魔銃使いは迷宮を駆ける 作:魔法少女()
「うぐぁぁぁあああああ」
ヘスティアファミリア本拠、廃教会の隠し部屋に響く神ヘスティアの呻き声。昨日ミアハ様に聞いた話によれば、昨日の帰りにどうにもベルとリリと俺の三人が仲良く歩いているのを見かけ、何を勘違いしたのか『新しい女の子と浮気してる』だのと言って自棄酒をしたらしい。
それで酷く二日酔いに陥るだろうからと帰りにミアハ様から受け取った二日酔いに効く薬をベルに手渡しておいたから、大丈夫だろう。多分。
「大丈夫ですか神様……あの、これ薬です」
無言のままベルの手から水と薬を奪い取ってごくごくと喉を鳴らして水を飲むヘスティア様。二日酔いの経験は数える程しかないが、水を飲むのすら辛かった記憶がある。まぁ、症状なんて人其々だし俺が重かっただけかも知らんが。
「……神様、どうかしましたか?」
そっぽを向いたヘスティア様に恐る恐る質問を飛ばすベル。そういやもう朝なのか……結局、昨日から寝てないからぼんやりしてんだよな。…………リリには悪い事したなぁ。
「なんでもないさ……」
ベルの方は何がなんだかわかって無いみたいだね。まぁ俺もミアハ様に教えて貰ってなかったらわかんなかったし。あぁ、気持ち悪いなぁ。
「ミリアも大丈夫? 顔色悪いけど……」
此方を心配そうに見てくれるベル。そりゃまぁ、部屋の隅っこで膝抱えてりゃ心配もされるか。
「大丈夫ですよ」
昨日の件はもう忘れたいぐらいの失態だ。彼女が半殺しにされるのを指咥えてみてたんだからさ、しかも半殺しになった原因はほぼ間違いなく俺だし。
困った様に頬を掻いてそっかと呟いたベル君は、まぁなんだ、適当に言った俺の言葉に騙され……騙されたと言うよりは雰囲気で察してくれたのかな。悪い事した。気持ち悪い。
「えぇっと……神様、こんな時になんですけど……次のバイトのお休みっていつですか」
「なんでだい?」
恐る恐ると言った感じで切り出したベル、そういえば昨日稼ぎが多かったから豪華な食事がどうとか言ってたなぁ。その話かな……二人で思いっきり行ってくると良いと思う。俺は――ちょっとダメそうだ。気持ち悪い。
「実は最近、ダンジョンで沢山稼げる様になって……神様に恩返ししたいなって僕、だから行きませんか。三人でちょっと豪華な食事にでも……」
こんな状況でも俺も含めるとか……あぁ、神様に恩返しか。俺も恩返ししたい……したいけど……。
「デート……」
嬉しそうと言うか二日酔いはもう吹き飛んだのか。ミアハ様の薬が凄いのか、ヘスティア様が神様だからか……復帰早いなぁ。俺の方は――どうにもなんねぇなこれ。薬でどうにか……なる薬はありそうだが、違法薬物とかになりそうだな。頭があっぱらぱーになる薬とか今の俺にぴったりだわ。
「今日行こう」
「へ?」
「今日行きたい」
「え、でも」
「今日行くんだっ!」
ベル君に詰め寄るヘスティア様。ほんとに治ったのか。ミアハ様凄いなぁ……リリも完璧に治してくれたし感謝の言葉しか出てこないわ。あー……医療費について聞くの忘れた。また後で行かなきゃ。
「た、体調は……」
「もう治った。流石ミアハ」
ぴょんぴょんとベッドを飛び越えてクローゼットの中を覗いてー、何かに気付いたのか動きを止めて臭いを嗅ぎ始めたヘスティア様。そういや俺もシャワーすら浴びてないわ。今の俺臭う……うわ、よく見たら少し血がついてるじゃん。これ落ちないよ……どっかでローブ買ってこなきゃなぁ。
「くんくん……ベル君! 六時に南西のメインストリート、アモーレの広場に集合だ!」
頷くベル君を余所にー……六時に南西ね、了解。それまでにー……今日はちょっとダンジョンおやすみしてミアハ様の所いこ。
「あ、はい。わかりました」
「と言う訳でーミリア君もー……うん? ミリア君?」
ミアハ様の所にリリがー……いるかなぁ。もう目が覚めてどっか行っちゃったかなぁ。怪我は綺麗に治ったって言ってたけどなぁ。
「ミリア君、おーい」
アレは俺に言った言葉じゃない。きっと誰かと勘違いしたんだろう。そのはずだ……そのはずで……間違いない。あぁ、なんか凄く……気持ち悪い。
「ミリア君……君も一緒に行った方がよさそうだね」
うん? ヘスティア様? 行くってどこに?
翼の生えた獅子の口から溢れるお湯、だだっ広いお湯の張られた湯船。学校にある様な25mプールより大きいと言えばその湯船がどれほど大きいのか想像がつくだろうか?
周囲を見回せば居るのは女神、女神……そして女神。全員がタオル一枚で体を隠すのみ。その下には生れたままの姿が……いやまって、なんで俺は女神専用のお風呂に来てるんだ。浴場と言った方がいいのか?
「ベル君とデート♪ ベル君とデート♪」
「あの、ヘスティア様」
「なんだいミリア君」
周囲の女神から放たれる微妙な神威の所為でリラックスとか不可能ッス。
「本当に私が入って良かったんです?」
気が付いたらヘスティア様に言い包められて一緒に大浴場の片隅、ジャグジーに並んで入る事に……ヘスティア様の胸が噴き出る泡で揺れる揺れる。
「堂々としてれば問題ないさ」
本当ですかそれ……いや、神威でびくびくしちゃうんだけど。本当に大丈夫なんですかねぇ……。
「あら、ヘスティア?」
ヘスティア様の知り合いの女神様か?
「あぁ、デメテル」
デメテル……デメテル様、うわ……ヘスティア様よりでけぇ。
蜂蜜色の髪に豊満な胸、柔和そうな笑みを浮かべた女神が其処に居た。ヘスティア様よりも胸がデカいと言うだけでなく、背の高さも丁度いい感じ。ヘスティア様の様なロリ巨乳ではなくまさしく完成された美女だろう。
……怒られたりしないよね。
「久しぶり」
「そして其方の子は……貴女の
「あぁ、僕の眷属のミリア君さ。ミリア君、彼女はデメテル、悪い奴じゃないよ」
普通に眷属だって思われてるし……。いや、見ればわかるのか。
「珍しいわね此処に眷属を連れてくるなんて」
「やっぱ眷属が入ったら不味いですかね……」
不味いって言われたらどうしよう。
「別に問題は無いのよ……でも、神ばかりだから気疲れしちゃうでしょう? 眷属が入ってくる事って珍しいのよね」
あぁ、納得。女神専用では無いけど女神が基本客だから神威なんかが充満してて普通の人間じゃ気疲れしちゃってリラックスも出来ない感じか……当然過ぎる。
「それにしても……相変わらず大きいわねぇ」
「君にだって立派な物があるだろう」
ヘスティア様より良い物をお持ちなのに、ヘスティア様の胸に手を伸ばすデメテル様。なんつーか、いや何も言うまい。デメテル様の手をパシリと叩いたヘスティア様。良いのかそれ、知り合いだから良いのか。
「でも驚いたわ、ヘスティアがこの神聖浴場に訪れるなんてねぇ。初めてじゃない? それにそっちの眷属も」
「ふぅん、良いだろ」
「とっても可愛い子ね」
にこやかな笑みを浮かべて優しく抱きしめられた。でかぁい、説明不要。
「ちょっと、僕の子だぞ」
「少しぐらい良いでしょう?」
「ダメだ、返してくれ」
大人しくヘスティア様の横に戻ろう。凄く大きなおっぱいでした。ちょっとだけ拝んでおく。
「それで、何で貴女は此処に? その子を連れてくる為? 気疲れしちゃうだけだと思うのだけど」
「ふふぅん、実はこの後予定があってね。少し気合いを入れようかと。ミリア君は――ちょっと思う所があってね」
思う所?
「予定? その子とお買いものかしら?」
「いや、違うよ。一緒には行くけどね」
「まさか……お相手は殿方なの?」
女神のやり取りに入っていけねぇ。一人一人の神威って気にするほどじゃないけど、やっぱ人数集まると威圧感みたいな感じで辛いわ。お風呂は気持ちいいけど……。
「だったらなんだっていうんだい。三人でデートに行くだけだよ」
「あらあらまぁまぁヘスティアが?」
三人でデートねぇ。俺抜きで良いのに。
「ねぇみんなー」
声でかい。浴場だからか良く響くわぁ。
「ヘスティアに男!」「天界じゃこれっぽっちも男っ気が無かったヘスティアが!?」「ロリ巨乳のヘスティアが?」「相手はだれじゃ」
なんか神様って特徴的な口調してる時あるよなぁ。なんかふわっとしてきた。のぼせたかもしらん。いや、神威でアレなのか?
「「「さぁ吐け!」」」
「……はぁ、相手は僕のファミリアの子だよ。ヒューマンさ」
「「「おぉーー」」」
女神様ってやっぱ女なのね。ノリが女子高生みたいだ。
「あぁもううるさいな、ミリア君行こう」
ヘスティア様に腕を引かれて場を後にする。俺が居る事に対するツッコミとかって何も無かったな。
目を覚まして最初に目に飛び込んできたのは見知らぬ天井であった。
「ここは?」
口の中に残る苦味に思わず眉を顰め、身を起こしてみれば貫頭衣の様な病衣を着せられてベッドの上に寝かされていた。最後の記憶は――そうだ、彼女が助けに来てくれたような気がする。
と言う事は此処は彼女の――
「……目が覚めたみたいね。おはよう」
「っ!」
声が聞こえたので其方を向けばたれ耳の犬人の女性が立っていた。彼女では無い。
「貴女は何方でしょうか?」
冒険者には見えない。いったい誰なのだろう?
「此処はミアハファミリアよ。貴女は大怪我を負って運び込まれたの。治療は既に終わっているから大丈夫なはずだけど……何処かに異常はあるかしら」
「無いですけど……治療費とかは……」
助けられたのは理解した。けれど治療費なんて支払う余裕は今の自分にはない。
「それなら彼女が払ってくれたから問題ないわ」
彼女?
「裏路地で倒れていた貴女をドラゴンテイマーが運んできたのよ。彼女から治療費はもう貰ってるから貴女は気にしなくて良いわ」
犬人の女性の口から放たれた言葉に確信した。やはり彼女に助けられたのか。また、また助けられてしまった。人から物を盗んだ所為であんな目に遭ったって言うのに、リリはまた助けられてしまった……。
治療費にいくらかかったのか。それよりも彼女は何処に行ってしまったのか。
「あのっ! ドラゴンテイマー様はどちらに?」
「……あの子は、帰ったわ」
「会う事は出来ないでしょうか。お礼を言いたくて」
犬人の女性は眉を顰めて呟く様に呟いた。
「会えないわ」
「どうしてですか?」
「……彼女が会う気は無いって。龍力薬、彼女のワイバーンの素材を使ってできた物だったから。なんで貴女が持っていたのかは聞かないけど、あの薬の所為で貴女が大怪我を負ったから、合わせる顔が無いって言ってたわ」
――――あの薬は、彼女の連れていたあの赤い飛竜の素材が使われていたのか。リリは其れを盗んで……。
「貴女の服はそこの籠に入ってるから、具合が悪いのならまた呼んで」
「いえ、もう大丈夫です。今日は本当にありがとうございました」
「……気にしないで。彼女にお願いされただけだから」
六時ちょっと前ぐらい、夕暮れに染まる街。アモーレの広場にて待つベルを遠くから見る。周りではカップルがいちゃこらしてる。その中でぽつんと待つベル君はー……なんつーか哀愁漂うと言うかなんというか。
「ベルくーん」
何時もの服ではなくおしゃれをして登場したヘスティア様に驚いた表情のベル君。俺の方もヘスティア様とお揃いの服を買った。
驚き過ぎて硬直したベルを見てヘスティア様が心配そうに口を開いた。
「待たせちゃったかい?」
「いえ、全然っ!」
緊張してて可愛らしいなぁ。……夕暮れかぁ。リリはどうしてる事やら。結局ミアハ様の所に行く余裕はなかったな。ずっとヘスティア様に付き合ってた感じだし。何も聞かずにグイグイ腕を引っ張ってあっちこっちの衣類店を歩き回った。俺がちゃんと何があったのかを口にすれば聞いてくれるんだろう。でも……口にしようとしても喉につっかえて出てこない。結局この時間までヘスティア様には話す事は出来ずにいるし。
ヘスティア様はあえて此方に踏み込まない様にしてくれる。ありがたいが、同時に申し訳ない。
「二人とも……その……可愛いよ」
「……本当かい?」
俺もベルの褒め言葉に含まれてる。そっか、可愛いか……見た目は。中身はー……はぁ。
「おぉ、あれが噂の」「ヘスティアの男!」
……なんか、なんだ? え? あぁ神聖浴場に居た女神……いや、あの場に居なかった女神も見て取れる。なんだなんだ?
「きゃー」「かわいいー」「兎みたいー」「げっとぉー」
ベル君が女神様に囲まれてきゃっきゃしてる。困惑してるベル君、ヘスティア様大丈夫か?
「ヘスティア様大丈夫ですか」
「…………」
無言でプルプル震えるヘスティア様。怒ってるなこれ。
「ごめんなさいねヘスティア、気になって……着いてきちゃった」
見た目は柔和な女神様だけど、割と悪戯好きなのかデメテル様って。
「離してくださ……うぶっ……」
ベル君が女神達の抱擁から抜け出して――デメテル様の胸に顔から突っ込んだ。うわ、あれ怒るだろ……。
「あらやだ可愛いー♪」
怒るんじゃなくて抱擁するのか。胸で窒息してるぞベル君が……。
「んがーっ! ミリア君手伝ってくれっ!」
あぁ、ベル奪還&逃走ね。了解。
階段を必死に駆け上がる。もう日も落ち夜空には星が瞬く時間。階段を駆け上がった先は鐘楼。
「なんとか逃げ切れましたね」
「まったく、これだから神って奴は、娯楽に群がるハイエナめっ」
ヘスティア様も神ですよね? まぁ、あの執拗に追い掛け回してきた女神達とは違うんだろうけど。と言うかあの女神達タフネス高すぎじゃない? 下手な冒険者よりもスタミナあるんじゃないのかってぐらいしつこかったぞ。
「おかげですっかり夜も更けちゃったし……せっかくの三人でのデート」
「でも、ちょっと楽しかったです……それに見てください」
ベルの示した先は鐘楼から見下ろしたオラリオの街の景色。百万ドルの夜景がどうとかって程ではないが、彼の夜景よりよほど綺麗な輝きを宿した街並みが見て取れる。
「綺麗ですね」
「…………」
「そうですね」
本当に綺麗だ。ヘスティア様が何かを言いよどんでから、笑みを零した。
「楽しみにしてるぜ」
はぁ、綺麗な夜景。
今日一日は本当に疲れた。昨日から一睡もできていなかったが、今日は考え事をする余裕なんて殆ど無くてー……どうしようかなぁ。
「……ベル君、少し席を外して貰っていいかな?」
「え?」
「ちょっとミリア君と二人きりで話したくてね」
この状況でかぁ…………。
「あぁ、わかりました。ついでに何か飲み物買ってきますね」
素直に従って階段を下りて行くベル。鐘楼に残されたのは俺とヘスティア様の二人のみ。
甘い時間がやってくる訳じゃ無い。多分ずっと気付かない振りをしてくれてたんだと思う。俺が朝から心此処にあらずの状態だったから、あえて考え事する余裕が無い様に女神達が利用して神威に満ちた神聖浴場に連れ込んで、買い物のさ中も考え事する間もないぐらいアレコレと服を見て回って。
本当だったら食事中にでもって話だったんだと思う。ついさっきまでベルと良い雰囲気だったのに、そのまま俺がこっそり抜け出せばそれで二人きりだったのに、態々俺に気を使って二人きりになって、なんだか複雑だ。
「さぁて、ミリア君。僕は君に聞きたい事がある。でも答えにくいなら答えなくても良い。むしろ答えたくないならそう答えてくれ」
…………。
「何かあったのかい?」
あった。色々と、あったんだ。
血反吐を吐いて倒れたリリルカ・アーデ。あの糞野郎共はリリが瀕死だと分かった途端にリリを放り捨てて何処かに消えて行きやがった。
俺は、そいつらが完全に居なくなってから飛び出してリリの容態を確認しようとして――彼女の口からほんの微かに漏れた『たすけて』と言う言葉を聞いた。
誰かに利用され、血反吐を吐いて死にそうになっている彼女を見て、込み上げてきたのは罪悪感。
彼女を泳がせて場所を調べようとか、そんな風に考えていた自分を殴り飛ばしたくなるぐらいには嫌いになった。元々好きではないし、嫌いだったが、余計嫌いになった。
慌てて回復魔法『レッサーヒール』を何度も使って彼女を治療する。回復量は少なくとも、何度もかければ、そう思ったから。彼女はぼんやりと俺を見て――『
彼女を泳がせて利用しようとしたのは俺で、あの龍力薬を持たせたのも俺で、その薬の所為で彼女があんな目にあって、なのに……『ありがとう』と言われた。
俺じゃない、俺に言ったんじゃない。俺が言われたんじゃない。
もし、もしも俺が彼女にお礼を言われたのなら……
それだけならいざ知らず。俺はミアハファミリアにリリを預けた。
彼女を助けたい。どうにかしてあの環境から連れ出したい。ファミリアを抜けさせるのはどうすればいいのかわからないし、これから調べないといけない。それよりも彼女に信用してもらわないといけない。
だが問題が多すぎる。
彼女は俺から物を盗んでいた。それがバレていたと知られたらどうなるのか? 姿を晦ます可能性が高い。だから彼女を助けたのは俺じゃ無い第三者であるのが好ましい。
だから、俺は『
ナァーザさんにお願いしたんだ。もしリリが目を覚ましたら『
世間一般で
まぁ、嘘では無いと言えばそうだが、明確にリリに
自身の行動が最善だとは思えないし、思いたくない。でも他に方法を見つけられてないし、見つける時間も無い。
どうすれば良いのかわからなくて、俺は時間稼ぎの様な真似をしてて、それが吐き気がするぐらい気持ち悪くて。
「ベル君はそれを知っているのかい?」
ベルは、知らない。
「知らないです」
「そっか、一人で悩んでるんだね?」
そう、一人で抱え込んでしまってる。でも、ベルに教えてどうなるだろうか? わからない。
「その判断が正しいと僕には言えない。ただ、間違ってるとは絶対に言わない」
正しい訳ではないけど、間違ってるとは言わない。言わないだけで思ってるのか。
「君の考えは正しいよ。ごめんミリア君……僕じゃその子の為に何かしてあげる事はできない」
リリの為に何かできないか。ヘスティアファミリアでは不可能だ、匿う事しかできない。だがリリの信用を得ていない今、彼女を匿う事は出来ない。せめて彼女の信用を得てからでないと……。得る為に騙すのか?
「ミリア君、君はどうしたいんだい?」
「…………」
「どうしたい?」
どうしたい、か。最終目標について問いかけられてるのか? 俺は――リリを……。
「助けたい」
糞女に利用されて悪事に手を染めて、気が付いたら詐欺師として活動してた俺。過去の俺、そんな俺に似た境遇の彼女を助けたい。彼女が後戻りできなくなる前に、助けてあげたい。
でも、どうしたら良いのかわからない。俺がとれる手段は人を騙すぐらいで、騙して信用を得てっていうのなら簡単なのに、其れをするのは……簡単ってなんだよ、アホか俺は。
「ミリア君」
「なんですか」
「僕に言えるのは。君がやりたいって思う事をすればいい。やりたくないのならしなくてもいいって事ぐらいだ」
…………。
「力に成れなくてごめんよ」
そんな事は無い。話して、少しだけ楽になった様な気がする。
「相談してくれてありがとう」
此方こそ、聞きだしてくれてありがとうだ。
どうするか手段も思いつかないし、彼女の為に出来る事がなんなのかもわからないが。とりあえず明日彼女と会って反応を見てから考えよう。
「神様……?」
「あぁお帰りベル君」
「ミリア、寝ちゃったんですか?」
「あぁ、……朝から悩んでるみたいだったからね。少し強引だったかもしれないけど、色々と聞きだしたんだ」
「どうでした?」
「……優し過ぎるかな」
「…………」
「もう少し我儘に振る舞っても良いと僕は思うけどね。あぁベル君、別に君の所為では無かったから安心しなよ」
「はい……神様」
「なんだいベル君」
「僕って頼りないですかね……ミリア、僕の事頼ってくれないんじゃないかって」
「そんな事はないよ、ただ……もう少し待ってあげて欲しいんだ」
「…………わかりました」
なんかごちゃごちゃしてしまった気がする。
頭の中で浮かべたイメージを文章にしたらごちゃっとしちゃったなぁ。
まぁいつもこんな感じだけど……。