魔銃使いは迷宮を駆ける   作:魔法少女()

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第五十二話

 嵌められた。彼らを罠に嵌めて、逃げ出す途中。ゲド・ライッシュに待ち伏せされていたらしい。

 前に剣を盗んだのを酷く恨んでいる彼に捕まってしまった。

 

 何度足蹴にされただろう。剥ぎ取られた外套から魔剣を奪われてしまった。

 

「ははっ、魔剣まで持ってやがるぜ」

「派手にやってますなぁ旦那ぁ」

 

 っ……嘘。なんでカヌゥが此処に……。

 

 肩に大き目の袋を担いだカヌゥがニタニタとした笑みを浮かべてこのフロアに入ってくる。四人で待ち伏せしていたとゲドは口にしていた。つまり彼らと協力していたのだろう。

 

「あぁ来たか、早かったな。見ろよこのガキ、魔剣まで持ってやがってよ。やっぱお前らの言う通りかなり溜め込んでるみたいだぜ」

 

 必死に、ただ死にもの狂いでかき集めた物だ。――冒険者を騙して。……やっぱり、悪い事をしてきた報いなのだろうか。

 

「そうですかい……。ねぇ旦那。一つお願いがあるんでさぁ」

 

 カヌゥの担ぐ袋が蠢いている。まるで中に生き物が入っているかのような――そう、丁度手足を切り取ったキラーアントがあのぐらいの大きさで――――。

 

「そいつの持ち物、全部置いてって欲しいんですぁ」

「っ!? キラーアントっ!!」

 

 あぁ、嘘だろう。キラーアントには厄介な特性が存在する。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。手足を切り取られ、瀕死になったキラーアントを投げ渡したカヌゥがねちっこい笑みを浮かべている。

 ゲドが顔を歪めて怒鳴る。先程まで愉悦に歪んでいた表情は今や恐怖に歪んでいる。

 誰だってそうだ。あえて瀕死のキラーアントを使って呼び寄せられる大量のキラーアント、その数は両手の指ではとても足りない。ゲドの実力では二、三匹を同時に相手取るので限界なのだから。此処に何匹集まるのか。

 

「てめぇっ! 何やってるのかわかってんのかっ!」

「えぇ、瀕死のキラーアントは仲間を集める信号を発する。冒険者の常識ですぁ」

 

 別の通路からカヌゥの取り巻きが二人。彼らも瀕死のキラーアントを片手に悠々と現れた。

 

「正気か……てめぇらぁぁぁあっ!!」

「旦那、俺らの相手をしてる間に、アイツ等の餌食にはなりたくないでしょう」

「っ! ……糞がっ!」

 

 魔剣を投げ捨て、走り出すゲド。キラーアントが確認できない通路に走りだし――悲鳴が轟いた。

 

「ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ッ」

 

 もう、逃げ場は何処にも――

 

「『ファイア』ッ!」

 

 

 

 

 

 大急ぎでリリを追い掛けていたら、悲鳴が聞こえ、なんか目の前に顔つきが悪人臭漂ってる男がキラーアントに伸し掛かられている光景が飛び込んできた。何してんだよコイツ。背中が痛ぇってのにさぁ。

 

「『ファイア』ッ!」

 

 キラーアントの甲殻をぶち抜き、一撃で魔石を粉砕してキラーアントが一瞬で灰になって消し飛ぶ。倒れていた男が呆然としてお――コイツ小便ちびってやがる。だっせぇ……俺もよくちびるけど。今もちびっちゃってるのかパンツのなかぐっしょりだよ。油断大敵だわ。

 

「大丈夫ですか?」

「なっ……」

「とりあえず逃げた方がいいで――――

「助けてくれっ! 頼むっ! なんでもするからっ!」

 

 おい、縋り付いてくんな。こっちは幼女だぞ。放せ。つか背中に触んなっ!

 

「落ち着いて、とりあえずパルゥムの女の子を見ませんでしたか? 茶髪の――あー、もしかしたら獣人かもしれないですが」

「っ! テメェ、リリルカの仲間かっ!?」

「その様子だと知っているみたいですね。何処に居ます?」

「あんな糞ガキどうだっていいだろっ! それより俺を助けてくれっ! 金も出すっ!」

 

 …………。あっ、ふぅ~ん。なるほど、こいつがベルの言ってたリリを着け狙う悪い奴ね。と言うか、なんかキラーアント多すぎだろ。さっきコボルトにやられかけたってのにさぁ……。

 

「『ファイア』、とりあえずリリの居場所を教えてください。そしたらついでに助けますんで」

「っ! お前正気かよっ! あのガキに嵌められたんだろっ!」

 

 それは、その通りなんだが。こんな屑に言われるのは腹が立つな。

 

「どうでも良いですよ。とりあえず盗まれた物をとり返すだけですし」

「っ! この先の部屋に居るっ! カヌゥ達も一緒だっ!」

 

 カヌゥ? 誰だソイツ……。リリを半殺しにした屑共か? ……ダンジョンの中、好都合な条件じゃん? 殺す? 殺しちゃう? まぁしないけど。

 

「離してください。とりあえずリリを――

「あんなの良いだろっ!」

 

 しつこいなコイツ。……しゃぁない。

 

「『ファイア』……離さないと、次は頭を撃ちぬきますよ」

「っ!? お前……糞っ!」

「一人で無事に逃げ切れます? 私に協力してくれるなら、ついでに助けてあげますが」

 

 肉壁として使ってやるから、ほら早く決めろ。そろそろキツイんだよ。

 

「……わかった」

 

 よし。例えゴミみたいな屑野郎でも、肉壁にはなるだろう。背中刺されない様に注意しなきゃなぁ。まぁ、今さら背中刺されても変わらんか。

 

 

 

 

 

 通路の曲がり角の先のやり取り。間違いない、ミリア・ノースリスだ。なんで――?

 

 ベル・クラネルと彼女の二人であれば、十階層のあのフロアでも余裕で生き残れる。少なくともリリの見立てではそうだった。どちらか一人だと難しい、そう、片割れだけだと死ぬ可能性すらあった。だけど二人だったから、二人一緒だったから罠に嵌めたのだ。何故彼女だけが――

 

「……チッ、余計なのがついてきやがったか」

 

 カヌゥの舌打ちが響く。こうしている間にも大量のキラーアントがルームに流れ込んでくる。ダメだ、ミリア一人では対処できない。

 

「ミリア様っ! 来てはダメですっ!」

 

 来ないで、お願いだから。

 

「見つけた……其方のお方は何方? この惨状は貴方達の所為って事で良いのかしら……『ファイア』!『ファイア』!『ファイア』!」

 

 曲がり角から悠々と現れた姿に言葉を失った。魔女の帽子を左手に持ったミリアと脅えた表情で剣を構えたゲドが現れる。ミリアが右手に魔法を重ねた剣を持ち、切っ先を向けて瀕死のキラーアント三匹に瞬時に止めを刺した。その顔を見てカヌゥ達が焦った声を零す。

 

「なっ!? ガネーシャファミリアっ!?」

 

 ミリアが身に着けているのはガネーシャファミリアの団員である事を示す仮面。ヘスティアファミリア所属の彼女が何故そんな物を?

 

「もう一度聞きます。この惨状は貴方達の所為ですか? まぁ、彼に事情は聴きますので別に喋らなくて良いです。とりあえず――――リリルカ・アーデから離れろ屑共」

「…………」

 

 魔法の矛先を向けながら言い放たれた台詞に言葉を失う。彼女は一体何を考えているんだろうか。

 

「なぁ嬢ちゃん。嘘は程々にしといたほうが良いぜ? ガネーシャファミリアの玩具の仮面なんてつけて、ガネーシャファミリア騙ってちゃあ怒られちまうぜ」

「……玩具?」

「そうだぜ嬢ちゃん。そんな玩具でごっこ遊びだなんて……おいゲド」

 

 焦りの表情から一変、にやりと笑みを浮かべたカヌゥの表情。ミリアの不審げな声。

 

「ソイツはガネーシャファミリアの団員じゃねぇ。そうだろ?」

「……知らねぇよ」

「おいおい、ファミリアを騙るって言う意味を解ってねぇようだな」

 

 ファミリアの名を騙れば、間違いなくそのファミリアを敵に回す。特に巨大なガネーシャファミリアは、名を騙って悪事を働く事に敏感であり、例え正義感から行われた行為であっても、名を騙る行為を許しはしない。

 彼女はガネーシャファミリアを敵に回す大罪を犯していると言っていい。

 

「此処で合った事は黙っておいてくれよ、そしたらお嬢ちゃんの仕出かした事も黙っててやる……わかるよなぁ?」

 

 ミリアが此処でガネーシャファミリアを()()()事を黙っている代わりに、この場を見逃せと命じている。ここで彼女が魔法を使ってカヌゥ達を殺した所で、ファミリアを騙った事実は消えない。ミリアには消えない罪が残るだろう。もし何処かからバレれば……ミリアは……。

 

「ふぅん、もう既に手遅れなぐらいにキラーアントが集まったこの状況でそんな強気な発言ができるのね……。ねぇゲドだっけ、もう少し離れてくんない」

「おい、やべぇって、どうすんだよこの状況っ!」

「……はぁ」

 

 溜息と共に、ミリアは徐に魔法の矛先をカヌゥに向けた。

 

「嬢ちゃん、まさか俺達とやりあ――

「『ファイア』ッ!」

「ぐぅっ!? ガキがっ! このままだとキラーアントに全員やられるんだぞっ! ここでやりあうなんて正気じゃ――

「『ファイア』ッ!」

「ぐぁっ!?」

リリルカ・アーデから離れろ。次は頭に撃ちこむぞ

 

 響く声、カヌゥの両肩に撃ちこまれた魔法。ミリアの声にビビり――カヌゥが笑みを零した。

 

「ぐぁっ!」

「動くんじゃねえ、こいつがどうなっても良いのか」

「リリを放せ」

 

 人質――そんな価値がリリにあるのか。彼女を騙したリリにそんな価値は無い。無い筈なのに――彼女は戸惑っている。何故? リリごと撃ちぬいてしまえばいいのに。

 戸惑うミリア様の後ろから、キラーアントが接近している。ゲドが其れに気付いて震えながら剣を向けているが、あんなへっぴり腰では倒せる物も倒せないだろう。

 

「……しょうがない、使いたく無かったんだけどなぁ」

「あん……っ!? てめぇっ! その薬はっ!」

 

 ミリアが帽子を放り捨てた。帽子で隠すように持っていたのは真っ赤な液薬の入ったポーションポーチ。ランクアップ並の強化を齎す薬が四本も入ったポーチだ。

 

「切り札なんですよねぇ。で、リリを放してここから立ち去るか。それとも――私と本気でやり合いますか?」

 

 本気の彼女、あの薬を使えばカヌゥ達三人がかりでも相手にならな――

 

「おい、おまえはなんでリリを助けるんだ」

「『ファイア』、話し合う気は無いんで、さっさとリリを解放してくれませんかね」

 

 カヌゥの片耳を撃ち抜いたミリアの魔法。だけどミリアの様子がおかしい。カヌゥもそれに気付いている。

 

「おいおい、嬢ちゃん……無理し過ぎじゃねぇのか」

「……どうでしょうかね」

「おいっ! もう、どの道もキラーアントで一杯だぞっ! 早くしてくれよっ!!」

 

 ゲドの叫びが響く。カヌゥの取り巻きの二人も剣を構えてキラーアントを牽制している。既に部屋の入口はキラーアントが詰り、どうにもできなくなっている。なんでこんな事になってしまったのか――リリがあんな事しなければ。

 

「よし、ここは平穏に取引と行こうじゃねぇか」

「よくそんな口が利けますね」

「まずその赤い液薬を寄こせ。そうしたらリリをくれてやるよ。どうだ?」

 

 にやりとした笑み、余裕を崩さない様に振る舞うカヌゥの様子をミリアが鼻で笑った。

 

「先にリリを解放して、そしたらこんなもんくれてやるわ」

「おいおい、立場がわかってねぇ様だな」

「そっちも、立場がわかってないでしょ」

「お前ら何悠長に話し合ってんだよっ!」

 

 騒ぐゲドを二人が一瞥し、ミリアとカヌゥが視線を交差させる。

 

「では、一、二の三でどうです?」

「……チッ、ここまでキラーアントが集まっちまったんだ、そうするしかねぇか」

 

 ダメだ、カヌゥはミリアを騙してる。このままでは――

 

「では――一、二ぃの――三っ!」

 

 赤い液薬を放り投げるミリア、気が付けば自身の体が宙に舞っていて――ミリアに受け止められた。

 

「はいはいお帰りリリ。とりあえず逃がさないから覚悟よろしくっと……」

「ふひっ……ふひひひっ……」

「……きもっ」

 

 ポーションポーチから赤い液薬を取り出したカヌゥが喜色の悪い笑みを浮かべている。二人の冒険者も笑みを浮かべ、此方を見た。

 

「まあ、これだけありゃ十分か。悪いなガキ、此処で死んでおけ――

 

 カヌゥの取り巻きが同時に何かを取り出す――あれは、小型のクロスボウ。毒が塗られているのか怪しく輝く切っ先をミリアに向ける。

 

 ミリアは特に何かするでもなく立ったままカヌゥを見据えていた。

 

 放たれたボルトはミリアのスキルに弾かれ、零れ落ちる。

 

「チッ、死ななかったか……まぁこの数相手じゃ生き残れねぇだろ」

 

 三人は唐突に剣でキラーアントの大群の中を切り伏せながら逃げ始めた。少なくとも、逃げるだけなら出来ると踏んでいた様だ。実際、キラーアントの大群を三人で切り伏せて進んで行っている。丁重に、キラーアントは瀕死の状態になる様に調整していっている。

 

「……おいっ! どうすんだよっ! 置いて行かれちまったぞっ!」

「あー……あいつ等って結構強かったのね」

「糞がっ! てめぇどうすんだよっ!」

「五月蠅いです。ちょっと黙っててくれません」

「糞っ! 糞っ! クソガァッ!!」

「五月蠅ぇっつってんだろ」

「うぐぉぁっ……て……めぇ……」

 

 ミリアの蹴りがゲドの股間を蹴り上げ、一瞬で顔色が真っ青に染まり、土気色に代り、ゲドが倒れ伏した。

 

「よし、静かになったし……リリ、大丈夫?」

 

 ゲドを部屋の隅っこに蹴り退けて、ミリアはリリに問いかけて来た。何事も無かったかのように、脂汗を流しながら。

 

「なんで……?」

「ん?」

「何で来たんですかっ! 来ないでって言ったのにっ!」

 

 ミリアが落としたバックパックやらを部屋の隅に押しのけ、リリも其処に置かれた。既にキラーアントに埋め尽くされた部屋。もう逃げ場は何処にも無い。

 

「助けてって言わなかった?」

「言ってない……言ってないですよ……言える訳無いじゃないですか」

「…………そう」

 

 言える訳がない。こんな場所で、あんな事をした報いを受ける自分に、助けてなんて言う資格は無い。

 

 ミリアは此方に背を向けてキラーアントと対峙する。そこで、漸く気が付いた。

 

「……ミリア様」

「何?」

 

 脂汗を流しながら、震える彼女。その背中が真っ赤に染まっている。肩で息をする彼女、何故気が付かなかったのか――背中に大きな傷が出来ていた。

 

「その……傷は……」

「ちょっとね。キラーアントにやられたのよ。近づき過ぎるとマジックシールドが発動しないみたいでね」

 

 口元に笑みを浮かべ、余裕そうな表情を浮かべているが、既に足が震え、顔色が青褪めはじめている。

 

「鎖帷子、上層で十分に使えるかなって思ったけど……七階層じゃただの重しだったみたい。いや、でも即死しなかった分は働いてくれたのかしらね」

 

 あぁ、ダメだ。心優しい彼女が死んでしまうなんて――彼も、もしかしたら死んでいるのかもしれない。

 

「ミリア様……」

「何?」

「お願いします、お一人で逃げてください……」

 

 ミリア一人ならなんとかなる、はずだ。

 

 彼女の背中になけなしのポーションをかけて治療しながら呟けば、彼女は不思議そうに振り返った。

 

「何言ってるの? 一人じゃ逃げらんないわ」

「っ! ミリア様お一人なら、いけます。足手纏いさえいなければ――走り抜ける事ぐらいできますよね」

 

 目を泳がせて、ミリアは右手を軽く振るって魔法を解いた。

 

「『ショットガン・マジック』『リロード』……さて、気を取り直して頑張りましょうか」

「ミリア様、お願いですから逃げてください」

「『ファイア』! さっきから逃げて逃げてって……リリはどうするのよ」

「リリは……」

 

 寂しかった、誰かと居たかった。必要とされたかった。でも――

 リリなんかが一緒に居た所為で、リリなんかが誰かと居る事を望んだ所為で、彼女(ドラゴンテイマー)は死にかけた。

 目の前で、ミリアも死にかけている。ベルも――彼らはリリが殺しかけたのではないか。

 

 ――――リリは、此処で死ぬべきだ。

 

 もう終わろう。此処で死ぬ。終わらせよう。何も出来ない自分を、弱い自分を、ちっぽけな自分を、価値の無い自分を、寂しい自分を――ここで死なせてしまおう。

 

「良いのです、リリはもう……」

「……ふぅん。じゃあ良いわ。私も此処に残るだけだし」

「っ! なんでですかっ! リリはお二人を騙したんですよっ! 本当ならベル様とお二人で協力すれば余裕で切り抜けられる状況にしてきたのにっ! 剣だって、ただ奪うだけじゃなくてそれなりの剣を用意しておいたのにっ!」

 

 なんで、リリなんかを助けようとするのだろう。

 

「なんで私に逃げろなんていうの? 『ファイア』っ! 何? 自分は助かりたくないの?」

「リリなんかが生きてたって仕方がないじゃないですか……リリは……」

 

 優しいベル様を、ミリア様を騙した罰がくだっているだけじゃないか。それを、何故ミリアが助けるのか。

 

「ねぇ、リリ」

「…………」

「助けてって言ってごらん」

 

 何を言っているのだ。ミリアは――

 

「そうね、賭けをしましょう」

 

 血塗れの背中、彼女が不敵な笑みを浮かべ、キラーアントの大群の前に立つ。一発の魔法毎に複数のキラーアントが吹き飛んでいく。でも、数が多すぎる。このままでは――ミリア様まで。

 

「内容は――そうね、リリが思いっきり助けを呼んで『ファイア』っ! それで助けが来るか来ないかを賭けるの」

 

 何を言っているんだ。リリなんかが助けてなんて叫んでも、誰もきてくれるはずがない。

 

「私は、来る方に賭けるわ。貴女はどっち?」

「来る訳無いじゃないですかっ! 早く逃げてくださいよっ!」

「ふぅん……じゃあ私が勝ったら、ベルのナイフ返してね」

 

 っ! 彼女は一体何の話をしているんだ。このままでは、このままでは全員死んでしまうのに。

 

「このままだと死んでしまうんですよっ! なんなんですか! 賭けだなんてっ! 第一、リリが勝ったとして何が貰えるんですかっ! リリが勝つって事はつまり全員死ぬって事なんですよっ!」

 

 そう、こんな賭け無意味だ。だって、リリが勝つと言う事は助けが来ないって言う事であって。

 助けが来ないのなら、ミリア一人でこの数を全て倒しきるのは不可能なのであって、ミリアも、リリも、死んでしまう。こんな賭け意味が無い。

 

「……リリが勝ったらねぇ」

 

 なのに彼女は――――肩越しに振り返って不敵な笑みを浮かべていた。

 

「リリが勝ったら、その時は――――

 

 なんで、そんな笑みを浮かべられるのか。

 

 ――――一緒に死んであげる」

 

 っ!? ミリアは一体何を言っているのか。頭の中が真っ白になった。

 

「リリ、私ね。一人で死ぬのがどれぐらい怖くて辛くて寂しいのか知ってるのよ。だから――一緒に死んであげる。一人で死ぬのは寂しいしね」

 

 ダメだ、そんなの、絶対にダメだ。

 

「それとも、私と死ぬのは嫌?」

「っ! 嫌に決まってるじゃないですかっ! リリはっ! リリはミリア様を騙したんですよっ! 酷い事をしてっ! なのにっ!」

 

 リリなんかを助けてくれる良い人が、一緒に死ぬなんて。そんなの嫌だ。

 

「へぇ……『ファイア』ッ! じゃあ、呼びなさいよ」

 

 何を?

 

「叫びなさいよ」

 

 何が――

 

「助けてって」

 

 っ……。

 

「賭けはまだ結果が出てないわ。ほら、貴女が助けてって叫んで――それが始まりの合図よ」

 

 そんなの――来る訳無いのに。

 

「私と死ぬのは嫌なんでしょ。なら――叫びなさいよ、本気で、心の底から、助けてって、そしたら」

 

 彼女が肩越しに振り返る。笑みを浮かべ、挑発するように、言い放った。

 

「きっと助けは来る」

 

 ――――。

 

「たす……て……」

「声が小さい、もっと大きく」

「たすけて……」

「腹から声出しなさいよ『ファイア』ッ! 『リロード』」

「たすけて」

「もっと声出せるでしょ」

「…………」

「どうしたの、もうお終い? じゃあ一緒に此処で――

 

 死ぬ? 一緒に? 彼女と? そんなの――

 

「誰かたすけてっ!!」

 

 ――来る訳無い。助けなんて。

 

 

 

「『ファイァァアッボルトォォォオ』ッ!!」

 

 

 

 助けなんて来る訳無い。そう、思っていたのに。




 リリルカ嫌われ過ぎワロタ……ワロタ……(死んだ目)
 意外と嫌われてる? どっちかっていうともっと屑いのが居るから気にしてなかったけど、リリの行動も大概……?



 ミリアのやせ我慢。冒険者じゃなかったら即死だった。




 ちなみに、最後の「たすけて」って叫ばせるシーンを書いているさ中、ずっとFar Cry4の冒頭のムービーが浮かんできてた。
 あのフォークブッ刺されたオッサンが「助けを呼びなよ」「ほら、声が小さい」「腹から声をだせぇっ!」って煽られてるシーン。

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