魔銃使いは迷宮を駆ける   作:魔法少女()

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第三十五話

 ガネーシャ・ファミリアが捕獲していた、怪物祭(モンスターフィリア)に必要な未調教モンスターを、どこぞの誰かさんが逃がしてくれやがったらしい。

 関係者用区画、囚われのお姫様ならぬ囚われのキューイを救出後、慌ててガネーシャの所に向かうべく足を進めようとした所でガネーシャ・ファミリアの団員と出会った。

 

「これは……」「ガネーシャ様に連絡をっ!」「ノースリスっ! 大丈夫かっ!」「ノースリスっ!? どうしたっ!?」

 

 おぉう、血塗れだったからかめちゃくちゃ驚かれた。俺も驚いたんだが、どうにもおかしいんだよな。

 体中血塗れ、特に腹の部分にはレザーベストに貫通した様な痕もあった。ただ、体には傷一つ無かったし、特に痛む所も無い。と言うか今気付いたが昨日の怪我による痺れとか違和感も綺麗さっぱり消し飛んでやがる。むしろ調子よくなってる。

 

「モンスターが逃げ出しましたっ!」

「やはりかっ!」「ノースリス、何があったかわかるのか?」「他の者達は見ての通りで話が出来ない」

 

 団員達、と言うか通路に寝かされているガネーシャ・ファミリアの団員……仮面を付けてないが服装からしてガネーシャ・ファミリアの団員だろう。その寝かされている団員の顔は……なんつーか、こんな非常事態なのに蕩けた様な幸せそうな顔してる。なんだこれ……。

 

「えっと、私にも何があったのかわからないのですが、キューイ曰く『誰かがモンスターを逃がした』と言うのと『魅了された』とか言ってました」

「魅了? そうか、その事もガネーシャ様に報告するぞ」

「ノースリス、お前は直ぐに治療を」

 

 慌てた様子で上の方に駆けて行く幾人かの団員。残った団員は俺の方を見て治療を促すが、怪我は何処にも無い。確かに血塗れではあるが。んな事よりも街中に逃げたモンスターをどうにかしないとまずいだろ。

 

「いえ、私も街中に逃げたモンスターを追います」

「だが、お前は客人だ、何かあったら困る……護衛はどうした?」

 

 護衛? そういえばレベル2が二人ついてくれてたよな? 何処行ったんだ?

 

「わかんないです」

「キュイキュイ」

 

 うん? 魅了されて倒れてる? さっきの場所で? 魅了ってやべぇな。何にも覚えてない。と言うかなんで俺はこんなに血塗れだったのに怪我一つ無いんだ? 意味がわからんぞ。

 

「まぁいい、お前は大人しく――

「逃げたモンスターの数が多すぎる、それに散らばり過ぎていて捜索が追いつかないぞ」

「……くっ、ノースリス、すまないがモンスターの捜索を手伝ってくれ」

 

 客人に手を貸してと言うのは辛かろう、だがそうは言ってられないしな。一般人が襲われて怪我すりゃヤバイし、死んだ日にはガネーシャ・ファミリアの責任問題に発展するだろ。神ガネーシャは割と好きな神様だしどうにかしないと。

 

「わかりました」

「こっちだ」

 

 キューイ、モンスターの場所を探してくれ。

 

「キュイッ!」

 

 これほどキューイが頼もしく見える事も無かろう。ガンガン行こうぜってな。

 

 

 

 

 

「そっちの角、三つ向うの所にモンスター、二匹居ます」

「わかった、おいお前達、そっちに向かえ」

「「わかった」」

 

 街中を猛ダッシュしながら近くにモンスターが居たら一緒に走る団員の何人かを向かわせる。逃げたモンスターは全部で20近いらしい、小物のコボルト、ダンジョンリザードから、大物のシルバーバックにオーク、ソードスタッグ等も居るらしい。

 

 コボルト、ダンジョンリザードはわかるが、シルバーバックとソードスタッグは聞いた事も見た事も無い。多分だが俺とベルが潜る階層よりはるか下の階層のモンスターなのだろう。コボルトですら一般人ではヤバイと言うのに、そんなモンスターが街中に解き放たれるとか悪夢じゃねぇか。

 

「ノースリス、残りは何処に――うん? あっちか」

「先に行ってくださいっ!」

 

 足の遅い俺に合わせる必要は無い。そう伝えればその団員はさっと駆けていく。視線の先に居るのは剣みたいな角を生やした牡鹿の様なモンスターが居る。あれがソードスタッグか。

 

「キュイッ!? キュイキュイッ!!」

 

 え? 助けてって言ってる? 何処ッ!?

 キューイの言葉に従って足を止めてからそっちの方に駆けだそうとして、周囲を見回す。ガネーシャ・ファミリアの団員は今近くに居ない。最後の人もソードスタッグの方に行ってしまったし。だが『助けて』って言葉を無視する訳にも行かない。どうする? いや、迷うまでも無いか。助けに行く。魔法が使えるんだ、なんとか――なんとかする。

 

 

 

 

 

 キューイの指示に従って幾度か細道を走り抜ければ、広い場所に出た。中央には大きめのモンスター、あれは――蟲系のモンスターか? 名前がわからんがクワガタみたいな二足歩行のモンスターだ。ヤバイ、見た事無いし聞いた事無い。間違いなく俺の実力でどうにかなるとは思えないモンスターである。

 そのモンスターの正面、尻餅をつきながらも後ろに後ずさっている小さな少女が居た。栗毛の女の子である。周りを見回す。なんで誰も助けに入らない。冒険者が沢山居るだろ、誰か助けてやれよ。

 

 そんな疑問は直ぐに解消した。

 

 周辺には屋台を守る様に短剣を構えた冒険者の様な姿が多数確認できる。だが、どの冒険者も軽装、鎧なんて身に纏わず手にしているのは護身用程度の短剣のみ。モンスターに対抗できそうな装備が何一つ無いし、よく見れば駆け出し相当の冒険者がほとんどだ、助けに入るなんて出来る訳もない。

 

「キュイッ!」

 

 助けなきゃ、そう叫ぶキューイ。なんとかするとは言ったが、なんとかなるのか? かなり、と言うか普通に厳しそうだぞ。

 

 ――そんな考えを塗り替えた。

 

 聞こえた、聞こえてしまったのだ。栗毛の少女のか細い声、『たすけて』と言う言葉が聞こえてしまった。前を見据える。モンスターは何故か少女をゆっくりと追い詰める様にキチキチと甲殻を擦り合わせる不快な音を立てながらじわじわと距離を詰めている。少女は少しずつ後ずさって震えている。時折、震えた声で助けを求めているが、誰も助けに入らない。沢山の冒険者が居るってのに……。

 

「あぁもうっ! こうなりゃ自棄だっ! 『ショットガンマジック』ッ!」

 

 助けてなんて言ってる少女を見捨てる? そりゃぁ出来んわ。ヘスティア様の眷属として、ベルの家族としても、そんな事は出来やしない。

 イメージだ、想像しろ、俺の魔法はそれで威力を引き上げれる。あの甲殻をぶち抜ける威力の銃でも想像すりゃいいのか?

 

 イメージとしては水平二連式ショットガン、ダブルバレルショットガンと呼ばれるタイプで、ワントリガーで二発同時に発射するタイプをイメージ。消費弾薬が二倍になりそうだが、威力は高まるだろ。

 ぶっつけ本番の想像した詠唱、頭の奥がチリチリと妙な感覚に囚われるが知った事か、次は弾薬選択だ。

 

「『リロード』ッ!」

 

 散弾銃の中でも特殊な弾薬、熊撃ち等に利用される単粒(スラッグ)弾をイメージ、威力は高いはずだ。

 チリチリした感覚が増える。頭の中でやすり同士を擦り合わせたらこんな感じになるのかと言うぐらい。だが痛みは無い。なら問題ない。

 

 右手を相手に向けつつ一気にダッシュ、走り出す。件のモンスターは鎌状の頭? クワガタの構造なんて詳しく知らんし、そもそもクワガタであるかもわからんが、二本の大顎? で少女を挟み込もうとしてる。肝心の栗毛の少女は完全に腰が抜けてるのか立ち上がろうともしない。周囲の冒険者も悔しそうに歯噛みしている。

 

 そんな少女とモンスターの間に滑り込んで顔に指先を突き付ける。吹っ飛べ糞野郎!

 

「『ファイア』ッ!」

 

 魔法陣がきらめき、手の甲の光が何時も以上に一気に減り、凄まじい発砲音と共にクワガタっぽいモンスターを大きく怯ませる。そう、怯ませただけ。威力不足だ。

 

「ッ!? 『ファイア』ッ!」

 

 一発目を至近距離でぶち込んだのに倒せなかった。焦りはあるが怯ませる事には成功した。二発目をぶち込んで直ぐに栗毛の少女の方を向く。二発目がどんな効果を齎したかなんて確認する余裕は何処にも無い。栗毛の少女を左腕で掻っ攫って走り出す。

 

「文句なら後でいくらでも聞いてあげるから大人しくしてなさいっ!」

 

 驚いたのか暴れようとする栗毛の少女を荷物の様に小脇に抱えて走り出す。俺と同じくらいの体格の少女、と言うか幼女だが、重い。女の子に重いなんて言葉は禁句だが、はっきり言おう。俺も同じ体躯なのだ、人一人を運んでダッシュなんて普通なら出来ない。まぁ、今の俺は神の恩恵、ファルナで身体能力の強化された冒険者だ。重くとも何とか走れる。

 

「『ファイア』ッ!」

 

 三発目、えっと、消費弾薬が3発ずつで、装弾数が20発だから――残り5発か?

 後ろを確認すれば、今にも大顎で俺と栗毛の少女を挟み込もうとするクワガタ野郎が居やがった。立ち直り早すぎんだろっ!

 

「『ファイア』ッ!」

 

 残り――嘘だろ、手の甲の残り弾薬数を示している結晶が砕けて消えた。まだ四発目だぞ。もしかしてマジで消費弾薬二倍になってたのか? それで威力不足とか笑える。俺のステイタスがもう少し高ければ――ここ三日、ステイタスの更新をしてなかったのが響いたか。

 

「『リロード』ッ!」

 

 慌てて装弾――あ、これ死んだわ。

 

 大顎が俺の左右に見え、目の前にはクワガタの顔。あ、こいつの顔少し凹んでるわ。効いてない訳じゃないのね。まぁ、殺しきれなかったからアレだけど。

 

「悪いわね、あんた邪魔」

 

 左腕で抱えた栗毛の少女の「あ……」と言う小さな呟きが聞こえ、咄嗟に少女だけでもと投げる。悪い、全力投球。少女を投げ飛ばすとか何考えてんだって話だけど、マジで邪魔なんだわ。一緒に挟まれたらヤバそうだしね――ギチリと胴が挟み込まれ、『ショットガンマジック』が強制解除された。

 

 つか『マジックシールド』はっ!? なんで発動しないっ!?

 

 挟み込まれて持ち上げられる、大顎で咥えられた状態のまま地上を見下ろす。うぅん、これ虫系の化け物が出る映画で見た事あるぞ――――このまま真っ二つにされる奴じゃね? まだ死ねないってのっ!!

 

「『ピストルマジック』ッ!」

 

 イメージだ、イメージしろ。超強い拳銃を――――落ち着け、まだ何とかなる。まだ胴体繋がってるし、ぎちぎちと締め上げが強まってきて死にそうだけど大丈夫。多分。

 

 想像するのは世界最強の拳銃、Pfeifer Zeliska(パイファー・ツェリスカ)とか言う頭おかしいアレ。現実的な実用性は皆無で『世界最強』の称号欲しさに作られたと言われてる浪漫銃器。

 

 ギチギチと言う胴を締め上げる感覚だけでなく、頭の中でガリガリとなんかを削る音が聞こえる。激しい頭痛と共に右手に現れた魔法陣が揺らめいて妙な火花の様なモノを散らす。意味を込め過ぎて魔力暴発(イグニス・ファトゥス)寸前なのを知らせるソレ。

 今は無視、このまま胴体と泣き別れはマジ勘弁。痛い痛いっ! お腹潰れるからっ!

 

「ぐぅっ!? 『リロード』ッ!」

 

 想像しろ、最強の拳銃に込める弾薬を――.600ニトロ・エクスプレスと言う弾薬。簡単に言えば対獣用の『ライフル弾』である。拳銃に詰め込むもんじゃねぇだろ。だが威力は折り紙つき。

 バチバチと火花を散らす結晶、魔法陣もちかちか点滅して少しでも意識が逸れればそのまま魔力暴発(イグニス・ファトゥス)する事間違いなし。そろそろお腹が限界迎えそう。やだ、おもらししそう……序に臓物(お腹の中身)全部ぶちまけそう。おしっこ漏らすのと、臓物(中身)もらすの、どっちが良いですか? どっちも嫌です。

 

 強引に腰を捻る。悲鳴を上げたくなるぐらいの激痛と共に銃口(指先)をクワガタモンスターの額に押し当てる。

 今度こそ――吹っ飛べ糞野郎。

 

「『ファイア』ッ!!」

 

 衝撃、爆発。大顎がバラバラに弾け、俺の体が投げ出される。

 

 着地に失敗して盛大に肩から落ちた。痛い。肩が砕けそう……でも胴体は繋がってるし、生きてる。見上げた其処にあったのはクワガタ型のモンスター……の下半身。上半身何処行ったし。

 

 黒い何かに変貌を遂げ、その下半身もぶわぁっと消え去った。やった、勝ったぞ。

 

「キュイッ!」

 

 ……キューイ、お前さっきまで何処行ってたんだよ。まぁ良いか。凄く疲れた。周囲で上がる歓声を聞きながら心地よく目を閉じる。このまま寝ても許されるよね? よくやったとかそんな歓声が聞こえる。ガネーシャ・ファミリアの団員はまだ来てないっぽいなぁ。頭の中がまだチリチリする。魔法使えるとは思えん。怪我はー……肩が痛いが『レッサーヒール』も使えないぐらい疲れたわ。

 

 そんな風に力を抜こうとした所で、聞きたくない言葉が聞こえた。

 

 ――あっちの方でシルバーバックがツインテールの女神と白髪の少年を追いかけていってたぞっ!――

 

 ツインテールの女神? 白髪の少年? ははっ……あぁ、クソッ垂れだよ畜生。もう少し頑張らなきゃじゃねぇか。

 

 ヘスティア様とベルだろ其れ。キューイ、場所案内頼む。

 

 直ぐ行かなきゃ。

 

 ――あの女神様にも言われたし――




 浪漫武器って良いよね(実用性皆無の馬鹿でかい銃器を見つつ)

 魔法の利点として実銃の欠陥である『重すぎる重量』と『携帯性の無さ』『射撃姿勢の保持が出来ない』等は解消されてるからね。
 ただ『反動』はなぁ……。冒険者だからって事で(小声)

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