魔銃使いは迷宮を駆ける 作:魔法少女()
ほむ。
ベル君の主神、ヘスティア様と会ったが……神様ってマジっぽいなぁ……
ファミリアに入れてくれるって言うから歓迎してくれてるっぽいんだけど……
どうもなぁ……怪しまれてるっぽい?
自己紹介したら訝しんだ表情を浮かべてる……?
何かしでかしたか?
……にしても入団試験も無しとは……いや、極小なら有りなのか?
と言うかランキング100位以内に入れなかったら抹消されるなんて鬼畜システム入れてんのミリカンぐらいか。
とか思ってたら入団試験をどうするか二人して相談し始めたぞ……マジか、藪蛇だったか……
【ヘスティア・ファミリア】の本拠、教会の隠し扉のある廃教会のフロアにて、ベルとヘスティアは顔を突き合わせてミリアから距離を置いてヒソヒソとそれなりの声で囁き合い始めた。
「どうしましょう神様、入団試験って何すればいいんでしょうか?」
「ぼっ僕が知る訳無いだろうっ!! なんてったって昨日君を眷属にしてファミリア登録したばっかりだぞっ!?」
「えぇっ!? じゃあどうしましょう? 他のファミリアだと模擬戦して実力を確かめるって言いますし……僕は入団試験も受けさせて貰えませんでしたけど……」
「ベル君、元気を出すんだっ!! キミはもう立派な冒険者じゃないか。
「……神様、僕を元気付けるつもりあります?」
「あははは」
「神様ぁ」
話が明後日の方向に飛んでいくのを眺めながら、ミリアは苦笑を浮かべる。
全部聞こえてるんだよなぁ……
「あっ、そうだっ!」
「何か思いつきましたか神様」
「ふっふっふ、僕に策在りだよ、普通に面接試験で良いだろう。名前を偽っているみたいだけど特に危険な雰囲気は感じないから問題は無いと思うけど、一応ね」
「名前を偽る?」
「あぁ、ベルくんは気にしなくて良いよ。
ヘスティアの言葉が聞こえ、思わず顔が引きつる。
偽名……本来の名前じゃなくて『ミリア・ノースリス』って名乗ったから怪しまれてたのか……
っておい、ちょっと待て。って事はだ……本当の名前がバレてーる?
「あのー」
「なんだいミリアくん」
「えっとですね。私の本当の名前とか……わかってたり?」
「いや? 名前を偽っているのは分ったけど本当の名前は知らないよ。と言うより嘘の名前だって否定しないんだね。まぁ否定したらしたで嘘だってわかるんだけどね」
ベルとヘスティアの囁き合う会話が普通にでかくて、なおかつこの廃教会が静か過ぎて、全部聞こえてるとツッコミを入れようか悩んでいたのが全部ぶっ飛んで一歩後ずさる。
このヘスティアと言う神様。かなり策士だ。
あえて聞かせる事で此方の出方を窺っている? なんかテンション高そうな子でアホの子っぽい神様だなぁとか思ってた。ごめんなさい。口に出すと怒られそうなので心の中で謝りつつ視線を逸らす。
「あはは……本名は訳あって……名の……れない訳じゃ無いんですが……あはは」
笑ってごまかすしかネェ……
「まあ安心したまえ。君が名前を偽った事に関して怒ったりはしないさ。誰しも嘘を吐くもんだぜ? ボクだって嘘の一つや二つ、吐くしね」
「えぇっ!? 神様嘘吐いてるんですかっ!!」
「ベル君、良いかい? 世の中、本音だけじゃ人を傷付けてしまうんだよ? 時には
慈母を思わせる穏やかな笑みを浮かべて囁く様に呟きながら、盛大に目を逸らすヘスティアの様子にベル君が微妙そうな表情を浮かべている。
それを見ながら、思う。
すっげぇ優しい神様なんだなって。
ベルからすっげぇ目を逸らして口元が引きつった笑みを浮かべているのがなんか微妙だが神聖な雰囲気、優しい笑み、理解有る言葉、どれをとっても
「それで、面接試験を行うから下に行こうか」
「……あの」
「うん?」
「……嘘吐いてた様な人を、どうしてそんなに信用できるのですか?」
俺は、嘘を吐いていた。
如何してそんなに信用を向けてくるのかさっぱり分らない。
「うん? そりゃ君から
にっこり笑顔を浮かべたヘスティアに、思わず頭を垂れた。
神様、スゲェ……
「ほら、そんな事より面接試験だ。いやぁまさかファミリア結成した次の日に新しい眷属が入団希望でやってくるなんて……これはボクの時代がきてるんじゃないだろうか? ふふーん、ヘファイストスもびっくりするだろうね」
「はいっ神様っ! この調子でどんどんファミリアを大きくしましょうっ!」
二人して隠し扉の方へ歩いていき、振り返って此方に手を差し伸べて来た。
「ほら、行こう。安心したまえ。面接と言ってもそう難しいものじゃないから」
…………なんか、なんと言えば良いか。凄い神様だな。
教会の地下……ぶっちゃけジメジメした暗い所を想像してたが、決してそんな事は無かった。
と言うか一式家具が揃い、人が生活できるだけの環境が整えられ、上の荒れようから考えるとごく普通と言える生活感溢れる部屋になっていた。
「それじゃ面接試験をー……ベル君、ボクの隣に座ってくれるかい? ミリア君は悪いがその椅子に腰かけてくれ。まぁ難しい事は聞かないよ」
安心させる様に笑みを浮かべたヘスティアに逆らわずに頷いて椅子に腰かける。
其処まで広い訳じゃないんだな……と言うか大きなベッド一つだけ? ……ベル君と二人で寝てるのかな? 羨ましいなおい。
「それじゃ、改めて自己紹介をしよう……ボクは神ヘスティア。ここ【ヘスティア・ファミリア】の主神さ。普段は『じゃが丸くん』の店の売り子をしてるか、ここでゆったり本を読んでいるぐらいかな? 次はベル君だよ」
「あっ、はい。えっと、【ヘスティア・ファミリア】のベル・クラネルです……えっと、今朝冒険者になったばかりの駆け出しで、将来は『英雄』になりたいと思って頑張ってます」
……ベル少年ェ。いや、英雄に成りたいなんて可愛らしい夢じゃないか。浪漫溢れてるな。
……この世界だとソレが普通なのか? 神の恩恵とやらでかなり成長しやすいっぽいし?
「それじゃミリアくん。自己紹介をしてくれるかい?」
「え? あぁはい。ミリア……えっと、本名で自己紹介した方が良いですか?」
あっちの名前は、出来れば
「うん? 君が名乗りたい方を名乗れば良いよ」
「はい。『ミリア・ノースリス』です。えっと……普段は、まぁ……その……」
「どうしたんだい?」
「……色々とお金稼ぎをしてました」
「ふぅん? と言う事は、君はお金を求めて『オラリオ』に来たのかい?」
……。
「いや、別にお金は
「…………? いや、ごめん、嘘を吐いてないのは分るんだけど、意味がわからない……どういう事だい?」
若干混乱した様子のヘスティアにベルが何かを耳打ちし始めた。
ちょっと声でかいよ。聞こえてるよ。
「あの神様、ミリアとはダンジョンの中で会ったんです」
「ダンジョンの中?」
「それで『ダンジョンの中に居た理由も分らない』って言ってて……もしかしたら記憶喪失なのかも」
「ふぅん……」
腕を組んで呟いたヘスティアは、一つ頷くと此方に向き直った。
「君は何でダンジョンの中に居たんだい?」
「わからないです」
「嘘じゃない……か。ダンジョンに居る前の直前の記憶を、思い出せるかい?」
「……………………」
ダンジョンに居る直前の記憶……。
丸い月……綺麗な夜空。
…………ぐちゃぐちゃになった両手。
質問を放つと同時に、ミリアの表情が青褪めた後、自分の両手を見つめて震えだした。
「ミリア君?」
「あの……ミリア?」
カタカタと震えて、青褪めながらもミリアは引き攣った笑みを浮かべて呟いた。
「……月、丸くて……綺麗でした」
尋常でない様子に、ヘスティアは立ち上り、ミリアの傍により肩に手を置くがミリアは反応しない。
精神的に何かしらの負荷でもあるのか、ヘスティアが覗き込んだミリアの目は焦点も合っていない何処か遠くを見つめ、不安と恐怖が宿っている。嘘を吐いていると言う様子は何処にも無い。
「腕……腕が……折れて……骨、骨が見えてたんです」
震える声で呟かれる言葉にヘスティアとベルが息を飲んだ。
「血……血が、出てて。それで………それから……」
「ミリア君、もう良いよ。そこまでで良い。それ以上思い出す必要は無いよ」
震えるミリアを優しく抱きしめる。幼い少女は、何かに脅えている。
不躾な質問だったかもしれない。酷く憔悴した様子のミリアにヘスティアは優しく声をかけた。
「何があったのか、ボクはもう聞かない事にするよ……大変な目にあったみたいだね」
「……いえ、
ミリアの、後悔の念の詰った言葉に、ヘスティアは一つ頷く。
見捨てると言う選択肢は無い。捨てられた子供の様に不安に揺れるミリアの目を見て、見捨てると言う選択肢が出てくるなんて事は無かった。
「ミリア君、良ければボクのファミリアに入団してくれると、嬉しいかな」
「僕も居るよ。大丈夫」
安心させる様にベルも微笑み、ミリアの顔に徐々に生気が戻ってくる。ミリアはヘスティアをゆっくりと押しのけて抱擁から抜け出すと。頭を下げた。
「はい……お願いします」
「よしっ、それじゃさっそくファルナを付与しようか。それから今日はパーティーだぜ!」
「パーティーですかっ!!」
ミリアの暗い雰囲気を払拭すべく、元気良くベル君とハイタッチを交わす。
「ふっふっふ、ベル君が
「や……やったぁ……」
ベルは、ダンジョン最弱のゴブリンを一匹倒した事に浮かれて凄く嬉しそうに報告に来た際に掻いた恥を思い出しながらも、引き攣った笑みを浮かべて何とか声を絞りだした。
そんな様子を見ながら、ミリアがくすりと笑みを零した。
「ふふっ」
その笑みに、ヘスティアとベルは安心したように吐息を零し。それからヘスティアはミリアに声をかけた。
「そうだ、先にシャワーを浴びてくると言い。そっちの扉の先にシャワーがあるからね。先にベル君のステイタスを更新するから。ミリア君はその後にファルナ付与だよ。ふっふっふ、楽しみにしていたまえ」
「あぁ……お気遣い感謝します」
軽くヘスティアに頭を下げると、そのまま扉の方へ近づいて恐る恐る扉を開けているのを見ながら、ヘスティアはベルに密かに話しかける。
「ベル君、ミリア君の過去についてなんだけど」
「はい、僕からは聞かない様にします」
「うん、最期の記憶……両腕、骨……モンスターに襲われたのかな? もしもそうならファルナ付与で何かわかるかもしれないしね」