魔銃使いは迷宮を駆ける   作:魔法少女()

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第四十話

 街の中央にそびえたつ神々の立てた建造物。白亜の塔、摩天楼施設バベル。そのアホみたいな高さのそれを眺めつつ噴水の縁に腰かけてぼんやりしている。今日は平和だなぁ、数日前の怪物祭の騒ぎが嘘みたいだ。

 それにしてもベルは随分とそわそわしてるな。エイナさんが来るのを今か今かと待ちわびてる。まだ30分ぐらい時間あるからまだだぞー。もっと気楽に肩の力を抜いてだね。

 

 エイナさんとデートだやったぁー。と素直に喜べばいいとは思うんだが、今の俺は幼女だしなぁ。

 

 女性とのデートならおしゃれしないと……と言いたいが今の俺の恰好は魔女コス姿に金属製の長杖、これは魔法使い以外にありえませんね。なおコスプレと思われている模様。違いねぇ。顔を見せると騒ぎになるからね、ショウガナイネ。

 

 しかし、ベルは朝から張り切るねぇ。ヘスティア様はヘファイストス・ファミリアのバイトへ早々と出て行ったからしゃーないが、俺らも早めに出てきて集合場所で待機している所だ。

 

 早めに来て待つのは男の甲斐性って奴だからね……なお今の俺は男じゃない模様。悲しいなぁ。

 

 まぁ、こうやってぼんやりとなんかを眺めてるのは悪く無い。横のベルの落着きの無さは少し気になるがまぁ、綺麗な女の人と買い物に出かけるからね、多少はね。

 

「おーい、ベル君、ミリアちゃん」

 

 ふぅむ。エイナさんの声だ。1時間ぐらい早めに来てたが、時計をちら見すると30分前か、かなり早いな。

 

「あ、エイナさ……」

 

 うぅん? ベルの動きが止まった。なんだ?

 

「おはよう二人とも」

 

 不思議に思ってベルの視線を追うと、超可愛い女の子が其処に居た。いや、スーツの上からでもわかってたけどエイナさん胸でけぇな。ヘスティア様ほどじゃないけど。

 

「随分来るのが早いのね……もしかして私との買い物、そんなに楽しみだった?」

 

 悪戯っぽい笑みを浮かべてベルによるエイナさん。受付嬢として笑みを浮かべてる時よりも活き活きとした女の子らしい笑みにベルがタジタジになってら。

 

「えっ、あぁ……いや……僕は……」

 

 照れたように頬を染めるベル。ヘスティア様が早朝にバイトに出かけたから俺らも早めに此処に来てただけなんて普通に返してたら減点だったな。ここは楽しみにしてましたって言いながら肩を抱くぐらい……ベルには難しいだろう。

 

「おはようございますエイナさん」

「おはよミリアちゃん。私も実は楽しみにしてたんだよね。ベル君の防具なんだけどさ……ベル君?」

 

 視線を逸らして頬を赤らめて緊張した様に指を絡ませて無意味に動かしてるベル君。確かに今のエイナさんは綺麗だけど緊張し過ぎじゃ……ほら、受付で笑顔向けてくれるエイナさんも綺麗じゃん? まぁ、スーツ姿で定型文な挨拶をする受付嬢と、普通にそこらを歩いていそうな可愛い女の子じゃ緊張具合は違うか。

 

「ねぇベル君、私のこの恰好を見て何か言う事は無い?」

 

 うわぁ、エイナさんからかう気満々じゃないですか。まぁ、ベルは女性耐性つけるべきだし見守っとくか。俺はカテゴライズ的に女性と言うか幼女……妹枠だからね。しゃーないね。

 エイナさん良いぞもっとやれ。

 

「えっ、あぁ、その、すっごく、いつもより……若々しく見えます」

 

 おい、若々しいって普段の恰好が歳食ってる様に見えるって言ってる様なもんだぞ、それは女性相手に失礼だろ。もっと言い方ってのがある訳なんだが……難しいなら普通に綺麗ですとか可愛いですで良いんだよ其処は……。

 

「こら、私はまだ十九だぞー」

 

 ベルの頭を抱え込んで悪戯っぽく笑みを浮かべるエイナさん。あ、おっぱい当たってるように見えるけど……いいなぁ、羨ましいなぁ。やられてるベルはそれ所じゃ無さそうなぐらい真っ赤だけど。凄くトマトだよ。古傷を抉るのはやめて差し上げろ。

 多分そこらの冒険者の女性だったらキレて張り手が飛んできた台詞を、割と余裕で受け流す辺り手馴れてるなぁ。と言うかエイナさん二十歳前なのか、意外と言うかなんというか。

 

「ほらほらー謝れー」

 

 楽しげにじゃれあう二人。エイナさんの胸でかいなぁ。いいなぁ……。

 

「ミリアちゃんはどう?」

「ふん? あぁ、普段はとても落ち着いた雰囲気で大人びた印象を受けますけど、今は違って女の子らしい雰囲気が出ていて可愛らしいと思いますよ」

「ありがと、ほらベル君、褒める時はミリアちゃんみたいに言えば良いのよ」

 

 解放されたベルが疲れたように息を零して頷いてる。

 

 

 

 

 

 エイナさんに並んで三人であるく。エイナさんが俺の手を引いて俺がベルと手をつなぐ。うぅん……宇宙人になった気分。いや、傍から見ると子供連れの親子に……見えないな。ベルが若すぎるし。エイナさんなら、まぁ……不思議じゃないかな。ハーフエルフだし。失礼だから口にしないけど。

 

「それで、今日は何処に行くんですか?」

「ふふっ……それはね、ほらあそこ」

 

 エイナさんの指し示す先、それは朝っぱらからずっと眺めて正直見飽き始めたバベルであった。

 

「バベル?」

「そう、ヘファイストス・ファミリアのお店だよ」

 

 うぇ? いやいや、ヘファイストス・ファミリアのお店って、ブランド店だしいつもベルが眺めてた刀剣類ってどれもこれも数百万から数千万の高級品ばっかだったお店だぞ? そんなとこ行ってどうするんだ……?

 

「え? ……えええぇぇぇぇぇええ!?」

 

 足を止めて驚きの声を上げるベル。周囲が何事かと一瞬足を止めてベルを見るが駆け出しの少年が何かに驚いただけかと直ぐに足を進める。それをちら見してからベルの腕をちょんちょんと引く。後序にエイナさんの手も引いておく。

 

「エイナさん、ヘファイストス・ファミリアって上級武具店ですよね? 私達の手持ちじゃ全く足りないんですけど」

「そうですよ! 僕達ヘファイストス・ファミリアで買い物できる大金持ってないですよっ!」

 

 俺らの反応に対しエイナさんは意味深な笑みを浮かべてベルの腕と俺の手を掴んで歩き出す。

 

「いいから行くよー。男の子なんだからぐずぐず言わない」

「私女の子ですよ」

 

 あ、なんか自分の心にナイフ突き刺した気がする。胸が痛い。

 

「エイナさん……」

「いいからいいから」

 

 ニコニコ笑顔で手を引くエイナさん。俺の歩幅に合わせて手を引いてくれてるおかげかコケはしないが、ベルの方が完全にビビってる。本当に大丈夫なのか……? エイナさんだし大丈夫だと思うけど。

 

 

 

 

 

 バベルの内部にはいろんな冒険者向け施設が入っている。その中には鍛冶系ファミリアのヘファイストス・ファミリアの店舗も含まれているらしい。3階層まるまるヘファイストス・ファミリアが入ってるとか凄すぎ……。

 

 バベルの内部は意外や意外、エレベーター……昇降機が存在した。とは言え古い時代の昇降機の様な古めかしいタイプの格子戸だったのが少し怖い。ベルは感心しきりであった。魔石を使った昇降機らしい。なんつーかハイテクだな。

 

 扉が開いてエイナさんが先に下り、ベルが続く。もうね、昇降機の中から見ても解る真っ赤なカーペットの敷かれた高級そうな空間に気圧されてるベルがへっぴり腰気味に進むのがおかしくてね……。俺の方は魔石とかいう摩訶不思議な技術で動いてる昇降機にビビってたけど。

 

 ベルが下りたので最後にそのフロアに下りてみれば……まぁ、なんだ。パッと見で見えたのは高級そうな武具が陳列された棚。ちらっと見た限りではプレートメイル、其れもかなりごてごてした装飾のなされた其れとか、どれもこれも装飾華美な武具ばかり。

 

 胴鎧部分だけで……2240万、頭が2000万で……フルセットで8500万ぐらいか。ははっワロス。

 ラウンドシールドが1600万、指につける装飾指輪が650万。高いよ、超高いよ……。

 

 どれも目ん玉飛び出そうな位お高いんですがこれは……本当に大丈夫?

 

「知りませんでした……バベルにヘファイストス・ファミリアのお店があるなんて……」

 

 まぁ、知らんわな。俺もベルも、もっと下の階層の医療区画を少し使っただけだし。上の階層にわざわざ足を運ぶ理由もない。こんな階層に来れるのは本当に金を稼げる一級冒険者とかぐらいだろ。

 

「本当の目的地は一つ上の階層なんだけど、ここもヘファイストス・ファミリアのお店だから、ちょっと寄っていこっか」

 

 良い笑顔で先導するエイナさんに続いてベルも歩き出す。明らかに場違いな恰好の駆け出し姿を見て失笑してる奴等も居るが無視無視……。

 

 バスタードソード3000万ヴァリス、片刃のー……シャムシールか? 剣に詳しくは無いのでわからんが片刃の曲剣が2300万ヴァリス。お、ベルが使ってるのと同タイプの短剣がー……1800万ヴァリスか。安いな、ベルの腰にあるヘスティアナイフ3億ヴァリスが桁違い過ぎて笑えるよ。

 

 俺の左腕の竜鱗の朱手甲も二億ヴァリスと……よく考えりゃここに有る装備品よりよっぽど良いもん装備してんだよな俺とベル……いや、借金こさえて手に入れたもんだしなんとも……借金で思い出した。

 

 ヘスティア様ってここらでバイトしてね? ……まぁ無いか。ヘファイストス・ファミリアの店舗っていろんな所にあるし、そっちに居る可能性もある。偶然出会うなんて事は早々無いだろ。

 

「うぇえっ!? 3000万ヴァリスっ!?」

 

 驚きの余りショーケースに手をついて目を剥いてるベル。君、その剣10本分の短剣を腰に下げてるよ……。

 

「いらっしゃいませー」

 

 ベルの横、ショーケースの横の扉が開いて威勢の良い、どこか聞き覚えのある店員の声が聞こえて其方を向く。まさかね。

 

「今日は何をお探しでしょうかお客様」

「……へ?」

「……え?」

 

 ……えぇ、凄い偶然だなぁ。噂をすれば……いや、口にはしてないけど噂をすればなんとやら。ヘスティア様が可愛らしいヘファイストス・ファミリアの売り子の恰好をして店員用控室から出て来たではないか。

 

「ベル君っ!?」「神様っ!?」

「なにしてるんですかこんな所で、近頃やけに忙しそうにしてると思ったら、バイトのかけもち!?」

 

 あー……俺らの為の借金を返済中なんだよなぁ。いや、俺らの金も少しずつ納めて返す積りだが。

 

「エイナさん、すいません。私達の主神のヘスティア様です」

「あら、そうなの。仲良さそうね」

 

 にこやかな笑みを浮かべるエイナさん。いや、仲が良いのはそうなんだけどさ……店内で騒がしくするのはどうなんだろうね。

 

「べべべっベル君こそどうして此処に……」

 

 どもってるどもってる。ヘスティア様ってその場で場当たり的な誤魔化し方下手過ぎじゃない? 逆に誤魔化すと最初から決めてる場合は綺麗に誤魔化しきる辺り多分突発的な出来事に弱そう。

 

「私も居ますよヘスティア様」

「ミリア君までっ!? どうしてここに? ……と言うか誰だいそこのハーフエルフ君は」

 

 おぉう、エイナさんに噛みつきに行ったぞ。悪い神様じゃないんだけどベルに悪い虫がつかないか常々心配してるからね、しょうがないね……。

 

「あ、あぁ、そうだ神様。この人が」

「初めまして、神ヘスティア。ギルド所属のエイナ・チュールです。ベル・クラネル氏、ミリア・ノースリス氏の迷宮アドバイザーを務めさせてもらっています」

 

 さっきまでの女の子の様な雰囲気が消え失せて一瞬で営業モードへ切り替わる辺り流石だなぁ。

 

「へぇ~、君が~」

 

 ……ヘスティア様、ちょっと女の子がベルに近づいたからって半眼で睨むのはどうかと……。

 

「時にアドバイザー君」

 

 エイナさんにすっと近づいて耳打ちし始めるヘスティア様、とりあえず俺はベルが聞き耳立てない様に傍に行っとくか。

 

「ベル、ヘスティア様が此処で働いてる事知ってました?」

「うぅん、全然知らなかったよ。ミリアは?」

 

 ちなみに俺は知っていた。心苦しいがヘスティア様きっての頼みだったから……ごめんよベル。

 

「いえ、最近忙しそうなので何かあるんだろうなとは思ってましたけど……」

 

 ヘスティア様がどんなやり取りをしてるのか気になるが。

 

「は? えぇっと、公私の区別はつけていますが……」

 

 エイナさんが若干引いてるよ。ヘスティア様ぇ……。

 

「ミリア君」

 

 ちょいちょいと手招きをするヘスティア様。なんですかね。

 

「彼女、ベル君にちょっかいかけてないだろうね?」

「そうですね、一般的な掛け合いは行っていますけど、特にアタックはしてきていないですね」

 

 からかったりはしてきてるけど、ベルってからかい甲斐があるからなぁ。女性受けするって言うの? こう、見てると胸がキュンってなる様な愛らしさがある。でもやる時はやるかっこよさもあるんだよな。




 ミリアちゃんの新武器案が浮かばない。防具類は充実したしこれ以上なんか渡そうとは思わないけど武器なぁ……銃魔法あるのに武器とかいらなくね?

 でもとりあえずなんかは持たせると思う。こう、左手に……剣?

 パイレーツスタイル(右手に剣、左手に銃)ってカッコイイヨネ。なお左手の銃は使い捨てな模様。と言うかミリアちゃんの主武装銃じゃん。

 右手に銃、左手に剣になるよなぁ……。

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