魔銃使いは迷宮を駆ける 作:魔法少女()
エイナさんに装備調達に連れて行って貰った後、俺はベルと別れて一人行動中。
ベルには先に帰ってもらった。俺が向かっているのは青の薬舗、ミアハ・ファミリアの本拠である。
何故そんなところにと言う話なんだが、キューイの素材関連の話だ。前にキューイを煮だしただろ? あの時に出たキューイ汁になんか使い道が無いかなとナァーザさんに相談したんだ。
そしたらナァーザさんが気が狂ったんじゃないかってぐらい血走った眼でそれをくれと言いだした……。あの時は割と真面目にビビったわ。
ナァーザさんが発狂したのかと驚くほどの反応を見せた理由はいたって単純。竜の素材なんて持ち込みで普通に買い取りとなったら数百万ヴァリスは軽く吹っ飛ぶらしい。
上層のインファントドラゴン素材だったとしても買い取り価格は最低で五十万前後。
現在最強派閥であるロキ・ファミリア、フレイヤ・ファミリアが台頭する前に最強派閥と言われていたゼウス・ファミリア、ヘラ・ファミリアの二つのファミリアが、ダンジョン下層より竜系素材を持ち返ってきていた事が何度かあるが、現在の二大ファミリアは其処までは行っておらず、竜系素材は今や滅多にお目にかかれない素材らしい。
ガネーシャ・ファミリアで管理されているヴィルヘルム、赤いワイバーンは時折鱗や爪のかけらなんかが売りに出されたりするが、それ以外で竜系素材を手に入れるのは現状ほぼ不可能。
俺が連れてるキューイからとれる素材も一応竜系素材と言う事で、普通に売りに出したらアホみたいな値段で買い取りが為されるだろうとの事……まぁ、そんな事できないが。
もしキューイの素材を普通に売りに出した日には他のファミリアから命を狙われるだろう。と言うかガネーシャ・ファミリア並に大きなファミリアじゃないと間違いなく狙われるだろうしそんな事は出来ない。
んで俺が考えたのは友好ファミリアであるミアハ・ファミリアに素材を卸して薬にして売って貰うって方法。ミアハ様とかナァーザさんが裏切るって事はまずないし、協力関係を敷こうと取引を持ちかけた訳だ。
青の薬舗に到着っと……西のメインストリートから外れた裏路地にあるお店。メインストリートから外れているからなのかあんまり人はいない。人通りが少なく少し薄暗い道、街灯の数も少ないのでこの時間は暗いな。
店の入り口には『閉店』の掛札がぶら下がっている。客じゃないから良いかと扉を開けて中に入る。
「ナァーザさんいますかー」
薬が陳列された棚にカウンター、そして甘い様な苦い様な薬の匂いで充満した空間。店先のショーウィンドウには何も並んでおらず、日の光が入らない様にカーテンのかけられた店内は薄暗く明りはついていない。
居ない、と言うのはありえないはずだが。
「……だれ? 今日はもう店じまい……ミリア?」
店の奥から出て来たのは不機嫌そうに眉に皺を寄せたナァーザさんであった。
「ミリアだったのね。丁度良かった……例の素材の件? 少し待って、明かりをつけるから」
つい先ほどまで調合を重ねていたのだろう。どぎつい薬草類の匂いが混じり合ったナァーザさんの臭いに思わず咽る。女性としてその臭いはどうなのかと言いたいが調合師として活動する以上どうしようもないらしい。
ちなみに
「よし、其処の椅子にかけてて。持ってくるから」
明りがついた店内、棚の数に対して並べられている
其の為、店の大きさに対して調合師の数が足りず、空きの棚が目立つスカスカな状態であり、其れを誤魔化すべく色つき水の入った瓶等も並べてあったそうな……。
店の奥の方に行っていたナァーザさんが木箱を持って戻ってきた。
木箱の中には無数の小瓶、それぞれラベルが貼られており小さく調合した素材の略式名称の様な記号がかかれている。
「はい、これ。何種類か作ってみたんだけど。売りにだせそうなのは一つも無いわ」
売りに出せそうなのは一つもない?
「そうよ。どれも効果が安定しない物ばかり。効果が安定すれば間違いなく売れる物ばかりなんだけど……」
悩ましげな溜息を零してナァーザさんが真っ赤な液体の入った試験管と紙切れを手渡してきた。
「名前は『
試験管に書かれている素材の名称記号が何なのかは判別できないが、一緒に手渡してきた紙切れ、効果の書かれたメモ用紙を見れば効果はだいたいわかる。
一時的に力を増幅させる液薬、強化したい部位にかけるか飲む事で効果を発揮する。
ほぅん。攻撃力を引き上げる薬かな。強化したい部位……腕に振りかければ腕の力が上がり、飲めば全身の力が上がるって感じか。ふぅん。
「効果は凄まじいのよね。一時的とはいえ力を増幅させるなんて薬は何処のファミリアも開発できていないし」
其れは凄いな。新発明した商品って事だろ? 二属性回復薬がどうのこうので良い感じに行ってるって話だし、これも売りにだせんのかね?
「無理ね……効果が安定しないのよ」
安定しない? 時間とか?
「そう、効果時間もそうだし効力も全く安定しない。私が何回か使ってみたんだけど最短で一分、最長で三十分の効果時間で、効果の次第も全く感じられない程度からそれこそ
「はぁ……他には回復薬と似た効果の物も出来たんだけど」
回復薬と
「一定時間の間、
……普通に凄くない? 一定時間ってのがネックなのか?
「効果時間は三秒から十秒、短すぎて話にならない。しかも素材から考えて普通の
調合素材を考えると効率悪いって事ね。どんぐらい悪いん?
「……そうね、売りにだすなら最低三万ヴァリスはとらないと割りに合わないわ」
「効果を安定させる事は出来ないですか?」
「無理」
一刀両断だな。
「もし効果を安定した物にしたいなら……もっと上位の素材が必要」
ふむふむ? 竜系素材から安定した効果を引っ張り出したい場合、相応に上位の素材を使わないと下位の素材の方が足を引っ張って効果が不安定化してしまう。
んでそんな上位素材を取り扱える様な状態じゃないので現状、ミアハ・ファミリアでは安定した竜系素材の薬は開発不可能と。
「そうですか」
「……ねぇミリア」
「なんですか?」
「…………その素材、他のファミリアに持ち込んだりしない?」
んー。しない。と言うか出来ない。多分他のファミリアの場合は情報漏れで俺が襲撃受けるだろうし、顔見知りで不仲では無いナァーザさんの所以外に素材の持ち込みなんて出来るはずもない。
「そっか……ごめん、力になれなくて」
机の上に置かれた試作品類を眺めてからナァーザさんを窺えば申し訳なさそうにしているし。いや、結構無茶言ったのはこっちの方なんだが……。
「この試作品は持って行っていいわ。後お礼なんだけどこれも」
ナァーザさんが差し出してきたのは柑橘系の液体の入った試験管。
「良いんですか?」
「むしろ逆に聞きたい。こんなので良いの?」
普通にキューイの素材をもっと良い医療系ファミリアに持ち込めば間違いなく大金を出してくれるし、
リスクを考えればそんな選択肢はあり得んしなぁ。
「情報料ですよ。キューイの素材を使って何かしようとしてたってのは他のファミリアには漏らさないでください」
「……わかった。何処にも漏らさない」
ミアハ様にも伝える様にお願いしとこ……しかし力を増幅する薬と回復力を高める薬ねぇ。効果が安定してれば皆欲しがるだろうに。
オラリオにはこういった力を増幅する薬ってのは存在しないらしい。毒を治すとかはあるっぽいんだがなぁ。
「試作品、持って帰っても良いですか?」
「良いわよ、ただし効果が本当に不安定だから使うなら気を付けて」
「わかりました」
それぞれ二本ずつ貰ってこ……力の方はベルに……いや、こんな不安定なもんベルに飲ませるのは怖いな。自分で飲む……使い所がさっぱり思いつかん。
朝、姿見の前で何度も鎧姿を確認するベルの横で俺も装備を確認する。
魔女っぽいとんがり帽子に魔女っぽいローブ。左手に竜鱗の朱手甲、右手は赤色に染められた革製の手袋。腰に剣を差して背中に鉄製の長杖。後は腰のポーチに試験管を何本か。
……俺の恰好、チグハグ過ぎね? 魔女っぽい衣装から魔法使いだと思われそうだが、腰には剣だし?
あー、ベルが本当にうれしそうに装備見てるねぇ。良く似合ってると思うよ。鎧の名前はともかく。
「ベル、似合ってますよ」
「そうかな、ありがと。ミリアも似合ってるよ」
お世辞として受け取っておきますかね。竜鱗の朱手甲、見た目ほど重くないから不思議だわ。
「神様、行ってきます」
「いってきます」
「うぅん……いってらっしゃぁぃ……」
半分寝ぼけながら返事をしてくれるヘスティア様。今日も無事に帰って来ますよ。
朝霧が立ち込めるダンジョン入口。まだ朝四時ぐらいだと思うんだけど、人一杯居るわ。視界を埋め尽くす冒険者、冒険者、冒険者……。
「サポーターかぁ」
ベルの呟きを聞きつつベルの視線の方向を見れば、なんつーかアホみたいに大きなバックパックを背負った姿がちらほら。
あれがサポーター? 体の倍近い大きさのバックパック背負ってんだけど、あれで動けるの?
「おにーさん、おにーさん。そこの白い髪のおにーさん」
んむ? 後ろから聞こえた声、白い髪のおにーさん……ベルの事か? ベルをお兄さんって呼ぶって……。
「うん?」
振り返った其処に居たのは前の方を歩いていたサポーターと同じ格好、アホみたいに大きなバックパックを背負った茶髪の女の子……この子、五歳くらいの幼女じゃん。背負ってるバッグに潰されそうなんだが普通に立ってる。中身スカスカなのか? 発泡スチロールでかさまししてたとしてもあの大きさならそんな子供に背負えるはずないだろうに……。
いや、なんかこの子おかしいわ。胸がある。子供にしては胸の膨らみが確かにあるのだ。胸が膨らむのって第二次性徴期だったっけか? 学んだの昔過ぎて覚えてないわ。
この子俺と同じ
中身四十過ぎで見た目五歳児ぐらいとかワロス。ミリカン設定では15歳だったけどな。結局年齢幾つになるんだろうな俺って。
「おにーさん、突然ですがサポーターを探してませんか?」
野良サポーターか? 確かエイナさんの講習にあったな。冒険者相手にサポーターとして付き合うのは基本的に同じファミリアの下位冒険者が請け負うんだが、冒険者としての道を諦めてサポーターに落ちたりしたいわゆる落ちこぼれなんかが自分のファミリアの冒険者にサポーターとしてすら使って貰えない場合、他のファミリアのサポーターの居無さそうなパーティに声をかけて日雇いのサポーターをして稼いでいるとかどうとか。
詐欺なんかもあるっぽいから気をつけろって言われてたっけ?
「あれ……君は確か……」
うん? ベルの知り合い?
「混乱してるんですか? でも、今の状況は簡単ですよ。冒険者のお零れに与りたい貧乏なサポーターが自分を売り込みに来ているんです」
……やけに説明口調だな。誤魔化すような気配を感じる。昨日ベルなんか……あぁ、確か他の冒険者とトラブルになりかけたんだったか? 女の子が襲われてて咄嗟に庇っちゃったとかどうとか。
リューさんが助けてくれなかったら大変な事になってたらしいな。女の子の方は気が付いたら何処かに行ってたっぽいが。
つまりその助けた女の子? お礼を言いに? の割にはなんか誤魔化す様な言い方が鼻に付くな。
「えっと、そうじゃなくて、君、昨日の……パルゥムの女の子だよね」
お礼を言いに来たのなら誤魔化す必要無いだろうに。何しに来たんだ?
「パルゥム……?」
不思議そうに首を傾げる少女。
「リリは獣人、
フードを取り払ったその下から出て来たのは犬人特有の犬耳。
……え? なんかこいつおかしくね? いや、俺がおかしいのか? シアンスロープって4~5歳の時点で胸が膨らんでるのか? 獣人ってそんな感じなの? むしろ俺の認識がおかしいの? この世界って幼女の時点で胸が膨らむ訳? ロリ巨乳が多数居る普通の世界なのか。ロリ巨乳好き歓喜な世界じゃん。
…………で、実際の所はどうなの? ナァーザさんに確認とるか。なんかこいつ
リリルカ・アーデ 身長110cm(wiki参照)
ふぅむ。日本人で言えば平均的な5歳児程度。
あの身長であの胸の大きさって相当違和感あると思うんだ。むしろダンまち世界ではそれが普通……? ロリ巨乳な神も居るし、幼女も巨乳化が進んでる世界なのか?
なんともうらやまけしからん世界だ……。