってごしごしと背中を洗っている。

 他にもブラッシングしてたりだとか割と友好的な態度でモンスターに接している団員が多いな。

 

「ここに居るのは調教済みのモンスターだ、どうだ? 感想は」

「はぁ、思ったよりも……なんか普通の動物みたいですね」

 

 犬猫と言うよりは牛や馬と言った家畜の世話してるみたいに見える。さっき暴れてたモンスターと同じ種族のモンスターも居るが雲泥の差である。

 

 と言うか……モンスターにもガネーシャ・ファミリアの団員が着けてる仮面つけさせてんのかよ。そりゃあ一発で『あ、ガネーシャ・ファミリアの調教済みモンスターだ』ってわかるだろうが……。

 

「キュイキュイ」

 

 もっと奥? 何が居んの?

 

「キューイ、もっと具体的にお願い」

「キュイ?」

 

 何で? だってさ。意味わかんないよ。

 

「どうしたのだ?」

「キューイがもっと奥に何か居ると。何かが何かはわかんないですが」

「ふむ……」

 

 顎を撫でながらじっと奥を見据えているガネーシャ様。そのガネーシャに団員が耳打ちし始めた。

 

「ガネーシャ様、この奥は例のワイバーンが」

「そうか」

 

 例のワイバーン? ガネーシャ・ファミリアが調教したワイバーンだっけか? なんか凄く強いらしいが。

 

「行ってみるか?」

「キュイッ!」

 

 ぶんぶんと首を縦に振るキューイ、俺の頭の上であんま動かんでくれんかね。首がぐわんぐわんするからさ。

 

 

 

 

 

 今まで見てきた檻よりも更に大きな檻の中、翼を畳み縮こまったその姿はいっそみすぼらしく映るだろう。

 しかしその瞳に映っているのは激情。その激情を瞳の奥に押し留めながらもゆっくりとした動作で首を上げるソイツ。

 

 頭から尻尾までの体長はおおよそ4メートル程だろうか。翼を広げれば多分8メートルとかそんぐらいか? かなり大きく感じる。

 今まで出会ったモンスターで一番でかいのはミノタウロス。2メートル越えの巨人って感じだったが、こっちは完全に竜だ。

 

 ……かっけぇ……。率直な感想を言わせて貰うならもうそれしか言葉が浮かばない。

 

 鱗は薄赤く、瞳はギラギラとした爬虫類を思わせる黄色がかった瞳。激情が渦巻きながらもその瞳に宿る光は理性的である。

 鎖で過剰なまでに翼を封じ込められたその姿は惨め、だがその揺らがない意思とプライドの光は思わず目を逸らしそうになる程に輝いている。

 

 やっぱ暴れると危ないからか過剰気味に鎖で拘束されてる。

 

「ふむ、今日は大人しいな」

「何時もは暴れているので?」

「ああ、少し気性が荒くてな……調教した本人の言う事も時折聞かない事がある」

 

 マジか、そりゃ拘束が激しい訳だ……と言うかこのワイバーンを調教したとか凄いな。いや、でも言う事聞かない時があるって事は調教前なんじゃ?

 

《何しに来た》

 

 …………。うぇ? なんか声が聞こえる。これは……宇宙の声? SANチェックしなきゃ。

 

「えっと、神ガネーシャ?」

「どうした?」

「……何か言いました?」

「うむ? 何か聞こえたのか?」

 

 あぁ、気の所為だったのかな?

 

《何をしに来たと聞いている》

 

 ……キェェェェアァァァ!? 喋ったぁッ!?

 

《……はぁ》

 

 悩ましげな溜息が聞こえますガネーシャ様。

 

「えっと、何をしに来たって……」

「ふむ? お前達、そんな事を口にしたか?」

 

 後ろの護衛の団員に声を掛けるガネーシャ様。首を横に振る団員。

 やべぇ、凄くホラーだよ。

 

《話を聞け。何をしに来た》

 

 ……幾度かの問いかけ。と言うかもう答え出てるよね。目の前の檻の中から聞こえるんだなぁこれが。

 

「えっと、キューイ、何か言いました?」

「キュイキュイ?」

 

 なんか困ってるみたいだよ? って何? 誰が困ってるの?

 

「キュイ」

 

 彼、だって。彼って誰だろうネー。

 

「キュィ? キュイキュイ」

 

 檻の中の素敵な彼、鱗が艶々で綺麗。尻尾も魅力的。だそうです。 いや、かっこいいのは分るけど魅力的って……。

 

「キュイキュイ」

 

 彼と子作りしたい(ド直球) だって。彼……檻の中のワイバーンは雄なのか。と言うかマジかぁ……いや、キューイ、お前性別決まってねぇんじゃねぇの?

 

「キュイ」

 

 今女の子になった。ふぅん……そうなんだ(遠い目)

 

「どうした? 何かわかったのか?」

 

 キューイがソコの(ワイバーン)に一目惚れして女の子になった(意味深)みたいですね。

 なんて言えないからとりあえず。

 

「なんかそこのワイバーンの言ってる事が理解できるっぽいです」

 

 ははは……はは……ちょっと今度からキューイの誘導には乗らない様にしよっと……どうすんだよこの状況。

 

 キューイ、お前の所為で大変な事になってんだよ助けろよ。

 

「キュイキュイ」

 

 一緒に飛ぼう、巣作りの場所探そう。素敵な彼(ワイバーン)を口説き始めるキューイ。お前本気で怒るぞ。

 

《それは望むべくもない。美しいそなたの為ならばこの戒めを破壊して大空へと羽ばたきたい。だがそれは出来ない》

 

 うゎああああああああああっ!? くっそ真面目な返答返してるぅっ!? しかもキューイに美しいとか返してるよ彼っ!?

 

 誰か助けて……。


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