魔銃使いは迷宮を駆ける 作:魔法少女()
シルさんに財布を届けて、その後にダンジョンに潜る積りだった。
けれども、途中で神様と出会って
楽しい一日になるはずだった。
何故か逃げ出したモンスター達、そしてそれに追われる事になった僕と神様。
急いで神様の手をとって逃げ出した先は、東と南東のメインストリートに挟まれる区画にある広域住宅街。都市の貧困層が住む複雑怪奇な領域は、一度迷い込んだら最期、二度と出て来られないとまで言われている『ダイダロス通り』。
入り組んだ道を、ただ只管に神様の手を握りしめて走る。
左の細道に入って、木箱が積まれた角を右に曲がって、ごみの詰ったゴミ箱を蹴飛ばして、走って、走って。広い場所に出た。
次はどちらに逃げる。奥の方の細道? 手前左側の道? 一瞬迷ってから直ぐに細道に入るべきだと左側の道へと足を踏み出そうとすると、建物を飛び越えたモンスター、銀色の毛を持つ大猿、シルバーバックが目の前に落ちてきた。
「ぐぅっ!」
「ベル君っ!」
「神様っ!」
シルバーバックの着地の影響で神様の手を離してしまう。シルバーバックが振り向き、目が合った。その瞬間、ダンジョンで出会ったミノタウロスの姿を幻視した。
憎悪と殺意に染まった真っ赤な爛々と輝く瞳。嘲笑った、嘲笑われた。脅える僕を嘲笑うその顔に、僕は動けなくなってしまった。
その様子を見て、何を思ったのか。シルバーバックはベルから視線を外す。そのまま神様に手を伸ばし始めた。
何故、僕を狙わない? 僕が弱いからか? あぁ、そうだろう。僕は弱い。だってこんなにも怖がってしまっているんだから。手が震える、足が震える。恐怖で硬直して動けない。
怖い、怖い――でも、僕は男だろ。
恐怖に震える体を殴る様に、自分を鼓舞する。そうしないと、動けないから。
――いけよ、いけよっ! 女の子を置いて、逃げるなっ!!――
一気に走り込む。ナイフを握りしめ、此方から視線を外して神様だけを見据えるシルバーバック。いける、今なら不意打ちになるだろう。だからっ。
走って、一気に目の前に躍り出る。ナイフを両手で握り締め、振り上げる。
「うぁぁぁぁぁぁあっ!!」
――――甲高い、金属の砕け散る音。
飛び散った金属片には、白髪の少年の呆然とした顔が映りこんでいる。信じられない、少年の顔にはそう描かれている。それは、その金属片に映り込む少年は――僕だった。
呆気無く砕け散った金属片、元ナイフだった残骸。身動きがとれない空中で、背中に強い衝撃を感じた。息がつまり、体が吹き飛ぶ。シルバーバックの張り手であっけなく吹っ飛んだ体が、壁につけられた魔石灯をいくつか粉砕して地面に落ちた。
「ベル君っ!!」
神様の声――僕が守らないと。でも……僕じゃ――ダメなのか?
「二人とも目を瞑りなさいっ!!」
聞こえた大声、ミリアの声に反応して目を閉じる。次の瞬間、眩い光が瞼越しに降り注いだ。
「ヘスティア様っ! ベルっ!」
腕を掴まれ、強引に立たされる。
「ミリア君っ! その恰好はっ!?」
「話は後で、今は逃げますよっ!」
目を見開けば、僕と神様の手を引いてミリアが走っている。僕は引かれるがままに足を動かしてついていくだけ。
ミリアの後ろ姿は血塗れで、思わず息を飲んだ。
昼間見た時にかっこいい調教師の恰好をしていたのに、何でそんなに血塗れなんだろう。そんな疑問が浮かんだ瞬間、ミリアに突き飛ばされた。
「ベルっ! 神様をっ!」
「ミリアッ!?」「ミリア君っ!」
腕の中に感じる温かさは神様のもので、脇道に突き飛ばされて臀部を強かに打ちつけ、感じた鈍痛に目の前が一瞬眩む。
眩んだ瞬間に硝子の砕ける音が響き、ミリアがうめき声を上げた。
脇道に飛び込み損ね、飛んできた岩の塊がミリアの『マジックシールド』に阻まれて砕け散る。
「回復早すぎでしょっ!! 『ピストル・マジック』ッ! 『リロード』ッ! 『ファイア』ッ!」
流れる様に魔法を放ちながらミリアが焦った表情で此方を見た。
「はやく行ってっ!」
急かされる様に立ち上がり、神様の手をとって走りだそうとして――二度目の硝子の砕ける音と木箱の粉砕音で足を止める。
「ミリア君っ!!」
神様が僕の手を振り払って後ろに走り出す。慌てて僕も続けば『マジックシールド』が砕けて意識が朦朧としているミリアが粉砕された木箱にめり込んでいる。
「ベル君、ミリア君をっ!」
「はいっ!」
急いでミリアの腕を掴んで木箱から助け出す。それから走り出した。
「ごめん……まだアイツ、目が見えてないみたいだけど、音を頼りに木箱ブン投げてきてるみたい……」
背負ったミリアの言葉を聞き流しながら、僕は神様と一緒に走る。
くっそ情けなさ過ぎて泣きそう。
キューイレーダーに引っ掛かったベル君&ヘスティア様の下へ急直行したら、丁度ベル君がぶっ飛ばされた所だった。キレて『ピストル・マジック』の強化詠唱で一発KOを狙ったが、上手くいかなかった。
と言うか、なんか
仕方ないので低威力の糞雑魚『ピストル・マジック』で周囲の魔石灯をぶち抜いて疑似閃光弾状態にさせてもらった。え? 修理費? ガネーシャ様お願いします。
ベルの手をとり、ヘスティア様と一緒に細道へ逃げ込んで――キューイが危険を知らせて来て慌ててベルにヘスティア様を押し付けて横道へと突き飛ばせば、『マジックシールド』になんかがぶち当たって意識が遠のきかけた。あの糞猿モンスター、周囲の物を手当たり次第こっちに投げてきやがる。
キューイ曰く、音が聞こえる方に適当に投げてるだけだから逃げれば良いとの事だが、『ピストル・マジック』で撃ち落とすってのをやって時間稼ぎしようとして失敗、連射しようとしたら二発目で
ベル君が背負ってくれてたけど途中からヘスティア様が肩を貸してくれてる。閃光での目潰しの効果がそろそろ切れそうだから、どうにかしないとなんだが。
日陰から日向に出たのか一瞬視界が眩む。木箱なんかが積まれ、貧民街のイメージが付くダイダロス通りらしい風景に思わずうんざりする。出口どっちだよ。ガネーシャ・ファミリアの団員が早く来てくれないとヤバイんだが。
「神様っ! あそこに逃げましょうっ!」
先行していたベルが見つけたのは、鉄の格子扉である。何のためのもんかわからんが少しは時間を稼げそうだな。後ろから聞こえる怒りの咆哮から、目潰しの効果が切れたっぽいのが確認できる。
「神様、先にミリアと行ってください」
格子扉を開けて周囲を警戒するベル君。直ぐには来ないと思うが……。今の俺は血が足りてないのかなんなのか、上手く思考がまわらん。助けに来たのに肩を貸されて助けられてるって情けなさすぎだろ。泣きたい。
薄暗い通路だが、奥に微かに光が見える。ここを通ってもあの糞猿は追いついてきそうだが、少しでも時間を稼げばガネーシャ・ファミリアが応援に来てくれるだろ。
後ろで格子扉を閉じる音が聞こえた。
「よし、奥に道があるね。ベル君も――ベル君、何を……してるんだい?」
驚きで硬直したヘスティア様、俺も後ろを振り向けば――鉄製の格子扉が閉じていた。まぁ、それは解る。開けたら閉じる。基本だもんね。
でもさ、何でベルは
「ごめんなさい神様、ミリア……」
いきなりの謝罪、意味分らん。何してんだよベル。さっさとその扉開けろよ。
慌てて格子扉を開けようとヘスティア様から離れて扉に体当たりを繰り出す。ガシャンと言う金属をブッ叩く音、それから体中に走る鈍痛。何でこの扉は開かないんですかね……あ、入口の所の閂が下されてらぁ。こりゃ開かないわ。
何で閂下りてんの? さっきまで普通に開けれたしおかしいよなぁ?
「ベル、何をしてるの?」
「……ミリア、神様をお願い」
何言ってんだよ、ふざけんなって。そう言う冗談はこういう場所で言うもんじゃないだろ。糞がっ、丁寧に鎖まで巻き付けてベルは何がしたいんだよっ!!
「…………僕が……僕が時間を稼ぎます」
……何の時間を稼ぐって?
「だから、ミリアは神様を連れて逃げて」
「何を言っているんだベル君っ! 今すぐここを開けるんだ」
は?
「神様、ミリア……僕は……
おい、おいおいっ!! 何言ってんだコイツはっ!!
それにベルである必要ねぇだろっ!! こういうのは俺みたいなのの役目だろっ!!
ベルが走って行ってしまう。格子扉はビクともしなくて、直ぐにベルの姿は見えなくなった。
「嘘でしょ……」
「ベル君……」
おい、嘘だよな? マジでなんなのこれ。何でこの扉壊れネェんだよ。こんだけボロッちい貧民街なんていうなら、すぐぶっ壊れる様なぼろい扉で良いだろ。何でこんなに頑丈なんだよっ!!
蹴飛ばす。殴る、体当たりする。小さな幼女程度の体躯しかない俺の攻撃ではビクともしない。
俺は助けに来たんだよな? 神様を、ベルを――
「ミリア君、落ち着くんだ」
肩を掴まれる、待ってくれヘスティア様、今このふざけた鉄格子なんて俺がぶっ壊して――
「ミリア君やめるんだ」
っ!!
腕を掴まれた。血が滴り落ちる手を見て歯を食いしばる。ジンジンとした鈍痛が全身に広がる。そして同時に悔しさが染み渡る。
あぁ、そうだよな。俺じゃこの格子は壊せない。力が、能力が足りない。魔法でぶっ壊そうにも今は
如何すりゃいいんだよ畜生、最初から二人だけ逃がして俺が時間を稼げば――
「ミリア君、馬鹿な考えはよすんだ」
「……ベルが、ベルがっ!」
あぁ、畜生。泣いたって仕方ないだろうに。けれども涙が溢れてきやがる。悔しい、助けに来たのだ。ギリギリ間に合ったはずなんだ。ベルが一撃貰ってたけど、けれども俺が駆け付けた。本当にギリギリで助かって――後はガネーシャ・ファミリアと合流すればそれで終わり。そのはずなのに。
ベルは鉄格子の向う側、俺は其れに阻まれてベルを助けに行けない。ヘスティア様だけ救っても意味が無い。ベルも、ベルも家族なのにっ!
「ミリア君、聞いてくれ。僕に良い考えがある」
良い考え?
「あのモンスターを倒すんだ」
……無理だろ。無理だ。何せあのモンスターは十一階層に出現するモンスターなんだ。糞猿呼ばわりしてるが、俺の能力からして勝ち目なんて微塵もないし、ベルの能力でも厳しい位だと思う。
「大丈夫さ、僕は君を信じてる。ミリア君、コレを受け取ってくれ――君の為に作って貰ったんだ」
差し出されたのは左手につける用の手甲。朱色の竜鱗を模した意匠の手甲。ガネーシャ・ファミリアのくれた軽量の手甲よりも更に頑丈そうなそれ。
「これは……」
「キューイ君に頼んで爪とか鱗とかを少し分けて貰ってね。それを素材に作ったんだ」
手甲の表面に走るこの文字は、確か
「いいかいミリア君、今から君のステイタスを更新する。それからベル君と合流して、ミリア君には申し訳ないけどベル君のステイタスを更新するまで時間を稼いでくれ。ステイタスの更新が終わったら――
……なるほど。なるほど、そうか。
「いけるかい?」
決まってんだろ。
「いけるかいけないかじゃなくて、いきますよ」
さっと上着を脱いで背中を晒す。後は腰のナイフをヘスティア様に渡しつつ、ガネーシャ・ファミリアに貰った手甲を外す。よく見ればガネーシャ・ファミリアに貰った手甲はへしゃげて歪んでる。ガネーシャ様には申し訳ないが此処に捨てていかせてもらう。勿体ないがガネーシャ様には頭下げて謝っとこう。
キューイを床におろして朱色の手甲を身に着ける。淡く
背中で光が弾ける。体の気だるさが若干マシになった。
そうしてる間にもヘスティア様が作戦における重要な点を伝えてくる。
と言っても単純に決めたのは合流場所のみ。ベルを拾ったらヘスティア様が先に合流場所に辿り着いてそこでステイタスの更新、俺はシルバーバックを惹きつけて時間を稼ぎつつ、適当なタイミングでヘスティア様の所へ。
最後にベルと協力してシルバーバックをぶっ飛ばす。解りやすくて素晴らしい作戦だ。神様の記憶能力で戦いやすい地形の場所まで移動して貰って、俺はキューイに道案内頼む事でサクッと合流と。
作戦会議っぽいモノも終了し、更新が完了する。この場で更新後のステイタスが解る訳じゃ無いが結構上がったのか?
「っ! ミリア君、新しい魔法が使える様になってるけど」
「詠唱文と特徴だけ教えてください」
ここで新魔法キターっ! これは勝てるフラグですね。多分、きっと、メイビー。
「基礎詠唱は『ライフル・マジック』、特殊詠唱で『スナイプ』、効果は『高威力&超射程』『単発の魔弾』『消費弾薬1/10』だよ」
…………。スナイパーかな? この場で使うには消費が大きすぎる上に遠距離用の魔法である。どっちかと言えば『サブマシンガン・マジック』みたいな
「わかりました。ヘスティア様、下がってください」
まぁ良い。とりあえずステイタスの更新完了。上着も適当に着直して――目の前の鉄製の格子扉を蹴っ飛ばす。一度――二度――三度――固すぎぃっ!
「っ! 『ショットガン・マジック』ッ! 『ファイア』ッ!」
ショットガンをぶち込む、一発目で扉が軋む。魔力が相当上がったのか威力も上がってるっぽいな。力? ミリアちゃんはパワー系じゃないから。
「『ファイア』ッ!」
二発目の『ショットガン・マジック』で蝶番が一つ弾け、扉が軋んで半開きになった。
「よしっ! キューイッ、ベルを探してっ!」
「キュイッ!」
「ミリア君っ!」
なんですかヘスティア様。
「無茶だけはしないでくれっ!」
了解ですよ。ベルみたいに神様泣かせる行動なんてするわけないでしょ。ベルは後で一発ビンタしないとだな。神様泣かせやがって。
10評価が1個来るだけで日刊の上位に入るの不思議よな。
お気に入りが日刊ブーストで加速していく……(遠い目)